診療所にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇九月十二日
今朝も猫耳に埋もれて目を覚ましたが昨日と同じなので割愛にゃん。
○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー
賑やかになったラウンジを通り抜けて、朝のうちにオレは猫耳を三人連れて冒険者ギルドに赴いた。
本日もリーリは厨房に篭もっているので別行動だ。
冒険者ギルドのロビーでは冒険者たちがドーナツを食べてる。これは入口で猫耳たちがドーナツを配ってるからだ。
「マコト、ごちそうさま」
「ネコちゃん、どうもね、美味しかったよ」
ドーナツを頬張る冒険者たちからお礼を言われた。
「にゃあ、ドーナツはこれからも毎朝配るから、しっかり食べて狩りに行って欲しいにゃん」
「「「おおっ!」」」
これも冒険者の生存率を高める活動の一環でもある。腹ペコで狩りに出ても力が入らない上に危険だ。
「にゃあ」
冒険者らしき十四~五歳の男子がふたりいる。双子とかでは無いがどちらも薄汚れて痩せていてあまり健康そうな感じではなかった。
こっちでは成人扱いなわけだが、ドーナツを一心不乱に食べてるところを見ると経済状況は推して知るべしだ。
「にゃあ、おまえら、今日から子ブタ亭に泊まるといいにゃん」
「「えっ?」」
ドーナツを齧ったまま止まる。
「俺たち文無しだけど」
「う、うん」
「費用はお館様が立て替えてくれるにゃん」
「ある時払いの催促なしにゃん」
「いまのねぐらよりずっと快適にゃん」
猫耳たちもオススメする。
この子たちにも冒険者としての矜持があるだろうから完全な無料にはしない。
「「本当にいいのか?」」
「にゃあ、稼げるようになったら返してくれればいいにゃん」
ふたりをおなかいっぱいにさせて送り出した。狩りは腹ごなしをしてから始めるように言い聞かせて。
「ネコちゃんは優しいね」
受付のセリアに声を掛けられた。
「にゃあ、いちばん死にやすそうなポジションだったから少し変えてやったにゃん」
死神は離れてくれただろうか?
「にゃあ、デリックのおっちゃんはいるにゃん?」
「ギルマス? ええ、いるわよ」
執務室を指さした。
「ネコちゃんたちなら、そのままギルマスの執務室に行っていいよ」
横からデニスが許可してくれた。
「にゃあ、行ってみるにゃん」
「「「にゃあ♪」」」
○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室
執務室の扉をノックして返事が有ったので中に入った。
「マコトたちか、今日は早いな」
「にゃあ、また土地を売って欲しくて来たにゃん」
「おお、土地か、いいぞ、今度は何処が欲しいんだ?」
「門の近くに診療所を作りたいにゃん」
「診療所? あのホテルの医務室みたいなヤツか?」
「そうにゃん、あれはホテルのお客用だから冒険者用を作るにゃん」
「冒険者用か、そいつはいいな」
「にゃあ、死んでなければ治せるぐらいにはするにゃん」
子ブタ亭の大浴場にぶち込めばたいがい治るけどな。
「おお、本当か?」
「「「本当にゃん」」」
「お館様は、嘘をつかないにゃん」
「確かにそうだな、カーティスさんを見ればわかる、あの人ほどじゃないが障害を負った元冒険者は少なくないからな」
「にゃあ、診療所が出来たら片っ端から叩き込んでいいにゃんよ」
「ただでやるのか?」
「にゃあ、冒険者と元冒険者は格安でいいにゃん、あとお金のない人は銀行で貸し付けるから後払いでいいにゃん」
「それだと収拾が付かなくなりそうだな」
「にゃあ、急患や重症者以外は冒険者ギルドで仕切って欲しいにゃん」
「おお、いいぞ」
「本業の治癒師の仕事を取らない様に頼むにゃん」
「心配しなくてもプリンキピウムには元から治癒師はいない」
「そうにゃん?」
「何ぶん数が少ないからな、州都周辺に何人かいるだけだ」
「そうにゃんね」
「この辺りに出張って来るヤツも以前はいたが十中八九、騙りだった」
「騙りは重罪にゃん」
「その通り、犯罪奴隷行きだが立証するにも巧妙なヤツが多くてな、全部捕まえたが」
「にゃあ、これまで急患はどうしてたにゃん?」
「治癒魔法を少し使えるギルド職員をたまに回して貰ってたから、それに当たれば助かるが、外れてたらそれまでだ」
「にゃあ、それも酷いにゃんね」
「何処も似たようなもんだぞ、いまでこそマコトのホテルの医務室を使わせて貰ってるから、プリンキピウムだけは特別良くなったけどな」
「それは何よりにゃん」
「冒険者がメインの診療所なら冒険者ギルドから土地を寄付するぞ」
「太っ腹にゃんね」
「「「にゃあ」」」
「そのぐらいはするさ、それに門の近くは人気薄だから、城壁の間と同じで元々マコトの土地みたいなものだぞ」
「そうにゃん?」
「何か有ったら最初に襲われる場所だ、わざわざ家や店を作るヤツはいない」
「にゃあ、それもそうにゃんね」
「よし、書類をやっつけたら俺が案内してやろう」
「にゃあ、助かるにゃん」
○プリンキピウム 西門脇
冒険者ギルドのギルマスことデリックのおっちゃんが用意してくれたのは本当に門の直ぐ横、守備隊の詰め所の真向かいだった。
要はオレが作り直した第二と第三城壁の繋いだ部分の手前だ。
「デリックの旦那にマコト様とその仲間か、今日はどうかしたのか? 新しい門だったら調子は抜群だぞ」
守備隊の隊長が詰め所から出て来た。
新作の三重の門だが、ボタン一つで開閉できる。生きてる金属を使い鎧蛇の魔法で浮かせて動かす仕組みだ。
「マコトが冒険者の診療所を作ってくれるんだ」
「診療所!? おいおい、冒険者だけかよ、俺らにも頼むぜ。安月給で朝から晩まで働かされてるんだから」
「にゃあ、いまは安月給じゃないはずにゃんよ」
給与体系はこの前、変えたばかりだ。領主様が出してる分にプリンキピウムの街から手当を上乗せしてある。治安維持の人間が薄給だといろいろ弊害が出るものだ。
「おおっと、そうだった」
「おまえらは、治癒師の治療を安く受けられるだろう?」
「州都の本部まで行ければな」
「州都は遠いにゃんね」
「「「にゃあ」」」
「守備隊に専属の治癒師はいないにゃん?」
「前はいたが諸侯軍の軍医も兼任してたせいで、二年前の国軍の大改革で転属しちまって以来、後任なしさ」
「それは、少ないどころの騒ぎじゃないにゃんね」
「守備隊の連中も入れてやっていいんじゃないか?」
「にゃあ、守備隊の皆んなもいいにゃんよ、と言うか誰でもいいにゃん、冒険者ギルドに任せるにゃん」
「わかった、冒険者が最優先なのは変わらないが、制限は付けないようにしよう」
「では、作るにゃん、準備はいいにゃん?」
「「「にゃあ」」」
昨夜のうちに猫耳たちと一緒に設計した診療所を再生した。
○プリンキピウム 診療所
「「「おおおおっ!」」」
デリックのおっちゃんに守備隊の隊長、それと通りすがりの冒険者たちが驚きの声を上げた。
守備隊の面々も口をあんぐり開けている。
地上五階地下二階(表向きは)の正方形に近い大きさの建物は生きてる金属で作られてる。
「場所が場所だから頑丈に作ったにゃん」
「それにしてはガラス張りの様だが」
「にゃあ、ガラスじゃなくて透明な金属にゃん」
「透明な金属なんてモノがあるのか? マコトたちに掛かったら何でも有りだな」
「中も出来てるにゃん、試しにデリックのおっちゃんと隊長を診察してやるにゃん」
「俺は何処もおかしくないぞ」
「俺もいたって健康だ」
「にゃあ、最初は皆んなそう言うにゃん」
「まずは試してみるにゃん」
「お試しにゃん」
「おふたり様、ご案内にゃん」
猫耳たちに背中を押されてデリックのおっちゃんと隊長は中に入った。
『ニャア』
ロビーには猫耳ゴーレムが待機していてカプセルの並ぶ診察室に案内する。
「ホテルの診療室と同じか」
「にゃあ、基本は同じにゃん」
「カプセルの中に寝そべるにゃん、デリックのおっちゃんでも十分に収まる大きさにゃんよ」
「わかった」
「ただ横になればいいんだろう?」
「そうにゃん、靴も履いたままでいいにゃん」
デリックのおっちゃんと隊長が寝そべったところでカプセルの蓋を閉じた。
「診察と治療開始にゃん」
『『ニャア』』
それぞれ担当のカプセルの診断結果を読み取って猫耳ゴーレムたちが治療方針を決定する。
「にゃあ、ふたりともエーテル器官に問題があるにゃんね」
『ニャア』
「デリックのおっちゃんは、若い頃の古傷が身体の動きに影響を及ぼしてるにゃん」
『ニャア』
「隊長は内臓疾患があるにゃん」
どちらも五分程度の治療で完治する内容だ。
「エーテル器官は実に便利にゃん」
「そうにゃんね、まさかこんなに簡単に治せるとは思わなかったにゃん」
元魔法使いの猫耳ロアも頷く。
「治癒師はほぼ全員ボッタクリにゃん」
「魔力に限りがある以上多少は仕方ないにしてもボッタクリにゃん」
「にゃあ、数が少ないから値段が上がるのは仕方ないにゃん、世の中そういうモノにゃん、でもボッタクリにゃんね」
カプセルの中でエーテル器官に魔力が注がれ異常箇所が修復される。
「治療完了にゃん」
五分後、カプセルを開く。ふたりが身体を起こした。
「どうにゃん?」
「気のせいか身体が軽くなった気がするぞ、いや、腕が自由に動く」
デリックのおっちゃんが肩を回した。
「俺は気分爽快だ」
「隊長は内臓がかなりやられていたにゃん、あと半年もしたらまともに起き上がれなくなってたにゃん」
「マジか!?」
「マジにゃん、たまにここで治療を受けるといいにゃん」
「お、おう」
「健康がいちばんにゃん」
○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 支配人室
診療所の運営に付いては冒険者ギルドに丸投げして、オレはホテルに戻った。
午後からは、ノーラさんに帳簿の確認を頼まれていたのだ。
猫耳の誰かがが代行しても事足りるのだが、最初はオレが見た方がいいらしい。
「にゃあ、お客さんが増えてるにゃんね」
オレが魔獣の森に潜ってる間の伸びが大きい。
「マコトさんが旧道を整備してくれたのが大きいですね」
「にゃあ、まだ整備してからそんなに日数が経ってないにゃん」
「そこはクリステル・オパルス・オルホフホテルのアゼル総支配人がお客様に強く推薦されたみたいですよ」
「にゃあ、アゼルから聞いてはいたけど、皆んな素直に従うにゃんね」
「皆様、休憩所や宿泊施設のクオリティの高さに満足されてました」
「にゃあ、それは何よりにゃん」
手早く帳簿のチェックを済ませた。
「いまの段階でも十分に儲かってるにゃん」
「それはそうですよ、人件費以外の経費がほとんど掛かってないのですから」
オレの感覚だとその人件費も激安だ。
それでもノーラさんたちに言わせると衣食住付きでこの金額は貰い過ぎらしい。昨日カーティスさんにも同じことを言われた。
それも地域振興の一環だ。
「マコトさんはケラスに根を下ろされるんですか?」
「にゃあ、状況が落ち着くまでは、あっちにいるにゃん、その後は良くわからないにゃん」
「そうですね、先の事はわかりませんよね」
「にゃあ、でもこっちにも時々帰って来るつもりにゃん」
「ええ、いつでも帰って来てください、ここもマコトさんのお家の一つなんですから」
「にゃあ、そう言って貰えるとうれしいにゃん」
○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ペントハウス
夕方になって仕事が一段落したオレはオレはペントハウスに戻ってジャグジーに入る。
何故か猫耳に抱っこされてる。
「にゃあ、考えてみるとオレはいまだに住所不定にゃんね」
あっちブラブラこっちブラブラだ。
「最初は森に住むつもりだったからそれに比べると街にいるだけまだマシにゃんね」
「拠点はお館様の家じゃないにゃん?」
「あれは家とは言わないにゃんよ、地下のプラントだったり都市だったり招き猫だったり、とにかくデカいし、それに住んでないにゃん」
拠点は数多く作ったがいずれにも定住はしていない。
「にゃあ、お館様はケラスでお城を建てなきゃならないから、それが家になると違うにゃん?」
「城が家とか、どこの王侯貴族にゃん」
「にゃあ、お館様はケラスの辺境伯様にゃん」
「大公国の辺境伯様にゃん」
「お館様は、まんま王侯貴族にゃん」
「そうだったにゃんね」
「お館様は、その辺りの貴族よりいい暮らしをしてるのに貴族っぽさがないにゃん」
「そこがお館様のいいところにゃん」
「威張ってるお館様も微笑ましくていいにゃん」
「オレは誰彼構わずに威張らないにゃんよ」
「そこもお館様のいいところにゃん」
「六歳児が威張ってもただの躾が行き届いてない子供にゃん」
「お館様は、可愛い子供にゃん」
「「「にゃあ」」」
「にゃあ、皆んなで一度に抱き着いたらダメにゃん!」
せっかくのジャグジーなのにあまりリラックス出来なかった。
『お館様、研究拠点に超大型の魔獣が何体も近付いてるにゃん!』
「にゃ!?」
風呂上がりのコーラを楽しんでると突然、研究拠点から緊急の念話が入った。
『了解にゃん、直ぐに行くにゃん』
オレは念話を続けながら行動を開始した。
『魔獣の森、各拠点も警戒強化にゃん! マナゼロの領域を拡げるにゃん!』
『『『にゃあ!』』』
念話で指示しつつ地下のトンネルに降りたオレは魔法蟻に跨って最大加速で研究拠点に戻った。




