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獣の群れにゃん

 恐鳥はすべて地面に倒れ伏してる。

「にゃあ、一〇羽でも、かなりヤバかったにゃん」

 オレは額の汗を拭った。

 魔法馬の防御結界があるとはいえ、つい先日まで日本で新車を売っていた身としては迫りくる恐鳥の迫力に思わず尻尾がブワッと逆立ってしまった。

「普通は死んでるよ」

 キャリーが恐鳥の躯を見て肩をすくめた。

「一〇羽の群れは、王国軍でもかなりの数の犠牲者が出る事案なのです」

 ベルが教えてくれる。

「いまの王国軍は、練度も低いし武器もしょっぱいからね」

「盗賊と変わらないのです」

「それは厳しいにゃんね」

 倒れ伏した恐鳥をすべて格納した。

「普通はこれ一羽でも持って帰るのに苦労するんだよ」

「それ以前に命からがら逃げるので、一羽も持って帰れないのが普通なのです」

 オレも逃げるのが正解だと思う。

 直ぐに追い付かれそうだけど。

「にゃあ、これからどうするにゃん、もっと深く潜るにゃん?」

 スケジュール的には、もっと進んでも問題は無いはずだ。

「わざわざ移動しなくてもここに居るだけで入れ食いの予感なのです」

「続けて、ここで狩っちゃう?」

「オレは、どちらでも構わないにゃんよ」

 危険地帯だけあって大きな獣の気配は濃厚だ。

「移動するまでもなくもう次が来たのです」

 次のお客さんをいち早くベルが察知した。

「オオカミ?」

 キャリーは自信が無さそうに予想した。

「にゃあ、正解にゃん、これまたデカいにゃんね」

「この大きさは、銀色オオカミなのです!」

「うわ、大物すぎる!」

「しかも群れの数が尋常じゃないのです」

「にゃあ、五〇ちょっといるにゃんね」

 探査魔法で数を確認した。

「それってどうなの?」

 キャリーがベルに問い掛けた。獣の知識はベルが上らしい。

「銀色オオカミにしても五〇は多すぎるのです、この場合、特異種が群れを率いてる可能性を考慮する必要があるのです」

「特異種は大きな群れを作るにゃん?」

「そうなのです、通常の群れの数倍の数を率いることが可能なのです」

「特異種が率いた群れはマズいよね」

 キャリーも同意見だ。

「ロッジを出すにゃん」

「マコトは、また私たちをロッジに押し込む気?」

「それは駄目なのです」

「違うにゃん、オレたちはロッジの上から撃つにゃん」

 目の前にある大木を数本消して空いた土地にロッジを出す。

「マコトのロッジ、前と違ってる」

「魔獣の材料で強化したにゃん」

 ハシゴを出して先にキャリーとベルに屋根に登って貰う。

「にゃあ!」

 オレはキャット空中回転で屋根に飛び乗った。



 ○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯) ロッジ


 複数の足音が聞こえる。


「これが四足歩行の足音にゃんね」

「そうだよ、オオカミだけどこの大きさは参考にならないな」

「銀色オオカミは、滅多に出会う相手ではないのです」

「それに五〇なんて数はないよね」

「オオカミの群れが幾つかのグループに別れたみたいにゃん」

「恐鳥と違って統制が取れてるのです」

 五〇数頭のうち図抜けて大きいのが三頭いた。

「特異種が三頭いるっぽいにゃん」

「だったら、五〇以上の数も納得なのです」

「私たちを狙ってるには数が多いね」

「たぶんマコトの魔力に引き寄せられてるのです、獣は魔力の強い獲物を好むのです」

「オレにゃん?」

「それで強くて大きいのばかりが寄ってきていたのかな?」

「全然、気が付かなかったにゃん」

「私も確信したのはさっきなのです、マコトは小さいから獣たちには美味しい獲物に見えるのです」

「獣は強さを大きさで判断するらしいからね」

「確かに大きいのは強いにゃん」

 急に足音が小さくなった。

 オオカミの反応が幾つかの群れから更にバラけた。

「オオカミがロッジを囲んだにゃん」

「それでいて肉眼ではまったく見えないのです」

「隠れるの上手すぎだよ」

「そうにゃんね」

 試しに正面の大木に向けて一発撃ち込む。

 ドサッと一頭が倒れたが他のオオカミたちは全く動じない。

「見事な統制なのです」

「王国軍よりちゃんとしているよ」

 それは何とも。

「始めるのです」

 ベルが先陣を切って発砲した。

 オレたちの銃の前では、何処に隠れても無意味だ。次々に倒される。

「ベルに全部狩られる前に私も参加しないとね」

 キャリーも撃ち始めた。

 ジリジリ後退するオオカミたち。二〇頭以上倒されているのに逃げるわけでは無さそうだ。

「反撃のチャンスを狙ってるみたいだね」

「諦めが悪いのです、王国軍なら最初の一発で逃げているのです」

「撤退が遅れるよりはマシにゃん」

「モノは言い様だね」

「でも、オレは撤退も反撃は許さないにゃんよ」

 オレは近くの地面に弾丸を撃ち込んだ。

 バシッ!

 地面に青い火花が飛び散った。それが外側に波紋の様に拡がった。


『『『キャイン!』』』


 オオカミの悲鳴は犬みたいで可愛い。

 ドサッ!ドサッ!と距離を取っていた残りの大半のオオカミたちが倒れた。

「スゴい、なにいまの!?」

「銃の弾に電撃の魔法を載せたにゃん」

「一発でほとんどのオオカミが瞬殺なのです」

「にゃあ、雑魚を片付けただけにゃん」

「残りは特異種か」

「出てくるのです」

 三方向から同時にオオカミの特異種が出て来た。いずれも低い唸り声を響かせる。

「これは大きいね」

「大きいのです」

 仔牛どころの騒ぎじゃない普通の牛サイズだ。これはもうオオカミじゃなくて別の動物だろ。

「角が生えてるにゃん」

 三体の銀色オオカミの特異種は額から角を生やしていた。

 名前と同じく銀色の角だ。

 厨二心をくすぐる一角オオカミにゃん。

 剥製にして飾ったらカッコ良さそうだが、目が四つあるのでちょっと気色悪い。

「来るのです」

 三頭は一斉に突っ込んできた。手下を倒されて激怒していた。

 バチバチっと青い火花がスパークし角が防御結界に突き刺さった。

「にゃあああ! 結界に刺さったにゃん!」

「でも動けなくなったみたいだね」

「刺さったと言うより絡め取られたのです」

 角を抜こうと踏ん張るが地面を虚しく掻くだけだ。

「にゃあ! いまのうちにゃん!」

「そうだった」

「とどめを刺すのです」

 オレたちはそれぞれ対峙するオオカミの特異種に向けて発砲した。

 大きな火花が飛び、巨大な身体が突っ張って震え、そして力を失った。

 事切れた三頭の特異種を始めオオカミたちの躯を格納する。

「銀色オオカミの特異種が簡単に狩られたのです」

「うん、びっくりだよ」

「にゃあ、結界表面のにゅるっと絡め取る層をもっと厚くしないとダメにゃんね、刺さるとは思わなかったにゃん」

「いまでも十分に防御できてると思うけど」

「にゃあ、でも突き刺さったことに変わりはないから改良は必要にゃん」

「不断の努力が重要なのです、キャリーも見習うのです」

 ベルが銃を撃つ。離れた場所でクマが倒れた。

「もう次が来たにゃん」

「マコト、獲物の回収をお願いなのです」

「にゃあ、任せるにゃん!」

「次は私にやらせて」

 キャリーが銃を構えた。

「私も次は魔法を使うのです」

 ベルもヤル気だ。

 次の群れは異世界黒毛和牛ことクロウシだった。美味しそうとしか思えなくなっている自分の順応性の高さに我ながら驚く。

 精霊情報体の知識にキャリーとベルの存在が大きい。最初にふたりと知り合えたことがこちらに来ての最大の収穫だ。

「クロウシの群れも特異種が率いてるっぽいにゃんね」

「奥に居るのです、特異種は私が殺るのです」

 ベルが宣言した。

「じゃあ、私はその他を全部ね」

 キャリーは振り返らずに返事をした。

「始めるのです」

 ベルが魔法を使う。

 森の奥に赤い閃光が走り特異種の反応が消えた。ベルの魔法もなかなか強力だ。格納した魔法馬の魔力を流用したがしっかりとした魔法式を構築していた。


『『『モォォォォ!』』』


 群れを率いていた特異種が倒され、支配から解放された配下のウシたちが獲物を狩る本能のままに突進する。

「今度はあたしね、みんなは伏せてて」

 キャリーが銃を撃つ。

 弾をバラ撒くのでは無く、しっかりとウシの目と目の間を正確に撃ち抜き続ける。

「にゃあ、ふたりともやるにゃんね」

 オレは、次々と倒れる獲物の回収に専念する。キャリーとベル、今更ながらだがとんでもなく強い。

 クロウシ六〇頭ゲットにゃん。

 特異種も回収した。

「クロウシの特異種も目が四つあるにゃんね」

「特異種としては、良くある特徴なのです」

「にゃ!? オレも猫耳と尻尾があるから特異種かも知れないにゃん!」

「口が特異種じゃないのです」

「にゃあ、口にゃんね」

 耳まで裂けてサメのように尖った歯が並んでるあの口だ。笑ってる様に見えるが恐怖しか感じさせない。

「通常種に比べて倍以上の大きさが必要なのです」

「にゃあ、オレもそこまでは大きくないにゃん」

 どちらかというとかなり小さい。

「人間の特異種はグール(食人鬼)だよ、人殺しの盗賊の中にたまに出現するって言われてる」

「グールが実在するにゃんね」

「去年、王都外縁部に出現した個体を王国軍が討伐したのです、グールは街中に現れるから、犠牲者が獣の特異種とは比べ物にならない数が出るのです」

「グールは殺せる様に銃を調整しないとダメにゃんね」

「賢明なのです」

「次が来たよ」

「にゃあ、本当に入れ食いにゃん」


 もちろん来るものは拒まず、全部倒して格納した。


「今日はここまでだね」

 日が落ち始めていた。結局、ロッジの屋上で降りることなく時間になってしまった。

「そうにゃんね」

 オレの魔力の隠匿をロッジの防御結界に追加する。これで少し静かになるはずだ。

 屋根のハッチから室内に降りた。

 これはエレベーターに改造する必要ありだ。

 オレンジ色の木漏れ日が消えて森の中はあっという間に暗くなった。


「まずはお風呂にゃん」

 三人でチャプンとお湯に浸かる。

「明日もここで狩るにゃん?」

「私は問題ないのです」

「私はもっと馬に乗りたいかな」

「馬にゃんね、わかったにゃん、ベルもいいにゃん?」

「マコトのくれた魔法馬は快適なので問題ないのです」

「にゃあ、明日は移動しながら狩りで決まりにゃん」

「狩りというより獣の襲撃に遭ってるだけとも言えるのです」

「明日はオレの魔力を隠してもいいにゃんよ」

「ああ、その方が狩りっぽいね」

「こちらから探してこっそり近付くのが狩りの醍醐味なのです」

「いっぱい狩ったから言える余裕だけどね」


 お風呂の後は夕食を食べてオレたちは早々に横になった。

 キャリーとベルはベッドで、オレはリビングで木々の間から漏れる地球そっくりなオルビスの明かりを浴びながら寝る。


「にゃう?」

 何かでっかい影にゃん。

「恐竜にゃん!?」

 木々の向こうに見え隠れするその巨大なシルエットは、紛れも無く恐竜。

 首長竜だ。

「にゃ、魔獣じゃないにゃん?」

 認識阻害の結界を張り巡らせてるので例え魔獣でもわからないはず。

 狩ってもいいにゃんよね?



 ○プリンキピウムの森 南東エリア(危険地帯)


 オレはロッジを出て恐竜に近付いた。

 間近で見る恐竜は実に大きい。

 でもオレの知ってる首長竜と顔が違う。

 どう見ても肉食獣だ。

「魔獣じゃないにゃんね」

 幸い特異種でも無さそうだ。

 オレは認識阻害の結界を外した。


『ガァァァァァァ!』


 首長竜が牙を剥いた。

 オレを丸呑みできる大きさの口を開けて巨体とは思えない速度で捕食に来る。

「にゃお!」

 大口を開けた首長竜の頭を防御結界で受け止めた。

「にゃ?」

 魔力だ。

 首長竜の中に魔力を感じた。

「何にゃん!?」

 更に口が大きく開き結界を噛み砕こうとする。


『グォォォォォォォォッ!』


 口の中に大きな目玉が開いた。

「にゃお! 特異種になったにゃん!」

 口の中の真っ赤で大きなな瞳が輝きオレを凝視する。

 精神錯乱系の魔法?

「にゃあ、残念にゃんね、オレには効かないにゃん!」

 結界を円錐状に変化させる。

 首長竜の口の中の目を突き刺しそのまま貫通させた。

 口の中の目玉が急所だったみたいだ。

 轟音を立てて横臥する。

 格納して仕留めたばかりの恐竜を検分する。

 特異種が途中から正体を現したのか、それとも本当に途中から特異種になったのか判断が付かない。

「エーテル器官は魔獣ほど大きくないし強力でもないにゃんね」

 白い直径二センチ程度の丸い石だ。

「人間にあるエーテル器官に近いにゃん」

 肉は普通に食べられそうだ。

「にゃあ、この大きさではプリンキピウムのギルドじゃ無理にゃんね」

 今夜はもう寝るにゃん。

 オレはロッジへと戻った。


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