魔獣の森南下作戦にゃん
○魔獣の森 外縁部 トーチカ
「死んだはずの蛇の躯の中でエーテル機関だけが活動してるにゃんね」
トーチカに潜ったオレたちは蜘蛛の糸に巻かれた蛇の魔獣の死骸の観察を続ける。
「お館様、濃いマナが魔獣の死体から吹き出してるのを確認したにゃん」
メルが確認した。
「本当にエーテル機関が魔力の供給から躯をマナに変換するモードに切り替わったにゃんね」
「エーテル機関からマナを作り出す魔法式が出てるにゃん」
ハルも読み取った。
「お館様、間もなく蛇の周囲のマナの濃度が魔獣誕生の数値になるにゃん」
ギィが濃度を観測した。
人間が即死する濃度だ。
「そうみたいにゃんね、始まるにゃん」
ボコっと蛇の腹が膨らんだ。プチプチと蜘蛛の糸が引き千切れる音がする。
「膨らんでるのはエーテル機関で間違いないにゃん」
「にゃあ、どんどん大きくなってるにゃん」
「蛇のおなかが割れたにゃん」
赤い球体が裂けた腹から見えた。
「蜘蛛の糸のせいで落ちて来ないにゃん」
「でも、糸も限界にゃん」
「出て来るにゃん!」
パン!と破裂音と共に蛇の腹に入っていた膨らんだエーテル機関が割れて蛇の魔獣が出て来た。
蛇は大きさを増しながら親?の身体から巨木に這い進む。
「別の魔獣が来るにゃんね」
オレの探査結界の領域に反応有りだ。
「お館様、ムカデが三匹こっちに来るにゃん、風下方向だから濃いマナに反応したみたいにゃんね」
「にゃあ、どれも二〇メートル級にゃん」
「蛇よりは小型にゃんね」
メルたちもシルエットと大きさを特定した。
小型と言っても州都の近くに現れたら一匹でもパニックを起こすに十分な大きさだ。
「小さいのはまだ魔獣の森の浅い地点だからだと思うにゃん」
魔獣は奥に進むほど大きな反応になってる。
「にゃ!? お館様、ムカデが飛んで来たにゃん!」
メルが指差した方向からゆったりとした速度で空中を飛んで来た三匹のムカデはそれぞれ巨木に絡み付くと先を争って蛇の裂けた躯を食べ始めた。
「ムカデが飛翔っぽい魔法を使うんだね」
リーリがオレの頭の上で感心している。
「にゃあ、遅いけど洗練された魔法にゃん」
魔力の消費が抑えられるのでディオニシスにも応用が利かないだろうか? あの速度はダメだけど。
「昔の人は、魔獣なんか作り出して何がしたかったにゃん?」
「にゃあ、人間の利益になる部分が見えないにゃん」
「兵器なんてそんなものにゃん」
「だから滅んだと違うにゃん?」
「そうかも知れないにゃん」
「にゃお、もう一匹来たにゃん」
猫耳たちが話している間に新たな魔獣が現れた。
「また見えないにゃん」
肉眼にも探査魔法にも引っ掛かっていないが、オレたちの防御結界に何かが触れた。
「上から、じゃないにゃんね」
木々の間に目を凝らしたが新たな魔獣の姿は発見できなかった。
「上じゃなければ下からだね」
リーリが床を指差す。
「にゃあ、地下にゃん!」
次の瞬間、蜘蛛型の魔獣がオレたちのいるトーチカの直ぐ近くから顔を出した。またしても全く音がしない。
「にゃあ、また蜘蛛型にゃん、探査魔法に引っ掛からないにゃん」
さっきのとは色と形が違っている。
こちらは地面に潜るのが得意らしい。
先代の巣が空いたことをいち早く察知して乗っ取りに来たのか?
「蜘蛛も防御結界とトーチカのおかげでオレたちのことは見付けられなかったみたいにゃん」
トーチカが大きな岩と判別が付かなかったみたいだ。
「他にも探査魔法が効かない相手がいるかもしれないにゃんね」
「にゃあ、大いに有り得るにゃん」
蜘蛛に関してはエーテル機関を調べることで探査魔法が効かない秘密を調査中だ。その為にもサンプルは多いほうがいい。
「お館様、蜘蛛が仕掛けるみたいにゃん」
蜘蛛は音もなく三匹のムカデに向かって杭のような爪を連射した。攻撃法はさっきの蜘蛛型と一緒らしい。
爪がムカデの装甲の様な外殻に突き刺さって白煙を上げる。
「にゃあ、あの爪、刺さると何か出るみたいにゃん」
「毒にゃんね」
三匹のムカデは身体の力が抜けてベリっと上からめくれる様に次々と巨木から剥がれ落ちて地面に激突した。
軽そうに飛んでた割に落ちた音は重く、振動はオレたちのいるトーチカに伝わった。
獲物をせしめた蜘蛛は一匹ずつ丁寧に糸でくるみ始める。
「にゃあ、蜘蛛が何か産み付けてるにゃん」
「卵にゃん?」
猫耳たちは目を凝らす。
「にゃあ、違うにゃん、探査魔法の反応は魔法式にゃん」
「「「魔法式にゃん?」」」
「にゃあ、ムカデの躯から高濃度のマナが吹き出して、エーテル機関の死後反応が始まったにゃん」
三匹の躯はそれぞれが糸にぐるぐる巻きにされたまま膨らむ。
「今回は早いにゃんね」
「蛇は直ぐに死ななかったから毒の種類が違うのかもしれないにゃん」
「蜘蛛の種類が違うから毒も違うにゃんね」
芸風は似てるけどな。
「にゃあ、蜘蛛は獲物のエーテル機関が膨らんでも無反応にゃんね」
「魔獣の再生は邪魔しちゃいけないルールなのかも知れないにゃん」
「子供が出て来るにゃん」
また蜘蛛の糸が弦楽器の弦が切れるような音が森に響いた。
弾けた糸をかき分けて小さなムカデが出て来る。
小さいといっても人間より大きい。
「お館様、一匹じゃないにゃん」
「にゃあ、一匹のムカデから子供が三匹生まれたにゃん」
「にゃ、三匹のうち一匹が蜘蛛にゃん」
「蜘蛛はムカデのエーテル機関の内容を書き換えたにゃんね」
三体のムカデから合計九匹の魔獣が生まれ、六匹がムカデで三匹が蜘蛛だった。全部を蜘蛛にしないあたりは何か意味があるのだろうか?
「さっきの蛇は蜘蛛にならなかったね」
「にゃあ、考えられるのは魔法式を打ち込む前にオレたちが現れたからか、それともエーテル機関の書き換えに失敗したかのどっちかと違うにゃん?」
「そんな感じかな」
「にゃ!?」
生まれたてのムカデ二匹と蜘蛛一匹を親蜘蛛がその場で食べてしまった。
子蜘蛛も食べるんかい!
危なく外に飛び出して親蜘蛛にツッコミを入れるところだった。
難を逃れた子供が去った後は、丁寧に糸を巻き直した獲物を木に引き摺り上げて吊り下げた。
巨木の高いところには前の巣の主が作ったミノムシみたいなのが並んでる。
仕事を終えた蜘蛛に真似して作った杭をぶち込んでそこから電撃で仕留めて回収した。
やり合わなければ大した脅威じゃない。
「高濃度のマナを発生させると魔獣が来るみたいにゃんね」
「だったら、こっちから探しに行かなくてもいいにゃん?」
「にゃあ、アレを使って実験にゃん」
ミノムシ状のムカデを一体、地面に落としてエーテル機関からコピった亡骸をマナに分解する魔法式を打ち込んだ。
「にゃあ、マナの濃度、急激に上昇にゃん」
五分と待たずに次の魔獣が現れた。
「やはり高濃度のマナが流れた風下の方向からにゃんね」
それはタイガーストライプのあり得ない大きさの馬。
「トラウマにゃん!」
「にゃあ、トラウマにゃんね」
「大きなトラウマにゃん!」
「黄色いシマウマでしょう?」
リーリのツッコミも容赦ない。
ムカデに手を付ける前に電撃で仕留めて分解、格納した。
ナリは大きいが防御力はいまいち貧弱だった。
「「「にゃあ、金ピカにゃん!」」」
次に現れたのは体長三メートルほどの黄金のG。冷蔵庫の裏にいたりするアレを巨大にして金色にした感じだ。
それが一度に一〇匹ほど。こいつらも風下からカサカサじゃなくてギシギシ音を立てて現れた。異世界だけにスケールがデカいにゃん。
「お館様、あれ、本物の金で出来てるにゃんよ」
ハルがGをスキャンした。
「にゃあ、そうみたいにゃんね、純金とエーテル機関にゃん、それでいてゴーレムじゃなくて魔獣にゃんね」
「総金属なのにゴーレムじゃないにゃん?」
ギィが不思議そうにGを見る。
「にゃあ、ゴーレムにはシステムがあって、格納出来るにゃん」
「それと魔獣はエーテル機関があるにゃん」
メルが付け加える。
「そうにゃんね」
エーテル機関を持ってるゴーレムは、いまのところオレが改造した猫耳ゴーレムや魔法馬などだけだ。
「綺麗なのにあの形のせいで触りたくないにゃんね」
純金で作った残念な彫像みたいだ。
「そうにゃん」
「Gは何処にでもいるにゃん」
こっちの世界でもはびこっている様だ。
「にゃあ、お館様が苦手でも地金にすれば問題ないにゃん、一〇匹程度なら加工も直ぐにゃん」
「にゃお、Gだけに周囲にもっといそうにゃん」
「にゃ、そうにゃん?」
猫耳たちが首を傾げる。
「にゃあ、Gとはそういうものにゃん」
探査魔法で黄金のGを探す。
半径三キロ圏内に一〇〇〇を超える数が居た。
「お館様の言うとおりだったにゃん」
「にゃあ、一匹に付き三〇匹どころの騒ぎじゃないにゃんね」
「とりあえず全部回収して金庫の肥やしにするにゃん」
「「「にゃあ!」」」
一斉に電撃でエーテル機関を破壊し、その身体を念のためウォッシュして回収した。
ざっと計算したところ黄金Gだけで大金貨二億枚分ぐらいになるんじゃなかろうか?
「領地どころか、王国をまるごと買えそうな金額にゃんね」
「さすがウチらのお館様のにゃん」
「これで世界征服の資金は確保されたにゃん!」
「「「にゃあ!」」」
盛り上がる猫耳たち。オレの予定に世界征服など無いのだが。
黄金Gは地金に作り直して各拠点の金庫に分けて保管だ。使いみちがないというより下手に使うと間違いなく王国の経済が崩壊する。
「日も暮れて来たから今日のところは帰るにゃん」
「「「にゃあ」」」
オレたちは魔獣の森から引き上げた。
○プリンキピウムの森 魔獣の森 前
トーチカを魔法蟻のトンネルに繋いで日が落ちる前に魔獣の森の外に出た。トンネルは、万が一に備えて魔獣の森前衛拠点には直接繋いではいない。一キロほど距離を取ってあった。
トンネル内部にはマナを吸い取る仕掛けを施しているので、例え魔獣が侵入しても直ぐに動けなくなるはずだ。
低濃度のマナの中で活動できる魔獣もいるので、そのときはトンネルごと爆破して物理的に始末する。
「にゃあ、マナが濃い場所は息が詰まるにゃん」
魔獣の森を眺めて深呼吸する。
「ふぅ~まったくだね」
頭の上でリーリも一緒に深呼吸した。
「昼間でもヤバいのに夜の魔獣の森は輪をかけてヤバいにゃん」
一足先に暗くなった森の奥で何やらピカピカ光ってる。
「魔獣だけではなさそうにゃん」
「にゃあ、まだ夕方なのにマナたっぷりの霧が発生してるにゃん」
濃い霧が立ち込めて魔獣の森が白くけぶる。そして光の点滅。眼にしては並びが変だし点滅してる。
「お館様、明日はどうするにゃん?」
猫耳たちも横に並んで魔獣の森を見ている。
「にゃあ、魔獣の森の様子もわかったから、明日から数日、潜ってみるにゃん」
「お館様、ウチらからは何人連れて行ってくれるにゃん?」
「にゃあ、オレとリーリだけじゃダメにゃん?」
「ダメなの?」
リーリも首を傾げた。
「当然ふたりだけなんてウチらは許可できないにゃん!」
「ダメにゃん」
「無理にゃん」
猫耳たちからダメが出た。
「出来ればお館様は拠点で待っていて欲しいぐらいにゃん」
「にゃあ、それこそダメにゃん」
オレだけ安全な場所にふんぞり返ってはいられない。
「一〇人にゃん、ウチらから一〇人連れて行かなくちゃダメにゃん!」
「にゃあ、人数多過ぎは逆に危険にゃんよ」
「だったら五人にゃん!」
「今日と同じ三人にゃん、それ以上はダメにゃん」
「にゃあ、ウチらもお館様と冒険したいにゃん」
「明日からのは冒険じゃなくて研究拠点の設置にゃん、冒険はその後にゃん」
「「「みゃお」」」
揃って哀れみを誘う声をだす。
「そんな声を出してもダメにゃん」
「仕方ないにゃんね、お館様と一緒のお風呂と寝床で我慢してあげるにゃん」
「にゃ?」
「「「にゃあ♪」」」
『『『にゃあ♪』』』
念話からも甘ったるい声がハモられた。
「にゃあ、でも今夜は前衛拠点だから、そんな場所はないにゃんよ」
『こちら魔獣の森前衛拠点にゃん、ただいま大浴場を増築中にゃん!』
『『『にゃあ!』』』
うれしそうな猫耳たちの声がそろう。
「無理しちゃダメにゃんよ」
『『『問題ないにゃん!』』』
『『『ニャア!』』』
猫耳ゴーレムも一緒になってもうオレにも止められない感じだった。
○帝国暦 二七三〇年〇九月〇四日
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 魔獣の森前衛拠点 大広間
「にゃ~ん」
翌朝、目が覚めたオレは伸びをして尻尾をブルっとさせた。
昨日の夕方、急遽作られた猫ピラミッドの胴体部分に大広間と大浴場がある。
その大広間でオレを中心に二〇〇人ちょっとの猫耳たちが雑魚寝していた。
「にゃ?」
オレはひょいと持ち上げられた。
『ニャア♪』
猫耳ゴーレムだった。
オレはそのまま猫耳ゴーレムたちが待ってる大浴場に連れて行かれた。
○魔獣の森 外縁部 トーチカ
朝風呂&朝食の後は、新たに選抜された三人の猫耳とリーリを連れて昨日のトーチカまで戻った。
周囲に結界を張って地上に出る。
ねっとりと絡みつくような空気は熱帯雨林のそれだ。行ったことないけど。
魔獣はそこかしこにいるが、改良型の認識阻害の結界を張っているのでオレたちの姿はまだとらえられていない。
「にゃあ、今日はここからにゃん、進路は真っ直ぐ南に行くにゃん、それで今日はこれを使うにゃん」
目の前にジープを再生した。前回作ったジープを昨夜、格納空間で魔獣の森向けに改修したモノだ。形以外は全く別物といっていい。
そして最高に格好いい。
「「「にゃあ、魔法車にゃん!」」」
本日の猫耳たちムギ、リン、モカの三人がオリーブドラブに塗られたボディを触る。いずれも前世は州都のチンピラだが外見に残っているのは髪の色ぐらいだ。
「マナ変換炉を搭載してるので防御結界は魔法馬よりも強力にゃん」
「にゃあ、マナ変換炉にゃん?」
「もう入れたにゃん?」
「凄いにゃん」
三人は、にゃーにゃー鳴きながらジープを見聞する。
「そんなの入れなくてもエーテル機関でも間に合ったんじゃないの?」
妖精のくせに堅実なのはいかがなものか?
「にゃあ、オーバースペックは男のロマンにゃん」
「「「わかるにゃん」」」
猫耳たちも声を揃えた。電気自動車に発電所がくっついてるようなものだが、そこは無駄ではなくロマンだ。
『ニャア』
ジープも鳴いて、色が勝手にパステルピンクに変わった。ハンドルとシートは白か。
「「「……」」」
猫耳たちとリーリがオレを見る。
「ま、魔力が高まると勝手にゴーレム化するみたいにゃんね、大発見にゃん」
「『にゃあ』って鳴いたのはお館様が作ったからにゃん?」
ムギがオレを見た。
『ニャア』
オレじゃなくてジープが答えた。
「そうらしいにゃん」
本人がそう言ってるのだからそうなのだろう。
「でも、大丈夫なの?」
リーリは心配そうだ。
「魔獣化は因子を取り除いてあるから問題ないにゃん」
『ニャア』
「それに強力な魔力は、ハンバーガーの調理器を搭載可能にしたそうにゃん」
グローブボックスがパカンと開いてハンバーガーが出てきた。
「これは認めないわけにはいかないようだね」
リーリはハンバーガーにかぶりついた。早くも陥落だ。
「昨日の蜘蛛が使っていた探査魔法破りの完全無音の結界も搭載してるにゃん」
蜘蛛の魔獣は音を消し去る結界で探査魔法まで無効化していた。
「蜘蛛と同じなの?」
ハンバーガーから顔を上げるリーリ。
「そうにゃん、アレにはまいったから対策ついでに同じのを搭載したにゃん、今度はオレたちが蜘蛛に不意打ちを喰らわすにゃん」
「お館様は、昨日の内に不意打ちは喰らわしてるにゃんよ」
リンからツッコミが入る。
「それもそうだったにゃんね」
「お館様、このジープもムカデみたいに飛ぶみたいにゃんね」
モカがジープの持ってる魔法式を読み取った。
「にゃあ、本格的に飛びたい時は甲虫がオススメにゃん」
「横着しないで飛翔の魔法を使ったら?」
リーリからもツッコミが入る。
「にゃあ、飛翔はムカデほどじゃないけど速度がイマイチにゃん、魔獣からしたら格好の標的にゃんよ」
「それもそうか、マコトたちは魔獣によっては見えちゃうものね」
「にゃあ、完全無音の結界も姿を見られると効果が半減にゃん」
リーリみたいな妖精魔法の完璧な認識阻害があればオレだって飛翔を使うけどな。
オレは運転席に取り付けたチャイルドシートに乗り込んだ。これにはアクセルとブレーキが付いてる。玩具みたいだが、身体がちっちゃい六歳児では仕方ない。
「出発にゃん!」
リーリは頭の上、猫耳たちを助手席と後部座席に乗せて南を目指して出発した。
○魔獣の森 魔獣の道
「お館様、森の中を走ってるのに全然揺れないにゃんね」
「舗装路を走ってるお館様の馬車並にゃん」
「これってお館様の知識と精霊情報体にゃん?」
「にゃあ、そうにゃん」
フレームからボディーが浮いて、物理的に離れてるから揺れないのだ。既に馬車でも採用している技術なのでオレ的には目新しくない。
今回ボディを浮かせてるのは、ムカデが使っていた飛行魔法の応用だ。だから魔法式を持っているが全体で飛ぶためのものではない。更にサスペンションはカエル戦車の技術を流用している。
ジープは魔獣が通って出来たと思われる道を走る。獣と違って魔獣が踏み固めた道はまるで舗装したようだった。しかもそこそこ広い。
当然、速度が出る。
「にゃあ、お館様、この魔法車、馬よりも速いにゃん」
「ウチらの知ってる魔法車とはまったく別物にゃんね」
「普通の魔法車は馬車より遅い上にすぐ壊れるにゃん」
魔法車のイメージはどこで聞いても同じだ。
「にゃあ、今回は壊れないことも重要にゃん、魔獣の森の中で立ち往生とかゾッとしないにゃん」
「「「にゃあ」」」
実際には魔法馬か甲虫に乗り換えるだけだ。
「それ以前にジープは壊れないにゃん」
『ニャア!』
ジープが自信たっぷりに鳴いた。
「お館様、魔獣はどうするにゃん、見つけ次第に攻撃でいいにゃん?」
「にゃあ、先を急ぐから出来れば避けるにゃん、進路を塞いでいたらまずは観察にゃん、下手を打つとヤバいから気を付けるにゃんよ」
「「「にゃあ!」」」
今回の目標はオレの中で改造中の研究施設『プリンキピウム魔獣開発局』の設置場所を見つけることだ。魔獣と遊んでる暇はない。
ジープを進ませる程にマナの濃度が少しずつ上昇していた。マナの濃度と魔獣の強さは比例している。
つまりこの先で遭遇する魔獣は昨日のヤツらよりももっと強い。やりあって負けるつもりはないが、苦戦する可能性は高い。出来ることならそういった時間の無駄は省いてしまいたいにゃんね。
一時間ほど走ったところで、前方を長く塞ぐ壁のような反応があった。




