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プリンキピウム巨木群にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇四月二〇日


 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群


 今日も一日、巨木の間を行く。

 この異世界感満載の風景は二日目がヤバい。

「にゃあ、こんな場所にいると自分が虫ぐらいのサイズになったみたいな錯覚を覚えるにゃん」

 ただでさえ六歳児の感覚にはまだ慣れてないのにこの巨木群だ。

「この調子なら明日には巨木群を抜けられそうなのです」

「にゃあ」

 虫から六歳児には戻れそうだ。

「帰り道は大丈夫?」

「にゃあ、その頃にはきっと慣れてるにゃん」

 ふたりには心配を掛けないように気を付けないといけない。

「マコトはプリンキピウムに戻ったら森に住むの?」

「にゃあ、そのつもりにゃん」

「寂しくないの?」

 キャリーが心配そうにオレを見る。

「にゃあ、寂しくないこともないにゃん、でも平気にゃん、前も一人で暮らしていたにゃん」

 一人暮らし歴は二〇年を超える。

「本気で寂しくなったら冒険者ギルドや市場を冷やかすにゃん」

「それが良いのです」

 森に篭もるのも現代人の憧れのライフスタイルの一つだから飽きるまでは満喫するつもりだ。

「にゃあ、森で暮らすのにサバイバルナイフを用意して無かったにゃん」

「マコトは魔法を使えるんだからナイフは要らないんじゃない?」

「同感なのです、それに小さな子が刃物を持つのは感心しないのです」

「そうにゃんね」

 この身体ではでっかいサバイバルナイフを振り回してもたかが知れてる。

「銃はいいにゃん?」

「マコトの技量なら問題ないのです。ナイフより危険はないのです」

「そうだね、マコトは銃の扱いに手慣れてて最初びっくりしたよ」

「にゃあ、若かりし頃ちょっといろいろやってたにゃん」

 二〇代の頃、サバゲーに何度か連れて行かれた事がある。

 まさかそれが後々役に立つとは思って無かったが。

「六歳の若かりし頃って幾つなの?」

「にゃあ」

 少し前、本格的な戦争ごっこをしてたことにした。

 正直に明かした筈なのにキャリーとベルは、オレが三九歳だとは少しも信じてない。



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群 野営地 テント


 お昼はテントのキッチンの電子レンジみたいな形の魔導具で作るハンバーガーで済ませた。

 ハンバーガー屋のメニューがサイドを含めて大体揃えて有るので、キャリーとベルにも好評だ。

「午後は無理をしないで日の高いうちに野営地を決めるのです、失敗は繰り返さないのです」

「そうだね、無理は禁物だね」

 最悪、テントに逃げ込めばなんとかなるけどね。濃いマナに関しては昨夜のうちにテントをアップデートしてある。

「やっと距離が読めるぐらい魔法馬のペースが掴めて来たよ」

「この魔法馬ならぶっ通しで王都まで走っても平気にゃん、自動補修されるから耐久性が高いにゃん」

「マコトの馬は、私たちレベルの乗り手ではまず壊せないのです」

「つくづくとんでもないモノを貰っちゃったね」

「ちょっとしたアーティファクトなのです」

「大事にするにゃんよ」

「勿論だよ」



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群


 オレたちの魔法馬は午後も同じペースで走る。

 流石に王国軍の兵士だけあってキャリーとベルは巧みに馬を操る。

 若干飽きてきたのはオレだ。

 鞍の上であぐらをかいて腕組みしてる。

「マコト、危ないよ」

「大丈夫にゃん、落ちないように出来てるにゃん」

「本当に?」

「試してみるといいにゃん」

「いや、ヤメておくよ、変な癖が着いたらマズいから」

「そうにゃんね、本職の人はヤメた方がいいにゃん」

「本職と言っても実際の軍務では滅多に馬には乗らないのです」

「そうにゃん?」

「訓練で乗るだけなのです」

「そう、プリンキピウムで使ってるみたいなボロボロの魔法馬をね」

「それにしては上手にゃんね」

「ポンコツだけに制御が難しいので自然と上手になるのです」

「にゃあ、オレは乗れそうにないにゃん」

「マコトなら直した上に改造しちゃうからポンコツに乗れなくても大丈夫だよ」

「にゃあ、その通りにゃん、でも傍から見ると変なヤツにゃん」

「誰もそんなことは思わないのです」

「驚くとは思うけどね」



 ○プリンキピウム街道 プリンキピウム巨木群 野営地


 日が暮れるちょっと前に道端の野営地に入った。

「今日は少し早いけどここでいいよね」

「問題ないのです」

「にゃあ」

 見た目はただの空き地だが、結界はしっかりしていた。

 キャリーがテントを出して野営の準備をする。

 一瞬だけどな。

 オレはテントの前にテーブルと椅子を出す。それとティーセット。

 気分はグランピングだ。

「まだテントに篭もるのは早いにゃん」

「そうだね」

「お茶が美味しいのです」

「地味に魔導具だよね?」

 キャリーがティーポットを指差す。

「にゃあ、無限ティーポットにゃん、いくらでもお茶が出るにゃん」

「地味にアーティファクト級なのです」

「にゃあ、でもオレがいないと使えないにゃん」

「魔力の登録が必要とか、無駄に凝ってるのです」

「最初からの仕様にゃん」

 精霊情報体のライブラリそのままだ。

「魔導具屋を開けそうだね」

「にゃあ、お店にゃん?」

「魔導具屋だと州都か王都じゃないと商売にならないのです」

「六歳でも開けるにゃん?」

「マコトの場合、ちゃんと冒険者カードとお金を持ってるので問題ないのです。ただ、どうしても悪いヤツに目を付けられるのです」

「うん、それはあるね」

「にゃあ、王都に行くと何をしても悪い奴らに目を付けられそうにゃん」

「仕方ないのです、マコトはそれだけ貴重な人材なのです」

「しばらくプリンキピウムに引き篭もってるのが正解みたいにゃんね」

「残念だけど仕方ないか」

「にゃあ、遊びに行くのはいいにゃん?」

「うん、遊びに来るぐらいなら大丈夫だね」

「目立たなくすれば問題ないのです」

「にゃあ、こっちに慣れたら目立たないように遊びに行くにゃん」

 旅をするにしても、もっとオレの足場を固めてからだ。

 いまはまだこっちの常識にも疎いからトラブルを巻き起こしそうな気がする。


 日が暮れ始めたところで、乗合馬車とセットで走ってる荷馬車の四台が野営地に入って来た。

 しばらく前に追い抜いた馬車の一行だ。

「やあ、俺たちも使わせて貰っていいかい?」

 前を走っていた乗合馬車の御者に声を掛けられた。

「どうぞ!」

 キャリーが代表して答えた。

「悪いな、騒がしくして」

 続けて荷馬車の御者たちにも声を掛けられる。どちらもガタイのいいおっさんだ。

「お互い様なのです」

「軍人さんと一緒なら安心だ」

「当てにされても危なくなったらさっさと逃げるから悪く思わないでよ」

「ああ、構わんさ」

 民間人最優先の自衛隊とは違うみたいだし、世間の認識もそういうものらしい。

 州都行きの乗合馬車は、四組合計一〇人の乗客がいた。

「調子の悪そうな人が多いにゃんね」

 乗客の半数がフラフラしてる。

 高熱でも有りそうな足取りだ。

「どうしたんだろう、何かあったんだよね」

「あれは精霊に当てられたのです、明日の朝になれば治る程度なので心配は無用なのです」

「にゃあ、なるほど深刻ではなさそうにゃん、にゃ? そうじゃないのが一人いるにゃんよ」

「えっ、誰?」

「あそこに居る若いお母さんに抱えられた三歳ぐらいの男の子にゃん、もともとエーテル器官に問題が有ったみたいにゃんね」

「どうする?」

「治して来るにゃん」

「うん、それがいいね」

「治せるのに見ぬ振りもできないのです」


 代表してキャリーが二〇歳ぐらいの若いお母さんに声を掛けた。

「ちょっといい、その子、具合がかなり悪いみたいだけど大丈夫?」

「えっ、ええ」

 お母さんは小さく頷いた。

 キャリーとベルの軍服に驚いているみたいだ。

「私たちが力になれるかもしれないのです」

「本当ですか!? 昨日の夜から急に元気がなくなって」

 男の子を抱きかかえてる若いお母さんは途中で涙声になってしまう。

「にゃあ、精霊に当てられてエーテル器官に障害が出てるにゃん」

「エーテル器官ですか?」

「魔力を司る場所にゃん」

「あの軍人さん、この子は?」

「マコトは治癒魔法の使い手なのです」

「治癒魔法ですか!?」

 乗客たちが一斉にこちらを見る。

「にゃあ、オレに任せてくれれば治療するにゃん」

「ですが、治癒師様にお支払いするお金が」

「にゃあ、オレの本業は冒険者だから治癒魔法で金は取らないにゃん」

「いいんですか?」

「にゃあ、構わないにゃん」

「ありがとうございます、どうかこの子をお願いします」

 若いお母さんはポロポロ涙をこぼす。

「にゃあ、治療するからそのまま抱っこしてて欲しいにゃん」

「はい」

「始めるにゃん」


 子供が治癒の光に包まれる。

 エーテル器官の修正だけなので五分も掛からず終了した。

「にゃあ、終わったにゃん」


 直ぐに意識が無かった子供が目を覚ました。

「ママ?」

 男の子は目をぱちぱちさせる。

「もう大丈夫にゃん」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「にゃあ、夜は危ないから野営地の結界から出ない方がいいにゃんよ」

 キャリーとベルの受け売りだ。

「はい、気をつけます」

「にゃあ、他の人も軽く治してやるにゃん」

「いいのかい、ネコちゃん?」

 行商人らしき中年男が問い掛けた。

「いいにゃんよ、明日の朝には放っといても治るけど、体力が削られるからいいことないにゃん」

「済まないが頼めるだろうか?」

 こちらは若い男だ。

「にゃあ、簡単な魔法だから直ぐ掛けるにゃん」

 これはほんの一瞬で終わった。

 治癒の光を全体にピカッと光らせた。

「おお、治ってるぞ」

「本当だ、もう治ってる」

 乗客たちはお互いに治ったことを確かめ合う。

「では、我々は戻るのです」

「ありがとう、ネコちゃん、それに軍人さん」

「困ったときはお互い様にゃん」

 オレたちはテントに戻った。


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