オパルスを出発にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇七月二六日
○州都オパルス オパルス城 ゲストルーム
「皆様、お時間でございます」
メイドさんが起こしに来てくれた。
「にゃあ」
オレはベッドから身体を起こす。
「もう、朝か」
隣のベッドでハリエットも目を覚ました。
ベッドルームは三つもあるので気を利かせようとしたのだが、ハリエットは同じ部屋を希望したのでこうして同じ寝室を使わせてもらっている。
「「おはようございます」」
ビッキーとチャスはオレの両側にいた。
「朝食のご用意が出来ております」
「わかったにゃん、直ぐに行くにゃん」
「ご飯!」
リーリがオレの胸元から這い出した。
洗顔代わりの全身ウォッシュをしていつものセーラー服に早変わりした。ハリエットたちもオレに続く。
「ウォッシュと着替えの魔法は実に便利だ」
昨夜も遅くまで通信の魔導具を使っていたハリエットは眠気を吹き飛ばし着替えが済んだ自分の身体を姿見に映した。
王都でも十二歳にしてガチガチのブラック企業勤めみたいな仕事振りなのだろう。
「にゃあ、仕事のやりすぎは身体に毒にゃんよ、ほどほどでお願いするにゃん」
夜の森で暴れまわっていたオレも他人のことはいえないが、そこは身体の作りが違うということで。
「わかっているが、あと数日は目をつむって欲しい」
ハリエットの場合、毒を盛られなくても若くして過労死したんじゃないだろうか?
「ハリエット様は大変にゃんね」
「これも大公家の当主であり、陛下より王国軍の総司令を拝命している以上、仕方のないことなのだ」
「にゃあ、ハリエット様の立場を考えるとそうにゃんね」
十二歳の女の子を総司令に据える王国にも多大な問題を感じる。大公国みたいに害のある貴族よりはマシではあるけど。
オレも過労死ではないが、契約は獲ったが納車前にこっちに来てしまった。せっかく買ってくれたのに社長さん、ごめんにゃん。
朝食はトーストに卵とベーコンにジュース。
ゲストルームのリビングでメイドさんに給仕されながら食べる。
やはりオレにはこの豪華絢爛な雰囲気は尻というかシッポが落ち着かない。
それとパンとベーコンと卵がいまひとつにゃん。こちらの世界では高級品に分類されることはわかる。
「……」
リーリが悲しそうな顔をしてるので手持ちのベーコンと卵とパンにそっとすり替えた。
「美味しいね」
リーリに笑顔が戻った。
ビッキーとチャスはお行儀よく食べている。ハリエットも食べ慣れた味なのか問題ないようだ。
ダメなのはオレとリーリだ。
ここにはいい魔法鶏がいないのだろうか?
それとも好みの問題か?
いや違うな。
出されたご飯にケチを付けるほど恥知らずではないので黙っておく。
「ネコちゃんの馬車、マグダネル博士がどうしても調査したいって聞かないの、見せてもらえないかな?」
朝食の後、朝一でフリーダに頼み事をされる。
「にゃあ、近くから見るだけならいいにゃんよ、触ると自動的に防御結界が反応するから気を付けるにゃん」
「わかったわ、そう伝える」
見た目が爆発が似合いそうな博士だったのでちょっと心配だが、フリーダの頼みなので遠隔で城の車寄せに馬車を再生した。
ハリエットは王国軍総司令部に朝の定時連絡を入れる。それが終わったらいよいよ出発だ。
○州都オパルス オパルス城 城内
メイドさんの運転するカートで車寄せに向かう。
オレが助手席に乗って、後部座席でハリエットの両側をビッキーとチャスが固める。ふたりの防御結界は高位の魔法使いでも感知されないのが大きな利点だ。
いまはまだ練習の域なので、最小限の乗員を守るだけの防御結界を展開させている。それでも五歳児にしてはいい仕事だ。
途中、裸になって気絶しているエイハブ博士を担架に乗せた騎士たちとすれ違ったがオレは悪くないにゃんよ。
○州都オパルス オパルス城 車寄せ
車寄せに到着したところで、猫耳ゴーレムと魔法馬を再生した。
『『『ニャア!』』』
こちらはすでに準備ができてる。
「にゃあ、マグダネル博士は大丈夫だったにゃん?」
先に車寄せに来ていたフリーダに尋ねる。
「ちょっとした事故だから気にしないで」
「事故なら仕方ないにゃんね」
フリーダも苦笑い。
「おはようございます、ハリエット様」
カズキとクリステルの領主夫妻も見送りに来てくれた。
「カズキ殿、クリステル殿、世話になった。王都を訪れた際には声を掛けて欲しい」
「ぜひ、ご挨拶に参ります」
カズキが答えた。
「ハリエット様、お気を付けてお帰り下さい」
クリステルは本気でハリエットを心配してる。
「マコト、アポリト州はなるべく早く抜けるのがいいと思うよ、どうも昨夜からおかしいらしい」
カズキが教えてくれた。
「おかしいにゃん?」
「王都側からの通行が止まってる。こちらからも安全が確保されるまでは州境を閉鎖することにしたよ」
「にゃあ、何が起こってるのかわからないにゃん?」
「現在、アポリト州は冒険者ギルドまでも機能停止状態らしい、どうなってるかまるでわからない」
「かなりマズい状況にゃんね」
「ハリエット様、いまからでも大公国ルートに変えられたらいかがですか?」
カズキの忠告はもっともだ。
「いや、ここに来て大公国を巻き込むわけにはいかない」
「難しい問題ですね」
「私には幸いなことにマコトたちがいてくれる、これ以上の護衛はない」
ハリエットがオレたちを持ち上げてくれた。
「マコトたちがもうちょっと大きかったら誰もが安心するのですが。無論ボクもハリエット様と同意見ですよ」
「敵の油断も誘えるだろう、マコトたちには働いて貰うことになりそうだが」
「にゃあ、どんと来いにゃん」
領主一家に見送られながらオレたちは馬車に乗り込んだ。
「出発!」
リーリの号令で馬車と護衛の騎馬が動き出した。
○州都オパルス 貴族地区
オパルスの城壁門まではアルボラの騎士団が先導してくれる。
「旅の無事をお祈りしております」
「諸君らに感謝を!」
ハリエット様、カッコいいにゃん。
騎士団に見送られ門を通り抜け騎馬隊と馬車は街道に出た。
○アルボラ州 アルボラ街道
道はアポリト州に入るまでは前回の大公国行きと同じだ。違いはアポリト州をそのまま曲がることなく北上してレークトゥス州に向かう。
「アポリト州は最短で通過で問題ないにゃんね」
「それでかまわない」
アポリト州の州都スプレームスは大公国と隣接する場所に有るため、王都に向かうアルボラ街道から大きく外れる。故にオパルスのような表敬訪問は無しだ。
しかもスプレームスの冒険者ギルドが沈黙しているとなっては、君子危うきに近寄らずだ。
「にゃあ、王都まで野営もなしで行くにゃん」
「問題ない、むしろ助かる」
「にゃあ、ハリエット様の体調が最優先だから問題が有る時は停まるにゃんよ」
「いや、たとえ走っていてもこの馬車のほうが王都のベッドより快適だ」
「それはそれで問題にゃんね」
本来なら王都に向かう街道は混んでるのだが、州境は現在のところ事実上の閉鎖状態なので混雑というほどではなかった。
王都に向かう馬車は大公国経由で西に向かう街道が混み合ってることだろう。
こちらは空いてるとはいえ、沿道に人口が多いだけあってプリンキピウムに行く馬車よりはずっと台数が多い。
「平和にゃん」
道も平坦だし獣もいないし治安も完璧だ。そもそも森じゃないので行程そのものはスリルもサスペンスもない。
「にゃあ、問題はアポリト州にゃんね」
「そうであろうな」
「にゃあ、黒幕はねちっこそうなヤツだから絶対にまた来るにゃん、それでいて自分の手は汚さないにゃん」
「盗賊をけしかけるとか?」
「にゃあ、ハリエット様一人なら盗賊で事足りるにゃん、でも護衛が付いたらそれまでにゃん」
オレの猫耳ゴーレムたちを見たら盗賊風情は近づくことすらしないだろう。
「傭兵と言う手もあるぞ」
「にゃあ、ハリエット様の生存を知ってから腕の立つ傭兵を手配するのはかなり難しいにゃんよ」
傭兵事情は以前に調べてある。
最大手のブラッドフィールド傭兵団がオレには不干渉の約束をしてるので、来たとしても二流以下だ。
「何が来るのだろうな?」
「オレの予想では宮廷魔導師もしくはそれクラスにゃん」
「魔導師か」
「小回りがきいてすぐに調達できるにゃん。すでに黒幕は使ってるのでまた使ってもおかしくはないにゃん」
「アポリト州で魔導師の襲撃か、それも厄介だな」
「にゃあ、オレの防御結界は簡単には抜けないのでいきなり即死はないはずにゃん。それにビッキーとチャスもいるから、オレが動けなくなっても逃げ出すことは可能にゃん」
ビッキーとチャスはオープンデッキでリーリ指導のもと本日も魔法の練習中だ。継続は力なり。中途半端は危ないのでしっかりと覚えて欲しい。
オレは御者台の真ん中に座り、ハリエットは王国軍総司令部と通信中だ。アポリト州の情報を集めてくれるらしい。
『ニャア』
助手席の猫耳ゴーレムに抱っこされながら、オレも情報が有りそうな人間に念話を入れてみる。
『にゃあ、オレにゃん』
『マコトか、いろいろ暴れてるらしいな』
いきなりご挨拶なのはフルゲオ大公国のレオナール大公陛下だ。
『にゃあ、暴れてるわけではないにゃんよ』
『王国の公爵を森で拾ったとか?』
『情報が早いにゃんね』
『非公式に領内の通過の許可を求められた。こちらは問題ないと返答したのだが、やはり通ることにしたのか?』
『にゃあ、ハリエット様は「大公国に迷惑をかけられない」と仰って行かないことにしたにゃん』
『我が国に迷惑か、いったい何があるというのだ?』
『ハリエット様は王国の貴族に出兵の口実を与えることを危惧されているにゃん』
『それなら問題は無い、返り討ちにする』
『にゃあ、オレもそうだと思うにゃん』
『以前とは違うからな』
『陛下は、アポリト州で何か起こってるか知ってるにゃん?』
『具体的なところは不明だ、避難民の流入が止まってると報告を受けてる。アルボラではどうだ?』
『にゃあ、アルボラ街道の通行が途絶えたにゃん』
『マコトは、ハリエット公爵と関係があると思うのか?』
『無いと思いたいけどタイミングが合ってるにゃん』
『マコト、ハリエット公爵を連れてアポリト州に入る気か?』
『そうにゃん、一気に駆け抜けるにゃん』
『悪いことは言わん、ヤメておけ、いまならまだ間に合うだろう?』
『宮廷魔導師級の魔法使いが襲撃してくる可能性があるにゃん、流れ弾でもかなりの被害が出るにゃんよ』
『高ランクの魔法使いか、どうってことないだろう?』
『にゃあ、オレたちが無事でも巻き添えで大公国の人に被害が出る可能性があるにゃん、それは絶対に避けたいにゃん』
『確かにややこしいことになるか』
『にゃあ、黒幕はアルボラ州の領主様を巻き込んで内戦を引き起こそうとしたフシが有るにゃん』
『アルボラ州の森で公爵を殺してそれをネタに内戦を仕掛けるなんて無理じゃないのか?』
『そうでもないみたいにゃんよ、身の潔白を自分で証明するのは至難の業にゃん。それならアルボラ側から武力に訴えた方が話が早いにゃん』
『随分と乱暴だが、ありえる話なのだな』
『にゃあ、オレがハリエット様を連れ込んだら次は大公国が狙われるにゃん、いくら以前と違うと言っても復興中に戦争しても益がないにゃんよ』
『それはそうだが』
『にゃあ、オレたちはアポリト州を通るにゃん、これは変わらないにゃん』
『それでアポリト州の情勢か?』
『そうにゃん』
『わかっているのは、州都スプレームスから人の流れが停まっているということだけだ、こちらから王国側に出国した者も消息を断っている』
『アポリト州の人間とは連絡が途絶してるにゃんね?』
『そうだ、昨夜から連絡が取れない』
『これは何かがあったにゃんね』
『マコト、アポリトの都市には近づかぬことだ、いずれも昨夜を境に沈黙している』
『了解にゃん、街には近寄らないで街道を突っ走って一気に抜けるにゃん』
『あっ、ちょっと待ってくれ、宮廷魔導師どもの観測では何かしらの大規模な魔法が行使されたらしいとのことだ』
『大規模な魔法にゃん』
『内容は不明だが、状況からしてロクなものではあるまい』
『そうにゃんね、とにかく速度を上げて通り抜けるにゃん』
『それがいい、王国は国としては安定してるが王宮内の権力闘争は我が国の比じゃないから気を付けろ』
『ご忠告感謝にゃん』
アポリト州で起こってる大規模な異変の中にハリエットそれにビッキーとチャスを連れて行くのは気が重いが、このままアルボラに留まっても安全だという保証はない。
「おやつの時間だよ!」
リーリがオレの前でホバリングした。
「にゃあ、直ぐに用意するにゃん」
ちっちゃなケーキをたくさん出した。これならビッキーとチャスもいろいろ食べられる。孤児院あらため寄宿学校でも定番のおやつになってる。
ハリエットも通信の魔導具を仕舞ってお茶を飲む。
「普通にお茶が飲めるとは馬車で移動中とは思えない贅沢だ」
揺れる馬車では飲食しないのが普通らしい。
「アポリト州だが、何かが起こってるのは間違いないようだ。王国軍は迎えを寄越すと言ってるがどうする?」
王国軍もアポリト州の異変の詳細は掴めてないようだ。
「にゃあ、迎えの人員にはどれぐらいのランクの魔法使いがいるにゃん?」
「いや、魔法使いはいない。通常編成の小隊が二つで二〇人程度のはずだ」
「その二〇人はどの程度のランクにゃん?」
「練度はごく普通だ。何人かは銃を持ってる」
「ボロボロの馬車二台で来たりはしないにゃんよね」
「済まない馬車は一台だ」
「にゃお、王国軍の総司令部はちゃんとハリエット様の話を聞いてるにゃん?」
「無論、聞いてるはずだ」
「ハリエット様は、この先で宮廷魔導師クラスの魔法使いに襲撃される可能性があるにゃんよ、そいつらで対応できるにゃん?」
「少なくとも銃は五丁以上あるはずだ」
ハリエットはちょっと得意げだぞ。
王国軍はオレが想像してるより貧乏かもしれない。
それと宮廷魔導師の力をかなり甘く見積もっていた。ヤツらはチマチマ毒を仕込むチンケな魔法が本業ではないはずだ。
「ハリエット様、宮廷魔導師の魔力が大公国の宮廷魔導師と同等とするならば魔獣に匹敵するにゃん、普通の小銃では勝ち目はないにゃんよ」
「魔獣クラスなのか?」
いまさらながら驚くハリエット。
「しかも防御結界に守られているから物理的な攻撃は効かないにゃん、すぐに魔獣並みの魔法で反撃されるにゃん」
「宮廷魔導師は、本当にそこまで強いものなのか?」
半信半疑らしい。
「にゃあ、大公国の宮廷魔導師たちと同じクラスなら強いにゃん」
「魔法使いの火力が大きいのは知っていたが、すぐに魔力切れを起こすし精度も悪いので獣を追っ払う程度にしか使えなかったのだが」
「にゃあ、それはランクが低い魔法使いと違うにゃん?」
「確かに上級の魔導師では無かった」
上級宮廷魔導師の攻撃力が知られていないのは、衆人環視の中で大きな魔法を撃ったりしないからか。
本当にへっぽこならそれに越したことはないけど、それは無いだろう。
「アポリト州での異変は魔導師が関係しているのか?」
「にゃあ、異変に関わってるかどうかは不明にゃん、ただ大規模な魔法が行使されたみたいにゃん」
「大規模な魔法?」
「少なくとも対魔法の防御結界を張れない人間は足を踏み入れるべきじゃないにゃん、だから王国軍の迎えは断って欲しいにゃん」
「わかった、迎えは断ろう」
「状況がはっきりするまではオレたちだけで動いた方が小回りが利くし逃げ足も速いにゃん」
「逃げるのだな」
「にゃあ、勝てない相手とは戦わないにゃん」
○アポリト州 境界門
昼食も夕食も馬車を走らせたままだったが、アルボラ州とアポリト州の境界門に到着した頃にはすっかり暗くなっていた。
アルボラの守備隊員たちが敬礼してくれる。
前回は無人だったのに今回は一〇〇人ほどの守備隊が境界門を守っていた。
アポリト州側は相変わらず無人だ。
「ご苦労様にゃん、アポリトの状況は何かわかるにゃん?」
「昨夜から誰一人こちらには到着しておりません。アポリトの領内で何かあったのは間違いないと思われます」
小隊長が説明してくれる。
「危険な状況にゃんね」
「立ち入られないのがいちばんいいのですが」
「そうもいかないのだ」
ハリエットが答えた。
「にゃあ」
このまま留まるとアルボラに厄災を呼び込む。
「にゃあ、領主様に結界の補強を頼まれたのでやっておくにゃん、アルボラに害意のある人間や獣は通れなくするにゃん」
オレは座席に立ち上がった。
右手を突き上げる。
「にゃあ!」
境界門に注ぎ込まれた魔力が青く光る。
「「「おおお!」」」
守備隊員たちがどよめく。
「これはスゴいな」
ハリエットも驚いていた。ビッキーとチャスもじっと見ていた。
「にゃあ、行くにゃん」
「「「お気を付けて!」」」
アルボラの守備隊員たちに見送られオレたちはアポリトの領地に進んだ。
○帝国暦 二七三〇年〇七月二七日
○アポリト州 アルボラ街道
日付が変わったが真っ暗な街道に変化はなかった。ハリエットはまだ起きていたが、ビッキーとチャスはオープンデッキで寝かせてある。
「にゃあ、何も反応は無いにゃんね」
探査魔法を打っても暗い森に人の気配はない。獣もいない。
「ずっと無人のままならいいのだが」
「そうにゃんね」
距離を稼ぐために速度を上げる。
アルボラ州からレークトゥス州に抜けるのに馬車で普通は一週間ほど掛かるらしい。オレたちの馬車をノンストップで走らせても三日は掛かる。
少し浮かせて飛ばす魔法を使えばもっと速いのだが、待ち伏せの危険性を考えると地に足を着けていた方が良さそうだ。
街道近くの集落にも人の気配がまったくなかった。
集団で何処かに避難したのだろうか?
「ハリエット様は寝て欲しいにゃん、何かあったら起こすから心配要らないにゃん」
「わかった、では先に仮眠させて貰おう」
「にゃあ」
ハリエットもビッキーとチャスと一緒にオープンデッキで雑魚寝だ。
リーリはオレのおなかに張り付いて眠っていた。
オレは御者台の真ん中に移動し感覚を研ぎ澄ませ探査に集中する。
魔導師なら何とかなるが、もっとヤバいものが来たらドラゴンゴーレムで逃げるつもりだ。
最初からドラゴンゴーレムを使えば話が早いのだが、オレの切り札の一つを身内以外に晒したくはなかった。
ハリエットに知られるのは仕方ないとしても、オレたちを監視している敵には教えたくはない。
空が白み始めた頃、アポリト州に入って初めて探査魔法に動く反応が引っ掛かった。




