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再会にゃん

 ○王室直轄領 境界門 前


 扉の向こう側ではいろいろな人たちが待っていた。


「王国軍のお偉いさんに王都守備隊とお役人さんもいますわね」

 ロマーヌが説明してくれる。

「にゃあ、そうにゃんね、王国軍のお偉いさんは知ってるにゃん」

 魔法を使わなくてもすぐにわかる。

 オレたちは門の前でジープを降りた。

「にゃあ、ドゥーガルド副司令が迎えに来てくれたにゃん」

 そこにはアーヴィン様の息子でプリンキピウムの冒険者ギルドのギルマス、デリックのおっちゃんの兄がいた。

「相変わらずスゴい魔法だな、マコト、いや、マコト様」

「にゃあ、前と同じでいいにゃんよ」

「いや、王国軍評議員会副議長で辺境伯様を相手にそうもいかんだろう」

 苦笑いのドゥーガルド副司令の後ろから見知った顔が現れた。

「にゃ?」


「「マコト!」」


 キャリーとベルだった。

「にゃあ!」

 オレはふたりに駆け寄って抱き付いた。

「また会えたね、マコト」

「いろいろ偉くなってびっくりなのです」

 間違いなくキャリーとベルだ。

「にゃあ、こんなに早く会えるとは思ってなかったにゃん! 元気そうで安心したにゃん」

 無事なのはわかっていたが、こうして実際に触れて実感できた。

「あたしもふたりに会えてうれしいよ」

 リーリが胸元から出て来た。

「おお、妖精さんだ」

「また会えて光栄なのです」

「マコトの友だちは、あたしの友だちだからね、楽にしていいよ」

「「ありがとうございます」」

 ふたりはリーリに向かって敬礼した。

 この世界の妖精の立ち位置が良くわからない。空飛ぶ縁起物?

「マコトは領主様になっても変わらないね」

「にゃあ、オレ自身は何も変わってないにゃん」

「マコトらしいと言えばマコトらしいのです」

「今回はマコトのおかげで命拾いしたよ」

「小隊の皆んなも感謝してるのです」

「にゃあ、役に立てて良かったにゃん」

 またギュッと抱きつく。

「ドゥーガルド副司令がキャリーとベルを呼んでくれたにゃん?」

「そうだ、駐屯地まで会いに行く手間を省いた」

 ドゥーガルド副司令が気を利かせてくれた。いかつい割に気配りの細やかな筋肉だ。

「にゃあ、ありがとにゃん」

「私たちもついさっき呼び出されたばかりなんだよ」

「最初は何事かと思ったのです」

「にゃあ、オレも今回は急な呼び出しだったにゃん」


『にゃあ、あのふたりが噂のお館様の友だちのキャリーとベルにゃんね』

『あのバッジ、ふたりとも王国軍の特務中隊にゃん』

『にゃ、人間凶器にゃん』

『息をするように人を殺すにゃん、ウチの前の仲間も秒殺だったにゃん』

『さすがお館様のお友だちにゃん、半端ないにゃん』


 猫耳たちの間で不穏な内容の念話が飛び交っていた。


「マコト、友人と再会も終わったところで仕事をしてくれるか?」

「にゃあ、そうだったにゃんね、オレは何をすればいいにゃん?」

 キャリーとベルにくっついたまんま聞く。

 頭の上ではリーリがドーナツを食べてる。本日はもちもちタイプだ。

「まずは領地の確定だ、オルトン頼む」

「かしこまりましたドゥーガルド様」

 三〇歳くらいのちっちゃくて上品なおじさんが前に出た。

「わたくし国土省国土管理局境界監視官オルトン・ブリキューズと申します」

 丁寧にお辞儀される。

「にゃあ、マコト・アマノにゃん、よろしくにゃん」

 国土省の国土管理局境界監視官と言うのが実際どんな仕事をしてるのかいまひとつわからない。

 測量士的な仕事だろうか?

「では、鑑定させていただきます」

 境界監視官オルトン・ブリキューズ氏は、目を閉じると手を前に出して拡げた。

「探査魔法にゃんね、しかもかなり強力にゃん」

「ええ、境界監視官は広大な領地を一瞬で把握すると言われてますわ」

 ロマーヌが教えてくれた。

「確認いたしました」

 ブリキューズ氏が目を開ける。

「国土管理局は、オルビー、エイリー、バデリーの三領をマコト・アマノ様の領地として認定いたします」

「ご苦労」

「にゃあ、ありがとうにゃん」

「マコト、料金は大金貨一枚だ、面倒な手続きを代行してもらうならもう一枚を渡してやってくれ」

「にゃあ、わかったにゃん」

 オレは二枚の大金貨を革袋に入れてブリキューズ氏に渡す。

「手続きの代行も全部お願いするにゃん」

「確かに頂戴いたしました、早急に手続きいたします」

 こうして壊滅した男爵領を三つほど意図せず手に入れてしまった。

「「すごい」のです」

 キャリーとベルは目を丸くした。


「これで面倒事が一つ片付いた、マコトには感謝するぞ」

 ドゥーガルド副司令に後ろ頭を撫でられる。

 天辺はリーリがいるからね。

「副司令、辺境伯様の頭を撫でるのはいかがかと思われますが」

 軍服をまとい黒髪を後ろでまとめた秘書っぽいエッチな感じの女の人に注意される。胸はフリーダ級だ。

「おっと、ダリア中佐の言う通りだ」

「にゃあ、良くあることなので気にしてないでいいにゃん、それでこちらのお姉さんが中佐にゃん?」

「ご挨拶が遅れました。王国軍副参謀を拝命しておりますダリア・アシュモア中佐と申します」

「にゃあ」

「辺境伯様を抱き上げるのもどうかと思うぞ」

「ダメですか?」

「いつものことにゃん」

 柔らかなおっぱいに押し付けられた。



 ○王都タリス 外縁部 環状線


 境界の門に常駐する王都守備隊の人たちを残して、オレたちは王都の外縁東部に向かった。

 王都城壁の外側でスラムの中心だった外縁東部地区では、瘴気を封じ込めた結界に黒い煙が充満して、本来は目に見えない結界の形を顕在化させていた。

 遠くからも見えるそれは、地面に突き刺さった巨大な二〇面体みたいな形で、黒い煙が中で渦を巻いて禍々しさが半端ない。

 しかも風に煽られて揺れ動くから怖さ倍増だ。明らかに高度限界を越えているがレーザーは飛んで来てない。

 いったいどういう判断基準なのかは謎だ。


「にゃお、これはまたデカいにゃんね」

「ゆらゆらしてるね」

「にゃあ、いまにも弾けそうにゃん、しかも瘴気の濃度が半端ないにゃんね」

 これが弾けたら、レークトゥスの被害の比では無いはずだ。

「結界の維持はどうしてるにゃん?」

「ウチの魔法使いにやらせてるが、焼け石に水だな、ほとんど最初の宮廷魔導師が慌てて張った状態のままだ」

 ドゥーガルド副司令もジープに乗り込んで状況を説明してくれる。

 ダリアに抱っこされたままなのはどうだ?

 キャリーとベルは別のジープになってしまった。せっかくふたりの間に挟まりたかったのに残念にゃん。

「にゃ、宮廷魔導師はやらないにゃん?」

「外縁部はヤツらの管轄じゃないから、頼むには金がいる」

「王国軍が払うにゃん?」

「軍の演習地が入ってる関係でいまは王国軍の担当だ、ヤツらは先日の失敗でかなりの人数を死なせたから出したくないのだろう、マリオンを始め何人かはやりたがっていたが、上の決定には逆らえないからな」

 マリオンはハリエットを送る時に知り合った次席宮廷魔導師だ。

 虎の子の宮廷魔導師を減らしたくないというのもわかるが、いまはそんなことを言ってる場合じゃ無いと思うのだが。

「決めてるのは王宮にゃん?」

「そうだ」

 王都を守護する絶対防御結界なら瘴気は通さないが、それは城壁内だけの話だ。王都外縁部はまったく守られない。

「外縁部の人たちは避難してないみたいにゃんね」

「避難が出来る人間は逃げ出してるが、大部分は逃げるに逃げられない状態だ」

「どうしてにゃん?」

「この時期、風向きが安定しないのもあるが、王宮が実質的に住民の移動を禁止してるのが原因だ」

「にゃお、なんでそんな事をするにゃん?」

「混乱の防止だ、先日結界が破れた時の混乱がまだ一部残ってるしな」

「にゃあ、いろいろあるにしても、危ないにゃんよ」

「そんなにマズい状態なのか?」

「にゃあ、そうにゃんね、今日の夜までは持たない感じにゃんね」

「そうか」

「とにかく結界が大きさに対して強度が足りてないにゃん」

「結界は王国軍の演習場も含んでるからどうしても大きくなる」

「分けなかったにゃん?」

「王宮的には分けないほうが都合が良かったんだろう、結界内に王国軍の演習場を含めれば、俺たちに面倒事が押し付けられるわけだから」

 政治的な思惑がいろいろあるわけだ。


 いよいよ、化物のような黒い結界に近付く。


「まずは総司令に会ってくれるか? マコトには王国軍評議員会副議長として今回の王都外縁部東部地区の浄化作戦に参加して貰わないといろいろ都合が悪いことになる」

 後部座席の対面に座るドゥーガルド副司令がオレに頼み込む。

「王国軍評議員会副議長は実戦には参加しない役職と違うにゃん? オレはそう聞いてるにゃんよ」

「いや、ウチの親父は普通に出てくるぞ」

「そう言えばアーヴィン様が王国軍評議員会議長だったにゃんね、これははかられたにゃんね」

「聞いてくれ、マコトを辺境伯として招聘すると報酬として莫大な負債を王国軍が負ってしまうからなんだ、王国軍としてそれは何としても避けたい」

 払って貰ったとしてもオレが貸した金だけどな。

「王国軍評議員会副議長だとタダ働きにゃん?」

「軍に入ってくれるなら少将の地位を用意するぞ、報酬も出す」

「にゃあ、六歳児は軍隊には入れないと違うにゃん?」

「それは一般入隊だ、将官に年齢制限はない」

「少将が六歳でもいいにゃん?」

「問題ない」

「でも、お断りするにゃん、オレはこれでもいろいろ忙しいにゃん、ケラスの整備に手を付けたばかりなのにノルドと元男爵領も押し付けられたから開発計画の練り直しにゃん、アポリトなんか手付かずにゃん」

「少将の話は置いとくが、我々もマコト以外に頼る術がないのだ、人助けと思って手を貸してくれ」

「にゃあ、洗浄と浄化はやるにゃん、報酬も要らないからそっちで上手く処理して欲しいにゃん、オレとしてはこれ以上誰も死んで欲しくないだけにゃん」

「そうだな、これ以上の犠牲は何としても防ぎたいところだ」



 ○王都タリス 外縁部 東部地区 王国軍 臨時発令所


 案内されたのは封鎖された王都外縁部東部地区の前に張られた大きなテントだ。ここが王国軍の臨時発令所になっている。


「良く来てくれた、マコト」

 軍服に身を包んだ一〇歳ぐらいの女の子、実際には十二歳のハリエットがいた。

「にゃあ、ハリエット様、久し振りにゃん」

「マコト様はハリエット公爵殿下をご存知だったんですか?」

 ダリアが目をパチクリさせる。

「知ってるにゃんよ」

「マコトは私の命の恩人だ」

「では、詳細は公表されなかったハリエット様を救出した宮廷魔導師をも凌ぐ凄腕の魔法使いとは?」

「マコトのことだ」

「にゃあ、友だちにゃん」

「そういうことだ、さて、早速だがマコトには東部汚染地区の浄化を頼みたい」

「犠牲者の霊は聖魔法で送らなくていいにゃん?」

「やってくれるならそれも頼む」

「にゃあ、わかったにゃん」

「しかし、本当にいいのか?」

「にゃあ、これは人助けにゃん、オレにできることならやるにゃん」

「そう言ってくれると助かる、王宮の無茶振りで危うく巨額の出費をさせられるところだったからな」


 ハリエットは、ほっとした表情を浮かべた。相変わらず王国軍の運営には苦労してるようだ。



 ○王都タリス 外縁部 東部地区 汚染地域前


 発令所のテントを出てジープを連ねて走らせ結界に触れられそうな位置まで近づき汚染された地区の状態を肉眼で観察する。

 結界を満たした黒煙は巨大な生き物のように身を捩らせた。結界内部の火も完全に鎮火していない。手付かずの遺体からは瘴気もいまだ吹き出し続けている。

「マコトはアレを本当に浄化するの?」

「かなりの濃度なのです」

 キャリーとベルも案内役で付いて来てくれた。

「にゃあ、いま結界が破れたら王都の外縁部の大部分がやられるにゃん」

 煙で覆われた汚染地区はレークトゥスとは比べ物にならない瘴気の濃度と量だ。しかも風は東から西に流れている。

 汚染地区でいったいどれだけの人が死んだのか見当も付かないのに、王都外縁部のすべてが汚染されたら、それこそ王国に大きな影響が出そうだ。

 宮廷魔導師を出し惜しみしてる場合じゃないと思うのだが王国のお偉いさんの考え方は違うらしい。

「行けそうか?」

 ハリエットはオレのやった聖魔石の魔法馬に乗ってる。

「にゃあ、やれるにゃん、まずは結界を張り直して洗浄、聖魔法の順番で行くにゃん」

「何日ぐらい掛かりそうだ?」

「五分で何とかにゃんね」

「なんだって?」

「にゃあ、五分ぐらいは掛かりそうにゃん」

「五分だと!?」

 ハリエットが眉を寄せる。

「いくらハリエット様の注文でもこれ以上の短縮は無理にゃんよ、レークトゥスで浄化した街より濃くて広いからそれなりに時間が掛かるにゃん」

「わかった、やってくれるなら五月蝿いことは何も言わん、マコトに任せる」

「にゃあ、それは助かるにゃん」

 時刻は夕暮れになりつつあった。

 いい匂いがしてるのは猫耳たちが炊き出しで焼きそばを焼いてるからだ。仕事が早くなってる。


「にゃあ、始めるにゃん!」

「「「にゃあ!」」」


 いまにも破れそうな結界をオレたちの新たな結界で覆った。

 もう風で揺らぐこともない。


「洗浄にゃん!」

「「「にゃあ!」」」


 張り直した結界の中でスパークする。

 出力を上げた洗浄で一気に瘴気もばい煙も消し去った。そして炎も消す。

「もったいぶった挙句に全滅したヤツらとは次元が違ってるな」

 ドゥーガルド副司令のつぶやきが聞こえた。

 次元も何もこの程度はやらないとこんな濃い瘴気の浄化は無理だ。

 火を放ったとは言え、苗床になった人間の数もレークトゥスの街とは桁が違う。

「煙が消えたぞ!」

「おお!」

「結界も消えたのか!?」

 いや、結界は煙が消えて見えなくなっただけだ。


「にゃあ、続けて聖魔法を使うにゃん、皆んなまとめて天に送るにゃん!」

「「「にゃあ!」」」


 聖魔法の青い光が結界を越えて地面に広がる。

 人々の躯はエーテルに還り魂は天に還る。

 スラムに生まれ笑うこと無く死んだ子供たちの魂が大地から離れる。

「次はもっと幸せにしてやるにゃん、それまで空で一休みするにゃん」

 オレは光に向かって呟いた。

『『『……』』』

 うなずいたように感じた。

 続いてたくさんの魂が光の粒子となり薄暗くなった空に螺旋の軌跡を描きながら昇る。


「「「おおお、すごい!」」」


 皆んなが空を見上げる。

 神は居なくとも魂は輪廻する。

 それがこの世界の理だ。

 魂の記憶が空に溶ける。

 オレにもその内容が見えた。

『『『お館様?』』』

 猫耳たちから念話が入った。

『にゃあ、おまえらも気付いたにゃん?』

『『『にゃあ』』』

『まるで情報体だったにゃん』

 精霊情報体に似た情報の塊を感じた。

『にゃあ、以前も感じたことがあるにゃん、空に還った魂の記憶が精霊情報体のベースで間違いないみたいにゃん』

『図書館情報体は違うにゃん?』

『にゃあ、あれはまた別モノにゃん』

『情報体になるには、ただ死んだわけじゃなくて聖魔法で送る必要があるにゃんね』

『にゃあ、そうみたいにゃん』

 記憶の塊は空に薄く拡がり希薄になる。

 精霊情報体の様にはならなかった。

『何か足りないみたいにゃんね』

 それが何なのか、いまのオレたちには見当もつかない。

 だからって実験しようとは思わないけどな。


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