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盗賊の後始末にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇九月十四日


 盗賊だけでも六〇〇もある箱の運び出しも終わって砦からの撤収が完了する頃には、雨が上がって空には朝焼けが見えていた。

「にゃあ、砦は綺麗サッパリ消すにゃん」

「「「にゃあ!」」」

 人間の負の感情が染み付いた砦を聖魔法で聖別してから分解した。

 古い魂が光の粒子がいくつもの螺旋を描きながら天に昇る。

 人のいないケラスとは思えない光の量だ。バイネス狩猟団以前にもこの砦でかつて何かあったらしい。

 オレの手持ちの情報にはないので詳細は不明だ。

 光の粒子が飛び去ると朝日を浴びたただのゴツゴツした山肌が残った。

「にゃあ、砦が消えて空気がおいしくなったにゃん」

 と言ってる側から近くで毛虫がプシューと紫色の毒霧を吐き出す。こいつら人間を直接襲うことはないが寄ってきて毒霧を吐く。

 人懐っこいのだが毒霧を吐く。

「お館様、砦の獣避けが消えたから毛虫が出て来たにゃん」

「にゃあ、盗賊が住み着くよりマシにゃん」

「それもそうにゃんね」

 毒霧は吐くけどな。

「にゃあ、次は境界門にゃんよ」

「「「にゃあ!」」」

 オレたちは斜面を魔法馬で駆け下りてアルボラ州との境界門に向かった。



 ○ケラス州 アルボラ州 境界門


 境界門と言っても境界石が立ってるだけだ。これはアルボラ側も同じで守備隊もいない。領民が毒系の虫が多いケラスの森に入り込んでも自己責任というわけなのだろう。この両者のずさんな管理で盗賊が入り込んだわけだ。

 統治能力を失ってるケラスを州として存続させていた王宮の責任も小さくはないだろう、さっさと廃領にして王宮の直轄領にすれば良かったのだ。


『にゃあ、朝っぱらからごめんにゃん』

 アルボラ州の領主カズキ・ベルティに念話を送った。

『お早うマコト、砦攻めはどうだった?』

 カズキには砦を攻める前に連絡を入れていた。

『にゃあ、終わったにゃん』

『それは随分と早い解決だね、さすがマコトだ』

『にゃあ、詳しい話はそっちに行ってからするにゃん』

『うん、わかった』

『にゃあ、州境の街道を封鎖して構わないにゃん? ケラス側の街道は途切れてるから下手に入り込むと危ないにゃん』

 街道は情報どおりケラスに入るとほんの数百メートルしか道が無かった。

 その先は森に埋もれている。最近人が歩いた跡はすべて盗賊のものだろう。石化した遺体もそうだ。

『ケラス側ならマコトの好きにしていいよ、王宮から派遣されてるケラスの行政代行官もいまこっちに来てるからボクから話しておくよ』

『ありがとうにゃん』

『でも今更封鎖してどうするんだい?』

『にゃあ、まずはケラスに入り込んだ盗賊が逃げられないようにするにゃん』

『もう全部、狩り尽くしたんじゃないの?』

『にゃあ、全部が全部バイネス狩猟団の軍門に下ったわけじゃないにゃん、まともな奴なら近付かないにゃん』

『それもそうだね、ヤツらは頭痛の種だったから助かるよ』

『にゃあ、それと毛虫がかなりいるから間違って瘴気が州境を超えないように結界も新しくするにゃん』

『助かるよ、年に何人か被害が出るんだよね、獣除けの結界って瘴気には効かないから』

『毛虫除けにはなってるから効果を混同してるにゃんね』

『マコトはいつこっちに来れる?』

『にゃあ、オパルスにはなるべく早く行くにゃん』

『頼むよ』

『にゃあ、それと領主様にお願いがあるにゃん』

『なに?』

『にゃあ、誘拐された子供を保護したにゃん、いずれもオパルスの富裕層の子供にゃん、連れて帰るから親元に連絡を頼むにゃん』

『富裕層の子だね、それはお手柄だよ』

『にゃあ』

 誘拐された子供の身元を伝えて連絡を取って貰う約束をして念話を終えた。


 念話しながらアルボラとの州境にちゃんとした門の設置を行っていた。


 ながら作業だが、プロトポロスの境界門と同じ詰め所付きのモノのコピーなのでそこに再生して終わりなので五分も掛からない。微調整は猫耳たちに任せる。

 それから改めて門を閉ざした。

「これで封鎖完了にゃん」

 結界を張ったので門を乗り越えての侵入も不可だし抜け出すことも出来ない。

 街道は実質ケラスとの境界門までなので立ち入り禁止でも誰も困らない。困るのは盗賊とか逃亡犯など人に言えない事情があるヤツだけだ。

「にゃあ、お館様、ケラスの街道は新たに作り直しにゃんね」

「そうにゃん、まずはネオケラスまで作るにゃん」

 ネオケラスは、ケラスの仮の州都だ。名前は立派だが情報によるとフルグル村といい勝負の規模のようだ。

 そんなところに営業所を作るベイクウェル商会はスゴいの一言だ。年に何度もない虫の素材の買い入れが主な仕事らしい。それも近年は激減して閉鎖寸前だったらしい。

「アルボラ州からネオケラスまで直接行けても便利なのはオレたちだけにゃん」

「そうにゃんね」

「トンネルが先行してるから工期はそれほど掛からないにゃん」

「お館様、街道の規格はオパルスとプリンキピウム間の旧道と同じでいいにゃん?」

「にゃあ、同じ規格でいいにゃん、後から青色エーテル機関の魔獣対策をするにゃん」

「了解にゃん」

「後はここに宿泊施設にゃんね、道の南側に作って、その地下にオレたちの拠点を作るにゃん」

「今回は宿泊施設を二つに分けないにゃん?」

「にゃあ、アルボラ経由でケラスに貴族を呼び込むつもりはないにゃん、それに虫の対策が完璧に出来るまでは一般人の通行も止めにゃん」

「すると使うのはウチらぐらいにゃんね」

「にゃあ、そういうことにゃん、ここからケラスをオレたち色に染めて行くにゃん」

「「「にゃあ♪」」」



 ○ケラス州 境界門前 宿泊所


 境界門からほど近い場所に宿泊施設を作る。それと同時にケラス州境拠点を地下に建設した。

 この宿泊施設にこれから復活させる女性や子供たちを収容する予定だ。

 再生した身体が馴染むまで滞在させて、後は地元に帰るなり新しい場所に移るなりして貰うつもりだ。

 ケラス州政府の仕事を手伝ってくれる人がいると最高にゃん。

 宿泊施設も地下拠点も既に設計のテンプレートが完成してるので再生して設置するだけの簡単なお仕事だ。後は実情に合わせて微調整すればいい。


「レストランは、ちゃんとしないとダメだからね」

 リーリのリクエストで宿泊所のレストランだけはホテル並みのモノが設えられる。ややチグハグだがまあいいか。

「まずは試食だね」

「にゃあ、味の監修は頼んだにゃん」

「任せて!」

 オレの作ったすべてのレストランをいつの間にか統括してるリーリにお任せだ。


「にゃあ、お館様、復活の準備完了にゃん」

 猫耳のひとりが呼びに来てくれた。

「了解にゃん」

 出来たての宿泊施設の地下で女性たちの復活を行う。更に下にオレたちの拠点があるがそちらは関係者以外立入禁止にする予定だ。

 箱を並べた天井も壁も床も白で統一された大広間が復活の儀式の舞台になる。

「にゃあ、始めるにゃん」

 並べた白い箱に魔力を注ぐ。

 聖魔法と治癒魔法が混ざった青い光で広間を満たす。

 死者再生は禁忌の魔法に思われがちだが、肉体と魂があればそう難しくはない。肉体が本体だとすれば魂はOSだ。

 今回は死体に魂を閉じ込めたまま状態保存の魔法が掛けて有ったので、以前の半エーテル体を猫耳にするよりずっと難易度が低い。

 魂との会話の結果、二〇代以上の女性たちは皆んな十八歳の身体を希望したのでそうした。

 他にも希望を取り入れたので美女が四〇人ほど復活した。

 この内、半数が実家や自分の地元に戻ることを希望したので、残りの二〇人がしばらく留まることになる。

 三歳から一〇歳の二〇人の子供たちは実年齢で復活させた。

 ウチのチビたちほど破天荒に育てるつもりはないが、実家に帰れない十七人は衣食住に困らない程度の能力は与えるつもりだ。

 こちらも将来的にケラスの州政府で働いてくれると助かる。

 ちなみに盗賊どもは現在、予定どおり魂を煉獄の炎で炙ってる。特異種に操られたとはいえ、やったことの罰は受けさせる。


「本当だ、生き返ってる」

「服まで新品になってるのね」

「あっ、でも違和感が有りまくり」

 復活した四〇人の美女たちはそれぞれ自分の身体を確かめていた。

 酷い殺され方をしたわけだが、魂の安寧のため記憶は知識に変換してある。経験ではなく知識だからPTSDは回避される。

 猫耳の場合は更に思考共有でオレの倫理観を植え付けるが、彼女たちの場合は禁則事項のみをセットした。

「回収出来た各人の装備や荷物はそれぞれの部屋に置いてあるにゃん、それから今回のことの詳細は秘密にゃんよ」

「ええ、ネコちゃんたちに迷惑を掛けるようなことはしないわ」

「盗賊に捕まったけど、ネコちゃんたちに助けて貰って、体調が戻るまで宿泊施設に滞在したって言えばいいのね?」

「そうにゃん、身体の変化は治癒魔法の副作用って説明してくれればいいにゃん」

「「「了解」」」

「ネコちゃん、ここってどこ?」

 オレより小さい子に聞かれる。

「アルボラとケラスの州境にゃん」

「ふぅ、あの砦の廃墟ではないのね」

 女性のひとりがホッとして息を吐いた。

「にゃあ、砦は丸ごと消したからもう何も残ってないにゃん」

「そうなんだ」

「盗賊も誰一人残ってないにゃん、オレたちが全員始末したにゃん」

「全員いないの?」

「そうにゃん、あいつらも人間の特異種に操られていたにゃん」

「グールじゃなくてですか?」

「にゃあ、グールとは違うにゃん、初めて見る魔力を喰うタイプだったにゃん」

「魔力を食べる?」

「まりょくって美味しいの?」

 ちっちゃい子が首を傾げた。

「にゃあ、普通に他人の魔力を魔力として取り入れるのはおいしくないにゃん、拒否反応が起こるにゃん」

 魔力を注ぎ込むにはエーテル器官を通す必要がある、あの爺さんみたいに全身から吸収なんて無理なのだ。

「私たちスゴいのに当たっちゃったわけね」

「にゃあ、そういうことにゃん」

「ネコちゃんこそ、スゴいけど」

「うん、スゴいし可愛い」

 皆んなに抱き締められる。

「あっ、あたしもネコちゃんをだっこする!」

「あたしも! あたしも!」

 ちっちゃい子たちにも抱き着かれた。

「ご飯の用意が出来たよ!」

 リーリがレストランから皆んなを呼びに来た。

「「「妖精さん!」」」

 リーリも大人気だった。


 夕食の後はラウンジで寛いでもらいながら今後の話をした。

「帰還希望の二〇人は、身体が落ち着いたら猫耳たちが送って行くにゃん、急がなくていいなら好きなだけ滞在していいにゃんよ」

「そこまで甘えちゃっていいの?」

「だからってお金も払えないけど」

「にゃあ、そこは心配いらないにゃん、盗賊どもをのさばらせた領主からのお詫びにゃん」

「私たちが掴まった時、ネコちゃんまだ領主様じゃ無かったでしょう?」

「にゃあ、そうは大きく変わらないにゃん」

 金はうなるほどあるし、今回も魔力だけでどうにかなってしまったので金は使ってない。安上がりな軍事行動はオレたちの強みのひとつだ。

「私たち残留組と子供たちは暫くここに滞在ね」

「にゃあ、もちろん好きなだけいていいにゃんよ、冒険者を再開するならプリンキピウムをオススメするにゃん、ケラスはちょっとオススメしづらいにゃん」

「ケラスは虫でしょう? 絶対無理だわ」

「プリンキピウムか、遠いよね」

「にゃあ、もちろん送って行くにゃんよ、それにオレの知行地だから猫耳が何人か常駐してるから以前と比べたらかなり安全にゃん」

「ネコちゃんは面倒見がいいのね」

「にゃあ、オレが助けたんだから全員、身内みたいなものにゃん」

「ボクたちも?」

 子供たちが首を傾げる。

「にゃあ、もちろんそうにゃん」

 子供たちはオレに駆け寄って抱きついた。

「にゃあ、ネオケラスの整備が整ったらそっちに寄宿学校を作るにゃん、皆んなはそこで勉強したり遊んだりして暮らすにゃん」

「ねおけらす?」

「にゃあ、ケラスの仮の州都にゃん」

「そこって、人が住んでるの?」

 お姉さんのひとりからごもっともな意見が出る。

「にゃあ、オレたちがこれからちゃんとした街に作り直すにゃん」

 現在のネオケラスはどう贔屓目に見ても限界集落っぽい。

「ネコちゃんたちが造るならスゴいことになりそうね」

「それは間違いないよね」

 お姉さんたちがまだ見ぬ将来のネオケラスに付いて盛り上がる。

「にゃあ、お館様の造る街にゃん、スゴいに決まってるにゃん」

「誰も見たことのない街が造られるにゃん」

「それは間違いないね」

 猫耳とリーリまでハードルを上げまくる。オレとしてはユニット化した地下都市をそのまま地上に並べてドームで覆うつもりだったけどダメか?

「ネコちゃん、私もネオケラスに行ってみたい」

「私も連れて行って!」

「にゃあ、そうにゃんね、希望するなら連れて行くにゃん」

 残留する女性二〇人と子どもたち十七人は、ネオケラスの準備が整い次第移動することに決まった。早くも移民をゲットだ。

 誘拐されていた子どもたち三人はカズキが念話で急かすので、明日のうちに州都に届ける予定だ。

「ネコちゃん、私たちそれぞれ個室に滞在なんて本当にいいの?」

「にゃあ、気にしなくていいにゃんよ、部屋は余ってるし身体が落ち着くにはゆっくりするのがいちばんにゃん」


 夜も遅くなって来たのでお姉さんたちはそれぞれの部屋に戻り、子どもたちは大部屋で雑魚寝させる。


 子供たちは大浴場ではしゃいだ後は、電池が切れたみたいに眠ってしまった。

 猫耳たちが毛布を掛けて回る。

 子どもたちからも辛く異常な体験は切り離させてもらった。親兄弟を殺され自分もなぶり殺された記憶なんて、人を狂わせるに十分だ。

「皆んな眠ったにゃんね」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちは小さな声で返事をした。

 いま子供たちの側にお姉さんたちにはいないものが一緒にいる。

 聖魔法を発動させた。

 青い光が広間を満たし子供たちに付いて来たそれが光を帯びる。

 盗賊に殺され打ち捨てられても子供の身を案じて寄り添っていた親たちの魂だ。

 子供が殺された時、半分怨霊化していた。

 すでに生者の頃の記憶も薄れ、ただ子供を守ろうとする意思だけが残ってる。

 このままでは本物の怨霊化しかねない。

「子供たちのことはオレたちが責任を持って面倒をみるにゃん」

 心残りはあるだろうが、半分怨霊化した剥き出しの魂がこのまま地上に残っても良いことはない。

 子供にも害を与えかねない。

 聖魔法の光を強め、魂が人の形を取り戻す。

「にゃあ、後のことはオレたちに任せるにゃん、だから天に還るにゃんよ」

『『『……』』』

 親たちの意思が伝わる。

「にゃあ、任されたにゃん」


 親たちの魂を天に還す。美しくも悲しい光の粒子が天に昇る。


 屋上に出たオレは深くため息を吐いていつまでも夜空を見ていた。


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