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ジェド・ダッドにゃん

 ○州都オパルス郊外 南西の森 ロッジ


「にゃあ、始めるにゃん」

 金属の彫像に変化したシャンテルとベリルの父親ジェド・ダッドを復活させる準備は猫耳たちが整えていた。

 彫像病はハリエットを治療したことはあるが、全身くまなく金属になってる症例はオレの持ってる情報にも見当たらない稀有けうな例らしい。

「まずはジェドの時間を戻すにゃん」

 治癒の光でロッジを満たし、まずは時間をジェドが地獄の裂け目に転落した三年前まで巻き戻す。

「にゃあ、金属が解けて元に戻って行くにゃん」

 ジェドの身体が銅のような光沢の金属から血肉のかよった身体に戻る。そこからは時間を止めた状態にする。

 父娘だけあってジェドはどことなくベリルに似てる。

 引き締まった肉体だが、特異種とやりあうには物足りない体格だ。魔力も常人並。州都ではCランクの冒険者ではあるがプリンキピウムでは一ランク落ちそうな実力っぽい。獲物の薄い州都の冒険者はどうしても狩りの経験が薄いから仕方ないのだが。

 ジェドの肉体の時間を止めたまま損傷を受けたエーテル器官を復元し、以前からあったエラーも修正する。

「身体の時間を動かすにゃん」

 時間と心臓が動きだし傷口から鮮血があふれた。

 オオカミの特異種に襲われた傷だ。これはそれほど深い傷ではない。跳ね飛ばされた時に負ったものだろう。その他の細かな傷はヤブこぎの時に出来たものだ。

「おおっ」

 まだ意識は取り戻してないがジェドの口から苦しそうな声が漏れた。

「大丈夫、直ぐに治るにゃんよ」

 修正したエーテル器官に魔力を流して肉体の損傷を修復する。

 ジェドの呼吸が落ち着く。

「これで治療は完了にゃん」

 治癒の光を消した。

「にゃあ、お館様の見事な治癒魔法にゃん」

「お前らも使えるにゃん、どこにいてもオレがサポートするから大丈夫にゃん」

「お館様のサポートがあるならできる気がするにゃん」

「それなら安心にゃん」


「にゃあ、お館様、ジェドの意識が戻るにゃん」

 ジェドのまぶたがピクンと動きそれから目を開けた。

「上手く行ったみたいだね」

 リーリがオレの頭の上からジェドの顔を覗き込んだ。

「にゃあ、治療は成功にゃん」

「ここはどこだ、特異種はどうなった!?」

 ジェドが身体を起こして室内を見回す。

「にゃあ、落ち着くにゃん」

 ジェドはオレたちを見た。

「子供に女の子に妖精?」

 少し落ち着いた。

「にゃあ、オレはマコトにゃん、シャンテルとベリルに頼まれてジェドを探しに来たにゃん」

「ああ、ジェドは俺だ、娘たちに頼まれたって本当なのか? シャンテルはともかくベリルはまだ一歳だぞ」

「にゃあ、本当にゃん」

「ちょっと待ってくれ、俺は特異種と一緒に谷底へ落ちたはずだぞ、あんなところから落ちて助かったのか?」

「厳密に言えば死んでたにゃんね」

「にゃあ、普通じゃないけど死んでたにゃん」

 猫耳たちがジェドを混乱させる。

「『死にそう』じゃなくて俺は『死んでいた』のか? それっていったいどういうことなんだ」

「にゃあ、説明を聞く前に服を着た方がいいにゃんね」

「おおっ!」

 残念ながら服までは一緒に金属にはならなかったので、いまのジェドは素っ裸だった。


「三年だって? 俺が特異種と崖から落ちて三年も経ったのか!?」

 オレが用意した冒険者っぽい服を着たところで改めてジェドに状況を説明した。

「にゃあ、そうにゃん、三年にゃん」

「ジェドが今回助かったのは奇跡だと思っていいにゃん」

「そうにゃん、お館様がいなかったらまず助かることは無かったにゃん」

「マコトに感謝していいよ」

 猫耳たちとリーリがオレへの感謝を迫る。

「だろうな、ありがとうマコト」

「にゃあ、お礼ならシャンテルとベリルに言って欲しいにゃん、それとノーラさんにもにゃん」

「マコトは母さんを知ってるのか?」

「にゃあ、ノーラさんにはオレがプリンキピウムでやってるホテルを手伝ってもらってるにゃん」

「ホテル、マコトはその年で仕事をしてるのか?」

「お館様の本業は冒険者にゃん」

「副業でプリンキピウム方面の知行主をしてるにゃん」

「にゃあ、お館様は騎士様でもあるにゃん」

「王国でいちばん可愛い知行主にゃん」

「にゃあ、大公国では辺境伯で実質一二の州を支配してるにゃん」

 本当の領地は二つだけどな。

「そして大金持ちにゃん」

「ホテルは州都にも持ってるにゃん」

 猫耳たちがオレのことを説明するが、ジェドは理解できなくてポカンとしてる。

「マコトが普通の子供じゃないことだけはわかった」

「にゃあ、それでいいにゃん」

「三年か、シャンテルとベリルも元気なのか?」

「にゃあ、元気にゃんよ、いまノーラさんがシャンテルとベリルを引き取ってるにゃん、皆んなプリンキピウムにいるにゃん」

「母さんが、シャンテルとベリルを?」

「そうにゃん」

「ちょっと待ってくれ、レオナはどうしたんだ?」

「オレの知らない名前にゃん」

 猫耳たちも頷いた。

「シャンテルとベリルの母親だ」

「にゃあ、シャンテルとベリルのお母さんなら残念だけど亡くなってるにゃん」

 ふたりからそう聞いてる。

「本当なのか!?」

「本当にゃん、だからシャンテルとベリルはノーラさんのいるプリンキピウムに行ったにゃん」

「シャンテルとベリルは、その途中でお館様と親しくなったにゃんよ」

「ノーラさんも三年前に身体を壊して一人じゃ歩けない状態だったにゃん」

「母さんが……」

「いまはマコトが治したから元気だよ」

「ありがとう、親子して世話になりっ放しか」

「にゃあ、友だちの頼みにゃん、気にしなくていいにゃん」



 ○州都オパルス郊外 南西の森


 ロッジを消して魔法馬に乗る。トンネルは使えないから帰路は魔法馬になる。

「マコトの魔法はスゴいな」

 ジェドが目を丸くした。

「しかも本当に地獄の裂け目の近くだったんだな」

 州都の近くでこれだけトゲトゲのヤブは地獄の裂け目周辺にしかない。

「州都に帰るにゃん」

「俺の家はどうなったか知ってるか?」

「シャンテルとベリルが出て行ったからもう別の人が住んでるにゃん、ふたりがノーラさんのところに行けるように大家さんがいろいろ世話を焼いてくれたみたいにゃんよ」

「そうか、大家のオバちゃんにも迷惑を掛けたか」

「にゃあ、大家さんにはノーラさんが冒険者ギルド経由で滞納していた家賃やいろいろ送っていたにゃん」

「そうか、俺が不甲斐ないばかりに」

 オレが貸した馬の上で背中を丸める。

「でも、ジェドはそれを挽回する機会を得られたにゃん、一度に全部返す必要はないにゃん」

「にゃあ、三年掛けて返せばいいにゃん」

「そうにゃん、まずはプリンキピウムに行って元気な姿を見せるのがいちばんにゃん」

 猫耳たちがジェドを元気づける。

「プリンキピウムか、しばらく帰ってなかったな、家出同然で州都に出たから帰りづらくてな」

「にゃあ、何で州都に出たにゃん?」

「どうしても父さんみたいな冒険者になりたかったんだ、でも母さんが反対してな。父さんがやっぱり俺ぐらいで死んでるから。いまにして思うと母さんの意見が正しかったことがわかるよ」

 夢と現実と実力を本人には見極められないのだから仕方ない。若気の至りなんて言葉があるわけだ。ジェドの場合、州都ではそこそこやれていたのだから冒険者をするのにそこを選んだこと自体は悪い選択ではなかったはずだ。

「若いときはそんなものにゃん」

「「「そうにゃんね」」」

 猫耳たちも深く頷く。

「六歳児が言っても説得力がないけどね」

 リーリに突っ込まれた。



 ○州都オパルス クリステル・オパルス・オルホフホテル 前


 部外者のジェドがいるからトンネルは使わないで、魔法馬で街道をパカポコ走ったからホテルに到着する頃にはすっかり日も暮れて夜になっていた。


「俺のいない間にこんな大きなのが出来てたのか? しかもここって龍の躯だった場所だろう、ぜんぜん違ってる」

 オレの青く輝くピラミッド型のホテルに驚くジェド。

「にゃあ、ホテルが出来たのは最近にゃん」

「お館様が造ったにゃん」

「マコトが?」

「「「にゃあ」」」

「はあ、改めてマコトのスゴさがわかった気がする」



 ○州都オパルス クリステル・オパルス・オルホフホテル ラウンジ


「えっ、ジェドさん!?」

 ラウンジにいるフリーダがジェドの姿を見て駆け寄った。

「そうにゃん、ジェドにゃん」

「おっ、フリーダか、随分と綺麗になったな」

 しばらくぶりに会った親戚のオジサンみたいなことを言ってる。

「ネコちゃん、ジェドさんを生き返らせたの!?」

「にゃあ、彫像病だったにゃん、元に戻したら動き出したにゃん」

「傷の治療もしてくれたけどな」

「なんにしても良かったです」

「にゃあ、一瞬で彫像病を発症したジェドは運が良かったにゃん、普通は死んでる高さにゃん」

「ジェドさんと一緒に落ちた特異種がどうなったかわかる?」

「にゃあ、特異種も金属になっていたにゃん、持って来たから後で見せるにゃん」

「特異種も彫像病を発症するのね」

「にゃあ、地獄の裂け目は魔獣の森を越える濃度だったにゃん、特異種と言えどもひとたまりも無かったと思うにゃん」

「ネコちゃんたちは大丈夫だったの?」

「もちろん平気だよ!」

「「「にゃあ」」」

 リーリと猫耳たちが答えた。

「にゃあ、オレたちは結界を張ってるから問題ないにゃん、地獄の裂け目には蓋をしたからもう誰も落ちないにゃんよ」

「峡谷に蓋をしちゃったの!?」

「口を開けたままでは危ないから処理したにゃん」

「それで峡谷に軽く蓋をしちゃうんだからスゴいとしか言いようがないわ」

「だよな」

「にゃあ、フリーダはジェドの奥さんのレオナさんの埋葬場所を知らないにゃん?」

「調べれば直ぐにわかると思う、明日の朝、冒険者ギルドに来てくれる?」

「わかったにゃん」

「レオナは本当に死んだんだな?」

「にゃあ、それは間違いないにゃん」

「だよな、俺が不甲斐ないばっかりに」

「そうにゃんね」

「ちょっとネコちゃん、そんなにはっきり言わなくても」

「いや、いいんだ、本当のことだ」

「次はないから何が何でもジェドは死なないようにするにゃん」

「ああ、わかってる」

「ジェド、明日はオレに付き合うにゃん」

「わかった」

「その後プリンキピウムに行くにゃん」

「明日、行くのか?」

「それともノーラさんたちに迎えに来て貰うにゃん?」

「い、いや、それはない、ただプリンキピウムに帰る実感が湧いてないだけだ」

 ジェドからしたら三年の時間を一気に飛び越えたわけだから、いろいろ戸惑うのは無理もないか。

「それはわかるにゃん、でも現実は受け入れるにゃん」

「ああ、わかってる」

「ジェドさんも明日の朝に冒険者ギルドまで来て下さい、冒険者カードの再発行を行います」

「済まない」


 精神的に疲れ切ってるジェドを部屋で休ませる。ノーラさんやシャンテルとベリルに連絡するのは明日がいいだろう。



 ○帝国暦 二七三〇年〇八月十六日


 ○州都オパルス 共同墓地


 翌日、ジェドを連れて冒険者ギルドが調べてくれたレオナの埋葬場所である州都の共同墓地に来た。


 ここでの埋葬は、遺体を魔法の火で焼き灰を合葬墓に収める。日本の火葬と大きくは違ってない。

「マコト、本当にレオナを聖魔法で送って貰っていいのか?」

「にゃあ、友だちのお母さんならオレの母親も同然にゃん、それについでと言ったら失礼だけど、墓地全体を慰霊するように領主様に頼まれたにゃん」

 聖魔法で街の一区画分ある共同墓地を清める。これを普通に頼んだら聖魔法使いに天文学的数字の報酬を要求されるらしい。

 それ以前に魔力が足りないと断られる。

「にゃあ、全員配置に就いたにゃん?」

「「「にゃあ!」」」

 近隣にいる猫耳たち全てに動員を掛け、共同墓地を囲む形で配置した。

「始めるにゃん」

「「「にゃあ!」」」

 全員が聖魔法を使う。


 青い光が地面に拡がり墓地全体を覆った。


 ホタルの群れの様な魂の光が螺旋を描いて空に昇る。

「ああ、レオナ」

 ジェドの声にオレは視線を向ける。

 そこには優しそうな女の人がいた。

 シャンテルはお母さん似にゃんね。

「レオナ、後のことは心配するな、シャンテルとベリルはオレが命に代えても絶対に守り抜くから」

 ジェドがレオナに誓う。

 オレたちもシャンテルとベリルを守るにゃん。

 幼い子たちを残して逝かなくてはならない母親に『安心して』なんて軽く言えない。

「にゃあ、ふたりを上から見守って欲しいにゃん、それと旦那もにゃん」

 ジェドはボロ泣きしてる。

 レオナが微笑んで頷く。

 光が増して魂が天に昇る。

 共同墓地には猫耳たちの以前の知り合いもたくさんいた。

 最初は爆笑されていたが、最後は羨ましがられていた。

 聖魔法は死者の怒りや悲しみ、後悔の念を癒やす。

 それらを消し去る訳じゃない。

 満たされなかった心を満たす。

 魂はエーテルに還り、心は天にその滴が残る。


 それらがいつの日か空の上で新たな情報体を形作るのかもしれない。


 ジェドが落ち着いたところでオレは五インチサイズのスマホみたいな通信の魔導具でノーラさんを呼び出した。

「にゃあ、オレにゃん、ノーラさんいま大丈夫にゃん?」

『はい、大丈夫です』

「ノーラさんに会わせたい人がいるにゃん、でも、いま州都だから先に声を聞かせるにゃんね」

『あら、誰かしら?』

『ノーラさんの良く知ってる人にゃん、声を聞くのは久しぶりだと思うにゃん、にゃあ、話すにゃん』

「えっ、これで話せるのか?」

「にゃあ、通信の魔導具にゃん、プリンキピウムのノーラさんのところにも同じのが有るにゃん」

「わかった」

 ジェドは緊張した面持ちで通信の魔導具に顔を向けた。

「母さん、オレだ、ジェドだ」

『ジェド!?』

「そうだ、ジェドだ、死にかけていたところをマコトたちに助けて貰った」

『本当にジェドなの!?』

「ああ、俺だ、シャンテルとベリルが世話になってるそうだな、済まない」

『ええ、ちょっと待っててシャンテルとベリルを呼んでくるわ』

「ああ」

 ノーラさんは一分も掛からずシャンテルとベリルを連れて戻って来た。

『お父さん?』

 シャンテルの声が聞こえた。恐る恐る声を掛けてる。

「シャンテルか」

『はい、シャンテルです』

「ベリルもいるのか?」

『お姉ちゃん、お父さんがいるの?』

『うん、お父さんだよ』

「ベリル、大きくなったんだな」

『お父さん? お父さん!』

「ああ、お父さんだ、ふたりともよく頑張ったな」

『『お父さん!』』

 シャンテルとベリルは大泣きしてる。

『ジェド、あなたプリンキピウムに帰って来るんでしょうね?』

「ああ、直ぐに帰る、レオナも聖魔法で送って貰った、何から何までマコトたちには世話になったよ」

『そう、マコトさんがレオナさんを送ってくれたのね、あんたは、これからはレオナさんが安心できるようにしっかりやるのよ』

「わかってる、わかってるよ」

「にゃあ、ジェドはなるべく早くそっちに返すにゃん」

『ありがとうございます、マコトさん』

「オレは、こっちのホテルがグランドオープンしたら帰るにゃん、詳しいことはその時に話すにゃん」

『わかりました、お待ちしています』



 ○州都オパルス 市街地


「にゃあ、ジェドはこれからどうするつもりにゃん?」

 ホテルに戻る馬車でジェドと話をする。

「俺か、俺は一旦プリンキピウムに帰ったら冒険者を続けるつもりだ、他に何ができるわけじゃないしな」

「にゃお、一度死んでるのにまだやる気にゃん?」

「アレは相手が悪かっただけだ、特異種なんてそう現れることはない」

「ジェドが谷底に沈んでる間に状況が変わったにゃん、最近、特異種が増加傾向に有るにゃん」

「特異種が増えてるのか?」

「そうにゃん、それにプリンキピウムの森にはゴロゴロいるにゃん、だから今後、あっちの冒険者には特異種とやりあうだけの実力が要求されるにゃん」

「特異種とやりあうのか、それはかなりハードルが高いな」

「オレもそう思うにゃん、しかもジェドは無一文で宿無しで装備もなしで、どうやって狩りに出るつもりにゃん?」

「ああ、それもあったか!?」

「冒険者ギルドの再登録もただじゃなかったにゃんよ」

「それは絶対に返す」

「装備はギルドで支度金を借りるから何とかなるはずだ」

「にゃあ、ふたりの子持ちが冒険者ギルドに借金してやっていけるにゃん?」

「……」

「六歳児が偉そうなことを言うけど、オレとしてはシャンテルとベリルがひとり立ちできるまでジェドには死んで欲しくないにゃん」

「マコトの言うとおりだ」

「ひとまずノーラさんに顔を見せて安心させて欲しいにゃん、プリンキピウムまで馬と旅費を貸すにゃん」

「済まない本当に何から何まで」

「にゃあ、ジェド、今回の救出にお館様が支払った労力、金額にするといくらになると思ってるにゃん?」

「安くはないにゃんよ」

 猫耳たちが問い掛けた。

「幾らなんだ?」

「治療費だけで大金貨一〇〇枚を超えてるにゃん」

「大金貨一〇〇枚!?」

「本来、彫像病の治療は、宮廷魔導師クラスの魔法使い数人が数日を掛けて行うものにゃん」

「にゃあ、それでさえ成功率は低くて五体満足になるまで完治するなど有り得ない奇跡の技にゃん」

「それほどのことを俺のために」

「にゃあ、それだけの価値をお館様はジェドに見い出してるにゃん、無茶は許されないにゃんよ」

「ああ、肝に銘じるよ」

「先のことはノーラさんと良く話し合うにゃん、いまのプリンキピウムなら冒険者じゃなくても食べていけるにゃん」

「そうか、いろいろ変わったんだな、わかってる、母さんと相談してみるよ」

「にゃあ」



 ○州都オパルス クリステル・オパルス・オルホフホテル 前


 ホテルの前にこれからプリンキピウムに帰るデリックのおっちゃんとザックが待っていてくれた。

「うわ、本当にジェドさんだ」

「ザックか、しばらく見ない内に冒険者ギルドの職員になったのか、出世したな」

 ふたりは知り合いらしい。

「俺はデリックだ、プリンキピウムで冒険者ギルドのギルマスをしてる。ノーラさんには良く愚痴を聞かされたぞ」

「すいません」

 筋肉の前に小さくなるジェド。

「ジェドはもう散々説教されたからそのぐらいにしてやって欲しいにゃん」

「そうか、マコトたちに説教されたか」

 デリックのおっちゃんは愉快そうに笑った。

「これが魔法馬とテントにゃん、食料品はデリックのおっちゃんとザックから分けてもらって欲しいにゃん」

 オレはジェドに魔法馬と旅の装備を貸す。

「この魔法馬なら三日でプリンキピウムまで行けそうだな」

「無理は禁物にゃん」

「わかってる」

「大概のモノは馬の防御結界で弾けるにゃん」

「そいつもスゴいな」

「にゃあ、デリックのおっちゃんとザックも一緒だから大丈夫だとは思うけど気を付けるにゃんよ」

「ああ、油断はしないから安心してくれ」

「にゃあ、オレも近いうちにプリンキピウムに帰るにゃん、またにゃん」

「マコト、それに皆んなもありがとう!」

「またな!」

「マコトもちゃんと帰って来いよ!」

「にゃあ」


 オレたちは遠ざかる三人の背中が見えなくなるまで見送った。


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