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長い魔獣にゃん

「お館様、この先に大型の蛇にゃん、進路を塞いでるにゃん」

 助手席のムギがナビしてくれる。

「にゃあ、いるにゃんね、尋常じゃない大きさにゃん」

「全長三〇〇メートルはあるにゃんね」

 後部座席のリンとモカも探査魔法を打った。

「どっちが頭にゃん?」

「にゃあ、動いてないからここからだとわからないにゃん」

 魔獣が張るどぎつい認識阻害の結界のせいでここからだと大雑把な形しかわからない。

「どっちが頭でもウチらの進路を横断する形で止まってるのは間違いないにゃん」

 気付かれる前にシッポ方面から迂回したかったのだが、いまのところどっちが頭なのか見当が付かない。

 胴体の上をジャンプするのもあるか。それがいちばん堅実な気がする。

「お館様の覇道を邪魔をするヤツは殲滅にゃん!」

「にゃあ! ブッコロにゃん!」

「丸焼きにして食ってやるにゃん!」

 猫耳たちが盛り上がってる。

「丸焼き!」

 妖精も反応した。

「にゃあ、穏便に頼むにゃん」


 約二〇〇メートル手前で魔獣の姿を肉眼で捉えジープを停めた。魔獣の作った道は真っ直ぐじゃないので森の中ではこれが限界だ。

「にゃ? あれって蛇じゃないにゃん」

 灰色の身体はねっとりとした粘液で濡れていた。

「黒いにゃん」

「ヌルヌルしてるにゃん」

「長い魚にゃん?」

「にゃあ、あれは超巨大ウナギにゃん」

「ウナギ!」

 リーリの目が輝いた。

「巨大ウナギということは、あれも地面の下を泳ぐ系にゃん?」

 猫耳に聞いてもわかるわけはないのだが。

「にゃあ、可能性はあるにゃん」

「あんな大きいのに潜られたら厄介にゃんね」

「にゃあ、ここいら一帯をボコボコにされるにゃん」

「でも、ボコボコになってないからここでは潜ってないみたいにゃんね」

「お昼はうな重が食べたい」

 リーリが甘えた感じでリクエストした。

「にゃあ、ストックは有るけど、魔獣の森のウナギの味も気になるにゃんね」

 時間は惜しいが目の前に高級食材があるのだから多少手間でも狩りたくなってくる。

「前に食べたウナギはおいしかったよね」

 回想してうっとりする妖精。

「にゃあ、是非食べ比べを実施したいにゃんね」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちも同意だった。

「にゃ、動いたにゃん」

 二〇〇メートル先の超巨大ウナギの胴体がピクっと震えた。デカすぎていまだにどっちが頭なのかわからない。

 変な音がした。

「にゃ?」

 ジュルジュルした音だ、それが大きくなる。

「ウナギの頭にゃん!」

 オレはアクセルを踏んでジープを急発進させ、音とは反対側にハンドルを切った。

「にゃあ! ウナギの頭が来たにゃん!」

 木々の間を縫って超巨大ウナギが大口を開けてジープを追い駆けて来る。そっちが頭だったのか!

 頭だけで妹一家が住んでる三五年ローンの家よりデカいぞ!

「にゃあ、あんなにデカいのにメチャクチャ速いにゃん!」

「お館様のジープも十分速いにゃんよ!」

「にゃあ、お館様、この先、崖があるにゃん!」

「ジープの防御結界に迫ってるにゃん!」

『ニャア!』

 ジープが速度を上げるが背後の視界が全部、ウナギの口になった。


「にゃあああ! 目打ちにゃん!」


 ウナギの眼の後ろに魔法で作り出した杭を撃ち込んで巨木に縫い付けた。

 ジープを真横に向けて滑らせながら、大口を開けてるウナギの口の中に電撃を叩き込んだ。

 猫耳たちも同じく電撃を放つ。

 雷鳴と爆発音が重なり頭部を吹き飛ばされたウナギが地面に身体を打ち付けて暴れる。地震のように地面が揺れジープが弾む。

「頭がなくても超元気にゃん!」

 全長三〇〇メートルのウナギの身体がのたうつだけで、周囲の巨木がなぎ倒される。

「さっきよりも危ないにゃん!」

「にゃお、跳ね上げられた大木が高度限界を超えてレーザーで焼かれたにゃん!」

「これ、目打ちしたままの方が良かったにゃんね」

「でも、ウナギの防御結界が消えたにゃん」

「にゃあ、おかげで見付けたにゃん」

 防御結界が消失して無防備になったウナギの身体からエーテル機関を探り当てた。

「にゃあ、いただきにゃん!」

 エーテル機関を結界で囲って毟り取った。

 魔力の供給が消えて力を失ったウナギの胴体が横臥し完全に動かなくなった。

「にゃあ、デカいのはやっぱりヤバかったにゃんね」

 ウナギの巨体を分解して格納した。

「スリル満点だったね」

 ジープの真横は深さが一〇〇メートルは有りそうな峡谷だった。飛べるとわかっていてもジャンプは御免こうむりたいにゃん。

 元の魔獣の作った場所に戻る。

 周囲の安全を確認してまた南に向けてアクセルを踏んだ。

「にゃあ、オレたちだって認識阻害+無音の結界を張っていたのにあんな簡単に気付かれるとは思わなかったにゃん」

「身体が大きいだけにウナギの防御結界がウチらが想像していた以上に広かったのと違うにゃん?」

 防御結界の外縁部は防犯センサー的な役目を担ってるので触れるとわかる。

「にゃあ、でも結界に触れた感触も無かったにゃん」

「「「ウチらもにゃん」」」

「此処から先は、オレたちの認識阻害の魔法は効いてない前提で行動した方がいいにゃんね」

「厄介にゃん」

「にゃあ、待ち伏せ系の魔獣が持ってるともっと厄介なことになるにゃん」

「まったくにゃん」

「それとウチらの防御結界にゃん、ウナギの攻撃を完全に防いでたとは言えなかったにゃん」

 幾重にも重ねがけされた防御結界の何枚かはまったく機能しなかった。

 防御結界が全て効いてたらあそこまで肉薄されて無かったはずだ。

「にゃあ、お館様、全部抜かれなかっただけマシと考えた方がいいにゃん、それにジープの防御結界はまだ削られてないにゃん」

『ニャア』

「ジープは偉いにゃん」

『ニャア♪』

「オレらの防御結界はまだまだ改良の余地があるにゃんね」

「ウチは上手く反撃できなかったにゃん」

「「ウチもにゃん」」

 猫耳たちの耳がペタンとなる。

「にゃあ、オレは全員が無事で居てくれただけで十分にゃんよ」

「「「にゃあ、お館様! 大好きにゃん♪」」」

「にゃあ! 運転中に抱き着いちゃダメにゃん!」


 たぶん安全であろう場所に車を止めた。


「にゃあ、ジープはここまでにするにゃん、魔獣の奇襲に備えて防御力の高い魔法車に交換にゃん」

「車を交換するにゃん?」

「そうにゃん、いま出すにゃん、ジープはここまでご苦労だったにゃん」

『ニャア♪』

 パステルピンクのジープを仕舞って次の車を再生した。

「カエル戦車じゃないにゃんね」

「これは九〇式にゃん」

 九〇式戦車がオレたちの前に現れた。なぜ九〇式かと言えば、自衛隊の駐屯地のお祭りで触ったことがあるのでそのまま再生可能だった。

 ただし、そのままではオレも動かせないのでカエル戦車とニコイチして魔法車に作り変えてある。

「にゃあ、戦車なのにヌメヌメしてないにゃんね」

 ムギたちが戦車を撫でる。

「カエルじゃないからヌメヌメしないにゃん、にゃあ、それに本物の戦車はヌメヌメしないにゃん」

「にゃあ、生きてる金属製にゃんね」

「いまいちばんオレの中でホットな素材にゃん、マナ変換炉も四つ突っ込んだから、これを食べた魔獣はただじゃ済まないにゃん」

「四つとはスゴいにゃん」

『ニャア♪』

「戦車も鳴くにゃんね」

 ピコっとメタルな猫耳が砲塔に生え、オリーブドラブの塗装がやはりパステルピンクになった。

「九〇式が猫耳戦車になったにゃん」

『ニャア♪』

 パコッとハッチが開いた。乗れということらしい。

 オレたちが乗り込むと猫耳戦車は走り出した。操舵手はオレだが戦車が勝手に走ってる。自動運転だ。

「にゃあ、景色が良く見えるにゃん」

「外の景色を戦車内に表示してるにゃんね」

「このまま外に飛び出そうとしても、壁は通り抜けられないから気を付けるにゃん」

「にゃあ、間違えそうにゃん」

 オレもだけどな。

 外側は九〇式にそっくりな猫耳戦車だが中身は全然違う。

 ウォークスルーのミニバンみたいな座席にトイレとミニキッチンも装備してある。

「最高だよね」

 リーリのリクエストでソフトクリームの魔導具も完備した。リンがマキマキしてあげてる。

『ニャ?』

「進路はそのまま道なりに南に進むにゃん」

『ニャア』

 魔獣の作った道は都合よくほぼ真南に向いていた。猫耳戦車も速度を上げて突き進む。


 魔獣の森を戦車をぶっ飛ばしながら中では、皆んなでおやつのドーナツを食べながらコーヒー牛乳を飲んでる。

 オレの中では超巨大ウナギのエーテル機関を解析を続行中だ。

「ドーナツ美味しいね」

 リーリがオレの頭に砂糖を降らせる。

「にゃふ、お館様、これはお店を作るべきにゃん!」

 モカがドーナツを頬張って叫ぶ。

「ドーナツだったら、子供にはただでやってもいいにゃんよ」

『お館様、例え子供でもただは良くないにゃん』

 拠点にいる猫耳が念話で加わった。

「にゃあ、だったら店のお手伝いをしたら、食べさせてやるにゃん」

『それならいいにゃん』

「屋台の邪魔をしない場所に作るにゃんよ」

『『『にゃあ』』』

 猫耳たちは仕事が早いから、明日には州都に何軒かドーナツ屋が出来てそうだ。



 ○魔獣の森 太古の道


「道路にゃん」

 超巨大ウナギと遭遇して二時間ほど走ったところで道路を発見した。魔獣の通り道ではなく舗装された本物の道路だ。

 片側二車線のクプレックス街道ぐらいある。

 それが東西に伸びていた。

 魔獣の森のまっただ中なので何も走ってない。魔獣も走ってない。

「何でこんなところに道路があるにゃん?」

 戦車から降りて舗装された道路の感触を確かめる。

「石畳じゃなくてコンクリートっぽいにゃんね」

『お館様、それは太古の道にゃん』

 念話で教えてくれたのはギーゼルベルトだ。

「太古の道にゃん?」

『先史文明の遺構にゃん、土地が魔獣の森に沈んでも濃いマナのおかげでそこそこ使える状態を維持してるにゃん』

「そうにゃんね、普通に使えそうにゃん」

 年代的にはオリエーンス連邦時代のモノだ。プリンキピウム街道と旧道も同じ遺構に分類されるがこっちの方が立派だった。

「人の住んでいるところは魔力切れでボロボロなのに、魔獣の森は魔力も供給されてちゃんとしてるとは皮肉にゃん」

「獣避けもちゃんと効いてるみたいにゃんね、路上に魔獣も居ないみたいにゃん」

「にゃあ、路上は障害物がないから探査魔法が面白いほど飛ぶにゃんね」

「お館様、この道を行かないにゃん?」

「にゃあ、今回は真っ直ぐ南に行くから太古の道は通らないにゃん、魔獣の森の対策がちゃんとしたら探検を許可するにゃん」

「「「にゃあ♪」」」


 猫耳戦車は太古の道を横断して再び、魔獣の道を南下する。



 ○魔獣の森 魔獣の道


「にゃ? お館様、マナの濃度がグンと上がったにゃんよ」

 交代して助手席に座っていたモカが声を上げた。

「にゃあ、太古の道が境界になってるにゃんね」

「すると、ここから魔獣が更にもう一段強くなるにゃんね」

 ムギが後ろから身を乗り出す。

「間違いないにゃん」

 リンが頷く。

「慎重に進むにゃんよ」

『ニャア!』

 魔法戦車も周囲のマナを吸い込んで力をみなぎらせた。


 三〇分進んだところでまた進路上に魔獣が陣取っていた。当然かなりデカい。

「長くはないので、蛇ではなさそうにゃん」

「ウチらは発見されたと想定した方が良さそうにゃんね」

「にゃあ、そうみたいにゃん、戦車に反応して動いてるにゃん」

「囲まれたにゃん」

 半径一キロ圏内に前方の魔獣とほぼ同じ大きさの反応が魔法戦車を囲んで七つ現れた。全部で八体。

「発見されてる上にヤツらは連携してるにゃん」

「魔獣が連携するにゃんね」

『大発見にゃん!』

 ギーゼルベルトの興奮した念話が飛んで来た。

「これは魔獣の間をすり抜けて逃げるのは無理そうにゃんね」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちもうなずいた。

「にゃあ、だったらここで迎え撃つにゃん!」

「「「にゃあ!」」」


 まずは周囲の巨木を切り倒して分解し何もない広場を作った。続けて戦車を中心にして堀と城壁を幾重にも築く。

 濃いマナのおかげで城壁が大きくても一瞬だ。

 オレたちはその中心に引き篭もって迎え撃つ。

「予想どおり魔獣は八体とも同じ型みたいにゃん」

 姿そのものは強力な認識阻害の結界に邪魔されてわからないが、探査魔法の捉えた型が同一であることを示していた。

「群れのリーダーがどれかわからないにゃんね」

 ムギが目を凝らす。

「もうすぐオレたちの防御結界に入るにゃん」

「にゃあ、その前に何か撃ち出して来たにゃん!」

 リンが叫ぶ。

「全方向から来るにゃん!」

 モカが観測した。オレたちを囲む魔獣が揃って何かを発射した。

「攻撃も連携してるにゃん」


 魔獣が撃ち出したそれは、激しい衝撃音とともに外側の防御結界をやすやすと突き破って城壁に食い込んだ。

「「「にゃあ!」」」

 いちばん外側の城壁で止められたので被害は軽微だ。

「スゴい音がしたにゃん」

「にゃあ、突き刺さったのは、でっかいドリルにゃん!」

 撃ち込まれたのは四トンダンプ大のドリルだった。

「にゃあ、しかも金色にゃん!」

 確かに金色だ、

「純金無垢にゃん!」

 紛れも無く純金だった。黄金ゴキブリ一〇匹以上の重さが有る。金なら潰れそうなものだが魔法的に強化されていた。

「にゃあ、金無垢なら本体から発射された後なら分解できると違うにゃん?」

 試しにいま突き刺さってるのを分解格納した。

「にゃあ、お館様、これはイケるにゃん!」

 ムギが興奮気味に叫んだ。

「各自二頭ずつ担当にゃん、ドリルが来たら着弾前に分解格納にゃん!」

「「「にゃあ!」」」

 続けて魔獣からドリルが発射された。

 八体の魔獣から合計四八本のドリルが撃ち出されたが、すべて防御結界に到達する前に分解格納した。

「本体が防御結界に触れるにゃん」

 城壁の外側に張った防御結界に次々と魔獣たちが接触し、強力な認識阻害の結界に隠されたその正体を明かした。

「カニにゃん」

「金無垢の巨大蟹にゃん」

「黄金蟹にゃん」

「ゴキブリどころの騒ぎじゃないにゃんね」

 蟹一匹で昨日の黄金ゴキブリ五、六〇〇匹分は有りそうだ。

「お館様、八体全部が防御結界に接触したにゃん」

 黄金蟹はハサミの代わりにドリルを装備していた。それがキーンと音を立てて回転してる。

 ヤツらは至近距離でドリルを撃ち出す。

 しかも撃ち出した後に直ぐ生えて来る。

 ドリル生成がヤツらの魔法らしい。

「ヤツらの周囲のマナを抜くにゃん!」

「「「にゃあ!」」」

 魔法戦車の四つのマナ変換炉にオレたちの魔法を合わせてヤツらのいる防御結界外縁部のマナを一気に抜く。

 蟹たちのドリルが次々と止まり、認識阻害の結界も消えた。

「にゃあ、いまにゃん!」

 蜘蛛からいただいた杭を甲羅の上から撃ち込んでエーテル機関を砕いた。

「黄金蟹、完全停止にゃん」

 全部分解、格納した。

「重量からすると大金貨一〇〇億枚分ぐらいにゃんね」

「桁が大きすぎて良くわからないにゃん」

「とにかく勝ったにゃん!」


 いま吸い上げたマナでオレたちは地下拠点を造る。



 ○魔獣の森 魔獣の森第一拠点


「にゃあ、ここを魔獣の森第一拠点にするにゃん」

「「「にゃあ!」」」

 防御結界の効果がいまいちなので、追加で物理的な障壁を作りつつ半径五キロ圏内のマナを抜いてやった。

 この辺りの魔獣は低濃度のマナを嫌うようで、マナゼロの領域から逃げて行った。

 マナが無くても平気なヤツもいるから万能ではないが。

『にゃあ、トンネルの接続もよろしくにゃん』

 猫耳と魔法蟻たちに魔獣の森第一拠点にトンネルを繋ぐように指示した。

『『『了解にゃん!』』』

『『『……』』』

 魔法蟻たちもいつものポーズで口をカチカチさせた。


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