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報酬受取りにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇八月一〇日


 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 地下 酒の貯蔵庫


「朝にゃんよ、起きるにゃん」

 ブラッドフィールド傭兵団の団長ユウカ・ブラッドフィールドは、地下のバーのソファーで一升瓶を抱えて寝ていた。最終的に日本酒を飲んで撃沈したらしい。

「えっ、もう朝か?」

 酒の匂いをプンプンさせながらむっくりと上半身を起こす。

「酒を抜くにゃん」

「あぅ、勿体ないけど頼む」

 ウォッシュの魔法も掛けて酒も何もかもさっぱりさせてやった。

「カズキに挨拶して帰るか」

「オレも城に行くにゃん、その前に朝飯はどうにゃん?」

「おお、いいね、メニューは?」

「リクエストしてくれればだいたい対応できるにゃんよ」

「小倉トーストのモーニングも?」

「大丈夫にゃん」

「ああ、もう、引退してここに住んじゃおうかな」

「オレは構わないけど、ユウカなら直ぐに退屈するにゃん」

「たぶん正解だわ、それ」


 レストランじゃなくてバーのカウンターで、ふたりでアンコたっぷりのトーストを食べた。

「これ、美味しい」

 ユウカはしみじみと呟いた。

「美味しいね」

「本当、美味しい」

「「おいしい」」

 後からやって来たリーリとフリーダとビッキーとチャスにも小倉トーストのモーニングを出す。

「領主様は作ってないにゃん?」

 フリーダに訊いた。

「いいえ、私もこれは初めて」

 カズキだったら再現してるかと思ったが、手を付けてなかったらしい。


 朝食の後はいよいよ領主様のお城に出発だ。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 車寄せ


 車寄せには馬車にトレーラーを二台連結したモノを全部で一〇台用意した。

 御者台にはそれぞれ猫耳ゴーレムがふたりずつ乗っている。

 そして荷台には例の棺桶みたいな箱を満載。

「マコト、この箱に金を入れるのか?」

 ユウカが馬車を眺める。

「にゃあ、詰めるのはもっと安いものにゃん」

「ああ、何かわかった気がする」

 オレは正解を口にする気はない。

「出発するにゃん」

「行ってらっしゃいませ」

「「いってきます!」」

 支配人を始め従業員たちに見送られオレとユウカとフリーダはそれぞれ馬を出す。

 ビッキーとチャスはオレの後ろでリーリは頭の上だ。

 その後をトレーラーを連結した馬車隊が続く。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 専用道


 地下の車寄せから緩いスロープを昇って地上に出るとそのまま正門を抜けて、城に続く真新しい専用道に入った。

 オレたちは三頭横並びで馬を歩かせる。

「盗賊は既に左右に展開してるみたい」

 フリーダが顔を動かさずに目配せする。

「マコト、ヤツらをただの盗賊と侮らないほうがいいぞ」

 ユウカは表情を変えずに声を低くする。

「にゃあ、二〇〇人を超える人間を指揮してるなら、そこらの盗賊より優秀にゃん、そう言えばヤツらの名前を聞いてなかったにゃん」

「首領がアール・ブルーマー男爵、二八歳、三代前が功績を上げて盗賊から騎士に衣替えした家系だ。先代で男爵に授爵してる。領地は持たない王都の法衣貴族だ」

「本当に先祖返りしたにゃんね」

「厳密には最初から盗賊のままだ。ここ数年、困窮して副業に精を出しているらしい」

「ネコちゃん、今頃そんなことを聞いて大丈夫なの?」

 フリーダは真面目に心配してくれてる。

「お父様に頼んで騎士団を出してもいいのよ、本来だったらそうするべきなのに」

「にゃあ、問題ないにゃん」

「お父様もそう仰っていたけど」

「ヤツらが誰であろうとオレには関係ないにゃん、すでに二四一人全員のマーキングは終えてるにゃん」

「まーきんぐ!」

「おえてる!」

 ビッキーとチャスもしっかりマーキングしていた。いつの間にそんなことまでできるようになったやら。

「もしかして箱の数も?」

 フリーダは後続の馬車隊を見る。

「ピッタリ二四一個あるにゃん」

「マコト、ヤツらを捕まえたらどうするつもりだ、売るのか? 貴族を犯罪奴隷にするのはいろいろ厄介だぞ」

 ユウカはその道のプロだけあっていろいろ詳しいようだ。

「売らないにゃん、ヤツらは全員ここで消息を断つにゃん」

「殺すのか? 私もそれがオススメだ」

「そうなのネコちゃん?」

「にゃあ、少なくとも跡形もなく消えるにゃん」

「何をするにしてもバレない様にしろ」

「無論そのつもりにゃん」



 ○州都オパルス オパルス城 保管庫


 城に到着するとフリーダに案内されて金の地金の置いてある保管庫へ向かう。

 途中、ユウカはカズキに話があるらしく執務室へ。ユウカとはここでお別れだ。

「マコト、気を付けて」

「にゃあ、またそのうちにゃん」

「そうだな」

 ユウカとは念話のチャンネルを開いたのでいつでも話し合いは可能だ。


 防御結界で厳重に守られた保管庫に積み上げられてる木箱に金のプレートが収められていた。

「手数料は昨日の内に分けたから、ここにあるのは全部ネコちゃんのものよ」

 ざっとスキャンしたが問題なく入っている。

「にゃあ、了解にゃん」

 全部を分解して格納空間に仕舞った。

「アレだけのモノを一瞬で全部仕舞っちゃうんだ、相変わらずスゴいね」

 木箱の消えた床に一枚の紙切れが落ちる。

「あれは何かしら?」

「紙で作った追跡の簡易刻印にゃんね」

 引き寄せた紙片には魔法式が書かれていた。市販の御札程度の出力しかないから城に運び込まれた時点で追跡はロストしていたと思われる。

「いったい、いつの間に!?」

「王都の冒険者ギルドから州都の冒険者の間はユウカたちが運んだから、小細工は効かなかったはずにゃん」

「たぶんあっちの冒険者ギルドでしょうね」

「たぶんそうにゃん」

 オレは簡易刻印に火を点けて空中で消し去った。


「オレたちはホテルに戻るにゃん」

 保管庫の前で待っていたビッキーとチャスと合流する。

「わかったわ、くれぐれも無理はしないで」

「にゃあ、わかってるにゃん、逃げ足の速さなら誰にも負けないにゃん」

「全員、飛んで逃げられるもんね」

「マコトさまは、わたしがまもります」

「わたしも」

 ビッキーとチャスが力強く宣言した。

「にゃあ、期待してるにゃん」


 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 専用道


 オレたちは魔法馬に乗り馬車隊を先導する。

 一〇台の馬車を率いてオレたちは城を出てホテルに向かって出発した。


 専用道をホテルに向かって進む。ホテルは昼間でも青く輝いて見えた。聖魔石の色をたたえたガラスのピラミッドは非常に美しい。

 せっかくの風景も両側の林がザワザワしていて興ざめする。

「そろそろにゃん?」

「うん、来てるね」

「「いっぱいいます」」

 ヤツらは隠遁の魔法を使ってるのですっかり油断しているみたいだ。オレたちが気付いてると思ってないのだろうか?

 もうちょっとでヤツらが道路に仕掛けた刻印に差し掛かる。それは簡易結界ではなくかなり危険な代物だった。

 結界は、城に向かう途中に発見したのでその場で書き換えた。

 刻印の小細工にもヤツらは気付ていない。この程度ならイジらなくてもビッキーとチャスの防御結界だけでも十分だ。

「にゃあ、今度は刻印を発動させるみたいにゃん」

 刻印を守る不可視の小細工もオレたちには効かない。

 盗賊の仕掛けた刻印にオレの馬が乗った。


 バリバリッ!と雷鳴の様な音とともに青い光が林の一角に落ち隠遁の魔法が消えた。


 森に潜んでいた魔法使いが路上の刻印を仕掛けた術者だった。盗賊どもを隠す隠遁の魔法もまかなっていたみたいだ。

 魔法使いはオレの書き換えた刻印を何の疑いもなく発動させ、電撃返しを浴びせられて無力化された。

「しくじったのか、ったく、使えねえな」

 林からそこそこ高そうな魔法馬に乗った着崩しているが身なりのいい男が出て来た。

 銃を肩に担いでる。

 すでにマーキング済のアール・ブルーマー男爵だ。汚くはないがヒゲもじゃなので聞いた年齢より老けて見える。

 イメージ的には大公国のクルスタロスのクマみたいな元領主ディエゴ・バンデラスを一回り小さくした感じだ。

 男爵本人が先陣を切って出てくるとは思わなかったが、そこは盗賊の頭だからか?

 男爵に続いてその手下どもがぞろぞろ出て来てオレと馬車を囲む。こちらも普通の盗賊より身奇麗だ。

 流石に『いかにも盗賊です』といった格好のヤツらが二〇〇人以上も州都内、しかも城の近くにたむろしていたらカズキも動かざるを得なかっただろう。

「蜂の巣になりたくなかったら動くなよ」

 男爵は魔法を警戒しつつオレに命令する。

 盗賊たちは銃をいつでも撃てる体勢だ。

「オレに何か用にゃん?」

 ブルーマー男爵に問いかける。

「俺が用があるのは、おまえじゃなくてそっちの馬車の荷物だ」

「まだ空にゃんよ」

「誰がそんなことを信じる? おとなしくしてれば殺しはしない、おまえたちみたいな可愛い子は高く売れるしな」

「これでも一応、オレは騎士にゃんよ、ビッキーとチャスは従者にゃん」

「なに、裏では貴族でも何でもござれのマーケットが有る」

「だったら、男爵も売れるにゃんね?」

「俺のことを知ってるらしいな? それでいて十分な備えがないとは魔法が使えてもしょせんは子供ってことか」

「違いねぇ」

 ゲラゲラ笑う盗賊ども。

「オレが子供なのは間違いないにゃん」

 もう何度も調べたが大人になる方法は見付からないでいた。

「ちなみに俺様レベルだとそれなりに積まないと買えないぜ」

 なにげに自慢が入った。

「だったら今回は大儲けにゃんね」

「多少は魔法を使える程度でいい気になるなよ、上には上がいるってことを俺が教えてやる」

 男爵は担いでた銃の銃口を天に向けて撃った。

 刻印が上空に刻まれる。

 魔力を封じる刻印だ。男爵自体が魔法使いというわけではなかった。

「どうだ?」

 ニヤリと口元を歪めるブルーマー男爵。

「悪くない魔法陣にゃん、でもこの魔法は男爵よりも格下の相手にしか効かないにゃんよ」

「そんなハッタリを誰が信じるって?」

 ブルーマー男爵は余裕の笑みだ。

「「でんげき!」」

 ビッキーとチャスが電撃で空中の刻印を壊した。

 同時に盗賊にはオレが電撃を放った。

「なっ!?」

 笑みを浮かべていたはずのブルーマー男爵は、魔法馬を消されて地面に落ちて周囲を見回す。笑顔から驚愕の表情に早替りだ。

「「「……っ!?」」」

 オレを囲んでいた盗賊ども全員から装備を奪って素っ裸にした。男爵以外はそのまま意識も刈り取られてその場にバタバタと倒れ伏す。

 もちろんブルーマー男爵も全裸だ。

「な、何だこれは!?」

 よろよろと立ち上がった。

「二四〇人は気絶したにゃん」

「俺様以外、全部ってことか?」

「そうにゃん、ご覧のとおりにゃん」

 男爵は卑下た笑みを浮かべた。

「ま、待ってくれ、これは誤解なんだ。ちょっとした悪ふざけだ。それに俺は男爵だ。危害を加えると厄介なことになるぞ!」

 男爵はさっきまでの余裕を喪ってかなり焦っている。

「残念ながらアール・ブルーマー男爵は、今日を境にこの世から消えるから問題ないにゃん」

 今度はオレが笑みを浮かべた。

「おい、マジかよ!?」

「マジだよ!」

 リーリがウインクする。

「ひっ!」

 ブルーマー男爵は後ずさりして逃げようとするが身体が上手く動かない。オレは何もしてないが、ビッキーとチャスが男爵の周囲を結界で囲っていた。

「もう手後れにゃん」

「ひっ!」

 男爵の意識も狩り取った。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 車寄せ


 昼過ぎにオレと一〇台の馬車はホテルに戻ってきた。

「お帰りなさいませ」

「ただいまにゃん」

 オレたちは出迎えてくれた支配人のアゼルのいる地下の車寄せで馬を降りる。

「にゃあ、後は頼むにゃん」

『『『ニャア』』』

 猫耳ゴーレムたちが御者を務めるトレーラーにも箱を満載した一〇台の馬車はそのまま倉庫に向かう。

 実際には制限エリアの地下施設だけどな。

「皆様、ご無事で何よりです」

「特に問題は無かったにゃん」

「では、直ぐにお食事の用意をさせますのでこちらへ」

「にゃあ」

「おなかペコペコだよ」

「「ぺこぺこ」」

 オレたちは支配人に先導されてレストランに向かった。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ラウンジ


 クリステルとその取り巻きの奥様たちが、ラウンジで食後のお茶を楽しんでいる。

 給仕するイケメンを鑑賞しつつ音楽を聞きつつおしゃべり。

 ここに口うるさいお母さんがいたらどれか一つにしなさいと怒られるレベルだ。

 なお、お付のメイドさんたちは全員イケメン鑑賞だ。

「お帰りなさいネコちゃんたち」

「ただいま帰ったにゃん」

「ただいま!」

 リーリはオレの頭の上で手を振り、ビッキーとチャスはペコリとお辞儀をした。

「ネコちゃんに頼まれたプレオープンにお呼びするゲストの方たちに先ほど招待状をお送りしたわ、早ければ明日にでも何組かいらっしゃるんじゃないかしら」

「にゃあ、ご協力感謝にゃん」

「皆さんネコちゃんのホテルには興味津々の様子だから、直ぐに押し掛けて来るわよ」

 美容に関してスゴい勢いで噂が広がってるようだ。

「受け入れ体制は出来ているので問題ないにゃん」

 優秀な支配人に五〇人の従業員を雇い入れできたのは大きい。

「普通にオープンしても良かったんじゃない?」

「それは無理にゃん、人間には慣れが必要にゃん」

「十分に慣れてる様にみえるけど」

 クリステルはイアンを見る。

「いいえ、私などまだまだです、奥様」

 イアンの笑みをうっとりとした表情で見詰める奥様+メイドさんたち。

 世界が変わってもイケメンの需要は高いみたいだ。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル レストラン


 支配人に給仕されてオレたちはレストランで昼食を取る。

「昼間からステーキとは贅沢な気分に浸れるにゃん」

「マコト様でもそうなのですか?」

 支配人がソースで汚れた口元を拭いてくれる。

「オレの故郷ではそうだったにゃん」

 牛は牛でも牛丼を食べていた。カズキが見事に再現してくれたのはコピーしたので、またいつでも食べ放題だ。

「午後からピラミッドをもう一つ作るにゃん」

「今度は何が入るのですか?」

「私設の守備隊を作るにゃん」

「盗賊を使うのですか? それはオススメしかねますが」

 支配人が声を潜める。

「違うにゃん、あんな小汚いおっさんどもは使わないにゃんよ、別の人間にゃん」

「別の人間ですか?」

「詳しくは見てのお楽しみにゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 第三ピラミッド


 昼食の後、オレは外に出てホテルの後ろに第三ピラミッドを作る。ホテルよりは小さく従業員寮よりは大きい。

 内部は、制限エリアの地下施設に近いかも。拠点防衛のための地上施設といった感じだ。いまのところ有事の際には手足が生えて魔獣と戦う的なギミックはない。

 ビームぐらいは撃つかもしれないけど。

 これでホテルの敷地内に青く輝くピラミッドが全部で三つになった。

「準備はOKにゃん」

「そうだね」

 オレはリーリを頭に乗せたまま新しいピラミッドの地下に降りた。ビッキーとチャスはオレたちには同行せずにまたお馬の練習だ。いまもピラミッドの間をとんでもない速度で駆け回ってた。子供は飲み込みが早いにゃん。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 制限エリア 地下施設


 出来たてのピラミッドの地下からさらに深く下りて、制限エリアに作られた青いガラスの壁の倉庫にたどりつく。

 そこには盗賊たちを入れた箱が並べてある。


「そろそろ良さそうにゃんね」

「いいんじゃない?」

 リーリも同意した。


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