地下に潜む蜂にゃん
○レークトゥス州 北東部 ワインの醸造所
オレたちを乗せたジープは生存者のいる集落に到着した。
「お館様、結界内の洗浄完了にゃん」
結界の外で待ってる第二班の猫耳たちから報告を受ける。
「にゃあ、了解にゃん、これから結界の中に突入するにゃん」
「「「にゃあ!」」」
ジープを集落の中心に向けて走らせる。
「このまま浄化するにゃん」
ジープを走らせたまま聖魔法で犠牲者たちを天に還した。
集落の中心に立派なワインの醸造所があった。これが地球のワイナリーと同じかは良く知らないが生存者も蜂もここの地下にいる。
オレたちの気配を察知して六歳児のオレよりも大きな蜂がワインの地下貯蔵庫に続く階段から這い出して来た。
「にゃあ、お出ましにゃん」
前と違ってこちらの個体は羽根も問題ない、単に隠れてる人を食べたくて粘っていただけの様だ。
羽根を広げ羽ばたかせる。間近でよく見るとスズメバチよりもミツバチに形が近い。蜂の身体が浮き上がる。
「にゃあ、そうはさせないにゃん」
飛び立つ寸前に銃で蜂の頭を撃ち抜き、その場に落とす。
「地下に突入にゃん!」
「「「にゃあ!」」」
「俺たちも行くぞ」
チャドがジープから飛び降り、他の車両に乗った騎士たちも続く。
「ガスが出ると危ないからオレたちの後から頼むにゃん」
「わかってる」
ワインの地下貯蔵庫に猫耳たちと潜り蜂を一匹ずつ始末しながら進む。
電撃でまとめて屠りたいところだが、人がいる狭い空間では絶対に安全とは言えないので一匹ずつ銃を使う。
「瘴気は効かないにゃんよ」
仲間を突き刺して瘴気を発生させるが、既に地下貯蔵庫内ではオレたちの洗浄魔法が常時発動状態なのでガスは発生する端から無効化される。
五分と掛からずワインの地下貯蔵庫にいた一〇匹の蜂を全て排除した。数の少ない軍隊蜂などオレたちの敵ではない。
「にゃあ、もう出て来て大丈夫にゃんよ」
人のいる方向の壁に向かって声を掛けた。
「「「……っ」」」
壁の向こうで人の声が聞こえた。
ゴゴゴっ!と重い音がして石を積んだ壁そのものがスライドした。隠し扉はロマンかもしれない。今度オレも作ってみよう。
壁に偽装した扉にはささやかな防御刻印が施されている。これが隠れていた人たちを瘴気から守っていたのだろう。いい仕事にゃん。
「あなた方は?」
顔を出したのは酷くやつれた初老の男性だった。
「にゃあ、瘴気の洗浄を請け負った者にゃん、蜂は始末したから出て来て大丈夫にゃんよ、それと亡くなった人は先に送ったので悪く思わないで欲しいにゃん」
「ああ、やはりあの魔法は聖魔法でしたか」
「にゃあ、そうにゃん、瘴気の苗床にされたので回収は不能だったにゃん」
「いえ、聖魔法で送っていただいたなら文句などございません、ありがとうございました」
隠れ家となった扉の向こうからも「ありがとう」と聞こえた。
それと人々のすすり泣く声。
「蜂はすべてここにいるマコトたちが倒してくれたから、ここから出ていいぞ」
「騎士様までありがとうございます」
状況説明などはチャドたち騎士団の面々に任せてオレたちは外に出た。
『にゃあ、お館様大変にゃん!』
ベルマディ市に向かった猫耳から念話が入った。
『どうしたにゃん?』
『ベルマディ市の地下墓地に生存者は無かったにゃん、その代わりに蜂が二〇〇匹もいるにゃん』
『にゃ、蜂が二〇〇匹にゃん!?』
危なく声が出そうになった。
『何で軍隊蜂が二〇〇匹も地下墓地にいるにゃん?』
現地にいる猫耳たちに問い掛ける。
『にゃあ、探査した結果、卵があるから巣を作ってるみたいにゃん』
『女王蜂は撃ち落としたのに別の個体が現れたにゃん?』
『ここで卵を産んで臨時に子供を育てる場所を確保したみたいにゃん、軍隊蜂の生態はよくわかってないから、これも推測にゃん』
『にゃあ、すると地下墓地には蜂二〇〇匹とかなりの数の卵があるにゃんね』
『卵は軽く一〇万はあるにゃん』
『これはケラス領内も探索した方がいいにゃんね、似たような巣がある可能性を否定できないにゃん』
『にゃあ』
『こちらネオケラス拠点了解にゃん、直ぐにドラゴンゴーレムを飛ばしてケラス領内の軍隊蜂の進路上を探索するにゃん!』
直ぐにネオケラス拠点から念話が来た。
『にゃあ、頼むにゃん』
「オレたちは直ぐにベルマディ市に行くにゃん、軍隊蜂の巣が見付かったにゃん」
念話を終えたオレはチャドたちに声を掛けた。
「軍隊蜂の巣だと!?」
「にゃあ、チャドたちは危ないからここに残った方がいいにゃんね、オレたちは直行するにゃん」
オレはジープに乗り込んだ。
「マコト、俺も行くに決まってるだろう! 領民の保護は騎士団の使命だ!」
「にゃあ、残念ながら生存者はいないにゃんよ、いるのはベルマディ市の地下墓地に巣食ってる二〇〇匹の蜂だけにゃん」
「二〇〇匹だろうがなんだろうが俺は行くぞ! 軍隊蜂の脅威を取り除くのも騎士団の仕事だ!」
「わたくしも行きますわ!」
チャドに続いてロマーヌも乗り込んだ。
「当然です、アーヴィン様の守護騎士が蜂ごときに負けるわけには行きません」
エラも続く。
「我々も同行させて下さい」
ガスパールそれに騎士たちも同行を希望した。
「にゃあ、わかったにゃん、でも危ないから気を付けるにゃんよ」
五月蝿いぐらい念を押して車をベルマディ市に向けてジープを出した。
○レークトゥス州 北東部 州道
猫耳ジープを飛ばし、また途中の集落は走りながら洗浄と浄化を行い魂を送る。結界が間に合ってない集落を浄化するのも緊急を要する事案なのでお行儀が悪いが速度優先でやらせてもらう。
「マコトたちは魔法車に乗ったまま洗浄と浄化が出来るのか?」
「にゃあ、前半でもこうしないと間に合わなかったにゃん」
「素晴らしいです! 是非その魔法式のプロセスをお教え下さい!」
ロマーヌがオレに飛びついた。
「にゃ!?」
「マコト、こいつは車から降ろしていいぞ」
チャドが興奮した妹を押さえる。
「兄様、何を仰ってるんですか!?」
「マコトたちの仕事を邪魔したら追い返すと約束したはずだぞ」
「あっ、ああっ、申し訳ございません、マコト様方の魔法の素晴らしさに感動してつい身体が勝手に動いてしまいました」
「まあいいにゃんよ」
これが知らないオッサンに抱き着かれたら、迷わずぶっ飛ばしてたけどな。いや、知ってるおっさんでもぶっ飛ばしてるか。
ロマーヌが騒いだぐらいでオレたちはベルマディ市に到着した。
○レークトゥス州 北東部 ベルマディ市
「状況はどうにゃん?」
街の入口を守る先行した猫耳たちに尋ねた。
「にゃあ、洗浄は完了にゃん、蜂は全数地下墓地にいるにゃん」
「聖魔法は地上だけに掛けたにゃん」
「にゃあ」
「それでいいにゃん、地下の保存されてる遺体まで勝手に天に送るのは問題にゃん」
「いや、問題ないだろう」
チャドが話に割って入った。
「チャドは他人事だと思って簡単に言うにゃんね」
「いいえ、兄様が適当に言ってるわけでは有りません、地下墓地は聖魔法で送ってもらうための一時的な保管場所なのです」
ロマーヌも教えてくれる。
「いつか流しの気前のいい聖魔法の使い手が来るのを待ってるんだ」
「にゃ、どこかの聖魔法の使い手と契約してるとかじゃないにゃん?」
「余計な出費はしたくないレークトゥス人の気質だからな、ただでやって貰うのが最上と考えてる」
「気が長い話にゃんね、それに地下墓地を作るコストを考えるとあまり安上がりじゃない気がするにゃん」
「いや、地下墓地のほうが安い、かなり安いぞ」
聖魔法と名前が付いている割にメチャクチャお高いにゃんね。
「だいたい、流しの気前のいい聖魔法の使い手なんて本当にいるにゃん?」
「私の目の前にいるマコト様がそうですね」
エラがオレを見る。
「わたくしもそう思いますわ」
ロマーヌも同意する。
「奇遇だな、オレもだ」
エラとロマーヌとチャドがそろって頷いた。
「わかったにゃん、流しじゃないけど地下墓地の人たちの願いを叶えるにゃん」
「いいぞ、地下墓地を空っぽにしてやってくれ」
「にゃあ、おまえら、行くにゃん」
「「「にゃあ!」」」
地下に生存者がいないのが確認されたので、オレと猫耳たちで遠慮なしの聖魔法を地下墓地に叩き込んだ。
稲妻のような青い閃光が弾け地下墓地に収められた一〇〇〇体近い遺体+良くわからないものが一瞬でエーテルに分解される。
そして地下墓地に沈殿していた魂が光の粒子になって螺旋のダンスをしながら地面から湧き出しそのまま天に還った。
なんか良くわからないものも一緒に昇天した。
「こいつはまた見事なものだな」
「ええ、これまでとは違った色の光ですね」
チャドとガスパールが空を見上げる。
「あれは年古りた魂の色ですわ、マコト様たちの強力な聖魔法がなかったらまず天には還れなかったはずです」
ロマーヌが解説してくれた。
「これで残りは軍隊蜂と卵だけになったはずにゃん」
「どうされます、ここは一気に焼き払うのが良いかと思いますが」
「にゃあ、エラの意見ももっともにゃん、でも地下で軍隊蜂を焼き払うほどの火を使うと墓地の天井が抜ける可能性があるにゃんよ」
「地下墓地の天井が抜けるのはやべえな、ベルマディ市の中心部が陥没すると復旧が年単位で遅れるぞ」
「にゃあ、ここもデカい魔法は使わないでオレたちが普通に銃で狩るにゃん」
オレは銃身が短めの小銃を再生する。
「俺も参加していいか?」
「ここはダメにゃん、さっきと違って蜂の数が多いから濃い瘴気を発生させる可能性があるにゃん、洗浄が間に合わなかった場合に備えて単独でガスを防げる防御結界を張れないと危険すぎるにゃん」
「瘴気を防げるクラスの防御結界となると持ってるのは宮廷魔導師でも中級以上ですから、兄様には無理ですわね」
「言われなくてもわかってる、仕方がない、蜂どもを片付けたら呼んでくれ」
「了解にゃん」
猫耳たちも銃を装備する。
「にゃあ、突入するにゃん!」
「「「にゃあ!」」」
地下墓地の全ての入口からオレと猫耳たちが飛び込んだ。
ダンジョンのような構造の地下墓地を半エーテルの弾丸を撒き散らしながら進む。
軍隊蜂だけに組織だった動きをするが、やはりまともに飛ぶ空間の無い地下墓地の中ではあまり効果的じゃなかった。
天井に張り付いてるのもいたがオレたちにとってはただの撃ちやすい的だ。
狭い場所で戦うなら魔法蟻ぐらいの機動力が欲しい。
何を思ったか飛び上がって羽根を壁に接触させて仲間の上に落ちて喧嘩を始めるヤツもいるし。オツムは今ひとつらしい。
「にゃあ、また仲間に毒針を突き刺してガスを発生させたにゃん」
猫耳からの報告と同時に浄化される。
もしかして軍隊蜂は単に数が多いから組織だって動いてる様に見えただけか?
「とにかく殲滅にゃん!」
「「「にゃあ!」」」
銃をフルオートで撃ちまくってほんの数分で蜂を残らず始末した。
二〇〇匹の蜂を全て回収し、ガランとした地下墓地にはおびただしい数の蜂の卵が残された。白くて半透明でラグビーボールに形も大きさも似ている。それが床を埋め尽くしていた。
「卵だけに食べられないことも無さそうにゃんね」
「美味しいの?」
美味の探求者リーリがオレの胸元から這い出す。
「さっきまで地下墓地のミイラ化した死体にくっついていた事を忘れられればにゃん」
「あたしは大丈夫だよ」
「にゃあ、後で何か作ってみるにゃん」
「約束だよ」
『にゃあ、お館様、蜂の卵は研究拠点に送って欲しいにゃん』
研究拠点の猫耳から念話が入った。
『にゃあ、了解にゃん』
研究拠点からリクエストが入ったので卵を回収するために魔法蟻を三〇〇ほど再生する。再生された魔法蟻たちは、せっせと箱に卵を詰めて新たに作ったトンネルに運び込む。生きてる卵は格納空間に入らないので仕方がない。
魔法蟻たちにはまずはここからケラスまでトンネルを掘り、そこから既存の経路で研究拠点まで箱を運ぶことになる。レークトゥスの地下も近いうちに魔法蟻たちのトンネルだらけになるだろう。
「おお、綺麗に片付いたな」
すべての魔法蟻たちが出来たてのトンネルに下りて蓋をしたところでチャドたちを呼んで来た。
「にゃあ、また何百年か使えるにゃん」
「いや、地下墓地はもういいだろう、いろいろ問題になってたからな、手の付けられない幽霊が出るとか」
「良くわからないモノもさっき一緒に天に還ったにゃんよ」
ここは聖別された空間になっている。
「でもこのままにしとけばまた何か良くないものが棲み着くんじゃないか?」
「にゃあ、それはあるかもしれないにゃん、予防するなら埋めるのが確実にゃんね、それと金貨がこんなに有ったにゃん」
金貨を入れた革袋を差し出す。
約三〇〇枚だ。
金貨は天に還らなかったのでそのまま残されていた。
「そりゃ聖魔法代だからマコトが受け取ってくれ」
「にゃあ、わかったにゃん」
地下墓地はチャドの希望で埋め戻した。
「にゃあ、次に行くにゃんよ!」
「おお!」
○レークトゥス州 北東部 州道
オレたちはまた二手に別れて浄化と聖魔法で集落を解放する。
とにかく集落が点在してるので実際には一〇台の猫耳ジープがバラけて縦横無尽に走り回って作業を続けた。
「ほとんど五~六軒の集落にゃんね」
全部がやられたわけじゃないのは不幸中の幸いだが、狙われた集落はほとんどが全滅だった。畑に出ていて難を逃れた人やその逆もある。
生き残った人たちは聖魔法を使うオレたちに感謝してくれた。オレたちに出来るのはそれぐらいしか無いのが心苦しい。
○レークトゥス州 北東部 州道 野営地 ロッジ
暗くなってからオレたちは合流してほとんど使われてなかったらしき野営地を軽く手入れをしてからロッジを出した。
その様子に興奮しすぎたロマーヌが貧血を起こして座り込んだ。
「悪いな、マコト」
治癒魔法を使うオレにチャドが謝る。
「兄妹だけあって芸風が似てるにゃん」
「いや、俺はもう少しわきまえてるぞ」
「「「……」」」
「おまえら、なに黙り込んでるんだよ!」
ロッジは猫耳の希望があって三つだけ再生した。
チャドとガスパールたち騎士団で一つ。
エラとロマーヌで一つ。
そしてオレとリーリと猫耳たちで一つだ。
「おまえら、狭くないのか?」
「「「それがいいにゃん!」」」
チャドの疑問に猫耳たちが声をそろえた。
「防御結界に探知結界を張ってあるから不寝番は不要にゃん、それ以前にこの辺りには人も獣もいないにゃん」
「それもまた寂しいものだな」
「瘴気の影響が消えたらすぐに人も戻ってくるはずにゃん」
「そう願いたいぜ」
「にゃあ、そこはチャドたちの腕の見せどころにゃん」
「お、おう、そうだな」
「マコト様、ロッジの中の魔導具を調べてもよろしいでしょうか?」
ロマーヌがオレに許可を願い出た。
「にゃあ、壊さない程度に頼むにゃん、それと市場価値的なところはエラに聞くといいにゃん」
「エラにですか?」
「既に査定を終えてるはずにゃん」
「……」
エラは視線を逸らすが否定もしなかった。
「にゃあ、今夜はしっかり休むといいにゃん、また明日にゃん」
猫耳に抱っこされたオレはそのままロッジに運ばれて行った。
ブラッドフィールド傭兵団の団長ユウカ・ブラッドフィールドから念話が入ったのは、猫耳たちとロッジのリビングに雑魚寝してウトウトし始めた頃だった。




