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街道を行くにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇四月二一日


 ○プリンキピウム街道


 翌日の昼過ぎ、ついにプリンキピウム巨木群を抜けた。

 それでも森であることには変わりない。

「にゃあ、やっと普通の木になったにゃん」

 ほっとする。オレの常識から著しく異なる場所に身を置くのは思いの外ストレスだったみたいだ。

「いや~、これでも相当早く抜けられたよ」

「そうなのです、乗合馬車だと時間を合わせる関係もあって巨木群の中でもう一、二泊なのです」

 キャリーとベルが教えてくれた。

 夜の走行が命に関わるとすれば、慎重に進めるのは当然だ。

「乗合馬車はオレには無理そうにゃん」

 乗り心地の悪そうな馬車に一日じゅう座ってるのはキツい。しかもそれが連日ではお尻が死ぬ。

「巨木群を抜けてもまだ森にゃんね」

 森が何処までも続いている。

「本格的な森林は、ここまでだからもうちょっと走れば小さな村が見えて来るよ」

「にゃあ、州都までの半分は無人の森林にゃん?」

「そうなのです、ここからプリンキピウムまではほとんど無人なのです」

「うん、人はいないね」

「此処から先はいるにゃん?」

「多くはないですが、それなりにいるのです」

「いくつか村や町があるから少しずつ交通量も増えて来るよ」

「途中で渋滞したりするにゃん?」

「この先で待たされるとしたらオパルスの門ぐらいじゃないかな?」

 オパルスは州都の名前だ。

「プリンキピウムとは違うにゃんね」

「単に人の少ない場所なんて、珍しくもなんともないのです」

「州都は多いにゃん?」

「うん、他の州と比べても多いらしいよ」

「座学で習ったのです」

 王国軍の教育はなかなかしっかりしているみたいだ。

「にゃあ、本当にゃん、人家が見えて来たにゃん」

 人家、それに畑が見えた。

 ヨーロッパの農村を思わせる雰囲気だ。

 やはり日本の農村とは違ってる。

 建物は石とレンガと木で出来ており、どれも年季というか歴史を感じさせた。

「にゃあ、農村はだいたいこんな感じにゃん?」

「そうだね、ヤギを飼ってたりするところはちょっと違うかな」

「牧畜にゃんね、この辺りは何か飼ってるにゃん?」

「森が近いからないんじゃないかな?」

「家畜は危険な獣を呼び寄せるのです」

「にゃあ、獣にゃんね、確かに森が近いから危ないにゃんね」

 本格的な森林を抜けたとは言え、現代の日本人の視点からすると十分に森だ。

「まだこの辺りは、人より獣の方がずっと多いから」

「にゃあ、王都近辺には人がいっぱい住んでそうにゃんね」

「そうだね、城壁の中に一〇〇万人、外側に二〇〇万人いるらしいから、いっぱいと言っていいんじゃないかな」

「にゃあ、思ったよりいっぱいいるにゃんね」

 王国の首都だけあって人口はかなり多い。

「王都に人口が集中するのは、周辺の領地がそれだけ森に沈みつつあるからなのです」

「うん、座学で習った」

「魔獣の森が増えてるにゃん?」

「どちらかというと過疎化で普通の森になってるんだよ、人がいなくなれば直ぐに森に沈むからね」

 オレが住んでた地方だと人がいなければ草ボーボーになるぐらいで、森に沈むって感じでは無かった。

「普通の森でも一般の人には危険なのです、だから余計に住みづらくなるのです」

「にゃあ、確かに獣たちの半端なさったらないにゃん」

 森の獣は十分にモンスターだ。

 これがゲームだったらオレなんか相当、経験値が溜まったんじゃないか?

 残念ながらオレの中にシステム画面もアナウンスが響くこともない。そこはラノベみたいにはならないわけだ。

「冒険者も足りてないし獣と森が増えるのは仕方ないよ」

「足りてないにゃん?」

「足りてたら、私たちが軍人でも臨時の冒険者なんて出来ないのです」

「しかもマコトみたいにめちゃくちゃ強い冒険者はまれだからね」

「だから地方に行くほど獣は増える一方なのです」

「にゃあ、だったら遠慮無しで狩っていいにゃんね」

「問題ないよ」

「プリンキピウムだと買い取れる量に問題が有るのが厄介なのです」

「にゃあ、すると州都にはこの後も頻繁に行き来することになりそうにゃん」

「それもスゴいね」

「スゴいのです」



 ○プリンキピウム街道 野営地


 人家が珍しくない程度に見えるようになって、そこそこ交通量も増えたこともあって薄暗くなるまで進んで、無人の野営地にテントを張った。

「交通量は増えても野営地を使う人はいないにゃんね」

 オレたちのテントがポツンと建っている。

 街道は、飛ばし気味のボロい馬車が時折、ランプの光を揺らしながら行き来していた。

「ああ、いま街道を走っているのは地元の人たちじゃないかな」

「この時間に走っているなら大部分がそうなのです」

「にゃあ、なるほどにゃん」

「乗合馬車の人たちは村や町に有る宿屋に泊まるし、荷馬車の人たちも野営地は使わないんじゃないかな」

「ここから先の野営地は実質、金のない貧乏人専用なのです、それ以外は武装商人が好んで使うのです」

「武装商人、響きがかっこいいにゃん」

「そうだね」

 キャリーがクスクス笑った。


 夕食はクロウシを使ったメンチカツにキャベツっぽい野菜の千切り。芋も有ったからコロッケも作ってみた。

 前世のレパートリーがカレーと豚汁だけだったのがウソのようだ。

「これって魔法で作ったの?」

「教えて欲しいのです」

「にゃあ、魔法は魔法でも格納空間で作ったにゃん」

 テントのキッチンが手狭なこともあって、ほとんど格納空間で調理したからキャリーとベルには魔法で作ったみたいに見えたみたいだ。

「ああ、おいしすぎるよ」

「美味しいのです」

「熱いから気を付けるにゃんよ」

「「はい」なのです」


 テントなので今夜もキャリーとベルと川の字になって寝る。

 ふたりは直ぐに寝息を立て始めた。

 寝付きがいいのは軍人だからなのか?

 オレは布団の中に潜り込む。この全身くまなく包まれてる感じが心地良い。

 この世界、社会情勢は産業革命前辺りか?

 中世ほど暗黒っぽい感じはないしそこそこ流通が発達している。

 やっぱりもっと世界史を勉強しておくのだった。

 後悔先に立たずだ。

 ただ三〇〇万人規模の王都とか、地球の歴史と比べても意味は無いのかも。

 人の生活や価値観そのものはオレとそう違いはない。

 魔法が地球とは違った文明を創り上げたのだろう。

 それに先史文明の存在。

 文明が後退しても衛生の概念が大きく廃れてないのはうれしい限りだ。ボットン便所だけどね。



 ○帝国暦 二七三〇年〇四月二二日


 ○プリンキピウム街道


 翌日の風景は、これまでよりもずっと賑やかだった。

 街道の往来がさらに増え、州都から魔法馬で二日の距離はそれなりに発展しているみたいだ。

 ただ街や村は、街道から分かれる枝道の先に有るので、日本と違って道の両側に商店が軒を連ねるなんて風景は見られない。

 少なくとも畑や林を挟んでいる。鉄道の車窓から眺める田舎の風景って感じかな。人気があるだけ森よりずっとマシだ。

 交通量の割に屋台すらないので、昼間だけ道端でやったら儲かりそうな気がするけどどうだろう?

 そんな光景を眺めながらオレたちの魔法馬はパカポコといまにも分解しそうな荷馬車をぶち抜き順調に距離を稼ぐ。

 交通量が増えても王国軍の軍服を着たキャリーとベルのおかげでトラブルに巻き込まれることもない。

 ガラの悪そうな御者も目を逸らす。

 盗賊も出て来ない。

 ふたりが言ってた通り王国軍の兵士を狙うバカはいないみたいだ。

 宿屋を使わないので途中の町や村に寄らないのも無用なテンプレイベントを回避出来た要因かもしれない。



 ○プリンキピウム街道 野営地


「いよいよ明日はオパルスに到着だね」

 シャワーも夕食も終えたオレたちはテントの中でゴロゴロしている。

 今夜も当然、野営地でテントだ。

「このペースなら午前中のうちにオパルスの冒険者ギルドに到着しそうなのです」

「買い取りの時間を考えるとオパルスに一泊かな」

「そうにゃんね、夕方の出発は中途半端にゃん」

「ギルドの裏庭を借りて泊まるのです」

「オパルスの冒険者ギルドにもキャンプする場所があるにゃん?」

「有るよ、来る時に使ったから、プリンキピウムと違ってお金を取られるけど」

「にゃあ、お金を取られるならロッジを出しても構わないにゃんね」

「さあ、それは聞いてみないとわからないのです」

「そうにゃんね、キャリーとベルともう一泊出来てオレは嬉しいにゃん、腕によりをかけてごちそうを作るにゃん」

「「ごちそう!」」

 キャリーとベルの声が揃った。


 そろそろ寝ようかという頃に街道を走る馬車の音が聞こえた。


 州都の方向から来る。

「にゃ、こんな時間に馬車が来るにゃん」

 オレが最初に気付いた。

「夜なのに?」

「こっそり覗くのです」

 オレたちは明かりを消したテントの入口からこそっと街道を見る。

「確かに馬車と複数の魔法馬の気配があるのです」

「魔法馬は護衛かな?」

「にゃあ、馬車は全部で三台にゃん、一台に二〇人程度乗ってるにゃん」

「二〇人とはずいぶん乗ってるね」

「これは下手に関わるとマズいことになりそうな予感がビンビンなのです」

「にゃあ、来たにゃん」

 先行して二騎の騎馬。

 軽装だが剣を背負って顔が半分隠れる縞模様の入った変なヘルメットを被っていた。

 カエルの被り物に似てる。

 盗賊とも守備隊とも違っていた。

 続けて馬車が通り過ぎる。

「檻にゃん?」

 馬車というより檻だった。

 そこに二〇人の人間が詰め込まれてる。

 檻のような馬車が三台通り過ぎて、後衛の二騎も走り去りまた静かになった。

「いまのは近衛軍の兵士と犯罪奴隷だったのです」

「近衛軍と犯罪奴隷か」

 初めて見た犯罪奴隷は皆んなうずくまる様に座り込んでいた。

 暗かったがオレには彼らの額に刻まれた奴隷の紋章がはっきり見えた。

「近衛軍の騎士がいた事も併せて考えると、プリンキピウム遺跡の発掘が始まってるのは間違いなさそうなのです」

「遺跡の発掘には犯罪奴隷をいっぱい使うものね」

 遺跡の発掘のために犯罪奴隷とは言え死なせるのだから、人間の命が軽い。

「マコトは何が有っても近衛軍と名が付くモノに近付かないことをお勧めするのです」

「私もお勧めする」

「にゃあ、わかってるにゃん」

 ガチで戦っても負ける気はしないが、わざわざトラブルに近付く必要もないだろう。


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