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狩りまくりにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇四月十五日


 ○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯) ロッジ


「それって本当なの!?」

「にゃあ」

「特異種が魔法を使ったのですか!?」

 朝食を食べながら昨夜の首長竜のことを身振り手振り交えて話したところ、キャリーとベルが驚きの声を上げた。

「そうにゃん、そしてこれが魔力の源にゃん」

 首長竜の特異種から取り出した白い石を見せる。

「エーテル器官? 人間の倍ぐらいあるね」

「こっちが魔獣の魔石にゃん、比べてみると全然違うにゃんよ」

 魔石つまり魔獣のエーテル機関は、野球の硬式球ほどの赤い半透明の石だ。

「大きさも色も全然違うのです」

 ベルがそれぞれを手に持って眺める。

「これだけ見ても、魔獣のとんでもない強さがわかるよ」

 キャリーは隣から眺めた。

「エーテル器官の大きさからすると特異種の魔力も人間とは、比べ物にならないほど強力なのです」

「にゃあ、特異種にも油断ならない相手がいるということにゃんね」

「特異種を相手に油断できるのはマコトぐらいだよ」

 肩をすくめるキャリーさん。

「普通は命がけで逃げるのです」

「特異種は普通の武器では太刀打ちできないし、群れを率いてる事が多いからね」

「確かに群れは厄介にゃんね」

「しかも魔法を使うって厄介すぎる」

「一般的な冒険者のレベルだとオオカミの群れだって危ないのです」

「実際、私たちも危なかったよね」

「死んでもおかしくない状況だったのです」

 確かに、あれは危なかった。

「だからマコトも気を付けないとイケないのです」

「勿論にゃん」

 キャリーとベルの忠告は重要だ。オレだって対応できない数で押されたら一巻の終わりだ。



 ○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯)


 朝食の後はロッジを消して予定通り魔法馬に乗って獲物の探索を開始する。

 この辺りは人の滅多に入り込まない場所だが、ここは木漏れ日も有るのにまるで誰かが手入れをしたかのように背の高い下草が生えていなかった。

 もしかしてちゃんとした草食動物がいるのだろうか?

 どいつもこいつも牙を剥いて襲いかかって来るヤツらばかりだったけど。

 下草が低くても木々はお行儀よく生えているわけではないので見通しは良くない。

「オレの魔力は隠す方向でいいにゃんね?」

 昨日までダダ漏れだった魔力を身体の中に収めている。

「うん、今日はこちらから仕掛けたいから外に漏らさない方向でお願い」

「了解にゃん、このままお漏らししないようにするにゃん」

「では、始めるのです」

 ベルがうつむいて目を閉じると探査魔法を打った。

 おお、見えないけどベルを中心に波が拡がるのを感じたぞ。

 ベルは直ぐに顔を上げた。

「大きいのが前方にいるのです」

 前方を指差す。

「オレたちには気付いてないにゃん?」

「大丈夫なのです、気付かれていないのです」

「まずは距離を詰めよう」

 キャリーが提案する。

「認識阻害の結界を張るにゃん?」

「お願いするのです」

 認識阻害の結界を張った上で馬を静かに獲物に近付ける。距離にして三〇〇メートルといったところか。

 そのデカい何かは食事中らしく姿よりも先に咀嚼音をとらえた。

 先頭を行くキャリーが片手を上げて馬を止める。

 それから銃を構えた。

 ここでオレにも獲物の姿が見えた。

 ウシを貪り食ってる二本足の獣。

 恐竜だ。

 ティラノサウルスっぽいシルエットにゃんね。

 キャリーがトリガーを引く。


『ガッ!?』


 恐竜は何が起こったかわからないまま地面に倒れ伏した。

 分解にゃん。

 獲物はさっさと消し去る。

「マコトの銃はやっぱり凄いね、一発であんなに大きい恐竜を倒しちゃったよ」

「次は、私にも魔法を撃たせて欲しいのです」

「うん、次はベルに任せる」

「たぶん一発では倒せないので、援護を頼むのです」

「了解にゃん」

「任せて!」

「ついでにベルのエーテル器官をこっちに取り替えるにゃん?」

 魔獣のエーテル機関を取り出す。

「人間じゃ無くなりそうなので遠慮するのです、では行くのです」


 危険地帯を引き続き移動する。認識阻害の結界を張ったのでこちらの移動を邪魔されることはない。


 ベルは次に狙いを付けたティラノサウルス系の恐竜に向かって魔法を放った。

 エーテルの矢が恐竜の頭に突き刺さる。

「やったか?」

 キャリーが目を凝らす。

「いや、浅いのです」

 ベルが否定した。


『グゥォォォォォォォォォ』


 低く唸りながら恐竜がこっちを向く。

 かなり距離を取っているが、しっかりオレたちを睨みつける。

「殺る?」

「いえ、まだイケるのです」

 ベルは次の魔法を恐竜に叩き込んだ。

 恐竜は、ダッシュの直後にベルの作り出した電撃を受け身体を硬直させて前のめりに倒れ派手にエビ反った。

「にゃあ、電撃の魔法にゃん!」

「マコトの魔法を真似たのです」

「いい感じにゃん」

 オレはクイっと親指を突き出した。

「トドメはキャリーに任せるのです」

「了解!」

 キャリーは倒れたまま身体を痙攣させてる恐竜の頭部を銃で撃ち抜き、躯はオレが分解した。

「にゃあ、ちょっと離れているけどあっちにも恐竜がいるにゃん」

 南側に気配があった。

「行こう!」

「ちょっと待つのです、大きいのです」

 探査魔法を使ったベルの声にキャリーとオレは馬を止める。

「しかも、今度はあちらに気付かれたっぽいのです、こちらに向かって動き出したのです、直ぐに来るのです」

「えっ、距離があるんじゃないの?」

「にゃお、あるにゃんよ、ただ、異常に移動が速いにゃん」

「特異種にしては感じが違うのです、認識阻害の結界なのです、何が来るかは目視しないとわからないのです」

「ロッジは間に合わないので、防御結界を強化するにゃん」

「だ、大丈夫なの?」

 心配そうなキャリー。

「いまは下手に動かないで迎え撃つのが得策なのです」

「来るにゃん!」

 突然の突風が木々をへし折った。

「にゃお!」

「わっ!」

「マズいのが来たのです!」

 強化した防御結界を張って無かったら三人そろって吹き飛ばされていたところだ。

 暴風と共に現れたのは、全身が赤いキラキラとしたウロコで覆われた恐竜と似て異なるシルエット。

「飛んでるにゃん!」

 木々をなぎ倒して低空で飛んで来るそれは恐竜じゃなかった。

 そいつがオレたちに襲い掛かる。

「ドラゴンにゃん!」

 目の前にドラゴンの足爪が迫る。

「「「……っ!」」」

 火花が飛び散ったが、防御結界がドラゴンの鋭い爪を防いだ。

「にゃあ、このドラゴンは特異種じゃないにゃん!?」

「違うはずだよ、ドラゴン自体かなり珍しいから私も見たのは初めてだけど」

「ドラゴンの特異種なんかいたら人類が滅ぶのです!」

 ふたりは声を震わせる。

 ドラゴンが木々を薙ぎ倒しながら旋回する。

 全長二〇メートルは有る。

 風が凄すぎる。

 煽りを食らって飛ばされたイノシシが大木にぶち当たって死んだ。

 もったいないから戴くにゃん。

「にゃあ、確かに特異種とは違うにゃんね、もっと魔獣に近い威圧感にゃん」

「ドラゴンは魔法を使うのです」

「触らないで木をへし折ってるのがそれみたいだね」

「にゃあ、風にしては綺麗に倒れると思ったにゃん」

 旋回したドラゴンは、オレたちの防御結界に再度攻撃を加えた。

「わっ!」

 閃光と共に結界の外側に炎が張り付いた。

「にゃあ、この程度なら大丈夫にゃん!」

 オレは、すれ違いざまにドラゴンの身体をサーチした。

 エーテル機関が有るならそれを囲えばどうにかなるはずにゃん。

「にゃ?」

 エーテル機関はないが、体内に無数の刻印を持っている。

 これは紛れも無く人の手によって生み出されたものだ。

「ドラゴンのおかげで森に原っぱが出来たにゃん」

「それだけ私たちには不利になるのです」

「大丈夫にゃん、ドラゴンはオレに任せて欲しいにゃん」

 オレは銃を仕舞って馬の鞍の上に立った。

「いいけど無理はしないでよ」

「油断も禁物なのです、魔獣じゃなくても別の危険があるのです」

「わかってるにゃん、無理も油断もしないにゃん」

 ドラゴンが地上に舞い降りる。

「にゃあ、頂きにゃん!」

 馬を走らせる。

 人工物ならイケるはずだ。

「にゃあああ!」

 ドラゴンの姿が粒子になって消えた。


 馬をふたりの場所に戻すとキャリーとベルが固まってる。

「にゃう、呆気ないほど普通に効いたにゃん」

「何したのいったい?」

「ドラゴンが消えたのです」

「にゃあ、刻印で動いていたから格納したにゃん」

「刻印?」

「あのドラゴンはゴーレムだったの!?」

「にゃあ、ゴーレムかどうかはわからないにゃん、でも作り物なのは間違いないにゃんね」

「ドラゴンを調べられる?」

「にゃあ、やってみるにゃん」

 格納空間に仕舞ったドラゴンを調べると人工物だけあってシステムが存在した。

 システムにアクセスする。

「マスター登録が可能にゃん」

「マコトは、ゴーレムのシステムに介入できるの?」

 キャリーが目を見開く。

「にゃあ、出来るみたいにゃんね」

「凄すぎるのです」

「格納空間でドラゴンに暴れられても困るから登録するにゃん、オレじゃなくてキャリーかベルでもいいにゃんよ」

「ドラゴンなんか連れて帰ったら近衛軍に目を付けられちゃうよ」

「十二分にある可能性なのです、マコトに貰った装備だけでもバレたら危ないのです」

「にゃあ、オレも人前では出さないようにするにゃん」

 街中で飛ばしたらそれだけで大惨事だ。

「間違ってもギルドの買い取りカウンターに出してはダメなのです」

「王都に連行されて宮廷魔導師たちにドラゴンごと解剖されちゃうよ」

「にゃお、解剖は嫌すぎにゃん」

 ドラゴンの脅威を退けた後は、倒された木々を格納した。森の中に結構な大きさの原っぱが出来た。


 それから午前中いっぱい狩りをしてからロッジを設置してお昼ごはんにした。

 メニューは、クロウシのヒレカツサンドにサラダとスープ。

「野菜もいっぱい食べるにゃんよ」

「うん」

「食べるのです」


 午後も順調に狩りを進めた。

 メインはキャリーとベルでオレはサポート中心で動いた。

 流石にドラゴン級の珍品はいなかったが、高値が付きそうな大物を何頭もゲットした。



 ○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯) ロッジ


 その夜、キャリーとベルが寝室に引っ込んだところで、オレはドラゴンゴーレムにエーテル機関を挿入する実験を格納空間で行った。

 格納空間での作業は、感覚的にはヘッドマウントディスプレイを使用しての操作に近い、大きなものを弄る時にことのほか便利だ。

 ドラゴンのシステムを書き換えてエーテル機関を接続する。

 魔力量が上がったが、形と大きさがドラゴンだけに普段遣いは無理な代物だ。

 魔法自体を取り替えなければ、森の中で使えば森林破壊だし、人里に持って行ったら大騒ぎになる。

 誰もいない場所で狩りを手伝わせるぐらいか。

 リビングでゴロンと転がる。

 こっちに来て数日しか経っていないが、この世界のヤバさをひしひしと感じる。

 オレの知識にある先進魔法文明のオリエーンス神聖帝国が滅んで、更にその後のオリエーンス連邦も滅んだ。

 そのせいで文明は、産業革命前まで後退したのだろうか?

 現在も衰退してる気がする。

 オレ一人で世界をどうこうなんて大それたことは言わないが、キャリーとベルぐらいは守ってあげたい。

 オレはそう思った。


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