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空から来たにゃん

「にゃ!?」

 オレは顔を上げた。

「どうしたマコト?」

 ハリエットもオレの視線の先の空を見た。

「誰かこっちに飛んで来るにゃん」

「「とんでる!」」

 ビッキーとチャスも東の空を指差した。

「あれは魔法使いだね」

 リーリがオレの頭の上で腕を組んだ。

「魔法使いであるか?」

 アーヴィン様も眼を凝らす。

「にゃあ、ちゃんと飛翔の魔法が使えるレベルだから宮廷魔導師クラスにゃんね」

「撃ち落としちゃえば?」

 妖精は気軽に言ってくれる。

『『『ニャア!』』』

 馬車の前後を固める猫耳ゴーレムたちもやる気だ。すでに銃を構えてる。

「ハリエット様はどうするのがいいにゃん?」

「様子を見よう、攻撃して来たら反撃すればいい」

「要人に飛翔で近付いたら普通は撃ち落とされます」

 エラが教えてくれる。

「ハリエット様に毒を盛った魔導師ではないのか?」

 アーヴィン様も空を睨む。

「にゃあ、それはないにゃん」

「ないのであるか?」

「性懲りもなくまたハリエットに呪いを掛けて、マコトに呪い返しを食らったから運が良くてもまだ動ける状態じゃないよ」

 リーリがバラしてしまう。

「「「えっ!?」」」

「そんなことがあったのか?」

 当事者のハリエットも驚く。

「呪いを倍返ししただけにゃん」

「マコト、犯人はわからなかったのか?」

 ハリエットに訊かれたがオレは首を横に振った。

「にゃあ、流石に無理にゃん」

 問題の飛翔で接近した魔導師は、こちらの防御結界に接触する前に道端に着地して膝を着いた。

「魔力切れにゃん?」

「いや、アレは臣下の礼であろう」

 アーヴィン様が教えてくれた。

「いまのうちに撃っちゃえば?」

 リーリは容赦がない。

「それがいいわね」

 キャサリンが同意する。

「魔法使いには先手必殺が基本です」

 エラもリーリと同じく容赦ない系だ。

「いや、誰なのか確かめよう」

 ハリエットがいちばん冷静だった。

「ハリエット様が仰る通りそれがよかろう」

 アーヴィン様も同意した。


 魔導師の手前で猫耳ゴーレムの騎馬と馬車を停めて、オレたちの乗った馬車を前に出した。

「宮廷魔導師と見受けるが何者であるか?」

 アーヴィン様の誰何すいかに魔導師らしき男が顔を上げる。

 見た感じ十八歳ぐらいか?

 長い黒髪は後ろで束ねた総髪できりりとした美青年だ。魔力の大きさからすると本来の年齢はアラサーか?

「おお、これはマリオン殿であったか」

 アーヴィン様の身体から緊張が抜ける。どうやら知り合いの魔導師らしい。

「ご無沙汰しておりますアーヴィン様、本日はハリエット様の護衛に加わるように命じられ馳せ参じました」

「誰に命じられた?」

 問い掛けたのはハリエットだ。硬い声の調子からするとまだ信用してない。

「エドモンド様にございます」

 マリオンはうやうやしく依頼人の名前を明かす。

「にゃあ、誰にゃん?」

「第二王子殿下です」

 オレのちっちゃな問い掛けにエラが教えてくれた。

「エドモンド様か、それでそなたは私の居場所をどこで知った?」

「アルボラの領主カズキ・ベルティ様がエドモンド様に伝えられたと聞いております」

 マリオンの口からオレの知ってる名前が出た。

『にゃあ、オレにゃん、マリオンてのが来たにゃん、信用して大丈夫にゃん?』

 早速、確認のためカズキに念話を入れた。

『なるほどマリオンが行ったのか、護衛はボクが第二王子に頼んだんだよ。彼だったらアーヴィン様が知ってるはずだから信用していいよ』

『にゃあ、了解にゃん』

 カズキが送ってくれた画像とも一致した。

「裏が取れたにゃん、大丈夫にゃん」

 ハリエットに耳打ちした。

 ハリエットは小さく頷いて立ち上がった。

「わざわざすまない、感謝する」

「マリオン・カーターにございます、次席魔導師を拝命してございます」

「次席殿とは、エドモンド様も随分と奮発された様だ」

「もしかしてハリエット様を背負って飛んで帰るにゃん?」

「そちらはマコト様ですね、いいえ、同行させていただきます」

「にゃあ、マコト・アマノにゃん、それとオレに様付けはヤメて欲しいにゃん」

「あたしはリーリだよ!」

「ビッキーです」

「チャスです」

「妖精さんと小さな魔法使いがふたりですね、カズキ様が仰っていたとおりです」

「にゃあ、マリオンはカズキ様とも親しいにゃん?」

「ええ、子供の頃から良くしていただいています、それにしてもマコトの魔導具は素晴らしいの一言に尽きるね」

 おっ、急に馴れ馴れしくなったぞ。

「にゃあ、後でじっくり見せるから出発するにゃん」

 マリオンはニコニコして道端に突っ立ってる。

「マリオンも乗るにゃん?」

「ありがとう」

 上空から警戒ってわけじゃないにゃんね。

 馬車にマリオンも乗せて出発した。

「エドモンド様に命じられたのが今朝で、馬も持たずに飛んで来た次第でして、すいません」

 頭を下げるマリオン。

「エドモンド様は相変わらずであるな」

 苦笑いなアーヴィン様。

「ええ、悪い人ではないのですが、計画性がないといいますか」

 上司にしたくないタイプだが、後先考えずに飛んで来るあたりマリオンも似た匂いがするぞ。

「にゃあ、マリオンに質問にゃん、宮廷魔導師の中で最近、体調を崩した人はいないにゃん?」

「高齢の導師が多いから最近も何人か亡くなったよ。ただ人数が多いから私も正確なところは把握できてないかな」

「宮廷魔導師ってそんなにいるにゃん?」

「登録されてるのが三〇〇〇人ちょっとで城内に参内してるのが二〇〇〇人ぐらいだね、これもちょくちょく変わるから私も見たことがない人もいっぱいいるよ」

「にゃあ、随分いるにゃんね」

「魔導師と言うのは便利に使われる生き物だからね、宮廷を廻すにはそれぐらい必要らしいよ」

「にゃあ、勉強になったにゃん」

「マコトは何故そんなこと知りたいんだい?」

「七月二七日の夜、ハリエット様に呪いを掛けたヤツがいるにゃん。その呪いをオレが返したにゃん」

「呪いの種類は?」

「これにゃん」

 黒い霧の蛇を出した。

「これは即死系の禁呪だね、これの倍となるとただでは済まないか」

 マリオンは見ただけで呪いの種類と強さを把握した。

 蛇は四散させる。

「わかった、その時刻を境に体調を崩したり連絡が取れなくなった魔導師がいないか調査させるよ」

「にゃあ、よろしく頼むにゃん」

 宮廷魔導師のことは宮廷魔導師に頼むのが確実だろう。

「マコトはスゴいね、六歳であの呪法を返せるなんて」

「マリオン殿、私に掛けられた呪法はそんなに強力なのか?」

 ハリエットが眉間にシワを寄せる。

「はい、あのレベルになると王国内でも完全に防ぎ切る人間は五人と居ないでしょう、ハリエット様は良い縁を結ばれましたね」

 爽やかな笑みを浮かべる。

「そうだな」

 ハリエットは頷いてオレを見る。ちょっと照れくさい。

「にゃあ、マリオン、その呪法を使える人間もそうは多くないと違うにゃん?」

「たぶんね、ただし使える呪法を公にする魔導師はいないから、そこからの特定は難しいと思うよ」

「それもそうにゃんね」

 わざわざ手の内を明かすヤツはいないか。

「それでマリオンの本当の目的は何にゃん?」

「第一の目的がハリエット様の護衛なのは間違いないよ、第二の目的はマコトの調査だ、これはエドモンド様というより国王陛下の依頼だね」

「にゃあ、王様がオレを調べて来いって言ったにゃん?」

「そうだよ」

 何かとんでもない事をさらりと言ってのけた。

「陛下は、私が革命権を行使するのかを見極めたいのだろう」

 ハリエットが補足してくれる。

「にゃ、革命権にゃん?」

「王位継承権を持つ者は、王宮を武力で制圧して力なき王を排除し即位することができる、それが革命権だ」

「この国には、物騒な決まり事があるにゃんね」

「王国軍の再建にご尽力されているハリエット様が、革命権を行使などしないことは陛下もご存じですが、宮廷内には五月蝿いヤツらがいますので」

 マリオンが補足する。

「マコトの力を知れば危惧するのも仕方ないか、しかし革命権とは、私も失念していたぞ」

「オレなんか最初から知らなかったにゃん」

「マコトはすでに王国の貴族ゆえ、王国法を勉強した方が良さそうであるな」

 アーヴィン様もアドバイスしてくれる。

「王国法の本は、オパルスの図書館には無かったにゃん」

「図書館にはないんじゃない?」

「大半は貴族の館の図書室で埃を被ってますね」

 キャサリンとエラが教えてくれた。

「宮廷の貴族どもが慌てている姿が目に浮かぶわい」

 アーヴィン様は楽しそうだ。

「にゃ?」

「やはりマコトには領主になって貰わなければならぬ様だ」

 ハリエットもオレを見る。

「にゃあ、何でにゃん?」

「王宮が革命を恐れるほどの武力と富を持つ、しかも六歳の童女となれば放っておく貴族はおるまい」

「にゃお」

「既に王宮にはマコトに対してかなりの数の養子や婚姻の申請が舞い込んでいたらしいですね、革命権の噂で慌てて取り下げた様ですが」

 マリオンが教えてくれる。

「驚きの最新宮廷事情にゃん」

「モテモテだね」

 リーリは他人事だ。

「知らない連中にモテても嬉しくないにゃん」

「煩わしい貴族どもを黙らせる為には授爵が必要であるな、出来れば侯爵以上が欲しいところだ」

「するとアポリト州では足りませんね、あそこは伯爵領です」

 アーヴィン様とマリオンが話し込んでる。

「では、マコトの後見人でもあるカズキ殿に相談するとしよう」

「にゃあ、カズキ様はオレの後見人にゃん?」

「当然であろう、マコトをいち早く騎士の称号を与え守護したのだ」

「にゃあ」

 単に便利に使われてるのかと思ったにゃん。



 ○クプレックス州 クプレックス街道脇


 アーヴィン様が通信の魔導具で話をするので路肩に馬車を停めた。

 ついでにお昼ごはんだ。

 今度こそちゃんとヤギと小麦粉を使うにゃん。

 ヤギはオレの情報体に当たったところ、串焼きが有ったのでそれを作ることにした。

 スパイシーソースがおいしそうだ。

 パンはビッキーとチャスがお気に入りのチーズハムサンドにする。

 ヤギのチーズは最高にゃん。

 もちろんプリンキピウムの寄宿学校で作ってるチーズも最高にゃんよ。

 ハムは禁断の魔獣ブタのハムだ。

 これはもうヤバいの一言。

「サラダも食べるにゃんよ」

「「はい」」

 ビッキーとチャスがいい返事をする。

 キパリスの朝市で仕入れた巨大アスパラガスもマヨネーズに良く合う。

「な、なんですかこれは!?」

 イケメン宮廷魔導師ことマリオンが叫んだ。

「ヤギの串焼きにゃんよ、お口に合わなかったにゃん?」

「違います! 美味しすぎます! いったいこれはどう言うことですか!?」

「にゃあ、昔のレシピを参考に作っただけにゃん、それにグエンドリン様から貰った最高級のヤギ肉だから美味しいのは当然にゃん」

「驚きました、まさかヤギがこんなに美味しいとは!」

 何かこの人、怖いにゃん。

「マコトが作ったんだから美味しいのは当然だよ、こっちのサンドイッチも……」

 サンドイッチに齧りついたリーリがフリーズした。

「にゃ、どうしたにゃん?」

「美味しすぎるよ! いったいどういうこと!?」

 マリオンと同じことを言っていた。

「ネコちゃんは、お料理の腕だけで十分に危険だわ」

「誘拐を試みそうなヤツを一人、知っています」

 キャサリンとエラがうなずき合う。

「なにそれこわいにゃん」


 通話を終えて食べ始めたアーヴィン様も宮廷魔導師の人と妖精と同じ反応をしていた。



 ○クプレックス州 クプレックス街道


 昼休みを終えて改めて麦畑の海を渡る様な街道を進む。交通量が多いが流れそのもは悪くない。良い魔法馬が良い馬車を牽いている。

 あるところにはちゃんとあるみたいだ。


『やあマコト、アーヴィン様から聞いたよ』

 アルボラ州の領主で転生者仲間のカズキ・ベルティから念話が入った。

『にゃあ』

『ボクも面倒事を避ける為にも、マコトは領主になることをオススメするよ』

『にゃあ、もうアポリト州が決定ぽいにゃん』

『でも、アーヴィン様が仰ってた通り伯爵では弱いね』

『にゃあ、領主様と同じにゃん』

『ボクとマコトでは王国貴族に与えるインパクトが違うよ、それに積み重ねた政治力が違ってる』

『政治力にゃん?』

『時間を掛けて馬鹿な貴族どもにボクに手を出したら火傷するって教育したんだよ』

『にゃあ、格好いいにゃん』

『それとマコトの場合は、既に国王派に組み入れられてしまったってことが大きいね、これはアーヴィン様をプリンキピウムに入れてしまったボクのミスでもあるけど』

『オレが国王派にゃん、いつ決まったにゃん?』

『知っての通りこの国の貴族は国王派と貴族派、それにその他の中立派に大別されるんだよ、で、現在は貴族派が主流派なんだよね』

『にゃあ、王宮を牛耳ってるって聞いたにゃん』

『王宮を押さえている宰相が、貴族派の中心フェルティリータ連合の盟主だからね』

『にゃあ、オレは知らないところで反主流派になっていたにゃんね』

『マコトの力を以てすれば、近いうちに国王派が主流派になるんじゃないかな?』

『にゃ、そうにゃん?』

『まず、マコトの資金提供と冒険者ギルドの監査で死に体の王国軍が息を吹き返す』

『それで貴族派が困るにゃん?』

『王国軍から金を吸ってたのはヤツらだからね。金が止まったら首をくくるのも出るんじゃないかな?』

『にゃあ、そんなに貧乏な貴族がいるにゃん?』

『この国は、マコトが思ってる以上にマズい状態なんだよ』

『にゃお』

『魔獣の被害とかも馬鹿にならないのに王国軍の力を削いでるんだから、自業自得ではあるけどね』

『確かに魔獣はヤバいにゃん』

『何匹も倒してるマコトのセリフじゃないね』

『オレは魔獣の森の外にでたヤツしか相手にしてないにゃんよ』

『魔獣の森か、あれはヤバいよね』

『領主様は入ったことが有るにゃん?』

『若かりし頃にね』

『どうなったにゃん?』

『当然、逃げ帰ったよ』

『にゃあ』

『それで問題は、マコトをいい感じの貴族に据えることだったね』

『そう簡単に行くものにゃん?』

『いちばん安上がりなのは、ハリエット様を旗印に王宮に攻め込むことかな? 公爵は固いよ』

『絶対に嫌にゃん』

『だったら、マコトがいま持ってるお金で領地を買う方法かな?』

『領地って売買できるモノにゃん?』

『王宮に売買額の半分程度を包めば許可されるし、領主に任命してくれるよ』

『領主になるとどうなるにゃん?』

『基本は大公国と同じかな、領地の中を好きに弄り回せるし、見付けた遺跡も掘り放題、徴税の権利もあるよ』

『話に聞くとバラ色にゃんね』

『当然、売り出される領地はあまり旨味はないのが普通だね』

『にゃお』

『でも、マコトだったら領地から吸い上げなくても自分で莫大な金額を稼げるわけだし、問題ないんじゃない?』

『そう言われるとそうにゃんね、それに掘り放題は魅力にゃん』

『そんなマコトにオススメの領地が有るんだよ。なんとアルボラの一〇倍の広さで大金貨五〇〇〇枚で現在売り出し中!』

『にゃあ、それは何処の僻地にゃん?』

『アルボラの東隣だよ、名前はケラス。マコトがもらう予定のアポリトの隣でもある』

『にゃあ、誰も買ってないと言うことは大金貨五〇〇〇枚でも高いにゃんね?』

『実は領地の九〇%が森なんだよ』

『それってただの森じゃないにゃんね?』

『おお、なかなか鋭いね、七割ぐらいが魔獣の森と推察されてる』

『にゃお、それだけじゃないはずにゃん』

『後は、領民がアルボラ州の一〇〇分の一ぐらい?』

『それって、もうただの魔獣の森にゃん』

『いや、他にも王国軍の演習場があるよ、使用料が取れるはず』

『幾らぐらいにゃん?』

『年間、大金貨一〇〇枚かな』

『実際には幾らにゃん?』

『ここ一〇年ほど支払われてないみたいだね、なんたって貧乏集団だから』

『確かに貧乏にゃん』

『二年前に行った各地の諸侯軍を集めて王国軍に統合して拡大させたのが最大の失敗だね』

『にゃあ、急拡大で失速したにゃんね』

 フランチャイズにありがちな失敗だ。

『去年の大演習では、演習場近くの村で物資を強引に徴発して、幾つかの村が壊滅したらしいよ』

『にゃお、領民が一〇分の一しかいないのに酷いことをするにゃんね』

『流石に悪く思ったのか演習場の半分を返還したみたいだけど』

『ただの野っ原と違うにゃん?』

『いや、ただの森だね』

『本気で悪いと思ってるにゃん?』

『ない袖は振れないんだよ』

『にゃお』

『知ってのとおり王国軍の上層部はまともなんだ、ただし金がないから組織としては劣化してる、ケラスをマコトが買うなら願ったり叶ったりじゃないかな』

『にゃあ、貴族派が邪魔すると違うにゃん?』

『場所が場所だけに横から掻っ攫うのは無理なんじゃないかな?』

『もっと根性を見せて欲しいにゃん』

『購入特典として辺境伯の称号が貰えるから、ますますマコトにはちょうどいい物件だね』

『辺境伯は王国でも侯爵ぐらいにゃん?』

『そうだよ、それに辺境伯なら諸侯軍の維持が許されるし、伯爵より威張り度も高いからお勧めだよ』

『現在も諸侯軍がいるにゃん?』

『残念ながらいないよ、領民が少ないから』

『にゃあ、辺境伯だったら領地が国境に接してると違うにゃん?』

 ちなみにオレが大公国で貰ったのドクサ州は、西側のはるか先に砂の海があってその先にケントルム王国がある。

 図書館の情報によると砂の海はこの世の地獄だそうだ。

『そうだよ、南側の広大な魔獣の森の向こう側にフィーニエンスという国がある、ここ一〇〇年以上ほぼ没交渉だけど』

『にゃあ、魔獣の森が有ったらそうにゃんね、それでいまのケラスはどんな感じになってるにゃん?』

『王宮からの交付金の大金貨三〇〇枚と派遣されてる行政代行官によって領地を回してる状況だね』

『持ち出しの方が多そうにゃん』

『もし交付金と行政代行官の派遣を廃止していいなら、全部込み込みで半額の大金貨二五〇〇枚で話をまとめてあげるよ』

『全部まとめてにゃん?』

『そう、王宮に支払う分も含めて』

『プリンキピウムはどうなるにゃん?』

『いままで通りでいいよ、下手を打ってマコトと敵対したら間違いなく命取りになることぐらいボクだってわかってるつもりだし』

『にゃあ、オレだって同郷の人間と敵対なんてしたくないにゃん』

『マコトが好きにやるのにも辺境伯の称号は有利に働くよ、領地を事実上の治外法権にできるからね』

『にゃあ、わかったにゃん、領主様にお任せするにゃん』

『うん、承った、ボクから根回しするからこのことは調印が済むまで誰にも秘密だよ』

『あたしにも?』

 リーリがオレとカズキの念話に横から入り込む。

『妖精さんも黙っててね』

『任せて!』

『にゃあ、領主様は王様にはならないにゃん?』

『いや、ボクもこの国の面倒を見るつもりはないよ、それに自分の子供たちが王座を巡って殺し合う姿なんて見たくないし』

『フリーダはそんなことをしないにゃんよ』

『マコト、女というものはね、子供が出来たら変わるんだよ』

 しみじみした感じが伝わる。

『フリーダの他にも子供がいるにゃん?』

『今年二〇歳になるコナンと言う息子がいるよ、いま王都で領主を継ぐ勉強をさせている。マコトがもうちょっと大きかったら婚約させたのに残念だよ』

『永遠の六歳児には無理にゃん、それと六歳児じゃ無くても男と結婚は勘弁にゃん』

『だろうね、じゃあ、進展があったら連絡するよ』

『にゃあ、了解したにゃん』

 キャサリンに抱っこされつつカズキとの念話を終えた。



 ○クプレックス州 クプレックス街道脇


 今日は頑張ってもタンピス州には届きそうにないので適当なところで野営だ。

 馬車が多いから野営地は諦めて路肩に停めてテントを展開する。

「マコトの馬車もテントもスゴいね、こんな高度な拡張空間の魔法は初めて見たよ」

 マリオンが感心してる拡張空間の魔法式は、キパリスの城の地下で仕入れたばかりのものだ。

 外側の展開する面積は小さいが、前よりも内部は広くなっている。

「にゃあ、たまたま手に入れたにゃん」

「手に入れたにしてもこんな精緻な魔法式を再現できるなんてスゴいよ」

 マリオンは好奇心に目を輝かしてあちこち見ている。

 オレはビッキーとチャスに手伝って貰って夕食の準備をする。


 夕食はロールキャベツとパン。それに茶碗蒸し。なんともまとまりがないがそれを知っているのはオレだけなので問題なしだ。

 皆んなたっぷり食べたし、リーリとマリオンはどれも絶賛した。


 夜はまた猫耳ゴーレムたちにテントの上に連れて行かれる。

「「きゃあ♪」」

 ビッキーとチャスも一緒だ。

 ハリエットも羨ましそうにしていたので連れて来た。

「夜空はこんなにも美しいものだったんだな」

「にゃあ」

 オレたちは夜空に浮かぶオルビスの光を浴びて寝た。


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