領主カズキ・ベルティにゃん
オレと領主様はソファーに向き合って座った。ソファーも座り心地に肌触りいずれも素晴らしい工芸品だ。
「まずはお礼を言うよ。プリンキピウムの森での魔獣の討伐にピガズィのグール、大公国での死霊、それにフルグル村の新型インフルエンザ。特にインフルエンザはマコトがいなかったらかなり危なかった。本当にありがとう」
領主様に頭を下げられた。
「にゃあ、どれも偶然の産物にゃん。それと大公国は関係ないと違うにゃん?」
「いや、国境が開かれた経済効果は大きいよ。それにどれもマコトに助けられた事実に変わりはないし」
領主様は言葉を区切った。
「そしてここからが本題」
「本題にゃん?」
「マコトは、日本から来たんだよね?」
「にゃ!?」
「違うの?」
「にゃあ、いきなり日本なんて単語が出たからびっくりしただけにゃん」
「やっぱり日本から来たんだ」
「そうにゃん」
「ボクは本名サワムラ・カズキ。こう見えて中身は日本人のオッサンだよ。ただ日本にいた頃の面影も無いし、この十五歳の外見と年齢に思考が引っ張られるところはあるけどね」
「わかるにゃん、オレはアマノ・マコトにゃん。こっちでの年齢は六歳にゃん、あっちでの年齢は三九歳だったにゃん。面影は髪と目が黒いぐらいにゃん」
「あっちでもボクが年上だね、日本では四五歳だったから」
「領主様は、いつこっち来たにゃん?」
「いまから三五年前だよ、こちらに転生した時に十五に若返っていたから合わせて五〇歳なんだ」
「にゃあ、三五年たっても姿が変わらないにゃん?」
「うん、たぶんマコトも同じだと思うよ」
「にゃあ、するとオレはずっと六歳のままにゃん!?」
「可能性は高いね、これを見てよ」
カズキは冒険者カードを見せてくれた。
「にゃあ、Sランクの冒険者にゃん!?」
「見て欲しいのは年齢だよ」
「にゃ? 十五歳って書いてあるにゃん!」
「冒険者カードは魔導具としてかなり優秀でね、まず記載内容を偽ることはできないんだよ。だから肉体的に十五歳のままなのは間違いないね」
「にゃお」
「どうして四五歳のオッサンが十五歳の少年になって、何故そのままなのか? それに付いてはボクも未だに解明できていないよ」
「にゃお、あと何年かしたらフリーダみたいなナイスバディになると思っていたのに、残酷な現実にゃん」
「マコトはあっちで何をしていたの? ホテル関係、それともOL、主婦って感じじゃないよね」
「にゃあ、新車のセールスにゃん。それとオレは日本では男だったにゃん」
「えっ!? マコトって性別まで変わったんだ!」
そしてスゴい!スゴい!とテンションをバク上げする領主様。
「そうにゃん、異世界転生TSロリにゃん」
「ああ、だから大浴場とかお風呂を積極的に作ってるんだね、合法的に女湯に入るのって男の夢だもんね、うん、わかるよ」
カズキは深くうなずいた。
「にゃあ、エロい妄想をしてるところ悪いけど、オレのメンタルは完全に六歳の女の子にゃん、いやらしいとかまったく思わないにゃん」
「ああそうか、ボクなんか十五歳だから最初の何年かはいろいろ大変だったよ、やりたい盛りの年齢だからね」
「いまは大丈夫にゃん?」
「そこはほら、領主になるとある程度自由が利くから」
「領主様はオレと違って異世界ハーレムの王道にゃんね、チーレムにゃん」
「おおっ、マコトはわかる口みたいだね」
「にゃあ、客間の絵もわかったにゃん」
「もしかしてボクのペンネームを知ってる人?」
「にゃあ! やっぱり領主様が漫画家のKaz★Pon!先生にゃん!?」
「おお、こっちでわかってくれる人に出会えるとは思いもしなかったよ!」
手を取り合うオレたち。
「Kaz★Pon!先生の漫画にはあちらでお世話になったにゃん」
繊細でエロい画風は素晴らしいの一言だった。その作者が目の前にいるって感動だ。
「はぁ、はぁ、その姿のマコトに言われるといいようのない興奮を覚えるよ」
息を荒げる領主様。
「オレに変なことしちゃダメにゃんよ」
ちょっと後ずさる。
「心配いらない、ボクは巨乳派だ」
「にゃあ、後でKaz★Pon!先生にサインして欲しいにゃん」
「だったらマコトにはボクの描いた絵をあげよう、後で案内させるから好きなのを選んで持って行っていいよ」
「にゃあ、ありがとうにゃん」
「ところでマコト、その耳とシッポって本物だよね?」
「そうにゃん」
猫耳とシッポを動かして見せた。
「するとマコトは本物の稀人か」
「稀人に本物と偽者があるにゃん?」
「偽者と言うか、まがい物だね、ボクなんかがそう、魔力はそこそこあるけど稀人ほどじゃない」
「稀人は猫耳とシッポがあるにゃん?」
「そう伝わってるね、ボクはいままで三人の転生者に会ったけど、いずれも猫耳も尻尾も無かったよ」
「転生者が三人もいたにゃん?」
「そう、ひとりはマコトにも関係のあるブラッドフィールド傭兵団の団長」
「にゃあ、ブラッドフィールド傭兵団にゃんね」
「もう一人は隣国ケントルムで悠悠自適に暮らしてる女の子」
「悠悠自適とは素敵にゃん」
「最後のひとりは二〇年前にボクと団長で倒した元宮廷魔導師。いずれも強い魔力を持っていたが伝承の姿には合致してない」
「それが猫耳とシッポにゃんね?」
「そう、猫耳とシッポのついた童女と記されてる。まんまマコトだね」
「形だけかも知れないにゃんよ」
「いや、マコトのことはかなり前から調べさせているんだ。馬車ひとつ取ってもボクの知らない魔法がかなり使われてる。もうそれで条件は十分に満たしてるよ」
「オレの魔法は精霊情報体の魔法が中心にゃん」
「精霊情報体だね、わかるよ」
「それとオリエーンス連邦時代の情報体、オレは図書館情報体と呼んでるにゃん、それがミックスされてるにゃん」
「ボクの場合、精霊情報体のいいところ一〇%程度しか理解できなかったよ。それに図書館情報体ってのは何処で手に入れたんだい?」
「プリンキピウムの街の下で潰れた状態で埋まってたにゃん。それを修理してアクセスしたにゃん」
「近衛が掘り返してる以外にもプリンキピウムにはまだ有ったんだ」
「にゃあ、必要なら返すにゃんよ、ただ直径三〇〇メートルの球体で比重が鉄より重いから地面をそれなりに強化しないと沈むにゃん、それと魔力をバカ食いするから何かしらの対策が必要にゃんね」
「もしかして直径三〇〇メートルの球体を持ち歩いてるの?」
「オレの格納空間に入れてあるにゃん」
「仮にボクが貰ってもアクセスは難しそうだね」
「魔獣三匹分の魔力があればそれなりに使えるにゃんよ」
「うん、間違いない、マコトは本物の稀人だよ」
「図書館情報体はどうするにゃん?」
「返されても手に余るからいいよ、その代わりちょっとだけ内容を教えてくれる?」
「いいにゃんよ、オレの額に額を合わせるにゃん」
「額を? うん、わかった」
カズキはオレをひょいっと持ち上げた。
「おおお! これはスゴいよ!」
軽く情報を流し込むとカズキは歓声を上げた。
「お父様!」
えらい剣幕でフリーダが入って来るとカズキの手からオレをひったくった。
「ネコちゃんみたいな小さな子に手を出すなんて、いくらお父様でも許しませんよ!」
「ご、誤解だよ! ボクはマコトに見せて貰ってただけなんだから」
「触って無くてもアウトです!」
「いや、そうじゃなくて」
「ふたりとも落ち着くにゃん!」
オレはふたりを軽くビリっとさせた。
「知識?」
フリーダはカズキの隣に座った。
「そうにゃん」
「マコトが掘り出した遺跡の情報を額をくっつけて見せて貰ったんだよ」
「ネコちゃんは、そんなことができるの?」
「にゃあ、フリーダにも見せたいけど、エーテル器官が損傷する可能性があるからヤメておくにゃん」
「確認だけど、マコトがいま持ってる二つの情報体はどちらもフルセット?」
「にゃあ、そのはずにゃん。少なくともオレは欠損を認識してないにゃん」
「ボクには扱い切れないから、わからないことはマコトに聞くことにするよ」
「いつでも聞いてくれていいにゃん」
「お父様とネコちゃん、随分と仲がいいんですね」
「マコトがボクと同郷だってわかったからね」
「にゃあ、オレは領主様と同郷にゃん」
「お父様と同郷!?」
「マコトも遠いところから不慮の事故で飛ばされてこっちに来たそうだ」
「そうにゃん」
「苦労したのね、ネコちゃん」
フリーダに抱っこされて撫でられる。
「それはどうだろう、飛ばされて来てわずか数ヶ月で高級リゾートホテルのオーナーで大金持ちで貴族だ。何年もしがない冒険者をしていたボクとは大違いだよ」
「それは冒険者を楽しんでいただけと違うにゃん?」
「多少はね」
目を逸らすカズキ。
「にゃあ、オレは自炊派だから金は有っても使い所がないにゃん」
「いや、これからあるかもよ、ところで本当にメンタルは六歳なんだろうね?」
「紛れもなく六歳にゃん」
フリーダのお胸に頬をこすり付ける。
「柔らかいにゃん」
「ネコちゃん、くすぐったい」
「マコト、おまえちょっと待て、ボクだって触ったことないのに」
「父親が娘の胸を触っちゃダメにゃん」
「そうよね」
「とにかくソファーに座り直せ、まだ大事な話が残ってる」
「にゃあ」
ソファーに降ろされる。
「マコトは黒恐鳥の特異種を持って来たそうだね」
「にゃあ、ちょうど五〇羽にゃん」
「これは以前から一羽、大金貨五〇〇枚で引き合いが来てるんだ。これが五〇羽で合計二五〇〇〇枚だけどどうする?」
「にゃあ、オレが持ってても食べきれないから売るにゃん」
「売ってくれるなら助かるよ」
「手数料はいくら払えばいいにゃん?」
「ネコちゃんは騎士に叙せられてるから、手数料に上限が設定されるの、だから今回は大金貨一〇〇枚をギルドが貰うわね」
手数料についてはフリーダが説明してくれた。
「金は一週間以内に届けられる、王都からの帰りにでも寄ってくれるかい?」
「了解にゃん」
「その頃には魔石の代金も用意できるわ」
「にゃあ、そっちもいっぱいありそうにゃんね」
「支払いは地金になるから、それでも簡単に持ち運べない量になるわね」
「コンテナが必要にゃんね」
「大公国の冒険者ギルドの分は一度に全額受け取るなら王都の冒険者ギルドでお願いね、分割ならこちらでもなんとかなるわ」
「にゃあ、了解にゃん」
「ちょっとした国家予算だね」
「にゃあ、使い切れないにゃん」
「羨ましい限りだよ」
○州都オパルス オパルス城 倉庫
黒恐鳥の特異種を納品するためにフリーダに連れられて城の倉庫に向かう。
移動は魔法車のカートだ。
考えることは皆んな同じにゃんね。
「運転は私に任せて」
フリーダが運転席に乗り込んだ。
オレが隣に座ると魔法カートを発進させた。
アクセルベタ踏みで後輪をスライドさせながら、なんてことは無く安全運転だった。
城の地下にある倉庫は防御結界がこれでもかと張られてる。
「黒恐鳥の特異種はここに並べてね」
「了解にゃん」
黒恐鳥の特異種を床に並べて行く。
ここには学者っぽい人たちがいて、オレの出した特異種に感嘆の声を上げていた。
「これはスゴいですぞ、姫様!」
その中でもいかにも実験中に爆発させそうな博士っぽいオジサンがフリーダに駆け寄った。
いや実際のところ四〇ぐらいか。
「えっ、何がですかマグダネル博士?」
本当に博士だった。
「すべてがです、姫様!」
「ちょ、マグダネル博士、ギルマスとしての威厳が消し飛ぶから、ネコちゃんの前で姫様はヤメてよ」
小声で博士を注意する。
「かしこまりました。ところでフリーダ様、こちらのマコト様を数日お借りしてもよろしいでしょうか?」
マグダネル博士がオレに迫る。
「みゃあ!」
オレはフリーダの後ろに隠れた。
「そんなのダメに決まってるでしょう!」
魔法カートに乗せられて再び走りだす。
「解剖されるかと思ったにゃん」
「流石にそれはないと思いたいけど」
不安の残る物言いにゃん。
○州都オパルス オパルス城 ゲストルーム
フリーダに送ってくれたオレが宿泊する部屋はベッドルームが三つもあるゲストルームだった。
最初のゲストルームも豪華だったが、こちらはその上を行く。
「「マコトさま!」」
ビッキーとチャスが駆け寄ってオレに抱きついた。
「にゃあ、ただいまにゃん」
通信の魔導具を使用中のハリエットは手を挙げて返事をした。
「ずいぶん話し込んでたみたいだね」
リーリはお菓子の器に入り込んでいた。
「にゃあ、アルボラ州の領主様がオレと同郷だってわかって話が盛り上がったにゃん」
ビッキーとチャスをくっつけたままソファーに座った。
「へえ、マコトと同郷なんだ」
「他にも三人いるらしいにゃん」
「ふーん、意外といるんだね」
「そうにゃん」
引っ掛かったのは、カズキとブラッドフィールド傭兵団の団長が倒した元宮廷魔導師の件だ。転生者同士の争いなんて考えなくてもヤバい。
いまのところ他の転生者とことを構える予定はないが、新参者が現れないとも限らない。可能性は考慮すべきか。
「それと時間が掛かったのは黒恐鳥の特異種の納品をしてたからにゃん」
「高く売れたの?」
「にゃあ、一羽、大金貨五〇〇枚で五〇羽いたから合計二五〇〇〇枚にゃん、手数料が一〇〇枚だからもらえるのは二四九〇〇枚にゃんね」
「二四九〇〇枚!?」
何かハリエットが口を開けてこっちを見てる。
「マコトはお金持ちだね」
「にゃあ、貯まる一方にゃん、少しは使わないとダメにゃんね」
しかし自分で何でも作れるのも問題だ。屋台の串焼きですら不味いこの世界では買い食いもおぼつかない。
「ここのお菓子は美味しいよ」
「そうにゃん?」
まだ残っていたクッキーを解析する。
「オレならもうちょっと甘さを抑えたいにゃんね」
手持ちの材料を使って格納空間で似たようなクッキーを焼いてみた。
それをお菓子の器に出す。
「焼きたてのクッキーって美味しいよね」
「「おいしい!」」
「これじゃお金は使わないよね」
カリカリ食べていたリーリに突っ込まれる。
「そもそもプリンキピウムからだと買いに行くのが面倒くさいにゃん」
さすがにあの通販の大企業も異世界には進出していない。
「だったら仕方ないよね」
「そうにゃん、仕方ないにゃん」
黒恐鳥の特異種の代金はともかく、魔石の売上を貯め込むのはこの国の経済的に仕方ないでは済まないかもしれない。




