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従業員もゲットにゃん

 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル レストラン


 お昼ごはんにはビッキーとチャスを呼び戻して墜落防止の魔導具をそれぞれの格納空間に放り込んだ。

「にゃあ、気を付けて飛ぶにゃんよ」

「「はい」」

 ビッキーとチャスはこの世界でも屈指の移動能力を持つ五歳児になった。

 リーリは、午前中ビュッフェに入り浸ってたのにレストランで普通にお昼ごはんのカレーを食べてる。

 いつものことか。

「「チーズ!」」

 ビッキーとチャスは大好物のチーズ入りナンにご満悦だ。

 チーズは地下農場では作らずプリンキピウムの寄宿学校のものを購入している。

「美味しいにゃん」

 にゅるーっと溶けたチーズが伸びるのがたまらなかった。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ロビー


 昼過ぎ、支配人に呼ばれてロビーに行くとちょっとした団体さんが来ていた。結界に入り込んだ感触から大体の素性は割れている。

 オレが先日捕まえたブラッドフィールド傭兵団の団員が五〇人。

 それと銀色の長い髪に詰め襟の上着、それにかなりきわどいミニスカート、そしてマントとフリーダ系の衣装の美人が一人。

 魔力の大きさからしてブラッドフィールド傭兵団の団長だろう。

 領主様とほぼ同等の力を持っている人間が他にもゴロゴロいたらたまらない。

「私はユウカ・ブラッドフィールドだ、カズキから私のことはある程度の情報が行ってると思う」

 かなりの美人だがファーストネーム以外に日本人の面影は残ってない。

 年の頃二〇代前半の様だが実年齢を聞くのは地雷か。

「にゃあ、オレがマコト・アマノにゃん」

「あたしはリーリだよ」

 続けてビッキーとチャスも挨拶した。

「マコトほどではないが妖精さんも珍しいね、それにおチビちゃんたちはそろって精霊術師か」

「リーリよりもオレのほうが珍しいにゃん?」

「ああ、妖精は三人目だが稀人は初めてだ。なるほど伝承どおりの姿に洒落にならない力か、マジでヤバいね」

「にゃあ、まだこっちに来たばかりだから無作法は許して欲しいにゃん」

「いや、こちらこそ失礼した。このバカどものせいでマコトと敵対していたらと思うとゾッとする」

「にゃあ、心配しなくてもオレは温厚にゃん」

「今後、私とブラッドフィールド傭兵団は、マコトと敵対しないことを誓う」

「にゃあ、オレも誓うにゃん」

「あたしもね!」

「「わたしも」」

「助かる」

 ユウカはため息をついた。

「マコトに頼みがある、こいつらの面倒を見てやってくれないか?」

「「「お願いします!」」」

 五〇人が頭を下げる。

「にゃあ、ホテルで働くにゃん?」

「そうだ、マコトに箱詰めされておまえの強さに心酔した様だ。それにウチには置いておけない事情が出来た」

「事情?」

「クライアントに賠償を求める為に、こいつらを追放したことにする」

「直ぐにバレないにゃん?」

「なに、どことも平等に付き合うのが私の流儀だ。新興勢力のマコトに擦り寄ったところで不思議には思われまい」

「わかったにゃん」

 アゼルの弟のイアンもいた。

 こうしてみるとイケメンそろいだ。

 ブラッドフィールド傭兵団の選考基準の一つはオレにも良くわかった。

「支配人のツテと言うのはこいつらのことにゃん?」

「左様でございます」

「わかったにゃん、引き受けるにゃん」

「ありがとう、おまえらもお礼を言え」

「「「ありがとうございます!」」」

 ロビーに男どもの声が響いた。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ラウンジ


 いつまでも立ち話は何なので、ユウカはラウンジに案内する。五〇人の男たちは従業員寮で着替えさせ後のことは支配人に任せた。

 ビッキーとチャスはまた魔法馬に乗りに出かけ、リーリもどこかに飛び去ったのでオレとユウカだけがラウンジに残った。

「マコトのホテルはスゴいな、前世でエジプトの大ピラミッドを見たことがあったが、これほどの大きさは無かったぞ」

「にゃあ、本物を見たことがあるとはスゴいにゃん」

「両親が旅行好きで、そのおかげだよ」

「いいご両親にゃんね」

「私は親不孝者だけどな」

「にゃあ、それは仕方ないにゃん、ユウカも交通事故にゃん?」

「私は、大学四年の時に以前付き合っていた男に刺された」

 なかなか派手な最期を遂げたようだが、スプラッタ度はオレが上かな。

「するとユウカは年齢がほとんど変わらずにこっちに来たにゃん?」

「ああ、気が付いたら森の中にいた。幸い魔法は使えたから何とか生き延びることが出来たが以前とは全く違う姿格好に気付いたのは数日経ってからだ」

「魔法は精霊情報体にゃん?」

「そうだ、マコトは全部手に入れたらしいね、私は戦闘系の魔法が中心で生産系はあまり得意じゃない」

「にゃあ、精霊情報体の知識がこの世界の全てじゃないにゃんよ。一万年の時間の開きは大きいにゃん」

「確かにそれはわかる。オリエーンス神聖帝国はほとんど別の世界だ」

「そうにゃんね、まだオリエーンス連邦が近いけど、それでも隔たりが大きいにゃん」

「カズキの話ではマコトは私よりも知識を得たそうだが、例えばオリエーンス神聖帝国がなぜ滅亡したかわかるか?」

「にゃあ、残念ながら精霊情報体にオリエーンス神聖帝国の滅亡の理由は記録されてないにゃん。オリエーンス連邦の記録にもないにゃんね」

「戦争で自滅したのとは違うのか?」

「にゃあ、それを示す記録もないにゃん」

「何も記録する間もなく文明が崩壊したと言うわけか」

「たぶんそうにゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル レストラン


 ユウカは昼食がまだらしいのでレストランに案内した。

「このゴーレムもスゴいな、戦闘ゴーレムか?」

「にゃあ、でもオレのゴーレムは人を殺さないにゃん」

「すると軍用というわけではないのか?」

「違うにゃん、こっちには軍用ゴーレムってのがあるにゃん?」

「現存もしてないし資料もないが、存在しないはずがないというのが研究者の一致した意見だ」

「軍事情報は精霊情報体にもほとんど含まれてなかったにゃん」

 その代わり現物を手に入れれば解析して量産することは可能だけどな。

「発見されていても表に出てくることなく隠されていることだろう」

「にゃあ、物騒なものはない方が世のためにゃんよ」

「言えてる」

 戦争をする暇があるなら魔獣を狩れと言いたい。


 給仕の猫耳ゴーレムが料理の乗ったワゴンを押して来た。

「これだよ! これ! 私が食べたかったのは! イタメシっぽいところとか最高!」

 ユウカはホテルの料理を喜んでくれた。

「領主様のところの方が元の世界の食べ物に近いにゃんよ」

「ああ、牛丼とかラーメンか? 悪いけどテンションは上がらないな」

 元が女子大生だとそんなものかな?

「こっちの料理って、手間ひまかけてマズくするところが有るからな、なんたって私レベルで天才料理人て呼ばれるんだぞ」

「ユウカの腕前はどれぐらいにゃん?」

「市販のルーでカレーが作れるぐらい」

「それで天才にゃん?」

「マコトならいますぐに王宮の料理長を任されるレベルだ」

「うれしいような悲しいような複雑な気分にゃん」

「マコトが酒を作ってると言う情報を小耳に挟んだのだが、ワインはないのか?」

「あるにゃんよ、赤、白、ロゼ、スパークリングに貴腐ワイン、思い付くままに作ったにゃん」

 自分じゃ飲めないけどな。

「赤のフルボディが有ったらお願いしたい」

「にゃあ、あるにゃんよ」

 実際には赤ワインみたいな酒だけど。

 地下のワインセラーから猫耳ゴーレムに持って来させた。

「色も香りもいい、味はどうだ?」

 ワインを口に含む。

「これは、素晴らしい! ああ、正に本物だ!」

 実際には違うんだけど。

「マコト、このワインを売ってくれ、いや、他の酒もまとめて買おう!」

「後でワインセラーに案内するから好きなだけ持って行くといいにゃん」

「このチーズも素晴らしい!」

「チーズも持って行っていいにゃん、うちの子たちが丹精込めて作ってるにゃん」

「ありがとうマコト!」


 食事が終わったところでユウカは改まって話を始めた。

「ここから本題だ」

「にゃあ、今日はあの五〇人の引率じゃないにゃん?」

「アレはついでだ」

「他に何か有ったにゃん?」

「魔石の代金の引き渡しだ。冒険者ギルドの依頼で私が運んで来た」

「にゃあ、いまくれるにゃん?」

「いや、明日になったら領主の城で行う」

「わかったにゃん」

「一応、このホテルの周囲と城までの道にもうちの連中を張りつけておいた」

「盗賊でも出るにゃん?」

「私が掴んだ情報では盗賊を装った貴族だ」

「貴族も来るにゃん?」

「盗賊上がりの貧乏貴族が先祖返りしたらしい」

「襲撃情報も筒抜けにゃん?」

「情報の収集も我々の大きな収入源だ。それでどうする? お安くしておくぞ」

「にゃあ、商売に来てるにゃん」

「当たり前だ」

「わかったにゃん、情報料は払うにゃん、撃退はオレがやるにゃん」

「だったら情報料は酒でいいぞ」

「にゃあ、契約成立にゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 地下 酒の貯蔵庫


 夕方まで襲撃計画の詳細を聞き、その後、地下にある酒の貯蔵庫に案内した。

「どれも適度に熟成済みにゃん」

「樽もあるのか」

「にゃあ、それなりの量を仕込んであるにゃん」

「全部欲しい」

「いいけど持って帰れるにゃん?」

「全部は無理だ」

「にゃあ、だったら持てるだけ持って、後は好きな時に飲みにくればいいにゃん」

「そうする」

「ここの扉を開けるとバーが有るにゃん、大人の隠れ家にゃん」

 カウンターの中には猫耳ゴーレムのバーテンダーがいる。

「朝まで飲んでいいか?」

「好きにするにゃん、部屋は用意してあるから、近くの猫耳ゴーレムに言ってくれれば案内するにゃん」

「わかった」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 最上階


 ユウカを貯蔵庫のバーに置いて部屋に戻ったオレは明日の対策を練り始めた。いよいよ本格的な対人戦闘だ。

『ニャア』

 猫耳ゴーレムが意見をくれる。

「そうにゃんね、ただ犯罪奴隷で売っぱらうのは問題があるにゃんね」

 悪いことをしたやつに同情するつもりはないが、遺跡の発掘で使い潰すとか正直どうよと思う。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ロビー


 夜になって、フリーダがやって来た。

「ネコちゃん、魔石の代金を明日お城でお金を渡すわね」

「一度にくれるにゃん?」

「ええ、今日のうちに確認したから明日は直ぐに引き渡せるわ、今回も金の地金だけど数が多いから重いわよ」

「にゃあ、わかってるにゃん」

「じゃあ、明日一緒にお城に行きましょう」

「ありがとうにゃん」


 デニスは今日、プリンキピウムに帰ったそうで、フリーダに伝言を託してくれた。

『一足先に帰るわね、またあちらで会いましょう』とのことだった。

 帰りは普通に街道を通るらしいから問題はないだろう。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル レストラン


 夕食はフリーダと一緒にレストランで取った。

 リーリは従業員食堂のビュッフェが気に入ったらしく入り浸っているし、魔法馬で走り回ってお疲れのビッキーとチャスも早めにそっちに行っていまはベッドの中だ。

 貴族の奥様方はクリステルの部屋に集まっていて夕食会が開かれている。お酒も入った優雅なひとときを過ごして欲しいにゃん。

「金の地金はいまお城にあるにゃん?」

 フリーダに問いかける。

「そうよ、城の保管庫だから魔獣に襲撃されても破られることはないわ」

「それは安心にゃん」

「このまま預けたままにしてもいいのよ」

「領主様に迷惑は掛けられないにゃん、それにオレのホテルの金庫室も簡単には入れないにゃんよ」

「ネコちゃんのホテルも鉄壁か、んっ、これ熱いけど美味しい」

「にゃあ、ハムとチーズたっぷりのピザにゃん」

「ピザって言うの?」

「昔は食べられていたにゃん、でもいまは廃れたみたいにゃんね」

 日本人に馴染みの深いメニューが二つの情報体にはどっさり入っていた。だが、付けられていた名前が似ても似つかないモノだったので、最近までほとんど気付かなかった。

 実際に内容を確認して、おまえはピザだったのか!?ってひとり絶叫した。

 これらは過去の転生者が伝えたのだろうか? それにしては名前が全然違ってるし、謎は尽きないにゃん。

「ネコちゃん、ホテルはいつ頃オープンするの?」

「にゃあ、そのことについて領主様夫妻にお願いがあるにゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 従業員寮 ミーティングルーム


 夕食の後、フリーダは自分の母親とその友人たちに挨拶に行き、オレは従業員寮に向かった。

「にゃあ」

 ミーティングルームに今日雇い入れた五〇人が集まっていた。全員が席から立ち上がって一礼する。

「皆んな制服が似合っているにゃんね」

「ありがとうございます、施設の見学と大まかな仕事の流れを伝えました」

 支配人のアゼルが報告してくれる。

「オレから仕事に付いて必要な知識をやるにゃん」

 着席を促し、目を閉じさせる。

「にゃあ!」

 必要な情報を直接エーテル器官に流し込む。

「「「えっ! えええっ!?」」」

 混乱する五〇人。

「落ち着くにゃん、知識を分けてやっただけにゃん」

 オレの言葉に落ち着きを取り戻す。

「明日からは支配人の言うことを聞いて働くにゃんよ」

「「「かしこまりました!」」」

 元気がいいにゃんね。

 支配人のアゼルが手を上げた。

「マコト様、明日のことなのですが、我々に警護させていただけないでしょうか?」

「にゃあ、オレだったら大丈夫にゃん」

「ですが、ヤツらの集めた盗賊は二〇〇人を超える様です、現地での協力者を合わせれば更に五〇から一〇〇が加わる可能性が有ります」

「大丈夫にゃん、ユウカからも詳しい情報は貰ってるにゃん。明日になったら盗賊上がりの貴族を含めてヤツらは全員姿を消すにゃん」

「全員ですか?」

「にゃあ、全員にゃん、だから心配は要らないにゃん」

「かしこまりました」

「にゃあ、ホテルは一週間後にグランドオープンさせるにゃん、それに備えて明日からプレオープンと銘打って試験宿泊の数を増やすにゃん」

「プレオープンですね、お客様はどうされます?」

「領主夫妻に適当に見繕ってくれるようにお願いしたにゃん」

「承知いたしました」

「それとイアン」

「はい」

 アゼルの弟のイアンがビシっと気を付けする。

「イアンを副支配人に任命するにゃん、アゼルと協力してホテルを盛り上げて欲しいにゃん」

「謹んでお受けいたします」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 最上階


 明日からの大雑把な指示をして後は支配人のアゼルに任せて、オレは自分の部屋に引っ込んだ。


 一足先にリーリも部屋に戻っていた。

「おなかいっぱいだよ」

「にゃあ、それは良かったにゃん」

「マコトのホテル、見張られてるね」

「にゃあ、いるにゃんね」

 襲撃前夜ということで、ホテルの裏手の塀の向こうに一〇人ほど潜んでいた。

 今回は、アゼルの時のように結界に触れても張り付く事はない。

 単に中に入れないだけにしてある。

 残りは森の中で待機してる。数もユウカの情報どおりだ。

 こいつらはグールの大量発生が起こる前にオパルスに入り準備を進めていたようだ。

 明日、一気に金塊を奪取して州都の守備隊を蹴散らしフリーパス状態のケラス方面に逃げるつもりらしい。

 魔法馬も森の中のを含めると二〇〇頭以上いる。

 盗賊に先祖返りするほど金がないならまずはその魔法馬を売れと言いたい。

「過度に見栄を張ると後で大変なことになるにゃんよ」

 明かりを点けずに野営してる盗賊たちに向かって呟いた。


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