ケラスに出発にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇九月十九日
○州都オパルス クリステル・オパルス・オルホフホテル 車寄せ
予定通り、ホテルの車寄せにケラス行きの車列が並ぶ。昨日完成させた六輪トラック四台に前後を走る猫耳ジープが四台。
「うわ~! おおきい!」
姫様がぴょんぴょん飛び跳ねる。
「「「おおきい!」」」
チビたちも一緒に飛び跳ねる。
『『『ニャア』』』
魔法車たちもチビたちに応えて鳴いた。
トラックはオリーブドラブで塗ったはずだが、いまは全車がパステルピンクになっている。当然、耳も完備だ。オレたちが取り付けたわけじゃないけど。
「マコト様の魔法車がこれほどのものとは思いませんでした」
魔法車の旅に懐疑的だったイライザも驚きを隠そうとしない。
「マコト様、馬車ではなく本当に魔法車でケラスに向かわれるのですね」
シャルロットを始めとする姫様の守護騎士見習いと魔法使いがトラックを見上げる。
「そうだよ、これで行くんだよ!」
リーリがオレの頭の上から返事をする。
「この魔法車は、スゴい防御結界を持っているのですね」
魔法使いのグリゼルダには感じ取れた様だ。
「「「そうなのですか?」」」
グリゼルダを見る四人の騎士見習いたち。
「盗賊程度だったら触れただけで跡形もなく消し飛んでしまうぐらい強力だと思う」
「「「ええっ!?」」」
「マコトの魔法車だからね、それぐらいは当然だよ!」
頭の上で仁王立ちのリーリが間髪入れずに威張る。
「にゃあ、実際には素っ裸になって気絶する程度にゃん」
「それもスゴいです、対象を裸にするだけでも何段階もの魔法式を行使しなくてはいけないのに」
感心したのは魔法使いではなく騎士見習いのエレオノーラだった。
「にゃあ、エレオノーラは魔法の知識があるにゃんね」
ギャルっぽい雰囲気だが実はインテリか?
「エレオノーラのお父上は宮廷魔導師をされているのです」
ユージニアが教えてくれた。
無口なクリスティーナがコクコク頷く。
「正確には家族の私以外が魔法使いなんです、だから自然と多少の知識が備わっただけで専門教育は受けてません」
「にゃあ、そういうわけにゃんね」
門前の小僧習わぬ経を読むだ。
「ほお、これはスゴいね、一台ボクのところにもくれない?」
カズキ夫妻もフリーダを連れてホテルまで見送りに来てくれた。
「にゃあ、カズキなら動かせるけど他の人は魔力的に無理にゃんね、それでもいいなら状況が落ち着いたら考えるにゃん」
「それで問題ないよ」
「エイハブに知らせたらケラスに姿を現しそうね」
クリステル奥様がいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「にゃあ、マジでヤメて欲しいにゃん」
何処まで本気なのかわからないがエイハブ博士だったら自分で情報を集めて勝手に現れそうな気がする。
そして素っ裸になって倒れてるところまでがお約束だ。
「ネコちゃんもたまには帰って来てね」
フリーダに抱っこされる。
「にゃあ、たまに顔を出すにゃん」
「ねっ、心配なんて要らなかったでしょう?」
「ああ、俺の予想を遥かに上回ってた」
アレシアの言葉にラルフが肩をすくめる。
「兄さん、昨日の夜、すごく心配してたんですよ」
アレシアが教えてくれる。
「いや、マコトの魔法車は馬車より小さかったからそこが気になってただけだ」
「にゃあ、流石にジープだけじゃ行かないにゃん、荷物は全部入ったにゃんね?」
「ああ、魔法車に全部詰め込んでもらった」
「四号車にゃんね」
四号車はパネルバンタイプになっていて、冒険者ギルドの魔法馬に荷物を詰め込んでいる。
「空間拡張であるな」
アーヴィン様も興味深そうに荷台を覗き込む。
「にゃあ、トランクもそうにゃんよ」
トラックの荷台の下にもトランクが装備してある。
「王国軍に配備されたら便利そうであるな」
「にゃあ、残念ながらカズキか猫耳クラスの魔力がないと動かせないにゃんよ」
「そうであったか」
アーヴィン様は残念そうだが、王国軍の綱紀粛正が行き届かないうちは毒になっても薬にならないと思う。
それ以前に魔力の話は本当なので魔法車の提供は無理だ。魔法車とコミュニケーションを取るにはそれなりの魔法使いであることが要求される。
「マコト様、本日よりよろしくお願いいたします」
アガサがふたりの若い男女を連れて来た。昨日言っていた従者だろう。
「後ろにいるのがアガサの従者にゃん?」
「そうです」
ふたりはうやうやしくお辞儀をする。
「バクストン・バセットと申します」
ロン毛ウエーブの金髪に装着する人を選ぶ上質な革の白いプロテクターを身に着けてる十八歳ぐらいの王子様系男子だ。
「バクストンは貴族にゃん?」
しかもかなり上級に見える。
「祖父が公爵ですが父も私もただの平民です」
「にゃあ、公爵様の孫はただの平民とは言わないにゃん」
「バクストンは財務担当の文官です、攻撃力防御力ともに皆無と思って下さい」
「お恥ずかしながら」
「にゃあ」
見た目そのままとも言える。
「マコト様、ジリアン・バデンと申します。護衛はわたくしが担当いたします」
こちらは十五ぐらいに見える女子で藍色の髪。
「にゃあ、魔法使いにゃんね、しかもかなり優秀みたいにゃん」
だから実年齢はもっと上だろう。
「お褒めいただき恐縮です」
「ジリアンも普段は文官として働いて貰っています」
「魔法使いの無駄遣いにゃん」
「やあ、バクストンとジリアンも一緒だね」
「おはようございます、マコト様」
お肌ツヤツヤのキャサリンとエラがアーヴィン様より後にやって来た。護衛が後でいいのか?
「にゃあ、おはようにゃん」
「うわ~この魔法車はスゴいね」
「マコト様は、戦争でもされるのですか?」
「いまのところその予定はないにゃん」
「これ、辺境伯殿に滅多なことを聞くでない」
アーヴィン様に注意されるエラ。
「申し訳ございません」
「マコトが戦争するんだったら戦車ぐらい出してくるんじゃない?」
今度はカズキに抱き上げられた。
「にゃ、せ、戦車なんて持ってないにゃん」
「えっ、もしかして持ってるの?」
「にゃあ、持ってないにゃんよ」
視線を逸らす。
「何か怪しいな」
「お父様、ネコちゃんをいじめてはダメです」
オレはカズキの腕からフリーダの胸の中に戻った。
「にゃあ、柔らかいにゃん」
フリーダの胸に頬を擦り付ける。
「ネコちゃん、くすぐったいよ」
「マコト……」
カズキの眉間にシワが刻まれた。
「にゃあ、カズキが怖いにゃん」
「もう、カズキ様ったら、またネコちゃん相手にヤキモチですか? そろそろ娘離れをしないとお嫁に出せませんわよ」
「いや、そういうわけでは……」
領主様はやはり奥さんには逆らえないのであった。
「にゃあ、ゲストは二号車に乗って欲しいにゃん」
一号車と三号車の荷台には猫耳が二〇人ずつと猫耳ゴーレムが五体ずつ乗ってる。
一緒に行きたいと言うのだから仕方ない。
「マコト、俺たちまで姫殿下と同じ車に乗るのか?」
「他も貴族様ばっかりだし」
ラルフとアレシアは困り顔。
「にゃあ、護衛役をしてくれればいいにゃん」
「おお、そうだな、護衛なら問題ない」
「私も護衛でいいの?」
「にゃあ、アレシアも冒険者ギルドの受付で培った審美眼で周囲を見張ってくれればいいにゃん」
「わかったわ」
本当は気楽にして欲しいのだが、そうも行かないのだろう。
日本に居た頃のオレだったら、歳の近い支店長ぐらいならいいが、部長や社長と同じ車での旅行はご勘弁願いたいと思っただろう。
「全員、乗ったにゃんね」
荷台の両側はゆったりとしたベンチシートになっている。クロウシのレザーシートだ。
ゲストを全員乗せたところでオレも荷台に登った。
「にゃあ、行って来るにゃん」
「マコト、姫様のこと頼んだよ」
「わかってるにゃん」
「出発進行!」
いつものようにリーリが号令をかけ魔法車が次々と動き出す。
ホテルの従業員たちも手を振ってくれる。
オレたちは皆んなに見送られて出発した。
○アルボラ州 ケラス街道
ジープとトラックの車列はホテルからオパルスの東門に抜ける真新しいバイパスを通って城壁の外に出た。
州都を抜けて東方に抜けるケラス街道を走る。
「もう街の外とは、随分と早いのであるな」
アーヴィン様も今日は薄い革のプロテクターだ。
「にゃあ、カズキに許可を貰って抜け道を作ったにゃん、混み合ってる繁華街をわざわざ通る必要がないから速いにゃん」
予想通り街道は三~四〇キロも出せれば良いほうだ。それでも他と比べれば十分速い。
「まほうしゃは、ばしゃよりはやいの?」
「にゃあ、速いにゃん」
姫様の馬車は見た目こそ綺麗だったが、かなりのポンコツな上に時限爆弾付きとツッコミどころ満載の仕様だった。
いまは黒焦げの状態で格納されてる。
「姫様、マコトの魔法車はこの国でいちばん速いですぞ」
「わぁ」
アーヴィン様の言葉に姫様は目を輝かせた。
「「「ひめさま!」」」
チビたちが荷台の前方三分の一を占めるクッションエリアから姫様を呼ぶ。たくさんのクッションで埋め尽くされてる。
「さあ、姫様も遊んで来なされ」
「はい」
姫様もクッションに飛び込んで行った。楽しそうにゃんね。
「マコトは、行かなくていいのであるか?」
「にゃあ、オレは周囲を警戒するお仕事があるにゃん」
お仕事がなかったらヤバかった。猫耳たちの乗ったトラックは荷台なんかすべてクッションで埋め尽くされている。
「アルボラの街道はずいぶんと整備が行き届いているのだな」
「アーヴィン様、マコト様たちが最近直したそうです」
「にゃあ、エラは情報が早いにゃん」
ケラスに抜ける街道は変な刻印が仕掛けられてないかチェックするついでにこちらもカズキの許可をもらって綺麗に整備したが、幅員はほとんど広げられていない。
無理な追い越しはしないでいつものように丁寧に抜いて行く。
追い抜き対象を結界でがっちり囲い、魔法馬のコントロールも奪うので故意でも過失でも妨害は不可能だ。
王家の紋章を刺繍した旗をたなびかせているので、法的にも最優先だ。
「空いてればもっと速く走れるのに残念にゃん」
「もっと速く走れるのか、じゃなくて、もっと速く走れるのですか? マコト様」
ラルフが噛み気味に質問する。
「にゃあ、いつも通りでいいにゃんよ、ラルフに敬語を使われるとシッポがムズムズするにゃん」
「無理言わないで下さいよ」
ラルフはチラッとアーヴィン様を見た。
「本人がいいと言っておるのだ、マコトの言うとおりにして構わんぞ」
「ありがとうございます」
「にゃあ、いまの三倍の速度は余裕で出せるにゃん、ただ他の馬車や馬を跳ね飛ばすわけには行かないからケラスまではこの速度にゃんね」
「マコト、本当に三倍も出せるのであるか?」
話に喰い付いて来たのはアーヴィン様だ。
「にゃあ、問題ないにゃん、余計な魔法なしで普通に走れるにゃん」
「馬車とは次元が違っているのであるな」
「にゃあ、安全な場所なら馬車で十分にゃん、これは普通に走っていてもヤバいケラス向きにゃん」
「話には聞いてるが、相当やばいのか?」
ラルフも気になる様だ。
「にゃあ、毒持ちの虫系が多いにゃん、だからケラス州内の物流はオレたちに任せてくれていいにゃんよ、オパルスまで格安で運んでやるにゃん」
「王都までは運ばないのか?」
「王都ルートも頼まれればやるにゃんよ、いまも道路も整備して虫や盗賊は退治してるから近いうちに安全になるにゃん」
「するとマコトたちの手を煩わせなくても王都の本部と直でやり取り出来そうだな」
「にゃあ、オパルスに送らなくていいにゃん?」
「ああ、要請が無ければ無理にオパルスの冒険者ギルドを通す必要はない、それに要請を受けるかどうかはこちらの判断だ」
「にゃあ、そう言うものにゃんね」
「ケラス産の素材が欲しかったらフリーダ様が直接マコトたちに依頼するはずだ」
「にゃあ、わかったにゃん」
ラルフが新しく着任するケラスの冒険者ギルドは完全に独立した支部になるようだ。
○アルボラ州 ケラス街道 休憩所
出発から一時間で最初の休憩所に到着した。閉められた門を開き猫耳の誘導で車列を中に入れる。
プリンキピウムの旧道に作ったものと違ってこちらはいずれも一般解放をしていない。オレたちが今回の為に作ったのだから当然だ。
姫様の車列が通り過ぎたら一般解放する予定になってる。
「にゃあ、お館様、この調子なら予定より先に進めそうにゃん」
先頭のジープに乗る猫耳が報告してくれる。
「無理をしない範囲でなら予定よりも早く行ってもいいにゃん」
「にゃあ、了解にゃん」
オレは猫耳たちと協議し、今日は一つ先の宿泊所を目標にした。
元々、普通の乗合馬車の速度をベースに計画して有ったので、魔法車が距離を進むのは当然とも言えた。
特に予定外の事態も発生していないのも幸いしている。
周囲に式神の反応もなし。
アルボラ州内は、カズキの指示で街道の警備がなされているので、荷馬車の追い抜きがいちばんの面倒事で収まりそうだ。
「すまんなマコト、手間を掛けさせる」
アーヴィン様はオレの隣に座る。
「にゃあ、問題ないにゃん、王族の接待は領主の仕事にゃん」
姫様はベンチでオレの反対側の隣に座ってソフトクリームを食べている。
「美味しい」
口の周りのベチャベチャを拭いてやる。
「美味しいよね」
リーリはオレの頭の上でソフトクリームを堪能中だ。
「マコトを巻き込むつもりは無かったのだが、黒幕の特定がいまだ為されぬ状況である、いましばらく頼らせて欲しい」
アーヴィン様の言葉はそのまま王様の言葉なのかも。娘を守ろうとした親心を利用して罠を仕掛けるとか黒幕は王様に恨みでもあるのだろうか?
「にゃあ、了解にゃん、オレは出来れば皆んなと仲良くしたいにゃん、でも、敵対するならそれなりの対応をするしかないにゃんね」
「仕方あるまい、誰だって黙っていいようにされるわけにはいかぬ」
「黒幕が誰であれ、ここまで嫌がらせに来るのは骨らしいにゃんね、式神の一匹も飛んで来てないにゃん」
「距離を考えると式神を飛ばすのも難しいであろうな」
「ケラスに入ったらオレのところの来る前に虫に喰われるかもしれないにゃん」
「それなら手間が省けていいのだが現実は甘くあるまい」
「にゃあ、そうにゃんね」
「それでマコトは何処に落ち着くつもりだ?」
「しばらくはネオケラスの予定にゃん」
「王国軍の担当官は間もなくネオケラスに向かって出発するようだ」
「にゃあ、一段落したらオレが王都に行ってもいいにゃんよ」
「マコトが直接話してくれるならそれに越したことはあるまい、それで良いのであるか?」
「にゃあ、問題ないにゃん」
ネオケラスから王都までは迂回せずに進めるだけアルボラからよりも近い。また王都に顔を出してキャリーとベルに会うのも有りだ。
「連絡と言えば、廃領六領地の名義の書き換えが先ほど完了したようである」
「にゃあ、随分と早いにゃんね」
「利息が膨らむのを嫌った財務省の役人がマコトの気が変わる前に法務省の尻を叩いたのであろう、これで名実ともに六領地はマコトのものだ」
「にゃあ、これで魔獣の森に潜り放題にゃんね」
「マコトなら本当にやりそうであるな」
「にゃあ」
そこは誤魔化しておく。
これで、魔獣の森の拠点は問題なくオレの領地の帰属になった。




