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心霊スポットにゃん

 パカポコとポコンとオレたちを乗せた馬車は、街灯を設置しながら順調にプリンキピウムに向かって進む。

 道路も魔力を得て獣避けの結界も復活しつつある。一般のお客さんが通行する頃にはかなり安全なルートになるはずだ。


「にゃあ、お館様、この先に喋る岩があるにゃんよ、知ってるにゃん?」

 オレを抱っこしてる猫耳が教えてくれる。

「にゃ、岩が喋るにゃん?」

「そうにゃん、かなり不思議なものにゃん」

「壊れたゴーレムとかじゃないにゃん?」

「にゃあ、違うにゃん、あれは紛れもなく岩にゃん、ゴーレムみたいな人が作ったモノじゃないにゃん」

「人が作ってないのに喋るにゃん?」

「にゃあ、だから不思議にゃん、お館様も一見の価値ありにゃん」

「「「みたい!」」」

 オレより先にシアとニアとノアの三人が手を上げた。今日もビッキーとチャスと猫耳の指導のもと馬車で探知魔法もどきの練習をしている。

「あたしも見たい!」

 リーリも挙手した。

「「わたしも」」

 ビッキーとチャスも手を挙げた。

「それって危険は有るにゃん?」

「にゃあ、盗賊の間では呪われた岩とは言われてるにゃん、ただ喋るだけで害はないにゃん」

「だったら行ってみるにゃん」

「「「やった!」」」

 チビたち+妖精は大喜びした。


 途中、休憩所をひとつ作って、その喋る岩の近くにたどり着いた。



 ○プリンキピウム街道 旧道脇 喋る岩


「にゃあ、あそこから森の中に少し入るにゃん」

 御者の猫耳が馬車を停めて、注意してないと簡単に見落としそうな細い道を指差した。無論、馬車では入れない幅だ。

「道を拡げないとダメにゃんね」

「にゃあ、それはウチらがやるにゃん」

「「「にゃあ!」」」

 猫耳たちが立ち上がった。

「任せるにゃん」

 路肩部分に雑草が生え、その向こうが一メートルほどの段差になっていた。そこに辛うじて道だろうなというのがある。

「「「にゃお!」」」

 獣道の両側の木々が切り倒され分解される。

「いい道にゃん」

 早回しのビデオを見てるみたいに舗装された道があっという間に出来上がった。

「「「出発!」」」

 シアとニアとノアの声で馬車が新しい道に入る。

 道の両脇には獣避けの柵まで作ってある。気合が入ってるにゃん。


 二〇〇メートルほど進んだ場所にその岩はあった。高さ三メートル、幅二メートルのどっしりとした青っぽい岩は、人間の手が加わった形跡はない自然石らしい。

 ただ周囲に他の大きな岩は皆無で、風景としては不自然だったりする。誰かが運んできたのだろうか?

「にゃあ、この岩が喋るにゃん?」

 確かに魔力を薄っすらと帯びている。

『我はフィーニエンスの宮廷魔導師、ギーゼルベルト・オーレンドルフなり』

 突然、岩が喋った。

「にゃあ、本当に喋ったにゃん、しかも念話にゃん」

「「「すごーい」」」

 チビたちも目を丸くする。

「これは面白いね」

 リーリが岩の天辺に飛び乗った。

「いま、『フィーニエンスの宮廷魔導師』と言ったにゃんね」

「にゃあ、確かにそういったにゃん、ウチらもはっきり聞いたにゃん」

「以前聞いたときは意味がわからなかったけど、いまははっきりわかるにゃん」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちも理解した。

 岩が喋った「フィーニエンス」はオレたちのいるアナトリ王国の南方に位置してる国だ。間に広大な魔獣の森と伝説では魔の森が広がっているため国交が断絶して久しい。

 昔は商人が魔獣の森の間隙を縫って行き来していたらしいが、いまはその道も森に沈んでいる。

『にゃあ、本当にフィーニエンスの宮廷魔導師にゃん?』

 オレから念話で岩に話し掛けた。

『おお、我の声が聞こえましたか!? いかにも我はフィーニエンスの宮廷魔導師、ギーゼルベルト・オーレンドルフであります』

 どうやら初老のおっさんの魔導師が岩の中の人らしい。

『オレはマコト・アマノにゃん、プリンキピウムで冒険者とか騎士とかいろいろやってるにゃん』

『マコト殿、プリンキピウムとはアナトリ王国の城壁都市だったと我は記憶しておりますが、ここはその近くなのでしょうか?』

『にゃあ、ここはプリンキピウムから乗合馬車で五日ぐらいの距離にゃん』

『なんと、我は遥か隣国まで飛ばされたのか!? なるほど仲間の魔導師の声が聞こえぬわけだ』

『にゃあ、ギーゼルベルトさんは、ここに来て誰とも話さなかったにゃん?』

『気配はすれど我の声に答えてくれる者は皆無でありました、マコト殿が初めてです』

『にゃあ、岩と会話できるとは知らなかったにゃん』

『会話には念話を使えることが必須だったにゃんね』

『おお、他にも話ができる方がいらっしゃるとは驚きだ』

『あたしもいるよ』

『『わたしも』』

 ビッキーとチャスも念話に加わった。

『にゃあ、皆んなオレの仲間にゃん』

『マコト殿とそのお仲間が念話を使えると言うことは、皆さん魔法を使われるのですね、しかも相当の使い手でいらっしゃる』

『まあね』

 妖精は得意気に胸を張った。

『にゃあ、魔法は得意にゃん』

『『『にゃあ!』』』

『ところで、ギーゼルベルトさんは、いつから岩の中にいるにゃん?』

『岩? 我は岩の中にいるのですか?』

『にゃあ、声は岩からしてるにゃん、どうやら身体が完全に岩と融合して全体でギーゼルベルトさんのエーテル器官の役割をしてるみたいにゃんね』

『我が石になっていたとは。いや、これも想定されていた事態の一つ、それを身を以て証明しただけのこと』

『にゃあ、この喋る岩はかなり昔からあるにゃんよ、盗賊の間では古くから知られていたにゃん』

 猫耳の一人が教えてくれた。

『にゃあ、すると融合したのは最近のことじゃないにゃんね』

 盗賊の間でしか知られてなかったから正式に調査されることも無かったのだろう。下手に弄られなかったのは幸いだ。

『あの実験をしたのは帝国暦二五一六年の十一月のことと記憶しております』

『にゃあ、いまは帝国暦二七三〇年の八月にゃん』

『二一三年と九ヶ月前にゃんね』

『おお、そんなにも月日が流れていたとは!』

 岩と同化して人の五感の大部分が失われると時間の感覚がなくなるか。

『マコト殿、どうかこの岩を砕いて下さらぬか?』

『にゃあ、そんな事をしたらギーゼルベルトさんが死んじゃうにゃんよ』

『岩のまま生き恥を晒すより、天に送ってはいただけませんか?』

 ギーゼルベルトの気持は分からないでもない。こんな場所にただ一人取り残され、何もすることができない。

『一つ提案があるにゃん』

『提案?』

『オレの仲間になるなら動ける身体を用意するにゃん』

『なんと身体をいただけると』

『にゃあ、身体があれば魔法の研究を続けられるにゃんよ』

『また研究ができるのですか?』

『にゃあ、それにオレからもいろいろ提供できるにゃんよ』

『おお』

 岩に閉じ込められても研究への情熱は失われていないようだ。自らの身体を使って実験しただけのことはある。

『わかりました、マコト殿の仲間となり身体を頂戴いたします』

『にゃあ、了解したにゃん』


 オレと猫耳たちは、石から取り出した魔導師ギーゼルベルト・オーレンドルフの魂を新しく作り出した身体に定着させる。


『にゃあ』


 猫耳ゴーレムが新しい身体だ。普通の猫耳の身体を作るには魂と対になる人間の肉体が必要だったのだが、今回はそれがないので猫耳ゴーレムになった。

『おお、これがウチの新しい身体、そして先史文明の知識の大海、実に素晴らしいにゃん!』

 猫耳ゴーレムが流暢に喋ってる。

「オレの仲間になると語尾が『にゃん』になるにゃんね」

 これはもう異世界七不思議の一つに数えていいだろう。

『お館様には感謝にゃん』

「にゃあ、オレもギーゼルベルトさんから、現代魔法の知識を分けてもらったからお相子にゃん」

『お館様には、ウチのことはギーゼルベルトと呼び捨てにして欲しいにゃん』

 中身はしっかり猫耳化していた。

「にゃあ、わかったにゃん、ギーゼルベルトこれからよろしく頼むにゃん」

『お館様に忠誠を尽くすことを誓うにゃん』

 猫耳ゴーレムの身体を得たギーゼルベルトはオレの頭を撫でながら忠誠を誓った。

「にゃあ、岩は喋らなくなったにゃんね」

 猫耳が沈黙した青い岩を残念そうに見上げる。

「ギーゼルベルトが抜けたんだから当然にゃん」

「喋らない岩は普通の岩にゃん」

「いわさん、こんにちは」

 シアも声を掛けた。

「へんじがないね」

 ニアが腕組みして難しい顔をした。

「おやかたさま、どうにかならないの?」

 ノアはオレにお願いする。

「にゃあ、わかったにゃん」

 四歳児には弱いオレは三人のお願いを聞き入れた。

『こんにちは』

「しゃべった、おやかたさま、いわがしゃべったよ!」

「にゃあ、自動応答するにゃん」

『今日はいい天気ですね』

「呪われた感が無くなったにゃん」

「にゃあ、呪われていたにゃん?」

 猫耳ゴーレムになったギーゼルベルトが自分を指差す。

「にゃあ、話が通じなくて助けを乞う様子がそう感じられたらしいにゃん」

「お恥ずかしい限りにゃん」

「あの状況では仕方ないにゃん」

 猫耳たちは岩にしめ縄を掛けて周りには柵を作り、街灯も四本建てた。しめ縄はこの世界的にどうなんだ?

「にゃあ、それっぽくはなったにゃんね」

 御神体っぽくなった。

「お館様、どうせだったらこうするのはどうにゃん?」

 岩が青く輝く聖魔石っぽく変わった。実際には聖魔石ではないが多少の浄化は可能みたいだ。この大きさの本物だったら下手に近付くと天に送られるので逆にあぶないか。

「盗賊が来そうにゃんね」

「にゃあ、ヤツらはキレいなモノが好きにゃん」

「あいつらは電撃をお見舞いすればいいにゃん、素っ裸になって逃げて行くにゃん」

 猫耳たちがいろいろ飾り立てて大理石の東屋にスポットライトと水晶の台座が付いて更に聖なる岩って感じになった。ちょっと胡散臭さも出て来たにゃん。

『悔い改めなさい』

「にゃあ、それっぽいことを言い始めたにゃん」

 こいつ予想以上に空気を読むぞ。

『願いなさい、そして行動しなさい、そうすれば願いは必ず叶うでしょう』

「「「はい」」」

 チビたちに何の説教をしてるんだ?


 このままだと聖堂を作りそうな勢いだったのでさっさと出発した。



 ○プリンキピウム街道 旧道


「転移魔法とは、転移先のエーテルに転移元のエーテル情報を切り取って貼り付けることで成立する魔法にゃん」

「するとギーゼルベルトは、肉体の情報の貼り付けに失敗したにゃんね」

「にゃあ、それ以前に移転先の座標の取得に失敗してるにゃん」

「ギーゼルベルトは何処に移転するつもりだったにゃん?」

「隣町にある軍の施設にゃん、距離は馬で半日にゃん」

「馬で半日程度の距離でも座標の取得だけで恐ろしい量の魔力を消費するにゃんね」

「にゃあ、いまならわかるにゃん、魔力がまるで足りて無かったにゃん」

「でも魂は無事に数千キロを移動したにゃん、だから実験は大失敗とまではいかないと思うにゃん」

「頼まれても再実験はしないにゃん、こうやって風を感じられるのはなんて素敵なことか、大発見にゃん」

「にゃあ、魔力ともっと早い演算能力を手に入れたらオレが自分で試してみるにゃん」

「「「にゃ!?」」」

「にゃお、お館様はダメにゃん!」

「みゃあ、お館様にはやらせられないにゃん!」

「「「絶対に駄目にゃん!」」」

 近くにいた猫耳たちに抱き着かれて止められた。

「にゃあ、わかってたにゃん、危ないことはしないから心配要らないにゃん、それにオレたちは不死身にゃん」

「「「にゃあ!」」」


 偶然、現代魔法の知識を手に入れたオレたちだったが、ギーゼルベルト・オーレンドルフの知識は軍事面が大半を占めており、かなり偏りがあった。


「国是に『アナトリと魔獣の森の解放』を掲げる軍事国家では戦闘魔法が優先されるのは仕方ないにゃん」

 アナトリ王国に攻め込むのが国是だったらしい。わりと近い場所にヤバい国があった様だ。

「にゃあ、それでいてお館様の足元にも及ばないのですから情けない限りにゃん」

「魔獣を一人で何匹も始末するお館様と比べても意味がないにゃんよ」

「にゃあ、その通りにゃん」

「それで魔獣の森の解放は成功したにゃん?」

 少なくともこの二〇〇年はフィーニエンスの軍勢が魔獣の森を越えて来た記録はこちらには見当たらなかった。

「魔獣を森からおびき出し、多大な犠牲を払って倒したのがウチの知る限り三件ほど有ったにゃん」

「それはスゴいにゃんね」

「にゃお、いずれも三日ほどで魔獣の躯が有った場所を中心に森が形成されたにゃん、国を挙げて魔獣の森を増やしたことに当時のウチは気付いて無かったにゃん」

「魔獣が死ぬと森になるにゃん?」

「正確には躯を中心にマナの濃度が急激に上昇するにゃん、するとそこに魔獣が集まって、結果、魔獣の森になるにゃん」

「にゃあ、魔獣の躯を放置したことが無かったから気が付かなかったにゃん、今度、実験してみるにゃん」

「ウチも同行させて欲しいにゃん」

「にゃあ、猫耳とギーゼルベルトは連れて行くにゃん」

「「「あたしも!」」」

 四歳児たちが声を上げた。

「にゃあ、シアとニアとノアはまずプリンキピウムの森でビッキーとチャスと一緒に狩りをするにゃん、魔獣退治はその後にゃん」

「狩りはさせるんだね」

 リーリがオレの顔を覗き込む。

「これまでちゃんと狩りをしてきたからたぶんイケるにゃん」

「にゃあ、当然にゃん、世界一の魔法使いになる為には実践あるのみにゃん!」

「「「にゃあ!」」」

 猫耳たちが熱い。

「チビたちにはこれをやるにゃん」

 今朝、街灯が狩ったトラの毛皮で作ったトラのぬいぐるみを五人に一頭ずつやった。

「「「ありがとう、おやかたさま!」」」

「いついかなるときも馬と一緒におまえたちを守ってくれるにゃん」

 チビたちはそれぞれぬいぐるみをギュッと抱き締めた。

「王侯貴族でも持ってない強力なお守りにゃんね」

「にゃあ、おまえらの拡張空間にも入れて置いたにゃん、もちろん全員にゃん」

『『『にゃあ!』』』

 念話の歓声が先に届いた。



 ○プリンキピウム街道 旧道 宿泊施設


 途中で寄り道したがスケジュールどおりに馬車は進みホテル&宿泊所を作り上げる。

「チビたち行くよ!」

「「「はい!」」」

 おチビたちは先頭を走るシアの頭にリーリを乗せてホテルに走って行った。

「「「お館様は、こっちにゃん」」」

 オレは猫耳たちに抱えられて簡易宿泊所に運ばれた。


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