異世界生活一週間目にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇四月十六日
夜明け前に目が覚めてちょっとゴワゴワする毛布から出て会社に行かなきゃと起き出したところで……、ああ、そうか、ここに会社は無いんだと思い当たる。
今日でこっちに来て早一週間、あっちではオレの初七日か。
ペタンとロッジのリビングに敷いた布団の上に座って尻尾をペタンペタンと打ち付けながら、ぼんやり考える。
妻子がいなくて良かったとこれほど思える瞬間は無いな。妻子を日本に残して来たらこうやって尻尾をペタンペタンさせてはいられなかったと思う。
妹夫婦もいまは落ち着いた頃だろうし、勤務先の連中も迷惑は掛けたが、オレが一人減ったところでどうなるということはないはずだ。
そこそこデカい会社だしな。組織とはそういうものだ。
ペタンペタン。
尻尾の動かし方はこの一週間でかなり上達した。それは間違いない。
にゃあ、日本にいる皆様、オレはプリンキピウムの森で可愛い女の子たちと一緒に元気にやってるにゃん。
○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯)
今朝は早い時間から三人で狩りをしている。
本日もキャリーとベルが中心でオレはサポートに徹していた。
オレのやった銃や魔法馬、それに魔法にも慣れて貰いたいし不具合が有ったら今のうちに直しておきたい。
キャリーとベルがオレが伝授した認識阻害の結界を使って首長竜に近付く。
特異種ではないが、首長竜もプリンキピウムの冒険者ギルドでは買い取り拒否の大きさだ。
いまはクマを頭から貪り食っている。
お肉大好きな首長竜は、食欲旺盛にゃん。
少なくともこの辺りに草食動物はいない。まさかこの世界にいないなんてことはないよね?
首長竜にしても腹が減ったら草も食べるのかもな。
オレが考え込んでいる間もキャリーとベルは狩りを進める。
結界を張っているベルが頷くとキャリーが魔法馬を少し進めて銃を構えた。
トリガーを引いて首長竜の頭を撃ち抜く。
首長竜は頭を上げること無く前のめりに倒れた。
その地響きに驚いてマッチョなシカが逃げ出す。
「やった!」
「やったのです!」
「にゃあ、ベルもキャリーもどっちも凄いにゃん、もう魔法も銃も使いこなしているにゃん」
倒れた首長竜の躯はオレが格納した。
「マコトの認識阻害の魔法がスゴいのです」
「私もあんなに近付けるとは思わなかったよ」
ベルとキャリーがオレの教えた魔法を褒めてくれた。
「にゃあ、でも一度見つかると無力だから過信は禁物にゃん、それと魔法使いに効くかどうかは保証の限りじゃないにゃんよ」
「相手に依るってこと?」
「にゃあ、そうなるにゃん」
「人間相手には使わないと思うのです」
「にゃあ、普通の人間には問題ないと思うにゃん、でも、基本は獣用にゃん、魔獣にも試さないほうがいいにゃん」
「了解なのです、間違っても魔獣相手に使わなくてはいけないような場所には行かないのです、マコトも行っちゃ駄目なのです」
ベルに釘を刺された。
「オレも行かないにゃん」
「じゃあ、次、行くよ」
「にゃあ」
休むこと無く次の獲物を探し始めた。
○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯) ロッジ
「ふぅ、午前中だけで大物の恐竜を三頭も連続で狩れたよ」
「快挙なのです」
ロッジでお昼のクレープを食べながらキャリーもベルもホクホクだ。マダラウシの牛乳と小麦粉で作ったパンケーキは、なかなか美味しく仕上がった。
卵と蜂蜜は森で調達している。鳥と蜂には悪いことをしたがどちらも危険生物なので数を減らして貰った。
「恐竜なんてマコトに会う前の私たちだったら絶対に狩れなかったよ」
「当然なのです、徒歩では恐竜のいるエリアには届かないのです」
「それ以前にウシの群れに食べられちゃってるね」
「トラかも知れないのです」
「にゃあ、ふたりなら無茶はしないと思うにゃん」
「状況を見極めるのは重要だからね、先週は失敗しちゃったけど」
「マコトと出会ってなかったら、オオカミに食べられるか手酷い怪我を負っていたと思うのです」
「うん、それは言えてる」
「にゃあ、オレもふたりと出会って無かったらずっと森の中で暮らしてたにゃん、それか孤児院にぶち込まれていたにゃん」
「孤児院はあったかもね」
「例え森でも孤児院でもマコトなら何処でも強く生きて行けるのです、私が保証するのです」
「にゃあ、オレにとっては、キャリーとベルと知り合えた以上の最良はないにゃん」
「それは私たちも同じだよ」
「同じなのです」
「にゃあ」
○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯)
午後はロッジの防御結界に絡め取られた恐鳥のトドメから始まった。
カラーリング的には、白くてとさかの赤い鶏のレグホンそのものだったが、見上げる様な大きさといかつい顔はほとんど恐竜だ。
「危険地帯だけあって、マコトのロッジがないと休憩もできないのです」
「ここはそう言う場所だからね」
「にゃあ、特異種がウヨウヨしてる場所でもあるにゃん」
「特異種ってそんなにいるものなの?」
「ちょっと探査魔法を使っただけで絶望しそうな数がいるのです」
「それはヤバいね」
「でも、いまの私たちなら十分に狩れるのです」
「にゃあ、問題なく殺れるにゃん」
「ここにいる私たちも森の獣たちにとっては、相当ヤバい存在になったよね」
「にゃあ、それでも逃げずに襲って来るにゃん」
人間に対して逃げないのがここの獣たちの特徴だ。
オレたちは馬に乗って特異種に近付いた。
そこに居たのは鶏の特異種だった。シルエットは恐鳥ではなく足の長い軍鶏そのもので色も黒い。
それでいてさっきの恐鳥よりも二回りも大きい。
普通の軍鶏だって気性の荒さは洒落にならないのにこの大きさはヤバい。
ロッジの上に逃げても思い切り突かれそうだ。
四つの目と角装備だ。それにくちばしが不自然なまでに大きく開く。
うん、普通に化け物だ。
これを選んだのは、失敗だったかも。
でも、キャリーとベルはやる気満々だ。
『コッ!』
軍鶏の特異種が短く鳴いた。
「にゃあ! 見付かったにゃん! 撃つにゃん!」
「了解!」
「はい!」
キャリーとベルの反応は早かった。
軍鶏の特異種のダッシュが届く前に頭を撃ち抜いた。
しかし軍鶏は停まることなくキックを繰り出す。頭が半分無くなってるのにだ。
「にゃあ!」
風の魔法で軍鶏の特異種を巨木までぶっ飛ばした。
軍鶏はズルズルと巨木に背中を擦り付けながら地面に崩れ落ちた。
もうピクリともしない。
「にゃあ、頭が半分無くても普通に攻撃してくるなんて雑な作りにゃん」
「鶏系の獣は頭が取れても数日生きてるから注意が必要と座学で教わったのです」
「私もいま思い出したよ」
「にゃあ、獲物は良く見た方がいいにゃんね」
軍鶏の躯を分解した。
「反省なのです」
「うん、調子に乗ってた」
「にゃあ、反省が出来たのなら問題ないにゃん、オレが付いてるうちは多少の失敗は大丈夫にゃん、次に行くにゃん」
「了解なのです」
「次は上手くやるよ」
「すっかりマコトが私たちの保護者になっているのです」
「そうだね」
これでも中身はアラフォーのオヤジなので、中学生ぐらいのお嬢さんたちを保護するのは当然なのだ。
ベルが認識阻害の結界を最大にし、オレたちは馬を進ませる。
キャリーも感覚を研ぎ澄ませて獲物の気配を探った。
そして東の方向を指差す。
オレとベルは頷いて馬をそちらに向けた。
五分も馬を進めない内にオレたちはそれを肉眼で確認した。
トラの特異種だ。
目玉が六個で尖った歯がびっしり生えた口は大きく裂けてまるで笑ってる様に見える。
何よりその大きさが異常だ。
ほとんど四トンダンプの大きさがあったがカラーリングはトラだ。
巨木の根元に身体を横たえている。近くにイノシシの残骸が落ちていた。
イノシシだってかなりの大きさだったはずだ。
腹がいっぱいになって一休み中のトラは緩み切っていた。
いくらデカくてもこれならイケるだろう。
キャリーとベルは銃を構える。
六個あるトラの目のうち一つだけが動いた。
「にゃ!?」
トラの身体が消失した。
「いえ、来るのです!」
「うん、来る」
ふたりは顔を上げる動作も惜しんで銃を真上に向けてフルオートで撃った。
オレたちの真横にトラの特異種が墜落した。
「にゃあ?」
ズタボロで血まみれのトラの特異種はヨロヨロと立ち上がろうとするがキャリーにトドメを刺されて大地に倒れた。
「にゃあ、どうなってるにゃん?」
「トラ系の特異種は神速を使うのです」
「大概、上から襲って来るから見失ったらとにかく上を撃てと座学で習ったんだけど役に立ったよ」
「トラは上からにゃん?」
「トラは人間の使う防御結界が正面だけなのを知ってるのです」
「にゃあ、全身を囲んでないにゃん?」
「うん、普通は正面だけだね」
「正面に板状に展開されるのが普通なのです」
「にゃあ、オレも魔法馬も防御結界は全身を包む泡みたいな形をしてるにゃんよ」
「私たちの防御結界もそうなの?」
「にゃあ、魔法馬が張ってるからそうなるにゃん、肉眼で見えるモノでもないから後ろから攻撃した人間ぐらいにしか気付かれないと思うにゃん」
「目立たなきゃ大丈夫かな」
「目立とうが目立つまいが命あっての物種なのです」
「にゃあ、それは同意にゃん」
オレがトラの特異種を仕舞う頃にはキャリーは次の獲物を見付けていた。
日が暮れるまで狩りを続けてからロッジを出した。
○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯) ロッジ
午後の獲物は全て特異種でまとめただけあって、アニマルプラネットでも見たことのない獣が大量に捕れた。
「ああ、狩りも明日で終わりか」
「残念なのです」
キャリーとベルはしゅんとしてる。
「にゃあ、仕方ないにゃん、何事も終わりはあるにゃん」
「明日は、街道に近づく感じに移動するのが良さそうだね」
「明後日は直ぐに街道に行けるのがベストなのです」
「にゃあ、わかったにゃん、明日は北上にゃん」
夕食は恐鳥を使ったチキンカレーを作った。
「これ、なんて言う料理なの?」
「カレーにゃん」
「これがカレー? 駐屯地で出るカレーと全然違う」
「にゃ!?」
「色は同じなのです」
「王国軍の駐屯地ではカレーが出るにゃん?」
「うん、色と名前が同じだけで味が全然違うけどね」
「いつ頃からある料理かわかるにゃん?」
「たぶん、昔からある料理なのです、王国軍駐屯地の伝統料理なのです」
「にゃあ」
色と名前が一致してるのはオレのいた世界から他にも転生者がいた証拠か?
味が違うらしいので偶然の一致の可能性もあるが。
「昔ってどのぐらい前にゃん?」
「二〇〇年は経ってるのです、王国軍駐屯地が誇る伝統料理なのです」
「二〇〇年とは年季が入ってるにゃんね」
「あまり人気はないけどね」
「茹肉から肉を抜いて色を付けた感じなのです」
「にゃあ、色の付いたお湯にゃんね」
「そうとも言うね」
同郷の転生者がいたとしても二〇〇年前では会うことは叶わないか。
○帝国暦 二七三〇年〇四月十七日
キャリーとベルのプリンキピウムの森での最終日がやって来た。
今日の目標は、夕暮れまでに街道に近い場所まで戻ることだ。
オレは夜の間に防御結界に絡め取られた獲物とロッジを格納した。
「にゃあ、狩りを始めるにゃん!」
「「おぅ!」」
キャリーとベルが拳を突き上げる。
オレたちは魔法馬を北に向けて出発した。
○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯)
狩りをしながらゆっくり戻る予定ではあるが、街道までは五〇キロほども有るので、襲い掛かって来る獣どもの相手をしてるだけでスケジュールがカツカツだ。
特に恐竜系がヤバい。
仲間内のネットワークでも出来てるのか途切れずに襲って来る。
魔力を絞ってるので特異種との連戦こそ無かったが、しつこい。
何か途中から面倒臭くなってオレが電撃で半径五〇〇メートル圏内の獣を一斉に電撃で倒して回収した。
六〇〇頭ちょっとが手に入ったにゃん。
ちょっと恐竜密度が高すぎないか?
魔法の使い方にも慣れて来たので多少の無理もできる。
「にゃあ、これで休憩ができるにゃん」
「予想より獲物が多くてびっくりだよね」
「プリンキピウムの森、恐るべしなのです」
「にゃあ、もう直ぐお昼なのにまだ半分も来てないにゃん」
街道までまだ三〇キロちょっとある。
「焦らなくても大丈夫だよ」
「拙速な行動は危険なのです」
「そうにゃんね、オレとしたことが慌ててたにゃん」
ノルマがあると達成したくなるのが新車営業の悲しきサガだ。
勿論、売上ノルマはないことになってるので誤解なきよう。
「もうちょっと進んだらお昼にしようか?」
「賛成なのです」
「異議なしにゃん」
やっと危険地帯を抜けた。そうは言っても超危険から普通に危険ぐらいなったぐらいだが。
○プリンキピウムの森 南エリア
「にゃ?」
危険地帯を抜けた辺りで前方から複数の気配を探知した。
「にゃあ、ストップにゃん」
ふたりにも馬を止めて貰う。
「北西から何か来るにゃん」
「魔法馬なのです」
「にゃあ、そうにゃん、魔法馬に乗った人間が五人こっちに来るにゃん」
「森の中を馬で走ってるの?」
「にゃあ、そうにゃん」
「間違いないのです」
「そんなイカれたことをするのはアレだね」
「アレなのです」
もしもし、お嬢様たちも森を魔法馬で走ってましたよ。
「マコトは探査魔法を使わない方がいいのです」
「にゃ?」
「逆探される可能性があるのです」
「にゃあ」
探査魔法を止めた。
「防御結界は大丈夫にゃん?」
「触られなければ気付かれないのです」
「にゃあ、だったら認識阻害の結界も張るにゃん?」
「それは悪手なのです、軍人は認識阻害の結界に敏感なのです」
「軍人が来るにゃん?」
「たぶんね」
オレたちは大木の陰に魔法馬を消して地面に作った蛸壺に入り込んだ。
「来たのです」
魔法馬の蹄の音が複数近づく。
「勘付かれるから頭を出さない方がいいよ」
キャリーに頭を押さえられた。
「にゃあ」
蹄の音と振動が五頭分、一五メートルほど西側を通過する。
「「「……」」」
音が聞こえなくなるまでオレたちは押し黙っていた。
「行ったみたいなのです」
「ふぅ、こんなところで近衛軍の騎士に出会うとは思わなかったよ」
「こんな辺境に来るとは予想外だったのです」
「近衛軍には騎士がいるにゃん?」
「そう、貴族様だからね」
「にゃあ」
騎士は貴族になるのか、なるほど。
「近衛軍の騎士はほとんどが上級貴族の出身なので盗賊よりも厄介なのです」
「権力があるにゃんね」
「魔力も強いし剣もスゴいよ、銃はあまり使わないみたいだけど」
「一般人からは恐れられてる存在にゃんね」
「切り捨て御免なのです」
江戸時代のお侍か。
「殺されても文句が言えないにゃんね」
「全部が全部ってわけじゃないけど、危ないのが大半だから近付かないのがいちばんだよ」
「にゃあ、わかったにゃん」
近衛軍が通ったコースは念の為に避けることにして真北ではなく、やや戻ることになるが東のプリンキピウム寄りに進むことにした。
何で近衛軍がいるのかさっぱりわからなかったし。
「にゃあ、移動距離が一〇キロ増えたにゃん」
「安全第一だよ、マコト」
「そうにゃんね」
君子危うきに近寄らず。オレたちはコソコソとその場を離れた。
○プリンキピウムの森 街道沿い
午後は狩りより移動を優先して夕方には街道に近い空き地にたどり着くことが出来た。
「ここで野営して明日はいよいよ州都に向けて出発にゃん」
「ロッジよりテントにした方が無難なのです」
「そうだね、認識阻害の魔法は使わないでテントにした方がいいね」
「にゃあ、近衛軍対策にゃんね」
「そうなのです、何処にヤツらの目があるかわからないから慎重に行動するのです」
「防御結界はどうにゃん?」
「それは問題ないのです」
「ただ広げ過ぎないようにね」
「にゃあ、テントを囲むだけにゃん」
テントを再生する。
「一張でいいにゃん?」
「いいよ」
「中の格納空間までは見破れないはずなのです」
「そこまでバレちゃうなら、もう逃げるしかないね」
「にゃあ」
テントとテーブルを再生して夕食の準備に取り掛かった。
街道が近いせいか近寄ってくる獣はいない。
閉門の時間を過ぎたので街道を通る馬車もない。
「にゃあ、森の奥より静かでいいにゃんね」
「ここも一応、森の中なのです」
「油断しちゃダメだよ」
「探査魔法は使ってもいいにゃん?」
「広げ過ぎなければ問題はないのです」
「具体的にはどのぐらいにゃん?」
「ここからプリンキピウムの門までの半分ぐらいかな」
「にゃあ」
門まではおおよそ四キロぐらいだから、距離にして二キロぐらいならOKってことか。
「探査魔法にも引っ掛からないにゃん」
「この辺りの街道の獣除けの結界は生きてるから、そう神経質にならなくても大丈夫なのです」
「にゃあ、オレの結界も簡単には破れないにゃん」
「そうだよね」
「獣は心配要らないのです、でも近衛軍は要注意なのです」
「この近くに遺跡があるのかも」
「近くにはクーストース遺跡群の一つプリンキピウム遺跡があるのです」
「発掘が始まったのかな?」
「近衛軍の騎士が姿を見せたから、その可能性が高いのです」
「にゃあ、近衛軍が遺跡の発掘をしてるにゃん?」
オレの感覚だとピンと来ない。
「アーティファクトが出土する可能性がある有力な遺跡は、王宮が管理して近衛軍が発掘を仕切っているんだよ」
「にゃあ、出土品を独占するわけにゃんね」
「特にクーストース遺跡群は、未発掘の遺跡の中でも重要遺跡に指定されてるから、出て来て当然なのです」
「にゃあ、プリンキピウム遺跡っていうぐらいだからここから近いにゃん?」
「近いと言っても街からは、馬車で丸一日分は離れてるのです」
「街道沿いには無かったよ」
「街道からずっと南に入り込んだ場所だったと記憶してるのです」
「にゃあ、冒険者ギルドで買った地図にはないにゃんね」
テーブルに地図を広げた。
それらしき記載はない。
「遺跡の正確な位置は秘匿されてるのです」
「知らずに入り込んだらヤバいにゃんね」
「結界が張ってあるから、間違って迷い込むなんてことはないから心配はいらないよ」
「近衛がいる遺跡に不用意に近付くと捕まって犯罪奴隷と一緒に働かされるという噂もあるのです」
「それは怖いにゃん」
「あくまで噂だけどね」
「遺跡の近くで行方知れずになる冒険者は少なくないのです」
「にゃお」
「それも噂だけどね」
「真実とはいつも目に入ってるものなのです」
「にゃあ、ベルは良く知ってるにゃんね」
「情報は魔法使いの生命線なのです、マコトももっと情報を集めることをお勧めするのです」
「にゃあ、肝に銘じるにゃん」
夜はキャリーとベルと川の字になって寝た。