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境界門の戦いにゃん

 オレの見知った顔がそこにあった。

「にゃあ、アーヴィン様にゃん!」

「あっ、本当だ!」

「アーヴィン・オルホフ殿か」

 何故か王都に旅立ったはずのアーヴィン・オルホフ侯爵が魔法騎士の一団に混じっていた。

 その後ろにはアーヴィン様の守護騎士キャサリンとエラの姿もあった。こちらは鎧を着ていない。

 他所の領地で何をしてるんだこの人たちは?

「久しいなアーヴィン殿」

 ハリエットが声を掛けた。

「ハリエット様のお元気そうな姿を拝見し安心いたしました」

「これも全てマコトのおかげだ」

「ドゥーガルドとデリックから聞いております、まさかプリンキピウムにおられたとは。それにも増してハリエット様の不在を吾輩にまで隠すとは」

「仕方あるまい、私の不在は即、王国軍の解体に繋がる」

「確かにそうでありますが」

 アーヴィン様は不服そうだ。

「にゃあ、ハリエット様、アーヴィン様、再会の挨拶は後にして境界門の向こうに移動した方がいいにゃんよ、間もなくヤツが来るにゃん」

 かなり距離があるはずなのに地鳴りみたいな足音が境界門まで届いていた。


 アーヴィン様一行とオレたちは境界門を抜けた。



 ○クプレックス州 境界門前


 門をくぐる前から見えていたとおりクプレックス側も似たような風景が広がる。

 こちらも草原に石畳の道が伸びていた。

 なだらかな登りの向こうに城塞都市と思しき街が見えている。超大型ゴーレムに境界門を抜かれるとあの街も危ない。

 オレたちは境界門から一キロほど離れた場所に馬車を出した。

 オレたちは馬車のオープンデッキから境界門を見下ろす形だ。

 クプレックスの魔法騎士たちが境界門の左右に隊列を組む。

「門の前からの攻撃じゃないにゃんね」

「王国法的に攻撃できるのは超大型ゴーレムが門に接触した瞬間からですから、側面からの攻撃が都合がいいのです」

 エラが教えてくれる。

「いろいろ面倒くさいけど決まり事は守らないとね」

 キャサリンに頭を撫でられる。にゃああ、耳を弄っちゃダメにゃん。

「どうせならもっと近くにいたかったのだが」

「それはなりませんハリエット様」

 ハリエットはもっと近くで観戦したがったが、アーヴィン様が許可しなかった。

 それも仕方ないか。

「この度の出来事はドゥーガルドより報告を受けておりますが、今一度ハリエット様にお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 アーヴィン様はハリエットから誘拐事件の事情聴取をしたいようだ。

「プリンキピウムの森でのことは私よりマコトに訊くのが良いと思うぞ。私は気を失っていたので何も覚えていないのだ」

「そうでありましょう、マコトには後で聞きますゆえ、ハリエット様にはまず誘拐されたときのことをお聞かせ願えないでしょうか?」

「構わぬが、それもドゥーガルドに何度も話しているぞ」

「ハリエット様の口からお聞かせ下さい」

「わかった」

 ハリエットが誘拐された当時の状況を話し始める。


 要約するとハリエットは六月二〇日の深夜に王国軍総司令部の執務室から誘拐された。

 残念ながらハリエットは犯人どころか怪しい人影すら見ていない。

 黒幕は、直に手を下していないからハリエットの目撃証言があったとしても事件の真相究明には直接つながらないと思う。

 王国軍総司令部の敷地内で遺体となって発見されたカルヴィン・ボーテング王国軍主計局副局長とプリンキピウムの森で消息を絶ったふたりの近衛軍騎士が知り合いだったが、そこから黒幕にたどることはできていないようだ。


 その後はオレが森の中で『拾った』ところにつながる。アーヴィン様相手でもハリエットが魔獣に呑み込まれていたことは内緒だ。

「ビッキーちゃんとチャスちゃんね」

「「はい」」

 キャサリンが今度はビッキーとチャスの頭を撫でていた。

「ネコちゃんはどうしてこの子たちを連れてるの?」

「にゃあ、ビッキーとチャスは精霊術師にゃん、この旅ではオレの補助をして貰ってるにゃん」

「「はい」」

「「精霊術師!?」」

 キャサリンとエラは驚きの声を上げた。

「「はい!」」

 ビッキーとチャスは、いい返事をする。

「あたしの弟子だからね、そこいらの魔法使いには負けないよ!」

 リーリが食べかけのホットドッグから顔を上げた。観戦前に食べ始めてる。

「ふたりは妖精さんの弟子なんですか?」

 エラがじっとビッキーとチャスを見る。

「だから間違いないにゃん」

「そうですね」

 頷くエラ。

「凄いのはネコちゃんだけじゃなかったのね」

 キャサリンはまだ唖然としていた。

「ホットドッグおかわり!」

 リーリは元気に声を上げる。

「にゃあ」

「美味しいね」

 リーリは二つ目のホットドッグに取り掛かる。

「「おいしい」」

 ビッキーとチャスにもホットドッグを出してやった。


「にゃあ、何でアーヴィン様がクプレックス州にいるにゃん?」

 ハリエットからの事情聴取が一段落したアーヴィン様に声を掛けた。

「王都に帰るのにフルゲオ大公国経由のルートを取ったからである、その途中、ドゥーガルドから連絡があってこちらに赴いたのだ」

 何度も出てくるドゥーガルドという名前はデリックのおっちゃんの兄貴で王国軍のお偉いさんをしている。

「にゃあ、それで合流できたにゃんね」

「大公国ではマコトの小麦の集積所も見たぞ、死霊騒ぎで傾いた国も潤沢な小麦と資金があれば立て直しはそう難しくあるまい」

「そう願ってるにゃん」

「今回のハリエット様救出の件といいマコトは、活躍しまくりであるな」

「にゃあ、偶然にゃん」

「先ほどの聖魔石の魔法馬にも驚いたが、この馬車とゴーレムもスゴいものだ」

「いまの王国軍ではマコト一人に敵うまい」

 ハリエットがため息をつく。

「にゃあ、それはないにゃんよ」

「いいえ、魔法使いの数が少ない王国軍ではマコトさんには勝てません、魔法耐性が極端に低いですから」

 エラがはっきり言う。

「やはり魔法使いが重要か」

「魔獣を相手にするなら魔法は必須でしょうね」

 キャサリンも同意する。

「魔法使いじゃなくても魔獣をやれそうなのは近衛の騎士ぐらいにゃん」

「ネコちゃんは近衛の騎士と手合わせしたことがあるの?」

 キャサリンに抱っこされた。

「にゃあ、話をしたことはあるにゃん、ちょっと怖かったにゃん」

「確かに近衛の騎士の何人かは魔獣を単独でやりあうことができそうではあるな」

 アーヴィン様が頷く。


『来たぞ!』


 境界門を守る騎士たちの声が風の魔法に乗ってオレたちの馬車まで届いた。

 クプレックスの魔法騎士団、約三〇〇人がそれぞれ格納空間から銃を出す。

 かなり遠いが確かに姿が見えた。超大型ゴーレムだ。

「大きい」

 ハリエットが呟く。

 境界門から離れているこの距離でも威圧感が半端ない。

 身長は情報どおり約一〇〇メートルで見た目は遮光器土偶に似ていた。

「にゃお、怖くなる大きさにゃんね」

 オレも馬鹿みたいに大きなウナギと戦ったことがあるが、あの時は今回と違って尻尾が毛羽立つ怖さは感じなかった。やはり二本足で歩く常識はずれのデカブツは、それだけで本能的な恐怖を刺激する。


「ヤツは境界門を抜ける気か」

 アーヴィン様が呟く。

 州境は境界の結界によって守られている。

 高位の魔法使いがいれば、こじ開けることが可能だが、かなりの魔力的なコストが掛かるのであまり現実的ではない。

 大公国の森と街道を隔てていた結界と同種だ。超大型ゴーレムが純粋なゴーレムだったら結界に干渉されないのだが、たぶんヤツは違う。

 境界門だけは境界の結界が途切れている。

 進行方向から超大型ゴーレムはやはり境界門を抜けるつもりらしい。境界の結界に引っかかると自覚してるようだ。

 クプレックスの魔法騎士団も境界門をおとなしく通過させるつもりはないようで後付けの結界を張る。

 クプレックスに害をもたらす存在の通過を禁じる結界だ。

 オレもあんなデカブツと直接やりあうより結界で弾けるならその方がいいと思う。

 超大型ゴーレムは警戒する様子もなくまっすぐ境界門に近づいてくる。

「「おおきい!」」

 ビッキーとチャスのホットドッグを食べる口が止まった。

「おかわり!」

 妖精にブレはない。

 リーリに三本目のホットドッグを渡す。

 その間にも超大型ゴーレムは境界門に接近する。門を通り抜けるというより跨ぐ感じで足を出した。

 魔法騎士団の張った結界に接触しスパークする。


『構え!』


 隊列を組んだ騎士が銃を超大型ゴーレムに向けた。

 超大型ゴーレムが境界門を跨ぎクプレックス州に足を踏み入れた。


『撃て!』


 魔法騎士の放った銃弾が足に降り注いだ。

 特に弾かれること無く超大型土偶のさして長くない足に着弾してその表面を砕いた。

「おお、やるね」

 リーリはホットドッグを食べる手を止めた。

「にゃ、ちょっと変にゃんね」

「ああ、あれだけ崩してるのに変化がない」

「どういうこと?」

 ケチャップまみれの顔を傾げる。

「にゃあ、再生が恐ろしく早いにゃん、あの図体でオーガ並にゃん」

「これは手こずるか」

「にゃあ」

 超大型ゴーレムが境界門の結界を抜けた。

 ダメージはすぐに修復されるスピードは、プロトポロスの石の巨人を彷彿させる。

 あの大きさならピザ生地魔獣を内蔵可能だが、あれが張っていた認識阻害の結界の気配はないし、エーテル機関も見当たらない。


『散開!』


 魔法騎士たちが隊列を崩した。

 その場所にゴーレムの目からビームが飛ぶ。

 数騎の騎士が間に合わず魔法馬ごと弾き飛ばされた。

 それぞれの防御結界で守られていた騎士たちは直ぐに起き上がって剣を抜いた。

 超大型ゴーレムの足元に魔法陣が作られる。

 魔法騎士たちの作った魔法陣だ。

 超大型ゴーレムの足がズブズブ地面に沈んで行く。


『オオオオオオオオオオオオオオ!』


 ゴーレムが声を上げる。

 その大きく裂けた口には特異種のような牙がびっしりと並んでいた。

「にゃあ! マナの濃度が上がるにゃん!」

「本当か、マコト!」

「にゃあ、本当にゃん!」

「これはマズいね」

 リーリが口元のケチャップを拭った。

「魔法騎士なら防御結界で防げるからある程度は耐えられるのである」

「にゃあ、直ぐにマナの濃度が即死レベルまで上がりそうにゃん」

「その前に決着を付けるつもりであろう」

 超大型ゴーレムは腰まで地面に沈んだ。

 魔法騎士たちは剣を天に掲げた。


「「「雷神召喚!」」」


 幾筋もの稲妻が超大型ゴーレムを貫いた。


『オオオ……』


 ゴーレムの叫びが消え大きな頭がグラリと揺れる、そしてボロボロと砕けながら大きな地響きと共に地面に崩れ落ちた。

「おお、どうやら間に合った様だ」

 アーヴィン様がほっとする。

「物凄い技であった」

 ハリエット様も感心している。

「でも、マナの濃度は低くなってないよ」

 リーリが朽ちたゴーレムを見詰める。

「にゃあ、そうにゃんね、アーヴィン様、魔法騎士の人たちに下がって貰った方がいいにゃん」

「了解である」

 アーヴィン様は通信の魔導具で魔法騎士団の現場指揮官に連絡を入れた。

 騎士の一人がこちらに向かって手を上げた。

 それから騎士たちに指示している。

 騎士たちがゆっくり魔法馬を歩かせこちらに戻って来る。

「マコト!」

 リーリが鋭く叫んだ。

「にゃあ! アーヴィン様、急がせるにゃん!」

「お、おお、わかった!」

「ダメ、間に合わない!」

 ゴーレムに近い位置にいた騎士からバタバタと落馬して地面に落ちた。

 倒れた仲間のところに戻ろうとした騎士も倒れる。

「急げ! 全力で走るのだ!」

 アーヴィン様も通信の魔導具に叫んだ。

 逃げおおせられたのは、三〇〇騎のうち半数にも満たない。

 朽ちたゴーレムの中にさっきまで見当たらなかったエーテル機関の反応がポツポツと現れた。

「にゃあ! あのゴーレム、魔獣の森の苗床にゃん!」

「本当であるか!?」

「にゃあ、この反応は間違いないにゃん! たぶんオリエーンス連邦時代の秘密兵器か何かにゃん」

「あそこを魔獣の森にするつもりなのか!?」

 ハリエットも声が上ずる。

「そうらしいにゃん、現に魔獣が出てくるにゃん」

 崩れたゴーレムの躯から鎧蛇が這い出した。

「アレが本物の魔獣なのか?」

 ハリエットが馬車から身を乗り出す。

「「まじゅう!?」」

 ビッキーとチャスも目を丸くする。

「鎧蛇であるか、この老骨の最後の相手に相応しい!」

 アーヴィン様がガントレットを打ち合わせる。

「アーヴィン様、何を格好つけてるんですか!?」

「私たちが黙って行かせるとでもお思いですか!」

 キャサリンとエラがアーヴィン様の前に回り込んだ。

「しかし」

「いま近付いたら普通に死ぬよ」

 リーリがアーヴィン様の前で指をフリフリさせる。

「にゃあ、潰すならいまにゃんね」

「潰せるのか?」

 ハリエットがオレを見る。

「にゃあ、やってみないとわからないところもあるにゃん、それに倒れてる騎士も拾って来ないと可哀想にゃん」

「マコトが行くのであるか?」

「にゃあ、オレの防御結界ならあの濃度のマナでも耐えられるにゃん、とにかくやってみるにゃん」

 オレは馬車を飛び出して魔法馬を再生して飛び乗る。

 同時に魔法馬に乗った一〇〇騎の猫耳ゴーレムの騎士と一〇台の馬車を出した。

「行くにゃん!」


『『『ニャア!』』』


 まずは土偶の躯を中心に月光草を一面に敷き詰める。

「おお、マナの濃度が一瞬で上昇を止めたね」

 リーリがオレの頭にくっついている。

「にゃあ、まずはあの土偶をいただくにゃん!」

 オレが突っ込むのを援護して一〇〇騎の猫耳ゴーレムたちがオタマジャクシミサイルを発射した。

 それらが次々と着弾し最初の鎧蛇が血祭りにあげられる。

「にゃあ、スゴい爆発にゃん!」

 鎧蛇の後に続いたクモ型の魔獣は秒殺だ。

 死亡した魔獣を分解してオレは魔法馬から崩れた超大型ゴーレムに取り付いた。

「にゃあ!」

 躯の中にあったエーテル機関の反応を一気に潰した。

 エーテル機関は回収できたが、ゴーレム本体はまだ分解できない。

「にゃお、こいつまだ死んでないにゃん!」

「どうするの?」

「にゃあ、当然、ブッコロにゃん!」

「いいぞ! やれ!」

 リーリの応援を受けてオレも電撃を噛ましてやることにした。

「にゃあ! 一〇〇万アンペア(超テキトー)にゃん!」

 拳を土偶に当てて直接中に電撃を放った。

 土偶の躯から白煙が上がった。

 そして表面を覆っていた結界がパリンと割れた。


『ぎゃああああ!』


 悲鳴を上げてド派手な衣装の冴えない中年男が現れた。

「誰にゃん?」

 空中に浮いてるから普通の人間じゃない。


『ふん、余を知らぬとは……』


 そこに無慈悲なオタマジャクシミサイルがヒットした。


『ぎゃああああ!』


 ミサイルは効いてるが倒すには至っていない。

 魔力だけは強い面倒くさそうなアンデッドだ。

 そう、少なくともこいつは生きてる人間ではない。

 悪霊の上位種?

 とにかく殺処分にゃん!

「にゃあ!」


『うごっ!』


 聖魔法を乗せた猫パンチで問答無用で天に送った。

 アンデッドはゴロリとデッカい聖魔石を残していった。

 意外と大物だったらしい。

「にゃあ、これで土偶を消せるみたいにゃん」

 土偶を分解して地面を綺麗に埋め戻す。

 地下深く伸びていた土偶の根っこも全部消し去った。

「にゃあ、これで完了にゃん」

 土偶はオレの格納空間でじっくり調べてみるつもりだ。

 月光草があるから、溜まったマナもそう時間を置かずに解消されるはずだ。


 倒れていた騎士たちも猫耳ゴーレムたちが回収して馬車に乗せ、安全地帯まで運んで異常を起こしたエーテル器官を治療して事なきを得た。


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