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超巨大魔獣にゃん

 ○魔獣の森 研究拠点


『にゃあ、現在の状況はどうにゃん?』

 研究拠点の地下に到着したオレはそのまま地上に向かった。

『魔獣は微速接近中にゃん、数は五体以上一〇体以下と思われるにゃん、認識阻害の結界が強力で完全に把握できないにゃん』

『わかったにゃん』

 どうやら自分の目で確かめるしか無さそうだ。

 研究拠点のドームを出て、魔獣のいる南側を眺める。既に日は沈んでいるが空に浮かぶオルビスの明かりで目を凝らすまでもない。

「にゃ!? モザイクが現実の空間に広がってるにゃん!」

 かなり離れてるのにモザイクは魔獣の森いっぱいに広がっていた。肉眼で見てもモザイクって強力だけど何か意味があるのか?

「にゃあ、魔獣の森いっぱいにモザイクを掛けなきゃイケないものが広がっていたら嫌すぎにゃんね」

『お館様、モザイクは超巨大魔獣の認識阻害をレジストした弊害にゃん、ウチらでもモザイク状態で認識するのがやっとなだけにゃん』

 研究拠点の猫耳が真面目に答えてくれる。

 そうにゃんね、フザケてる場合じゃないにゃんね。

 クラーケンもバカみたいに大きかったが、今度の超大型魔獣は複数いるだけにまるで津波だ。モザイクが視界いっぱいに広がったせいで目がチカチカする。

「にゃあ、これから物理障壁を追加するにゃん!」

「「「にゃあ!」」」

 猫耳たちと力を合わせ一緒に新しい物理障壁を押し寄せるモザイクと元の障壁との間に何枚も作る。魔獣もデカいが物理障壁もデカい。

 どっちも異世界的な風景だ。

 片方は自分で造ったんだけど。

 モザイクの掛かった超巨大魔獣がゆっくりと新しく追加された物理障壁に近付く。

「物理障壁に接触したらヤツらの認識阻害の魔法式を直に読み取ってやるにゃん」

 ゆっくりと言っても人間の足ではまず逃げ切れない速度で、森がモザイクの波に呑み込まれる。

「お館様、来るにゃん!」

「にゃあ、物理障壁に魔獣の認識阻害の結界が触れたにゃん」

 超巨大魔獣の認識阻害の結界が到着する。魔獣の防御結界はまだ届いてない。二つの結界が混ざっていないのはオレにとって好都合だ。

「解析にゃん」

 読み取った認識阻害の魔法式を少しずつレジストする。

「にゃあ、見えてきたにゃん」

 モザイクが薄くなり幾つもの首が見えてきた。

 このシルエットはドラゴン?

 いや違う、複数の首に胴体が一つだ。

『にゃ!? 魔獣は一体にゃん、にゃお、まるでヤマタノオロチにゃん!』

 首の数まで八つだ。巨大な八つ首のドラゴンが超巨大魔獣の正体だった。

 オレが解析した魔獣の画像と一緒に猫耳たちに念話を送った。

『『『頭が八つも有るにゃん!?』』』

『にゃあ、左右に広がって見えたのは、魔獣の防御結界だったみたいにゃんね、横に五~六〇キロとは広げ過ぎにゃん』

『それでマナを効率的に確保してるっぽいにゃん』

 研究拠点の猫耳が推測する。

 ヤマタノオロチも実際の大きさはクラーケン級だからデカいことに変わりはない。

『お館様、足が八本あるにゃん』

『にゃあ、シッポも八つにゃん』

『豪華仕様にゃん』

『羽根は二枚だけみたいにゃん』

『にゃお、あの巨体で飛ぶにゃん!?』

『羽根はマナを吸い取る器官みたいにゃん、あの巨体ではまず飛べないと思うにゃん』

 夜空に赤い閃光が瞬く。

 首を持ち上げた魔獣に外側の森からレーザーが飛んだ。

 クラーケンみたいに高度限界の三〇〇メートルを突破したらしい。

 ヤマタノオロチの防御結界がレーザーを弾き、赤い光の筋が上空に飛ばされて消える。

『お館様! 侵食系の結界の展開を確認にゃん!』

 研究拠点の観測班から声が上がった。

 続けて左右からレーザーが撃ち込まれるがヤマタノオロチの侵食系の結界に阻まれ消失した。

「にゃ!?」

 モザイクで隠されたヤマタノオロチの首の一つから赤いレーザーが放たれた。ドラゴンだけに口からレーザーを吐いた。

 たぶん攻撃されたのと同じ軌跡だ。

 イージス艦みたいな機能を持ってるらしい。

 森の中で爆発が起き、火柱が上がる。

 あそこに高度限界用のレーザーの発射口があったのか?

『お館様、いまのヤマタノオロチの攻撃で魔獣の反応の一つが消えたにゃん』

『にゃ、高度限界のレーザーを撃ってたのはやっぱり魔獣だったにゃん?』

「にゃあ、すべてがそうかどうかはまだわからないにゃん、でも、今回のは紛れもなく魔獣にゃん』

 高度限界でぶっ放されるレーザーは、魔獣の森から遠く離れた場所でも確認されてる。それはさておき今回は紛れもなく魔獣が発射口を担ってる。

『お館様! また魔獣が消滅したにゃん!』

『にゃ!?』

 左右から攻撃されたヤマタノオロチの首は一方の魔獣にしかレーザーで反撃しなかったのだが、もう一方の反撃を受けなかったはずの魔獣がいま跡形もなく消えた。

『にゃあ、オレも確認したにゃん』

『生きた魔獣を直に分解したみたいにゃん』

『にゃあ、そんなルール違反が可能にゃん?』

『現に可能みたいにゃん』

 生き物は直に分解できないのがこの世のことわりだったはずなのだが。

『にゃあ、お館様、いまの消えた魔獣は分解されただけにゃん、ヤマタノオロチは再生の為の情報を読み込んでないにゃん』

『にゃ、消しっぱなしにゃん?』

 格納ではなく、単に分解するのはOKらしい。この世の理は結構いい加減だったにゃんね。

『にゃあ! だからお館様も危ないにゃん!』

『わかってるにゃん、十分に注意するにゃん』

 ヤマタノオロチはマナゼロ地帯であっても関係無しに入り込んで来る。

『お館様、ヤマタノオロチの防御結界がいちばん外側の物理障壁に接触するにゃん!』

『にゃあ、魔獣の森に展開してる猫耳は全員、各拠点の最深部に退避するにゃん!』

『お館様はどうするにゃん?』

『にゃあ、オレは速攻逃げられるから大丈夫にゃん』

『外側の物理障壁の一部が消滅にゃん! かなり広範囲に消えたにゃん!』

 さっき作ったいちばん外側の物理障壁を魔獣は難なく消し去った。

 対侵食結界の魔法がまったく効かなかった。

『にゃあ! 全員退避、急ぐにゃん!』

『お館様も逃げるにゃん!』

『オレは、ちょっと試したいことが有るにゃん』

『『『お館様、ダメにゃん!』』』

『にゃあ、オレはオリジナルの稀人にゃんそう簡単に消されたりしないにゃん』


 猫耳たちを全員、移動させてからオレはヤマタノオロチを封印結界で覆った。

 同時にオレを加速する。

 物理障壁を分解した時に魔法式を読み取って解析した結果、ヤツの分解はオレの分解と違って侵食結界の変形型だと判明した。

 対象を侵食結界で覆ってエーテルに還す。このプロセスを超高速で行っているから見た目が分解と変わらないのだ。

「にゃあ!」

 オレはヤマタノオロチの目前に飛んだ。一度消された物理障壁を再生してその目前に立つ。

「オレが遊んでやるにゃん!」

 八つの首がオレを見た。

 魔力を解放したオレから目を離せなくなったようだ。

 侵食結界を押しやって穴を開け内側に入り込んだオレもヤマタノオロチを見る。

 金色に輝く身体は、金色の生きてる金属で構成されていた。オレたちが子ブタ亭の地下で掘り当てたモノより高性能らしい。現に一つのエーテル機関でしっかり動かしてる。一時間で一日の活動限界を迎えるクラーケンとは大違いだ。

 ヤマタノオロチはオレを一飲みにしようと首のひとつが口を開けて突っ込んで来る。大きさを比べるとオレはゴマ粒より小さいのだが、油断すること無く全力だ。

 激しい衝突音が響く。

 オレに向かって突っ込んだヤマタノオロチの首は、防御結界にブチ当たってその衝撃と自重で激しく潰れた。

「にゃ、復元にゃん?」

 潰れた首を持ち上げた次の瞬間、頭が元の形に戻った。

 全身が生きてる金属で構成されてるから可能な荒業か。

 八つの頭はオレの認識を改めたようだ。

 ヤマタノオロチはオレを再度、侵食結界で覆い、邪魔な防御結界を消しに掛かる。

「にゃあ、でもそうは簡単にはいかないにゃんよ」

 こっちは溶かされるよりも早く次の防御結界を張る。

 何のことはないいつもの浸食系の対策と同じだ。ただ再生速度は以前と比べ物にならないほど高速になっている。

 これも猫耳との思考共有がオレの演算能力を引き上げてくれた恩恵だ。

「にゃあ、ここからが本番にゃん」

 結界の中を真空にした。

 エーテル上に展開していた認識阻害の結界が破壊され、モザイクが落ちてヤマタノオロチの姿が夜空にさらされる。

 オルビスの光を浴びる金色に輝く八つ首の龍は美しいの一言だ。そしてこの大きさは本能的に恐怖を呼び起こす。

 更に今度は逆にヤマタノオロチの防御結界がオレの結界に侵食されて中和させられる。

「にゃあ、行くにゃん!」

 ヤマタノオロチを囲んだ全周の空間から半エーテルの弾丸を発射する。

 億を超える弾丸が降り注ぐ。

 ヤツの防御結界が弾丸を綺麗に消し去るが、それに仕込んだマナを分解する魔法がしっかり仕事をした。

 マナは電撃に変換され防御結界の表面でスパークする。

「にゃあ、地面の下から悪さしようとしてもダメにゃん」

 地面に侵食結界の根を伸ばそうとしたが真下からも半エーテルの弾丸の雨に突き上げられる。

「にゃあ、なかなかマナが切れないにゃんね」

 マナゼロの領域にいるはずなのにヤマタノオロチの防御結界は再生を続けていた。その巨体の中に液体マナぐらい高濃度のものが備蓄されてるのだろうか?

 エーテル機関一つで超高濃度のマナの生成。備蓄には格納空間を使うにしても魔力コストがゼロではない。

『お館様、そいつ、シッポの先からコードが出てるにゃん、認識阻害の結界が消えて見える様になったにゃん』

『にゃ!?』

 どぎつい認識阻害の結界が消えて、尻尾の先からフレキシブルパイプみたいなのが繋がってるのが丸見えだった。

『にゃあ!』

 八本のシッポそれぞれに繋がるパイプをすべて切断する。パイプから濃いマナが吹き出し途端にヤマタノオロチの防御結界が弱体化した。

 弾丸を受け止められなくなり、その身体に直に弾丸が食い込む。

 オレはパイプの元にも弾丸を撃ち込みその先を結界でくくりマナを抜いた。

 ヤマタノオロチの首が力を失い一つずつ地面に落ちる。

 防御結界が消え身体を動かす魔力も尽きたヤマタノオロチは、もう巨大な金の彫像と変わらない。

「にゃあ!」

 隠せなくなったエーテル器官に杭を打ち込んで破壊し、その躯を分解格納した。

 その直後、腹に響く轟音がした。

 そして地面が割れ、真っ白なでブヨブヨしたモノが這い出して来た。

『にゃあ、芋虫にゃん!』

 巨大な芋虫が地面から出て来た。

 全長三〇〇メートルはあるぞ。

 こいつがマナの供給源か?

 しかも一匹じゃない。

 後から七匹の芋虫が枯渇したマナを求めて地面から這い出した。いずれもヤマタノオロチのシッポに繋がっていたヤツらだ。

 こいつらがマナのタンク役だったわけだ。

『にゃあ!』

 全部で八匹の芋虫を串刺しにして始末した。デカいけどそれだけだった。単独の防御結界は無くヤマタノオロチが一緒に守っていたのだろう。

「にゃあ、何とか勝ったにゃん」

 集合体では無かったが生きてる金属がそれを補っていた。それに八つもタンクをぶら下げてるから、まるで分解みたいに強力な侵食結界なんてメチャクチャなことが出来たのだろう。

「「「お館様!」」」

 猫耳たちがワラワラと出て来た。

「おまえら、ちゃんと避難してたにゃん?」

「に、にゃあ、してたにゃんよ」

「「「にゃあ」」」

「まあいいにゃん、次はちゃんと逃げるにゃんよ」

「「「にゃあ!」」」

「返事だけはいいにゃんね」

「お館様、ウチらは直ぐにヤマタノオロチの溶解結界をレジストする研究を始めるにゃん」

「了解にゃん」

「ウチらは、消された物理障壁を強化するにゃん、ついでにもう一〇枚ぐらい増やすにゃんね」

「わかったにゃん」

「ウチらはお館様とお風呂にゃん」

「「「にゃあ♪」」」

 まずは全員でお風呂タイムになった。


 ヤマタノオロチから得られた最新型の生きてる金属を解析して、猫耳ゴーレムやディオニシスを始めすべてをバージョンアップさせた。

『これはいいぞ、主よ』

 ディオニシスが夜空を飛ぶ。

『ニャア!』

 戦艦ゴーレムもご機嫌だ。

 ディオニシスの連続飛行時間が三〇分から一時間程度まで伸びた。魔力の供給さえあれば半永久的に飛べるほどの耐久性も確保されてる。魔力炉の発見待ちだ。


 侵食結界をレジストする魔法式も日付が変わる前に完成させた。

 直ぐに各拠点とそれぞれの防御結界をバージョンアップさせ、不意打ちにも対抗できるようにした。

 魔獣以外が使うとも思えないが備えあれば憂い無し。アパートの鍵を何度も確かめてしまう派のオレは心配症なのだ。



 ○帝国暦 二七三〇年〇九月十三日


 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ペントハウス


 プリンキピウムのホテルのペントハウスで目を覚ました。日付が変わって直ぐぐらいに戻って来たのだ。

「今朝も埋まってるにゃん」

 いつの間にかペントハウスのリビングは雑魚寝する猫耳でいっぱいになっていた。

「にゃああああ!」

 以下略。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー


 朝食の後、冒険者ギルドに顔を出した。

「にゃあ、おはようにゃん」

「ネコちゃん、もう行っちゃうの?」

 セリアが席を離れてオレの前に出て来た。

「午前中に出ないと後が大変にゃん」

「そうなんだけど、ネコちゃんが出て行っちゃたらここも寂しくなっちゃうね」

「そう、絶対に寂しくなるよ」

 デニスも出て来てくれた。

「にゃあ、拠点を移すと言ってもちょくちょく帰って来るにゃん、デリックのおっちゃんはいるにゃん?」

「ええ、いるわよ」

 セリアはオレの手を引いてギルマスの部屋に連れて行ってくれた。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室


「よう、マコト、今日出るんだってな」

「そうにゃん」

「いろいろ世話になった、あっちに行っても元気でやれよ」

「にゃあ、オレこそデリックのおっちゃんには世話になったにゃん、また顔を出すから、皆んなのことよろしく頼むにゃん」

「おお、任せとけ、せっかくプリンキピウムの街をマコトが良くしてくれたんだ、この流れを断ち切らないようにする」

「にゃあ、デリックのおっちゃんなら大丈夫にゃんね」

「これからは王宮の貴族どもと接する機会も増えるだろうから、マコトも気を付けろよ、あいつらは魑魅魍魎だ、魔獣より厄介だぞ」

「そうにゃんね、領主様からもいろいろ聞いてるにゃん」

「まあ、マコトほどの魔法使いをどうにかできるヤツがいるとは思ってないけどな」

 ガハハと笑う。

「にゃあ、油断はしないにゃんよ」

「大変だろうけど頑張れよ、王都には兄貴もいるし親父殿もウロチョロしてるから困ったことがあったら相談するといい」

「にゃあ、そうさせてもらうにゃん」

 最後にデリックのおっちゃんと握手して部屋を出た。


 ゴツゴツした大きな手は、オレをちょっと懐かしい気持ちにしてくれた。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 前


 ホテルの前で皆んなの見送りを受ける。

「にゃあ、それじゃ行って来るにゃん」

「マコトさん、道中気を付けて」

「にゃあ、ノーラさん後は頼んだにゃん」

「早く帰ってきて下さいね」

「にゃあ、なるべく早く顔を出すにゃん、落ち着いたら皆んなも遊びに来て欲しいにゃん」

「ええ、是非」

 ノーラさんは丁寧にお辞儀してくれた。


「マコト様、旅のご無事をお祈りしております」

「マコト様の新たな栄光に繋がるものと信じていますわ」

 それからポーラの両親で副支配人のマシューとハンナにもまた大仰な挨拶を受けた。

「にゃあ、ホテルのことは任せたにゃん、ノーラさんを支えてやって欲しいにゃん」

「無論です、この命に代えましても」

「はい」

「命と家族の次ぐらいでにゃんよ」


「風邪を引かないようにね」

「ケラスの森は何があるかわからないから気を付けなよ」

「にゃあ、勿論にゃん、コレットとフェイも元気でにゃん」

 出来ることならいい人を見付けて欲しいものだ。


「「「新メニューいっぱい作って待ってる!」」」

 アトリー三姉妹が泣き笑いの顔をしていた。

「にゃあ、楽しみにしてるにゃん」


「いろいろありがとう、マコトさん」

 シャンテルにハグされた。

「シャンテルには引き続きアシュレイたちを手助けしてやって欲しいにゃん」

「はい、任せてください」

 シャンテルとアシュレイは仲良しだ。どちらも苦労したお姉ちゃん気質だから気が合うのだろう。

「ネコちゃん、いっちゃやだ!」

 涙で顔をくしゃくしゃにしたベリルがオレに抱き着いた。

「にゃあ、ちょくちょく戻ってくるし、猫耳に言ってくれれば直ぐに連絡が付くから大丈夫にゃん」

「ほんとうに?」

「にゃあ、本当にゃん」

「ベリル、マコトさんはお仕事に行くのだから邪魔をしてはいけませんよ」

「そうだよ、マコトさんはまた帰って来てくれるんだから」

 ノーラさんとシャンテルに諭されて涙を拭くベリル。

「……うん」

「ベリルはいい子にゃん」

「マコト、オレが作ったサンドイッチだ、途中で皆んなで食べてくれ!」

 子ブタ亭から駆け付けてくれたジェドがバスケットを渡してくれた。

「にゃあ、ありがとうにゃん」

「ジャックとバッカスもよろしくって言ってたぞ!」

「にゃあ、子ブタ亭とジャックたちを頼んだにゃん」

「おお、任せとけ!」


 それからレベッカとポーラに抱っこされた。

「ネコちゃん、直ぐに帰って来てよ」

「待ってますわ」

「にゃあ、ふたりとも怪我のないように頼むにゃん」

 こっちもいい人を見付けて以下略。


 傍らではビッキーとチャスそれに四歳児たちも仲良くなった寄宿学校の子たちと別れを惜しんでいた。

「「「元気でね」」」

「「「うん」」」

 引き離したくはなかったが、チビたちの魔法のことを考えればプリンキピウムに置いて行くわけにはいかない。

 今後、近衛軍の騎士がホテルに来ないとも限らない。

「にゃあ、アシュレイには苦労を掛けるけどよろしく頼むにゃん、困ったことがあったら近くをうろちょろしてる猫耳に相談するといいにゃん」

 寄宿学校の実質的なリーダーのアシュレイに話をする。

「マコトさんにはもう十分に良くして頂きましたから大丈夫です」

 とても十一歳とは思えない受け答えだ。

「遠慮はいらないにゃん、それにアシュレイたちには将来的にオレの仕事を手伝って欲しいにゃん」

「はい、マコトさんのお手伝いでしたら、いつでも」

「にゃあ、約束にゃんよ」


 拠点を変えると言ってもプリンキピウムを捨てるわけじゃない。知行地はそのままだし大勢に大きな変化はない。


「にゃあ、ちょっとの間だけプリンキピウムを留守にするにゃん、その間、街のことを頼むにゃんよ」

「「「おお、任せろ!」」」

 冒険者ギルドの職員たちやカーティスさんも見送りに出て来てくれた。アンやチャックもいる。皆んなが手を振ってくれた。

「「「ネコちゃん、行ってらっしゃい!」」」

 寄宿学校の子たちが声を揃えた。

「にゃあ、行って来るにゃん!」

 皆んなに見送られて猫耳ジープを三台連ねて出発する。

『『『ニャア!』』』



 ○プリンキピウム 西門


「元気でな、マコト様」

「にゃあ、隊長も元気でにゃん」

「マコト様に敬礼!」

 最後に守備隊の隊長と挨拶を交わし、隊員たち敬礼に見送られて城壁の外に出た。



 ○プリンキピウム街道


「にゃあ、しばらく帰って来れないにゃんね」

「お館様、ジープが旧道に入ったらスピードを上げていいにゃん?」

「にゃあ、他の馬車や人が居ないとき限定にゃんよ、ただでさえ魔法車は珍しいから事故の元にゃん」

「そこは大丈夫にゃん、ウチらの華麗な運転テクニックを披露するにゃん」

「後は任せるにゃん」

 運転席と助手席を猫耳に任せてオレは荷台で人をダメにするクッションにボスっと埋まった。

 そして振り返る。

 オレが初めて訪れた街プリンキピウムが離れて行く。

 そこで出会った人たちの顔が浮かぶ。

「にゃあ、やっぱり寂しいにゃんね」

 涙があふれていた。

「お館様が寂しく思うのは当然にゃん」

「にゃあ、でも泣いてなんかいられないにゃん、オレたちはこれから魑魅魍魎の棲む世界に飛び込むにゃん」

 拳で涙を拭った。

 もう後戻りは出来ない。

「お館様と一緒なら何処でも楽しいにゃん」

「にゃあ♪」

「オレもおまえらと一緒にいると楽しいにゃん」

『『『にゃあ♪』』』

 各拠点の猫耳たちも楽しそうに鳴いた。

「あたしもいるからね」

 オレのセーラー服の胸元からリーリが這い出す。

「「「いっしょ!」」」

 並走してるジープからチビたちも声を上げた。


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