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寄り道をするにゃん

 ○プリンキピウム街道 旧道


「お館様、ここから飛ばすにゃんよ」

「にゃあ」

 三台の猫耳ジープは旧道に入って速度を上げる。まだ午前中の早い時間なので旧道を走るホテルに来るお客さんの馬車はまだ近くにはいない。

「お館様、途中でトンネルを使ってショートカットするにゃん?」

「そこまでは急いでないから、このまま旧道でいいにゃんよ」

「了解にゃん」

 連なった猫耳ジープは、こっちの世界ではかなり速い時速一二〇キロで巡航する。

 本物よりも速いかも。


「お館様、ケラスにはどうやって行くにゃん?」

「ケラスにゃん?」

「魔法蟻のトンネルにゃん?」

「ここはドラゴンゴーレムという手もあるにゃんね」

「馬車を連ねて行くのもありにゃん」

 猫耳たちは、いろいろ案を出してくれる。

「にゃあ、最初は普通に街道を通って行くにゃん」

「普通に街道を使うにゃん?」

「にゃあ、アルボラ内では公式に足跡を残すつもりにゃん、バレてる可能性が高いドラゴンゴーレムはともかく、トンネルは秘匿したいにゃん」

「お館様、街道となるといったんレークトゥス州を通らないとケラスには行けないにゃんよ」

「にゃ、そうにゃん?」

 猫耳たちの知識を改めて共有する。

「州都の図書館の地図にはアルボラから繋がってるのに、いまは無いにゃんね」

「にゃあ、以前あったのは獣道に毛が生えたような小道にゃん、馬車は無理にゃん」

「ヤバい獣もいるから危なくて盗賊も通らないような道だったから、森に埋もれたらしいにゃん」

「州都の図書館の情報が古かったにゃんね」

「アルボラからの道が完全に埋もれたのはここ二~三〇年のことにゃん」

「割と最近にゃんね」

「にゃあ、危ない以上にアルボラからケラスに行く用事が無かったのが大きいにゃん」

「確かに用事は無さそうにゃん」

 オレよりも最近まで盗賊だった記憶を持つ猫耳たちの方がケラス情報に詳しい。

「いくら情報の更新が遅いとはいえ、隣の州のことぐらいはちゃんとして欲しいところにゃんね」

「そういう情報は領主様のところにあるにゃん、ウチらみたいな下々のところには下りて来ないにゃん」

「下々の者は、地図なんか無くても危険な場所には近付かないにゃん」

「それもそうにゃんね」

「お館様は、ケラスの何処に行くにゃん?」

「にゃあ、オレの行き先はケラスの州都にゃん」

「ケラスの本物の州都は魔獣の森に沈んでるにゃんよ」

「すると州都を魔獣どもから奪還する必要があるにゃんね」

「さすがお館様にゃん、ヤルことがデカいにゃん」

「シビレるにゃん」

「にゃあ、奪還するためにもまずは調査にゃん、準備が整い次第やるにゃん」

「それと美味しいものを探したいね」

 リーリはオレの頭の上で腕を組む。ブレないところは見習いたい。

「お館様、既に魔法蟻のトンネルはケラスの州都前に達してるにゃん」

「オレも報告は受けてるにゃん、ついでに盗賊どもの動きも把握したみたいにゃんね」

「盗賊どもは情報どおり例の廃棄された砦に篭ってるにゃん、未確認だけど誘拐された女子どもが何人かいるっぽいにゃん」

「未確認にゃん?」

「にゃあ、アルボラとレークトゥスで馬車が何台も襲われて、女子供が連れ去られているにゃん、ただ誰の犯行なのか判明してないにゃん」

「状況証拠からケラスの砦に連れ去られた可能性が高いってことにゃんね」

「そうにゃん」

「群れた盗賊を放置しても何の得にもならないにゃん、災厄を撒き散らす疫病神を放置するのと代わらないにゃん」

「お館様、砦ごと盗賊どもを消すのはどうにゃん?」

「そうにゃんね、悪くない処理にゃん」

「お館様、ちょうど盗賊どものいる砦の在る辺りは今夜あたり雨が降るにゃん、襲撃するにはおあつらえ向きにゃんよ」

「今夜にゃん? にゃあ、人質がいるなら速いほうがいいにゃんね」

「そうは言ってもお館様、盗賊とはいえ、五~六〇〇人からの盗賊をまとめ上げてるリーダーがいる集団にゃん、攻略は簡単じゃないにゃん」

「それだけの数の盗賊を統率いてるヤツのヤバさはオレも十分承知してるにゃん、それだけに油断している今夜決行するにゃん」

「まずはトンネルにゃんね」

「そうなるにゃん、まずはトンネルを使って中間拠点に行くにゃん」

「「「にゃあ」」」


 ジープを近くの休憩所で格納してオレたちは当初の予定を変更して地下トンネルに下りて魔法蟻に跨った。



 ○州都オパルス プリンキピウム間 魔法蟻トンネル 中間拠点


 チビたちは中間拠点に造った地下都市で遊んで貰って今日はここでお泊りするように伝えた。

「「「はい」」」

 トンネル経由で案内された地下都市に目を白黒させていた。

 直ぐに手を繋いでウインドショッピングに駆け出したけど。

 地下都市は運用実験のために各拠点の下にこしらえてある。いざという時に重大な欠陥が発見されては取り返しがつかない。日々バージョンアップだ。



 ○アルボラ州 魔法蟻トンネル


 チビたちのことはお守役の猫耳たちに任せて、オレたちは中間拠点からはトンネルで魔法蟻に乗ってケラスに向かった。

 州都経由で東に向かう。

 無論、目的地は盗賊の巣食う砦だ。場所はアルボラとの境界門の近く。山の斜面に張り付くように造られている。砦が廃棄されたのはケラスの州都が魔獣の森に沈んで廃領寸前になった頃らしいから一〇〇年ほど前か。



 ○ケラス州 境界門 前 森


 オレたちはトンネルから伸びた臨時の出口から初めてケラスに足を踏み入れた。

「いきなり森にゃんね」

 トンネル出口は境界門に近い森の中だ。人もいなければ道も無いので何処に出てもたいがい森の中になるけどな。

 まだ夕暮れ時の時間なのに低く垂れ込めた雲のせいで暗い。それ以前に鬱蒼とした森の中では空もわずかに見えるのみだ。

「にゃあ、雨が近いにしても湿っぽいにゃんね、こうしてみるとプリンキピウムはあれで過ごしやすい土地だったにゃんね」

 プリンキピウムの森よりも不快な湿気った空気が絡み付く。厚く降り積もった落ち葉はオレの体重でさえ歩くたびにじわっと水分をにじませた。

「あっちは大昔に貴族の保養地だっただけはあるにゃん」

「プリンキピウムも獣がうようよしてたけど、ケラスはそれ以上にゃん」

 こうして喋ってる間にもオレたちの周囲に体長五メートル胴回りは七~八メートルは有りそうなずんぐりとした毛虫が集まって来た。

 キャンピングカーのベースに使われる1ボックス車のスーパーロングぐらいあるにゃんね。

「この大きさで毛虫にゃん?」

 巨大な毛虫を虫に分類してもいいのだろうか?

「にゃあ、ケラスは虫系の産地にゃん、あの毛皮も超高級品にゃん、毛皮にした状態でも簡易的な防御結界が残るらしいにゃん」

 元アール・ブルーマー男爵のアルが教えてくれた。

 オレにいちばん近い毛虫はゴールデンレトリバーみたいな色合いの毛をまとってる。普通の毛虫のゴワゴワ感はない。

 他の毛虫も白や黒に銀色など個体差が激しいが同じ種類の毛虫のようだ。いずれも柔らかそうな繊細な毛並みだった。

「お高いのは、なんとなくわかるにゃん、それにしては冒険者は入り込んで無いみたいにゃんね」

 いちばん近い人間の反応は例の盗賊のいる砦までない。

「ケラスの虫はどれも毒があるにゃん」

「毒にゃん?」

「毛虫は毒霧を吐くにゃん」

 アルはケラスの毛虫に詳しいようだ。アルの言葉に反応したかのように毛虫がスプレーみたいな音とともに紫色の毒霧を吐き出した。

「お館様、気を付けるにゃん、毛虫の毒霧は人間を石にする効果があるにゃん」

「にゃあ、石になるなんてプリンキピウムの遺跡の坑道みたいにゃんね」

 防御結界に触れた毒霧を解析する。

「根っこはプリンキピウムの遺跡と同じかも知れないにゃん」

 猫耳たちも毛虫の毒霧を解析して意見をかわす。

「にゃあ、この瘴気はエーテル器官に効くにゃんね、にゃお、これ性質は毒というより高濃度のマナに近いにゃん」

「するとエーテル器官にダメージを与えて身体を金属ではなく石にするにゃんね」

「にゃあ、プリンキピウムの遺跡もたぶん原理は同じかもしれないにゃん」

 あちらは瘴気の代わりに魔法で同じことをしているのだ。

 ついでに毛虫そのものも解析する。エーテル器官を直に叩く毒なんて人工的すぎるし既に魔法の範疇だ。

 やはり、普通の獣とは大きく違っていた。

「にゃお、この毛虫、分類的には魔獣にゃん、エーテル機関の簡易版みたいのが入ってるにゃん」

「にゃ、お館様、それって毛虫から取れる青い魔石のことにゃん!?」

 元盗賊のロアが知っていた。

「それにゃん、青いエーテル機関にゃん」

「にゃー、すると話で伝わっていた毛虫の卵じゃ無かったにゃんね、魔獣なら納得にゃん」

「確かにエーテル機関から魔獣が出て来るから卵と言えなくもないにゃんね」

 毛虫は毒霧を撒き散らす以外は襲って来る様子はない。

 プリンキピウムの森の獣たちが持ってるギラギラ感が無い。アポリト州のヴェルーフ山脈の西側で出会ったタヌキみたいな感じだ。

「毛虫は生きたまま、まるごと研究拠点に送って調べて貰うにゃん、いまはまずは盗賊にゃん」

「「「にゃあ」」」


「盗賊が巣食ってる砦はこの先五キロ地点にあるにゃん、いまウチらはその東側にいるにゃん」

 砦はアルボラとの境界門を見下ろす北側の丘の斜面に造られている、オレたちがいるのは境界門の東方の森の中だ。いや全部、森だけど。

「今日、届いたばかりのベイクウェル商会の最新レポートに依ると『総勢六〇〇強、当初は烏合の衆で有ったが、組織化されたバイネス狩猟団が合流してからは、その様相が激変した』とあるにゃん」

「にゃお、バイネス狩猟団とは、ヤバいのが出て来たにゃんね」

 アポリト州を根城にしていた盗賊団だ。死霊退治で大公国に行った途中でラルフたちから話を聞いてる。

「「「にゃお」」」

 元同業も多いだけに猫耳たちも情報を持っていた。

 バイネス狩猟団の信条を一言で現すと「まず殺す」だ。

「すると砦には、バイネス狩猟団が六〇〇人もいるんにゃんね」

「お館様、ヤツらは普通に殺したほうが世のため人のためにゃん」

「グールでも心が折れかかったのに、本物の人間を殺すなんてオレには無理にゃん」

「お館様は優しいにゃんね」

「殺さないなら、当初の予定どおりアレにゃんね」

「にゃお、そうにゃん、ヤツらの魂を煉獄の炎でこんがり焼いて曲がった性根を一から叩き直すにゃん!」

「「「にゃあ!」」」


 魔法馬を使って森を進む。

 ヤツらの巣食ってる砦の廃墟が見える。山の斜面に位置してるのでこちら側も見通しはいいはずだが、警戒のリソースはすべて西側のアルボラとの境界門側に向けられている。

 毒を吐く大型の虫が巣食う森に守られた東側からの襲撃はまったく想定されてない。


 日が暮れてからオレたちは砦の東側から接近する。


「お館様、探知魔法の結界があるにゃん」

 いわゆる防犯センサーだ。

「にゃあ、ここはヤマタノオロチ直伝の認識阻害の結界を使って侵入にゃん」

「ウチらの姿がモザイク処理されるにゃんね」

「胸熱にゃん」

「にゃあ、例えモザイクでもオレたちの姿を捉えられたら大したもんにゃん。褒めてやるにゃん」

「結界からすると盗賊とは思えないなかなかの魔法にゃん」

 宮廷魔導師クラスと言って差し支えない。

「情報に依るとバイネス狩猟団第二軍団の団長ゴルカ・ベイティア、三五歳童貞が凄腕の魔法使いらしいにゃん」

「にゃあ、童貞まで調べたのは凄いにゃん、でも要らない情報にゃん」

「「「にゃあ」」」

「何で童貞にゃん?」

「女を抱くと魔力が汚れるそうにゃん」

「難儀な魔力にゃん」

「性行為とエーテル器官には、これと言った因果関係がないにゃんよ」

「にゃあ、昔からある迷信にゃん」

「探知結界の出来からすると凄腕なのは間違いないにゃん、何で盗賊をやってるのか不思議にゃん」

「噂だとヤツは女をいたぶって殺すのが趣味にゃん、その手下どもも類友の変態ぞろいにゃんね」

「「「にゃおおお!」」」

 全員がしっぽを毛羽立たせる。

「オレがヤツの魂が純白になるまでシゴき倒し決定にゃん!」

「ウチらもやるにゃん、シゴきまくりのシゴキ倒しにゃん!」

「「「にゃあ!」」」

 オレたちは認識阻害の結界を最大にして馬を進めた。

「ゴルカの結界に入るのかと思うと気持ち悪いにゃん」

「いやらしくねっとりと絡み付くにゃん」

「「「みゃあ」」」



 ○ケラス州 盗賊の砦


「ちっ、降り出しやがったか」

 見張りに立った二〇台後半の男はボロ布を被りながら忌々しそうに大粒の雨が落ちる真っ暗な空を見上げた。

「まったく」

 男は不平を口にしそうになって慌てて周囲を見回した。

 下手なことを言ったら地下牢行きだ。

 バイネス狩猟団のヤツらは仲間を殺さない。その代わり地下牢で拷問して楽しんでる。そこは地獄としか言いようのない場所だ。

 ヤツらはそれを新しい仲間に見せ付けて支配していた。

 男も相当非道なことに手を染めたつもりだったが、バイネス狩猟団のイカレた連中に比べたらガキのいたずらだ。

 レークトゥス州では名の知られた盗賊団にいたが、騎士団と武装商人が連携しての盗賊狩りから命からがらケラスに逃げ延びたまでは良かったが、砦にヤツらが来てからというもの、生きた心地がしない日々を送っている。

 耐えられず逃げた仲間は捕まって、いまは地下牢だ。

 あんな目に遭うぐらいなら武装商人に捕まって犯罪奴隷に売り飛ばされた方が遥かにマシだろう。

 突然、肩を叩かれた。

「どうかし……」

 言葉が終わる前に頬に衝撃が走った。

「あぅ」

 よろけて倒れる前に今度は反対側から重い衝撃が来た。

「ひぃ」

 更に反対側から衝撃、またその反対側から衝撃と倒れることすら許されない。棍棒で殴られてるような衝撃が続く。

「助け……」

 骨が軋み歯が砕け鋭い痛みが倍増する。

 それなのに失神することもできない。

 いったい何が起こってるんだ!?

 衝撃で歪んだ視界には雨の降る暗闇にしか見えない。

 男はべちょっとぬかるんだ地面に倒れて初めて意識を失った。


「こいつはひとまず箱に入れとくにゃん」

「にゃあ」

 見張りを猫パンチで倒したオレは、そいつの頭を踏んで記憶から砦の内情を読み取り猫耳たちと共有した。

 使用済みの男はこの場で再生した猫耳のゴーレムたちが箱に仕舞った。

「にゃあ、バイネス狩猟団はマジでエグいにゃんね」

 バイネス狩猟団は先代首領の娘、アウローラ・バイネスに率いられている。

 アウローラは二五歳の女性だが身長二メートルちょっとあり、クマを素手で瞬殺する戦闘能力の持ち主だ。

 常時肉体強化の状態らしく、拳でバイネス狩猟団をまとめている。常時肉体強化はたぶんエーテル器官のエラーだ。

 普通は誕生前に母体ともども死んでしまうのだが、誰かが母親を殺して取り出したのだろうか。

 ラルフ経由の情報どおり美人なのは間違いなかった。


 男の記憶に依るとバイネス狩猟団は三つの軍団で構成されてる。

 怪力キリアン・カブレホが率いる第一軍。

 こいつは先代からバイネス狩猟団に忠誠を誓う戦闘狂。

 正面から見ると正方形に近い体格で隻眼で全身が岩のように硬い。これもエーテル器官のエラーだ。


 次に変態魔法使いのゴルカ・ベイティアが率いるのが第二軍団。

 手下も似たようなのが多い。

 バイネス狩猟団の悪名を高めてるのは間違いなくこいつらだ。


 そして第三軍団を率いるのは王国軍の元軍人エルゲ・コルテス。

 手下も王国軍の脱走兵で構成されてる。

 ケラスで起こった王国軍の強制徴発事件で略奪の味をしめたヤツらの転職先だ。


「にゃあ、軍団長の他にベイクウェル商会のレポートに無かったヤバい魔法使いがもうひとりいるにゃん」

「首領補佐の爺さんにゃんね」

「そうにゃん、カロロス・ダリにゃん、拷問部屋担当で魔力量が半端ないにゃん」

「要注意にゃん」

「「「了解にゃん」」」


 オレたちは薄暗く血の臭いがする砦に侵入した。


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