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支配人をゲットにゃん

 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 最上階


 州都の夕方の風景を見ながらオレたちはまたジャグジーでブクブクしてる。

「にゃあ、最高にゃん」

「うん、同感だよ」

「「さいこう」」

 身体が六歳児故にビールどころか、ノンアルコールビールも苦くて飲めないので、皆んなで甘いジュースのグラスを傾ける。

「にゃ?」

「誰か来たみたいだね」

「「きてます」」

 ビッキーとチャスの探査魔法にも引っ掛かった。

「にゃお」

 侵入者有り、防御結界の第一層を破って塀に取り付いたところで、電撃&身ぐるみ剥ぎ取りして制圧した。

「にゃあ、それでも意識を刈り取れてないにゃん」

 それと拡張空間に銃と魔法馬が入ってる。

「人間にしては優秀な部類だね」

「にゃあ、その分、面倒くさそうにゃん」

 防御結界を第一層とは言え破ったヤツを放置するわけにも行かずオレはジャグジーを出て、現場に向かった。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 塀


 三〇歳ぐらいの全裸のイケメンが塀に張り付いている。短く刈り込んだ金髪と鍛え抜かれたまるでギリシャ彫刻のような肉体。盗賊や獣と違ってこの状況でも落ち着き払っていた。

「にゃあ、オレのホテルに何か用にゃん?」

「なるほど、キミがここのオーナーか?」

 全裸でも絵になるのは落ち着いてるからだろうか?

 それだけ危険なのは間違いない。その辺りのこそ泥とは格が違ってるようだ。

「オレに用事にゃん?」

「そうだ、どうしてもキミがどんな人物か知りたくてね、団長には反対されたが弟を一撃で無力化したその力を知りたくてね」

「団長にゃん?」

『団長』とか『一撃で無力化』?

 騎士団とはやりあったのは大公国の旧クルスタロス州ぐらいだが、あれは根こそぎ犯罪奴隷だし。団と付いて他に思い当たるのはブラッドフィールド傭兵団か。

「もしかしてブラッドフィールド傭兵団の人にゃん?」

「正解だ」

「にゃあ、悪いけどオレとしても仲間を危険に晒すわけにはいかなかったから、あの場合は仕方なかったにゃんよ」

「確かに弟たちが殺されても文句は言えない状況だ、キミの対応に問題ない。誤解してもらっては困るが私はキミに危害を加えるつもりはない」

「するとオレの捕まえた団員の兄貴にゃん?」

「ああ、私はアゼル・バーマン、ブラッドフィールド傭兵団のもう一人の副団長だ」

「オレはマコト・アマノにゃん」

「あたしはリーリだよ」

 リーリがオレの頭に着地する。ビッキーとチャスはオレの部屋でお留守番だ。

「なるほど妖精さんも味方に付けてるとあっては勝ち目はないわけだ」

「にゃあ、オレの事を知ってどうするつもりにゃん?」

「マコトが本当に強い人物か確かめさせて欲しい」

「にゃあ、オレと戦うつもりにゃんね」

「出来れば手合わせを願いたい」

「いいにゃんよ、好きなだけ確かめるといいにゃん」

 服を返し格納空間にあった武器も返還して身体の拘束を解いた。

「本当にいいのかい?」

「いいにゃんよ」

「では、試させていただこう」

「にゃあ」

 油断ならない相手なのでオレは防御結界を厚くした。それと流れ弾が飛ばないように周囲を結界でくくった。

「……っ!」

 アゼル・バーマンは一歩踏み出したところで動きが止まった。

「どうしたにゃん?」

 まだオレの防御結界にも触れていない。

「こ、これは!?」

 驚愕の表情を浮かべてその場に膝を着いてしまう。

「そんな、嘘だ、有り得ない!」

「どうかしたにゃん?」

「マコト、あなたはいったい何者なんです?」

「にゃあ、ただの六歳児の冒険者にゃん」

「団長を遥かに超える魔力、私とは格が違いすぎる」

「にゃあ、確かめ終わったにゃん?」

「ええ、もう思い残すことは有りません、なんなりとご処分いただきたい」

「にゃあ、ひとまず武器は預かっておくにゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ロビー


 領主のカズキが血相を変えてロビーに飛び込んで来た。

「マコト、無事なのか!? いまブラッドフィールド傭兵団の団長から連絡があって」

「にゃあ、無事にゃんよ」

 カブり気味に答えた。

「マコト、その男は?」

 オレの後ろにいるホテルのエンブレム入りのジャケットを着た男を指差す。

「マコト様より当ホテルの支配人を拝命いたしましたアゼル・バーマンと申します」

「アゼル・バーマン、キミがブラッドフィールド傭兵団の副団長か!?」

「はい」

「ブラッドフィールド傭兵団の副団長がマコトのホテルの支配人?」

「そうにゃん、好きにしていいって言うから、ホテルの支配人を任せることにしたにゃん」

「マジか?」

「マコト様に忠誠を誓いました」

「ブラッドフィールド傭兵団は?」

「こちらに来る前に退団しております」

「ユウカも大変だな」

「団長なら問題ありません、私の代わりなどいくらでもいますから」

「マコトがどうこうされるとは思わなかったが、まさか支配人にするとはな」

「適材、適所にゃん」


「あら、あなたもいらしてたの? 今日は早いのね」

 メイドと書記官を引き連れたクリステル奥様がお茶会からホテルに戻ってきた。

「ちょっとな」

「そちらの方は?」

「オレが雇ったホテルの支配人にゃん」

「アゼル・バーマンと申します、奥様」

「あら、随分といい男を探して来たのね」

 メイドと書記官がポっと赤くなったのをオレは見逃さなかったにゃん。

 妖精も頷いている。

「ネコちゃんが支配人を捕まえて来たと言うことは、ホテルのオープンは近いのかしら?」

「まだ具体的には何も考えていないにゃん」

「実は今日のお茶会で、ネコちゃんのこのホテルの話をしたら、わたくしのお友だちたちにぜひ泊めて欲しいと頼まれたの、どうにかならない?」

「にゃあ、泊めるのは構わないにゃんよ、ただオープン前だからサービスが行き届かない可能性は伝えて欲しいにゃん」

「わかったわ、でも、いまのままでも特に問題ないわよ、それに彼女たちも使用人を連れて来るはずですし」

「にゃあ、だったらいつでもいいにゃん、人数は何人にゃん?」

「お友だちは三人よ、使用人は各ふたりずつだから全部で九人ね」

「大丈夫にゃん」

「明日からでも?」

「いいにゃんよ」

「アイラ、皆さんにご連絡して」

「かしこまりました、奥様」

「念話で連絡するにゃん?」

「ええ、アイラは念話の使い手なの」

「にゃあ、スゴいにゃんね」

 通信の魔導具代わりに便利に使われてる。

「皆様、明日いらっしゃるそうです」

 五分と経たずに返事が帰って来た。

「よろしくね、ネコちゃん」

「にゃあ、頑張るにゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 敷地内


「この辺りにゃんね」

 ピラミッドと塀の間の敷地を整地した。

「こちらに何かを作るのですか?」

 アゼルが質問する。

「にゃあ、従業員寮にゃん」

 小ピラミッドを作り出す。設計図もあるので何も問題はない。それにホテルとは大きさが違うので消費する魔力もかなり少ない。

「おお、これはスゴい!」

 初めてオレがモノを作る様子を目にしたアゼルは目を見張る。

 プリンキピウムのホテルでは三つに分けた従業員寮をこっちでは一つの小ピラミッドに集約する。

 そこそこの大きさなのはホテルとのバランスの問題だ。

 大小のピラミッドが青く光りながら並び立つ。

 大ピラミッドとは地下通路でつながっており有事の際も安全に行き来できる。カズキのためにもそのような事態が無いことを祈る。

「軽く一〇〇〇人は収容できそうですね」

「にゃあ、そんなに雇う予定はないから広く使っていいにゃん」

「他の従業員は決まっているのですか?」

「にゃあ、まだにゃん、猫耳ゴーレムたちがいるからそんなに人数は要らないにゃん」

「それでしたら、私のツテで何人かご用意しますが」

「だったら、従業員の採用は支配人に任せるにゃん」

「では、数日以内にご用意いいたします」

「頼んだにゃん、にゃあ、中を案内するにゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 従業員寮


 従業員寮の中に入った。

 形以外は、プリンキピウムの従業員寮と同じだ。

 ちゃんと男女別で大浴場も有る。

「従業員食堂はビュッフェ形式にゃん、状態保存の器に入ってるから好きなときに食べていいにゃん」

 厨房は猫耳ゴーレムが担当している。

「ほお、それは便利そうですね」

「にゃあ、部屋は好きなところを使っていいにゃんよ」

「私には支配人室をご用意頂きましたから問題ありません」

 ホテル内にある支配人室にもシャワールームと寝室は完備してる。

「にゃあ、だったら非番の時はこっちを使うといいにゃん」

「かしこまりました」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 最上階


 既にアゼルには、支配人の仕事を全て伝授してあるのでオレから指示することはない。

 後のことは任せてオレとリーリは自分の部屋に戻った。

 お留守番をしていたビッキーとチャスと夕食をとる。

 BGMを流す魔装具がオリエーンス神聖帝国時代の曲を流す。何となく昭和歌謡っぽい雰囲気だ。

 ビッキーとチャスのためにもっと賑やかなのを掛けるとごきげんなリーリがビッキーとチャスに精霊の舞を伝授する。

 オレからみると精霊踊りだがまあいいだろう。

 それに舞とともにふたりにまとわりついた精霊?が光を放つのでとても綺麗だった。



 ○帝国暦 二七三〇年〇八月〇九日


 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル レストラン


「おはよう」

 オレたちが朝ごはんにレストランに下りて来るとちょうどクリステル奥様がアイラとアマベルを連れてやって来た。

 今朝はレストランで朝食を取ることにしたらしい。

「おはようございます、奥様」

 アゼルが優雅に一行をテーブルに案内する。

「おはようにゃん」

「「おはようございます」」

 ビッキーとチャスもご挨拶をする。

「ネコちゃんたちも同じテーブルで食べましょう」

「にゃあ」

 クリステルと同席する。

「わたくし、すっかり居付いてしまったわね」

「にゃあ、オレは構わないにゃんよ、なんなら別宅にしてもらってもいいにゃん」

「ふふ、そうね、でも領主様がオイタをする前に帰るつもりよ」

「にゃあ」

 羽根を伸ばしてるのはバレバレらしい。

「ネコちゃん、間もなくわたくしのお友だちたちが来るからよろしくね、それから彼女たちの滞在費は領主様に請求してね」

「にゃあ、オープン前だからいいにゃんよ、その代わり行き届かない点を支配人に伝えて欲しいにゃん」

「わかったわ、遠慮無く指摘させてもらうわね」

「にゃあ、お願いするにゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 車寄せ


 まだ朝のうちに三台の馬車が立て続けにやって来た。

 オレたちは地下の車寄せで出迎える。

 いずれもこの州の上級貴族の奥方たちだけあって上品な馬車を高そうな魔法馬が曳いていた。

 うち二台は、間違いなくアーチャー魔法馬商会でカスタムしたモノだと思う。

 原色の馬と馬車だ。

「いらっしゃいませ、当ホテルの支配人アゼル・バーマンでございます。そしてこちらが当ホテルのオーナー、マコト・アマノでございます」

「マコトにゃん」

「まあ、クリステル様のおっしゃった通り可愛いオーナーさんね」

「ええ、こんなに可愛いのにホテルのオーナーなんてスゴいわ」

「プリンキピウムのホテルに続いて二軒目のオープンなんでしょう? ネコちゃんは大金持ちなのね」

「そうよ、ネコちゃんは領主様以上のお金持ちよ」

「にゃあ」

 クリステルに抱き上げられる。まだ例の代金は受け取ってないのでそこまでの金持ちではない。

「本当ですか、クリステル様?」

「内緒ですよ、皆さん」

 三人の奥方たちはそろって頷いた。

 ここで訂正を掛けるのも面倒くさいので沈黙する。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ロビー


 部屋の案内と説明はアゼルと猫耳ゴーレムたちに任せる。

「オレは地下に篭ってるから、用事が有ったら呼ぶにゃん」

 アゼルに通信の魔導具を渡す。

「おお、さらっととんでもない魔導具を渡されますね」

「にゃあ、いつでもオレと連絡が付くからポケットにでも入れておくといいにゃんよ」

「かしこまりました」


 その頃リーリは従業員食堂のビュッフェを堪能していた。ビッキーとチャスは魔法馬でホテルの敷地を走り回っている。

 ちなみにマグダネル博士は今日も調査に勤しんでる。以前の電撃に凝りたのか無闇にお触りはしてないらしい。その調子で頼むにゃん。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 制限エリア 地下施設


 オレは州都地下施設の拡充を楽しんでる。完全に秘密基地なので六歳児のワクワクが止まらなかった。

「ここまで拡充すると領主様にバレそうにゃん」

『ニャア』

 猫耳ゴーレムが返事をする。

「にゃ、すでにバレてるって? にゃあ、でもホテルの敷地内に収まってるからセーフにゃん」

 他の地下施設にトンネルで繋ぐための駅も設置する。

『ニャア』

「そうにゃんね、トンネルが全部、開通したら便利になるにゃん」

『ニャア』

「ドラゴンゴーレムももちろん使うにゃんよ」

『ニャア』

「いま飛びたいにゃん? にゃあ、認識阻害の結界をちゃんと使うにゃんよ」

『『『ニャア』』』

 各拠点の猫耳ゴーレムからも返事があった。各拠点間で猫耳ゴーレムたちがドラゴンゴーレムに乗って行き来することになった。


 ホテルの敷地の片隅にもドラゴンゴーレムの発着場を造る。ここだけは認識阻害の結界で厳重に隠蔽する。

 後は猫耳ゴーレムたちに好きにさせてオレはまた地下に戻って秘密基地の拡充を図る。

「にゃ?」

 いつの間にかビッキーとチャスが猫耳ゴーレムと一緒にドラゴンゴーレムで飛び回ってることに気付いた。

 子供は目を離すととんでもないことをしでかすのは本当だった。

 すぐに呼び戻そうかと思ったが猫耳ゴーレムも付いてるので危なくないうちは好きにさせることにした。

 本人たちはオレを守るための訓練と思ってるみたいだし。高いところから落ちても怪我をしない魔導具を作り始めた。


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