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公爵様ご宿泊にゃん

「助かった、デリック殿」

 ハリエットはデリックのおっちゃんに通信の魔導具を返した。

「こいつはハリエット様にお貸ししますか?」

「いや、それではデリック殿の業務に支障が出るだろう、それに私が冒険者ギルドの備品を借り受けるわけにはいかない」

 何か決まり事でもあるのだろうか?

「緊急避難て奴ですよ」

「いや、ヤメておこう、後でマティルダ様に文句を言われること間違いなしだから」

 ハリエットは苦笑いを浮かべた。

「にゃあ、その通信の魔導具をちょっと見せて欲しいにゃん」

「これか?」

「にゃあ」

 デリックのおっちゃんから受話器みたいな通信の魔導具を受取って、オレはもう一方の手で五インチ大の金属板を取り出してくっつけた。

「何をしてるんだ?」

「刻印を写し取ってるにゃん。必要な連絡先はデリックのおっちゃんのお兄さんの通信の魔導具にゃんね」

「そんなことができるのか?」

「にゃあ、通信の魔導具は魔法馬なんかよりずっと簡単にゃん、できたにゃんよ」

 スマホみたいな金属板をハリエットに渡した。

 ハリエットは不思議そうに裏表をひっくり返して眺める。

「にゃあ、使い方はさっきの通信の魔導具と同じにゃん」

 要は念話の補助を行う魔導具なのだ。前世の電話とは仕組みがまったく異なっている。

「試してみる」

 ハリエットは直ぐにデリックのおっちゃんの兄貴ドゥーガルドに通信した。

「ああ、何度も済まない、通信の魔導具を手に入れた。これからはこれで連絡する。いや、さっき話したマコトが用意してくれた。そう言うことだ。ではまた後で」

 通信を終えてオレに向く。

「マコトはこのレベルの通信の魔導具を簡単に作れるのか?」

「にゃあ、魔法式は解読できてるから作れるにゃんよ」

「それはスゴいな、王都の工房でも年に幾つも作れないというのに」

「にゃあ、あちらは工芸品でオレのはただの道具にゃん」

「見せびらかしたい奴には物足りないだろうが、軍隊にはこれぐらいで十分だ、マコト、落ち着いたらいろいろ話し合うとしよう」

「にゃあ」


 冒険者ギルドでの用事が終わったのでホテルに移動する。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 前


「マコトのホテルを目の当たりにするとここが辺境の街にはまったく見えない」

 ハリエットは冒険者ギルドの前からホテルを仰ぎ見た。

「マコトが造ったからね」

 リーリがオレの頭の上で胸を張る。

「マコトのロッジでさえ目を疑ったが、ホテルはその上を行く」

「田舎にしては立派な方ではあるにゃんね」

 州都のお城とか異世界感が半端ない建物に比べるとこのホテルは常識の範囲内に収まってるはずだ。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ロビー


「「「いらっしゃいませ」」」

 冒険者ギルドから伝令が飛んでいたらしくノーラさんをはじめとする従業員一同がずらりと並んでハリエットを出迎えた。

「本日はプリンキピウム・オルホフホテルにお越しいただきありがとうございます。私は当ホテルの支配人ノーラ・ダッドと申します」

 ノーラさんが挨拶した。

「ハリエット・ベッドフォードだ、世話になる」

「にゃあ、ハリエット様にはオレのペントハウスに泊まって貰うにゃん、プレミアムフロアーはアトリー三姉妹以外は立ち入り禁止でお願いするにゃんね」

「かしこまりました」

 ややこしい事態を引き起こす前にハリエットは隔離する。


「ロビーからして、別次元だな」

「そうにゃん?」

「入口だけでウォッシュが三段階とか、王宮でもそんな贅沢な使い方をしてないぞ」

「にゃあ、王宮はきれいな貴族しか行かないだろうから、なくても問題ないにゃん。こっちは不便な旅を終えてたどり着く場所だから重要にゃん」

「そういうものなのか」

『ニャア』

 猫耳ゴーレムが案内してくれる。ゴーレムは昨夜のうちにすべてを戦闘力の有る猫耳型に作り変えた。大公国の領地にいるのも含めてすべてだ。

 おかげでいまも抱き上げられてスリスリされてる。

「にゃあ、上に行くにゃんね」

 ホテルのロビーからエレベーターで六階のプレミアムフロアー専用ラウンジに上がる。

「昇降機の魔導具まで用意してあるとは驚きだ」

「にゃあ、そうにゃん?」

「私は王宮でしか見たことがないぞ」

「それは不便にゃんね」

「マコトからしたらそうだろうな」

「マコトは飛翔の魔法があるから困らないよ」

「飛翔も使えるのか?」

「にゃあ、大公国の大公陛下に習ったにゃん」

 正確には真似しただけだが。

「マコトは、ずいぶんと顔が広いのだな」

「大公国はアルボラの隣だからそんなに遠くないにゃん」

「聞いたところに依るとマコトは大公国にも領地を持ってるそうだな」

 すでにオレのことは調べが付いてるようだ。

「にゃあ、二つほどあるにゃんよ」

「六歳なのに大したものだ」

「にゃあ、オレは単に運が良かっただけにゃん、それに大公国の領地は丸投げ状態にゃん」

「王国軍どころか、近衛軍よりも強い軍隊を持ってると聞いたが」

 ネコミミマコトの宅配便のことか?

「それは誤解にゃん、ほんのちょっと武装した小麦の輸送業者にゃん」

「めちゃくちゃ強いけどね」

 リーリが情報を追加した。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル プレミアムラウンジ


「にゃあ、まずはここでお茶を飲んで一休みして欲しいにゃん」

 プレミアムラウンジのゆったりとしたソファーにも治癒効果を付加してある。人間の従業員はいないが猫耳ゴーレムが等間隔に配置され守りを固めていた。

「この恐ろしく座り心地のいいソファーも魔導具なのだな」

「にゃあ、そうにゃん」

「魔導具の多さに目が回る、それにゴーレムもたくさんいるのだな」

「最初に大公国で手に入れたにゃん、それを森で拾ったゴーレムと合わせて改造したにゃん」

 嘘は言ってない。

「王都にもこれほどの贅を尽くしたホテルはないと思うぞ」

「そうにゃん?」

 前世でも高級ホテルには泊まった事がないので塩梅がわからない。

「明日、王都に向けて出発しようと思う、マコトたちには私の護衛を頼みたい」

「にゃあ、了解にゃん」

「任せて!」

「ギルマスのお兄さんは許可してくれたにゃん?」

「反対されたが、プリンキピウムまで迎えを出すにしてもマコトほどの魔法使いが居ないのであちらが折れた形だ」

「王国軍には魔法使いがいないにゃん?」

「いるにはいるが数が少ない」

 ベルもその中に勘定されてるのだろうか?

「力の有る者は宮廷魔導師を目指すから仕方あるまい」

「にゃあ、そう言うもんにゃんね」

「マコトは宮廷魔導師を目指さないのか?」

「オレは気楽な冒険者稼業がいちばんにゃん」

「羨ましい限りだ、しかし、いずれその力に応じた責務を与えられることになるだろう、世の中とはそう言うものだ」

「にゃお」


 お茶の後はハリエットには明日からの長旅に備えて部屋でくつろいでもらい、オレはノーラさんのいる支配人室に行った。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 支配人室


「ノーラさん、オレは明日からまた出掛けるにゃん」

「明日からですか?」

「にゃあ、そうにゃん、グランドオープンには戻れないけど、予定通り二五日からお願いするにゃん」

「わかりました」

「ホテルにはこの先、四~五〇年は誰も泊まらなくても大丈夫なだけの蓄えがあるからノーラさんは気楽に構えて欲しいにゃん」

 むしろオレが金を使わないと王国の経済によろしくない影響を与えてしまう。

「数日前から冒険者ギルド経由で問い合わせを戴いてるので、誰も泊まらないことはないと思います」

「にゃあ、一般客室でもちょっとお高めの値段設定にしたから誰も来ないかと思ったにゃん」

「プリンキピウムはちょっと高級なホテルが無かっただけで、需要はあったんですね」

「にゃあ、なるべく他所のお客さんは奪わないで商売したいにゃん」

「マコトさんは欲がないんですね」

「にゃあ、借金してないから気楽に構えてるだけにゃん、それに地域振興もオレの仕事だから他所も景気を良くしたいにゃん」

「マコトさんは、明日からどちらに行かれるのですか?」

「にゃあ、ハリエット様の護衛を兼ねて王都まで行って来るにゃん」

「公爵様ですね」

「にゃあ、そうにゃん、プレミアムラウンジの最初のお客様だから箔付けには最高にゃんね」

「マコトさんは、公爵様といったい何処でお知り合いになられたのですか?」

「にゃあ、森の中に落ちてたにゃん」

「もしかして、聞いてはいけないお話だったのかしら」

「にゃあ、ハリエット様について他所から問い合わせがあった場合にはデリックのおっちゃんに振ってくれていいにゃん」

「わかりました」

 公爵様のことも冒険者ギルドに丸投げだ。それでもノーラさんは心配そうだ。

「にゃあ、悪いやつはプリンキピウムの街にもこのホテルにも入れないから心配しなくて大丈夫にゃん」

「入れないのですか?」

「にゃあ、防御結界の一種にゃん。悪意を持ってる人間はプリンキピウムの門を通れないし、ホテルの敷地にも入れないにゃん」

「それはスゴいですね」

「それでも不審者が入り込んだら猫耳ゴーレムたちが排除するにゃん」

「排除してしまってかまわないのですか?」

「にゃあ、プリンキピウムはオレの知行地にゃん。どんな高位貴族でも無断で好き勝手はできないにゃん」

「法的にはそうですが」

「にゃあ、面倒ごとは冒険者ギルドに丸投げでいいにゃんよ、タダ飯を食わせた分ぐらいは働いてもらうにゃん」

「そうですね」

 実際には戦争でもしないことには好き勝手はできない。辺境のプリンキピウムに戦争を仕掛けるバカが居たらお目にかかりたいにゃんね。

「それとノーラさんはポーラのご両親は知ってるにゃん?」

「面識は有りませんが、王都で執事をされてると聞いたことが有ります」

「いま、州都にあるポーラのお兄さんのところに滞在されてるにゃん、それでおふたりをホテルに招待して欲しいにゃん」

「ポーラのご両親をですか?」

「にゃあ、貴族様へのサービスに付いて助言をしてくれるように頼んで欲しいにゃん」

「わかりました、ポーラとレベッカに指名依頼という形でよろしいでしょうか?」

「それで頼むにゃん。馬車はホテルのを好きに使って構わないにゃん」

「かしこまりました、今日中に依頼しておきます」

「にゃあ、頼んだにゃん」



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル プレミアムラウンジ 厨房


 続けて六階のプレミアムラウンジの厨房にアトリー三姉妹を呼んで今夜のディナーに付いて申し渡した。

「「「こ、公爵様!?」」」

 アトリー三姉妹の声が綺麗にそろった。裏返っていたけど。

「そうにゃん、ハリエット・ベッドフォード公爵様にゃん、プレミアムラウンジにふさわしいお客様にゃん」

「ネコちゃんは何処からそんなスゴい人を次から次と連れてくるの?」

 アニタが唇を尖らせる。

「にゃあ、アーヴィン様はオレじゃなくてデリックのおっちゃんが連れて来たにゃん」

「公爵様はやりすぎだと思う」

 アンナはまだガタガタ震えていた。

「にゃあ、ハリエット様を上手くもてなせば、もっと偉い人は王様ぐらいだから三人はほぼ無敵にゃん」

「きゃあああ!」

 アネリは気絶しそうだ。

「そんなに緊張しなくてもハリエット様はちゃんとした人だから大丈夫にゃん」

「「「でもね」」」

 アトリー三姉妹は不安そうにお互いの顔を見た。

「オレも手伝うから心配要らないにゃん」

「「「本当に!?」」」

「にゃあ、本当にゃん、だから落ち着いていつもの仕事をすればいいにゃん」

「「「わかった」」」

 三人を落ち着かせてディナーの下ごしらえを開始した。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ペントハウス


 ハリエットは日が暮れるまで通信の魔導具を使っていたらしくちょっとフラフラしていた。

「にゃあ、まだ無理をしちゃダメにゃんよ」

 ウォッシュを掛けて身も心もシャキッとさせる。

「すまない、つい話し込んでしまった」

「にゃあ、一ヶ月の穴を埋めるのは大変なのはわかるにゃん」

「でも、ごはんの時間も大事だよ!」

 まあ、だいたいそんな感じだ。

「にゃあ、体調が整うまでは休み休みやって欲しいにゃん」

「わかった、そうしよう」

 ペントハウスからハリエットを連れてアトリー三姉妹が夕食の準備をしているプレミアムラウンジに降りた。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル プレミアムラウンジ


「スープから出すね」

「サラダの準備もOK」

「パンも焼けたよ」

 調理が始まってしまえばアトリー三姉妹も緊張が吹き飛んで集中する。

 給仕は猫耳ゴーレムが中心で、オレはテーブルの脇で肉を切り分けたりソースを掛けたりしてる。

「マコトは随分といい料理人を囲っているんだな」

「にゃあ、オレが育てたにゃん」

「本当か?」

「それが本当なんですよ、ハリエット様」

 夕食はデリックのおっちゃん一家にも来てもらった。いくら美味しい料理を出してもだだっ広いラウンジで一人で食べるのは味気ない。

「マコトを育てたのはあたしだけどね!」

 リーリも同席している。妖精は縁起物なので会食にはぜひ置いておきたい。

「マコトが作ってくれた食事もおいしかった、それに上で食べた肉を挟んだパンもおいしかった」

「にゃあ、カツサンドにゃんね」

「ネコちゃんのお料理は、どれも目新しくて美味しいんですよ」

 デリックのおっちゃんの奥さんカトリーナもいろいろ解説してくれる。

「あい!」

 バートも協力してくれた。

「にゃあ、アトリー三姉妹はセンスがいいにゃん」

「それに材料だね」

 リーリが腕を組んで語る。

 今回手に入れた新鮮な魔獣の肉はとても美味しい。

 アトリー三姉妹の力作、鎧蛇のチリソースも大好評だった。

 無論、魔獣の肉であることは秘密だ。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ペントハウス


 夕食の後はペントハウスに戻ってハリエットと一緒にジャグジーだ。

「これは初めてだが気持ちいいものだな」

 ハリエットも気に入ってくれて何よりだ。

「にゃあ、最高にゃん」

「お風呂の後のソフトクリームも最高だよ」

 リーリはキンキンに冷えてるので要警戒だ。

「本当にプリンキピウムは森の中なのだな」

「にゃあ」

「森に沈みそうなこの風景こそが我が国の本当の姿か」

「地図を見ると人の住んでない土地の方が多いからそうとも言えるにゃんね」

「プリンキピウムの森を見ただけで、自分がカゴの中の鳥だったと痛感する」

「にゃあ、公爵様が野山を駆け回るのもどうかと思うにゃん」

「それはそうなのだが、私はこの歳まで王都の外に出たことがなかった。まさか初めての遠出が誘拐とは思わなかったが」

「何があるのかわからないのが人生にゃん」

「六歳児とは思えない言葉だな」

「にゃあ、本当は三九歳にゃん」

「だったら納得だ」

 オレの頭を撫でるハリエット。ぜんぜん信じてないにゃんね。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 制限エリア 地下施設


 夜中にこっそりホテルの地下駐車場に降りたオレは明日使う馬車を再生した。

 六頭立ての大型馬車だ。

 シルエットは四頭立てとほぼ同じだが、大型化にともなってタイヤが八輪タイヤになっている。

 実際には全輪駆動の全輪操舵の魔法車なので不整地もどんと来いで、そこそこ小回りも利く。

 幌骨兼ロールバーもカッコいい。

「最高にゃん」

 これを猫耳ゴーレムの騎士で固めれば、公爵家の格に相応しい威張り度も問題なしだ。

 脅威になるとしたら魔導師の操る強力な魔法攻撃だろう。

 魔獣よりも厄介な敵が出たらドラゴンゴーレムで緊急離脱も考えておくべきにゃんね。


 作戦を練りながら明け方まで馬車をいじっていた。半分オレの趣味だけどな。


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