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安寧の回復にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年一〇月〇一日


 朝起きて猫耳たちの中からにゅるりと抜け出した。これはこれで楽しい。

「にゃお?」

 いつものロングTシャツとパンツ姿からコスチュームチェンジをすると、それまでの白を基調とした半袖から黒を基調とした長袖のセーラー服に変わっていた。

 スカーフの色も紺から白になってる。

「にゃー、こっちに来た時は季節と関係なしだったのに何故にゃん?」

 精霊情報体にも図書館情報体にも答えは無かった。

「マコトの服、昨日までのと違うね」

 リーリはオレのおなかから剥がれて頭に乗った。

「にゃあ、衣替えにゃん」

「ふーん」

 妖精の反応はいま一つだった。

「にゃあ! お館様が冬服になってるにゃん!」

 代わりに目を覚ました猫耳が激しく喰い付いた。

「「「にゃあ、可愛いにゃん♪」」」

 猫耳たちが抱き着いて来た。


 臨時の抱っこ会の後、朝の炊き出しをやった。おにぎりと豚汁だったがこっちの人たちにも受けが良かったのは幸いだ。

 今朝は勝手に衣替えされるぐらい肌寒かったからちょうど良かったのかもしれない。

 避難民の人たちも近日中に家に戻れるだろう。サービスで瘴気の影響はまとめて治癒しておいた。

 簡易宿泊所ぐらい作ってあげたかったが、各方面から自重するように言われてるので毛布を配布するに留めた。こっちで盗賊狩りをした時に手に入れたモノを再生した複製品だがずいぶん喜ばれた。



 ○レークトゥス州 北東部 州道


「出発にゃん!」

 リーリがまだスパムにぎりを頬張ってるのでオレが代わりに号令を掛けた。

「今日中に全部終わらせるにゃん!」

「「「にゃあ!」」」

 ジープがそれぞれのコースに別れて突っ走る。

「本当に、今日終わりそうだな」

 チャドが地図を眺める。

「にゃあ、昨日ぐらいのトラブルがあってもちゃんと予定内に終われるにゃん」

「あのレベルが二日続けてとか、勘弁して欲しいぜ」

「マコト様、次に何かありましたら、是非わたくしにもご同行させて下さい!」

 ロマーヌは今朝も絶好調だ。

「にゃあ、蜂に毒針を刺されてもいいなら、付いて来てもいいにゃんよ」

「へ、平気ですわ」

「おまえ、いつから軍隊蜂に刺されても平気になったんだ?」

 兄貴に突っ込まれていた。

「にゃあ、気合が入ってるのは偉いにゃん」

 適当に褒めておく。

 ロマーヌの目的はあくまでオレたちの魔法であって蜂ではないので、間違っても毒針に向かって『観察しますわ!』と突っ込んで行くことはないだろう。

 そんなことをされたらオレもフォロー出来ない。


 昨日と違って大きなアクシデントもなく順調に浄化と聖魔法での解放を行い夕方に全ての作業を終えた。



 ○レークトゥス州 北東部 州道 野営地


「これでレークトゥスも助かったぜ、ありがとうな」

 夕暮れの野っ原でチャドに頭を撫でられた。

「にゃあ、オレも領地まで貰ってうれしいにゃん」

「マコト様、棒読みです」

 エラに突っ込まれる。

 王宮の介入を防ぐために不良債権な領地ノルドを今回の報酬の一部として受け入れる事にした。

 トンネルの維持に金が掛かるので貰ってもマイナスなのだが、そこは登録上、生きた領地なので今回の報酬の不足分を十分に補ってくれるらしい。

 金銭より領地の価値が高い評価方法を利用した抜け道っぽいやり方だが、各方面に問い合わせてくれたエラもOKを出したのでそのまま話を進めた。

 それでもケラスから直通で入れるようにレークトゥスの森林の一部も譲り受けたので、開発はスムーズにできそうだ。

 まだアポリトが手付かずだけどな。

「助けてくれたのがマコトで良かったぜ、レークトゥス存続の危機だったからな」

「まだ安心は出来ませんわ、復旧に幾ら掛かるのかわかりませんもの」

「だよな」

「にゃあ、お金がないならオレの銀行に相談して欲しいにゃん」

 スマクラグの商業地区の土地も無償で譲渡されたので、昨日から銀行業務を開始している。

 現金以外で王宮を納得させるための追加報酬の一環だ。

 無論、地下では勝手に拠点の建設が行われている。ベルマディ市からのトンネルも接続され勝手にレークトゥス内のトンネルの整備も始まっていた。

 昨夜、魔法蟻たちから要求があったのでロッジの地下から二〇〇〇匹を追加投入しているし、今夜も続けて投入する予定だ。

「でもマコト様、本当によろしいのですか? ノルドなんて実質かなりの持ち出しになりますわよ」

 ロマーヌが心配そうな顔をする。

「にゃあ、隣接するレークトゥスの不安定化は、オレも望んでないにゃん、それにノルドは自前で何とかするからお金は掛からないにゃん」

 ノルドの住人の全てがレークトゥスから領地の維持の為に派遣されてる人たちなので近いうちに全員が帰領する。

 遠慮無しでオレたちが好き勝手できるのでそれほど高くは付かない。

「アーヴィン様から、マコト様は九領地以上の領有と今回の功績から侯爵に陞爵しょうしゃくするだろうとのことです」

 エラが何か言ってる。

「にゃあ、九領地と言ってもそのうち六つは廃領にゃんよ、もうひとつも人間が一人も居ないにゃん」

「問題ありません、マコト様が領主に登録されたので廃領地は全て書類上は復活しているそうです」

「にゃ?」

「おおマコト、今度は侯爵様か、そいつはすげえな」

「それから王都の外縁東部の洗浄が可能か打診が来ているそうです」

 エラから新たな情報が入った。

「にゃあ、大金貨三千万枚を掛けて浄化したのと違うにゃん?」

「先に火を放ったせいで、結界に穴が空いたまでは以前の情報通りなのですが、どうやら洗浄作業中の魔法使いの多くが巻き込まれて死亡したらしいです」

 ロマーヌも魔法大学の人脈から新しい情報を得ていた。

「バカにゃん?」

「蜂の毒を甘く見過ぎるからだ、俺も目の当たりにするまではそうだったから偉そうなことは言えないけどな」

「それとですね」

 エラが話を続ける。

「にゃ、まだ何かあるにゃん?」

「レークトゥスと王都との間にある男爵領三つを洗浄と聖魔法を使った後に領有せよとのことです」

「男爵領にゃん?」

「ああ、この先にある小さな領地だ、やっぱり一族郎党全滅してたか、州境もこっちの結界で瘴気を防いでる状態だ。たぶん王都側も同じだろう」

「何でオレが領有するにゃん?」

「この場合、領地の安寧を取り戻した者に報奨として与えられるんだ。つまり浄化をするマコトにだ」

「オレは別に要らないにゃん」

「いや、マコトがどうにかしてくれないとウチに厄介事が回って来る」

「にゃあ、誰もいないし結界が効いてるなら放って置けばいいと違うにゃん?」

「慣例として王宮から隣接した領地に復旧命令が出るのです、領地を増やしてやるからどうにかしろってことですわね、今回ですと間違いなくウチが指名されます」

 ロマーヌが説明してくれた。

「にゃあ、オレが洗浄してやるからチャドが領有すればいいと違うにゃん?」

「あのなマコト、せっかくノルドで話をまとめたのにひっくり返すんじゃねえよ」

「アーヴィン様が既にマコト様の名前で仮登録されたので後は明日、王都側に抜ければ領有完了だそうです」

「にゃ!?」

「アーヴィン様は話が早いぜ」

「男爵領のあちら側にアーヴィン様の代理の方がいらしてるので、後はその指示にしたがって欲しいとのことです」

「オレは王都で何をさせられるにゃん?」

「王都の洗浄です」

 エラがオレに新しい指令を伝える。

「マコト様、王都でしたら、わたくしもお供いたしますわ」

 ロマーヌも付いて来る事になった。

「にゃあ、頼むにゃん」


『そういうことだから男爵領に拠点を構築するから応援を寄越して欲しいにゃん、それと同時にノルドの調査も行うのでそのチームも一緒に頼むにゃん』

『『『にゃあ、了解にゃん!』』』

 猫耳たちを応援に呼んだ。

『魔法蟻には王都に向けてトンネルを掘って欲しいにゃん』

『『『……』』』

 魔法蟻たちが口をカチカチさせながら右前脚を上げるのが見えた。



 ○帝国暦 二七三〇年一〇月〇二日


 朝の内に猫耳たちを満載したトラックが二台到着した。レークトゥスでは魔法蟻たちが勝手に地下トンネル網の構築を進めてるので猫耳の移動は速い。

「にゃあ、本当にお館様が冬服になってるにゃん!」

「「「にゃあ! 可愛いにゃん!」」」

 オレを見付けた猫耳たちが駆け寄って来る。


 後のことは説明しなくてもおわかりいただけたかと思う。


「一台はここからノルドに向かって調査にゃん」

「「「にゃあ!」」」

「もう一台はこれから洗浄と聖魔法を使って解放する三つの男爵領の調査と拠点の設置を頼むにゃん」

「「「にゃあ!」」」

 ノルドに調査に向かう一台のトラックとはここで別れ、オレたちはジープの車列にトラックを一台追加してレークトゥスと問題の男爵領との境界門に向かった。



 ○レークトゥス州 北東部 州道


「ここからだと一本道だから案内ってほどのものじゃないけどな、境界門の場所がわかりづらいんだ」

「そうですわね、初見ではまずわかりません」

 境界門まではチャドたちが案内してくれる。


 時間にして十五分程度で到着した。



 ○バデリー男爵領 境界門


「到着だ」

 道は行き止まりだが境界門はなく林の前の野っ原だった。そこにパメラたちが先に来ていた。

「マコト様、今回は本当にありがとうございました、父の名代としてお礼を申し上げます」

 パメラから改まって挨拶される。

「にゃあ、働いた分の対価はちゃんと貰ったから、そうかしこまらなくていいにゃん」

「マコト様には対価以上のことをしていただきました」

「確かにそうだ、残っていた蜂どもの討伐もしてくれたわけだし、俺も感謝してるぞ」

「本来でしたらマコト様方の使われた聖魔法だけでも、レークトゥスの資産ではとても追いつかない金額になりますわ」

「にゃあ、お隣さんへのお友だち価格にゃん」

「これよりマコト様にノルドをお引き渡しいたします、既に王宮への届け出は終了していますので、こちらでは簡単に形だけで」

「にゃあ、了解にゃん」


 簡易ながら譲渡の儀を以て正式にノルドの移譲が行われた。


「にゃあ、後はこの先にある三つの男爵を洗浄して浄化して解放すればいいにゃんね」

「そうです、オルビー、エイリー、バデリーの男爵領を解放して領有を宣言するのがマコト様のお仕事です」

 エラが教えてくれる。

 オルビー男爵領は王室直轄領の南隣。

 エイリー男爵領はオルビーとバデリーに挟まれている。

 バデリー男爵領はレークトゥスの北隣。

 三男爵領は以上の様な位置関係だ。要は王都とレークトゥスの間に挟まってる小領地なのだ。

 生存者は皆無、全滅したらしい。


「レークトゥスからバデリー男爵領に入る境界門はないにゃん?」

「たぶん、この辺りにあったはずだ」

「にゃあ、それっていまは無いってことにゃん?」

「そうだ、いまはない」

 チャドたちが案内してくれたのはかつて境界門が有ったらしき場所だった。それでも一から探すよりはずっといい。

「大昔に境界を巡って紛争が起こって以来、絶縁状態と伝わってますわ、境界門もその時に壊されたそうです」

 ロマーヌが説明する。

「正確には二一一年前ですね」

 パメラが補足する。

「にゃあ、それで境界に対人地雷が埋まってたにゃんね」

 朽ち掛けた柵の向こう側にかなりの密度で対人地雷が埋められていたので回収した。

 その数二八〇〇〇個。

 新しくはないが状態保存の魔法が効いてるのでモノは新品同然だ。

 しかも地球の地雷と違って一回使って終わりじゃなく魔法で吹き飛ばすので半永久的に使える。

 猫耳の情報によれば三男爵領は、ほとんど鎖国状態を続けながら対人地雷や魔法銃の様な軍事物資の生産をほそぼそとやっていたようだ。

「あまり人気のある商品じゃ無かったですけど」

 エラが教えてくれた。

 対人地雷は純粋な武器なので使い所が難しい上にたまに暴発する。

 獣にも使えたらまだ良かったのだが、噛み砕かれても爆破しないらしい。変なところだけこだわっていた。

「ここで作られてる銃もまんま数百年前のもので、これまた当たらないと評判でしたが、それでも安くて頑丈なのでランクの低い冒険者が使ってましたね」

 以前オレが盗賊から取り上げた銃の中にもあった。

「エラは詳しいにゃんね」

「ウチの実家が扱ってますので」

「儲かったにゃん?」

「赤字でした。ただ取引をヤメたくても『あいつら直ぐ逆恨みする』って理由で続けていたみたいです」

「何とも迷惑なヤツらだったにゃんね」

「ウチの実家が手こずっていたのですから、ある意味スゴいです」

「直接関わり合いにならなくて良かったにゃん」

「まったくです」


 まずは境界門のあった場所を探す。新しく作れないこともないが、境界の再設定とか面倒くさいのでやりたくない。


「この辺りに境界門があったみたいにゃんね」

 チャドに指定された一帯に探査魔法を打って探し出した。

「結界の切れ目になってるから間違いないよ」

 リーリもわかったらしい。オレよりもはっきり見えてるみたいだ。

 まずは境界門を新しく設置する。

 プロトポロスやケラスと同じ監視所付きのタイプだ。

「こんなものまで一瞬で」

 いまさらな感じがするがロマーヌはまた驚いていた。


「にゃあ、境界門が復活したからこれよりオルビー、エイリー、バデリーの男爵領の解放を開始するにゃん」

「「「にゃあ!」」」

「男爵領を物理障壁と防御結界で囲った後に洗浄と浄化で解放するにゃん」

「「「了解にゃん!」」」


 猫耳たちの力も借りてオルビー、エイリー、バデリーの男爵領を物理障壁と防御結界で囲った。


「「「スゴい!」」」

 物理障壁が湧き出すように現れたのを見て声を上げるチャドたち。

 男爵領とは言ってもいずれもプリンキピウムぐらいの大きさしかない小領地なので、オレたちからしたら物理障壁で囲う程度は大したことじゃない。

 今回、物理障壁まで造ったのは、いまだ大量に埋まってる地雷に誤って引っかからないようにするためだ。

 州を隔てる境界は境界門以外は通れないタイプと何処からでも越境できるタイプがあるが、男爵領は鎖国していたのに何故か後者だった。

「にゃあ、続けて一気に行くにゃん!」

 蜂も生存者も居ないことは既に確認済だ。逃げ場がないのが災いしたのだろう。

 洗浄で瘴気を消し去り、浄化で人々の魂を天に送った。

 昇って行く魂はかなり多い。

 恨み辛みとともにこの地に染み込んで半分怨霊化していたのだろう。


「道を作りながら男爵領側に抜けるにゃん、応援部隊は内部の調査と危険物の撤去、それに拠点の構築をして欲しいにゃん」

「「「了解にゃん!」」」

 オレたちはそれぞれジープとトラックに乗り込んだ。

「マコト世話になったな、帰りにでもスマクラグに寄ってくれ」

「お待ちしてます」

 チャドとパメラはここまでだ。

「にゃあ、ありがとうにゃん」

「兄様、姉様、行って来ますわ」

 ロマーヌが王都まで同行する。

「マコトに迷惑掛けるなよ」

「兄様ほどでは有りませんからご心配なく」

「どっちもどっちだろう」

「うっ」

 確かにどっちもどっちだ。

「にゃあ、またにゃん!」

「出発!」

 リーリの号令で車列が動き出す。

 真新しい境界門を抜けてバデリー男爵領に入った。


 オレたちは道を作りながら三つの男爵領を縦断して王都側出口を目指す。



 ○バデリー男爵領


 森の合間に農地と壊れかけのボロ屋が見える。それ以外、目に入らない。

「王都に近い割にネオケラス並に田舎っぽいにゃん」

 風景はこれまた日本の山奥の限界集落って感じだ。

「かなり前から鎖国状態ですから、衰退していたのでしょう」

 エラの意見で正解だろう。

「王都の連中は良く放置してたにゃんね」

「武器となる魔導具を生産していたからですわ、全く使えないわけでもないですから」

 ロマーヌもお隣さんだけあってそこそこ詳しいらしい。

「にゃあ、対人地雷はともかく銃は製造した方がいいにゃん?」

「ええ、獣の被害は深刻ですから、面倒な製造ライセンスの引き継ぎもウチの実家で喜んで代行して手続きをすると思います」

「にゃあ、連絡を頼むにゃん」

「かしこまりました」


 銃の製造だったら、オレや猫耳が手を出さなくても出来る仕事なので人を雇って工房を新たに起こしても良さそうだ。


「にゃあ! お館様、前方から魔法牛のオスにゃん!」

「にゃ?」

「オスが一〇頭こっちに向かって突進して来るにゃん!」

「にゃあ、超珍しい魔法牛がいるとは鎖国してただけのことはあるにゃんね」

「お館様、魔法牛が弾を撃って来るにゃん!」

「弾にゃん!?」

 魔法牛の目の部分から銃身が飛び出して銃を撃って来る。ビジュアルは大変キモい。

「にゃあ、走りながらだと当たらないにゃんね」

「止まっても当たらない感じだね」

 リーリの言うとおり牛が放つ弾丸はいずれも明後日の方向に飛んでいた。どうやらメンテナンスの技術も衰退していたらしい。

「ひとまず分解にゃん」

 魔法牛の群れは一瞬にして分解格納された。

「オレたちの持ってる魔法牛と随分と違うにゃんね、にゃお、それでも基本設計はこっちが新しいにゃん」

「マコト様、いまのが魔法牛だったのですか?」

「にゃあ、そうにゃん」

「初めて見ましたわ」

「にゃあ、珍品にゃん」

 ロマーヌも魔法牛は初見らしい。


 村じゃなくて男爵領の防衛は魔法牛のオスが担っていた。対人戦闘に特化されているので蜂には全く反応しなかったようだ。

 蜂もまったく魔法牛を相手にしなかったらしく人間だけが襲われた。



 ○エイリー男爵領


「にゃあ、停めるにゃん、ここからがエイリー男爵領みたいにゃん」

 道端に境界石を見付けてジープを停車させた。

「境界石だけで、境界門どころか柵もないにゃんね」

 運転席の猫耳が周囲を眺める。

「バデリー男爵領の領主の館も見当たらなかったにゃん、途中の掘っ立て小屋のどれかだったにゃん?」

 助手席の猫耳もキョロキョロする。

「エラは何か知らないにゃん」

 オレと一緒に後部座席に乗っているエラに聞いた。

「確か男爵領は三つに分かれていますが、内部は特に境界門も無く一つの領地として運営されていると聞いています、ですから領主の屋敷は王都に近いオルビー男爵領に集約されているのではないでしょうか?」

「にゃあ、なるほど」

「本当のところ三つの男爵領を維持する経済力が無かったのだと思います。ここは奴隷制が残っていたようですし」

「奴隷がいたにゃん?」

「奴隷がいたからこんな時代遅れの領地が維持できたのでしょう」

「王国は奴隷を放置していたにゃん?」

「黙認ですね、男爵領を潰すにもコストは掛かりますし、旨味のある領地でもありませんから」

「オレに回って来るだけはあるにゃんね」

「その点、マコト様には利点しか無いと思いますが」

「にゃあ、それはこれからにゃんね」

 王都に近いが、山あり谷あり崖に沼と思っていた以上に平らな土地がない。領地の中にまで地雷もある。

 地雷は全部回収! 魔獣用に改造して魔獣の森にばらまくにゃん。

『にゃあ、この辺りが真ん中にゃんね、拠点の建設と領内の調査を開始して欲しいにゃん』

 トラックの猫耳たちに念話を入れた。

『『『了解にゃん』』』

 トラックが車列から離脱した。



 ○オルビー男爵領


 境界石だけの境界門らしき場所を抜けてオルビー男爵領に入った。

「領主の屋敷は、エラの言った通りこちらにあるみたいにゃんね、工房もあるみたいにゃん」

 外部と接触する場所を王都側に集約したのだろう。奴隷の他にも見られて困るモノがあったのかもな。

「もしかしてあの大きな掘っ立て小屋が領主の館にゃん」

 助手席の猫耳が指差した先に確かに大きな掘っ立て小屋があった。

「にゃあ、倉庫と違うにゃん?」

 王国軍の倒壊する前の倉庫と大差ないぞ。

「いえ、男爵の居城で間違いありません」

 エラが教えてくれる。

「城にゃん?」

「城です」

「にゅあ、個性的な城にゃんね、ネオケラスの元の州政府庁舎よりはデカいにゃん」

 ケラスもヤバさは変わらんか。


 時折現れる魔法牛を消去して道路を整備しながら三つの男爵領を縦断するだけの簡単な仕事を終えてオレたちは王都側に到着した。

 地下では新たに再生された魔法蟻たちがせっせとトンネルを掘っているので、今日中にレークトゥス経由でケラスに接続されるはずだ。



 ○王室直轄領 境界門


「門を開くにゃん」

 物理障壁に新しい境界門を作って開いた。


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