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救援にゃん

 ○アルボラ街道 上空


 地上二〇〇メートルの高度を維持して、ドラゴンゴーレムをアルボラ街道に沿って飛ばす。

 アポリトとの境界門上空を抜ける。

 そこからは基本無人なので高度を落とし更に速度を上げた。

『にゃあ、いまアポリトに入ったにゃん』

 アーヴィン様に念話を飛ばした。

『おお、もう来てくれたか!?』

『にゃあ、魔法馬をなるべく密集させて防御に徹して欲しいにゃん、簡単に死なないグールとオーガを攻撃しても体力をすり減らすだけにゃん』

『了解である、しかし大丈夫であるか?』

『にゃあ、問題ないにゃん、グールとオーガごときが束になってもオレの魔法馬の防御結界は抜けないにゃん』

『しかしヒビが入っておるぞ』

『にゃ!? それはもっと密集しないとダメってことにゃん、それから魔法馬の魔力を防御に全振りするにゃん』

 どうも魔法馬を攻撃に使ってるぞ。

『そうであったか、キャサリンの魔力切れが近くて吾輩も焦っておったわ』

 アーヴィン様にキャサリンとエラでグールやオーガをぶん殴ったりぶった切ったりしていたのだろうが、いまはその硬さと数に押されてジリ貧状態らしい。

『にゃあ、グールとオーガに囲まれたら誰だって焦るにゃん』

 普通は焦る間もなく喰われて終わりだけど。

『最善はとにかく密集して動かないことにゃん』

『わかった、マコトの言に従おう』

『にゃあ、もうちょっとだけ我慢して欲しいにゃん』

『おとなしくマコトの助けを待つとしよう』

『にゃあ』


 アーヴィン様との念話から当たりを付けた方向に探査魔法を打つ。


「にゃあ、見付けたにゃん! アーヴィン様がいるのはアルボラとレークトゥスのちょうど中間にゃん!」

 グールとオーガの反応もかなりある。

「お館様、グールとオーガに囲まれてるのはアーヴィン様一行だけじゃないみたいにゃんよ」

 猫耳たちもアーヴィン様一行を捕捉した。

「アーヴィン様とキャサリンとエラの他に騎士っぽいのが四人、御者がひとり、馬車の中にふたりいるにゃん」

「にゃあ、それがアーヴィン様たちがアポリトにいる原因にゃんね」

 ホタルとミアも探査内容を共有した。

 馬車に誰が乗っているのか知らないが、とんでもないトラブルの臭いがする。

「馬車と騎士を辛うじてアーヴィン様たちの三頭の魔法馬の防御結界で守ってる感じにゃんね」

 フォーメーションは悪くない。

「誰も死んでないのが不幸中の幸いにゃん」

「グールとオーガってまだいっぱいいるんだね」

 リーリも見えてるらしい。

「にゃあ、アーヴィン様たちを囲んでるのはグールが五二匹、オーガが八匹にゃんね、確かに思ってた以上にいるにゃん」

「お館様が一度、退治した後に入り込んだ火事場泥棒がかなりいた証拠にゃん」

「盗賊の情報網でもグール化のネタは流れているのに信じてなかったウカツ野郎の成れの果てにゃんね」

「ウチらも盗賊のままだったらヤバかったにゃんね」

 ホタルとミアが頷きあう。


 街道に誰もいないのを確認して更にドラゴンゴーレムの速度を上げる。

 アポリト領内は人がいないことになっているから地上に影響が出ても構わないので遠慮無しだ。


 街道上空をぶっ飛ばしてるうちに空は夕暮れ一歩手前になっていた。


『アーヴィン様、大丈夫にゃん!?』

 風圧で木々の枝をバキバキ折りながらアーヴィン様に念話を飛ばす。

『おお、マコト!? 我輩たちはいまのところ無事であるがそろそろ限界が近付いておる』

 限界はアーヴィン様一行以外に訪れてるのだろう。

『オレたちは間もなく到着にゃん!』

『手間を掛ける』

『にゃあ、困ったときはお互い様にゃん!』


 アーヴィン様たちの座標を改めて確認したオレたちは降下準備に入った。

「にゃあ、今度は飛翔の魔法を忘れちゃダメにゃんよ」

「「大丈夫にゃん」」

「グールもオーガもトドメを刺す必要はないにゃん、動きを止めればいいにゃん、あれにはまだ使える魂が残ってるにゃん」

「「了解にゃん!」」

「準備いい? 降下!」

 リーリの号令でドラゴンゴーレムを消した。


 オレたちはそのまま空に放り出された。

「にゃあ、この感覚は人間大砲みたいにゃん」

 降下というよりグールの群れに撃ち込まれた砲弾そのものだ。

「アーヴィン様一行発見にゃん!」

「グールもオーガも増えてるにゃん!」

「にゃあ、ガトリングガンで一気に制圧にゃん!」

 オレは空中で風魔法を操りエアブレーキを掛けつつガトリングガンを再生する。

 猫耳たちもオレに倣う。

「撃て!」

 リーリが声を上げる。

 オレたちは発砲しながらグールとオーガの群れに飛び込んだ。


『『『ガアアアアアアアアアアアアア!』』』


 グールもオーガも弾丸の雨に晒され身体を砕かれる。再生能力があっても、破壊された部分が大きいとしばらく動けなくなる。

 まだ対魔獣用の弾丸じゃないだけオレたちも手加減している。魔獣用の弾丸なら一発で魂まで消し飛んで再生不能だ。

「にゃあ! いまのうちに馬車を出すにゃん!」

「おぅ!」

 アーヴィン様が御者台に飛び乗り呆けてる御者に代わって馬車を走らせる。

 キャサリンとエラの魔法馬が並走して馬車の脇を固めた。

「おまえらも行くにゃん!」

 騎士たちにも声を掛け直に魔法馬を弄った。

「「「ひぃ!」」」

 四人の騎士たちは突然動き出した魔法馬にすがりつつも馬車を追った。

「にゃあ、オレたちも行くにゃん!」

「「了解にゃん!」」

 それぞれ魔法馬を再生、得物をかさばるガトリングガンから小型のサブマシンガン型に持ち替えた。

 両手に持ったサブマシンガンで弾をバラ撒く。

 頭を撃たれるとエーテル器官を直撃してなくても直ぐは動けない。

「おまえらは馬車の前を頼むにゃん」

「「にゃあ!」」

 ふたりの猫耳は魔法馬を馬車の前に出しオレが殿を守る。


 群れていたグールとオーガの大半をエーテル器官を砕くこと無く行動不能にして、オレたちは離脱に成功した。


 オレは御者台のアーヴィン様の横に飛び乗った。

「にゃあ、アーヴィン様は何でこんなところにいるにゃん?」

「飛び入りで姫様の護衛である、まさかここまで危険とは思わなかったが」

 ニヤリとする。

「にゃあ、やっぱり訳ありにゃんね、馬車と騎士の魔法馬を見て根の深さがわかったにゃん」

「馬車と魔法馬であるか?」

「にゃあ」

 探査魔法を打った時に気が付いていたが、どうやらそれはしっかり生きてるようだ。

「マコト、そろそろ馬車を止めないと危ないよ」

 リーリも気付いていた。

「にゃあ、そうにゃんね、アーヴィン様、馬車を停めて欲しいにゃん」

「ここで馬車を停めるのであるか?」

「にゃあ、そうにゃん」

 馬車が停車した。

 オレはハリエットタイプの六頭立ての馬車をその横に再生する。人数が多いから今回はカーペット仕様だ。

「にゃあ、乗り換えにゃん、この馬車はもう使えないにゃん」

「使えぬのか?」

「そろそろ危ないにゃん、馬車の中のふたりと騎士と御者も全員オレの馬車に移って欲しいにゃん」

「了解である」

 キャサリンとエラが馬車の扉を開けて中にいたふたりを連れ出した。

「ついたの?」

 目をゴシゴシしながら降りてきたのはオレと同じぐらいの女の子。

 赤い髪に濃い目のピンクのドレスが良く似合ってる可愛い子だ。

 六歳か、いや五歳かも?

 オレと同じぐらいのビッキーとチャスも五歳だったものな。

「まだです、姫様、馬車をお取り替えします」

「ばしゃをかえるの?」

「そうでございます」

 エラが割り込んで姫様を抱っこしてオレの馬車に乗せた。

 キャサリンが悲しそうな顔をしている。

 もう一人の乗客はメイドさんだった。

 こちらはキャリーとベルぐらいの歳の黒髪の女の子だ。

 まだ襲撃のショックが抜けてない様で青白い顔をしている。

「にゃあ、騎士の人たちも馬を降りるにゃん、その魔法馬もアウトにゃん」

「アウトですか?」

 四人の騎士とそして御者は女の子だ。

 歳はやはりキャリーとベルと同じぐらい。ドクサの少女騎士たちと同じだ。

 いずれも貴族の子女らしく凝った彫刻を施された銅の様な色合いのプレイトメイルを着ている。

「にゃあ、魔法馬はその場に置いて早くこっちの馬車に乗るにゃん、御者の人も急ぐにゃん」

 御者の娘も騎士たちと同じ甲冑を身に着けている。

「しかし」

 少女騎士たちは魔法馬から降りるのを躊躇している。

「早くマコトの言う通りにするのだ!」

「「「はい」」」

 アーヴィン様に急かされ、馬や馬車を降りて六頭立ての馬車に乗った。

「お館様、馬車からの荷物の回収完了にゃん!」

 猫耳たちが荷物をすべて格納した。

「にゃあ、直ぐに離脱にゃん!」

 オレも六頭立ての御者台に飛び乗った。

「出発!」

 リーリがオレの頭の上で声を上げる。

「「にゃあ!」」

 猫耳たちの魔法馬が駆け出し六頭立ての大型の馬車も動き出す。

「我らも行くぞ!」

 アーヴィン様たちの魔法馬が続く。

 置き去りにした姫様の馬車と騎士の魔法馬から距離を取る。

「にゃあ、衝撃来るにゃん!」


 オレの言葉の直後に姫様の馬車と少女騎士たちの魔法馬が大爆発を起こした。腹に響く音と閃光が森に広がり木々がなぎ倒される。

「おおお!」

 アーヴィン様が声を上げる。

 大きな破片がオレたちの防御結界まで飛んで跳ね飛ばされた。

 新手のグールも爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。

 馬車を停めると御者と少女騎士たちは立ち上がって燃え上がる馬車と魔法馬の残骸を見る。

「回収するにゃん」

 燃える残骸を消火して分解した。

「いったい何が有ったのですか!?」

 少女騎士の一人が問い掛ける。

「にゃあ、見てのとおり時限式爆散の刻印にゃんね、グールで仕留め損なっても確実にドカンとやるつもりだったみたいにゃん」

「いったい誰がこんな真似を!?」

 少女騎士のリーダー格の金髪の少女が怒りを露わにする。

「刻印から作者を推定するのは難しいにゃんね」

 刻印は呪いと違って実者とリンクしないから反撃もできない。

「お館様、また別のグールとオーガがこっちに向かってるにゃん」

 猫耳から報告を受ける。

「にゃあ、アーヴィン様たちも猫耳も全員、馬車に乗るにゃん! 次のグールが来る前に逃げるにゃん」

「吾輩も乗るのであるか?」

「にゃあ、そうにゃん、魔法馬ではこの馬車には追いつけないにゃんよ」


 オレの隣にアーヴィン様が乗り込み猫耳たちは後方で銃を構えた。キャサリンとエラは少女騎士たちと一緒に眠ってしまった姫様の護衛に付く。

「アーヴィン様、行き先はオパルスでいいにゃん?」

「それで頼む」

「にゃあ、了解にゃん」

 六頭立ての馬車を鎧蛇と同じくちょびっと浮いて走行するホバーモードに切り替える。

「出発!」

 リーリがオレの頭の上で声を上げた。

「「「にゃあ!」」」

 騎士たちが少女らしい悲鳴を上げる。

 走り出した六頭立ての馬車は滑るように加速した。ドラゴンゴーレムの方が速いが良くわからん姫様一行を乗せるのは抵抗がある。


 リニアモーターカーとまでは行かないが特急ぐらいの速度で街道を突っ走る。街道沿いの木々がバキバキに折れて路面を埋めているのは直上でドラゴンゴーレムをぶっ飛ばしたせいだ。いまはグールどもの足かせになってちょうどいいと前向きに考えよう。

「マコト、この馬車はかなり速度が出るのだな、とても魔法馬が牽いてる馬車の速度ではないぞ」

「魔法でしょう?」

 キャサリンの手が後ろから伸びてオレの頭を撫でる。

「にゃあ、魔法にゃん」

「超高速で馬車を動かす魔法」

 エラがメモしてる。

 前回クプレックス州でアーヴィン様を乗せた時には道が混んでいたから速度は出せなかったが、今回は違う。遠慮無しで行く。

「このまま、今日中にアポリトを抜けるにゃん」

「マコトの魔導具には驚かされてばかりである」

 アーヴィン様はこの状況でも愉快そうだ。

「にゃあ、姫様一行は何でアポリトに入り込んだにゃん? アーヴィン様たちがいなかったら全滅だったにゃんよ」

「マコトも来なかったらちょっと危なかったね」

 リーリがオレの肩に降りて来た。

「姫様のアルボラ州への巡幸が決まったのだが、大公国には慣例で王族は立ち入らないことになってる故に王宮の官吏どもがアポリト州を横断するバカな行程を組んで強行させたのである」

「普通に暗殺未遂事件にゃんね」

「まさにそれである。事の次第を知った吾輩は慌てて王都から姫様の後を追い、合流できたまでは良かったのだがグールに囲まれてしまい動きが取れなくなりマコトに助けを求めたのである」

「危機一髪だったにゃんね」

「既に行程の変更を指示した官吏の何人かは拘束した様だ」

「馬車と魔法馬を用意したのは誰にゃん?」

「騎士たちが所属している王国第三騎士団である」

「にゃ、第三騎士団にゃん?」

「主に王都内での王族の婦女子の方々の警護に当たる組織だ」

「あんな若い子ばかりにゃん?」

 だとしたらドクサ騎士団と代わらない。

「いや、御者を含めて彼女たち全員が騎士見習いであろう」

「姫様のメイドさんも若いにゃんね」

「そうであるな、若い側仕えは珍しくはないが、たったひとりはおかしい、それに本来はいるべきはずの近衛の護衛もない」

「にゃあ、王族関連ならハリエット様に聞いてみるにゃん」

 オレが知ってる王族関係者はハリエットだけだ。

「吾輩も心当たりに問い合わせをしてみよう」


 特急の速度を維持して馬車を走らせながらオレはハリエットに念話を入れた。


『にゃあ、オレにゃん』

『マコトか、無事にフレデリカ様と合流したらしいな』

 既に状況を把握していた。

『合流したにゃん、ところでフレデリカ様が姫様にゃん?』

『そうだ、アナトリ王国の第一王女だよ、今年五歳になられる』

『にゃあ、思ってた以上の大物にゃん』

『私も油断したよ、まさか合法的にフレデリカ様を殺しに来るとは思わなかった』

『にゃあ』

『既に今回の件での実行犯は拘束したが、黒幕までたどり着けるかどうか』

『実行犯にゃん?』

『出発の直前にフレデリカ様の行程と同行する人員を差し替えたヤツが実行犯だ、拘束して調べてるが、どうやら外から操られていた様だ』

『にゃお、刻印付きの馬車と魔法馬を用意したのもその人間にゃんね』

『馬車と魔法馬に何か有ったのか?』

『にゃあ、爆散系の時限式刻印が刻まれていたにゃん、ドカンにゃん』

『随分と念の入ったヤツだな』

『何でフレデリカ様はオパルスに向かってるにゃん?』

『表向きはマコトの陞爵の儀の為の使者だ』

『にゃお、知らないうちにオレも巻き込まれてたにゃんね』

『そう言うな、実は伯父上からフレデリカ様に付いて相談を受けていたのだ、どうやら呪いを掛けられてるらしい』

『にゃあ、宮廷魔導師に見せなかったにゃん?』

『無論、見せた上で私に相談されたのだ』

『にゃあ、一応確認するにゃん、ハリエット様の伯父上ってもしかして国王陛下と違うにゃん?』

『そうだが』

『つまり宮廷魔導師でも解けない呪いにゃん?』

『そういうことだ』

『にゃあ、だったらオレを王都に呼んでくれれば良かったと違うにゃん?』

 王都の城壁内を見物できるチャンスだったのに。

『そうしたいのもやまやまなのだが、フレデリカ様の母上アイリーン様のたっての希望でマコトに保護して貰う方向で話が進んでいたのだ』

『にゃあ、オレを信用しすぎと違うにゃん?』

『いや、マコトのところほど安全な場所はないと言うのが我らの結論だ』

『にゃあ、わかったにゃん』

 いまさら放り出すことは出来ない。

『でもオレたちはケラスに移動するにゃんよ』

『問題ない、織り込み済みだ』

『にゃあ、だったらオレから言うことはないにゃん』

『巻き込んだことは済まない、しかしこうなった以上、マコト以外に頼れる者がいないのは事実なのだ』

『わかったにゃん、ひとまず引き受けるにゃん』


 ハリエットにフレデリカの保護を約束したが、何かズブズブと王国の闇にはまってる気がしないでもない。


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