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厄介なお客さまにゃん

 ○州都オパルス プリンキピウム間 魔法蟻トンネル プリンキピウム前衛拠点


「「おやかたさま!」」

 プリンキピウム前衛拠点まで戻って来たオレたちをひとりずつ魔法蟻に跨ったビッキーとチャスが出迎えてくれた。

「にゃあ、帰って来たにゃん」

「「おかえりなさい!」」

 ビッキーとチャスは魔法蟻の背中からオレに飛び付いた。

「にゃあ」

 魔法も使ってふたりを受け止めた。ギュッと抱きつかれて両側から頬ずりされる。

「にゃあ、急に甘えっ子になったにゃんね」

「マコトと同じだね」

 頭の上でリーリが余計なことをいう。

「次はウチらが抱っこするにゃん!」

「「「にゃあ♪」」」

 オレたちを出迎えてくれたのはビッキーとチャスだけじゃなかった。プリンキピウム前衛拠点にいた猫耳たちに囲まれていた。

『『『ニャア』』』

 猫耳ゴーレムもその後ろに控えていた。


 一時間に及ぶ抱っこ会の後、オレはやっと床に足を付けた。

「オレは州都に戻るにゃん、おまえらは交代でプリンキピウムの森で狩りをするといいにゃん、でも、無理はしちゃダメにゃんよ」

「「「了解にゃん!」」」

 猫耳たちはビシっと敬礼した。


 オレたちは魔法蟻の背中に五時間ほど乗って州都のホテルに戻った。

 もっと速度を上げるには人間が乗ることをこれっぽっちも考慮してない魔法蟻の背中をどうにかしてからだ。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ロビー


「お帰りなさいませ、マコト様」

 リーリを頭に乗せビッキーとチャスを引き連れてロビーに出ると支配人のアゼルが出迎えてくれた。

「にゃあ、お疲れにゃん、盛況にゃんね」

 ラウンジはまだお茶の時間ということもあって賑わっていた。

「はい、七割ほどお部屋も埋まっております」

「ちょうどいい感じにゃんね」

「はい」

「何か問題はあるにゃん?」

「ゴーレムをどうしても譲って欲しいというお客様が何人かいらしゃいます」

「誰にゃん?」


 支配人から聞き出した連中はいずれも大手の商会に繋がる者たちだ。

 猫耳たちの記憶からすると面倒なヤツらだ。

「にゃあ、猫耳ゴーレムはオレの分身みたいなものにゃん、相手が誰であっても売らないにゃんよ」

「十分心得ております」

「にゃあ、丸く収まるようにクリステル様にオレから相談してみるにゃん」

 領主の奥様を出せば引き下がらざるを得ないだろう。

「よろしくお願いいたします」

「ところでクリステル様は、まだ滞在中にゃん?」

「はい、ご滞在中です」

「もしかして一度も帰られてないにゃん?」

「はい」

 ホテルが原因で家庭不和とかご勘弁だ。


「じゃあ、あたしはご飯をチェックして来るよ!」

「わたしはおうまさんにのる」

「わたしも」

「にゃあ」

 リーリは従業員食堂のビュッフェに直行で、ビッキーとチャスは魔法馬を乗りに外に出て行った。魔法蟻の上で五時間くっついていたので、くっつき虫は満足したらしい。

 オレは一人でクリステルの部屋に赴いた。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 客室


「あら、いらっしゃいネコちゃん」

「にゃあ、お邪魔するにゃん」

 クリステルはホテルのエステが効いて、初めて会った時よりも肌の艶が良くなって二、三歳若返った奥様が迎えてくれた。。

 お付きの文官とメイドさんも若返っている。

「クリステル様には、プレオープンに多大なご協力をいただき感謝してるにゃん」

「まあ、ご丁寧に」

「今日はクリステル様にお願いがあって来たにゃん」

「何かしら?」

「クリステル様にこのホテルの後ろ盾になって欲しいにゃん」

「あら、わたくしは元よりネコちゃんの後ろ盾のつもりよ」

「ありがとうございますにゃん、それでホテルにもクリステル様の名前を入れさせて欲しいにゃん」

「わたくしの名前をですか?」

「クリステル・オパルス・オルホフホテルにしたいにゃん」

 テーブルに金の地金を三〇個を置く。

「これは少ないけどクリステル様のお名前の使用料にゃん」

「まあ、こんなにいただけないわ」

「にゃあ、実はいま困ってることがあるにゃん」

 上目遣いの猫なで声だ。

「あらあらいったい何かしら?」

「オレの猫耳ゴーレムを欲しがってる強引なお客様が複数いるにゃん」

「ネコちゃんのゴーレムは高性能ですものね、わたくしも欲しいぐらいよ」

「猫耳ゴーレムはオレの家族にゃん、家族は売れないにゃん」

「わたくしから話せば引き下がってくれると思うわ」

「にゃあ、助かるにゃん」

「それで誰が欲しがっているのかしら?」


 オレは問題の商会の名前を挙げた。


「王都に本店を置くベイクウェル商会だけは厄介ね、表向きは素直に従うでしょうけど後で非合法な手を使って来る可能性が高いんじゃないかしら」

「非合法にゃん?」

「ええ、カズキ様も手を焼いていたわ」

「にゃあ、何でそんなヤツらがのさばってるにゃん?」

「残念なことにベイクウェル商会の扱う小麦がいちばん上質で安いの、だから撤退されるとそれはそれで困るの」

「それは厄介にゃんね」

「小麦と言えば、ネコちゃんのこのホテルで出してるパンはとっても美味しいけど、いったい何処の小麦を使っているのかしら?」

「パンは大公国のオレの領地で作ってる小麦を使ってるにゃん」

「まあ、ネコちゃんの領地で小麦を作ってるの?」

「そうにゃん」

「もしかして、ホテルの運営にものすごくお金を使っちゃってる?」

「お金はいくらも使ってないにゃん、ホテルで出してる食べ物は全部自分のところで生産したり狩ったりしてるものにゃん、小麦は最近アルボラにも輸出してるにゃん」

「カズキ様とは随分違うのね」

「領主様は本物を追い求めているにゃん、オレはおいしければ何でもいいのでいい加減にゃん」

「カズキ様にも妥協を覚えて下さらないかしら」

「領主様のロマンは許してあげて欲しいにゃん」

「ええ、余計なことは言わないから安心して、カズキ様の生き甲斐ですもの好きにさせるわ」


 クリステルの名前の使用と厄介な客の説得を快諾してくれたので、早速、各部門への通達と看板の修正を行った。



 ○州都オパルス クリステル・オパルス・オルホフホテル 最上階


「にゃあ、お館様発見にゃん!」

「にゃ?」

「お運びするにゃん」

「「「お館様を運ぶにゃん!」」」

 自室でくつろいでると猫耳たちがやって来て、彼女たちの第三ピラミッドに運ばれた。



 ○州都オパルス クリステル・オパルス・オルホフホテル 第三ピラミッド ブリーフィングルーム


 いつの間にか作られたブリーフィングルームで、猫耳ゴーレム強奪阻止作戦の会議が開かれた。

「直ぐ来そうにゃん?」

「今夜中の襲撃が有ると見て間違いないにゃん」

「おまえらは、ベイクウェル商会の人間を知ってるにゃんね」

「にゃあ、ウチらの業界でベイクウェル商会を知らない者はいないにゃん」

「特にオパルス支店の支店長ドリスタン・バーロウは強引な手を使うので有名にゃん」

「その支店長が先ほどホテルから使いを出したにゃん」

「使者を眠らせて伝言の内容を確認したところ『深夜から未明に掛けてホテル入口にいるゴーレムを奪取せよ』と命じた指示だったにゃん」

「宛先は何処にゃん?」

「にゃあ、使者の後をつけたところ、ハゲネズミのオパルスのアジトに入り込んだにゃん」

「ハゲネズミって、確か犯罪ギルド『ノクティス』系にゃんね」

 日本でいうところの広域暴力団をもっとヤバくした感じの集団だ。プリンキピウムでは追っ払ったけどな。

「にゃあ、ノクティス系でも裏の仕事に特化された組織にゃん、クライアントは大店の商会や貴族が多いにゃん」

「この前の武装商人の一件にも絡んでたにゃん」

「にゃ、武装商人のイートンとジェフリーと一緒にいたときに襲ってきたヤツらの中にいたにゃん?」

 実は顔までは覚えてない。

「にゃあ、ハゲネズミの構成員の一人が襲撃メンバーにいて犯罪奴隷で売っ払われてるにゃん」

「もしかしてそいつってオレが売っぱらった中にいたにゃん?」

「そうにゃん、お館様が売っぱらったにゃん」

「知らないところで嫌な縁が出来てるにゃんね」

「ハゲネズミのヤツはイートンとジェフリーにヤラれたと思ってるから、その点は心配要らないにゃん」

「イートンとジェフリーが狙われると違うにゃん?」

「お館様、ヤツらは強者には手を出さないにゃん、それが悪いヤツが生き残る秘訣にゃん」

「それにしては、オレには襲い掛かってくるにゃんね」

「お館様は見た目が反則にゃん」

「こんなに可愛いのに桁外れに強いとか、まさに悪いヤツの天敵にゃん」

「「「にゃあ♪」」」

 隣にいた猫耳に抱っこされる。それをきっかけに次々と抱っこされて作戦会議が一時中断した。


「にゃあ、猫耳ゴーレム強奪阻止作戦の会議を再開するにゃん」

「「「にゃあ」」」

「それで、ベイクウェル商会の支店長が何だっていうにゃん?」

「にゃあ、使いに出した使者が戻った部屋の様子がこれにゃん」

 スクリーンに客室の様子が映し出された。

「ソファーに座ってる偉そうな奴が、ベイクウェル商会の支店長ドリスタン・バーロウにゃん」

「どこかで見たことがあると思ったら、ブタに似てるにゃんね」

 猫耳たちが「「「プッ!」」」と吹き出した。

「にゃあ、見た目で損するタイプにゃんね」

 一応、この支店長の人となりは知らないのでフォローしておく。

「お館様、残念ながらドリスタン・バーロウは見たままの嫌なヤツにゃん」

「ヤツを知ってるにゃん?」

「ウチらの中に不愉快な記憶がいっぱい有るにゃん」

 額に指をやる元アール・ブルーマー男爵だった猫耳のアルが渋い顔をした。

「にゃあ、前世のブルーマー男爵と知り合いだったにゃんね」

 不快な記憶は公平な目で見るとどっちもどっちの内容だ。狐とブタの騙し合いだ。


『そうかヤツらは命令どおり今夜動くんだな?』

 ドリスタン・バーロウの声が聞こえた。

『はい、旦那様』

 黒ずくめの使者の男が頭を垂れる。

『いくら領主に泣き付こうが俺は必ず手に入れる、ほぼ新品のゴーレムだ、商会で解析すれば同じものを作れるだろう』


「ブタの夢が膨らんでるにゃん」

「エーテル機関で動かし森の精霊の魔石で思考する猫耳ゴーレムをコピーできるなら大したものにゃん」

「刻印を使ってない時点で、お館様クラスの魔法使いじゃないと複製は無理にゃんね」

「つまり誰にも無理ってことにゃん」


『ゴーレムで稼いだ後は、このホテルも手に入れたいものだな、そうすれば俺も経営会議の椅子に座れるだろう』

 ガハハハと笑い声を上げた。笑い声もブタっぽくして欲しかった。

『しっかり働けよ、ハゲネズミども』

 ドリスタン・バーロウは独り言にしてはハッキリとした口調で言った。


「にゃあ、ハゲネズミとベイクウェル商会の繋がりはどんな感じにゃん?」

「ベイクウェル商会はハゲネズミの重要なクライアントの一つにゃん。いろいろ裏の仕事をやらせてるにゃん」

「大商会でもそこまで犯罪ギルドとべったりなのは珍しいにゃん、それだけベイクウェル商会が力を持ってる証でもあるにゃん」

「だから厄介にゃんね」

 力があるから下手に取り締まりもできないみたいだ。

「領主は小麦のためとは言え、ベイクウェル商会を放置し過ぎにゃんね、犯罪ギルドよりもたちが悪いにゃん」

 アルのいうとおりだ。

「上質な小麦は州の生命線だから仕方ない部分は確かにあったにゃん、でもこれからはお館様の小麦が出回るから好きにはできないにゃんね」

「いい気味にゃん」

「「「にゃあ」」」

 ベイクウェル商会を弁護する者はひとりもいなかった。

「にゃあ、ベイクウェル商会の人間はどいつもこいつも似た感じにゃん?」

「それはないにゃん、たいがいバーロウよりマシにゃん」

「ヤツより酷かったら、領主が動かざるを得なくなるにゃん」

 それもそうか。

「にゃあ、ハゲネズミが動いたらこっちも動くにゃん、警告はしたから遠慮は無しにゃん」

「「「にゃあ!」」」



 ○帝国暦 二七三〇年〇八月一四日


 ○州都オパルス 商業地区 ベイクウェル商会オパルス支店


 ベイクウェル商会オパルス支店長ドリスタン・バーロウはクリステル・オパルス・オルホフホテルを早朝にチェックアウトして、州都の商業地区の一等地にある支店に戻った。石造りの重厚な建物は、周囲を威圧するほど立派だ。

「ダリオ、ヤツから連絡は?」

 自分のオフィスに戻るなり、昨日の使者を務めた腹心のダリオに問い掛けた。ダリオは四〇代の陰気で痩せた男だ。

「いいえ、ございません」

「遅いな」

 領主からせしめた自慢のソファーに身を沈め不機嫌そうに眉を寄せる。

「バーロウ様、そのことに付いてお話が」

「何だ、ダリオ?」

「ハゲネズミのアジトが昨夜の内に消失した様です」

 ダリオの言葉に感情はなく事実のみを述べる。

「消失?」

「丸ごと消えてなくなりました」

「ハゲネズミのヤツらと連絡は?」

「誰ひとり掴まりません」

「五〇人はいたはずだが、全員か?」

「はい」

「魔法使いが絡んでいるのか、つまりあのホテルのオーナーの小娘か?」

「旦那様、お客様がお越しです」

 そばかすのあるまだ一〇代と思しき年若い店員が報告する。

「誰だ、こんな朝っぱらから?」

「マコト・アマノ様と名乗っておられます。クリステル・オパルス・オルホフホテルのオーナーだそうです」

「何の用だ?」

「商談だそうです」

 ドリスタンは腹心の男を見る。

 ダリオは小さく首を横に振った。

「既に囲まれてございます」

「わかった、通せ」

 額から汗が吹き出す。



 ○州都オパルス 商業地区 ベイクウェル商会オパルス支店 支店長執務室


「にゃあ、お邪魔するにゃん」

 ドリスタン・バーロウの執務室にオレと猫耳がふたりの計三人で訪れた。

 ビッキーとチャスは馬車の幌の上で待機してる。

「お初にお目にかかるにゃん、オレはマコト・アマノにゃん、クリステル・オパルス・オルホフホテルのオーナーをやってるにゃん」

「お、おお、これはこれは、ベイクウェル商会オパルス支店長ドリスタン・バーロウと申します」

「にゃあ、オレが子供で驚いたにゃん?」

「え、ええ、お噂はかねがね聞いておりましたが、まさか本当にそうだとは思いもよりませんでした」

「にゃあ、支店長もいい笑顔にゃん」

「はあ、恐縮です」

「では、本題にゃん、今回の不始末に付いて大金貨二〇〇〇枚と支店長ドリスタン・バーロウの身柄の引き渡しで勘弁してやるにゃん」

「は?」

「破格の条件にゃん、もう領主様の承認も得てるにゃんよ」

 昨夜の内にカズキに書いてもらった書状を見せる。

「お待ち下さい、何かの間違いかと」

「にゃお、既にハゲネズミの連中の証言は取ったにゃん、何でオレたちが犯罪ギルドのチンピラより弱いと思ったか不思議にゃん」

「そんなチンピラどもの証言だけで大金貨二〇〇〇枚とは横暴にも程があるぞ!」

 ブタが吠える。

「にゃあ、地が出たにゃんね」

 そこに扉が開いた。

「ドリスタン・バーロウ、本店よりおまえの解雇が決定した! ベイクウェル商会は騎士マコト・アマノ様の出された条件を受け入れます」

 長身のイケメン紳士の登場だ。

「ダドリー貴様! いつの間に本店に!」

「黙れ!」

 ドリスタンを一喝した。

「マコト様、ドリスタン・バーロウの身柄は引き渡します、後はご自由に」

「にゃあ」

 軽く電撃を浴びせて元支店長を黙らせた。

「回収するにゃん」

「回収にゃん」

 ふたりの猫耳が元支店長を箱に詰めて出て行った。

 ベイクウェル商会オパルス支店副支店長ダドリー・ボウマンは緊張の面持ちでオレを見ている。

 年の頃三〇ぐらいでホテルで働かせるならイケメンのこっちだが、そういうわけにもいかないにゃんね。

 副支店長のダドリー・ボウマンには昨夜の内に支店長更迭の件に付いて本店と協議をさせていた。

「マコト様、領主様はこれまでのお取引を継続されるのですね?」

「にゃあ、書状に書いてある通りにゃん、今後も上質の小麦の納入をお望みにゃん」

「かしこまりました、後日わたくしどもからもご挨拶に伺います」

「そうしてくれると助かるにゃん、領主様もベイクウェル商会との敵対は避けたいとのお考えにゃん」

「マコト様もですか?」

「にゃあ、もちろんにゃん、オレも何かと忙しいので王都まで商会を潰しに行くのは面倒にゃん」

「マコト様、お言葉ですがベイクウェル商会はそれほどヤワではございませんよ」

「にゃあ、ダドリーこれが何だか分かるにゃん?」

 オレはエーテル機関を取り出して見せた。

「それは魔石では有りませんか、しかも傷一つない魔獣の魔石、いったいどちらで掘り当てられたんです」

「にゃあ、掘ってなんかいないにゃん、狩ったにゃん」

「狩った、魔獣をですか?」

「にゃあ、これは鎧蛇にゃん」

「まさか?」

「無理に信じることはないにゃん、ただオレのことをちゃんと調べればわかることにゃん、本店の連中が魔獣より強いと思うなら冗談だと思って構わないにゃんよ」

「い、いいえ」

「もし、またオレの仲間を傷付ける様な事をしたら、良くて……」


 突然、銃声が連続して響き渡った。


 白い煙が部屋に充満する。

「ダリオ! おまえ、なんて事を!」

「ボウマン様、彼女たちは危険です、全て私の一存でしたこと」

 ダリオは拳銃の銃口を咥えて引き金を引いた。

「……!」

 銃弾が発射される代わりにダリオが電撃を浴びて転がった。外からビッキーとチャスが放ったものだ。

 部屋の中の煙が消える。

「にゃあ、オレを拳銃程度で殺そうなんて甘いにゃんね」

 そして猫耳たちが戻っていた。

「にゃお、そうにゃん」

「お館様は不死身にゃん、それはウチらもにゃん」

「この不始末は貸しにしてやるにゃん、その代わりダリオはオレたちが貰うにゃん」

「え、ええ、ご自由にどうぞ」

「オレ自身については大目に見てやるにゃん、その代わり身内を傷付けられたら冷静でいられる自信がないにゃんよ、もちろんダリオみたいな言い訳は通用しないにゃん、全力で潰すにゃん」

「承知いたしました」

「にゃあ、ダドリーがオレたちの良き友人であることを願うにゃん、もちろん友人にはちゃんと儲けさせてやるにゃんよ」

「儲けですか?」

「手始めにクロウシの肉を一〇頭分なんてどうにゃん? ホテルで出してるから王都辺りか別の大きな街で売るといいにゃん」

「クロウシを一〇頭も!?」

「少し前にギルドには売ったにゃん、こっちには流れて来なかったにゃん?」

「残念ながら、冒険者ギルドでは希少な素材は全て王都に運ばれてしまうので手前どもでは扱えないのです」

「ギルドから文句を言われない程度なら特異種も流してやっていいにゃん」

「本当ですか? 是非お願いします!」

「とりあえず今日はクロウシ一〇頭にゃん、腐敗防止の魔法が掛けてあるから好きなところで売れるにゃん」

「丸ごとですか?」

「丸ごとにゃん」



 ○州都オパルス 商業地区 ベイクウェル商会オパルス支店 倉庫


 ベイクウェル商会の倉庫でクロウシを出して見せるとダドリーは口を半開きにして呆けた顔を見せた。

「格納空間にウシが一〇頭も」

 イケメンが台無しにゃん。それでも直ぐに優秀な商人の顔になった。

「素晴らしい、まるで眠ってる様なみずみずしさですね」

「解体をしてないからにゃん、ご希望なら直ぐにバラせるにゃんよ」

「いいえ、このままでお願いします、この姿なら偽装は疑われませんから」

「そうにゃんね」

「どうでしょう、これは王都でセリに出しませんか? そのうち六割をお支払いたします」

「にゃあ、それはプレゼントにゃん、ダドリーの好きにしていいにゃん、追加が欲しければその条件でいいにゃんよ」

「ありがとうございます、是非お願いいたします」


 契約を交わしてクロウシを追加でもう一〇頭引き渡した。


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