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クリステル奥様にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇八月〇七日


『ニャア』

 朝、猫耳ゴーレムに起こされた。

「にゃあ、朝っぱらからオレにお客にゃん?」

『ニャア』

 オレはいつものセーラー服にコスチュームチェンジすると正門前に馬でピラミッドを駆け下りるなんて真似はしないでちゃんとエレベーターを使って降りた。

 ビッキーとチャスも着替えて付いてくる。

「にゃあ、ビッキーとチャスはまだ寝ててもいいにゃんよ」

「おでむかえ」

「おでむかえする」

「わかったにゃん」



 ○州都オパルス 青いガラスのピラミッド 正門


 ビッキーとチャスを連れて地下の車寄せで魔法馬に乗って正門に走る。

「にゃあ」

 豪華な馬車が停まっていた。

 降りて来たのは領主様のカズキだった。

「やあ!」

「にゃあ、お早うにゃん」

「おはよう!」

 リーリが胸元から顔を出した。

「「おはようございます」」

 ビッキーとチャスもご挨拶をする。

「マコトはホテルを作るんじゃなかったの?」

 カズキが青いガラスのピラミッドを見上げる。

「にゃあ、これがホテルにゃん」

「ボクにはピラミッドに見えるんだけど」

「ピラミッド型のホテルにゃん」

「まあ、異世界っぽくていいか、ボクも嫌いじゃないし」

「領主様は、こんなに朝早くどうしたにゃん?」

「マコトたちが帰って来なかったから進捗状況を見に来たんだよ。これって、ほとんど出来上がってるよね?」

「にゃあ、まだにゃん、仕上げの途中にゃん」

「少なくとも龍の躯だった頃のマナは無さそうだね」

「ホテルを作るのに流用したにゃん」

「稀人の力か、まったく外にあるマナを自在に使えるなんてマコトはスゴいよ」

「領主様はできないにゃん?」

「ボクは一度体内に取り込む必要があるから、どうしてもそこがボトルネックになるね、それでも純粋なこっちの人間と比べれば大きな力だけど」

「少し違うってことにゃんね」

「言葉の上ではね」

「ホテルの中も見るにゃん?」

「当然見せてもらうよ、クリステルも連れて来たことだし」

 領主の奥さんが馬車の中から手を振ってくれる。

「で、例のモノは?」

 カズキが声を潜める。

「にゃあ、抜かりないにゃん」

 充実の美容特化ホテルに仕上がっている。

「にゃあ、オレが先導するにゃん」

 魔法馬をホテルの地下駐車場に向けて馬車を先導する。

 馬車の御者は以前オレたちをお世話してくれたメイドさんだ。

 この人、防御結界を使ってるから魔法使いだ。



 ○州都オパルス 青いガラスのピラミッド 車寄せ


 地下の車寄せに馬車を停めてもらった。

「何で入口が地下なんだい?」

 カズキは馬車を降りると周囲を見渡した。

「にゃあ、守り易いからにゃん、魔獣が出ても何とか侵入を阻止できるにゃん」

「おいおい、州都に魔獣なんて縁起でもないこと言わないでよ」

「にゃあ、領主様の城を参考にしただけにゃん、あの防御結界はどう見ても対魔獣の守りにゃん」

「マコトは結界の内容まで読めるの?」

「オレと領主様の魔法は出処が同じにゃん、匂いで内容はだいたいわかるにゃん」

「いや、魔法式は匂わないから」

「そんなお話より早く中を見せていただきたいですわ」

 待ちきれない奥様が馬車を降りる。

「お待ち下さいクリステル様、建築中の建物に入るのは危険では有りませんか?」

 馬車からもう一人降りてきた。

 アルボラ州政府の文官の服を着ている。

 フリーダよりは年上っぽい。たぶん二五ぐらいの女性だ。

 お胸は残念ながら冒険者ギルドは無理そうにゃん。

「躯体の工事と内装の大部分は終わってるから危険はないにゃん」

「そう心配するなアマベル、マコトが保障してくれてるし、いざとなったらアイラが守ってくれる」

「書記官がアマベルで、メイドさんがアイラにゃん?」

「申し遅れました、オパルス州政府の書記官を努めますアマベル・エアトンと申します。以後、お見知り置きを」

「クリステル様付きのアイラ・ベッツと申します」

「マコト・アマノにゃん、よろしくにゃん」

「あたしはリーリだよ」

 リーリにもふたりはお辞儀した。

「ビッキーです」

「チャスです」

 こちらは頭を撫でられていた。

「にゃあ、まずはロビーに案内するにゃん」



 ○州都オパルス 青いガラスのピラミッド ロビー


 ドアマンの猫耳ゴーレムが大きな扉を開ける。

 広いロビーではピアノみたいな楽器を猫耳ゴーレムが演奏している。

 大理石に金の装飾なので、華美になり過ぎない様に気を付けたが、まあ派手か。

「素敵ね、王都でも見ない新しいデザインね」

「にゃあ」

 実際には先史文明の遺産を参考に作り上げているので新しくはない。

「オリエーンス神聖帝国時代の神殿がベースかな」

「にゃあ、正解にゃん」

「趣味は悪くないね」

「ここに領主様の描いた絵を飾りたいにゃん」

 もう場所は決めてある。

「それでしたら、わたくしが選んで差し上げますわ」

「だったらクリステル様にお願いするにゃん」

「マコト、オルホフ侯爵家の紋章が何処にもないぞ」

「プリンキピウムのホテルとは違うからないにゃんよ」

「いや、ここはオパルス・オルホフホテルとするべきだ」

「いくらなんでもそれはアーヴィン様の許可を貰わないとマズいにゃん」

「わかった、許可はボクから貰っておこう」

「領主様がそう言ってくれるならオパルス・オルホフホテルにするにゃん」

 フロントに紋章を掲げる。


 正門には猫耳ゴーレムたちがオパルス・オルホフホテルの文字を刻んだプレートをはめ込んだ。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル レストラン


「ここがレストランにゃん、ルームサービスで部屋でも食事が可能にゃんよ」

 領主一行をレストランに案内した。

「味見をさせて貰ってもいい?」

「調理も給仕もゴーレムだけどいいにゃん?」

「問題ありませんわ」

 クリステルが答えた。

「オレたちも朝ごはんがまだなので一緒に食べていいにゃん?」

「ぜひそうして」

 領主夫婦と一緒のテーブルに着く。

 アマベルとアイラは後ろに下がって周囲に目配せする。

 彼女たちの仕事は邪魔しないようにしよう。

「いまできる料理を持って来させるにゃん、先に聞くけどモツは大丈夫にゃん?」

「問題ないよ」

「ええ、問題有りませんわ」

「あたしは大好物だよ!」

 リーリはほとんどのモノが大好物だと思われる。


 今朝のメニューはサンドイッチともつ煮だ。カズキのおかげで本物の醤油と味噌のレシピが手に入ったので、味付けがぐっと和風になってるもつ煮のバージョンも出来あがっていた。

「もつ煮は、和風と洋風の二つあるにゃん」

 主にカズキ向けの説明だ。

「おお、確かにこれはもつ煮だね」

「あなたの故郷の味なのですね」

「では、早速」

「お待ち下さい」

 メイドのアイラから待ったが掛かった。

「どうかしたにゃん?」

「お毒見いたします」

 アイラはさっとマイスプーンを取り出すともつ煮の入ったボウルに突っ込んだ。

 ヒョイぱく。

 ヒョイぱく。

 ヒョイぱく。

 毒見って一口じゃないの?

「問題ございません」

 和風も洋風も全部食べられてしまった。

「毒見ってこういうものにゃん?」

「たまにこんな感じかな」

「そうですわね」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 客室


 アイラが食いしん坊と言う訳じゃなくて、見慣れない料理は一食分を全部食べて判断するコトがあるらしい。

 ちょっとびっくりした。


 試食はメイドさんにも好評に終わって、次に部屋に案内する。

「全室、おっきいお風呂にエステのゴーレム付きにゃん、他にも部屋付きのゴーレムもいるにゃん」

 全部、猫耳ゴーレムなので有事の際はホテルと地下施設を守る。

「部屋数が多くない?」

 カズキがキョロキョロと客室の中を見回す。

「にゃあ、お付きの人たちの部屋も有るにゃん」

「使用人の部屋も随分と豪華なんだ」

「にゃあ、そうにゃん? 普通にゃんよ」

「お風呂自体も普通じゃないみたいだね」

「アンチエイジングに力を入れたにゃん、美容魔法をマスターしたエステシャンのゴーレムもいるから効果が高まるにゃんよ」

「正解です」

 クリステルに抱き締められる。

「もしかしてマジもんで若返るの?」

「若返り過ぎないように月一で通ってくれれば半年に一歳程度若返るにゃん、ただ子供には戻らないにゃんよ」

「ここに住む人も出て来そうだね」

「ええ、間違いなくいます」

 クリステルが断言し文官とメイドが深くうなずいた。

「お金さえ払ってくれればどれだけ滞在しても問題ないにゃん」

「ネコちゃん、今日一日お部屋を試していいかしら?」

「いいにゃんよ、じっくり試して欲しいにゃん、アイラとアマベルはどうにゃん?」

「わたくしもお供いたします」

「ええ、わたくしも試させていただきます」

「にゃあ、だったら三部屋並びでいいにゃん?」

「構わなくてよ」

「領主様はどうするにゃん?」

「ボクは仕事だよ、こう見えてそれなりに忙しいんだ」

 カズキは肩をすくめる。

「大変にゃんね」

「後でフリーダが来ると思うから泊めてやって」

「了解にゃん」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 車寄せ


 クリステル奥様とメイドと書記官は部屋付きの猫耳ゴーレムにお世話を任せてオレたちはカズキをお見送りする。

「にゃあ、ホテルはこんな感じにしたにゃん」

「富裕層の女性からがっぽりだろうし、クリステルはここに住んじゃうかもね」

「にゃあ、領主様はそれでいいにゃん?」

「問題ないよ、ボクもしばしの独身気分を謳歌するよ」

「にゃあ、オレはノーコメントにゃん」

「ああ、それからフリーダから伝言なんだけど、間もなく買い取った魔石の支払いが有るから数日ホテルで待っていて欲しいそうだよ」

「にゃあ、わかったにゃん」

「アポリトとケラスの件も順調に進んでるよ。マコトが辺境伯様になる日も近いね」

「にゃあ、そっちはそれほど嬉しくないにゃん」

「きっといいこともあるよ」

「にゃあ、ウシとブタでも飼うにゃん」

「賛成だよ!」

 リーリは大賛成だ。

「柵だけは丈夫に作ってね」



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル 制限エリア 地下施設


 カズキを見送ったオレたちはホテルの地下に潜った。


 主に魔法蟻が作ってる地下農場に野菜や果物の種に魔法鶏と魔法牛を出した。

 地下農場では種が直ぐに苗になり、苗は直ぐに大きくなる。

 魔法鶏と魔法牛は用意された何層もの広場で好き勝手に歩きまわってる。

 細かい作業は猫耳ゴーレムにやらせ、魔法蟻とオレは施設を拡張する。

 ビッキーとチャスも手伝ってくれたので直ぐに形になった。


 続けて地下農場の一角に人工肉製造の魔導具を設置する。

 これは魔法剣士の育成マニュアルと一緒に発見された魔導具の設計図を参考に作り出したものだ。

 刻印にエーテル機関を併用して元のものよりずっと高性能で頑丈になっている。

「何なのそれ?」

「人工的に肉を作る魔導具にゃん」

「美味しいのを頼むね」

「任せるにゃん」

 丸ごとハンバーガーを作る魔導具は以前に作ったが、あの肉は実物をコピーしたものだ。全くの人工肉を作るのは今回が初めての試みだ。

「遺伝子組み換えどころの騒ぎじゃないにゃんね」

 牛、豚、鶏、何でもござれだ。

 魚、海老、蟹は別の魔導具を用意する。以前よりも簡単にモノを作り出せるのは魔法龍と繋がってオレの演算能力が強化されたからだ。

 膨大な知識に対する検索速度が上がって上手く使える。

 稀人と言えど前世の知能を引きずっていたが、拡張空間に取り込んだ魔法龍がオレの思考を加速させる。

「にゃあ、いままでよりも大規模な魔法が使えそうにゃん」

 チョコレートの製造機械も外せない。各種食料品製造の魔導具を次々と作り出し、それを猫耳ゴーレムたちが設置した。

 表には出さない地下の食料庫にも腐敗防止と状態保存それに拡張空間の魔法を掛けてある。

「にゃあ、これで半永久的に籠城が可能にゃん」

「最高だよ!」

 リーリは出来たてのチョコレートを齧る。

「「おいしい」」

 ビッキーとチャスは一口サイズのチョコだ。

 にゃあ、オレは何と戦ってるのか?

 もちろんオレ自身との戦いだ。

 早くも地下農場から作物の第一陣が届けられる。プロトポロスの地下農場よりも早く出来た。各種魔導具はこちらでの運用に問題がなければあちらにも増設しよう。

 農場をはじめとする地下施設が上手く回り始めたのを確認してオレたちはロビーに上がった。

 ホテルの低層階は病院としての機能を持たせる。

 場所柄、富裕層向けだ。

 オレのお仲間である冒険者用の医療施設はそのうち街中に作ってもいいかもしれないが、この辺りなら大した怪我なんてしない気がするぞ。



 ○州都オパルス オパルス・オルホフホテル ロビー


 ロビーの楽団も拡充して、オレたちはソファーにもたれジュースを飲みながら聞き入った。

『マコトさん?』

「にゃあ」

 ノーラさんから念話が入った。

『ノーラさん、何か有ったにゃん?』

『こちらは問題有りませんが、マコトさんたちが州都に戻られたと聞きましたので』

『冒険者ギルドから連絡が行ったにゃんね、大丈夫にゃん、ハリエット様を送り届けてオレたちも無事に帰って来たにゃん』

『危ないことはなるべく避けて下さいね』

『にゃあ、もちろんにゃん』

『それとこっちにもホテルを作ったにゃん』

『州都にですか?』

『そうにゃん、領主様に頼まれたにゃん』

『作ったということは、もう出来たんですか?』

『にゃあ、まだ完成はしてないにゃん』

『もう二軒目のホテルのオーナーになったんですね』

『領主様の頼みは断れないにゃん』

『確かにそうですね』

『急な話なので、ほとんどをゴーレムで賄うことにしたにゃん』

『とても高級なホテルになりそうですね』

『領主様の希望で美容に重点を置いたホテルになる予定にゃん』

『それは直ぐに人気が出ますね』

『にゃあ、オレもそう思うにゃん』


 ロビーのソファーにもたれて音楽を聞いてる様に見えるかも知れないが、実際には猛烈な勢いで工事をしている。

 すべての客室の内装を仕上げながら外装の仕上げと結界の最適化を行う。

 ついでにキャリーとベルに念話して新しいホテルを作った事を自慢した。

『ほんの数日前に帰ったばかりなのにもう新しいホテルを造るとは驚きなのです』

『冒険者をやらなくても儲かるんじゃない?』

『にゃあ、冒険者のほうが儲かるにゃん』

『マコトの場合は否定できないのです』

『既にとんでもない大金持ちで貴族様だもんね』

『にゃあ、それにしては振り回されてる感が半端ないにゃん』

『仕方ないのです、それが力を持つ者の宿命なのです』

『にゃあ、宿命なら仕方ないにゃん』


 念話の後は更に集中して工事を進めた。


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