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ユウカからの念話にゃん

『マコト、私だ』


 何故かブラッドフィールド傭兵団の執務室らしき場所でくつろぐユウカの姿が見えた。見た目は二〇代前半だが転移から三〇年は経過してるとか。

 実年齢不詳の銀髪の美女と目が合う。


『何だかスゴいことになってるな』

『にゃあ、ユウカからオレも見えるにゃん?』

『ああ、猫耳に埋もれてる姿が見えるぞ、他人がなりすますことは無いとは思うが本人確認のためだ、我慢してくれ』


 リーリみたいに簡単に他人の念話に入り込むヤツが他にもいるらしい。オレも出来るけど。


『にゃあ、オレは別に構わないにゃん』

『マコトはそんな埋もれた状態で、苦しくないのか?』

『何故か、平気にゃん』


 オレの中の猫的な何かが作用してるのだろうか?

 最近はみっしり埋まってる状態に安堵感を覚えるようになっていた。起きる時は邪魔だから吹き飛ばすけどな。


『カズキからマコトが封印図書館の情報を探してると聞いたから売りに来た』

『にゃあ、いくらにゃん?』

『大金貨一〇〇枚と毛虫の毛皮三枚でどうだ?』

『いいにゃんよ、買うにゃん』


 ユウカの格納空間に代金と毛皮を放り込んでやった。


『他人の格納空間にモノを飛ばせるとか便利すぎる能力だな』

『にゃあ、練習すれば誰でも出来るにゃん』

『無理を言うな、それでこれが毛虫の毛皮か、確かに高値が付くはずだ、防御力が半端ないな』


 ユウカが自分の格納空間から毛虫の毛皮を取り出して眺めてる。


『にゃあ、ケラスのこれからの主力商品にゃん』

『いい判断だ』

 ユウカが褒めてくれた。

『にゃあ、それで印図書館の情報はどの程度の信用度にゃん?』

『宮廷魔導師から聞いた話を総合してるから信用度はかなり高い、実際に封印図書館に入った人間の証言もある』

『にゃ、封印図書館に入ったにゃん?』

『マコトも名前は知ってるだろう? 転生者のケイジ・カーターだ、彼は封印図書館に足を踏み入れてる』

『ケイジ・カーターなら入っていてもおかしくない人間にゃん』

『ああ、彼は宮廷魔導師の主席まで務めた人間だ、彼に解けないものは他の誰にも解けないだろう』

『ユウカはケイジ・カーターをずいぶんと高く買ってるにゃんね』

『いや、何の誇張もない事実を述べただけだ、その彼でさえ封印図書館で狂気に取り憑かれた』

『封印図書館で狂気にゃん?』

『そうだ』

『転生者でも正気を失うにゃん?』

『大切なものを喪った人間は、それを求めるあまり何も見えなくなるらしい、魔力の強さと精神の強さは比例しないようだ』

『にゃあ、ユウカはケイジ・カーターを良く知ってるにゃん?』

『私もカズキも彼にはかなり世話になっている、いまの我々があるのも彼のおかげだ』

『いい人だったにゃんね、オレの知ってる元弟子もいい人だったと言ってるにゃん』


 元カトリーヌのリーのことだ。猫耳になってることは秘密だ。


『後の事件を知る人は耳を疑うと思うが、彼は善人で裏表のない人間だった、妻を失う前までは、そして封印図書館に入るまでは』

『にゃあ、ケイジ・カーターの事件は王宮が隠蔽したのか、一般にはまったく知られてないにゃんね』

『宮廷魔導師のしでかした不祥事は隠匿されるのが慣習だ、特に彼の引き起こした厄災は、王宮の権威すら危うくする醜聞だったからなおさらだ』

『ユウカはその原因が、封印図書館だというにゃんね?』

『私は前後の彼を見ている、まず間違いない、彼は封印図書館で亡くなった妻の魂を再生する手掛かりを得てしまった』

『にゃあ、魂の再生の魔法はケイジ・カーターが生み出したわけじゃないにゃんね?』

『そうだ』


 肉体の再生はそれほど難しくないが、失われた魂の再生は不可能だ。

 それが神の作りしルールなんてほざくつもりはないが、縄文時代の人に壊れたCPUを直せと言ってるようなもので、魂を構成する物質からしてわからない。


『封印図書館に収蔵されてるのは、オリエーンス連邦時代の呪法にゃん?』

『私が聞いたところ、封印図書館自体が遺跡から発掘されたものらしい、大きさは掌に載るぐらいだそうだ』

『にゃ、そんなに小さいにゃん?』

『空間圧縮魔法だ、マコトだってその程度のものは作れるんじゃないのか?』

『にゃあ、拡張空間を極限まで使えば容れ物は作れないこともないにゃんね、封印図書館はゴーレム型にゃん?』


 オレがプリンキピウムで掘り当てた図書館情報体はゴーレム型だ。

 発掘される一般的な遺跡はいずれも迷宮型になる。オレの手持ちだと元の研究拠点がそれにあたる。


『いや、人が入るタイプだ、迷宮ではないが図書館の中はかなりの大きさらしい』

『持ち運べるからゴーレム型かと思ったにゃん』

『ゴーレム型ではないが、封印されてるだけあって誰でも入れるわけではないそうだ』

『その噂は聞いてるにゃん』

『中途半端な術者が本物の封印図書館に入ろうとすれば命を落とす』

『にゃあ、そこまでカリカリにチューンナップされてる拡張空間だったら入るのにも魔法が必要なのは当然にゃん』

『そうか、私は拡張空間には疎いのでわからなかったが、それが第一関門だ』

『にゃあ、それだけなら入るのはそう難しくないにゃん、ユウカはさっき本物の封印図書館と言ったにゃんね、偽物があるにゃん?』

『偽物とまではいかないが、本物でも無い』

『どういうことにゃん?』

『王宮の封鎖区域に宮廷魔導師たちが集めた禁呪が収蔵された書庫がある。存在が囁かれてる封印図書館とされる場所だ』

『都市伝説の元にゃんね』

『そうだ、そこですら封印を突破するには高位の宮廷魔導師程度の力を要求される』

『本物じゃなくても十分にそれっぽいにゃんね、それで本物はどこにあるにゃん?』

『ケイジ・カーターの話では、本物はその王国製の封印図書館の中に隠されているらしい』

『にゃあ、偽の封印図書館の中を探さないといけないとか本物に入るのは面倒な手順が多そうにゃん』

『当然だ、侵入を拒絶するための封印だからな』

『そうだったにゃんね、実際、どれぐらいの人間が入ったにゃん?』

『彼の知るところでは、彼以前に本物の封印図書館に入れたのは兄弟子だった人間ただひとりだそうだ』

『にゃあ、その兄弟子は転生者にゃん?』

『いや、そうではないらしい、彼いわく真の天才だそうだ』

『真の天才に封印図書館とは最悪な組み合わせにゃんね』

『その人物に関しては、封印図書館に入っただけで満足したそうだ、禁呪には触れてないらしい』

『にゃあ、その人はいまも生きてるにゃん?』

『いや、封印図書館から出て数日後に何者かに刺殺されたそうだ、封印図書館に入ったことを知った王宮関係者が始末したのだろう』


 当然といえば当然の措置か。


『にゃあ、ケイジ・カーターは封印図書館に入ったのに殺されなかったのは何故にゃん?』

『それは彼の意思ではなく、先代の国王に調査を命じられて入ったからだ』

『にゃ、前の王様の目的は何だったにゃん?』


 世界征服でもするつもりだったか?


『建前は世の安寧のためだ』

『本当の目的はなににゃん?』

『不死の研究だ、当時の国王は死病の床にあったらしい、そこははっきりとは話してくれなかったが』


 王様の容態の方が封印図書館よりも機密度が上なのだろうか?


『王命でケイジ・カーターは一人で封印図書館に入ったにゃんね?』

『いや、彼を含め五人の宮廷魔導師が入ったそうだ』

『五人も入ったにゃん?』

『二人が進入時に命を落とし、中で一人が死亡した』

『封印図書館の中も危ないにゃんね』

『さらに脱出時にもう一人が死亡し、彼だけが生還した』

『ケイジ・カーターもまた狂気に取り憑かれていたにゃんね』

『そうだ、誰もまともな生還は果たせなかった』

『にゃあ、先代の王様が探していた不死の魔法は有ったにゃん?』

『あったそうだ』

『にゃ、あったにゃん!?』

『不死者となった先王は、いまだ城内をさまよっていると聞く』

『それは本当にゃん?』

『あくまで噂の域だが、目撃例は多い』

『それって幽霊と違うにゃん?』

『半エーテル体だろうな』


 不死と言えば不死か。どこまで理性が残ってるかは謎だが。


『カズキに聞いたが、マコトは人を特異種にする魔法が封印図書館にあると睨んでるそうだな?』

『そうにゃん、オレが確認した違う二つの刻印の魔法式がほぼ同じものだったにゃん』

『それだけで封印図書館から流失したと決めつけるのは乱暴じゃないか?』

『にゃあ、魔法式だけならそうにゃん、でもそれを行使する人間のことを考えると宮廷魔導師は外せないにゃん、その宮廷魔導師の知識の源の在り処を考えると封印図書館という解はそれほど突飛な考えではないと思うにゃん』

『そして、その魔法を行使した人間がケイジ・カーターだと疑っていたわけか』

『にゃあ、でもそれはカズキにも否定されたにゃん』

『人間の特異種を作った一人目の事例が三〇年前だとすると確かに彼ではない、当時の彼は温厚な紳士で封印図書館にも入っていない、それは私からも言える』

『次に危惧してるのが、オレたちの知らないイカレた転生者がいるのではないかということにゃん』

『マコトはそいつが彼を特異種にしたと考えてるのだな?』

『にゃあ、そうにゃん、転生者であればおかしくなる前のケイジ・カーターと接触するのはそう難しくはないはずにゃん』

『彼が特異種になったとすれば、人が変わった様の説明が付くが、やはり封印図書館が原因だと私は思ってる、ただしもう一人の転生者の存在を否定する証拠もないな』

『転生者かどうかは置いといても、イカレた魔法使いがいるのは間違いないにゃん』

『三〇年前の事例を考えるならそうだろう、マコトの推測どおりそのイカレた魔法使いが使うオリエーンス連邦時代の禁呪の出処も封印図書館が第一候補になるだろう』

『にゃあ、本物の封印図書館の事を教えて欲しいにゃん』

『教えるのはいいが、絶対に入るなよ、マコトがイカれたら人類が滅ぶ』

『大げさにゃんね』

『いや、マコト一人にだって手に負えないのに、ほぼ同じ力を持つ猫耳たちまでいるのだから、王国を滅ぼすことでさえ容易いはずだ』

『にゃあ、オレたちはそんなことはしないにゃん』

『十分わかってる、マコトが人を殺すことを厭う気持ちを持ってるのも知っている、だからこのまま良い方向で進んで欲しい』

『それを邪魔してるのが、今回の黒幕にゃん』

『今回の魔法使いも宮廷魔導師に近い人間でオリエーンス連邦時代の高度な禁呪を操るとなれば、封印図書館が魔法式の出処と考えるのは自然か』

『だからオレは真の封印図書館について知りたいにゃん』

『料金は貰ってるわけだし話さないわけにはいかないか』

『そうにゃん、持ち逃げは厳禁にゃん』


 ユウカが本題に入った。


『封印図書館は三つの階層からなる』

『にゃあ、気が遠くなるほどの拡張空間にゃんね』

『だろうな、第一層はごく普通の記憶石板が置かれているそうだ、普通と言っても記憶石板の中身はいずれも人の尊厳を踏みにじる禁呪の数々だ』

『にゃあ、第一層でもかなり危険なモノが転がってそうにゃんね』

『それは、間違いない、いずれもオリエーンス連邦の時代さえ危険とされていたものらしいからな』

『人を特異種にする禁呪もそこにありそうにゃん』

『ああ、あるとしたらそこだろう』

『第一層でそれなら第二層は何になるにゃん?』

『第二層は記憶石板ではなく、魔法式がそのまま空間を漂っているそうだ、ここに収められているのは国を滅ぼす禁呪らしい』

『空間を漂う魔法式に国を滅ぼす禁呪にゃん?』

『彼からはそう聞いた』

『にゃあ、それって空中刻印と違うにゃん? 国を滅ぼす禁呪ならオレは大公国とアポリトで見てるにゃん』

『空中刻印か、カズキ経由で私も映像を見せて貰ったが、確かにそれがそのまま収められてるのかもしれない』

『にゃあ、大公国とアポリトの国を滅ぼす禁呪の元ネタもそこから出た可能性があるにゃんね』

『あれは大公国とアポリトも遺跡に火が点いただけではないのか?』

『にゃあ、少なくとも遺跡を復活させる知識と魔力が必要にゃん、代々伝わってるとは言っても何処まで本当かはわからないにゃん』


 大公国の第一公子の憂国の念は疑いはしないが、あの無理心中みたいな暴走は彼が望んでいたものだったのだろうか?

 それに大公国では成立から現在に至るまで何度か政変があり、大公の系統はその度に断絶してる。故にあの禁呪が代々伝わったという話はかなり怪しい。


『最後の第三層には何があるにゃん?』

『第三層には九人の魔女の首があり、その中に人の世を滅ぼす魔法が記憶されてるらしい』

『魔女の首にゃん?』

『そうだ、首だ』

『人の世を滅ぼす禁呪とは、ずいぶんと物騒なモノを作ったにゃんね、しかも生首に記憶って趣味が悪いにゃん』

『そんなものを作ったからオリエーンス連邦は滅んだのだろう』

『さもありにゃん』


 オリエーンス連邦は歴史から突然消え去っている。文明も著しく後退しエーテル器官を管理する技術も失われ、本来なら初期に簡単に治せるはずの彫像病が死病となった。

 人の世が完全に滅んだわけじゃないから、まだ行使されていないのかもしれないが、人類はそれに近い経験をしている。


『にゃあ、その魔法が実際に使われたかどうかはわからないにしても、禁呪の研究が良い結果をもたらさなかったのは事実にゃんね』

『まったくだ』

『にゃあ、ケイジ・カーターを狂わせた魂の再生も第一層の魔法っぽいにゃんね』

『そうらしい、そのレベルの魔法でも王国には大きなキズを負わせた』

『魂の再生は成功したにゃん?』

『いや、失敗に終わっている。彼は五年に亘って約三〇〇人からの子供を殺した果てに自滅した。表向きは私とカズキで討ったことになっているが、最後の彼は廃人と言っていい状態だった』

『にゃお』

『マコトの探してる三〇年前に特異種を造り出した魔法使いだが、私は既にこの世にはいないと思ってる』

『死んでるってことにゃん?』

『そうだ、ケイジ・カーターの研究では、オリエーンス連邦の時代の禁呪は術者の精神に多大なる負担をかけ、やがては崩壊させる。つまり頻繁に行使していたなら、彼と同じ末路をたどっていることになる』

『転生者でも精神が削られるにゃん?』

『ケイジ・カーターは私の知る転生者の中でも最高の魔法使いだった。彼をしても自ら導き出した推論を否定することは出来なかった』

『確かにオレが知ってる禁呪の実行者は死んでるにゃんね』


 フルゲオ大公国の第一公子デフロット・ボワモルティエ。

 アポリト州の領主ファビオ・カンデイユ伯爵。

 どちらも第二階層相当の魔法を行使して死んでる。


『マコトの話では、わざわざ人を特異種にする実験を行ってるわけだし、そう時を置かずに限界に達したはずだ、その手の人間は他人の命に無頓着だが、自分の命に対しても同じことが言える』

『にゃあ、死んでくれてるとオレとしてはありがたいにゃん』

『三〇年前の人間が生きていて、しかも今回の黒幕の正体だとしたら最悪だが、可能性はかなり低いだろう』

『そう願うにゃん、オレもケイジ・カーター以上の化け物とやり合いたくないにゃん』

『それでも現在進行形の事件にオリエーンス連邦の禁呪を使ってる人間が絡んでいるのは間違いないわけだ』

『にゃあ、紛れもない事実にゃん』

『その人間は少なくとも封印図書館の第一層を攻略してる可能性が高い』

『そうなるにゃんね、例え他から知識を得たとしても封印図書館を攻略した人間と同等の危険性を持ってるにゃん』

『マコトはそいつも宮廷魔導師に紛れ込んでると考えてるわけだ』

『木を隠すには森の中にゃん、少なくとも実行犯は宮廷魔導師で決まりにゃん』

『宮廷魔導師だけで三〇〇〇人いるが、地道にひとりずつ当たるしかないな』

『にゃあ、王宮でも犯人探しをしてるらしいにゃんね』

『既に数名の魔導師が拘束されてるが、毒薬を作って小遣い稼ぎをしていた低ランクの者だ、実際には今回の件とは無関係のスケープゴートだ』

『にゃあ、本気で探してないにゃん?』

『最初から白旗を揚げてるようなものだ。封印図書館に出入りしてるランクの魔法使いをそれよりも低ランクの魔導師にあぶり出せるわけがない』

『それもそうにゃんね』

『王宮の捜査に期待しても無駄だぞ、どうせ派閥間の争いの道具に使われて終わりだ』

『王族が襲われてるのに危機感が無いにゃんね』

『王宮の法衣貴族どもからしたら王族なんていくらでも換えの効く存在だ、自分の身に火の粉が降りかからない限り本気で動くことは無い』

『ずいぶんと冷めてるにゃんね』

『余計なことをすれば足をすくわれかねないからな、それに今回の黒幕が権力を把握するなら、抵抗すること無くそちらになびくだろう』

『それが生き残るためにゃんね』

『代わりに今回は国王派の貴族が動いてる、黒幕にはたどり着かないにしろ彼らなら実行犯の一部ぐらいは捕まえられるだろう』

『にゃあ、国王派の貴族にゃんね』

『マコトもその一員だったな』

『にゃ、オレは入会届にサインした覚えはないにゃんよ』

『マコトが出さなくてもアーヴィン・オルホフ侯爵が出している、それにハリエット・ベッドフォードを救った時点でサインしたも同然だ』

『にゃあ、それはぜんぜんわからなかったにゃん』

『元はと言えばアーヴィン・オルホフ侯爵を安易に接触させたカズキの不始末だ、あいつは自分の身内以外には無関心だから困る、私にマコトの存在を教えたのもウチのバカどもが捕まった後のことだ』

『にゃあ、そんなこともあったにゃんね』

『カズキがのほほんとしてるせいで、危なく私は稀人と事を構えることになりそうだったのだから勘弁して貰いたい』

『今回の黒幕も相当ヤバいにゃんよ』

『ああ、十分に理解している。マコトと違って話の通じる相手でも信頼を寄せられる相手でもないから、最終的には敵対せざるを得ないだろう、自滅してくれるならそれに越したことはないが、幸運はそう何度も訪れないか』

『にゃあ、オレもいま直ぐの自滅は有り得ない気がするにゃん』

『時間的にまだ理性をたもって実験を続けてる頃合いか』

『今度の黒幕も実験をしてるにゃん?』

『ハリエットも王女も簡単に殺せるのに、あえて過大な魔法を繰り出してるのだ、実験以外に何がある?』

『そうにゃんね』

『それに大公国にアポリトの件か?』

『にゃあ、少なくともいずれも第二層相当の知識を持つ者が絡んでたと思うにゃん』

『まったく無関係かもしれないが、その可能性は低いだろう』

『オレもそう思うにゃん』

『第二層の魔法まで成功させたなら、次の実験は第三層の魔法か?』

『黒幕の目的が魔法の行使ならそうにゃんね、第三層となれば、第二層以上に大掛かりな仕掛けが必要になるにゃん、だから簡単には行使できないはずにゃん』

『私も警戒は密にしよう』

『頼むにゃん、それと第三層の魔法についてはオレが直接、封印図書館に出向いて調べた方が良さそうにゃん』

『マコト、頼むからそれはヤメてくれ』

『心配しなくても、オレなら子供をさらったりしないで実験が可能にゃん、それにいまさら愚かな人類に鉄槌にゃん!とか面倒くさいことはしないにゃん』

『その余裕を維持できる保証はないぞ』

『にゃあ、封印図書館にたぶらかされるようではオレもそれまでってことにゃん』

『だからって、とばっちりを受ける身にもなってみろ』

『オレにすべてをなげうってでも欲しいものがあれば、付け込まれる隙があるかもしれないにゃんね』

『マコトの場合、自力で何とかしそうだが』

『にゃあ、そうにゃんね、封印図書館の禁呪なんて微妙なモノは頼らないにゃん』

『それが正解だろう』

『まったく、オリエーンス連邦の連中は余計なモノを残してくれたにゃん、危ないと思ったらぶっ壊して欲しかったにゃん』

『壊そうとしたことは何度かあったようだ』

『でも、ダメだったにゃんね』

 現物が残ってるわけだから。

『ケイジ・カーターによれば、改変拒絶の結界で守られてるらしい、世界が滅んでも封印図書館だけは残るレベルだと言っていた』

『それは興味深いにゃんね』


 にゃあ、オレの厨二心が刺激されるにゃん。


『封印図書館の碑文には「我を滅ぼせ」とあるそうだ』

『にゃあ』


 格好いいにゃん。


『入るかどうかは置いといて、そんな危ないものはオレがかっぱらって来るにゃん』

『マジか?』

『マジにゃん』

『マコトみたいな常識はずれの格納空間を持っていれば可能か、黒幕もそれは出来なかったはずだ』

『黒幕も封印図書館で狂気に取り憑かれたのかもしれないにゃんね』

『ああ、十分ありうる推測だし、もしそうなら準備が整えば第三層の魔法でもヤツは躊躇なく行使するだろう』

『そうにゃんね』


 オレもユウカの推測に同意した。


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