キパリスの遺跡にゃん
○クプレックス州 州都キパリス キパリス城 地下封印区画
キパリスの城の厳重に封じられた地下に通じる長い螺旋階段を下りる。壁も床も天井も大理石に似た石造りだが継ぎ目がない。これはどうやって造ったんだ?
明かりはオレの自前で同行者はオレの頭に乗ってるリーリだけ。
アーヴィン様たちにビッキーとチャスも同行したがったが、地下の遺跡は間違いなく危険なのでご遠慮願った。
それに見られると危険なお宝を見付けた場合、オレが隠匿できないから困る。
何よりマジでヤバい感じでシッポが毛羽立つぜ。
「にゃあ♪ にゃあ♪ にゃあ♪」
「マコトはごきげんだね」
「にゃあ、この肌に刺さるような危険な感じがたまらないにゃん」
ちょっと階段を降りるのもかったるくなった辺りで唐突に行き止まりになった。
「にゃあ、第一の結界にゃん」
オレは背伸びして行く手を塞ぐ壁の一点に魔力を流すと簡単に崩れて階段の続きが現れた。
「マナが濃いね」
「にゃあ、このマナの感じ、生成されてまだ間がないみたいにゃん」
「クンクン、お~そうだね」
「つまり、この下で何かが始まってるってことにゃん」
わざと燃費の悪い魔法を使って明かりを増す。
ついでにオレの拡張空間で魔法馬の生産を開始する。
「にゃあ、マナが濃かったら使えばいいにゃん」
「そうだね」
階段を降りながらマナをどんどん消費していく。
それでも濃度が濃くなる一方で魔法蟻の生産も始まったところで本当の結界に触れた。
土偶の表面を覆っていた結界と同じ種類のものだ。
空間拡張を使ってうまく隠蔽してある。
結界であり本体でもある。
分類するならこれはゴーレム型の遺跡だ。プリンキピウムの街の地下で見付けた図書館情報体や地下の生産施設と同じ分類になる。
「何か襲い掛かってくるかと思ったけど何も無いにゃんね」
「その代わり人間だったら、即死レベルのマナを吹き出してるよ」
「それはあるにゃんね」
マナのことを考えると普通の魔法使いレベルではここまでくるのも至難の業か。
「ここから遺跡のシステムに介入できるにゃん、それにしても空間拡張の重ね掛けって反則級のテクニックにゃん」
結界に手を翳して遺跡のシステムに無理やり繋がる。
「にゃお、やっぱり遺跡全体が息を吹き返してるにゃん」
土偶が境界門を越えた時点でこの遺跡に再起動の信号が伝わったようだ。
幸い再起動を果たしたばかりだから、まだ領民を一気にどうにかするほど魔力は溜まってはいない。
それにオレが豪快にマナを吸ってるから溜まることはないけどな。
「にゃお、この遺跡には侵入者をグールに変える刻印が仕込んであるにゃん」
「ふ~ん、またグールなんだ、よほど好きなんだね」
「にゃあ、手間ひまかけてグールにする仕掛けを仕込んでるのだから間違いなく好きにゃん」
防御結界バリバリの魔法使いもグール化を防げるかは微妙だから、趣味は悪いが防犯のトラップとしては悪くない。
無論、オレには効かない。
物騒な魔法の刻印は消す。
「にゃお、エーテル機関の反応にゃん、数は二〇個どころじゃないにゃんね、まるで生み出されてるみたいに増えてるにゃん」
実際には格納空間から取り出されているだけだ。
「全部回収にゃん」
「当然だね」
「ついでのこの空間拡張の魔法式もパクらせてもらうにゃん」
「まだマナが出てるね」
「にゃあ、マナを発生させる何かを潰さないと駄目にゃん」
探査魔法を打って空間拡張を駆使した遺跡の隅々まで調べた。
「見付けたにゃん」
それは遺跡の最下層に埋まっていた。オレもその場に向かった。
○クプレックス州 州都キパリス キパリス城 地下封印区画 最下層
「マナ発生源はたぶんこれにゃんね」
最下層に埋まっているマナ発生装置と言うべきからくりを眺める。
「まんま鎧蛇だね」
「にゃあ、生きている鎧蛇を串刺しにして刻印に組み込んでるにゃんね」
「大胆というか、大雑把というか」
串刺しの鎧蛇からマナを取り出していた。これがマナ発生装置というべきからくりだった。
どうやら直に魔力を取り出す術が無かったらしく回りくどいやり方を考案したらしい。
「にゃあ、昔の人は本当に魔獣を狩っていたにゃんね」
「マコトほど簡単には狩れないけどね」
鎧蛇を始末してマナ発生装置も分解した。
それから動きを止めた遺跡そのものも分解して頂戴する。拡張空間をふんだんに使いまくっていたおかげで埋め戻しは大した量の土砂を使わずに済んだ。
階段を昇るのが面倒くさいオレは飛翔の魔法でリーリと一緒に飛んだ。
途中崩した壁も直してから階段を上昇した。
○クプレックス州 州都キパリス キパリス城 地上階
「ただいま!」
「にゃあ、任務完了にゃん!」
着地すると同時にキャサリンに抱き上げられた。
「お疲れ様、ネコちゃん、妖精さん」
「「マコトさま!」」
ビッキーとチャスも駆け寄ってくる。
「もう、問題ないのであるな?」
代表してアーヴィン様が訊いた。
「にゃあ、遺跡は全部取っ払ったにゃん」
「しかし言葉だけではグエンドリン殿も不安であろう、証拠の一片でも見せてはどうだ?」
「にゃあ、それもそうにゃんね、何処か人目の付かない広い場所はないにゃん?」
「それでしたら、城の中庭をお使い下さい」
グエンドリンが中庭の方向を指さした。
「にゃあ、了解にゃん」
○クプレックス州 州都キパリス キパリス城 中庭
案内された城の中庭は、オレの希望どおり完全に外の視界からシャットアウトされていた。
「猫ちゃん、いったい何を出すの?」
キャサリンはちょっと心配そう。
「にゃあ、マナ生成のからくりにゃん、城の外からちょっとでも見えたりしたらパニックになるものにゃん」
「マコト、出すがいい」
「にゃあ」
アーヴィン様の声を合図に城の中庭に串刺しの鎧蛇を出した。
「「「……!」」」
全員、驚きの表情を浮かべた。
「これが城の地下でマナをドバドバ吹き出していたにゃん」
「「「……」」」
まだ放心してる?
「にゃあ、仕舞うにゃんよ」
「「「あっ」」」
何か残念そうな顔をしてる。
「これの他は刻印にゃん、空間魔法でギュウギュウに詰め込んでるから肉眼では確認できないにゃん」
「マコト様、いまの魔獣を譲っていただくことは可能ですか?」
グエンドリンは大胆な申し出をする。
「にゃあ、通常空間に置いた魔獣の死体がどうなるのか確認したことがないにゃん、だから後のことは責任持てないにゃんよ、それでもいいなら譲るにゃん」
「いえ、残念ですが個人の格納空間に保存するのは無理そうなので諦めます」
諦めも良かった。
「それが安全にゃん」
「マコト、これでクプレックスの危機は去ったのだな?」
アーヴィン様が念を押す。
「にゃあ、城の地下遺跡は完全に潰したから大丈夫にゃん」
「ありがとうございます、マコト様」
グエンドリンを始め家臣たちも頭を下げた。
「にゃあ、上手く行って何よりにゃん」
「さあ、夕ご飯にしよう!」
リーリが拳を突き上げた。
「では、こちらにご用意してございます」
領主自らが案内してくれた。
○クプレックス州 州都キパリス キパリス城 晩餐室
夕食は茹でヤギを塩で食べるシンプル料理だったがクセも無く美味しかった。
それとパンと言うかナンだね、これは。
チーズ入りナンがおいしくてお代りした。
リーリはもちろんチーズ大好きなビッキーとチャスも満足そうだ。
それからおねだりしてヤギ肉と小麦粉それにチーズをどっさりもらった。
「にゃあ、ありがとうにゃん」
「いえ、この程度ではお礼の欠片にもなっていません」
「にゃ?」
「アーヴィン様、マコト様には今回の件、お幾らぐらいお包みすればいいのでしょうか?」
グエンドリンがアーヴィン様に訊く。
「境界門での敵の撃退に騎士の救出、それに危険な遺跡の撤去となると大金貨三〇〇〇枚あたりであるか?」
アーヴィン様はテキトーにとんでもない額を算出してるぞ。
「にゃあ、アーヴィン様、それは高くないにゃん?」
「いいえ、かなり安いかと」
エラが首を横に振った。
「桁が一つ足りません」
「ですよね」
何かグエンドリンが納得している。
「ヤギ一〇頭とかでもいいにゃん、プリンキピウムに持って帰って飼うにゃん」
「それをやっちゃうとクプレックスの評判が落ちるからヤメた方がいいよ」
キャサリンからもダメ出しを食らう。
「貰っといたら?」
チーズおかきみたいなお菓子を食べてる妖精はこともなげに言う。
ビッキーとチャスはソファーにもたれておねむだ。
「こちらは問題ありませんから、マコト様も遠慮なさらないで下さい」
グエンドリンが微笑む。
この領地は本当に金持ちらしいね。
「……」
オレの横で『貰ったら私に貸せ』とハリエットからテレパシーが送られて来た。
気がする。
「にゃあ、わかったにゃん、ありがたく頂戴するにゃん」
こうして大金貨三万枚を貰ってしまった。
○クプレックス州 州都キパリス キパリス城 ゲストルーム
『マコト、大丈夫なの?』
『グールとオーガなんて尋常じゃないのです』
案内されたゲストルームのベッドにビッキーとチャスと一緒にダイブしたところでキャリーとベルから念話が入った。
『にゃあ、オレは大丈夫にゃん』
『あたしも大丈夫だよ!』
『妖精さんなのです』
『ふたりとも無事で良かった。王国軍でも待機命令が出たりしてかなりドタバタしてたよ』
『グールとオーガの大量発生とか、王国軍を投入しても無駄な死体を積み上げるだけなので、収まって良かったのです』
『突然グールもオーガも消えたらしいけど、あれってマコトが簡単に片付けちゃったんでしょう?』
『にゃあ、簡単じゃなかったけど聖魔石が採れたにゃん』
サンプルをベルの格納空間に何個か送る。
『初めて見たのです』
『綺麗だね』
『グールとオーガからこの聖魔石が採れたのですか?』
『にゃあ、ヤツらを聖魔法で無理やり送ると採れるにゃん』
『他の人には真似のできない方法なのです』
『だよね』
『にゃあ、それでキャリーとベルは元気にしてるにゃん?』
『マコトと友だちなのが王国軍の偉い人にバレちゃったよ』
『にゃ、何か酷いことされたにゃん!?』
『それはないのです、いままで通りマコトと仲良くする様にいわれただけなのです』
『マコトがハリエット様を保護したから、その関係で身辺調査をしたみたいだね』
『にゃあ、普通はそのぐらいはするにゃんね、オレのことで危ない目に遭ったり意地悪されたら言うにゃんよ、相手が誰でもすぐにぶっ飛ばしに行くにゃん』
『ぶっ飛ばすぐらいなら私たちで出来るから問題ないよ』
『問題ないなのです』
『にゃあ、心強いにゃん』
『マコトはいま何処にいるの?』
『いまは、クプレックス州の州都キパリスにゃん、領主様のお城にゃん』
『何でそんな所にいるのです?』
『にゃあ、アポリト州でグールとオーガの群れに襲われたからにゃん、命からがらクプレックス州に逃げたにゃんよ』
『本当にそんなにピンチだったの?』
『にゃあ、かなりの数のグールとオーガがいたのは本当にゃん』
『でも、最終的には全部やっつけたんでしょう?』
『にゃあ、オレの探知できる範囲では全部天に送ったにゃん』
『流石マコトなのです』
『マコトはあたしが育てたからね!』
何故かそこでリーリが威張る。
『妖精さんはスゴいのです」
『うん、スゴいよ』
『マコト、アポリト州はもう入れるの?』
『駄目にゃん、グールやオーガを作る呪法が手付かずでそのまま残ってるからアポリト州には入らないほうがいいにゃん』
『プリンキピウムが遠くなるね』
『にゃあ、大公国周りはそんなでもないにゃんよ、前と違ってバカ貴族も奴隷法も消えて無くなったにゃん』
『それは良いことなのです』
『近いうちアポリト州もマコトがどうにかするんでしょう?』
『立入禁止を進言したにゃん』
『現実的なところは評価するのです』
『褒められたにゃん』
念話の後はビッキーとチャスと一緒に眠る。ハリエットは隣の部屋だ。まだ通信の魔導具を使ってるらしい。多忙な十二歳だ。
○帝国暦 二七三〇年〇八月〇一日
○クプレックス州 州都キパリス 城壁門
「グエンドリン殿、世話になった」
ハリエットが代表して礼を述べた。
「ハリエット様の無事のご帰還をお祈りしております、皆様もお気を付けて」
「にゃあ、またにゃん!」
「「「お元気で!」」」
『『『ニャア♪』』』
早朝、領主のグエンドリンや魔法騎士たちに見送られクプレックス州の州都キパリスを出発した。
○クプレックス州 クプレックス街道
オレたちの馬車と前後を固める猫耳ゴーレムの馬車は、麦畑の中の街道を少しだけ速い速度で走る。
街道を行く馬車が増えたし、ここから先は人口が増す一方だ。
「にゃあ、トラクターにゃん、有るとこにはあるにゃんね」
遠くに魔法車のトラクターが見えた。
「吾輩はマコトの畑で見たのである、ゴーレムが作業していて驚いたのである」
「にゃあ、人間が入れない場所だから仕方ないにゃん」
引き続きアーヴィン様たちはオレの馬車に乗っている。オレと話しているがハリエットを三人で守っている。
「マコトの領地には、入植者は入れないのであるか?」
「大公国の領地だとドクサ州は物理的にほとんど人が入れる場所がないにゃん、もう一つのクルスタロス州も勢い余ってゴーレムで全部やったにゃん」
「いまの大公国では人を集めるのが大変でしょうから、ネコちゃんのやり方でも仕方ないんじゃないですか?」
キャサリンの言う通り大公国は何処も人手不足だ。
「アポリト州なんかもっと大変そうですね」
エラがボソっと言う。
「たぶん、アポリトはほとんど無人にゃん」
「マコトは、アポリト州をどうするのだ?」
アーヴィン様に問われる。
「にゃあ、ウシとブタを飼うにゃん、餌は盗賊ととうもろこしにゃん」
「本当のところは?」
「たぶん道路の整備で精一杯にゃん」
クプレックス州の街道は片側二車線でちゃんとセンターラインが引いてある。
カズキのところだって引いてないのに。
ラーメンや牛丼にウツツを抜かしてる場合じゃないにゃんよ。
食い物に関してはオレも人のことは言えないけど。
「にゃあ、この先はどうなってるにゃん?」
「クプレックス州は、この先も麦畑とヤギである」
「お昼はマコトのヤギ料理だね」
オレの頭の上でリーリがリクエストする。
「にゃあ、わかったにゃん、お昼もヤギにするにゃん」
リーリはヤギが気に入ったらしい。
「「ヤギ!」」
ビッキーとチャスも気に入ったみたいだ。
「アーヴィン様、次のタンピス州はどんなところにゃん?」
オレの知識はオパルスの図書館での情報のみだ。
「州都パピリオは王都の商業地区を更に大きくした感じである。城壁はないが境界は強力な防御結界で守られている。豪商の邸宅が多いのも特徴である」
「それとクーストース遺跡群のうち三つの遺跡があるよ」
「タンピス州の領主様は、国内でも指折りの大富豪です」
キャサリンとエラも補足してくれる。
「タンピスの領主がハリエット様を狙う可能性は?」
「「「ない!」」」
アーヴィン様とキャサリンとエラがキッパリ断言した。
「ないにゃん?」
「良く言えば守銭奴なので、金にならない企みには手を貸しません」
エラが手厳しい。
「良く言って守銭奴にゃん?」
「そんな感じね、ハリエット様を誘拐して安全に身代金が取れるなら迷わずやるでしょうね」
「安全には無理にゃんね」
「でしょうね、だから手は出さないはず」
「城内に招くこともあるまい」
「私はその方が助かる、王都を前にして足踏みはしたくない」
ハリエットもうなずく。
「にゃあ、ここまで来たら焦りは禁物にゃん」
「そうなのだが」
「まずはこのもちもちドーナツを食べて落ち着いて」
リーリがハリエットにもちもちドーナツを渡す。
上質な小麦粉が手に入ったのに米粉を使ってしまった。
だってモチモチが欲しかったんだもん。
「美味しい」
米粉にした米は、カズキが丹精と莫大な資金を込めて作った素晴らしいものだ。当然美味しいに決まっている。
「「おいしい!」」
ビッキーとチャスも声を上げた。
「当然だよ!」
リーリがオレの頭の上で仁王立ちで胸を張った。
オレたちは麦畑の中をもちもちドーナツを頬張りながら馬車を進めた。




