帰り道も冒険にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇八月〇四日
○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地 立体厩舎
未明、昨日造られたばかりの立体駐馬場の前に集まる王国軍の兵士たちがいた。総勢三〇人。どいつもだらしなく戦闘服を着ている。
「これから新品のお馬ちゃんを頂く、一〇〇〇頭のうちの三〇頭だ。一箇所から持ち出すなよ」
ちょび髭の小男が指示を出してる。
「少尉、魔法馬を一度に三〇頭を売り捌いたら足が付くんじゃね?」
ひとりが質問する。
「心配するな、訳ありなのはお互い様だ。引き受ける商会だって頭を使うだろうさ」
「これまでみたいに少しずつ何回かに分けた方が良くないか?」
「馬鹿野郎、小麦みたいに何処でも手に入るもんじゃないんだぞ、何回もやったらそれこそ足が付くわ」
「おおさすが、少尉殿だ」
「急げ、さっさと運び出すぞ」
立体厩舎から魔法馬に乗った兵士が降りて来る。
通用門の前には荷馬車が何台も並んでいた。
魔法馬を手際よく積み込んで行く。
「ちょろいもんだな」
「まったくだ」
兵士それに御者がささやきあって笑う。
「にゃあ、こんな時間に魔法馬を持ち出してどうするつもりにゃん?」
突然の声にビクッとする兵士たち。
路上に小さな人影が見えた。
「「「子供?」」」
猫耳としっぽが付いていた。
「ヤバい、そいつは総司令の」
「殺せ!」
ちょび髭の少尉が命令した。
「にゃあ、こそ泥ふぜいのお前らにオレを殺せるにゃん?」
「早くしろ!」
ちょび髭が叫んだ。
しかしいろいろ噂を耳にし昼間の倒壊事故の現場での働きを見ていた兵士たちは後ずさる。
「どうしたおまえら、子供一人に何をビビってる?」
チンピラ風の馬車の御者が銃を取り出してオレに向けた。
「にゃあ、そんな銃でオレを殺せるとでも思ってるにゃん?」
「こいつは度胸のあるガキだ、でも久し振りの大商いを邪魔されるわけにはいかねえんだ、悪く思うなよ」
御者が引き金を引いた。
キン!と甲高い音が響いて火花が散った。
「にゃあ、ちゃんと狙ってるにゃん?」
「ちっ、どうなってやがる」
続けて連射するがどれも火花を飛び散らせるばかり。派手に撃ちまくったせいで御者の魔力も尽きてきた。息が上がって足元がふらついてる。
「にゃあ、飽きたんで捕まえていいにゃんよ」
『『『ニャオ!』』』
猫耳ゴーレムたちが認識阻害の結界を解いた。
「「「囲まれてる!?」」」
兵士たちが驚きの声を上げた。
「そういうことにゃん」
『『『ニャオオ!』』』
猫耳ゴーレムたちは、オレを殺そうとしたこいつらに激怒していた。
「にゃあ、死なない程度にぶっ飛ばしていいにゃんよ」
『『『ニャア!』』』
秒殺だった。
○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地
夜が明けて朝の早い時間にハリエットが駐屯地にやって来た。
「まさかこんなにも早く動くとはな」
立体厩舎を見上げる。
「マコトから借りた真実の首輪で芋づる式に関係者を追っています、中堅の商会に男爵級の法衣貴族も絡んでるようですね」
ハリエットの横でドゥーガルド副司令が苦い顔をする。魔法馬を盗み出した兵士たちと馬車の御者たちは全員お縄で犯罪奴隷行きが確定だ。
「にゃあ、王国軍レベルで真実の首輪すら持ってないのはマズいにゃんね」
驚きの備品の無さだ。
「確かにそうだ、今回は王都守備隊の手を借りたが、王国軍の憲兵隊も強化する必要ありだな」
「それがいいにゃん」
「マコトは何でも持ってるんだな」
「冒険者はいろいろ必要にゃん」
「マコト、真実の首輪を譲っては貰えないだろうか?」
「いいけど高いにゃんよ」
「わかってる、しかし高くても今後のことを考えるとないでは済まされない」
「だったらいま貸してる分をそのまま王国軍に無期限で貸与するにゃん」
「いいのか、二〇本も?」
「にゃあ、余裕が出たらちゃんと刻印師から買うといいにゃん」
「わかった、そうしよう」
○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地 司令部 総司令執務室
朝食はハリエットの執務室で食べることになった。ビッキーとチャスも連れて朝食の準備をする。
「ふう、良く寝た」
リーリがオレの胸元から這い出て来る。未明の捕物のときもオレのおなかに張り付いてすやすや眠っていた。
「おはよう、あれ、ここ何処なの?」
「ハリエット様の執務室にゃん」
「今朝はハリエットの部屋で朝ご飯なんだね!」
「にゃあ」
今朝のメニューはクラブハウスサンド。
それにマンゴーぽいジュース。
「俺もご相伴に預かっていいのか?」
「いいよ」
リーリがドゥーガルド副司令に許可を出した。
ビッキーとチャスが猫耳ゴーレムに助けられながら皿とコップを並べる。
「マコトは今日発つのか?」
「にゃあ、この駐屯地も居心地は悪くないにゃん、でも、ここに長居するのは良くないにゃんね」
「誰かそんなことを言ったのか?」
「にゃあ、言われなくてもわかるにゃん、下手に王宮の貴族どもを刺激しないでさっさとプリンキピウムに帰るにゃん」
「そうか、帰るのか」
ハリエットはしょぼんとする。
「にゃあ、オレが何処にいてもハリエット様は守るにゃんよ」
「それは頼もしいな」
「マコトは嘘をついてないから安心していいよ」
リーリが保証する。
「にゃあ」
「わたしも」
「わたしもまもる」
「ビッキーとチャスも守ってくれるなら私も無敵だな」
ハリエットに笑みが戻った。
「帰り道、マコトたちも気を付けろよ」
ドゥーガルド副司令がオレを見る。
「にゃあ、オレみたいな冒険者を襲っても何の得もないにゃんよ」
「王宮で危険視されてるのはハリエット様ではなく、むしろマコトだ」
「オレにゃん?」
「ハリエット様は単独で魔獣を退治したりしないからな」
「にゃあ、オレが狙われる分には問題ないにゃん」
「だからって油断するなよ」
副司令は念を押す。
「にゃあ、わかってるにゃん、オレもひとりじゃないから十分に気を付けるにゃん」
「それとマコト」
「にゃ?」
「おかわりをくれ」
「あたしも!」
ドゥーガルド副司令とリーリが皿を差し出した。
細かな金銭のやり取りは冒険者ギルドに丸投げしてるので、ハリエットの執務室にオレのロッジと同じ魔導具を突っ込んだぐらいで仕事は終わった。
王都の知り合いも増えたことだし、近いうちに拠点を作りたいところだ。王宮の貴族がうるさくなければすぐに屋敷を手に入れるのだが今回は泣く泣く見送りだ。
近いうちにこっそり王都に来て拠点を手に入れトンネルでプリンキピウムや大公国の領地と繋ぐにゃん。
○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地 駐車場
午前の内に駐屯地を皆んなに見送られて出発する。
「マコト、世話になった」
ハリエットが手を振ってくれる。
「またね、マコト!」
「またなのです!」
キャリーとベルが笑顔で送り出してくれる。
「にゃあ、また来るにゃん!」
「気を付けて帰るのだぞ!」
アーヴィン様は心配そうだ。
「ネコちゃん元気でね!」
「お気を付けて!」
キャサリンとエラも手を振る。
「にゃあ、また来るにゃん!」
「「「バイバイ!」」」
リーリとビッキーとチャスも手を振った。
馬車隊が動き出す。
オレたちは、歩哨の兵士の敬礼に見送られて王国軍駐屯地を後にした。
正直なところもっとキャリーとベルと一緒に居たかった。
でも、大丈夫、泣かないにゃん。
○王都タリス 外縁部 環状線
王国軍駐屯地を出て馬車隊は王都外縁部を走る環状線に入った。
『『『ニャア!』』』
四頭立ての馬車が全部で一六台、帰りは騎馬は置かず猫耳ゴーレムは全員が馬車に乗っている。
オレは先頭の馬車の御者を務め、ビッキーとチャスはオレの隣でリーリは頭の上だ。
猫耳ゴーレムたちは馬車の幌の上に鈴なりだ。
『ニャア?』
幌の上から猫耳ゴーレムに質問される。
「にゃあ、帰りのコースはレークトゥス州からフルゲオ大公国に抜けて行くにゃん」
『ニャア』
「アポリト州は王国が立ち入り禁止にしたみたいにゃんね」
「マコト、ルールは破る為にあるんだよ」
リーリが悪い妖精になってる。
「にゃお、あんな何もないところより、大公国の皆んなと美味しいモノを食べた方がいいにゃんよ」
「異議なし!」
妖精は更生した。
「その前に王都の冒険者ギルドに寄るにゃん」
聖魔石を売らないといけない。
「にゃあ、皆んなこっちを見てるにゃん、王都は田舎じゃないから子供の御者が珍しいにゃんね」
駐屯地を出ると沿道の人たちがオレたちの馬車をガン見していた。
「スピードも出せないからちょっと恥ずかしいにゃん」
王都だけ有って城壁の外でも道は混み合っていた。それに沿道は、お祭りでもやってるのかって言うぐらい人が多い。
その人たちが一斉にオレたちを見てる。
『ニャア』
「にゃあ、こんなところで認識阻害の結界にゃん?」
「いいんじゃない?」
「だったら、使ってみるにゃん」
認識阻害の結界を張った途端、道路を横断しようと防御結界にぶち当たる人多数。
ですよねぇ。
「にゃあ、危なすぎにゃん」
認識阻害の結界を外した。
また注目を浴びた。
「郊外に出るまでは仕方ないにゃん」
○王都タリス 冒険者ギルド
王都外縁部西側にある冒険者ギルドに馬車を連ねて立ち寄った。
「王国軍の駐屯地の司令部よりずっと立派にゃん」
「大きいね」
「「冒険者ギルド?」」
「にゃあ、王都の冒険者ギルドにゃん」
オパルスの冒険者ギルドの建物も大きかったが、こちらはその数倍はあった。アナトリ王国の冒険者ギルドを束ねてるだけはある。
猫耳ゴーレムたちを馬車で待機させ、オレたちが扉をくぐると荒くれ者の冒険者がそこいらにたむろ。
なんてことはなくてごく普通の男女がベンチに座って受付の順番を待っていた。どことなく銀行を連想させる。
「ネコちゃんたち、いらっしゃい!」
ギルマスのマティルダが出迎えてくれた。
「にゃあ、聖魔石を納品するにゃん」
「ありがとう、ではこっちに来てくれるかしら」
オレたちは倉庫ではなくマティルダの執務室に案内された。納品前に書類を先に処理するのだろうか?
「にゃあ」
執務室にはオパルスの冒険者ギルドにあった貯蔵の魔導具と似たものが鎮座していたのを見て納得した。
こちらの納品の魔導具はオパルスより小さくて一辺が一メートル程度の黒い石で出来た立方体だ。
「ここで納品できるにゃんね」
「ええ、秘密裏に処理したい獲物や高価な物の納品に使ってるの、それでネコちゃん、聖魔石はいくつ売ってもらえるのかしら?」
手持ちはグールの聖魔石一〇万個とオーガの聖魔石一万個なわけだが、間違いなく一個あたりの値段がバカみたいに高いはず。
「いくつでもいいにゃんよ、ちなみにこの聖魔石は一個いくらするにゃん?」
サンプルにグールの魔石を取り出してマティルダに渡した。
「これなら、大金貨八〇枚ね」
「にゃあ、死霊の魔石よりずっと高いにゃんね」
「死霊の魔石も希少だけど聖魔石はそれを上回る希少性だからね」
「にゃあ、サンプルと同等品は一万あるにゃん、冒険者ギルドはいくつ買ってくれるにゃん?」
「全部と言いたいところだけど、お値段がお値段だから半分の五〇〇〇個でどうかしら?」
「いいにゃんよ」
貯蔵の魔導具にグールの聖魔石を五〇〇〇個納品した。マティルダが魔導具を操作して確認した。
「大金貨四〇万枚分ね。用意してあるけど持っていく?」
「にゃあ、貰って行くにゃん」
「それがいいわね、人を介すとそれだけ情報が流れやすくなるから」
「そうにゃんね」
それから王国軍の監査業務の支払いやらなにやら。
実は監査で不正を発見した場合、その当事者は犯罪奴隷になるのだが今回はその売上がオレに還元される契約になっていた。
「これ黒字にゃん?」
「そうなるわね、依頼料と差し引きしても黒字になるわね」
冒険者ギルドに依頼を出してお金を貰うことになった。
「何か不思議な気分にゃん」
○王都タリス 外縁部 環状線
王都の冒険者ギルドで大金貨をどっさり受け取った後は、また馬車を連ねて出発した。
大公国に向かうのでまずは王都の隣のレークトゥス州を目指す。
レークトゥス州から南西に進む街道に入れば大公国だ。
まだ先は長い。
○王都タリス レークトゥス街道
昼過ぎに環状線から郊外に抜け農村地帯に入った。一応ここは王都の範疇だ。
「王都周辺は人がいっぱいだったけどちょっと臭かったにゃんね」
「うん、プリンキピウムより臭かった」
リーリが同意する。
「「くさかった」」
ビッキーとチャスもうなずいた。
「にゃあ、プリンキピウムは人間が少ないからまだマシだったにゃんね」
駐屯地はゴーゴー水が流れるちょっと怖い水洗トイレだったが、少なくとも臭いはそんなでも無かった。
王都とはいえ全部が全部、下水が完備してるわけじゃないってことか。
あの水量だと水道工事も命懸けだしな。
レークトゥス州に向かう街道を行くのは商会所属の荷馬車が五割、乗合馬車と農家が二割ずつで、オレたちみたいなその他が一割って感じだ。
速度がそこそこのってきた。さっきまでは片側二車線のどちらも埋まっていたが、やっと追い越しを掛けても無理のない交通量になった。
「にゃあ、飛ばすにゃんよ」
『『『ニャア!』』』
猫耳ゴーレムたちも大賛成だ。
「行け!」
妖精がいちばんノリノリだった。
「「はやーい!」」
ビッキーとチャスもテンションが上った。
「安全第一にゃんよ」
『『『ニャア!』』』
他所様の魔法馬を遠隔操作しつつオレたちの馬車の速度を上げる。いまにも壊れそうな荷馬車が走ってるプリンキピウムに向かう街道に比べたら簡単過ぎて居眠りしそうだ。
常識の範囲内と思われる単騎で飛ばす早馬の速度を超えないぐらいで、他の荷馬車をごぼう抜きしながら境界門を越えてレークトゥス州に入った。
○レークトゥス州 ルークス街道
麦畑に草原が混じり始める。森こそ少ないが人口密度がぐっと低くなった。
レークトゥス州からクプレックス州経由でフルゲオ大公国に向かう街道に入り込むと片道二車線がなくなって道も悪くなる。
これまでは交易ではほとんど使われてなかったのだからこれは仕方ないか。
馬車の速度を落とす。
他に馬車が居なければ速度を上げられるのだが、思い切り混んでいた。
「にゃあ、思ってた以上の交通量にゃん」
『ニャア』
「そうにゃんね、迂回の馬車だけじゃないにゃん」
王都に向かう馬車の多くが小麦粉の入った袋を満載していた。どれもネコミミマコトの宅配便のマークが入った袋だ。
「オレのところの小麦粉を積んでるにゃん」
オレの領地は予想以上の速度で発展してるみたいだった。
「ちょっと退屈だね」
「にゃあ」
リーリは替わり映えのしない風景に飽きてしまったらしい。
「「すぴー」」
ビッキーとチャスはお昼寝中だ。
「にゃあ、馬車が詰まってるから速度が出せないのも痛いにゃん」
大公国に通じる道に入ったら、人が少なくなったところで馬車からドラゴンゴーレムに乗り換えて飛んで行こうと思っていたのだが、実際には交通量が増えてしまった。
『ニャア』
幌の上にいる猫耳ゴーレムから声が掛かった。
「にゃあ、脇道に入って街道から見えない場所から飛ぶにゃんね? いいにゃんね、それで行くにゃん」
ただ脇道が無かった。
「ないなら造るにゃん!」
○レークトゥス州 ルークス街道脇
進路を南に向けて草原に乗り入れる。
『『『ニャア!』』』
猫耳ゴーレムたちの馬車も続く。
その後の関係ない馬車も付いて来そうになったが不整地に脱輪しそうになって諦めた。
近道をするとでも思ったのだろうか?
目の前のちょうどいい感じの丘があるのでそれを乗り越えて馬車を停めた。
丘の向こう側は水の枯れた池の様な窪みで全方向遠くから見えないのでちょうど良かった。
全部の馬車を仕舞ったらドラゴンゴーレムの準備だ。
「にゃ?」
突然、魔法の気配がした。それもかなり大きな気配だった。




