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プリンキピウム魔獣開発局にゃん

 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)


「にゃあ、本当に直ぐそこにあるにゃんね」

「「「にゃ!?」」」

 猫耳たちも気付いたらしい。

「お館様、これはアレと違うにゃん?」

「にゃあ、おまえらも気付いたにゃん?」

「「「にゃあ」」」

「三〇〇メートル先の地中に魔獣がいるにゃん」

「にゃあ、魔力切れを起こして動けない個体みたいにゃん」

「この前の食品工場と同じにゃん?」

「ちょっと違うかな、こっちは魔獣が遺跡の魔力を吸い取ってるみたいだね、それも随分まえに止まってジリ貧な状態だね」

 リーリは魔力の流れまで見ていた。

「にゃあ、お館様、あの亡霊は何にゃん?」

「人間の亡霊じゃなさそうにゃんね」

「確かに波長が人間とは微妙に違ってるにゃん」

「たぶんあれは疑似餌にゃん、魔獣の口の前まで案内する役にゃんね、昔、魔獣に喰われた人間を元に作ったみたいにゃん」

「のこのこ付いて行くと魔獣に食べられるにゃんね」

「そういうことにゃん」

 場所が場所だけに引っ掛かった人間はひとりもいないと思う。

「魔獣にそんな小細工ができるとは驚きにゃん」

「にゃあ、人間より演算能力はずっと上にゃん、ただ知性を持ち合わせていないだけにゃん、有るのは本能だけにゃん」

 知能があったらもっと人の多い場所に巣を張ったはずだ。アマデウスの罠より更に奥では人間の訪問は絶望的だろう。

「全力でボコるにゃんよ、弱っていても相手は本物の魔獣にゃん、さっきのまがい物とは違うから注意するにゃんよ」

「「「にゃあ!」」」

『『『ニャア!』』』


『こちらです』

 亡霊が立ち止まった。

『そのまま前にお進み下さい』

「お断りにゃん」

 オレたちは魔獣が仕掛けた罠の直前で立ち止まった。

「にゃあ、戦闘を開始にゃん」

「「「にゃあ!」」」

 まずは地面に向けて電撃を放った。

 刻印が破壊されて地表を覆っていた立体画像が消え、直径一〇〇メートル深さ三〇メートルほどのすり鉢状に陥没した穴が姿を現する。

 亡霊も一緒に消滅していた。

「まるで蟻地獄にゃんね」

「蛇型の大きな魔獣にゃん、食品工場に絡みついていたのと似てデカいにゃん」

「お館様、ウチらで引き摺り出すからトドメをお願いにゃん」

「了解にゃん」

 猫耳と猫耳ゴーレムは蟻地獄の外周を囲んだ。

「「「にゃあ!」」」

『『『ニャア!』』』

 風が渦を巻いてすり鉢の底から土砂を吸い上げた。

「出て来たにゃん」

 電車ほどの身体が引き出される。

 魔獣も思わぬ反撃に最後の力を振り絞って身体を動かし逃れようとするも身体はズルズルと引き出される。

 すでに防御結界に回す魔力も残って無いらしい。

「にゃあ、これで決めるにゃん!」

 魔獣のエーテル機関を隔離し魔力の供給を遮断した。

 魔獣の身体が停止する。

 電車みたいな魔獣を分解して拡張空間に収めた。


「お館様、この下に遺跡があるにゃんね」

「にゃあ、そうにゃん、丸くはないにゃん」

「丸くないってことはもしかしてダンジョン型にゃん?」

「詳しく調べるにゃん」

 地下五〇メートルに埋まってる大きさはだいたい一辺が五〇〇メートルの立方体だ。

 システムは魔獣に吸い取られたせいで完全に止まっていて探査魔法でも遠方からは引っ掛かる要素がない。

「にゃあ、純粋に人間が使う施設みたいにゃん、だから迷宮型で決まりにゃん」

 大小の部屋や通路があるのが探査魔法で見えた。

 もちろん何かの生産プラントも有るみたいだが、それだけの施設では無さそうだ。

「お館様、ここに埋まってるのは本当にプリンキピウム魔獣開発局と違うにゃん?」

「にゃあ、そうにゃんね、迷宮型だから無いとはいえないにゃんね」

「お館様、遺跡はオリエーンス連邦で間違いないみたいにゃん」

「これは探検の必要有りにゃんね」

『『『お館様! ウチらも探検したいにゃん!』』』

 各拠点から参加希望の声が上がった。

『にゃあ、各拠点一〇人まで受け付けるにゃん、明日、探検するから今日中に移動するにゃんよ』

『『『にゃあ♪』』』

 念話を終えて今いる猫耳と猫耳ゴーレムに振り返った。

「こっちにいるオレたちは外側から調べられるだけ調べるにゃん、それと露天風呂のところにトンネルを繋げるにゃん」

「「「にゃあ!」」」

『『『ニャア!』』』



 ○プリンキピウムの森 プリンキピウム魔獣開発局 前


 オレは遺跡の上の土砂と木々を分解して取り除いた。現れたのはビルの基礎工事の現場を大きく引き伸ばしたみたいな光景だ。

「地上階は綺麗に壊されてるにゃんね」

「にゃあ、こうして見るとかなり大きいにゃん」

 街の数ブロック分の大きさがある。

 三〇〇メートルの球体とかも桁外れの大きさだが、掘り出して実際に目の当たりにしたわけじゃなかったし、表面がツルンとしていてイマイチ建物感が希薄だった。実際、建物ではないわけだし。

 対して目の前に有るこれは大きさは別にして建築物っぽくて馴染み深い。

 猫耳たちと遺跡の上に降り立った。

「にゃあ、この遺跡、地上部分が有ったみたいにゃんね」

 まるでカッターで切られたみたいに水平に切断されていた。しかも切り口はまったく崩れていない。

「地下五〇メートルより上が消滅した感じにゃん、そこに魔力切れ寸前の魔獣が棲み着いたみたいにゃんね」

「魔獣が壊した訳じゃないにゃん?」

「遺跡の材質からするとあの魔獣には壊せなかったと思うにゃん」

 見た目はコンクリートっぽいが恐ろしく硬くて恐ろしく粘る。生きてる金属のコンクリート版みたいな材質だ。魔法を使ってエーテルに分解しない限り壊すのは難しい。

「しかも対魔法の刻印が練り込んであるにゃん、実際に迷宮型を触るのは初めてだけど思っていた以上に凝ってるにゃん」

「プリンキピウム遺跡とも違ってるにゃんね、あっちみたいにシッポがブワっとならないにゃん」

 猫耳たちも探索魔法を打つ。

「にゃあ、プリンキピウム遺跡は生きてるから仕方ないにゃん、それに比べてこっちは完全に機能停止してるから物騒な感じはないにゃんね」

「マコト、ここって人がいたんだよね?」

 あちこち見て回ってたリーリがオレの頭に着地した。

「にゃあ、そうにゃん、迷宮型だから人が使う造りにゃん」

 仕切りは廊下と部屋みたいだし、人が使っていた施設で間違いないと思う。

「それってレストランとかあるってこと?」

 リーリが目を輝かせた。

「にゃあ、人がいるんだから食堂か、食べ物を出す魔導具はあったと思うにゃん」

「この遺跡は当たりだね」

 リーリ的には当たりらしい。

「にゃあ、詳しくはシステムにアクセスして遺跡を復元してからにゃんね」

「これだけの遺跡の復元にゃん、お館様が州都に造ったホテルよりマナを消費しそうにゃん」

「ここは魔獣の森に近いおかげでマナが濃い目だから外側の修復だけなら何とかなるにゃん、中身の修復は持ち出しになりそうにゃんね」

 オレの格納空間には使い道の決まってない大量のマナが備蓄されてるから、そこは問題ない。


「修復を開始するにゃん」

 オレたちは遺跡の傍らから魔力の供給と同時にシステムにアクセスする。これをやらないと犯罪奴隷を使い潰しての人海戦術になってしまう。

 当然、システムには鍵が掛かってるが精霊情報体と図書館情報体の知識で外す。所有者をオレに書き換え、使用者は猫耳たちを全てとチビたちを登録した。

 もちろん猫耳ゴーレムも登録する。

 他のゲストは入館時に登録の許可を問い合わせる。

 続けて施設管理にアクセスして設計図を手に入れた。これで失われた部分の修復ができる。これを時間を巻き戻して欠損部分を修復しようとすれば、大きさが大きさなだけに猫耳たちがいても演算能力が足りない。

「にゃあ、システムを掌握した後は、遺跡そのものの修復を開始するにゃん!」

「「「にゃあ!」」」

 オレはマナを魔力に変えて設計図の通りに遺跡へと注ぎ込む。一から組み上げた州都のホテルと違ってこちらは再建だ。

 デカいので燃費は非常に悪い。

「にゃあ、生えて来たにゃん」

「「「にゃあ♪」」」

「お館様、ウチらも手伝うにゃん?」

「にゃあ、それはヤメた方がいいにゃん、加減を間違えると自分の魔力を持って行かれて魔力切れを起こすにゃん、おまえらは周囲の警戒を頼むにゃん」

「了解にゃん、お館様の魔力を嗅ぎ付けて特異種が集まって来てるにゃん」

「にゃあ、魔獣の森前衛拠点からも応援が来たにゃん」

「猫耳ゴーレムも散開にゃん!」

『『『ニャア!』』』


 集まってきた特異種の群れは猫耳と猫耳ゴーレムたちに狩り尽くされ、すぐに各拠点に送られて加工、備蓄される。

 一部は領主様に献上し、州都とプリンキピウムの冒険者ギルドとベイクウェル商会に卸され、売上の一部が猫耳たちの元家族たちに贈られる。

 今回、黒恐鳥の特異種から作られる魔力増幅薬を弄って副作用のない回復薬が出来たので猫耳たちに所持させた。

 必要に応じてコピーして再生できる。オレたちが魔力切れを起こすことはないが、疲労回復にも効くので持っていて損はない。


「にゃあ、外側の再生は完了にゃん」

 夕方になって一段落ついた。

 内部の修復は大量に練り込んだエーテル機関が魔力を供給しながら自動的に行われる。

「これはまたでっかいにゃんね」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちが夕日を浴びた巨大な直方体を見上げる。

「地上だけで高さが二〇〇メートルほどあるにゃん、地下部分は五五〇メートルともっと大きいにゃん」

「お館様、窓が無いにゃんね」

 外壁は大理石みたいな白くツルツルした仕上げになっており窓はない。

「にゃあ、その代わり壁の厚さは二〇メートルちょっとあるにゃん」

「お館様、出入口も見当たらないにゃんよ」

「出入口は屋上に一つしかないにゃん」

「屋上にゃん?」

「そうにゃん、屋上にゃん」

「にゃあ、昔の人は不便なモノを作るにゃんね」

「まったくにゃん、少なくない人数がこの中で働いていたはずなのに不思議にゃん」

 明日の探検ではっきりするかな?

「そして、この材質にゃんね」

 猫耳たちが外壁をペタペタ触る。

「にゃあ、使われているのは生きてる金属のコンクリート版みたいなモノにゃん、オレたちが建築物を作るにあたって便利に使えそうにゃん」

「生きてる金属ほどじゃないけど高価な素材にゃんね、プリンキピウム遺跡にも使われてないにゃん」

「プリンキピウム遺跡より重要ってことにゃんね」

「にゃあ、ただ現代と当時の価値は一致しないにゃんよ」

「お館様、これが本当に『プリンキピウム魔獣開発局』だとしたら、価値はとんでもないことになるにゃんよ」

「それはわかるにゃん」

 魔獣を駆逐できるヒントが得られるなら、それは人類にとって小さくない希望になる。

「お館様の世界征服の夢にまた一歩近付くにゃん」

「にゃお、そんな夢は見てないにゃんよ」

「「「にゃあ、わかってるにゃん」」」

 猫耳たちが笑みを浮かべてうなずいた。本当にわかってるのか?

「お館様は、露天風呂に戻っていいにゃんよ、結界はウチらでやるにゃん」

「にゃあ、頼んだにゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちが復元した遺跡に認識阻害と防御結界を張る。

 白くてデカいので遠くからも良く見えるので過剰なぐらい重ね掛けをした。

 プリンキピウムの街からオレたちの魔法馬で一日分、近衛軍の発掘してるプリンキピウム遺跡からは二日分は離れてるが用心するに越したことはない。

 オレの本能的直感が、ヤツらと特に仮面の宮廷魔導師とやりあうことに赤信号を出してる。

 危ないものには近づかないに限る。



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) ロッジ 野天湯


「にゃあ、極楽にゃん」

「そうだね」

 オレとリーリは今日二回目の野天湯だ。

 さっきと違って直ぐ横に猫ピラミッドが作られてる。

 湯船もジャグジーが追加されてデフォルメされた猫の足跡っぽく作り変えられていた。

『ニャア♪』

 また猫耳ゴーレムに抱っこされてる。

 日が落ちて照明に灯がともった。

「なかなか魔獣の森に到着しないにゃんね」

「にゃあ、お館様の引きの強さには脱帽にゃん」

「引きが強いんじゃなくて、オレは感度が高いにゃん」

「「「おやかたさま!」」」

 チビたちがやって来た。

「にゃあ、皆んなもこっちに来たにゃん?」

「ココアにのってきたの」

 シアが手を挙げた。

「あたしはチョコにのってきたよ」

 続いてニアも手を挙げた。

「アンコはとってもはやいんだよ」

 ノアは両手を挙げた。

「ビッキーとチャスも魔法馬で来たにゃん?」

「プリン1ごうできました」

「わたしはプリン2ごうです」

「にゃあ、狩りはどうだったにゃん?」

「「「いっぱいとれた!」」」

「にゃあ、スゴいにゃんね」

「お館様、チビたちは既に冒険者のBランク相当になるにゃん」

 おチビたちに付き添っていた猫耳たちが教えてくれる。

「魔法使いとしてはどうにゃん?」

「軽く近衛軍に目を付けられるレベルにゃん」

「にゃお、ケラスの話がまとまったら早急に移した方が良さそうにゃんね」

「あっちは、近衛軍も寄り付かないから最適にゃん」

「にゃあ、ケラスは近衛軍どころか普通の人もいないにゃん」

「お館様、最近のケラスは盗賊がいるみたいにゃんよ」

「人もいないのに盗賊にゃん?」

「ベイクウェル商会からの情報にゃん、正式な報告書の前に出入りしてる猫耳がわかってる範囲のことを教えて貰ったにゃん」

「にゃあ」

「アルボラ州を中心とした盗賊狩りに大公国の死霊から逃れたヤツらも加わってケラスに入り込んだそうにゃん」

「盗賊狩りにゃんね、オレも聞いにゃん」

「以前、お館様が助けた武装商人の事件が引き金になって、各地の盗賊がかなり捕まったみたいにゃん」

「にゃあ、イートンとジェフリーにゃんね、頑張ってるにゃんね」

「ふたりが捕まえた武装商人狩りの殺し屋から暗殺ギルドの親玉の情報が漏れて、後は芋づる式に行ったみたいにゃん」

「にゃあ、何で盗賊はケラスに逃げたにゃん?」

「ケラスは守備隊がないから誰にも追われないにゃん、逆に大公国は結界に阻まれて入れなかったみたいにゃん」

「それに徒党を組めばアルボラの騎士団が中心になって組織された討伐隊にも負けないと踏んだみたいにゃんね」

「盗賊がいくら集まっても盗賊にゃん」

「それは言えるにゃん、でもベイクウェル商会の情報に依ると放棄された砦の一つを根城にしてるみたいにゃん、数は五~六〇〇らしいから誰かが統率を取ってるにゃんね」

「にゃあ、かなりいるにゃんね、討伐隊はいつごろ出るにゃん」

「砦があるのが毒持ちの獣が多い地域らしいから、踏み込むに踏み込めないみたいにゃんね」

「毒を使う獣相手では、砦に篭っている間に盗賊の数が勝手に減ってる可能性があるにゃん」

「盗賊は獣に弱いにゃん?」

「にゃあ、獣を狩れるなら冒険者をやってるにゃん」

「獣は刃物をチラつかせても言うことを聞いてくれないにゃん」

 そりゃそうだ。

「にゃあ、全滅するのは盗賊どもの勝手にゃん、でも、怨霊になるとかの迷惑行為はヤメて欲しいにゃんね」

「まったくにゃん」

 チビたちも露天風呂でチャプチャプする。

「お館様、ビッキーとチャスもケラスに連れて行かないとヤバいにゃん」

「そうにゃんね、プリンキピウムの森で近衛の騎士と遭ったりしたら一大事にゃん」

「「……?」」

 当事者のビッキーとチャスはわかってない感じだ。

「危ないのはお館様やウチらも一緒にゃん」

「近衛軍は強ければ誰でもさらって行くって噂にゃん」

「騎士も平民も関係なしにゃん?」

「にゃあ、お館様、近衛の騎士は上級貴族揃いにゃん、騎士も平民も区別が付かない連中にゃん」

「にゃお」


 近衛軍との軋轢を避けるならばオレたちの拠点はケラスに移さざるを得ないようだ。


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