王都へ出発にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇七月二四日
○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 地下駐車場
翌朝、朝食の後はホテルの地下駐車場にハリエットとリーリを伴って下りる。
「王都に出発にゃんね」
「楽しみだね」
「マコトは、本当にいいのか?」
「にゃあ、王都行きは前から予定してたことにゃん」
いずれはキャリーとベルに会いに行くつもりだったが、三ヶ月ちょっとで王都行きが実現するとは思ってなかった。
駐車場ではすでに準備が整っている。
「マコト、この馬車で行くのか?」
六頭立ての馬車を指さした。
「そうにゃん」
「馬車を囲んでいる魔法馬に乗ったゴーレムたちは何だ?」
「にゃあ、猫耳ゴーレムだったら護衛にゃん」
「これって戦闘ゴーレムなのか?」
「にゃあ、戦闘も料理もこなす汎用型にゃん」
「それが何体あるんだ?」
「騎馬が二〇体で、馬車に乗るのが四体の合計二四体にゃん」
「戦闘ゴーレムだけで二四体か」
「にゃあ、旅の安全をはかるのにはハッタリが必要にゃん」
「それはそうなのだが」
ハリエットは馬車を眺めながら通信の魔導具を取り出した。王都の王国軍総司令部から連絡が入ったらしい。
「武装したゴーレム相手では盗賊も尻尾を巻いて逃げ出すんじゃないか?」
冒険者ギルドのギルマスことデリックのおっちゃんも駐車場にやって来た。
「にゃあ、無駄な小競り合いは避けたいにゃん」
「なに、マコトならなにがあっても大丈夫だ」
「当然だよ!」
リーリがオレの頭の上でふんぞり返る。
「マコト、オパルスで領主様がハリエット様にご挨拶したいそうだ。フリーダが案内してくれるからあっちの冒険者ギルドに寄ってくれるか?」
「にゃあ、ハリエット様がいいならオレはOKにゃん」
「ついでに黒恐鳥の特異種をフリーダの所に納品してやってくれ、すでに予約が入ってるそうだ」
「にゃあ、まだどこに売るとも決めてないのに気が早いにゃんね」
「モノがモノだけに仕方ないさ、情報も流れたことだし黒恐鳥の特異種なんてヤバいシロモノはさっさと手放すに限るぞ」
「そういうものにゃん?」
「常識はずれの高額な獲物はそれだけヤバい背景があるってことだ」
「にゃお、わかったにゃん、いま狙われるわけにはいかないから州都の冒険者ギルドに売っぱらうにゃん」
「そうしてくれ」
領主の挨拶の件をハリエットに聞こうとしたがまだ王国軍総司令部ことデリックのおっちゃんの兄貴と通話中。
デリックのおっちゃんの兄貴は王国軍のお偉いさんらしいが、軍自体が微妙な評価なので、王都でどのぐらいの地位なのかは不明だ。
「これからプリンキピウムを出発する、心配ない、護衛は戦闘ゴーレムが二四体とマコトがいる、戦闘ゴーレムで間違いない」
魔導具の向こう側でデリックのおっちゃんの兄貴がずいぶん驚いてるみたいだ。もしかして戦闘ゴーレムは珍しいのか?
「魔法馬は二〇騎だ、これも紛れもなく軍用だ。馬車も六頭立てで防御結界がスゴいことになってるぞ」
いろいろ報告してる。
『ニャア?』
猫耳ゴーレムから質問を受けた。
「にゃあ、旗のことにゃんね、ハリエット様に聞いてみるにゃんね」
ハリエットはまだ通話中だ。
「もとは大公国のゴーレムらしい。それをプリンキピウムの森で拾った戦闘ゴーレムの破片と掛け合わせたそうだ」
長くなりそうなので通話中、失礼して声をかけた。
「にゃあ、ハリエット様のベッドフォード家の紋章はこれでいいにゃん?」
旗にプリントした紋章を見せた。
「あ、ああ、それでいいがどこに使うんだ?」
ハリエットは通信の魔導具から顔を離して答えてくれた。
「にゃあ、魔法馬に乗る猫耳ゴーレムの銃に付けるにゃん、撃つ時は格納されるので邪魔にはならないにゃん」
銃を担いだときに旗がたなびくように銃身に取り付けるのだ。
「了解だ」
「にゃあ、確認が済んだから装着していいにゃんよ」
『『『ニャア』』』
猫耳ゴーレムたちが返事をした。
ハリエットはうなずきつつ通話を続ける。
「マコトがいれば下手に迎えを出すよりずっと安全だろう? ああ、ウチの精鋭部隊より上だ、魔力が違いすぎる」
ツノ付きの装甲魔法馬に乗る二〇体の猫耳ゴーレムがベッドフォード家の紋章の入った旗を取り付けた小銃を担ぐ。
馬車を引く装甲魔法馬の馬着にも派手に紋章を入れた。
八輪のごついタイヤを付けた実は魔法車の馬車の前方左右にも紋章入りの小さな旗を取り付ける。
オープントップで派手な装甲もないのだが、防御結界が有るので天井や装甲板の有無はあまり関係がない。
それに幌骨兼ロールバーも有るから飛び上がって攻撃するのにも問題はない。
「これなら何処から見てもベッドフォード家の一行だとわかるにゃんね」
「ああ、これでわからないなら何を言っても無駄な相手だろう」
ハリエットは通信を終えて騎馬隊と馬車を眺める。
「にゃあ、出発するにゃん」
扉をスライドさせて開けると格納式補助ステップが飛び出す。バスみたいだ。
「御者もゴーレムなのか?」
「にゃあ、そうにゃん」
御者台と言うより運転席だが、そこと助手席にも猫耳ゴーレムが乗る。更に後方の左右にも一体ずつ配置している。
助手席と後方の二体の銃には旗が付いていない。
「恐ろしく頑丈そうな馬車だな」
「にゃあ、走破性も高いにゃんよ」
座席はゆったりとした対面シートとサイドに簡単なキッチン、その後ろはウォークスルーの荷台になってる。
床はすべてフローリングなので、荷台というよりはオープンデッキって感じだ。
トイレとトランクルームが荷台の床下に有る。
オレたちが馬車に乗り込み扉を閉めて準備完了だ。
「出発!」
リーリが号令を掛けた。
『『『ニャア!』』』
前衛の九騎が動き出す。
「ハリエット様、マコトさん、お気をつけて!」
「「「いってらっしゃい!」」」
ノーラさんを始めとする従業員たちが見送ってくれる。
「マコト、ハリエット様を頼んだぞ!」
デリックのおっちゃんも手を振ってくれる。
「にゃあ、任せるにゃん」
オレは立ち上がって手を振った。ハリエットも手を振る。
「バイバイ!」
リーリもオレの頭の上で手を振った。
馬車とサイドを固める二騎が動き出し、後衛の九騎が続く。
地下のスロープを昇って地上に出ると門に向かった。
○プリンキピウム 西門
プリンキピウムの門では守備隊の面々が敬礼して見送ってくれる。
「行ってくるにゃん!」
「「「お気をつけて!」」」
オレたちはノンストップで門を通り抜けた。
○プリンキピウム街道
「にゃあ、ルートは旧道を通ってまずは州都に向かうにゃん」
「旧道?」
「にゃあ、プリンキピウムから州都のオパルスに向かう三つのルートのうちのひとつにゃん、通常は街道を使うにゃん」
「今回は違うのだな」
「にゃあ、旧道はほとんど使われてないから好きなだけ速度を出せるにゃん。もうひとつの林道は馬車が通れるほど広くないから今回は使えないにゃん」
「私はわからないからルートはマコトに任せる」
「にゃあ、了解にゃん、州都は立ち寄っても大丈夫にゃん? 領主様がハリエット様にご挨拶したいそうにゃん」
「それなら総司令部からも話が来ている。勝手に連れて来られたとはいえ、領主殿に黙って素通りは出来ぬから、立ち寄らざるをえないだろう」
「挨拶は必要にゃんね」
「アルボラの領主殿からしたらいい迷惑だろうが、付き合って頂くしかあるまい」
「にゃあ、ここの領主が実は黒幕と言うことはないにゃん?」
「中立派の領主殿が私をどうこうしたところで利がないから違うだろう」
「にゃあ、動機がないにゃんね」
「アルボラの領主殿も巻き込まれた被害者の一人だろう」
「領主である以上、それは仕方ないにゃんね」
○プリンキピウム街道 旧道
馬車と騎馬は街道から旧道に入った。
旧道と言っても幅員も状態もさほど街道と変わらない。最大の違いは街道と違って沿道に何もないところだ。
「マコト、スピードを上げるよ!」
「いいにゃんよ」
リーリの合図でちょびっと馬車の車輪が浮く。
猫耳ゴーレムたちが乗る魔法馬も蹄が少し浮く。
鎧蛇系の持つ地上を滑る様に走る魔法の応用だ。大公国と違って空間圧縮魔法には不向きな曲がりくねった道にはこれがいちばん速い。
「マコト、この馬車も並走する魔法馬もものすごく速くないか?」
「にゃあ、誰もいないから速度を思い切り上げたにゃん、夜通し走るから明日のお昼には州都のオパルスに到着するにゃん」
「明日のお昼!?」
「にゃあ」
「待てマコト、昨夜、地図で確認したがそんなに早く着く距離ではないはずだぞ」
「にゃあ、夜通し走れるのが大きいにゃんね」
○プリンキピウム街道 旧道 プリンキピウム巨木群
護衛と馬車は早くもプリンキピウム巨木群に入った。
「いや、そうだとしてもこの馬車の速度は普通じゃないぞ」
前のめりになるハリエット。
「にゃあ、種明かしをすると魔法を使って速度を上げてるにゃん」
「本当かそれは?」
「本当だよ!」
オレに代わってリーリも答えた。
「魔法を使うとはマコトはどれだけ魔力を持ってるんだ?」
「にゃあ、他の人よりはちょっとばかり多いにゃんね」
エーテルさえあれば魔力に変換できるオレは、こっちの人間とは別ジャンルの生き物なのだ。
「ちょっとではないと思うが、それを議論したところで仕方ないか」
ハリエットは、シートに身体を預ける。
「えっ、この大きな木は何だ?」
巨木にいまになって気付いたらしい。
「にゃあ、ここはプリンキピウム巨木群にゃん、夜になると精霊がうろちょろする場所にゃん」
「精霊がでるのか?」
「にゃあ、連れて行かれるから夜になったら野営地から出ちゃいけないにゃん」
「王都でも城壁の外の街ではあるらしい」
「にゃあ、それはオレも聞いたことがあるにゃん」
前にキャリーとベルが、精霊に連れて行かれた人の捜索に加わった話をしてくれた。
「こんな大きな木があるとは、世界は広いのだな」
「にゃあ、オレもこの木の大きさには度肝を抜かれたにゃん」
空に地球みたいなのが浮かんでたのには、それ以上に驚いたけどな。
いちばんは、自分が六歳の女の子になったことだけど。
第二位が猫耳とシッポで、三位が空に浮かぶ地球みたいなオルビスだ。
「マコト、おやつの時間だよ!」
リーリは何が有ってもブレないのだった。
ハリエットは通信の魔導具を使って王都の王国軍司令部と頻繁にやりとりしてるのでオレは後ろのオープンデッキに移動した。
大きなクッションを出してもたれる。オレが聞いていては話しづらいこともあるだろうから気を利かせた。
ハリエットは自分でお飾りの総司令官と言っていたが、それは謙遜もいいところみたいだ。
王国軍は十二歳の女の子がいないとちゃんと回らないのではないかと思えるほど事細かに指示を出している。
それって組織としてどうなんだ?
オレみたいに完全丸投げもどうかと思うが。
周囲を厳重に探査しつつ、魔獣のエーテル機関の解析を続ける。旧道は静かなもので獣すら近くにいなかった。
特異種が南下したおかげでそれまで押し出されていた獣が森に戻ったってところか。
ハリエットの通信が一段落したところで、お昼ごはんにした。
メニューはアトリー三姉妹に作ってもらった関西風たまごサンド。異世界で関西風もおつな感じだ。
「「美味しい!」」
リーリとハリエットにも受けが良かった。
『マコトさん、いま大丈夫ですか?」
「にゃ?」
お昼ごはんが終わってまったりしてるところにノーラさんから通信が入った。
『にゃあ、大丈夫にゃん、何かあったにゃん』
ノーラさんの声の調子が心なしか緊張をはらんで固くなってる。
『マコトさん、孤児院の子がふたりほど姿が見えないみたいなんです』
『にゃ、誰かわかるにゃん?』
『ビッキーとチャスだそうです』
『にゃあ、ビッキーとチャスがいなくなったにゃん?』
『仲のいいメグに、マコトさんと一緒に行くと言ってたらしいので、そちらで何か心当たりはないかと連絡を差し上げたのですが』
『わかったにゃん、すぐに探すにゃん』
通話はいったん終了した。
「にゃあ、ストップにゃん!」
馬車と猫耳ゴーレムの騎馬隊を停めた。
「どうかしたのか?」
「にゃあ、プリンキピウムの寄宿舎から子供がふたり消えたにゃん、いま探すからちょっとだけ待って欲しいにゃん」
「わかった」
馬車からプリンキピウムの街に向けて探査魔法を打った。
「にゃ? 反応なしにゃん、嘘にゃん」
反応がない、つまり死んでるということ。
いや、いくらなんでもそれはないはず。
「にゃあ!」
もっと範囲を広げて探査魔法を打った。
「みゃあ、何で反応なしにゃん!」
ビッキーとチャスに何かあったなんて考えたくない。
何かの間違いだ。
とにかく探し出さないと。
「マコト、ビッキーとチャスだったらそこにいるんじゃないの?」
リーリが馬車のトランクルームを指さした。
「にゃ!?」
馬車から探査魔法を打ったから床下に有るトランクルームは範囲に入ってなかった。もしそこにいるなら反応がなくて当然だ。
「にゃあ!」
トランクルームのハッチを開けるとビッキーとチャスが並んで寝ていた。もともと仮眠室として使えるようにカーペット張りで空調も効かせてあるので居住性もいいけど、まさかこんなところに入り込んでるとは思いもしなかった。
ふたりは気持ちよさそう眠ってる。
「みゃう、焦ったにゃん」
腰が抜けそうになりその場に座り込んだ。
「この子たちは、マコトの知り合いなのか?」
「にゃあ、オレが大公国で保護した子たちにゃん」
まずはノーラさんに連絡を入れてビッキーとチャスが無事なのを伝えた。
『無事なんですね』
『にゃあ、馬車のトランクルームに隠れていたにゃん、孤児院の皆んなにも心配しないように伝えて欲しいにゃん』
『わかりました、すぐに伝えますね』
『にゃあ、お願いにゃん』
通話を終えてオレはトランクルームに下りた。
「にゃあ、ふたりとも皆んなを心配させちゃダメにゃんよ」
ビッキーとチャスの頭を撫でた。
「んっ、マコトさま」
「マコトさま?」
ふたりが目を覚ました。
「にゃあ、勝手に馬車に忍び込んだら危ないにゃん」
ビッキーとチャスはフリーパスでセキュリティを通過できる設定なので馬車にも難なく潜り込めた。
「「ごめんなさい」」
「皆んなに心配を掛けちゃダメにゃん」
「いちばん、取り乱してたのはマコトだけどね」
「にゃお、探査魔法に引っ掛からないから普通は焦るにゃんよ」
「焦るシチュエーションこそ冷静でいるべきだぞ」
ハリエットは難しいことをいう。
「にゃあ、心するにゃん」
「ふたりとも猫耳ゴーレムに送らせるからプリンキピウムに帰るにゃん」
「ダメ!」
「マコトさまといっしょ!」
ビッキーとチャスはオレに抱きついた。
「遊びに行くんじゃないにゃん、この先はどんな危険があるかわからないにゃん」
「マコトさまはわたしたちがまもるの」
「みんなにもたのまれたから」
「頼まれたにゃん?」
「メグちゃんたちにもおねがいされたの」
「にゃ?」
話を聞くとビッキーとチャスは今朝早くオレを守るため、寄宿舎を抜け出して馬車に忍び込んだ。その際、ちっちゃい子たちに「自分たちの分もガンバって!」と送り出されたらしい。
馬車の存在は探査魔法で簡単に探り当てていた。
オレが思ってるよりもずっと上手に魔法を使いこなしているみたいだ。
「この先は本当に危ないにゃんよ」
「「へーき!」」
ビッキーとチャスはさらにぎゅっと抱きついた。
「みゃあ」
抱きついてるふたりを引き剥がすのはつらい。
「無理に帰さないで連れて行ったらいいんじゃない?」
リーリは気軽に言ってくれる。
「にゃ、いくらなんでも危険にゃん」
「ふたりともかなり強いよ」
「そうにゃん?」
攻撃系の魔法は教えてないけど。
「あたしが教えた防御結界とか自分たちでちゃんと張ってるし、認識阻害の結界もまあまあ使えてるんじゃない?」
「にゃ?」
いまリーリが「あたしが教えた」と言ったような。
「リーリがビッキーとチャスに魔法を教えたにゃん?」
「そうだよ、ふたりとも精霊術師の血を引いてるみたいだから、試しに教えたら簡単に覚えちゃった」
「にゃ、それって妖精魔法と違うにゃん?」
「どちらかと言うと精霊魔法だね、本物の妖精魔法は人間には無理だから」
「精霊魔法にゃんね」
名前は知ってるがオレは使ったことがない。人間の魔法と妖精魔法の中間ぐらいをイメージすればいいのだろうか?
「マコト、妖精殿ちょっといいだろうか? 妖精殿が言ってる精霊魔法とは王国ができる以前に滅んだ魔法のことではないのか?」
「そうなの?」
ハリエットの質問をオレにスルーパスする妖精。
「にゃあ、図書館で読んだ記録では精霊魔法はオリエーンス帝国時代にすでに滅んでるにゃんね。少なくとも一〇〇〇年以上前のことにゃん」
オリエーンス帝国はオリエーンス連邦が滅亡ののち、いまから二五〇〇年前に成立し、約一〇〇〇年前に現在あるいくつかの国家に分裂した。
文化面では現文明と直接つながりを持ってる。
「そのふたりに精霊術師の血が受け継がれているのか」
「そうにゃん?」
「うん、間違いないよ、だから連れて行っても危なくないんじゃない?」
「だったらリーリが旅の間に精霊魔法をもっとビッキーとチャスに教えてやって欲しいにゃん」
「お安い御用だよ!」
リーリが軽く引き受けた。
ビッキーとチャスがオレをじっと見てる。
「自分のことは自分で守るにゃんよ、それとリーリにちゃんと魔法を教えて貰うにゃん、これが出来なければプリンキピウムに帰すにゃん」
「「できます!」」
ふたりは即答した。
「わかったにゃん、ビッキーとチャスを連れていくにゃん」
「「やった!」」
ビッキーとチャスがまたオレに抱きついた。
ふたりのおなかがぎゅーっと鳴いた。
この子たちは生い立ちの関係で空腹に鈍感なところがあるのが心配だ。
「にゃあ、まずはご飯を食べてからにゃん」
「やった!」
さっきお昼を一緒に食べたリーリが喜びの声を上げた。こちらは食べるのが大好きな底なしさんだ。
ビッキーとチャスとリーリにお昼ごはんを出してからプリンキピウムに連絡を入れた。
『ビッキーとチャスはこのまま連れて行くことにしたにゃん』
『大丈夫なのですか?』
ノーラさんは心配そうな声を出す。
『ビッキーとチャスはそこそこ魔法が使えるにゃん、だから心配要らないにゃん』
『魔法が使えたのですか?』
『ふたりが生まれた大公国は魔法使いの多い土地柄にゃん、だからそう珍しい存在ではないにゃん』
オレとカティが伝授した魔法は直接の攻撃系を含んでないが、配慮と無縁のリーリが何を教えたのかはっきりするまでは監視下に置いた方がいい。
『そんなわけだから、皆んなにもそう伝えて欲しいにゃん』
『わかりました、無事のお帰りをお待ちしています』
『にゃあ』
午後もハリエットは王都の総司令部と通信を続ける。一ヶ月の不在の穴を埋めるために全力を上げていた。
リーリはドーナツを食べながらビッキーとチャスの魔法の練習を見ている。
オレはクッションに身を沈めたままエーテル機関の解析と周囲の探査に集中した。




