狙われたにゃん
『『『ニャオ!』』』
猫耳ゴーレムたちが警戒の声を上げた。
地面に光が現れ図形を描く。
「魔法陣みたいだね」
「にゃあ、そうみたいにゃん」
オレたちを囲むように直径五メートルほどの魔法陣が展開した。全部で二〇。オレは即座に解析する。
「召喚系の魔法にゃん! 何か出て来るにゃん!」
『『『ニャア!』』』
猫耳ゴーレムが散開すると同時に魔法陣から浮き上がるように金属質のオーガが出て来た。
「にゃあ、硬そうなオーガにゃん」
「「おーが!」」
寝ぼけていたビッキーとチャスもバチっと目が覚めた。
金属オーガは金棒を装備していてまんま鬼だ。
『『『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』』』
二〇匹の金属オーガが叫ぶ。
「やかましいにゃん!」
直ぐにオーガの頭に向けてオタマジャクシミサイルを発射した。
「にゃ!?」
ミサイルがすり抜けた!?
向こう側の土手に飛んで爆発した。
距離が近いから外し様がないはずなのに当たらなかった。
「どうなってるにゃん?」
『『『ミャア!』』』
猫耳ゴーレムたちも同じだ。発射されたミサイルは一発も当たることなく土手をえぐった。
空かさず金属オーガが前に出て金棒を振るった。風圧だけでオレたち三人が飛ばされそうになる。
「にゃあ、ちょっと待つにゃん! いまの金棒、オレの防御結界をすり抜けたにゃん」
何の抵抗もなく防御結界が抜かれるなんていままでなかったのでオレの頭はパニックになりかけた。
こっちの事情なんてお構いなしに金属オーガが追撃してくる。
「皆んな当たらないように気を付けるにゃん!」
『『『ニャア!』』』
オレの防御結界をすり抜けるということは猫耳たちの防御結界も役に立たないということだ。
「これはヤバいにゃんね」
雷撃系聖魔法を御見舞する。
青い閃光と轟音が響き渡る。
しかし金属オーガにはまったく効果が見られなかった。
「にゃあ! 全く効いてないにゃん!」
金棒を四方から打ち下ろされる。
「マコト、逃げ切れないから猫耳ゴーレムを格納したほうがいいよ!」
「にゃあ!」
リーリの言葉に猫耳ゴーレムを全員格納した。
攻撃どころか防御結界も効かない状態で戦うのは無理がある。
二〇匹の金属オーガがこちらを向いた。
「ビッキーとチャスはオレにしっかり掴まってるにゃんよ」
「「はい!」」
防御結界が無くても金属オーガにどうこうされるほどのろまじゃない。
金属オーガが次々と金棒を振り下ろす。
風圧はスゴいがオレたちにかすること無く全部地面を叩いてる。
避けてるだけでは反撃にならないが。
「にゃ? 地面が削れてないにゃんね」
めちゃくちゃ重そうな金棒が打ち下ろされているのにまったく跡がない。
オタマジャクシミサイルに聖魔法の跡だけ。
重そうな金属オーガが踏んでるはずなのに足跡ひとつないというのはどういうことだ。
でも金棒の風圧は感じる。
ぶん殴られたらただじゃすまない迫力がある。
「にゃあ、いまの召喚の魔法陣をもっと解析にゃん」
いったい何を召喚したにゃん?
半エーテル体?
いや、それなら防御結界が効くはず。
違う、もっと別のモノだ!
「にゃああ! わかったにゃん! これは呪いの一種にゃん!」
「呪いなの!?」
「「のろい?」」
ビッキーとチャスと一緒に金属オーガの包囲網を掻い潜って後方にジャンプした。
「にゃあ、目の前のオーガはただの映像にゃん! それを呪いの効果で衝撃を実際に感じさせてるにゃん!」
「それって当たっても平気なの?」
リーリも本物と見分けが付かなかったらしい。
「にゃお、衝撃は本物にゃん! オレや猫耳ゴーレム自身の魔力を流用して作り出してるにゃん!」
「魔力ってことは魔法使い以外には効かないってこと!?」
「にゃあ、ここの人間は全員自前の魔力を持ってるから魔法使いじゃなくても見えるし、当たるから厄介にゃん」
「本人の魔力を呪いにか、だったらあれが効くんじゃない?」
「にゃあ、そうにゃんね、呪い返しが効くはずにゃん!」
オレの声に敵が慌ててリンクの糸を切り離したがもう遅い!
「もう喰らいついてるにゃん!」
呪いに電撃を載せて返してやった。サービス満点だ。
金属のオーガもオレが再生した魔法陣に飲まれて消えた。
「自分で出した化け物の面倒はちゃんと最後までみるにゃん」
いまごろ呪いを掛けた術者のところは電撃と金属オーガの群れで大変なことになってるだろう。ざまーみろだ。
静かになったところで格納していた猫耳ゴーレムたちを出す。
『『『ニャア!』』』
抱き着く猫耳ゴーレムたちにビッキーとチャスごと揉みくちゃにされた。
「にゃあ、オレはいったい何処で呪いを掛けられたにゃん?」
「何処だろうね?」
リーリも首を捻る。
「少なくともオレの身体の中じゃないにゃんよ」
「だとしたら式神かな?」
「にゃ、急に和風になったにゃんね」
「式神を使えばリアルタイムで呪いを掛けられるよ」
「するとついさっき掛けられた可能性があるにゃんね」
「マコトなら式神の居場所もわかるんじゃない?」
「そうにゃんね」
式神って言ったらカラスとか?
オレの馬車の速度に付いて来れると言ったらやはり鳥系かドローン。少なくとも空を飛ぶモノだろう。
それっぽい人工物を探知する。
「にゃあ」
「もう見付けたんだね」
それを手元に引き寄せた。
「鳥型のゴーレムにゃん、落ちてたにゃん」
魔法鳥と呼べるほどの機能は無かった。飛んで魔法を中継するだけの代物だ。
主からのコントロールを失って墜落したらしい。
「早急に防御結界に対策を盛り込むにゃん」
同時にオレが提供している魔法馬や猫耳ゴーレムや魔法蟻の防御結界もすべてバージョンアップさせた。
『にゃあ、今度はオレが魔導師っぽいのに襲われたにゃん』
ついでにハリエットに報告を入れる。
『襲われたって大丈夫なのか!?』
『にゃあ、撃退したから問題ないにゃん』
『呪いは返したから、宮廷魔導師の中に不審な怪我を負ったり金属っぽいオーガに襲われたりしたヤツが居ないかマリオンに調べて欲しいにゃん』
『わかった、早急に手配しよう』
『お願いにゃん』
報告を終えたオレたちは五〇体のドラゴンゴーレムに分乗して空に舞い上がった。
○レークトゥス州 上空
襲撃に備えてオレは探査結界を展開する。
「にゃあ、このままプロトポロスに行くにゃん!」
『『『ニャア!』』』
人の少ない草原の上空とは言えドラゴン五〇匹の編隊飛行とあっては目撃されたら大騒ぎは必至なので認識阻害を隊列全体に掛けて飛ぶ。
「にゃあ、空はやっぱり速いにゃんね」
「「はやーい!」」
「地上を走るのもいいけど、やっぱり空だよね」
「「はい!」」
ビッキーとチャスも空派だった。
○フルゲオ大公国 ルークス街道 上空
レークトゥス州からクプレックス州経由で大公国の境界門を上空から抜けそのままルークス街道の上を飛ぶ。
大公国内は結界が入り乱れてるから、オレ一人ならともかく編隊で飛ぶなら街道上空を行くのがいちばん面倒がない。
「地上は馬車がいっぱいだね」
「にゃあ、ほとんど荷馬車にゃんね」
王都方面に向かう馬車は小麦の袋を満載しており、大公国の首都ルークス方面に向かう馬車はほとんどが空荷だ。
「「いっぱい」」
ビッキーとチャスも地上を覗き込む。
フルゲオ大公国のレオナール大公陛下に連絡を入れる。
『にゃあ、これからちょっと上空を失礼させてもらうにゃん』
『おいマコト、ここまで来て素通りするつもりか!?』
『ルークスには用事がないにゃんよ』
『こっちにはあるんだ、クリムトに寄れ』
『にゃ、クリムトって何処にゃん?』
『小麦の集積所があるマコトが作った街だ、元々あの辺りはそう言う地名なんだ』
『にゃあ、わかったにゃん』
行き先が変更になった。
「にゃあ、大公陛下に呼ばれたから小麦の集積所に向かうにゃん」
『『『ニャア!』』』
猫耳ゴーレムたちが返事をした。
大公国の首都ルークス上空を横切る予定だったからコースそのものは変えない。そのままルークス街道にそって飛んだ。
大公国の風景は森が多い。ここから見下ろせる範囲の森はすべて結界で囲まれ人間の侵入を拒んでいる。
この森の結界が大公国の発展を阻害しつつも、同時に侵略から国を守ってきた。そろそろ転換期な気もするが、それを決めるのは大公国の人々だ。
ルークス街道は南西にまっすぐ伸びている。馬車がそこを行き来する。道路はよく整備されていた。
たぶん大公国の宮廷魔導師たちが頑張ったみたいだ。途中途中にある野営地と見覚えのある簡易宿泊所はネコミミマコトの宅配便の依頼で猫耳ゴーレムたちが作ったと報告を受けている。
沿道の屋台は地元の人間が始めたものかな。この辺りは死霊の発生の被害はなかったから復興も早いみたいだ。
○フルゲオ大公国 クリムト 集積場 倉庫 屋上庭園
上空から沿道にある村や街を見物しながら飛んで、夕方に首都ルークス郊外にあるクリムトの小麦集積所の屋上庭園に到着した。
クリムトの街の整備は猫耳ゴーレムたちが普通のゴーレムの頃から毎日行っていたので、プリンキピウムより立派なちゃんとした街になっていた。
あの野っ原が僅かな期間で街になるのだからスゴいにゃん。
○フルゲオ大公国 クリムト 集積場 倉庫 屋上庭園 魔法使いの館
『ニャア』
屋上の屋敷を取り仕切る執事役の猫耳ゴーレムから報告を受ける。
「もう大公陛下がいらしてるにゃんね」
「マコトに逢いたくてたまらないみたいだね」
「にゃあ、そういうわけじゃないと思うにゃん」
レオナール大公陛下はリビングでくつろいでいた。
近衛騎士団団長アンジェリーヌと冒険者ギルドギルマスのブランディーヌの姉に見えるけど実は妹のふたりも居る。
「おお、来たかマコト!」
相変わらず厨二病の入ったヤンキー中学生にしか見えない。
「にゃあ、お久し振りにゃん」
「久し振り!」
リーリもオレの頭の上から挨拶する。
「「こんにちは」」
ビッキーとチャスもペコリ。
「妖精も元気そうで何よりだ、ちっこいのふたりは魔法を覚えたらしいな?」
「わかっちゃった?」
リーリが問いかける。
「俺様も魔法使いの端くれだからな見ればわかる」
大公になったんだから『俺様』はどうかと思う。だからって『余』とかいわれたら爆笑するけど。
「ビッキーとチャスは精霊術師なんだよ! あたしの弟子なの」
リーリが威張る。
「精霊術師だったのか?」
大公陛下がソファーからずり落ちそうになる。
「ネコちゃん、またまた大活躍だったみたいね、出来れば聖魔石もこっちに回して欲しかったんだけど」
早速オレを抱っこするブランディーヌ。
「にゃあ、聖魔石は高いにゃんよ。それでもタリスの冒険者ギルドに一個大金貨八〇枚で卸したにゃん」
「じゃあ、ウチには一〇〇個だけお願いできない?」
「にゃあ」
ブランディーヌの格納空間に一〇〇個の聖魔石を入れてやった。
「ありがとう、代金は後でプリンキピウムの冒険者ギルドに送金しておくわね」
「にゃあ、頼むにゃん」
「マコトはアナトリの王国軍に随分と入れ込んでる様だが大丈夫なのか?」
アンジェリーヌは王国軍の動きに興味があるようだ。
「資金に関しては冒険者ギルドを通して貸してるから問題ないにゃん、それにオレが貯め込むと王国の経済がマズいことになるにゃん」
「ネコちゃんも考えてるのね」
ブランディーヌがオレの頭を撫でる。
「装備を増強した王国軍で魔獣は狩れそうか?」
大公陛下はニヤッとする。
「無理にゃんね、魔法使いがいないにゃん」
「では、魔獣を狩るのは程遠いか」
「にゃあ、現状では魔獣に下手にちょっかいを出すより、防御結界の効いた街に篭っていた方が安全にゃん」
「確かに」
「ネコちゃんが強力な武器を提供したりしないの?」
「にゃあ、強力な武器が有ったとしても魔力をバカ食いするから、まず普通の人間には使えないにゃん」
「マコト、その強力な武器は提供可能か?」
「原理は銃を強力にしただけにゃんよ、大公国の魔導師なら作れると思うにゃん」
「作れても使えるのは魔導師どもだけか」
「にゃあ、あのキモい魔導師たちだったら下手に武器を使うより魔法を有効に使った方が効率がいいにゃんよ」
「それは言えるか」
キモいは否定しないのか?
「大公陛下、武器のお話はもういいでしょう?」
ブランディーヌがまだ何か言いたそうな大公陛下を黙らせる。
「小麦なんだけど王国軍と王都の他にもアナトリ王国の多くの州から引き合いが来てるのだけど売ってはいけない州とかある?」
ブランディーヌはルークスの冒険者ギルドのギルマスとして話を始めた。
「にゃあ、最初の約束だけ守ってくれれば何処に売ってもいいにゃんよ」
「『安く提供する』でしょう? ええ大丈夫よ、厳守させてる」
「にゃあ、だったら問題ないにゃん」
「では、次は私だが、大公国軍にも魔法馬を回してもらいたい」
現在、大公国軍を統括中のアンジェリーヌが要件を切り出した。
「提供するのは構わないけど転売は不可にゃんよ、王国軍なんか馬を納品したその夜にちょろまかそうとしたヤツが出たにゃん」
「問題ない、軍内部の綱紀粛正は完了している」
「にゃあ、それで何頭必要にゃん?」
「出来れば二〇〇〇頭ほど欲しい」
「用意するのは可能にゃん、でも二〇〇〇頭にもなるとお安くはないにゃんよ」
「一頭あたり幾らだ?」
「にゃあ、大金貨一二〇枚にゃん」
「随分と高いのだな」
「森の中も走れる軍用馬としてはお安いにゃん」
アンジェリーヌは大公陛下を見る。
「安くならないか?」
大公が値引き交渉。
「王国軍にはお友だち価格で一頭あたり大金貨五〇枚で支払いは分割にしたにゃん、その条件が最低ラインにゃんね」
「分割は何年までが可能だ?」
「大公陛下が生きてるウチに返してくれればいいにゃんよ」
「悪いなマコト、こちらもそれで頼む」
「にゃあ、馬は今夜中に倉庫に出しておくにゃん」
「一晩でいいのか?」
「にゃあ、問題ないにゃん、分割に関しては冒険者ギルドが仕切って欲しいにゃん」
「了解です」
ブランディーヌが了承した。
「さあ、話し合いの後はご飯だよ! ここのご飯は鉄板焼きだよね!」
リーリが話し合いを〆た。




