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魔法馬を納品にゃん

 ○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地 駐車場裏


「この辺りならいいぞ」

 ドゥーガルド副司令が自ら厩舎を設営する場所を指定した。駐車場の裏のただ整地してあるだけの野っ原だ。そこそこ広いので平屋じゃなければ何とかなりそうだ。

「厩舎の高さに制限あるにゃん?」

「いや、馬鹿みたいに高くなければ問題ない」

 魔法馬や馬車を置くだけだからこれも立体駐車場みたいな建物でいいだろう。

「にゃあ、造るにゃん」

「ああ、いいぞ」

「「「にゃあ!」」」

 ビッキーとチャスも手を貸してくれて立体厩舎が地面からムクムクと生えるように現れる。

「「「おおお!」」」

 ドゥーガルド副司令と部下たちが声を上げる。

「こいつは大きいな」

「一〇〇〇頭の魔法馬と馬車を何台か入れるとこんなモノと違うにゃん?」

「そう言われるとそうか」

「魔法馬も入れてあるから確かめて欲しいにゃん」

「もう出来てるのか?」

「にゃあ」

 魔法馬は、すでに格納空間に入っていたのでそれを出すだけだった。立体駐車場風厩舎の完成と同時に再生してある。

「わかった、すぐに調べよう、おまえら行くぞ」

「「「了解です!」」」

 ドゥーガルド副司令は部下に指示を出しつつ先頭を切って納品された魔法馬のチェックに向かった。


 ひと仕事を終えてオレたちはまた会議室に戻った。



 ○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地 司令部 会議室


「にゃ!?」

 そこには見知った顔があった。

「マコト?」

「マコトなのです」

 キャリーとベルがいた。

「にゃあ!」

 身体が勝手に反応して気が付いたらふたりに抱き着いていた。

「あたしもいるよ!」

 リーリが存在を誇示する。

「本当に妖精さんだ」

「実在していたのです」

 ふたりがリーリに実際に会ったのは初めてか。

「みゃあ」

 なんか涙がポロポロ出て来る。

「マコトはいっぱい頑張ったんだね」

「偉いのです」

 キャリーとベルに頭を撫でてもらう。

「にゃあ、キャリーとベルがいろいろ教えてくれたから何とかやって来れたにゃん」

「涙を拭いて」

 ハンカチで涙を拭いてくれた。ちょっと照れくさくなった。

「「マコトさま」」

 オレが泣いたせいでビッキーとチャスまで涙目になっていた。

「にゃあ、大丈夫にゃん、久しぶりに会ったから嬉しくて泣いちゃっただけにゃん」

 オレの言葉を聞いてビッキーとチャスはほっとしたみたいだ。

「私たちもマコトのおかげでいろいろ助かってるのです」

「にゃあ、ふたりの役に立てて良かったにゃん」

 オレの六歳児の部分が満たされる。


「こうして見るとマコトも年相応であるな」

「かわいい」

「だからって舐めて掛かると痛い目を見ます」

「それは間違いあるまい」

「可愛いことに変わりはありませんが」

「同感です」

 アーヴィン様たちが生暖かい視線を送って来ていた。


 突然、ドン!と大きな音が響き渡り振動が伝わった。

「なににゃん!?」

「事故?」

「間違いないのです!」

 キャリーとベルの反応が速い。オレもふたりが顔を向けた方向に探査魔法を打つ。音の原因はすぐにわかった。

「にゃあ、あっちで建物が崩れてるにゃん!」

「倉庫のある方角だね」

 そこに伝令が飛び込んで来た。

「搬出作業中の第三倉庫が倒壊! けが人多数!」

「わかった、直ぐに救助開始だ」

 ハリエットが指示する。

「ベル、私たちも行くよ」

「了解なのです!」

「マコト後でね」

「にゃあ、オレも行くにゃん」

「わかったのです」

「マコトをお借りします」

 キャリーとベルと一緒に会議室から走り出た。

「「マコトさま!」」

 ビッキーとチャスも着いてきた。

「にゃあ、オレにくっついてるにゃんよ」

「「はい!」」

 ふたりの手を握って飛翔を使い、ほんの少し浮いた状態で地表を滑るように加速してキャリーとベルを追った。



 ○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地 第三倉庫前


 倒壊した倉庫の周囲はもうもうと土埃が舞い、顔を真っ黒にした兵士たちが呆然としていた。

「にゃあ、埃を消すにゃん」

 土埃を分解するとスッキリした視界の向こう側に倒壊した倉庫が見えた。

 掘っ立て小屋然としていた建物だった割に瓦礫はうず高く積み上がっている。倉庫の中にかなり物が詰め込まれていたせいだ。

「壊れたのは一つじゃないみたいだね」

 リーリの言葉どおり倉庫が三棟あったはずだが、すべて瓦礫の山に変わっていた。

「ここにあった倉庫は全部つぶれたみたいにゃん」

「そうこ?」

「ちっちゃいそうこ?」

 ビッキーとチャスは首を傾げた。

「にゃあ、ちっちゃくはなかったにゃんよ」

 木造にしては大きな建物だった。掘っ立て小屋っぽかったけど。

「妖精さんとマコトが言ったとおり倉庫が三つあったよ」

「きっと最初に倒壊した倉庫の煽りを受けたのです」

 現場では下敷きになった人を助けようと兵士が集まってきた。

「私は救出作業を手伝うから、ベルとマコトはけが人を治療してあげて」

「了解なのです」

「にゃあ、オレのゴーレムたちも手伝わせるにゃん、おまえたちはキャリーの指示に従うにゃん」

『『『ニャア!』』』

 猫耳ゴーレムたちが駆け寄って来た。

「わっ、いっぱい来た」

「にゃあ、指示していいにゃん」

「わかった、まずは瓦礫の撤去とけが人の救出をお願い」

『『『ニャア!』』』

 猫耳ゴーレムたちは魔法も併用してけが人たちを次々と掘り出して来る。

 オレとベル、それにビッキーとチャスも駆け付けた王国軍の治癒師たちと一緒に治療する。

 実際のところエーテル器官に魔力を流し込めばOKなので簡単な部類に入る。エーテル器官に魔力を流し込むのがちょっとコツが要るけど。

 ビッキーとチャスにはいい経験になるだろう。

 瓦礫の中で、ぱっと見、死んじゃってる兵士はオレが担当した。

 魂が抜けてなければなんとかなる。

「あれ、俺、生きてる?」

 さっきまで見た目は完全に死んでいた若い兵士は目をパチクリさせる。

「にゃあ、もう大丈夫にゃん」

「えっ? お、おう」

「マコト、こっちも頼む!」

「にゃあ!」

 オレを呼んだのは、クレア・アランデル少尉。キャリーとベルの上官で姉のような存在の人だ。直ぐに駆け付けて現場を仕切ってくれた。

「おまえたちは上から順番に瓦礫を除去してくれ」

『『『ニャア!』』』

「崩れないようにバランスに注意だぞ」

『『『ニャア』』』

 猫耳ゴーレムに手際よく指示も出してくれる。

「どうだマコト、何とかなりそうか?」

 瓦礫の中に倒れている兵士の腹には木材が深々と突き刺さっていた。

「にゃあ、問題ないにゃん」

 木材の除去と体内の洗浄それに治療を行う。

 こちらの兵士もすぐに目を覚ました。

「よし、動けるようになったら兵舎に戻って休め」

「はっ、ありがとうございます!」


 一時間ほどで瓦礫の撤去と下敷きになった兵士の救出は完了した。


 倒壊は積み重ねてある故障した馬車を無理やり引っ張り出そうとして、荷崩れを起こして柱を折ったのが原因らしい。

「にゃあ、馬車って積み重ねて保管するにゃんね」

「場所が無かったからな」

 クレア少尉は、首筋の見えるショートカットの青い髪に筋肉質の引き締まった身体、背は高くそして冒険者ギルドの幹部が狙える立派なプロポーションの十八歳だ。

 ビキニアーマーが似合いそうだが、残念ながらこちらの世界にはなさそうにゃん。

「クレア少尉は魔法が使えるにゃんね」

「生活魔法が少々使える程度だ、それでもそれがあったから生き残れたとも言える」

 キャリーとベルと同じく孤児出身だから、かなり劣悪な環境で育ったのだろう。

「エーテル器官にちょっと影があるから治すにゃん」

「治す?」

「心配ないからマコトに任せて」

「マコトはエーテル器官を治せるのです」

 キャリーとベルがクレア少尉に説明する。

 治癒魔法の光で包み込む。

 ついでに美容魔法も掛けてやった。

「おお、魔力の通りが良くなってる、しかしあれだけ治癒魔法を使った後なのにマコトの魔力は底なしなのか?」

「底なしじゃないにゃんよ」

 エーテルが消えたらそれまでだ。

「ビッキーとチャスもご苦労だった」

「「はい」」

 ふたりはリーリが指導した精霊魔法をベースにしてるのでこちらも魔力切れとは無縁だ。でも慣れない治癒魔法を使って疲れたみたいだ。

「マコト、クレア姉にも魔法馬と銃をわけてあげてくれないかな?」

「そうなのです、わけてあげて欲しいのです」

 キャリーとベルに頼まれた。

「いいにゃんよ」

「即答なのです」

「キャリーとベルの頼みなら断らないにゃん」

 それにクレア少尉みたいな人はやっかみを受けやすい。出る杭は打たれるのは何処の世界も一緒だ。

「魔法馬? 銃?」

 クレア少尉は何も知らないので首を傾げる。

「にゃあ、他の人にはあげてないから秘密厳守で頼むにゃん」

 クレア少尉の格納空間を魔法馬の魔力を使って増設し銃と馬とテントを入れた。

「これは!?」

「にゃあ、テントはおまけにゃん」

 取説もエーテル器官を通して流し込んだ。

「走らせてもいいか?」

 脳筋だ。

「いまはダメに決まってるにゃん」

「マコトの馬と銃は最後の切り札なのです」

「そうだよ、だから他人には見せちゃダメだよ」

「わかった、しかし、こんな高価なものを貰ってもいいのか?」

「クレア少尉にはキャリーとベルを守って欲しいにゃん」

「マコトに言われるまでもないぞ、私の妹分だからな」

「にゃあ、それなら安心にゃん」



 ○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地 兵舎


 それからキャリーとベルに頼まれて女子の兵舎のトイレとシャワーを中心に改修とウォッシュをして回った。

 それに空調の魔導具と防御結界を入れる。

 入口と兵舎のウォッシュ機能がいちばん喜ばれた。

 可哀想なので男子の兵舎も同様に改造する。オレたちが救助活動をしたこともあって皆んな礼儀正しかった。



 ○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地


「マコト、私はまた明日来るから勝手に帰るなよ」

 夕方、青いお馬に乗ったハリエットがオレに命じる。

 これから城壁内の館に帰宅するのだ。

「にゃあ、ちゃんと待ってるにゃん」

「ではハリエット様、参りましょう、マコトまた明日なのである」

「またねネコちゃん」

「また明日」

 アーヴィン様に守護騎士のふたりが続く。

「ハリエット様の聖魔石の魔法馬もマコトが作ったんだろう? スゴいね、周囲が勝手に聖別されちゃってるよ」

 確かにキラキラと光の粒子が天に還って行く。マリオンの眼も負けず劣らずキラキラしてる。

「にゃあ、そんなことよりハリエット様が行っちゃうにゃんよ」

「ああ、これは大変だ、ではマコト、また会おう!」

 マリオンは低空飛行魔法で追い駆けて行った。

「落ち着きがない魔導師だね」

 リーリがオレの頭の上で呟く。

「にゃあ」

「マコトには士官用の宿舎を用意するから駐屯地内で泊まってくれ」

 ドゥーガルド副司令も駐屯地に泊まるらしい。

「にゃあ、オレは自分のロッジを持ち歩いてるから、場所さえ貸してくれればそれでいいにゃん」

「ロッジか、邪魔にならない場所なら構わないぞ」

「ありがとうにゃん」



 ○王都タリス 外縁部 北部地区 王国軍駐屯地 駐車場脇 ロッジ


 駐屯地の敷地内にロッジを出す許可をもらったので、猫耳ゴーレムたちのいる馬車の横に再生した。

 それからキャリーとベルのいる小隊を呼んで夕食を振る舞った。

 居酒屋のコース料理みたいになったのはオレが作ってるから仕方ないにゃんね。

「「「美味しい!」」」

 でもおいしさは保証する。

「美味しいね」

「「美味しい」」

 リーリとビッキーとチャスも大満足だ。

 クレア少尉も誘ったのだが、上官がいるとゆっくりできないだろうからと遠慮したのだった。

 いい上司にゃん。


「マコトはこの後、どうするのです?」

「にゃあ、まずはプリンキピウムに帰る予定にゃん」

「直ぐに帰っちゃうんだ」

「にゃあ、あちこち中途半端になってるにゃん」

「マコトは王都から子供たちだけで帰るの?」

「それはいくらマコトでも危ないのです」

「にゃあ、猫耳ゴーレムがいっぱいいるから平気にゃん、あいつらもそれなりに強いにゃん」

『『『ニャア』』』

 給仕をしている猫耳ゴーレムたちが返事をした。

「『任せろ』と言ってるにゃん」

「うん、それは見ててわかった」

「魔法も使っていたのです」

「猫耳ゴーレムは、他の人に渡しちゃダメだよ」

「にゃあ、当然にゃん、あれはオレの家族みたいなものにゃん」

『『『ニャア』』』

 給仕の途中で入れ替わりオレにスリスリする猫耳ゴーレムたち。

「マコトさまはわたしたちがまもります!」

「まもります!」

「ビッキーとチャスもお願いするね」

「でも、無理は禁物なのです」

「「はい」」

「帰り道は大丈夫なの?」

「にゃあ、アポリトが入れないから大公国を抜けて帰るにゃん」

「そう言えば大公国の貴族様なんだものね」

「大公国では、もう貴族であっても威張り散らせないから安心にゃんよ」

「マコトに手を出したらぶっ飛ばすけどね」

「わたしもぶっ飛ばす」

「わたしも」

 ビッキーとチャスの言葉遣いが汚くなったのはもしかしてオレのせいか?

「あの大公国も普通の国っぽくなったんだね」

「たぶん、いいことなのです」

「にゃあ、オレもそう思うにゃん」


 消灯時間まで楽しく過ごした。


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