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遭難者にゃん

 オレたちは魔法馬に乗って問題の人物の場所に急いだ。

 周囲から見つけにくい窪地に魔法馬とその足元に冒険者とおぼしき格好の女の人が倒れている。

「にゃお」

 年の頃、二〇代後半ぐらい。赤い髪で長身で鍛え抜かれた身体をしてる。おっぱいはフリーダ級。

 外傷は無いようだが、身体を丸めてかなり苦しそうだ。

「変装の魔導具を身に着けてるにゃんね」

 オレは魔法馬を消して倒れている女性に近付いた。

「お館様、危ないにゃんよ」

「そうにゃん、倒れてる振りをしてるかもしれないにゃん」

「操られてる可能性もあるにゃんよ」

 猫耳たちがオレを諌める。

「今回に限っては大丈夫にゃん」

 魔導具の効果を一時的に無効化した。

 すると赤い髪は青く染まりまだ一〇代と思しき年頃に変化した。

「王国軍のクレア・アランデル少尉にゃん、この魔法馬はオレが作ったものだからすぐにわかったにゃん」

 キャリーとベルの姉みたいな存在のクレア少尉だ。

「何でここにいるんだろうね?」

 リーリが首をひねる。

「オレも良くわからないにゃん、ついこの前まで王都にいたはずにゃん」

「にゃあ、たしかによく見ればお館様の馬にゃん、しかも格納機能付きの売り物じゃないタイプにゃん」

「つまりエーテル機関が入ってる魔法馬にゃんね」

「にゃあ、この世界にエーテル機関を搭載してる魔法馬はお館様が作ったものだけにゃん」

「そうにゃん、だから例え操られていてもオレのことは攻撃できないにゃん」

 それが魔法馬と銃を渡す条件でもある。

「状況からするとクレア少尉が遺跡の防御結界に触れた瞬間、自分から外に出て気を失った主人を安全な場所に運んだにゃんね」

 猫耳たちも馬を格納してクレア少尉を眺める。

「たぶんそうにゃん」

 ちゃんと主人を安全な場所に隠す辺りオレの作った魔法馬だけはある。軍用馬ベースだからもともとの機能だろうけど。

「にゃあ、わざわざ遺跡に近づくなんて普通の冒険者じゃないとは思ったにゃん、でも、王国軍の少尉なら納得にゃん」

「王国軍は一般兵はクズばかりだけど、一部ヤバい兵隊がいるにゃん、たぶん少尉はそっちの人間にゃんね」

 オレも異論はない。

「怪我をしてるわけじゃ無さそうなのにずいぶんと苦しそうにゃん」

「にゃあ、普通じゃないにゃんね」

 魔法馬の防御結界でも守り切れなかったか。

「お館様、これは早く治療しないとマズい感じにゃん」

「にゃあ、そうにゃんね、クレア少尉、大丈夫にゃん?」

 声を掛けたが返事はない。

 意識を失ったままだ。

「にゃお、オレの馬の防御結界でこれとはどんだけヤバい結界を張ってるにゃん」

「この馬じゃ無かったらきっとその場で破裂してたにゃん」

「いい馬にゃん」

 オレは治癒の光を当てた。しかし効果はなくクレア少尉は苦痛に顔を歪めてる。

「お館様、これって毒と違うにゃん?」

 ヨウがクレア少尉をじっと見る。

「にゃあ、確かに毒みたいにも感じられるにゃんね、もっと良く調べるにゃん」

 オレもクレア少尉の身体を詳細に探索する。

「にゃ?」

 身体の中を物質じゃない何かがかなりの速度で這いまわってる。

 なんだこれは?

 物質とエーテルの中間。半エーテル体だ。

「毒ではなかったにゃん」

 蛇のような姿の半エーテル体がクレア少尉の体内にいる。

「にゃお、これは呪いの一種にゃん、図書館情報体にあったにゃん」

「「「呪いにゃん!?」」」

 この手の呪いはハリエットにあげた聖魔石の魔法馬だったら一瞬で消しされるのだが、通常の魔法馬の防御結界では想定していなかった。改良の余地ありだ。

「半エーテル体の蛇か、どうやって治すの?」

 リーリがクレア少尉の近くでホバリングする。

「対処法は身体の中を這いまわってる呪いを外に引きずり出すのが最も手っ取り早いにゃん」

「お館様、それって普通の人間には無理な対処法と違うにゃん?」

「魔法使いの掛けた呪いにゃん、解くのにも魔法使いが必要なのは当然にゃん」

 オレはクレア少尉の体内で探索を続ける。

 猫耳たちは周囲の警戒をしつつオレの作業を見守る。

 クレア少尉の体内を這いまわる半具現化した呪いを追う。

「にゃあ! そこにゃん!」

 クレア少尉の身体から真っ黒な呪いを引きずり出した。

「にゃあ、蛇じゃなくてムカデにゃん!」

 ハリエットの時に捕まえた真っ黒な蛇と違ってこちらは大きなムカデの形をしていた。身体を捻ってオレを攻撃しようとする。

「残念にゃんね、オレには効かないにゃんよ」

 オレは小細工しつつ呪いのムカデを炎で浄化して消し去った。

「呪い返しは使えないけど、代わりに呪いを掛けた術者に侵入者は死んだと嘘の情報が伝わったはずにゃん」

 遺跡に不法侵入しようとしといて呪い返しもないからな。

「にゃあ、お館様スゴいにゃん」

「「にゃあ」」

 猫耳たちがオレに抱きつく。

「おまえら、まだ終わってないんだからくっついちゃダメにゃん」

 クレア少尉の身体を修復する仕事が残ってる。

 半エーテルとはいえ体内を縦横無尽に這いずり回られたらかなりのダメージだ。

「身体全体を修復するにゃん」

 呪いの術者はオリエーンス連邦の技術にかなり明るいみたいだ。姿の見えなかった宮廷魔導師の仕業だろうか?

 防御結界に呪いを仕組むとか陰険な性格が垣間見える。なるべくなら関わり合いになりたくない。

「お館様、こっちに人が来るにゃん」

 ホタルが耳をピンとさせた。

「近衛の兵士にゃんね」

 まだ意識のないクレア少尉を抱えて逃げ出すのもあまり気が進まない。ここは隠れるしかなさそうだ。



 ○州都オパルス プリンキピウム遺跡 近衛軍 監視地域 地下壕


「……ここは?」

 ベッドに寝かせていたクレア少尉が目を覚ました。

「にゃあ、オレたちが作った地下壕にゃん」

「地下壕って、マコトか?」

「にゃあ、追っ手が来たから地面の下に隠れたにゃん」

「追っ手、どんな人間だ? あっ!」

 身体を起こそうとして顔をしかめた。

「まだ身体を動かしちゃダメにゃん」

 毛布がめくれて下着姿の身体が見えた。腹筋が割れてる。

「変な帽子を被ったふたり組にゃん」

 術者に命じられムカデの断末魔を頼りに調査に出されたのだろう。魔導師は遺跡にはいなかったがしっかりリンクされていたようだ。

「追っ手はどうした」

「にゃあ、偽装で撒いた血の臭いに引き寄せられたトラの特異種と鉢合わせして、逃げて行ったにゃん」

「そうか、偽装は成功だな」

 クレア少尉も頷いた。

「にゃあ、プロテクターと服は脱がせたにゃん」

「私はどうなっていたんだ?」

「クレア少尉は森の中で倒れていたにゃん、魔法馬が結界の外に運んできたみたいにゃんね、それと呪いにゃん」

「呪い?」

「遺跡の防御結果に仕込んであったにゃん」

「私は呪いを掛けられたのか?」

「にゃあ、そうにゃん、それをお館様が解いたにゃん」

「お館様じゃなかったら普通は死んでるにゃんよ」

「にゃあ、お館様はスゴいにゃん」

「そうだよ、マコトはスゴいんだよ」

 猫耳たちがオレを褒め称え最後にリーリが〆た。気恥ずかしいにゃん。

「そうか、遺跡の防御結界に触れたのか、私としたことが迂闊だった」

「にゃあ、なんでクレア少尉はプリンキピウム遺跡にいるにゃん? 普通、こんなに早くは到着できないにゃんよ」

「それはマコトの馬が速かったからだ、アポリト州なんか一日掛からずに抜けたぞ」

「空間圧縮魔法にゃんね」

 オレの魔法馬も搭載している。

「アポリト州は立ち入り禁止と違うの?」

 リーリがオレの頭の上から訊く。

「マコトの馬の防御結界が有れば問題ないと判断した、現にグールは全部跳ね飛ばしたぞ」

「豪快過ぎるにゃん」

「「「姐御にゃん!」」」

 猫耳たちは尊敬の眼差しだ。

「ははは、そう褒めるな」

 クレア少尉もまんざらでもない感じだ。

「ところで私はクレアではない、名前はジル、拠点は王都だがあちこち渡り歩いてるしがない冒険者だ」

 そう言う設定らしい。

「ジルは何でプリンキピウム遺跡の結界に引っ掛かったの?」

 リーリはクレア少尉の設定に合わせる。

「獲物を追ってたまたま遺跡に近付いてしまった」

 ハリエット様の誘拐事件の調査かプリンキピウム遺跡そのものに用があるかのどちらかだろう。こそこそしてるから後者かな?

「にゃあ、プリンキピウム遺跡の発掘作業は、まだお宝のある場所には届いて無かったにゃんよ、かなり時間を要すると感じにゃん」

「マコトは潜ったのか?」

「にゃあ、そこまで命知らずじゃないにゃん、魔法を使って外から覗いただけにゃん」

「マナの濃度が濃いから普通の人間じゃ入れないよ」

 リーリが情報を付け加える。

「私はどうだ?」

「魔法馬の防御結界があるから入れるけど生きて出られる保証はないにゃんよ、それ以前に宮廷魔導師の張った防御結界を抜けるのが難しいにゃん」

「遺跡に入ったら入ったで壁に張り付いて石になっちゃうかもしれないし」

「妖精殿が言ったことは本当か?」

「にゃあ、本当にゃん、たぶん遺跡のトラップにゃん」

「噂どおりプリンキピウム遺跡は当たりらしい。しかし道は険しそうだ」

「そうにゃん?」

「防御結界の中でも人を喰う結界は重要施設に使われてると聞く、それがそのまま機能してるならかなり手を焼くことになるだろう」

「にゃあ、そういう区分けがされていたにゃんね」

「知らないのは無理もない、遺跡の発掘は犯罪奴隷が中心の閉じた世界だ。遺跡内部の情報はまず外の世界には漏れることはない」

「クレア少尉は知ってるにゃんね?」

「クレアではなくジルだ」

「にゃあ、そうだったにゃん、ジルにゃん」

「仕事柄、遺跡に行くこともあるからそれとなく耳に入るのだ」

「重要遺跡なら、かなりのお宝が眠ってるにゃんね」

「そう考えて間違いないだろう」

「人間を喰う遺跡の防御結界はどうやって解除するにゃん?」

「遺跡の結界を破る方法は一つだけだ、結界が飽和するまで犯罪奴隷を投入する。それがシンプルで最も効果が高い」

「にゃお、犯罪奴隷はこき使われたり事故で死ぬわけじゃなかったにゃんね」

「濃度の高いマナの中でほとんど生身で作業させられるのだから、表向きは作業中の事故として処理されてるはずだ。犯罪奴隷であっても故意に死なせるのは王国法で禁じられている」

「建前はそうなってるにゃんね」

 王国も大公国も一応は法治国家なのだ。ザルだけど。

「にゃお、本当に犯罪奴隷を潰していたにゃんね」

「魔法使いの犯罪奴隷を集めていたから、もうちょっとオツムを使った攻略をしてたかと思っていたにゃん」

「近衛の好みそうなやり方にゃん」

 猫耳たちも結界の解除方法には衝撃を受けていた。

 結界が最も反応するのは人間だから、それを潰すために大量に投入する方法は理にかなってる。何でも処理を超えた入力は故障の原因だ。

「マコトたちも近付いちゃダメだぞ」

「にゃあ、ジルもダメにゃんよ」

「わかっている、私では遺跡までたどり着くことができないことがはっきりしたし、マコトに内部の様子を教えて貰ったから用は済んだ」

「これからジルはどうするにゃん?」

「王都に帰る、もちろん大公国周りにする」

「にゃあ、ジルが通ったアポリト州にグールはどれだけいたにゃん?」

「私が確認したのは二〇匹ほどだったが、人が襲われたらしい跡も何箇所かあったから、それがすべてではないだろう」

「マコトが全部狩ったのに後からかなり増えたみたいだね」

「にゃあ、リーリの言った通りグールもオーガも全部狩ったから、いまいるのはその後に入り込んだ人間の成れの果てにゃん」

「火事場泥棒みたいな侵入者が後を絶たないらしいな、私も人のことは言えんが」

「通行止めになってないにゃん?」

「いや、レークトゥス州もアルボラ州も守備隊は、グールとオーガの監視をしているだけだったぞ」

「グールとオーガが抜けない結界が設置してあるから問題ないにしても、前に聞いたときより放置度が上がったにゃんね」

 袖の下を要求しないだけマシにはなったのか?

「にゃあ、一攫千金を狙った盗賊崩れの哀れな末路にゃん」

「人生の最後がグールなんてなかなかできることじゃないにゃん」

「どうせならオーガになりたいにゃんね」

 猫耳たちはそろって元同業者に冷ややかだ。火事場泥棒は盗賊のランクが二つ三つ下がるらしい。一般人には良くわからないランキングだ。


 それから三〇分ほど治療するとジルことクレア少尉はほぼ回復した。そうはいっても普通なら死んでもおかしくない状態からの復活なので、無理はせず今日はこのまま地下壕で夜を明かすことにした。

 幸いなことに近衛軍の変な帽子やトラの特異種が戻って来ることもなく、まして宮廷魔導師が様子を見に来ることもなかった。トラの特異種を遺跡に引っ張っていったからそれどころではないのかも。

 クレア少尉を殺しかけた結界も残念ながら獣には効かない。たぶん効いても市販の簡易結界程度だ。でもそこは魔法馬で森を駆け回る近衛軍なので特異種に対抗する火力を持ってるだろうから、一方的に美味しくいただかれてることはないと思う。


 夕食の後もクレア少尉に国内の状況を教えて貰った。

「ここ数年、凶暴な獣による事件が多くなってる。王国軍による諸侯軍の吸収を理由に上げる輩がいるが、チンピラに毛の生えた集団なんかいてもいなくても変わりはないはずだし、むしろどさくさに紛れて略奪だの何だの悪さをするヤツらがいないだけ被害が少なくなったはずだ」

「王国軍はヤバいにゃんね」

 オレが買う予定のケラス州には、そのヤバいヤツらの大規模な演習場がある。今度悪さをしたらただでは済まないけどな。

「王国を構成する州のうち三分の一が深刻な食糧難に陥っている。この辺りは領主の統治能力も低くいつ反乱が起こってもおかしくない状態だ」

「反乱とは穏やかじゃないにゃんね」

「仕方あるまい、追い詰められれば生きるために立ち上がる人間も出てくる」

「にゃあ、ジルはどっちの味方にゃん?」

「いや、私はどちらにも味方するつもりはない、領内のことは領民と領主が決めればいい外の人間がとやかくいう問題じゃない」

「王国軍は反乱鎮圧に出ないにゃん?」

「王国軍は王国軍憲章によって魔獣や特異種のみに戦闘行為を限定されている。だから反乱鎮圧であってもそう簡単には投入できない決まりだ」

 王国軍が紛争地域に入ったらもっと酷いことになるか、略奪とかで。


「にゃあ、お館様もジルも明日も早いのだからおしゃべりはそのぐらいにしてそろそろ寝るにゃん」

 ヨウにストップを掛けられた。

「そうにゃん、寝るにゃん」

「お館様はウチらと寝るにゃん」

 ホタルに抱え上げられる。

「にゃあ、ジルもお休みにゃん」

「あ、ああ、おやすみ」

 オレは猫耳たちに抱きかかえられたまま連れて行かれた。



 ○帝国暦 二七三〇年〇八月十三日


 早朝、まだ薄暗い内に地下壕から外の様子を伺う。

 問題は無さそうだ。

 オレたちの小細工が効いて冒険者のジルことクレア少尉は死んだと判断されたみたいだ。もしくはトラの特異種の騒ぎで忘れられたか。

 死体も食い荒らされたことになってるからわざわざ確認もないか。

 最初にオレとリーリが地上に出た。



 ○州都オパルス プリンキピウム遺跡 近衛軍 監視地域


「にゃあ、いいにゃんよ」

 続いて猫耳たちとクレア少尉が続く。

「本当に森の中だったんだな」

「信じて無かったにゃん?」

「あの豪華な部屋と結び付かなかっただけだ」

 オレは地下壕を消す。

「格納魔法もスゴいな」

「魔法が無かったら、オレも冒険者なんてやってないにゃん」

「「「にゃあ」」」

 魔法馬を出して跨った。

「まずは一旦、旧道に出た方がいいにゃんね」

「林道ではダメなのか?」

「にゃあ、林道はあいつらも使うから避けた方が安全にゃん、それに旧道の方が走りやすいから飛ばせるにゃん」

「それなら迷わず旧道だ」

 近衛軍の監視地域を抜けてまずは林道を目指す。

 魔法馬の足跡も藪漕ぎの跡も残さない。まず追跡は無理だろうし、いまのところその兆候もない。



 ○州都オパルス プリンキピウム間 森林


 来たときと違って帰りはなるべく平坦な場所を選んで通る。危険をまったくかえりみないクレア少尉には崖の登り下りは教えない方がいい。

「マコトの魔法馬は、森の中を走れるから何をするにも助かる」

「にゃあ、過信は禁物にゃんよ」

「わかってる、慎重な行動を心がけよう」

「そう願うにゃん」

 クレア少尉が戻らなかったらキャリーとベルが悲しむ。その事態は避けて欲しい。


 やや遠回りだったが平坦なコースのおかげで思ったよりも早く林道を横断する。この調子なら午前中の内に旧道に出られそうだ。

「にゃあ、王国軍はハリエット様の件で正式にプリンキピウム遺跡を調査しないにゃん?」

「誘拐事件の調査は近衛軍が行っている」

「近衛だとマッチポンプにならないにゃん?」

「ヤツらが組織的にハリエット様をどうこうすることはないはずだ。あいつらには複雑な計画を立てるほどの頭はない」

 なにげに酷い事を言ってる。



 ○プリンキピウム街道 旧道


 オレたちは何事も無く森を抜け旧道に出ることができた。

「ここまで来たら安心だろう」

「にゃあ、油断は禁物にゃん、でも追っ手はないみたいにゃん」

「油断などせず最速で王都に向かうから安心してくれ」

 まだ午前中なので、クレア少尉なら今日の内にかなり距離を稼げるはずだ。夜通し走りそうだし。

「世話になった、皆んな私のことは内密に頼むぞ」

「「「にゃあ、了解にゃん」」」

「どんなに急いでいてもアポリト州はダメだよ」

 リーリが注意する。

「わかってる、最速だが最短では走らないから安心してくれ」

 クレア少尉はこのまま真っ直ぐ大公国を目指すらしい。そうしてくれると助かる。アポリト州の人をグールとオーガにする仕掛けの謎は放置したままだから、いつ何があるかわからない。

「機会があったらまた会おう!」

 クレア少尉は軽く敬礼すると魔法馬を州都の方向に向けた。

「そうにゃんね、またにゃん!」

「バイバイ!」

「「「にゃあ!」」」

 オレたちは魔法馬で走り去るクレア少尉が見えなくなるまで手を振って見送った。


「にゃあ、王国軍がプリンキピウム遺跡にちょっかいを出し始めたにゃんね」

 クレア少尉の動きは王国軍の意思に従ってるはずだ。

「何でだろうね?」

 リーリは腕を組んでホバリングしながらあぐらをかく。

「資金に余裕が出来たからいろいろ始めたとは思えないにゃん、たぶんオレたちの知らない情報を持ってるにゃん」

 金は貸したとはいえ部外者の六歳児に機密をぽんぽんしゃべるようでも困る。

「お館様、王国軍はもともと諜報に特化した軍隊にゃん、諸侯軍を集めて作った対魔獣の部隊はその隠れ蓑にすぎないにゃん」

「にゃ、マジにゃん?」

「ウチらの業界では近衛軍より恐れられてるにゃん」

 ミアの言葉に嘘や誇張はない。

「だからクレア少尉の行動は王国軍では通常にゃん」

 ヨウが付け加える。

「にゃあ、それにしてはいきなり遺跡に飛び込むとか雑な仕事にゃん」

 クレア少尉なりの勝算があったのだろうが迂闊すぎる。

「お館様やウチらみたいな魔法使いじゃないとあの結界には気付かないにゃん、現に通常の結界は難なく超えてるにゃん」

 ホタルの言う通りでは有るが、通常の結界は魔法馬が勝手に解除したんじゃないかと。無謀なことには変わりないか。

「お館様がいなかったら死んでにゃん」

「そうにゃんね、キャリーとベルが心配してたのもわかるにゃん、クレア少尉も近衛軍のことは言えないにゃん」

「「「どっちも脳筋にゃん」」」

 同じ国の軍隊なだけはある。

「ところで王国軍の貧乏も偽装にゃん?」

 猫耳たちに訊いてみる。

「にゃあ、それは紛れもなく本当にゃん」

「「にゃあ」」

 猫耳たちは即座に返答した。

「二年前の改革は、貴族派の領主がわざと使えない人間を大量に送り込んで王国軍を骨抜きにしようとした一面も有るにゃん」

「お館様が現れるまでは上手く行ってたにゃん」

「上手く行き過ぎていたにゃん」

「にゃあ、だったら甘い汁を吸ってた連中にはオレも恨まれてるにゃんね」

「そこは小者過ぎてお館様の存在には気付いてないと思うにゃん」

「王国軍にしても六歳児にお金を借りた上に改革の手助けをして貰ったなんて堂々とは言えないはずにゃん」

「言っても誰も信じないにゃん」

「にゃあ、普通はそうなるにゃんね」

 我ながら現実離れした設定だ。


 オレたちは、プリンキピウム前衛拠点に向けて馬を森に向けた。


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