アマデウスのお宝にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇九月〇一日
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) プリンキピウムの森拠点 前
「「「おやかたさま、リーリちゃん、いってらっしゃい!」」」
「にゃあ、シアとニアとノアはビッキーとチャスと猫耳たちの言うことを聞いて気を付けて狩りをするにゃんよ」
「「「はい!」」」
四歳児たちはいい返事をした。
「にゃあ、ビッキーとチャスも三人を頼んだにゃん」
「「はい!」」
「にゃあ、ウチらと猫耳ゴーレムにお任せにゃん!」
「「「にゃあ!」」」
『『『ニャア!』』』
猫耳たちと猫耳ゴーレムもいい返事をした。
二重三重に防御してるので大丈夫だろう。
オレたちはビッキーとチャスそれにシアとニアとノアの四歳児たちと猫耳と猫耳ゴーレムたちに見送られて出発した。
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)
昨日と同じく猫耳三人と今日は猫耳ゴーレムを増やして一〇体を連れて行く。
猫耳ゴーレムは散開して進む。
「にゃあ、まずは金の反応を探るにゃん」
探査魔法は半径一〇〇キロ圏内にまったく反応が無かった。
「最初から無かったのかも知れないにゃんね」
「にゃあ、五〇〇年のうちにいろいろあって、地中に深く埋もれたのかも知れないにゃん」
「可能性はあるにゃんね」
シャケみたいな地中を泳ぐ魔獣が近くを通ったら、深い場所に引き摺り込まれる。
それとは別に引っ掛からない別の可能性も考えられた。
「にゃあ、もう一つ試してみたいことがあるにゃん、認識阻害の結界がないか探るにゃん」
認識が阻害されれば当然引っ掛からない。
オレは、魔法の種類を変えて結界の有無を探った。
「にゃあ、今度は微弱ながら反応があったにゃん」
「マジにゃん?」
「にゃあ、ウチも感じたにゃん、魔力が切れ掛かってるけど確かにあるにゃんね」
「反応の有った場所に行ってみるにゃん」
「「「にゃあ!」」」
魔獣の森前衛拠点に真っ直ぐ行くより二割程度の遠回りの地点に反応があった。
財宝じゃないにしても人の手が加わった何かが有るのは間違いない。
「反応はほとんど地表だから遺跡ではないにゃんね」
「魔獣の可能性もないとは言えないにゃん」
実際、認識阻害の結界を張っていたヤツに遭遇している。
「にゃあ、本当に魔獣だったら素手でボコるにゃん」
「当然にゃん」
オレたちに襲い掛かって来る邪魔な獣たちは猫耳ゴーレムが排除してくれるので、いつもより速度が上げられる。
「お館様、お宝だったらいいにゃんね」
「にゃあ」
冷静を装っても期待に尻尾が揺れてしまう。
尻尾が揺れてるのは、他の猫耳たちも一緒だ。
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 認識阻害の結界 前
「にゃ? 猫耳ゴーレムはこっちに来るにゃん」
一時間ほど進んだところで魔法馬を止め、猫耳ゴーレムを呼び寄せた。
『『『ニャア』』』
いや、オレを馬から降ろしてスリスリはしなくていいにゃん。
「お館様、この先に何かあるにゃん?」
猫耳たちも集まる。
「マナの濃度が変わった気がするにゃん」
「にゃあ、お館様、マナの濃度は変化ないにゃんよ」
「でも、尻尾にビリビリ来るにゃんね」
「マナの質が変わった感じだね、かなり人工的な臭いがするよ」
リーリがオレの頭の上であぐらをかきながら教えてくれる。
「この先に人工的な何かがあるにゃんね?」
「たぶん、そうじゃない?」
「にゃあ、もうちょっと良く調べてみるにゃん」
意識を集中して探査魔法を強化する。
「見えたにゃん!」
「「「にゃ!?」」」
「ウチらはわからないにゃん」
「簡単に言えば呪いにゃん、この先の認識阻害の結界には呪いが掛けてあるにゃん」
「プリンキピウム遺跡の結界と違うにゃん?」
「にゃあ、似てるけど違うにゃん、こっちは因果に干渉してくる系にゃんね」
ギーゼルベルトの知識にあったものだ。
フィーニエンスの軍事魔法の流れを汲んでる現代魔法だ。当時はまだ交流があった時代だから悪いヤツらの間でも情報が交換されていたのかも。
「お館様、ウチらにも見えて来たにゃん」
猫耳たちも目を凝らした。
「これは始末が悪いにゃんね」
「毒薬みたいな効果にゃん」
因果に干渉して死期を急激に早める。プリンキピウム遺跡の即死性の呪いとは異なるが数時間以内には死に至るだろう。
「これを作るのにかなりの数の魂を使ってるにゃん」
「にゃあ、強引に縫い合わせた感じにゃん」
猫耳たちも目を凝らす。
「アマデウスは普通の盗賊じゃないにゃんね」
「この呪いを仕掛たのなら相当な魔法使いにゃん、それも禁呪に通じているにゃんね」
「聖魔法で解除するにゃん、呪いも魂も全部浄化して天に還すにゃん」
「お館様、ウチらも手伝うにゃん」
「一発で全部を昇天させるにゃん」
「いつでもいいにゃん」
「にゃあ、始めるにゃん!」
聖魔法の結界で呪われた領域を囲う。
青い光が地表を覆うと中から黒い靄が湧き上がった。
「呪いが見えて来たよ」
リーリが指差した。
それは人の形を幾つも作り出す。
禁呪の犠牲になった盗賊の成れの果てだ。
苦痛に苛まれながら這いつくばって呪う相手を探してる。
死してなお、呪い続けることを強制された哀れな魂たちだ。
「おまえら全員、天に還るにゃん!」
青い光が強さを増し、人の形をした黒い靄が地面から引き剥がされる。
黒い靄は青い光に浄化され光の粒子になる。
そして螺旋の軌道を描きながら天に昇って行く。
「にゃあ、浄化完了にゃん」
「お館様、まだいるにゃんよ」
「大きいね」
「にゃあ、アマデウスのお出ましにゃん」
「まだ生きてるにゃん?」
「にゃあ、生きてはいないにゃん、悪霊にゃん」
「出て来るにゃん」
ボロをまとった骸骨が地面から現れた。ゆうに身長三メートルを超える大きで、悪霊というより妖怪って感じの半エーテル体だ。
「デカいにゃん」
聖魔法を結界で弾いてるがところどころ綻びが出来て分解が始まっていた。
「にゃあ、その状態で思考力が残ってるとは大したものにゃん」
オレは怨霊の中を読み取る。
全部が剥き出しの状態だから分解するまでもない。
「にゃあ、なるほどアマデウスは、その姿になってから盗賊団を作ったにゃんね」
盗賊の究極系とも言える。
「人間の欲望を吸い上げる為にお宝を集めていたとは驚きにゃん」
「にゃお、歴史に残るだけあって、こいつはヤバすぎにゃん」
「お館様、こいつまだ何かやる気にゃん」
「面白いものを見せてくれるみたいにゃんよ」
棒立ちしていた骸骨が口を開いた。
赤く光る石が見えた。
「にゃ、エーテル機関にゃん!」
「お館様、マナの濃度が急上昇にゃん!」
「皆んなオレの近くに来るにゃん!」
「急いだ方がいいよ!」
リーリが注意する。
「「「にゃあ!」」」
『『『ニャア!』』』
全員をオレの防御結界で守る。
強いマナを含んだ風が突風となって集まり、アマデウスの骸骨を中心とした旋風を作り上げた。
オレたちの周囲がいきなり竜巻の中心となり、森の大きな木々が引き抜かれて空中に飛ばされる。
「にゃあ、お館様の結界が無かったらヤバかったにゃん」
「ウチらだけだったら吹っ飛んでいたにゃんね」
『『『ニャア』』』
猫耳ゴーレムたちも同意してる。
「最後の攻撃だけあって派手にゃんね」
「にゃあ、これは攻撃じゃないにゃんよ」
「「「にゃ?」」」
土埃で視界が遮られた竜巻の中心でアマデウスの骸骨が蠢いてる。
「出て来るにゃん」
唐突に竜巻が消え姿を表したのは、肉食獣の形をした巨大な骨の集まりだった。
エーテル機関があるから分類的には魔獣になるのだろうか?
しかし、いびつでグロテスクな姿は生き物のジャンルに入れたくない感じだ。
『ガアアアアアアアアアアアアア!』
骨の獣は、骨とは思えない重い音をさせてオレの防御結界にブチ当たる。大きいだけに結界へのぶちかましは大迫力だ。
「半エーテル体から魔獣に変身する方法が有ったとは驚きにゃん」
「正確には魔獣型の悪霊だね、外側の骨は物体みたいだけど」
リーリが解説してくれる。
「半エーテル体の物体のハイブリッドな魔獣にゃんね」
これも妖怪の一言で片付けて良さそうだ。
「でも、変にゃん」
「にゃあ、確かに変にゃん」
「こんな派手に変身できるなら、森の奥に逃げなくても良かったと思うにゃん、追っ手が何千人いても蹴散らせそうにゃん」
猫耳たちが疑問を呈した。
「にゃあ、たぶんこれを使うと元の姿に戻れなくなるにゃん」
「最後の手段にゃんね」
「にゃあ、オレたちで引導を渡すにゃん」
『『『にゃあ!』』』
魔獣がぶちかましを掛けたところで電撃を浴びせた。
『ギギギギ』
魔獣は歯をこすり合わせて音を立てた。
それから崩れ去った。
オレの掌にはヤツのエーテル機関が載る。
「アマデウスは、自分の魂をエーテル機関に封じ込めて魔獣の半エーテル体を作ったみたいにゃん」
「でも意外と弱っちかったにゃんね」
「にゃあ、アマデウスはエーテル機関をちゃんと理解してなかったにゃん」
「そうだね、面白い使い方ではあったけど」
リーリがオレの掌に載ったエーテル機関を眺めた。
「お館様、アマデウスの魂はどうなったにゃん?」
「にゃあ、エーテル機関に消費されてエーテルに戻ったにゃん」
「天に還れなかったにゃんね」
「自業自得にゃん」
「念の篭ったお宝を集めてたらしいけど、アマデウスの念がいちばん篭ってる気がするにゃん」
「にゃあ、でもお宝に罪はないにゃん」
「聖魔法でお宝の念を浄化されたのもアマデウスには痛かったにゃんね」
「力の源を消されては最初から勝負は決まっていたにゃん、それに時間の経過でいろいろ劣化してたにゃん」
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 認識阻害の結界跡
オレたちは馬を進めてアマデウスの財宝の場所にたどり着いた。
「骨にゃん」
「にゃあ、骨にゃんね」
「骨の塔にゃん」
そこにあったのは、高さ一〇メートルほどの骨を組み合わせて作った塔だった。
「材質は金属みたいにゃん、骨から材質を変化させたにゃんね」
「アート作品に見えないこともないにゃん」
ひとまず邪魔なので分解した。
続けてアマデウスの財宝を回収する。聖魔法で聖別されて周囲は清々しい空気で満たされてる。
「にゃあ、骨の塔の下に金貨が埋まってるにゃん、ざっと探査しただけで大金貨三十万枚分はあるにゃんね」
「他にも普通の銀貨がトン単位で埋まってるにゃん」
「後は魔導具がごちゃっと入ってるにゃんね、状態保存の魔法が掛けてあるけどどれも要修理にゃん」
「回収して魔導具は修理して売れそうなのは売っぱらうにゃん。便利なのはオレたちで量産がいいにゃんね」
「魔導具は領主様を通した方がいいにゃん?」
「にゃあ、販路は任せるにゃん、お金は銀行で使うといいにゃん」
「お館様、骨の塔はどうするにゃん?」
「材質を水晶に替えて、売っ払うといいにゃん」
「水晶にゃん?」
「気持ち悪さが無くなるにゃん、ついでに聖魔法を掛けて縁起物にするにゃん」
「にゃあ、それならベイクウェル商会に依頼して王都のオークションに出してみるといいにゃんよ」
「にゃあ、それで頼むにゃん」
お宝を根こそぎ回収したオレたちは魔法馬を魔獣の森前衛拠点に向けて走らせる。ここからは猫耳ゴーレムも魔法馬に乗せてみた。
「にゃあ、お宝を回収したわりに時間はそれほど食われなかったにゃんね」
「大盗賊でも時間の流れには抗えなかった感じにゃん」
魔力がみなぎってた頃なら、苦戦を強いられてたと思う。
「お館様は、また大金を掴んだにゃんね」
「にゃあ、初めてこの世界に来たとき、一文無しだった頃と隔世の感があるにゃん」
あれからそれほど経ってないわけだが。
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) ロッジ 野天湯
お昼ごはんの後、お風呂に入りたくなって休憩したロッジの横に野天湯を作る。
壁も天井もないが結界ガチガチで獣も虫もシャットアウトだ。
「にゃあ、極楽にゃん」
「そうだね」
「「「にゃあ♪」」」
『『『ニャア♪』』』
猫耳と猫耳ゴーレムも風呂に入ってる。
ゴーレムに入浴は必要はないわけだが、以前と同じく入りたそうにしてたので許可してやった。
楽しそうだからいいのだが、オレを抱っこしたがって困る。
「にゃあ、順番にゃん」
抱っこしたいならさせてやるけど眠くなる。
「にゃあ、気持ちいいにゃんね、でも、囲まれてるのはよろしくないにゃん」
「ウチらは囲まれてるにゃん?」
「うん、囲まれてるね」
リーリはわかったみたいだ。
「お館様、ウチらにはわからないにゃん」
『『『ニャ?』』』
猫耳と猫耳ゴーレムには感じなかったらしい。浴槽から立ち上がって辺りをキョロキョロ見渡す。
「オレたちを囲んでるのは亡霊にゃん」
「にゃあ、亡霊にゃん?」
「聖魔法で片付けるにゃん」
『『『ニャア!』』』
「待つにゃん、慌てなくても大丈夫にゃん、敵意は感じないから大丈夫にゃん、オレたちに用事が有るみたいにゃん」
「にゃあ、亡霊のくせにウチらに用事を言い付けようとは生意気にゃん」
「聖魔法で浄化の刑にゃん!」
「天に還すにゃん」
『『『ニャア!』』』
「だから待つにゃん、ちゃんと話を聞いてからにするにゃん」
「お館様、亡霊は何人ぐらいいるにゃん?」
「にゃあ、三〇人ぐらいにゃん」
「全然見えないやん」
「にゃあ、かなり古い亡霊だからにゃん、いまにも消えそうな感じにゃん」
ノイズが走ってる。
「もしかしたら普通の亡霊じゃないのかもしれないにゃん」
「にゃ?」
「うん、詳しくはわからないけど普通じゃないね」
風呂を出たオレは水滴を分解し、セーラー服を再生した。猫耳たちも戦闘服に早着替えした。
「にゃあ、オレたちに何の用にゃん?」
結界の縁に立って声を掛けた。
消えそうな亡霊でもこんな場所でいきなり結界無しで対面するほどお人好しじゃない。
『はじめまして』
三〇体の亡霊のうちひとりだけ顕在化した。
軍服のような服を着た二〇代後半ぐらいの女性だ。
『私はオリエーンス連邦プリンキピウム魔獣開発局の者です、あなたに私たちの遺産を譲渡したい』
「にゃあ、今度は見えたにゃん?」
猫耳と猫耳ゴーレムたちにも波長を合わせてやった。
「「「にゃあ、ウチらにも見えたにゃん」」」
『『『ニャア』』』
「お館様、遺産て遺跡のことにゃん?」
「にゃあ、そう考えるのが自然にゃん」
『ご案内いたします』
踵を返し歩きだす亡霊。案内されるまでもなくその先に在るものがわかった。




