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出発の前日にゃん

 ○州都オパルス クリステル・オパルス・オルホフホテル ラウンジ


「マコト様、わたくしもフレデリカ王女殿下の御一行と一緒にケラスに入ってよろしいのですか?」

 ホテルのラウンジにアガサを呼び出して出発のことを伝える。

「にゃあ、急で悪いにゃんね、アガサの準備が出来てるなら連れて行くにゃん」

 警備上あらかじめ予定を伝えるのはNGだった。呪いの追撃よりも犯罪ギルドに情報が流れるのを防止するためだ。

「ご配慮いただきありがとうございます」

「にゃあ、ネオケラスに到着したらすぐに働いて貰うにゃん」

「問題ございません」

 アガサに王宮との面倒くさい折衝を丸投げできるのは助かる。領主になってもオレがやりたいのは遺跡探しと魔獣退治だし。

「マコト様、わたくしの従者がふたりいるのですが、同行させてもよろしいでしょうか?」

「にゃあ、問題ないにゃん、それに魔法馬や馬車があるなら一緒に運ぶにゃん」

「人数分の馬はいますが馬車はございません、ネオケラスまではマコト様の馬車を使われるのですか?」

「にゃあ、移動には魔法車を使うにゃん、だから魔法馬は積み込んで運ぶにゃんよ」

「魔法車でございますね、かしこまりました」

 アガサは魔法車を使うことに疑問を覚えなかったようだ。単に詳しくないだけなのかもしれない。


「ネコちゃん!」

「お疲れ様です、マコト様」

 声を掛けて来たのはアーヴィン様の守護騎士キャサリンとエラだ。

 姫様のお馬の稽古の後、エステに直行したらしく、おかげでどちらもお肌ツヤツヤだ。アガサも同じくツヤツヤだけどな。

「あーん、ネコちゃん、相変わらず可愛い、ちゅーしてもいいでしょう?」

 有無を言わさずキャサリンがオレを抱き上げてほっぺに吸い付いた。

「キャサリン、マコト様は正式に辺境伯になられたのです、以前のように接しては無礼ですよ」

「「アガサ様!」」

「わたくしに様は不要です」

「「申し訳ございません」」

 ふたりはビシっと直立不動の姿勢になる。

「にゃあ、アガサもふたりと知り合いにゃん?」

「はい」

「アーヴィン様からお聞きしましたが、ネコちゃん様は明日ケラスに出発するんですよね」

 丁寧だが変だぞ、キャサリン。

「そうにゃん、ふたりはどうするにゃん?」

「同行します」

「私たちはアーヴィン様の守護騎士ですから、それに臨時にフレデリカ様の警護も仰せつかっています」

「にゃあ、キャサリンとエラはこのままホテルに残ってエステを極めるのかと思ったにゃん」

「魅力的だけど現実は厳しいの」

「自腹では無理ですね」

「当たり前です」

「アガサ様も一緒に行かれるのですか?」

「勿論です」

「アガサは、いいところのお嬢さんだったにゃんね」

「アガサ様のご実家ボールディング伯爵家は、王都の西隣タンピス領の領主で、超絶お金持ちなんだよ」

 キャサリンが解説してくれた。

「にゃあ、タンピス領ならこの前、通らせて貰ったにゃん」

 ハリエットたちとクプレックス州から王都に抜ける途中に通った。州都の商業地区がどこまでも続いてるような感じの領地だ。

 つまりアガサは守銭奴と陰口を叩かれてる領主の娘というわけだ。数字に強そうにゃんね。

「私は既に成人して家を出ておりますから身分は貴族ではありません」

「にゃあ、そうだとしても伯爵家のお嬢さんを左遷するとは前の職場の上司は命知らずにゃんね、オレには無理にゃん」

 オレは長い物に巻かれるタイプだ。

「いえ、本当に左遷ではないのです」

 アガサが否定する。

「そうにゃん?」

「上司は父の命に従っただけなのです、真相を知らない連中が適当なことを噂してるに過ぎません」

「実際にアガサ様を左遷なんかしたら、ボールディング伯爵家の信奉者が黙ってないですね」

 エラが補足する。

「でも、アガサのお父上は、森しかないケラスに大事な娘をやってどうするつもりにゃん?」

「父の目的は王国軍です、王宮では以前、王国軍のケラス移転が検討されていたのです、その利権に食い込むつもりだったのでしょう」

「にゃあ、いまはオレの領地だけど、あんな僻地に大事な軍隊を置いたら有事の際に困るにゃんよ」

「王都の守りは近衛軍が担当し、王国軍は魔獣を担当するのがそもそもの設立目的ですから問題はありません」

「にゃあ、本当に人間同士の戦争は想定してないにゃん?」

「自国の手付かずな広大な土地を放置して他国に領土を求めても仕方ないですから」

「他国もそうにゃん?」

「国境を接してるケントルムも状況は変わりません、それにあちらは各州の自治が強いのでまとまった軍事行動は難しいと思われます、それ以前に間に海がありますから大規模な軍事行動はかなり制限が付きます」

 確か世界七不思議の一つグランキエ大トンネルを抜けないといけないから、軍隊で攻めるのは難しいか。

「いろいろ参考になるにゃん、それでアガサ個人はどうにゃん?」

「王国軍に興味は有りませんし、それに関する指示も受けていません」

「にゃあ、軍隊が利権の塊と言っても略奪まがいの徴発に走るほど困窮した集団だったから絞ってもたかが知れてると違うにゃん?」

「わたくしもそう思います、父も現状を知らないわけではないですから、何か考えが有ったのでしょう」

「オレも王国軍評議員会の副議長に就任させられたから、利権が出る程度には立て直したいにゃん」

「おめでとうございます」

 アガサはそう言ってくれるが微妙な役職だぞ。

「その代わり、借金の棒引きをさせられたにゃん」

「アーヴィン様もネコちゃん相手に容赦ないな、……ネコちゃん様相手に容赦ないですね」

 アガサに睨まれてキャサリンは言葉を改める。

「マコト様なら、王国軍の借財など誤差の範囲では?」

 エラが切り込んでくる。

「にゃあ、それと王都の城壁の中の事故物件の屋敷を貰ったにゃん、いつ帰ってくるかわからない金よりマシにゃん」

「事故物件ですか」

 アガサは引き気味。

「アガサさん様、聖魔法を使えるネコちゃん様なら問題ないですよ」

 キャサリンは変な敬称をつけて喋る。

「マコト様は聖魔法を使えるのですか?」

「にゃあ、嗜み程度には使えるにゃん、それとキャサリンは普通に喋っていいにゃん」

「ありがとうネコちゃん」

「マコト様の聖魔法は、王国随一かと思われます、魔法そのものが右に並ぶ者なしの状態かと」

 エラが大げさに情報を付け加える。

「聖魔法が使えるなら、侯爵様のお申し出も納得です」

 頷くアガサ。

「ここだけの話、ボールディング伯爵家は王国軍からケラスそのものに標的を変えたみたいですね」

 キャサリンが声を潜める。

「にゃ? ケラスが欲しいのなら先日まで安売りしてたにゃんよ、それこそアガサを領主に据えればいい感じにゃん」

「いいえマコト様、わたくしが舵取りをしたこの二年間も補助金を食い潰すだけで全く利益を上げていませんから、父が手を挙げるとは思えません」

 アガサがすぐに否定する。

「ところがマコト様がケラスを手に入れた途端、莫大な利益を上げ始めたわけですから、貧乏な王国軍の利権よりずっといいって誰だって気が付きますね」

「エラは随分と詳しいにゃんね、ケラスの素材は本当にまだ出したばかりにゃん」

 今朝方、ベイクウェル商会オパルス支店長のダドリーに毛虫の毛皮を見せたら気絶しそうになっていた。

 それでも今朝の話だ。

「ウチの実家がベイクウェル商会なんです」

「にゃ!? そうにゃん?」

「だからって私からマコト様の情報は流してませんよ、オパルス支店の売上が尋常じゃないからマコト様の存在がクローズアップされたのです」

「へえ、あんたの実家だったら、ネコちゃんを誘拐するぐらい平気でするのに良く我慢したね」

「既に前のオパルス支店長が似たようなことをして現在失踪中、ベテランの裏方と一緒にね」

「裏方って、殺し屋が裸足で逃げ出すぐらいヤバい人たちでしょう?」

「あのクラスだとアーヴィン様で互角かな、私だと秒殺されます」

「怖いにゃんね」

「「「……」」」

「にゃ? オレはちょっと注意しただけにゃんよ、それからちゃんと取引もしてるにゃん」

「ええ、おかげでケラスも支店設置が決まったみたいです」

「にゃあ」

「するとわたくしの実家にもその情報が行ってるのですね?」

「はい、全て行ってると思います」

「にゃあ、エラの実家のベイクウェル商会とアガサの実家のボールディング伯爵家は何か関係があるにゃん?」

「ボールディング伯爵家が本家で、ベイクウェル商会が分家に当たります。優秀な人間が本家、ずる賢いのが商会を継ぐことになってます」

 エラがハッキリ言う。

「随分と乱暴な説明です」

 アガサが困り顔だ。

「にゃあ、バカ息子に継がせるよりはいいと思うにゃん」

「私の親父はバカ婿なのでちょっと危なかったですけど」

「にゃあ、バカにゃん?」

「外見が良くて数字を操ることに関しては天才的なんですが、女癖が悪くて、この前なんか、地下牢に入れられた挙句、母から『私を選ぶのか、ここで首を吊るか好きな方を選べ』って迫られたそうです」

 何処から突っ込んでいいかわからない。

「結局どうなったにゃん?」

「ふたりは仲直りして親父は馬車馬の様に働かさせれてます」

「にゃあ」

「それから母がマコト様にご挨拶したいそうなんです」

「にゃ!? 今度はオレを捕まえるつもりにゃん?」

「違います、マコト様と仲良くしたいそうです」

「あーでも、おばさまだったらこのホテルに立ち寄るなら、しばらくケラスには来ないんじゃない?」

 キャサリンはエラの母親を知ってるみたいだ。

「ええ、エステにやられてしばらく滞在決定だと思います、商会で押さえた予約枠が一つ潰れるからダドリーが泣くでしょう」

「にゃ、予約枠?」

「このホテルは、王都の幾つかの商会に予約枠を割り当てているの、商会の間で枠を増やそうと争奪戦らしいわよ」

 オレよりキャサリンが詳しい。

「にゃあ、オレの知らない間に支配人が上手くやってるにゃんね」

「ネコちゃんは、このホテルが一泊いくらだかご存知ないの?」

「知らないにゃん」

「一泊金貨三枚からです」

「にゃあ、すっかり超高級ホテルにゃんね」

「ここまで魔導具をふんだんに使ったホテルは王都にもありませんから十分高級です」

「本当に若返るエステがあるんだから人が集まるのは当然ね」

「マコト様は、当然ケラスにも同じホテルを作りますよね?」

「それはいい考えだと思います」

「思い切って二棟建てちゃおうか」

「もっと多くても構いません」

 三人のお嬢さんの熱量が高い。

「アガサも乗り気にゃんね?」

「実家のことはともかく、領地を発展させる為にも観光産業は必要だと思います」

「場所によってはここより王都に近いから悪くない選択だよ、それでオパルスのホテルが閑古鳥が鳴くとも思えないし、いいんじゃない?」

「にゃあ、街道を整備して往来の安全が確保できたら考えるにゃん、いまはまだ人を呼べる状態じゃないにゃん」

「そうですね」

「獣の素材だけでかなり潤ってるのでそう慌てることはないにゃん」

「「「駄目です!」」」

「みゃー」


 エステのこととなると人格が変わる女性陣であった。


 フリーダが来ると言うのでオレはそのままビュッフェから戻って来たリーリと一緒にラウンジでパフェを食べている。

「美味しいね」

「にゃあ」

 生クリームのおいしさにオレの尻尾までとろけそうだ。

 パフェを食べながら新事実のアガサの実家のボールディング家の情報を猫耳の何人かが持っていたので共有した。

 かなりの資金を持つ実力者ではあるが、王都内の政争には距離を置いてる。

 ボールディング家は、資産を増やすことだけしか興味がないというのが世間一般の評判の様だ。

 まだ具体的な指示は何も受けてないらしいが、アガサを使ってオレに渡りを付けたのもその一環なのだろう。

 オレがボールディング家の分家ベイクウェル商会をかなり潤してるのは事実だから、目を付けられるのは仕方ない。

 少なくとも五歳の子供に毒を盛るような連中よりはマシだ。


「あたしは、従業員食堂に行って来るよ、あそこのビュッフェもチェックしなくちゃいけないからね」

 パフェを完食したリーリはふわりと飛び上がった。

「にゃあ、よろしく頼むにゃん」

「任せて!」

 今度は従業員食堂のビュッフェを目指して文字通り飛んで行った。


「ネコちゃん、お待たせ!」

 フリーダがやって来た。相変わらずおっぱいボヨンにゃん。

「ようマコト、元気だったか?」

 それにガタイのいいギルド職員のラルフ。

「ちょ、ちょっとふたりとも辺境伯様に失礼よ、マコト様、この度の陞爵おめでとうございます」

 ラルフの妹アレシアが会釈する。

「にゃあ、ありがとうにゃん、でも皆んないつも通りで頼むにゃん」

「そいつは助かる」

「にゃあ、それで話って何にゃん?」

「ネコちゃんは明日オパルスを出発するんでしょう?」

「にゃあ、そうにゃん」

「それでお願いがあるんだけど、このふたりをケラスに連れて行って欲しいの」

「ラルフとアレシアにゃん? 構わないけど観光には不向きにゃんよ」

「そうじゃなくてケラスに冒険者ギルドを開設したいの、まずはネコちゃんの許可が必要になるんだけど」

「開設をするのは構わないにゃん、でも冒険者はオレと猫耳以外はいないにゃんよ」

「それで十分だ」

「正直に言うと冒険者ギルドにもケラスの上質な素材を卸して欲しいの」

「にゃあ、それは構わないにゃん、ただ直ぐに値段が下がるにゃんよ」

「問題ないわ、値段が下がっても需要はなくならないもの」

「にゃあ、わかったにゃん、それでラルフがケラスのギルマスになるにゃん?」

「ああ、マコトとは知らない仲じゃないしな」

「アレシアはいいにゃん? ケラスは森しかないにゃんよ」

「大丈夫よ、それに何だか楽しそうだし、ネコちゃんも猫耳ちゃんたちもいるから危ないことはないでしょ?」

「アレシアには強い兄貴もいるから大丈夫にゃん」

「いや、俺はそうでもないぞ、所詮はBランク止まりだ」

「自慢にゃん?」

「そうね」

「すいません」

 アレシアが謝る。

「いや、自慢じゃないぞ」

「明日の朝、車を回すから荷物を積み込める様にまとめて置いて欲しいにゃん、場所は冒険者ギルド前でいいにゃん?」

「ふたりともいいんでしょう?」

「問題ありません」

「マコト、悪いけど明日は頼む」

「にゃあ」



 ○州都オパルス オパルス城 食堂


 夕方、カズキのところの夕食に招かれた。まずは客間に通されてからオパルス城の豪華な食堂に案内された。

 夕食会のメンバーは領主夫妻にフリーダ、姫様、アーヴィン様、オレだ。

 第三騎士団のシャルロットとクリスティーナが警備に付き、イライザが姫様の側に控えてた。

 リーリはチビたちを引き連れて拠点の食堂のチェックに行っている。

「ネコちゃん!」

 姫様だけは別室から案内されて来て入室するなり抱き着かれた。

「にゃあ」

 昼間の乗馬の後はさっきまでチビたちと遊んだりお風呂に入ったりしてたが、疲れた様子はまったくなかった。

 側仕えのイライザはお馬の稽古の疲労が抜けてない感じだ。

「ネコちゃんのとなり!」

「にゃあ、そこはカズキ様の席にゃんよ」

「いいよ、正式な夕食会でもないから姫様の思い通りにしてあげて」

 領主様からお許しが出た。

「わかったにゃん」

 姫様はイライザに椅子をくっつけさせてオレにまた抱き着いた。

「姫様がご家族以外にこんなに懐くのは初めてである」

 アーヴィン様は甲冑姿では無く平服で席に着いていた。代わりにキャサリンとエラが後ろに立って警護をしている。

 久々にちゃんと守護騎士の仕事をしているところを見た気がする。


 夕食のメニューは姫様がいるのでラーメンや牛丼ではなくこちらの貴族たちが普段食べてる料理が出された。

「どう、マコトこちらの料理は?」

「にゃあ、一度、貴族の料理を食べてみたいと思っていたにゃん」

 スープは恐ろしいぐらいに澄んでいた。

 一口飲んでみる。

「にゃ?」

 これはミントフレーバーの薄く塩の入ったお湯だ。

 皿に載った肉は柔らかかったが、茹でただけ。

 パンはコンクリート級の硬さを誇っていたが、まだ薄くスライスされてるだけマシと言えた。

 初めてこっちに来た時に食べた料理と基本は同じだ。

 無論、比べ物にならないほど洗礼され良い材料を使ってるが、ぶっちゃけ物足りない。

「どう、マコト?」

 カズキに問い掛けられる。

「にゃあ、異世界感が半端ないにゃん」

「だよね」

 いい肉だが、それだけだ。健康にはいいかも。

「マコトは、どのぐらいでネオケラスに到着できそうなんだい?」

 カズキが尋ねる。

「にゃあ、いまのところは二週間程度を予定してるにゃん」

「かなり速いね」

「魔法車を使うから馬よりは早く到着する予定にゃん、ただ道路が建設中なのと途中何があるかわからないからあくまで目安にゃん」

「魔法車だからジープを連ねて行くんだよね?」

「にゃあ、今回は長旅なのでもっと大きな車も使うにゃん」

「他の車も作ったんだ」

「にゃあ」

「まあ、新しい魔法車? 後でエイハブが知ったら悔しがるわね」

 奥様のクリステルはただでさえ若いのに初めて会ったときよりも更に若返っていた。

 いったいどれだけホテルのお湯に浸かっていたのだろうか?

 怖くて聞けない。

「エイハブ博士はいないにゃん?」

「いま王都だよ、魔法大学で特別講座の教鞭を取るんだ」

「にゃあ、それは残念にゃん」

 やや棒読み。

「ネコちゃんの許可が貰えるなら仕事を放り出して引き返して来るわよ」

「にゃあ、迂闊なことは言えないにゃんね」

「そうだね、学者と悪いヤツを相手にする時は気を付けた方がいいよ」

「今後はそうするにゃん」

「ネコちゃん、アレシアとラルフをよろしく頼むわね」

 フリーダからも声が掛けられた。

「どちらかと言うとオレが助けて貰うにゃん」

「だったらいいんだけど、たぶんそれはないわね」

「マコト、ケラスでの獣はどんな感じ? 毛虫以外はほとんど知らないんだ」

「毛虫以外もほとんど虫系みたいにゃんね」

「虫系は素材のほとんどが幻で超高額だけど、メチャクチャ強い上に毒を使うよね」

「そうにゃんね、魔法を併用しないとまず毒にやられるにゃん」

「ネコちゃんたちなら大丈夫そうね」

「にゃあ、問題ないにゃん」

「ところでマコト、姫様と自分の皿にだけ何をふりかけて食べてるんだい?」

「にゃ」

 こっそりやっていたがカズキに見付かってしまった。

「美味しいよ」

 姫様の食い付きが急に良くなったから目立ってしまったか。

「にゃあ、これはオレが開発したウルフソルトにゃん、お行儀が悪いからこっそり使ったにゃん」

「ああ、最近ベイクウェル商会で扱ってる馬鹿高い調味料だね、あれってマコトたちが作っていたんだ」

「そうにゃん」

「ボクにも貸してくれる?」

「では吾輩も借りるとしよう」

「わたくしはホテルで試したことがありますけどもう一度」

「噂には聞いていたけど、まさか本物がこんな身近に有ったなんて」

「ネコちゃん、もっと」

 姫様からも追加オーダーが入った。

「にゃあ、わかったにゃん」

 皆んなの皿にウルフソルトを掛けて回る。

「おお、これはまるで別の料理ではないか!?」

 アーヴィン様が目を丸くする。

「えっ、どうしてこんなにおいしくなっちゃうの?」

 フリーダ、それだとまるで料理が不味いって言ってるようなものだぞ。

「えー、なにこれ、こんないいものボクに教えてくれないってどういうこと?」

 カズキが唇を尖らせる。

「にゃあ、これはこっちに初めて来た時、必要に迫られて作ったにゃん」

「あ、うん、それはわかるよ、良くわかる」

 深く頷くカズキ。

「基本的にオレたち専用だったにゃん、猫耳が売りたいと言うから許可しただけにゃんよ、その後のことはオレも知らないにゃん」

「マコトたちって、メチャクチャ儲けてるよね」

「にゃあ、そんなでもないにゃん」

 悟りを開けるぐらいの金の地金は持ってるので、いまいちどうでも良くなってる。

「街の中のエッチな美術館の中身を売り払えば、ネコちゃんはもっとお金持ちになるんじゃなくて?」

「にゃあ、そんなのもあったにゃんね」

「カズキ様、まだ査定は終わらないのですか?」

 冷たい目でカズキを見るクリステル。

「あ、あれは収容作品数が多いからね、でも間もなく出るよ」

「いくらぐらいになりますの?」

「たぶん大金貨二〇万枚を下回ることはないと思うよ、後は持ち主のマコトとどうするか相談しようかと」

「売りなさい」

「あれはマコトの持ち物なので勝手に売却するわけには」

「ネコちゃんは全部売っちゃっていいわよね?」

 目が笑ってない。

「にゃあ♪」

「明日にでも売って、売上はネコちゃんに全額渡すこと、いいですね?」

「はい」


 可哀想なカズキはうなだれていたがオレにはどうすることも出来なかった。


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