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貴族の食卓にゃん

 ○州都オパルス オパルス城 食堂


 夜はハリエットたちと領主一家の夕食に招かれた。

 ラーメンも良かったが、本当の貴族のご飯というものに興味津々だ。

 通されたのは領主一家が普段使ってる食堂だった。いかにも貴族の食卓って感じの長テーブルだ。

 オレがより貴族っぽく感じる意匠はカズキが作り出してるのかな?

「ハリエット様、お久し振りです」

「クリステル殿、今夜は世話になる」

 カズキの妻はクリステル・ベルティは二〇代後半に見える。一瞬、後妻かと思ったがフリーダに良く似ていた。

 魔力からすると魔法使いか。

「お母様、こちらがネコちゃんと妖精さん、それに精霊術師のビッキーとチャスです」

 ビッキーとチャスは箔をつけるために精霊術師を名乗らせる。

「あらまあ、マコトさんは本当に小さな女の子なのね、妖精さんも可愛い。それにそちらのお嬢さんたちが精霊術師って本当なの?」

「本当だよ、間違いない」

 カズキがオレに代わって答えた。

「マコト・アマノにゃん、今夜はオレたちまで呼んでいただき感謝するにゃん」

「あたしはリーリだよ!」

「ビッキーです」

「チャスです」

 ビッキーとチャスもちゃんとご挨拶ができた。

「にゃあ、お姉さんじゃなくて本当にフリーダのお母さんにゃん?」

「間違いなくフリーダの母よ」

 おっぱいは娘より大きいぞ。さすが巨乳派の領主様が正妻に選んだだけのことはある。

「にゃあ、スゴいにゃん」

 スゴい若作り夫婦だ。


 いよいよ貴族のご飯だ。

 ワゴンで料理が運ばれてくる。

「にゃあ、緊張するにゃん」

「この料理の再現に三年を費やしたよ、マコトもその価値をわかってくれるんじゃないかな?」

「再現にゃん?」

 オレたちの前に料理が置かれた。

 それはかつて週三回は食べていたもの。

「にゃあ、牛丼にゃん」

 以前、オレが作ったアレンジメニューとは違いまんまあの店の牛丼そのものだ。

 味は残念ながらオレがクロウシで作った方が美味しいにゃん。

 材料が違うのだから当然だ。

「ふふ、苦労したよ」

 カズキはドヤ顔だ。

「完璧な再現度にゃん」

 ただ、オレが食べたかった貴族のご飯じゃない。

 ハリエットとリーリそれにビッキーとチャスは黙々と食べてる。

「領主様たちは、普段も牛丼やラーメンにゃん?」

「いや、普段はこっちの料理がメインだよ」

「ええ、いくら領主とは言え、毎夜、贅沢は出来ませんわ」

「そうよ、普段はネコちゃんと違って質素なものよ」

「にゃあ、牛丼やラーメンは贅沢な食べ物だったにゃん?」

「醤油を作るのにいくらつぎ込んだか」

 遠い目をする領主様。

「にゃあ、オレも調味料のなさはこっちに来た初日に衝撃を受けたにゃん」

「ネコちゃんもお料理上手よね、前にごちそうになった時に驚いたもの」

「マコトもやるね」

「オレのは有りもののレシピのアレンジが中心にゃん」

「アレンジして何を作るんだい?」

「そうにゃんね、例えばこういうのにゃん」

 ハンバーガーだ。メイドさんが銀のお盆に載せてカズキまで運んでくれる。

「ちゃんと包み紙まで再現してるし、しかも本物より美味い!」

「にゃあ、味の再現まではオレには無理にゃん」

「もしかしてチーズバーガーもある?」

「あるにゃんよ」

 チーズバーガーを再生してまたメイドさんに運んでもらう。

「もしかしてマコトは、格納空間の中でも料理出来たりするのかい?」

「できるにゃんよ」

「それはスゴい! それにこのチーズバーガーもスゴい美味い!」

「クロウシのパテとマダラウシのミルクから作ったチーズにゃん」

「マコトもボクの仲間だね」

「そうにゃんね」

 少し方向性は違ってるけど。

「こっちの飯はボクたちの口に合わないからね」

「にゃあ、もしかして貴族のご飯もにゃん?」

「ボクの基準だと全体の七割が普通にマズくて二割がとんでもなく不味い、それで最後の一割がまあ食べられるぐらいの割合かな」

「にゃあ、厳しい世界にゃん」

「過去にはそこそこ美味しい料理が有ったんだね」

「にゃあ、州都の図書館の記憶石板にもレシピはあったにゃんよ」

「図書館か、レシピまで有るとは思ってもみなかったよ、記憶石板を買い漁ったかいがあると言うものだね」

「ネコちゃんはプリンキピウムのホテルのオーナーでも有るのよね?」

「にゃあ、プリンキピウムはその土地が欲しかっただけで、最初はホテルを作る気なんてぜんぜん無かったにゃん」

「それでいま話題のプリンキピウム・オルホフホテルを短期間で作り上げたんだからスゴいの一言だよ」

「話題にゃん?」

「ああ、アーヴィン様がパーティーでメチャクチャ褒めてたからね」

 カズキの口からアーヴィン様の名前が出た。

「にゃあ」

「オルホフホテルでの滞在が近隣の貴族や裕福な市民の間でステータスになる日も近いんじゃないかな」

「お湯がすごく身体にいいとか聞いたわ」

 フリーダにはデリックのおっちゃん経由で情報が回ってるっぽい。

「美容にいいとも仰ってましたね」

 クリステル奥様の目がピカっと光った。

「にゃあ、お湯に治癒魔法を載せてるから身体にいいのは当然にゃん」

「流石にボクもそこまでのモノは作れないな」

 カズキは興味がない感じ。

「にゃあ、刻印は面倒だから、わかるにゃん」

「なるほど、ここでは深く聞かないほうが良さそうだね」

「にゃあ」

 オレも頷く。

「ネコちゃん、州都にはホテルを作らないの?」

 フリーダが質問する。

「州都にネコちゃんのホテル? それはいい考えですわね。カズキ様もそうお思いでしょう?」

 クリステル奥様が真剣な表情をカズキに向けた。

「マコトのオルホフホテルを州都にか、悪くないな、こっちはリゾートと言うよりはシティホテルかな?」

「にゃあ、器は造れても従業員がいないにゃん」

「プリンキピウムのホテルはゴーレムを使ってるんだろう? もう全部、ゴーレムでいいんじゃないか?」

「にゃあ、それはありにゃん?」

「問題ありませんわね」

 クリステルも頷く。

「にゃあ、それと土地にゃん、広くて安い土地が欲しいにゃんね、呪われていても問題ないにゃん」

「安くて広くて呪われた土地か」

「にゃあ、呪われてるのは必須じゃないにゃん」

「ああ、一箇所あった」

 あるのか。

「お父様、龍の躯のことをおっしゃってるのでしたら、安いどころか懸賞金まで掛けてあるじゃありませんか?」

「どんな場所にゃん?」

「大昔、龍が死んだと言われてる小高い土地なんだが、魔獣の森なみにマナの濃度が濃くて人間が立ち入れないんだ」

「州都ではないにゃん?」

「城壁の内側ですから間違いなく州都ですわ、昼間になればここからも見えるわよ」

「にゃあ、だったらそこにするにゃん」

「解放にはマナの濃度を抑えることが条件だね、報奨金は前の領主の時代から積みましされていまは大金貨三〇〇〇枚ぐらいかな」

「にゃあ、わかったにゃん、王都から戻ったら行ってみるにゃん」

「ところでネコちゃん、私にもチーズバーガーをいただけるかしら?」

「どうぞにゃん」

 メイドさんが差し出した皿にチーズバーガーを載せた。

「フリーダもどうにゃん?」

「いただきます」

「マコト、もしかして照り焼きも出せる?」

「あるにゃんよ、他にフィッシュもあるにゃん」

「おお!」

「マコト、あたしにも!」

 リーリが手を挙げた。

「私にももらえるか?」

「にゃあ」

 ハリエットにも出してやる。

 ビッキーとチャスは牛丼並盛りでおなかいっぱいみたいだ。


 結局、牛丼とハンバーガーで終わってしまった。


 夕食の後はハリエットにオレも加わってカズキへ状況説明することになった。

 リーリは奥様とフリーダと一緒にデザートだ。

 ビッキーとチャスはお眠でメイドさんたちに部屋へと運んでもらった。

 何かウエディングケーキみたいのにリーリが全身で飛び込んだのを横目にオレたち三人は厳重に結界を張られた窓のない小部屋に入った。



 ○州都オパルス オパルス城 談話室


「まずはハリエット様を保護した状況を説明してもらってもいいかな?」

「にゃあ、プリンキピウムの森のことにゃんね、オレから話すにゃん」

「頼む」

 ハリエットがうなずいた。

 オレはプリンキピウムの森でハリエットを拾った場面をカズキに説明した。

「森を魔法馬でか、ボクも近衛の騎士で間違いないと思うよ。王都経由での情報だけど遺跡の発掘現場で近衛の騎士がふたりほど行方不明になってるらしい」

 カズキも情報を集めていたらしい。

「そうなのか」

 ハリエットが呟く。

「黒幕はわかったにゃん?」

「想定される犯人は宮廷魔導師もしくはそれクラスの魔法使い、ボクを巻き込もうとする辺りなかなかイヤらしい性格をしてる人間だね」

 カズキは予想される犯人のプロファイリングを披露する。

「宮廷魔導師クラスの魔法使いってどのぐらいいるにゃん?」

「ボクの知る限りでは、マコトを含むボクと同郷の人間と、大公国の大公陛下と配下の魔導師ぐらいかな?」

「にゃあ、それって王国の宮廷魔導師で決まりと違うにゃん?」

「だろうね、マコトが看破した彫像病を引き起こす別名『王族殺し』の呪法は宮廷魔導師に伝えられるとされる伝説上の魔法だし」

「犯人は伝承者で決まりと違うにゃん?」

「あくまで伝説だからね、王国の宮廷魔導師たちも『王族殺し』の実在について認めないし」

「にゃあ、そりゃ認めるわけにはいかないにゃんよね」

「いくら宮廷魔導師の連中が『王族殺し』の存在を否定しても、今回はおおっぴらに情報が出回っているから、呪術の存在までは否定できないだろうね」

「マコトが私の彫像病を治療したのが何よりの証拠だ」

「そのマコトの存在も一部を除いては、いまのところ静観の構えだね。あいつらも下手に突いたらヤバいのはわかってるみたいだ」

「にゃあ、『一部を除いて』ってのが引っ掛かるにゃんね」

「好奇心旺盛な研究者タイプだよ、彼らはつまらないプライドは持ち合わせてないから、マコトからしたら逆にちょっとうざいかもね」

「にゃお、それって領主様のところのハカセみたいな感じにゃん?」

「ハカセ、ああ、エイハブのこと?」

「にゃあ」

「うん、まさにそんな感じ、既にボクにも問い合わせが来てるから、王都で付きまとわれるかもね」

「解剖されたりしないにゃん?」

「しないよ、基本的にいいヤツだよ、うざいけど」

「にゃお」

「すると犯人は未だ不明なのか?」

「ハリエット様が誘拐された日、カルヴィン・ボーテング王国軍主計局副局長が司令部の裏で遺体となって発見されたのはご存知ですか?」

「カルヴィンが死んだことは聞いている」

「首を切断されてね」

「エグいにゃんね」

「当初はハリエット様の誘拐犯と鉢合わせして殺されたと思われてたけど、彼がプリンキピウムの森で姿を消した騎士たちと親しいことがわかった。つまりそういうことらしいね」

「実行犯の一人だったにゃん?」

「その可能性が高いだろうね、王国軍総司令本部からハリエット様を外に運び出したのは彼で間違いないだろう」

「カルヴィンが? いや、それはあり得ない、あり得ないはずだ」

 カルヴィン・ボーテングはハリエットに親しい人物だったのだろう。

「真犯人に騙された可能性もあるにゃん」

「それは確かに」

「騎士ともども使い終わった後は始末されたんじゃないかな? 真相は改めて王都で調査されるから、それを待つしかないかな」

「わかった、王都に戻ってから私も調べよう」

「にゃあ」

「次は王都までの旅ですが、アルボラの州内でのハリエット様の安全はボクが保証します」

「済まない、恩に着る」

「問題はその先ですね」

「アポリト州とレークトゥス州にゃんね」

「そう、ボクが目を光らせてるアルボラ内での襲撃はまずないと思う。来るとしたら治安がいまいちな上に現在混乱中のアポリト州じゃないかな?」

「アポリト州は混乱してるのか?」

「大公国での死霊騒ぎで逃げ出した貴族が賞金首になったんです。ここにいるマコトも当事者の一人ですよ。大公国の辺境伯ですし」

「それは聞いてる」

 ハリエットが頷く。

「にゃあ、オレは死霊を退治しただけにゃん、報酬代わりに人の居ない領地を貰ったにゃん」

「いまではスゴいことになってるけどね」

「スゴいのか?」

 ハリエットがオレを見る。

「オレからはなんとも言えないにゃん」

「とにかくアポリト州は賞金首の貴族に行き場を失った家臣たち、そいつらを狙う賞金稼ぎに盗賊とかなり混沌とした状況ですね。大公国にかなりの数の避難民が流れたので復興のためのいい労働力にはなりそうですね」

「アポリト州は道路もイマイチにゃん」

「それでもレークトゥス州に抜けるアルボラ街道は多少マシだったんだけどね、仕方ないのでいま大公国からクプレックス州周りのルートを開拓中だよ」

 クプレックス州は大公国の北に位置する。

 更にフィークス州とリアンティス州とかなり遠回りだが王都に行くことは可能だ。

「ハリエット様はどうします?」

「王家の血族は公式な訪問以外、大公国に足を踏み入れることは許されていない」

「だったらそのままアポリト州を抜けるアルボラ街道ルートで決まりにゃんね」

「お忍びで大公国にこっそり入るのは?」

 カズキが現実的な提案をする。

「いや、何か有って大公国を巻き込むと面倒な事になる、それに王国側には大公国に出兵の機会を伺っている貴族が少なくはない」

 ハリエットは首を横に振った。

「にゃあ、大公国に出兵の口実を与えるのはオレも勘弁にゃん」

「それもそうか」

「カズキ殿には迷惑を掛けた」

「いや、敵はハリエット様と一緒にボクも始末するつもりだったのでしょう。マコトがいなかったら内戦でしたよ」

「内戦か、カズキ殿と事を構えたら王国もただでは済むまい」

「買い被りすぎです」

「いや、これでも各領地の戦力は把握してるつもりだ、それに本当の黒幕がそれで満足する保証もない」

「にゃあ、宮廷魔導師が真犯人じゃないにゃん?」

「宮廷魔導師は実行犯止まりじゃないかな? 彼らはハリエット様を暗殺してボクを失脚させても益があるわけじゃないから」

「黒幕の狙いは何であろう?」

「さあ、王国軍を潰すついでに邪魔な領主を潰すってところでしょうか? 王国の転覆は考えたくないな」

「王国の転覆にゃん?」

「内戦になれば考えられなくもないよ」

 まるでどこかの第一公子みたいだ。でも王国は大公国ほど酷くないはずだが。

「実はここ以外の領地って前の大公国並に酷いにゃん?」

「全体の半分ぐらいはそうかな?」

「にゃ、随分多いにゃんね」

「毎年、餓死者を出してる領地がそれぐらいある。おしなべてそういう土地は愚かな貴族を多く抱えている」

 ハリエットはなかなか手厳しい。

「しかしそれが何か関係あるのか?」

「にゃあ、内戦が飛び火する可能性を考えたにゃん」

「領民が決起するか」

「その後が悲惨なことになりそうだね」

「にゃあ、盗賊が幅を利かせると違うにゃん?」

 モヒカンがヒャッハー!な世界の到来だ。

 残念ながらご飯が足りないからマッチョにはならないと思うが。

「そうならない為にもボクもできることはやりますよ、当事者ですからね、ハリエット様はまず王都に無事の帰還をお願いします。マコトも頼んだよ」

「にゃあ、任せるにゃん」

「カズキ殿には世話になった、感謝する」

「感謝は、王都に無事に戻れたらと言うことで」

 話し合いは終了だ。

「そうだ、マコトの小麦、ウチにも回して貰ってもいいかい? ブランディーヌ様にマコトに許可を得るように言われたんだ」

 ソファーからよっこらしょと降りたところでカズキは小麦の話を持ち出した。

「にゃあ、低価格での再販が条件にゃん」

 貧乏人に行き渡らないことには意味がない。

「条件はブランディーヌ様からちゃんと聞いてるから問題ないよ」

「だったら、オレも問題ないにゃん」

「マコトの小麦?」

 ハリエットが首を傾げる。

「大公国のマコトの二つの領地で大規模な小麦の生産が始まってるんです、魔法を使った促成栽培だとか」

「売るほどあるのか?」

「にゃあ、大公国内に行き渡ったみたいだから、条件付きでならアナトリに売っていいって言ったにゃん」

「何故、マコトの小麦をブランディーヌ殿が管理してるんだ?」

「にゃあ、大公国の冒険者ギルドに販売を一任してるからにゃん」

 輸送はネコミミマコトの宅配便が独占してるけどな。

「王国軍に売ることは可能か?」

「にゃあ、売ってもいいけど将来的に大公国に攻め込まれると困るにゃん」

「いや、王国軍は魔獣が専門だ、戦争には使わん」

「了解にゃん、値段と納品に付いてはブランディーヌ様と話し合って欲しいにゃん」

「マコトは、プリンキピウムでは小麦を作らないのかい?」

 カズキが問う。

「にゃあ、いまのところ作る予定はないにゃん」

 地下でこっそり作ってるのは内緒だ。

「どうして?」

「オレの小麦は人間の入れない場所で作ってるにゃん、プリンキピウムにそんな土地はないにゃん」

「森は入れないようなものだけど」

「にゃあ、オレの大事な狩場を自分で潰すわけないにゃん」

「そう来るか」

「州都の近くに耕作放棄された畑がいっぱいあるにゃん、そこを有効活用することをお勧めするにゃん」

「ちょっと耳が痛いね」

「にゃあ、領主様は大変にゃんね」

「マコトだって領主だよね?」

「にゃあ、仕事の大部分は冒険者ギルドに丸投げしたにゃん、オレはこうやって好きに動いてるにゃん」

「それいいね、ボクも真似しようかな」

「にゃあ、フリーダと奥様に怒られても知らないにゃんよ」

「それはちょっとじゃなく怖いね」

 領主様のところは女性が強いようだ。


 三人での情報の共有が終わってハリエットが通信の魔導具を使うのにゲストルームに先に戻った。

 オレとカズキは小部屋に残って話を続けた。


「にゃあ、領主様に一つ教えて欲しいことがあるにゃん」

「何だい?」

「遺跡のことにゃん、オレの持ってる知識はほとんど記載がないにゃん」

「いまある遺跡に大半はオリエーンス連邦時代の物だものね。オリエーンス神聖帝国時代のものは発見されてないんじゃないかな?」

「だからオリエーンス神聖帝国の実在があやふやにゃんね」

「そうだね、存在の証明が精霊情報体だけだからね」

「にゃあ、遺跡は逆に新しくてわからないにゃん」

「プリンキピウムの遺跡についても?」

「さっぱりにゃん」

「ボクもあそこについては良くわからないな。王宮は治外法権を盾に詳しいことを教えてくれないんだよね」

「王宮が管理する重要遺跡だからにゃん?」

「マコトも知ってるじゃないか?」

「オレの調べられることなんてたかが知れてるにゃん、他の人に聞いた知識があるだけにゃん」

「ボクが知ってるのも似たようなものだよ。王都の西に点在するクーストース遺跡群のひとつでオリエーンス連邦最後期のものらしいってことぐらいだね」

「近衛軍が一生懸命に発掘してるってことは、軍事拠点か何かだったにゃん?」

「現時点ではそれもわからないみたいだよ」

「まだ掘り始めたばかりにゃん?」

「そうだね、本格的な発掘が開始されてまだ半年ぐらいかな」

「発掘って時間が掛かるものにゃん?」

「数百年に渡って掘ることもあるよ」

「にゃあ、鉱山みたいにゃんね」

「遺跡には人間が入れる迷宮型と人が入れないゴーレム型があるんだ」

「オレが見付けた図書館情報体はゴーレム型にゃんね」

「そう、ゴーレム型は人の手に負えないし、かなり深い所にあるので発見例自体もほとんどない」

「プリンキピウムの遺跡は迷宮型にゃんね」

「そう、このアルボラの領地には幾つか遺跡があって、プリンキピウム以外はボクが所有してる、いずれも迷宮型だね」

「プリンキピウムの遺跡は何で領主様の物じゃないにゃん?」

「クーストース遺跡群は正確な場所がわかる前から存在が推測されていてね、宮廷がかなり前から重要遺跡に設定してたんだよ」

「何かズルいにゃんね」

「一〇〇年まえからだからどうしようもないね」

「にゃー」

「遺跡の発掘には手間とコストが掛かるんだ。特にプリンキピウム遺跡は領内の遺跡と違って大規模な上に結界がかなり強力らしい」

「迷宮ってダンジョンにゃん?」

「似てるけど本来は都市だった物が多いかな」

「都市が埋まってるにゃん?」

「大都市は少ないけどね」

「昔の人は地下に住んでたにゃん?」

「いや、地上部分は壊されたんじゃないかな? 領内の遺跡はどれも上が切り取られたような状態だったよ」

「戦争でも起こったにゃん」

「伝承では魔獣があふれて文明は滅びたとされてる」

「にゃあ、実際の迷宮はどうなってるにゃん?」

「入り組んだ構造に防御結界に防犯用の魔獣もどき、中には魔獣が埋まってた例もあるよ」

「まさにダンジョンにゃんね」

「発掘に時間が掛かるのは障害を一つずつ取り除くからなんだ」

「にゃあ、大変そうにゃんね」

「防御結界の解除には大量の犯罪奴隷を投入して飽和状態にして力任せにこじ開けたりね」

「肉弾戦にゃんね」

「いくら犯罪奴隷とは言え、命のコストがバカにならないよ」

「領主様は使わなかったにゃん?」

「ボクは自分で防御結界やトラップを解除できるから、発掘も犯罪奴隷と言っても元トレジャーハンターの男たちを大事に使って効率的にやってるよ」

「にゃあ、それは安心にゃん」

「それと友人の第二王子が遺跡発掘の天才でね、随分助けられたよ」

「王国の第二王子にゃん?」

「そう、マコトのことを知ったら嫁に欲しがるだろうな、この前までプリンキピウムの遺跡にいたらしいよ」

「オレは要らないにゃん」

「だよね」

「第二王子が犯人と違うにゃん?」

「違うんじゃないかな、権力が欲しかったら第一王子を始末すればいいんだから、ハリエット様をわざわざ手に掛ける必要がないし」

「にゃあ、それもそうにゃんね」

「それに遺跡の発掘と研究の妨げになるようなことは絶対にやらない人間だよ」

「逆においしそうな遺跡を餌にされたら簡単に操作されそうにゃんね」

「あーそれはあるかも」


 第二王子とやらはオレの中で要注意人物に指定した。


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