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宴会にゃん

 ○州都オパルス プリンキピウム間 魔法蟻トンネル プリンキピウム前衛拠点


 プリンキピウム前衛拠点に戻ったオレたちは再起動した遺跡について検証する。


「にゃあ、宮廷魔導師がイニシアチブを取ってるのか、それとも遺跡が自分で再起動したのか見極めが重要にゃん」

「お館様、それは難問にゃん」

「わかってるにゃん、外からではすぐに確認のしようがないにゃん」

 遺跡のシステムを乗っ取るのが手っ取り早いわけだが、いま現在は禁じ手だ。

「地道な観察をするしかないんじゃない?」

 リーリが妖精のわりに堅実な意見を出した。

「にゃあ、リーリの言う通りにゃん」

「でしょう?」

 妖精はドヤ顔だ。

「お館様、遺跡が自分で再起動したとしても宮廷魔導師がお膳立てしたことは間違いなさそうにゃん」

「そうにゃん?」

「にゃあ、犯罪奴隷で結界を潰してるわけだし、何かしら干渉してるはずにゃん」

「すると遺跡は宮廷魔導師のコントロール下にあるにゃんね」

「そうにゃん、だから遺跡の再起動には宮廷魔導師の意思が働いてるはずにゃん」

「するとイニシアチブを取ってるのは宮廷魔導師になるにゃんね」

「にゃあ、遺跡に宮廷魔導師が操られてるとかのどんでん返しがなければ、そうなると思うにゃん」

「宮廷魔導師も嫌だけど、人を操る遺跡も嫌にゃんね」

「「「にゃあ」」」

 猫耳たちも同意した。

「にゃあ、それから叫び声に載った魔法式を解析の結果、ただ魔力をループさせるだけなのはわかったにゃん」

 オレは続けて報告した。

「それって何か意味があるの?」

 リーリに突っ込まれる。

「にゃあ、残念ながらいまのところ不明にゃん」

「特異種を集める力があるとは思えないにゃんね」

 猫耳からも突っ込まれる。

「にゃあ、まったくにゃん」

「ウチらの知らない何かが隠されてる可能性はないにゃん?」

「オレたちの持ってる知識ではこれ以上の解析は難しいにゃん、あとは現代魔法をもっと調べるぐらいにゃんね」

「にゃあ、ウチらには現代魔法の知識が欠けてるにゃん」

 元魔法使いの猫耳はいるが、盗賊に身をやつしただけあってちゃんとした教育は受けてなかった。

「現代魔法の知識は何処に有るにゃん?」

「王都にある魔法大学か、隣国ケントルム王国の魔法学院にゃんね」

 ケントルム王国はオレのいるアナトリ王国の西側に位置する国だ。国力はほぼ同等で王族は血縁関係にあり。ここ二〇〇年は友好国と言っていいらしい。

 ただ、西側といっても間にこの世の地獄と称される広大な砂の海が横たわっているので、ここからはるか北方にある巨大なトンネルを通って行くことになる。

 実に異世界にゃん。

「魔法大学の図書館にはそれなりの知識が集められてるはずにゃん、ただし一〇〇年前の内乱で鍵が失われて入れなくなってるそうにゃん」

「すると大学に入学する必要はなさそうにゃんね」

「お館様は騎士の身分があるから、聴講生の資格を取るのは簡単にゃん」

「にゃあ、大学の聴講生にゃんね、キャンパスライフにゃん、領主様を誘って漫研に入りたいにゃん」

「残念ながらサークルはないにゃんよ」

「にゃああ!」

「お館様は、何がしたいにゃん?」

「コンパで唐揚げを食べながらビールを飲みたいにゃん!」

「唐揚げ!」

 リーリがその部分に食いついた。

「にゃあ、お館様、ウチらの身体では唐揚げはともかくビールは叶わぬ夢にゃん」

「そうだったにゃんね」

 アルコールはオレたちの身体が受け付けない。とにかくマズい。

「ビールはダメでも宴会ならできるにゃんよ」

 猫耳のひとりが手を挙げた。

「にゃあ、今夜はウチらで宴会にゃん!」

 オレも賛成だ。

「賛成!」

 妖精は諸手を挙げて賛成した。

「「「にゃあ!」」」


 急遽、猫耳たちとの宴会が開かれることになった。

 場所は中間拠点に決まった。



 ○州都オパルス プリンキピウム間 魔法蟻トンネル 中間拠点 大ホール


 魔法蟻が中心となって会場の設営が急ピッチで行われ、各地に散っていた猫耳たちが集合する。

 地下にある宴会場としては州内最大のものが出来上がった。

 増設したばかりの食品工場を一足先に本格稼働させる。

「にゃあ、州内どころか王国内最大の宴会場で間違いないにゃん」

「そうにゃんね、普通はわざわざ地下に作る必要はないにゃん」

「地下ホールの設計図がこうして情報体の中にあるわけだし、遺跡にはもっと大きいのがあるかも知れないにゃん」

「にゃあ、有ったとしても宴会場じゃないにゃん」

「確かにホールであって宴会場じゃないにゃんね」

 テーブルに次々と料理が載る。

「唐揚げは真ん中に置いて! お寿司の屋台はこっち!」

 リーリが料理の配置を指示していた。

「お寿司にゃん?」

 握り寿司の屋台風のコーナーまで作られていた。

 鉢巻をした猫耳ゴーレムが寿司を握ってる。食品工場は魚介類も豊富に生産できる。

 何かスゲー!


「にゃあ、準備完了にゃん」

 地下大宴会場に猫耳たちが集まる。

「お館様、乾杯の挨拶をお願いするにゃん」

 視界の猫耳からマイクを渡される。乾杯の挨拶とか、日本風なのはオレの知識が流れたからだ。

「にゃあ、本日は忙しい中、集まってくれてありがとうにゃん、全員無事にやって来れたことを感謝するにゃん。ここに来れなかった猫耳には格納空間に料理とジュースを入れたにゃん、それでは皆んなのさらなる発展と健勝と活躍を祈念して、乾杯にゃん!」

「「「乾杯にゃん!」」」

 集まれるすべての猫耳が集まって宴会が開催された。

「「「かんぱい!」」」

 ビッキーにチャスそれにシアとニアとノアもコップを掲げた。

 今回は一足先に稼働した食品工場で生産した原材料の味見も兼ねている。

「にゃあ、お味はどうにゃん?」

「どれも美味しいよ!」

 早速、リーリの太鼓判が押された。

 肉に野菜、魚介類と乳製品それに穀物も抜かりない。

「お館様、このお刺身はヤバいにゃん、おいしすぎるにゃん」

「にゃあ、魚介類は母なる海のくれた宝物にゃん」

「お館様、こっちの海はこの世の地獄にゃんよ、そもそも西側の海なんて水じゃないにゃん」

 西側の海は砂の海だ。それでいて砂漠とは違うらしい。どういうことなのかいまいちイメージできない。

「にゃあ、オレも情報として知ってはいるが、見たことがないので何とも言えないにゃんね」

「雲に届く大きさの魔獣とかいるよ」

 リーリが教えてくれる。

「にゃあ、まずそれが信じられないにゃん」

「お館様、その大きさの魔獣は実在するにゃんよ、ケントルムの北方にあるシヌス国に上陸したのをウチのオヤジが若い時に見てるにゃん」

「シヌスにも海があるにゃんね」

「にゃあ、北方の海はまだマシにゃん、東の海も西にある砂海も魔獣の森の向こう側で近付けないにゃん」

「魚は取れないにゃん?」

「にゃあ、砂海の魔獣は半端ないにゃん、北方の海ですら遠くから眺めるのがやっとにゃんよ」

「魚じゃなくて魔獣のくくりになるにゃんね」

「にゃあ、木が生えてないだけでマナの濃度は魔獣の森以上らしいにゃん、これはウチらの中の言い伝えみたいな情報にゃん」

 シヌス以外の海は魔獣の森の向こう側の話だから正確な情報が欲しいなら自分で行くしかない。

「お館様、海が地獄になったのはオリエーンス連邦の滅亡後にゃん?」

「にゃあ、少なくともどっちの情報体にも記録がないにゃん」

「この五〇〇〇年の間に何かが有ったにゃん」

「にゃあ、二〇〇〇年前には既に東西の海は魔獣の領域にゃん」

「地図にもそう描かれているにゃんね」

 幾つか出回ってる地図を頭の中でピックアップする。

「時代がくだるほどに魔獣の森の領域が増してるのも問題にゃん」

「にゃあ、人間が少なくなってるせいにゃん、もしくは森が増えたせいで人が減ったかにゃん」

「もっと小麦を流通させれば人間は増えるはずにゃん」

「にゃあ、食品工場で作ったモノも流したいにゃんね」

「まずは領主様に卸すにゃんよ、そうしないと念話で文句を言われそうにゃん」

「州の外はベイクウェル商会にゃんね」

「にゃあ、ダドリーに恩を売っておくにゃん、オパルスで魔導具を仕入れるより肉だの何だのを仕入れる方が金になるにゃん」

 魔導具の販路は金持ちに限られるが食品は誰にでも売れる。

「大公国はネコミミマコトの宅配便に任せておけば万事うまく行く感じにゃん」

 総司令のバルドゥル・シャインプフルークが上手く使ってくれる。大公国も復興は順調だが物資はまだ十分に足りてるとはいえないから喜んでくれるだろう。

「にゃあ、食料品とベイクウェル商会の協力があれば他の州にマコト銀行を作るのも簡単になるにゃんね」

 許可が下りやすくなるのは間違いない。

「オレもその方向でいいにゃん、明日にでもクリステル様とベイクウェル商会に話を持って行くといいにゃん」

「「「にゃあ」」」


「お館様、新しいカリカリは試したにゃん?」

「新しいカリカリにゃん?」

「にゃあ、是非試して欲しいにゃん」

「にゃあ」

 オレは新しいカリカリの置かれたテーブルに案内された。

「五つのフレーバーを作ったにゃん、マグロ味、チキン味、牛肉味、カレー味、ナッツ味にゃん」

「にゃあ、どれもいい匂いにゃん」

 早速、一つずつ味見することにした。

「マグロ味からにゃん」

 カリっと齧った途端に広がる濃厚な旨味。

「こ、これは、トロのマヨネーズ醤油味にゃん」

 すごく美味しいけど気分的にもったいない邪道なお味だ。

「次はチキン味にゃん、にゃあ、これはフライドチキンにゃん」

 カリっとしてサクっとしたこの味は正にあの白いお髭のお爺さんの店の味!

「ヤバいぐらいの再現度にゃん」

 続けて牛肉味をカリっと齧った。

「にゃあ、これはハンバーグ味にゃん、たまに行ってたハンバーグ屋の味に近いにゃんね」

 懐かしくてウルっと来そうだ。

「カレー味は、普通で安心したにゃん」

 ノーマルのカリカリにカレーを足した感じだ。

 このチープさが郷愁を誘う。

「最後がナッツ味にゃんね」

 カリっと齧った味はまさにナッツ。

 思わず断面を確かめてしまった。

「にゃあ、オレはどの味も気に入ったにゃん」

「にゃあ、お館様が喜んでくれて良かったにゃん、ご褒美にハグさせて欲しいにゃん」

「いいにゃんよ」

「にゃあ、お館様!」

 ギュッとハグされる。

「にゃあ、次はウチがお館様をハグするにゃん!」

「ウチもハグしたいにゃん!」

「にゃあ、ウチもにゃん!」

 猫耳たちに揉みくちゃにされた。

『『『ニャア』』』

 当然、猫耳ゴーレムたちも混じった。


 会場の隅っこのソファーでは、おなかいっぱいになったチビたちが居眠りをしていたので、猫耳たちがそっとベッドに運んで行った。


「トロちょうだい!」

『ニャア』

 リーリは最後までお寿司の屋台に張り付いていた。



 ○帝国暦 二七三〇年〇八月二二日


 ○プリンキピウム街道 旧道 簡易宿泊所


 中間拠点から新しい簡易宿泊所に朝のうちに戻って来た。

 オレが離れていた間も休憩所と宿泊所の設営は予定通りに行われていたので計画に変更は無しだ。

「朝ごはんは、鮭定でお願いするにゃん」

 猫耳ゴーレムに頼んで朝食を用意してもらう。

 魔獣の巨大鮭もおいしかったが、地下の食品工場で生産された鮭は更に美味しい。

「にゃあ、美味しいにゃん」

「「おいしい」」

 ビッキーとチャスはオレの両隣で同じメニューだ。

 少し後れて食堂にやって来たシアとニアとノアの三人は、オレたちの様子を興味深く覗き込む。

「「「あたしらもおやかたさまとおなじの!」」」

 三人は声を揃えて注文した。

「あたしは鮭定とハムエッグ定食、どっちもご飯大盛りで!」

 妖精は朝から全開だ。


「おいしいね」

「うん、おいしい」

「シャケすき」

 おいしそうに食べてる三人を見てるとオレも幸せな気分になる。

「おかわり!」

 妖精は見てるだけでおなかいっぱいになる。



 ○プリンキピウム街道 旧道


「出発にゃん!」

 今日も新しくメンバーの入れ替わった一〇人の猫耳と一緒に出発する。チビたちは馬車に乗せている。昨夜は宴会で遅かったので早くも爆睡中だ。

 パカポコと馬車が走る。周囲の空気は完全に森の中のそれだ。

 この辺りから道路の補修も合わせてやる。

「石畳を一枚ずつ直すのかと思ったら、魔力を流してやると勝手に修復されるにゃんね、手間が掛からなくていいにゃん」

 道路の修理法は猫耳の一人が知っていた。

「普通は魔力の供給が難しいから滅多にやらないにゃん、ここの領主様ですら州都内しか修理してないにゃん」

「にゃあ、だからあまり知られてないにゃんね」

 こうやって技術や情報が失われて行くのだろう。

「各休憩所と宿泊所に魔力を道路に流す装置を取り付けるといいにゃん」

「にゃあ、お館様、道路脇に街灯を設置してそこに仕込むのはどうにゃん?」

「街灯ならいろいろ出来て便利にゃんね」

「にゃあ、ウチらも街灯を設置でいいと思うにゃん」

「決まりにゃんね」

 旧道に街灯を設置することが簡単に決まってしまった。

「お館様、街灯の設置間隔はどうするにゃん?」

「二五メートル間隔なら問題ないと思うにゃん」

「にゃあ、設計図を作るにゃん」

「監視カメラ付きがいいにゃん」

「ビームが出る様にして欲しいにゃん」

「電撃も欲しいにゃん」

 猫耳たちのリクエストが集まる。

「にゃあ、だったらビームも電撃も両方搭載するにゃん、状況によって使い分けるにゃん」

「お館様、いちばん大事な魔力を送る機能も忘れちゃダメにゃん」

「にゃあ、地面の下で根っこを伸ばして直に魔力を送るにゃん、外に漏らすとヤバいのが来るから注意にゃん」

 馬車の上で猫耳たちと額を突き合わせて街灯の設計図を完成させた。

「魔力を漏らさないようにシールドして完成にゃん!」

「手分けして設置するにゃん」

「にゃあ、その前にまずはオレが作ってみるにゃん」

 設計を終えたばかりの街灯を道端に一本設置した。デザインはクラシックなガス灯をイメージしている。

「カメラの写り申し分ないにゃん」

 脳裏に街灯から送られた画像が映し出される。

「次はビームにゃん」

 赤い光が道路の対岸に突き刺さった。

 ヤブからドサっと前のめりに倒れるトラ。額を貫かれて脳を焼かれていた。

「にゃあ、ビームOKにゃん」

 続けて青い稲妻が走る。

 ドサっともう一頭のトラがヤブからよろよろと出て来て路上に倒れた。

「電撃もOKにゃん」

「こいつら昨日からウチらの近くをウロチョロしてたヤツにゃん」

 トラの狙いはチビたちだろう。

 二頭をさっさと分解して格納する。

「続いて魔力供給にゃん」

 割れた石畳がみるみる修復される。

「にゃあ、どれも問題ないにゃん」

「各拠点と手分けして設置するにゃん!」

『『『にゃあ!』』』

 猫耳たちの返事が念話も含めて返って来た。


 パカポコと馬の蹄の音の合間にポコンと街灯が生える音がする。街灯の設置は猫耳たちに任せて、オレは昨日、遺跡で聞いたあの叫び声に載せられていた魔法式の解析をしつこく続けていた。

 いまのところわかったのは魔力をループさせるだけの魔法式。これにどんな隠された意味があるのか?

 いろいろ解析のアプローチを変えて試すもこれといった成果は得られなかった。


「にゃお、さっぱりわからないにゃん!」

 馬車の荷台にゴロンと転がった。

「お館様、ループの魔法式は考えるだけ無駄な気がするにゃん」

 猫耳のひとりに抱き起こされた。

「にゃあ、オレもそんな気がして来たにゃん」

 手持ちの情報ではこれ以上は何も引き出せそうにない。

「これはもう王都行きも本気で考えないといけないにゃんね」

「それで生け捕りなんかにされたら、そのまま内戦になるにゃん」

「本末転倒にゃん、ハリエット様あたりから王都の情報を集めてから行くにゃん」

「まだ先にゃんね」

「そう、先にゃん」

 ループの魔法式を解くヒントが現代魔法にある保証は無いし、仮にそうだったとしても闇に近い情報だから、簡単には得られないだろうけど。


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