ピラミッド・パワーにゃん
夕方になってフリーダがやって来た。
「ネコちゃん、一晩でこれだけのものを作っちゃったんだね」
「にゃあ」
フリーダは魔法使いのカティとプリンキピウムにいるはずのデニスも連れていた。
「にゃあ、デニスがいるにゃん」
「用事が有って今日来たんだけど、ここもネコちゃんが作ったの? ちょっとスゴいんですけど」
デニスがキョロキョロする。
「にゃあ、カティも久し振りにゃん」
「マコトさんたちの無事な姿を見て安心しました」
「おチビちゃんたち、勝手にいなくなったから大騒ぎだったんだぞ」
デニスが怒るのも無理はない。
「「ごめんなさい」」
しゅんとするビッキーとチャス。
「でも、無事で安心した。今度からは皆んなにちゃんと言わないとダメだからね」
デニスはふたりの頭を撫でた。
「「はい」」
いちばん取り乱したのはオレだけどな。まだまだ修行ができてない六歳児だ。
「にゃあ、ビッキーとチャスもいろいろ手伝ってくれたにゃん」
「グールもオーガもよくわからないのも全部まとめてマコトが倒しちゃったけどね」
リーリがオレの頭の上で得意げにお尻をフリフリさせる。
「ネコちゃん、カティとデニスがどうしてもホテルを見たいっていうから連れて来たんだけど良かったかしら?」
「もちろんいいにゃん、歓迎するにゃん」
「お母様たちはどうしてるの?」
「にゃあ、クリステル様なら部屋でくつろいでいるにゃん、直ぐに案内させるにゃん、皆んなも部屋を用意させるから泊まって行くといいにゃん」
「まずは奥様にご挨拶してからね」
「私もいいんですか?」
カティは見学だけで帰るつもりだったみたいだ。
「もちろんにゃん」
「ネコちゃん、これ、お父様から」
フリーダが拡張空間から取り出したのは金の地金。
それが一三〇枚ほどテーブルに積み上げられる。
「龍の躯を解放した報奨金の大金貨一〇〇〇枚分の地金ね」
「残りの三〇枚は何にゃん?」
「アーティファクト『竜殺し』の代金よ、大金貨三〇〇枚分」
「合計大金貨一三〇〇枚分の地金と土地の権利書ね」
「にゃあ、確かに受け取ったにゃん」
金の地金と書類を格納空間に仕舞った。
「金の地金が一三〇枚なんて初めて見た」
「有るとこには有るんですね」
「魔石の代金が届いたら目を回すわよ」
「それなんか、スゴい噂になってるけどネコちゃんに大金が入るって」
「ええ、私も聞きました、マコトさんに大金が転がり込む話、州都ではかなり知れ渡ってるみたいです」
「にゃあ、そう言えばそんな話があったにゃんね」
「うん、まだハリエット様を見付ける前からこっちでは噂になってたみたい、プリンキピウムにまで王都方面からそれとなく問い合わせが入っていたから」
「魔石の販売には多くの人間が関わってるからそこから漏れたんでしょうね」
フリーダの推測が正解だろう。
「困ったことが有ったらお父様に相談してね」
「お心遣い感謝にゃん」
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 最上階
クリステル奥様の部屋で挨拶した後、三人をそれぞれの部屋に案内してからオレたちは最上階の自分たちの部屋に戻った。
ビッキーとチャスは昨日忘れていたベッドのスプリングを確かめるために飛び跳ねる。
何やら協議するふたり。
「「ごうかく」」
合格みたいだ。
「オレはチョット外に出るにゃん」
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 頂上
ビッキーとチャスに留守番を頼んでオレとリーリは外に出てピラミッドの先端に立つ。
既に日は沈んでピラミッドの青い光が周囲を照らし出していた。
「にゃあ、これから最後の仕上げをするにゃん」
「まだ仕上ってなかったの?」
リーリはオレの頭の上に立つ。
「そうにゃん、これから仕上げるにゃん」
オレは天に拳を突き上げた。
「にゃあ!」
オレの魔力を注ぎ込んでこのホテル自体を一つの魔導具として機能させる。
大気中のマナを吸ってピラミッドは聖魔法の青い輝きを増す。
「ピカピカだね」
「にゃあ、異世界だけあってピラミッドパワーが実際にあるにゃんね、しかもどぎついにゃん」
「魔力が一箇所に集められてるからね」
『ニャア!』
ピラミッドが鳴く。
ピラミッドそのものが意志を持つ。
中にいる者は慈しみ、攻撃には容赦なく反撃する。
オレの性格にかなり引っ張られているようだが子分なので仕方ない。
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 制限エリア 地下施設
それからオレは地下に潜って残りの猫耳ゴーレムを再生する。各客室に三体ずつを始め各セクションにも必要な数を追加した。
出来上がった猫耳ゴーレムたちはオレにスリスリした後、ぞろぞろと自分の持ち場に散って行く。
それぞれエーテル機関入りだから自動補修で半永久的に稼働するので、人類が滅亡してもホテルだけは営業を続けてるなんてことがあるかも。
「それはそれで怖いにゃん」
魔法蟻が一匹出て来て前脚を上げて敬礼する。
『……』
「トンネルも順調にゃんね」
『……』
口をカチカチさせる。
魔法蟻も増員を希望していた。
「にゃあ、追加で五〇〇にゃんね」
オレはリーリと一緒に蟻の背中に乗って縦坑を深く降りた。
到着した地下の大ホールに魔法蟻たちをどんどん出す。
「にゃあ、直ぐに持ち場に行くにゃん」
場所を空けさせて残りの蟻たちを出す。
次に猫耳ゴーレムを拡充する。
「地下にもエレベーターが有った方が便利にゃんね」
飛翔の魔法が使えるとはいえ猫耳ゴーレムは魔法蟻と違ってトンネル内の移動には向いてない。
いまはオレみたいに魔法蟻に乗って移動している。
以前と違って規模が大きくなってるので有ったほうが便利だ。
「ここでいいにゃん?」
『……』
「もっとこっちにゃんね」
大型のエレベーターの設置場所を魔法蟻たちと決めた。
蟻のトンネルを避けて農場と倉庫を繋ぐエレベーターを設置する。
「これで猫耳ゴーレムや物資の運搬も簡単になるにゃん」
『ニャア?』
「格納空間で事足りるけど皆んなの仕事を中断させなくて済むにゃん」
『ニャア』
「こっちが完成したら他所でもエレベーター設置の工事をやって貰うにゃん」
『『『……』』』
各所の魔法蟻たちからOKの返事が来る。
「にゃあ、頼んだにゃん」
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル レストラン
ビッキーとチャスを連れてレストランに戻り、出来たての食材で夕食だ。
他の客人は部屋食でいいらしい。
どうやらエステにドハマリしたみたいで時間が惜しいみたいだ。
「どれも申し分ない味にゃん」
「うん、合格だよ!」
「「おいしい」」
リーリにビッキーとチャスも口いっぱいに頬張ってる。
そこにカズキが来た。
「やあ、ボクにも夕食を頼むよ」
オレの向かいの席に座った。
「領主様がひとりで気軽に出歩いて大丈夫にゃん?」
「城からここまでの専用道を作ったから大丈夫だよ、結界でガチガチに固めてあるし」
「でも変なのが入り込んでるにゃん」
「おおお、この魔導具もゴーレムも実に素晴らしい!」
マグダネル博士が興奮して叫んでいた。
「どうしてもホテルの中を見たいと言われて断れなかったんだよ」
「にゃあ、見るぐらいならいいにゃん」
「ありがとう、博士にはいろいろ世話になってるからなるべく自由にさせてあげたいんだ」
「見るのはいいけど触るのはダメにゃんよ、ここは一つの魔導具になってるから反撃されるにゃん」
「なんと、ホテルの建物が一つの魔導具なのですか!?」
マグダネル博士がオレたちのテーブルに飛んできた。
「建物じゃなくて敷地全部にゃん」
「おお、それは想像を絶する規模の魔導具です!」
「話は食べながらでもいいにゃん?」
「私は構いません」
「にゃあ」
領主と博士の夕食を給仕係の猫耳ゴーレムに頼んだ。
「これだけのゴーレムが動いてるとは実に素晴らしい!」
マグダネル博士は興奮冷めやらぬ様子だ。
「そうにゃん?」
「私の知る限り王都の高級ホテルでもゴーレムは一〇体もいませんぞ」
「王都には行ったけど城壁の中には入れなかったにゃん」
「魑魅魍魎が跋扈する場所だよ、油断したらあっという間に骨まで喰われるから行かないほうがいいよ」
「怖い場所にゃんね」
「だね~」
妖精が生返事なのは食事に集中してるからだ。
「マコト様が暴れたら、王都も無事では済みますまい」
「オレは無闇に暴れたりしないにゃん」
「マコトの友だちが傷付けられたら?」
「暴れるにゃん」
「王都には悪いヤツもいるけど、いい人も多いからその辺りは気を付けてね」
「心得たにゃん」
「ところでマコト様、このホテルの形には何か意味があるのですか?」
「ピラミッドパワーにゃん」
「えっ、それって本当にあるの?」
カズキは懐疑的な目を向ける。
「にゃあ、それがちゃんと実在しているにゃん」
「おお、それでその力というのは?」
「魔力を効率的に使えるにゃん、それに美容と健康に効果があるにゃん」
「クリステルが城を改築しようとか言い出しそう」
「にゃあ、まさか」
「いや、マジで」
「有りえますな」
博士も頷いてる。
『ニャア』
領主様と博士の料理が運ばれて来た。
「マコト、これはシチューだよね?」
「にゃあ、似てるけどオリエーンス連邦時代の煮込み料理にゃん」
「ほお、オリエーンス連邦時代のですか!」
「州都の図書館で見付けたレシピにゃん」
「ああ、このパンは美味い」
「オリエーンス神聖帝国のレシピ、天然酵母パンにゃん」
「それはまた随分と昔のものですね」
オリエーンス神聖帝国についてのツッコミがないところをみるとマグダネル博士は魔導具以外に興味はないらしい。
「にゃあ、パン自体はオリエーンス連邦時代まで継承されたけど味が落ちるにゃん」
「マコト様は、博学でいらっしゃる」
「ボクの同郷だからね」
「なにげに他所に漏らしたら物理的に首の飛びそうなことをさらっと仰らないでいただきたい」
「マコトの作ったものを調べたいなら、知っているべき情報だよ」
「するとマコト様の魔導具は、秘すべきものでは?」
「そうするべきなんだけど、王都で派手に見せびらかしたからね、その辺りの気遣いは不要だと思うよ、マコトの魔導具だったらそう簡単に模倣もできないだろうし」
「ひと目見ただけで模倣など無理だとわかります」
「調査は辞めるかい?」
「いいえ、マコト様の作られた至宝のような魔導具、目の前にあるのに見ないなど有りえません」
「マコトの魔導具については口外禁止だよ、これは博士の身を守るためだからね、悪党に掴まったら拷問されて殺されちゃうからね」
「十分承知してございます」
「物騒にゃんね」
「マコトを中心にね、対策は練っておいた方がいいよ」
「そうにゃんね、生身の人間とはまともにやりあったことがあまりないから対策を考えておくにゃん」
「マコトは大公国で暴れたんじゃないの?」
「あれは戦争にゃん、戦争は何も生み出さないにゃん」
「領地をせしめてなかった?」
「にゃあ、そういうこともあったにゃんね」
ふたりは食事の後、城に帰って行った。
よく考えたらカズキはこの世界でも有数の魔法使いだから護衛なんか必要ないか。
問題は博士だ。
地下に入り込んで無残な姿で発見とかならないように注意しないと。何でいい年をした大人を六歳児が心配しなくてはいけないのだろうか?
○帝国暦 二七三〇年〇八月〇八日
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ロビー
フリーダたちは朝食の後、冒険者ギルドに戻って行った。入れ替わる様にやって来たマグダネル博士が調査を開始する。
それとなく監視してるので大丈夫だろう。地下への通路も結界で入れなくしてあるし。
「おはよう、ネコちゃん」
部屋から出て来た領主の奥様クリステルは、帰るのかと思ったら他所のお茶会に出席してまた戻って来るらしい。
「ネコちゃん、何か珍しいお菓子を作れるかしら?」
「プリンはどうにゃん?」
マダラウシの生クリームをたっぷり使ったトロトロプリンを出してみる。
生クリームもたっぷりトッピングしてあるにゃん。
「プリンですわね、カズキ様のレシピとは違うようですけど」
やはり異世界チート料理の一つプリンは一足先にこの世界にも来ていたか。
精霊情報体の中にレシピが存在してるのでないわけがないが。
横から全部食べられると困るのでメイドのアイラと書記官のアマベルの分も出す。
「美味しいですわね、特に生クリームが素晴らしいですわ」
アイラとアマベルも頷く。
「合格だよ!」
リーリからは合格が出たがプリン自体は普通に美味しいって感じみたいだ。
「「おいしい」」
ビッキーとチャスは食べ慣れてるか。
「にゃあ、チーズケーキはどうにゃん?」
クリームチーズに濃厚生クリームをたっぷり混ぜ込んだレアチーズケーキだ。
オレが楽しむために開発したものなのでまだ他人には食べさせてない。
「こちらは初めて見るわ」
スプーンですくって口に運んだ。
アイラとアマベルも続いた。
「これは初めての美味しさね」
「はい、とても美味しいと思います」
「ええ、本日のおみやげにはちょうと良いかと思われます」
「決まりにゃんね」
プレーンとメイプルの二つをそれぞれ箱に入れてメイドのアイラに渡した。
「あたしにも!」
妖精にも箱ごと渡した。
ビッキーとチャスにはキャラメルぐらいの大きさで二つ出した。おデブちゃんになったら困るにゃん。
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル
クリステル一行を送り出したオレはビッキーとチャスと一緒に魔法馬を走らせる。ふたりはクプレックス州の境界門のところでちょっと乗ったが、ちゃんと走らせるのは今回が初めてだ。
「「きゃはは」」
ふたりとも魔法馬には慣れてるので何の問題もなく走らせる。
「にゃあ、ふたりとも上手にゃんよ」
三頭の魔法馬が並んで走る。何かあったらビッキーとチャスは銃で応戦するよりそのまま逃げてしまった方がいい。
そんなわけで早駆けを練習する。
「「はやい!」」
ふたりともキャッキャと大はしゃぎで魔法馬を飛ばした。魔法馬に関してはオレより適性がありそうだ。
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル レストラン
午前中にいい汗をかいたのでジャグジーでブクブクしてからオレたちはレストランでお昼ご飯にした。
メニューは人工クロウシのステーキにライス。
「この熱い鉄板に乗せたまま食べると言うのは何とも贅沢な食べ方ですな」
マグダネル博士にも昼食を付き合って貰ってる。
「にゃあ、領主様はこういう食べ方はしないにゃん?」
「領主様は、焼いただけの肉は好まれないと聞いたことがあります」
「にゃあ」
こっちの世界のただ焼いただけの肉だったらオレもノーサンキューだ。
「博士の研究は進んだにゃん?」
「いえ、まったく追い付きません、見るもの全てが驚きです」
「にゃあ、そうはいっても領主様の魔法と根っこは同じにゃんよ」
「そうなのかもしれませんが、領主様はトイレやベッドの魔導具は作られません。いえ、私の知る限り、マコト様以外にはいらっしゃいません」
「そうにゃん? 設計図はあるから昔は作られていたみたいにゃんよ」
「なんと、それは本当ですか!?」
「本当にゃん、オレは何もない状態から作れるほど器用じゃないにゃん」
「設計図を見せていただくことは可能ですか?」
「手を出すにゃん」
「はあ?」
差し出されたマグダネル博士の手に手を重ね、ベッドの設計図の触りの部分を見せた。
「こ、これは!?」
「ベッドの設計図の一部にゃん、エーテルからの生成になるから、膨大な魔法式の集合体になるにゃん」
「まるで神の御業ですな」
「にゃあ、神様はベッドじゃなくてエーテルを作ったにゃん」
そして神様は実在する。
精霊情報体はオレにそう教えてくれていた。いまはいないらしいけど。
午後はプリンキピウムのノーラさんと連絡を取ったり、遠隔操作で各拠点で稼働している地下農場のバージョンアップを行う。これで大公国の領地では美味しいお肉を途切れず提供できるはずだ。
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 館内
ビッキーとチャスはリーリと一緒にホテルの探検に出かけている。ふたりは精霊魔法版の飛翔を使って階段を下りていた。それだけでも十分に冒険だと思う。
○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 制限エリア 地下施設
オレは地下に篭って魔法蟻の追加生産をする。トンネルを大公国経由で王都にまで伸ばしたいし、オレの領地になるかもしれないケラスに向けての掘削準備にも入って貰う。
「皆んな、がんばるにゃん」
『『『……』』』
魔法蟻たちはいつものように右前脚を挙げて口をカチカチさせる。魔法蟻たちも地味にバージョンアップを繰り返してるので、魔獣とも十分にやりあえる実力を持つに至る。トンネル掘りのエキスパートである魔法蟻にかかれば鎧蛇なんて瞬殺で穴だらけだぜ。




