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果樹園にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇九月一〇日


 ○プリンキピウム 西門


 翌朝、魔獣の森の研究拠点からトンネル経由でプリンキピウムの森に戻ったオレは、ちゃんと門から街に入った。いきなりホテルに顔を出すと矛盾が生じるからな。

「にゃあ、おはようにゃん!」

「おはよう!」

「マコト様に妖精さんか、おはよう!」

 守備隊の若い兄ちゃんが出迎えてくれる。

「デリックの旦那が、マコト様が戻ったらギルドに顔を出してくれって言ってたぜ」

「にゃあ、了解にゃん」

 オレも用事があるので真っ直ぐ冒険者ギルドに向かった。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド前


「あたしは、先にアニタたちのところに行ってるね!」

「にゃあ」

 リーリは弟子のアトリー三姉妹がいるホテルの厨房に自分よりずっと大きな魔獣の林檎を詰めた袋をぶら下げて飛んで行った。

 自分用にデザートを作らせるのだろう。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー


 冒険者ギルドには裏口から入って手土産代わりに買い取りカウンターのザックにマンモスを一頭置いてからロビーの受付に行った。

「いらっしゃい、ネコちゃん」

「にゃあ」

 いつもの様にセリアが迎えてくれた。

「帰ってきたと思ったら直ぐに森に行っちゃったのね」

「にゃあ、プリンキピウムの森がオレの本来の棲家にゃん」

「でも、ネコちゃんの顔を見られないと寂しいから無理はしないでね」

 セリアが頭を撫でてくれる。

「にゃあ、危ないことはしないにゃん、オレの代わりに猫耳が入れ替わりで来てるから撫でてあげて欲しいにゃん」

「ちゃんと撫でてあげてるわよ」

 猫耳たちは持ち回りで狩りの獲物をギルドに売りに来ている。

 プリンキピウムの経済は、冒険者ギルドを中心に回っているので、ここはそれなりに繁盛して貰わないといけない。

「おいセリア、そこにおわすはアポリトとケラスの辺境伯様だぞ、下手なことをしたら首が飛ぶから気を付けろよ」

 プリンキピウムのギルドマスター、デリックのおっちゃんが笑顔で出て来た。

「にゃあ、デリックのおっちゃんは情報が早いにゃんね」

「フリーダが連絡をくれた」

「にゃあ、そんなに早く知らせなくてもいいにゃん」

「そうはいくか、セリア、マコトのカードを更新してやれ、辺境伯様がEランクってのも格好が悪いだろう」

「は、はい」

「随分とアバウトにゃんね」

「マンモスを簡単に狩るヤツをEのままにしておくわけにもいかないだろう」

「「「マンモス!」」」

 ロビー内がざわつく。

 辺境伯よりも反響が大きい。

「そういうもんにゃん?」

「ああ、そういうものだ、セリア、呆けてないで手続きだ」

「は、はい、ネコちゃん様、カードをお願い」

 なんか混乱している。

「にゃあ」

 冒険者カードを出してセリアの前に出す。

「ネコちゃん、何で辺境伯様なの?」

 セリアがカードを受け取りながら小声で囁く。

「にゃあ、領主様からお買い得な領地があるからどうかって話をくれたにゃん、辺境伯の称号はそのオマケにゃん」

「領地って買えるものなの?」

「にゃあ、そうみたいにゃん」

 セリアがオレのカードをプレートに置くと記載内容が書き換わる。

 辺境伯の身分が追加されEからDランクになった。

「うわぁ、本当に辺境伯様なのね、それとDランクになりました、おめでとうネコちゃん」

「にゃあ、ありがとうにゃん」

「マコトはスゴいの一言だな」

 今度はデリックのおっちゃんに撫でられる。

「にゃあ、成り行きにゃん」

「辺境伯ならバカ貴族の干渉も排除できるし、マコトなら都合がいいだろう」

「そうにゃんね、それとついでで悪いけど、プリンキピウムの土地が欲しいにゃん」

「わかった、詳しいことは俺の部屋で聞こう」

「にゃあ」



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室


 ギルマスの執務室に入ってオレにはデカいソファーに飛び乗った。

「マコトは拠点をアポリトかケラスに移すのか?」

「にゃあ、いまのところはケラスを考えてるにゃん」

「アポリトは論外だよな」

「あっちは状況がはっきりしないと手を出せないにゃん」

「ケラスも名ばかり領地だが、グールが出るアポリトよりはマシだな」

「そうにゃんね、アポリトで起こったグールを作り出す仕組みがまだ解明できてないから、暫くは放置にゃん」

「あれは解明できるものなのか?」

「出来るとは思うけどそれなりに調査が必要にゃん」

「マコトなら大丈夫だろうが、無理はするなよ」

「にゃあ、わかってるにゃん」

「それでマコトはどんな土地が必要なんだ?」

「できるだけ広いのを有りったけ頼むにゃん」

「今度はいったい何にするんだ?」

「果樹園を作るにゃん」

「果樹園をこのプリンキピウムでか? 言っちゃなんだがプリンキピウムも周辺も農業にはそれほど向かない土地だぞ」

「にゃあ、そこは問題ないにゃん、オレは魔法で耕すから向き不向きは二の次にゃん」

「魔法にそんな使い方があるんだな、だったらいいが、何を作るんだ、小麦か?」

「にゃあ、これにゃん」

 オレは魔獣の林檎を取り出してデリックのおっちゃんに見せた。おっちゃんは手にした果実をじっくり眺める。

「おいマコト、こいつは魔獣の林檎じゃないのか!?」

 驚きの声を上げる。

「にゃあ、ギルマスだけあって、デリックのおっちゃんはわかるにゃんね」

「実物を見るのは久し振りだが、マコトはこれを育てるのか?」

「そうにゃん」

「魔獣の林檎と言えば安くても一個で大金貨一枚はするシロモノだぞ、それに魔獣の森以外では育たないはずだが」

「にゃあ、厳密に言えば魔獣の林檎の品種改良版にゃん、魔獣の森じゃなくても育てられるにゃん」

「本当ならそいつはスゲえな」

「これの買い取りは冒険者ギルドでも可能にゃん?」

「ああ、それは問題ない、いくらでも引き受けてやる」

「にゃあ、そんなわけだから土地はなるべく広いのを頼むにゃん」

「土地の状態は関係なしでいいなら、第二と第三城壁の間がいいんじゃないか?」

「第二と第三城壁の間にゃん?」

「ああ、名前は残っているがどちらも崩れて久しい。その瓦礫がゴロゴロしてるから畑どころか建物も作れず雑木林になってる」

「ホテルの裏もそうにゃんね」

 城壁に近いところは崩れた石材が重なって城壁とホテルの庭を隔てていたが、一足先にオレが買い取っていた。そこは幸いまだ手付かずだ。

「使い所のない土地としてウチが管理してる、つまり最初から知行主のマコトのモノみたいなものだ」

「にゃあ、荒れてても問題ないからちょうどいいにゃんね」

「かなり大規模な果樹園になるが管理はどうする? ヘタすると街の人間を全員養えるほどの収益を上げられるぞ」

「まずは、寄宿学校の子供たちの働き口の一つにするにゃんね」

「おお、そいつはいいな」

「猫耳ゴーレムもいるから、足りない分はその都度募集するにゃん」

「報酬次第では、現役の冒険者だってやりたいヤツで行列ができると思うぞ」

「にゃあ、状況を見ながら判断するにゃん」


 冒険者ギルドで書類を処理した後は、呼び出した猫耳たちを引き連れてほぼ無料で手に入れた土地に出掛けた。


 リーリは弟子のアトリー三姉妹と魔獣の林檎を使った新メニュー作りに取り掛かっているので引き続きホテルの厨房だ。



 ○プリンキピウム 果樹園予定地


「ここにゃんね」

 第二と第三城壁の間は何の事はない、門のところの守備隊詰所の裏が既にそうだった。ホテルの裏側もそうなのだが、あっちは手前で柵を作ってしまっている。

「よう、マコト様! 辺境伯様になったんだってな」

 詰め所から隊長が出て来た。

「にゃあ、隊長も情報が早いにゃんね」

「デリックの旦那に聞いた、しかしすごい勢いで出世したな」

「これも隊長のおかげにゃん」

 ビールのケースを出す。

「飲み過ぎ注意にゃんよ」

「おっ、毎回、済まないな」

「ちょっと詰所の裏で作業するから五月蝿いかもしれないにゃん」

「問題ないぜ、それで何をやるんだ?」

「にゃあ、崩れてる第二と第三城壁の修理と果樹園の造園にゃん」

「ほお、果樹園か、俺はいいと思うぞ、出来れば街のヤツらも雇ってやってくれ」

「にゃあ、考えておくにゃん」

 雇うのは構わないが人選は冒険者ギルドに丸投げだ。

「冒険者以外の仕事がもうちょっと有ればプリンキピウムも賑やかになるんだがな」

「にゃあ、そうにゃんね」


 プリンキピウムの城壁は、幾重にも街を囲んでる長大なものだ。

 先史文明の遺構であるいちばん外側はしっかりしてるが、その後に造られた第二と第三は大半が崩れた状態だった。

 果樹園の予定地は、幅にして二〇〇メートルでぐるり街を一周してるから面積はかなりある。

「東京ドーム何個分なのかは知らないにゃん」

「約一〇四個分にゃん」

 猫耳のネネが教えてくれた。

「何で知ってるにゃん?」

「領主様から貰った情報の中に有ったにゃん」

「にゃ、領主様からの情報にゃん?」

「お館様が精霊情報体の情報を渡した時に逆流したにゃん」

「にゃあ、前世がエロ漫画家だけあって良くわからないことまで知ってるにゃんね」


 果樹園予定地は、崩れた第二、第三城壁の瓦礫とそれに降り積もった土砂に竹と良く似た植物が密集して生い茂って大変な事になっている。

「にゃあ、これは確かに使えない土地にゃん」

「油断すると瓦礫の間に落ちて出られなくなるにゃん」

「二~三人、死んでそうにゃんね」

「これは間違いなく死んでるにゃん」

「にゃあ、とにかく始めるにゃん」

 本当に死体とか出たら嫌なので最初に聖魔法で全体を聖別してから第二と第三の城壁の修復に取り掛かる。

 聖魔法の青い光が果樹園予定地に広がると、そこかしこで光の粒子が立ち上った。

「にゃ!? 思ってたよりいっぱいの魂が天に還って行くにゃん」

「「「にゃあ」」」


 予想以上の光の輪舞を見ることになった。


 気を取り直して作業開始だ。

「にゃあ、まずは竹もどきの除去にゃんね」

 根っこが強固に張り巡らされてるのも竹と同じだ。これを普通に伐採したら人手も時間も半端なく掛かる。

 ブタに食べさせるという気の長い方法も有るが、こっちのブタは竹よりも人間を好んで食うヤツばかりだからな。

 猫耳たちが飛翔の魔法で飛びながら竹もどきを伐採する。伐採した竹もどきは加工して建材としてネコミミマコトの宅配便に送る。


「お館様、竹もどきは根っこごと全部取り去ったにゃんよ」

 二〇分ほどで竹は全部刈り取られた。

「にゃあ、次は城壁の修復にゃん、どうせだからしっかりとしたものにするにゃんよ」

「「「にゃあ!」」」

 地面に散らばっていた瓦礫を分解して第二と第三の城壁を元のプリンキピウム魔獣開発局で使われていた生きてるコンクリートに材料を変更して再構成する。

 ついでに大理石の様にツヤツヤにした。

 物理障壁に防御結界をプラスして魔獣にも簡単に抜かれない城壁に改造する。

「にゃあ、いい感じに仕上がったにゃん、完璧にゃん」

 ひんやりスベスベがたまらない。

「お館様、ここで満足しちゃダメにゃんよ」

「にゃお、そうだったにゃん」

 東京ドーム約一〇四個分のデコボコの土地を野球のグランド並に平らに均す。

「にゃあ、皆んなで魔獣の林檎を植えるにゃん」

「「「にゃあ!」」」

 猫耳たちと一緒に横一列に並んで魔法馬を走らせ魔獣の林檎を植える。

 実際は実をそのままゴロゴロ落としてるだけだ。


 ぐるりと一周して魔法馬を止めた。


「にゃあ、林檎の実に魔力を注ぎ込むにゃん」

「「「にゃあ」」」

 魔力を得て目を覚ました実からにょきにょきと木が生えてくる。芽じゃなくて木だ。

 実際に目を覚ましたのはエーテル機関だったりするが。

 まるでタイムラプスの動画を見ているみたいに魔獣の林檎の木が成長する。

 瞬く間に果樹園と言うか魔獣の林檎の森が誕生した。

 早くも赤い実が生り始めた。

 これは収穫するまでそのまま枝についていてくれる。

 元々の魔獣の林檎自体が、かなり人の手が加わって作られたモノのようだから、収穫も手入れも非常に簡単だ。

 馬に乗ったまま近付いて一個もいで食べてみる。

「美味しい!」

 ホテルの厨房に篭ってたはずのリーリがオレより先に魔獣の林檎に齧り付いていた。

「にゃあ、味も大丈夫みたいにゃんね」

「問題ないよ!」

 猫耳たちも試食する。

「「「にゃあ♪」」」

「美味しいにゃん」

「魔力と体力もオリジナルと同じだけ回復するにゃん」

「各拠点にも植えたいにゃんね」

「それはいい考えにゃん」


 果樹園の造営そのものは二時間ちょっとで終了した。


 それから倉庫だの事務所だの柵だの警備の魔法牛のマッチョな牡だのを作ったりした。

 防犯の為に倉庫と出入り口は冒険者ギルドの真裏にこしらえる。

 従業員寮はホテルのものを使うから、地下通路で繋いでおく。

 雨の日も安心にゃん。

 門のところは防犯の為に第二と第三城壁をくっつけて塞いだ。

 念のため第一と第二城壁の間も塞いでおくにゃん。

 本来そう有るべきだし、門も三重にすべきだろう。ここもついでに改修した。

 最後に果樹園の地面には月光草を植える。

 これで森から濃いマナが漂って来てもある程度レジストできる。

 第一と第二城壁の間も防御結界を張っておくのがベストにゃんね。


「にゃあ、落ち着くにゃん」

 本能がフカフカの芝生のような月光草の上でオレをゴロゴロさせるにゃん。

「「「にゃあん」」」

 猫耳たちもゴロゴロしていた。

『『『ニャアン』』』

 猫耳ゴーレムも混ざっていた。


 夕方まで、果樹園を弄り倒してからホテルに戻った。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ロビー


「マコトさん、お帰りなさい、辺境伯様に陞爵おめでとうございます」

 ノーラさんに改まってお辞儀された。

「にゃあ、そうは言ってもプリンキピウムの方が人口が多い領地にゃんよ」

「それでも辺境伯様は辺境伯様です」

「このホテルも辺境伯の所有になるから、お行儀の悪い貴族は実力で排除が可能になったにゃん」

「いまのところ、そのようなお客様はいらっしゃいませんから安心して下さい」

「にゃあ、ノーラさんがいれば安心にゃんね」

 冒険者ギルドで長年働いてたノーラさんからしたらイキった貴族などたいした相手ではないか。

 その後もホテルの皆んなにおめでとうと挨拶された。

「マコト様、この度は辺境伯様への陞爵おめでとうございます」

「今後も我らの命果てるまでマコト様にお仕えさせていただきます」

 プリンキピウム・オルホフホテルの副支配人のポーラの両親マシューとハンナ夫妻からも仰々しく挨拶をされた。

「にゃあ、ありがとうにゃん」

 紛れもなく金で買った爵位なので、おめでとうと言われるのも気が引ける。



 ○プリンキピウム プリンキピウム寄宿学校


「「「おやかたさま!」」」

 寄宿学校に顔を出すとチビたちが駆け寄って来た。

 チビ五人に抱きつかれる。

 他の子たちはそこまでテンションは高くない。

「そんなにくっついたらネコちゃんが可愛そうでしょう」

 メグが割って入る。

「「「はい」」」

 別に可愛そうじゃないけど、チビたちとオレはあまり大きさが変わらないからおしくらまんじゅうみたいに見えるのだろう。

「マコト、ずっと狩りをしてたんだろう?」

 狩り大好きバーニーが羨ましそうな顔をする。

「にゃあ、狩りもしてたにゃんよ」

 オレは主に拠点の設計と設置だったけどな。

「俺も連れてってくれよ」

「にゃあ、そうにゃんね、いまからだと夜の森になるにゃんよ」

「いや、夜じゃなくて」

「プリンキピウムの森のヤバさは昼も夜もそう変わらないにゃん」

「そうなのか?」

「バーニーを森に連れて行ってもいいけど、絶対にその後、怖くて森に入れなくなるにゃんよ」

「マジで?」

「にゃあ、マジにゃん、嘘だと思うなら試してみるにゃん?」

「いや、ヤメておく」

 バーニーは首を横に振った。

「それでいいにゃん、冒険者は臆病なぐらいじゃないと長生き出来ないにゃん」

 などと知ったかぶってみた。


 その後、リーリとアトリー三姉妹が開発した魔獣の林檎を使った料理やデザートを寄宿学校の子どもたちと堪能した。


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