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プリンキピウムにお連れするにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇七月二三日


「ハリエットが起きたみたいだよ」

「にゃあ」

 朝になってハリエットが目を覚ましたのをリーリが教えてくれた。

 オレは中途半端な朝食の準備の続きを猫耳ゴーレムに任せて寝室に降りた。

「にゃあ、身体は大丈夫にゃん?」

 ハリエットはベッドから起き出していた。

「ああ、何時になく調子がいい」

「それは何よりにゃん」

「これもマコトのおかげだ、感謝する」

 一〇歳にしてはしっかりしすぎてる。やはりもっと上か?

「ハリエット様はいま幾つにゃん?」

 見た目だと本当にシャンテルぐらいだが、たぶんもっと年上だ。

「私は十二だ、そう言うマコトは幾つなんだ?」

「にゃあ、オレは六歳にゃん」

 三九歳と言っても混乱するだけなので冒険者カードをハリエットに見せた。

「本当に冒険者だったんだな」

「嘘は言わないにゃん」

「疑っていたわけではない、信じられなかっただけだ」

「良く言われるにゃん、お風呂に入って朝ごはんを食べたらプリンキピウムに出発するにゃん」

「お風呂?」

「にゃあ、お風呂にゃん」

「プリンキピウムの地下ロッジには風呂まであるのか?」

「にゃあ、オレはお風呂がないと嫌にゃん」

「いまさらだがここはマコトの持ち物なのか?」

「にゃあ、そうにゃん」

「それはスゴいな」

「ゆっくり入るといいにゃん、貴族でも一人で入れるにゃん?」

「私は貴族である前に軍人だ、問題ない」

「にゃあ」

 お手伝いは不要らしい。

「でも、間違いがあると困る、マコトたちも一緒に来てくれ」

「にゃあ」

 オレとリーリも一緒に入ることになった。


「風呂場も魔導具の塊だな」

 ハリエットはちょっと痩せている。護送袋一ヶ月の影響だろう。

「にゃあ、快適性を求めた結果にゃん」

「まさか、アーティファクト級の魔導具が風呂とはな」

「にゃあ、お風呂は大事にゃん」

「うん、大事だね」

 リーリも同意する。

「否定はしないが」

 お湯に浸かる。

「ハリエット様のことを王都に知らせないといけないにゃんね」

「そのとおりだが、さてプリンキピウムからだとどうしたものか」

「にゃあ、プリンキピウムの冒険者ギルドなら通信の魔導具があるはずにゃん」

「冒険者ギルドか」

「にゃあ、冒険者ギルドのギルマスに頼めば連絡してくれるにゃんよ」

「冒険者ギルドのギルマス経由か、悪くは無いのだが一気に情報が拡がるから、早い段階で冒険者ギルドに情報が漏れるのはあまりよろしくない」

「にゃあ、いろいろあるにゃんね、だったらギルマスから個人的に王国軍にツテのあるアーヴィン様に連絡してもらうのはどうにゃん?」

「アーヴィン様とは、アーヴィン・オルホフ侯爵殿のことか?」

「そうにゃん、ただハリエット様の味方かどうかはわからないにゃんよ」

「アーヴィン・オルホフ侯爵殿なら信用に足る人物だ、問題ない」

「にゃあ、プリンキピウムの冒険者ギルドのギルマスに頼めば問題ないにゃん」

「冒険者ギルドのギルマスはアーヴィン殿に伝があるのか?」

「ギルマスはアーヴィン様の息子にゃん」

「息子、するとデリック殿か?」

「にゃあ、デリックのおっちゃんを知ってるにゃん?」

「会った回数は二~三回だが、そうかプリンキピウムの冒険者ギルドにいらしたのか」

「にゃあ」

「わかった、連絡はデリック殿に頼むとしよう」

「ハリエット様は王都に帰るにゃんね」

「ああ、ただ近衛が使えないとなると厄介だ」

「にゃあ、容疑者の可能性があるから迂闊には使えないにゃんね」

「プリンキピウムから王都までの警備に往復の旅費か、また余計な金が掛かる」

 どうやら出費は頭の痛い問題らしい。

「公爵様となるとぶらりと王都に行くわけにはいかないにゃんね」

 大名行列とはいかなくても家の格があるから乗合馬車で帰るというわけにもいかないのだろう。

「近衛がどうであれ襲撃の可能があるから迂闊なことは出来ん」

「また襲って来るにゃん?」

「生存を知ったら、王都に入る前に私を始末しようとするだろう」

「誰が黒幕かわかるにゃん?」

「いや、考えてみたが、やはり容疑者はごまんといて絞り切れない」

「そうにゃんね、だったらオレたちと王都に行くのはどうにゃん?」

「それはいいね」

 リーリが賛同する。

「マコトが、私を護衛すると言うのか?」

「にゃあ、オレだったら金は取らないにゃん」

「それは助かるのだが、間違いなく危険な旅になるぞ」

「オレとリーリは問題ないにゃん」

 問題があるとすればハリエットだ。高級な防御結界の魔導具はあるが万全ではない。

「ハリエット様は防御結界の強化が必要にゃんね」

「防御結界の強化?」

「にゃあ、魔法馬を使うにゃん」

「魔法馬を?」

「にゃあ、後で実際に見せるにゃん」


 久し振りの食事と言うことで朝食にはサンドイッチとスープを出した。

 内臓その他、絶好調なので貴族のお嬢様とは思えない迫力で平らげた。

「マコトは料理人なのか?」

「にゃあ、オレは冒険者にゃん」

「料理の上手な冒険者だよ」

「帝都でいちばんの大公家の料理人より上だと思うぞ」

「にゃあ」

 王都でも貴族の食卓も美味しい料理は期待薄らしい。



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 魔獣の森 飛び地前


 オレとリーリとハリエットは地下のロッジから森に出た。夏の蒸し暑い空気に包まれる。防御結界の空調なしでは五分といられない。

 獣の気配もそこかしこにある。

 魔獣の森の飛び地は消えたが、ここがプリンキピウムの森の危険地帯であることに変わりはない。

 ハリエットの上着とマントはオレの持ち物からそれっぽい上等なものを出してある。

「本当に森の中だったんだな」

 周囲を見回す。

「信じて無かったにゃん?」

「無理言うな、ロッジとギャップが有り過ぎる」

「にゃあ、ロッジを仕舞って魔法馬を出すにゃん」

「あのロッジを仕舞えるのか?」

「にゃあ、オレの格納空間はちょっと大きいにゃん」

「それをちょっととは言わないぞ」

「次に魔法馬にゃん」

 オレの馬とハリエットの乗る馬を出す。

「随分と大きな魔法馬だな、しかも新しい」

「修理したてにゃん」

「マコトなら魔法馬を作っても不思議はないか」

「にゃあ、こっちの馬はハリエット様にプレゼントするにゃん、これが防御結界を強化するにゃん」

「ああ、馬の防御結界が並外れて強力だってわかる」

「にゃあ、使わない時は格納すれば防御結界はそのままにゃん」

「魔法馬を格納なんて魔法使いじゃないと無理だぞ」

「大丈夫にゃん、ハリエット様に紐付けしてあるので馬が自分で格納されるにゃん」

「馬が自分で?」

「格納って考えればいいにゃん」

「格納って、わっ!」

 ハリエットの魔法馬が消えた。

「ちゃんと格納されたはずにゃん」

「あ、ああ、わかる」

「出す時は再生にゃん」

「再生、おお、確かに」

 格納された魔法馬が再生されて現れた。

「にゃあ、この魔法馬が有ればプリンキピウムの森も突っ走れるにゃん、それと銃を貸すにゃん」

「銃も普通じゃなさそうだ」

「魔力の消費が少ないにゃん、それと人間を撃っても死なないにゃん」

「護身用としては中途半端だな」

「にゃあ、その代わり撃たれた人間は素っ裸になって気絶するにゃん」

「それなら問題ないか」

「にゃあ、ではプリンキピウムの街に行くにゃん」

「本気で森の中を魔法馬で走るのか?」

「にゃあ、大概の獣は魔法馬の防御結界で弾けるにゃん」

「それが本当なら、魔法馬もアーティファクトクラスだ、いったい幾らになるやら」

「にゃあ、ハリエット様に紐付けされて他人に譲渡できないから、金銭的な価値はないにゃんよ」

「転売不可の魔法馬か」

「にゃあ」

「マコトは魔法馬を売る気はないのか? これだって自分だけの馬なら譲渡できなくても欲しがる人間は多いと思うぞ」

「この馬で商売はしないにゃん、もっと普通の魔法馬を売ってるにゃん」

「マコトの普通なら性能は申し分無さそうだな」

「にゃあ、いい小遣い稼ぎになるにゃん」

「だろうな、では行くとしよう」

 座ってくれた魔法馬に乗り込むハリエット。

 オレもひょいと飛び乗った。

「マコト、王国軍の兵士にならないか?」

「六歳児は入隊できないにゃんよ」

「そうなのか?」

「にゃあ、そうにゃん」

「その規定は無くした方が良さそうだな」

「にゃお、子供を兵隊にするのはどうかと思うにゃん」

「子供はダメなのか?」

「にゃあ、オレは魔法が使えるけど普通の子供は悲惨なことになるだけにゃん」

「そうだな、済まない、私も考え無しだった」

「わかってくれればいいにゃん」


 オレたちは馬をプリンキピウムに向けて出発した。



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)


「本当にこの馬、器用に森の中を走る」

 魔法馬の走りっぷりに感心するハリエット。

「にゃあ、森での狩りに対応してるにゃん」

「これだけの馬が揃えられれば王国軍もマシになるのだが」

「近衛軍の馬は走ってるにゃんよ」

「近衛と王国軍では予算がまるで違ってるのだ。王国軍では魔法馬の数からして足りてないのだ」

「王国軍はそんなに貧乏にゃん?」

 前にキャリーとベルが似たようなことを言ってた気がする。

「予算が逼迫しているのは本当だ」

「にゃあ、大変にゃんね」

「仕方あるまい、近衛と違って魔獣を狩る為の軍隊だからな、どうしても後回しになってしまう」

「にゃお、オレはこの国に必要なのは王国軍だと思うにゃん」

「私もそう思う、この世界には人が争う余裕などないのだ、わっ!」

 ハリエット目掛けて襲い掛かって来たクマが魔法馬の防御結界に弾き飛ばされた。同時に電撃も浴びたので天に召された。

 もったいないからオレが回収する。

「スゴいな」

「この程度の防御結界がないと森の中は走れないにゃん」

 次にオオカミを群れごと弾き飛ばした。

「何だこの獣の濃さは?」

「にゃあ、プリンキピウムの森ではこれが普通にゃん」

「所変わればと言うが、私ももっと見聞を広めないといけないようだ。王都に篭ってるだけではダメだと痛感した」

 十二歳にしては思慮深いにゃん。


 オレたちは魔法馬の速度を上げてプリンキピウムの街に向かう。

 獣は基本、魔法馬で跳ね飛ばし、特異種や図体のデカい獣だけ銃で始末する。

 最初はビビリ気味だったハリエットも次第に慣れて銃を撃てるようになった。



 ○プリンキピウム 西門


 魔法馬は順調に森を抜けて昼前にはプリンキピウムの門に到着した。


「おう、マコト様に妖精さんお帰り、そちらは?」

 守備隊の兄ちゃんが出迎えてくれた。

「にゃあ、こちらはハリエット・ベッドフォード公爵様にゃん、いまカードがないので仮の身分証を発行して欲しいにゃん」

「は?」

 守備隊の兄ちゃんは、理解が追い付かなかったらしく呆けた顔をした。

「にゃあ、これが料金にゃん」

 銀貨を二枚渡してハリエットの仮身分証を作らせた。

「ようこそ、プリンキピウムに」

 半信半疑な顔だがハリエットにカードを渡した。

「ああ、世話になる」

 馬を門の中に進ませる。

「まさか王国の南の辺境プリンキピウムに来るとはな」

「にゃあ、貴族は寄り付かない街にゃん」

「だろうな、王都から気楽に来れる場所ではないからな」

「ハリエット様も初めてにゃんね」

「ああ、アルボラ州自体が初めてだ」

「にゃあ、狩りでもしないと来ないにゃんね」

「そうだな、これだけ獲物が濃かったら狩りにはいいが、獣が強力過ぎるから命懸けになるな」

「にゃあ、遊びで潜るのは危険にゃんね」

「マコトには何でもないようだが」

「にゃあ、冒険者だから当然にゃん」

「それでFランクなのだから、冒険者ギルドのランク付けはどうなってるんだ?」

「にゃあ、四月に登録したばかりだからこんなものにゃん」

「四月!?」

「にゃあ」

「魔法使いとはつくづく理不尽な存在だな」

「否定はしないにゃん」



 ○プリンキピウム 町道


 冒険者ギルドとホテルが見えて来た。

「にゃあ、右側が冒険者ギルドにゃん」

「思ってた以上に立派な建物だな、その対岸にあるのはホテルか? 辺境の街には不似合いなランクの様だが」

「にゃあ、オレのにゃん」

「マコトのホテルなのか?」

「そうだよ、マコトのホテルだよ、ご飯が美味しいよ!」

「にゃあ、プリンキピウム・オルホフホテルにゃん、アーヴィン様に名前をもらったにゃん」

「マコトはアーヴィン殿と親しいのだな」

「にゃあ、一緒に狩りをした仲にゃん」

「なるほど、アーヴィン殿ならプリンキピウムの森を楽しんだことだろう」

「にゃあ、特異種を狩りまくっていたにゃん」

 正確には惨殺だけどな。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー


「ネコちゃん、お帰りなさい、あら、そちらは?」

 ハリエットを連れて冒険者ギルドに入るといつものようにセリアがカウンターから出迎えてくれた。

「にゃあ、こちらはハリエット・ベッドフォード公爵様にゃん、デリックのおっちゃんはいるにゃん?」

「えっ、公爵様ですか? ちょっ、ちょっとお待ち下さい!」

 セリアが慌ててギルマスの執務室に走って行った。

 デリックのおっちゃんことギルマスはすぐに執務室から出て来た。

「おお、本当にハリエット様だ!」

「久しいな、デリック殿」

「お久しぶりですハリエット様、何故プリンキピウムに、まさかお一人ですか?」

「少々事情があってな」

「まずはこちらへ」

 何かを察したらしいデリックのおっちゃんは執務室にハリエットを案内した。オレとリーリもその後に続く。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室


「私は王都から誘拐されたらしい」

 ハリエットが単刀直入に切り出した。十二歳とは思えない落ち着きぶりだ。見た目は一〇歳の子供だけどな。

「誘拐って、本当ですか!?」

 座ったばかりの椅子から腰を浮かす。

「ああ、それでだデリック殿、ドゥーガルドに連絡は付くだろうか?」

「ええ、直ぐに付きます」

「すまないが、私が無事なことを伝えてくれないだろうか?」

「わかりました、ただちに」

 デリックのおっちゃんは通信の魔導具を使った。固定電話の受話器みたいな形をしてる。魔力で宛先を指定するみたいだ。

「ああ、兄貴か? 俺だ」

 ドゥーガルドと言う人物はギルマスの兄さんらしい。

「ハリエット様がいまこちらに来てる」

『×××××!!』

 兄貴は通信の魔導具の向こう側で大声を出してるのか、こっちまで声が聞こえた。

「こっちと言ったら、プリンキピウムに決まってるだろう? まだ詳しいことは何も、お元気そうだぞ」

「また後で連絡すると言ってくれ」

 ハリエットが横から指示した。

「わかりました、また後で連絡する」

 ギルマスは一方的に通話を終了した。

「すまない手間を掛ける」

「いえ、この程度のこと何でも有りませんが、誘拐されて良くご無事で」

「マコトのおかげだ。魔獣の森の飛び地に捨てられた私を拾って治療してくれたのだ」

「魔獣の森の飛び地、マコトおまえそんなところに潜っていたのか?」

「にゃあ、たまたま遠出してたにゃん」

「犯人は?」

「魔法馬に乗った人間がふたりにゃん、魔獣に喰われてハリエット様が入っていた護送袋が残されたにゃん」

「そういうことだそうだ」

「森の中を魔法馬で走るヤツがマコトの他にもいるのか?」

「にゃあ、近衛軍の騎士が走ってるのは見たことがあるにゃんよ」

「近衛軍の騎士か」

「確たる証拠がないのでなんとも言えない」

「では、迂闊なことは言えませんな」

「遺跡のある方向から来たけどね!」

 リーリがはっきり証言する。

「「……」」

「調査は王都にいる連中に任せるしかあるまい、アルボラの領主は中立派と聞く、協力は期待薄だろう」

「確かに王宮のゴタゴタとは距離を置きたがる性分ですが、協力を拒否するほど融通が利かないわけではないので話は通して置きましょう」

「すまない」

「では、これをお使い下さい」

 デリックのおっちゃんは自分の通信の魔導具を渡した。

「ありがとう、少し使わせてもらう」

「マコト、行くぞ」

 デリックのおっちゃんが立ち上がった。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室前


 ハリエットだけを執務室に残してオレとリーリはデリックのおっちゃんと一緒に執務室を出た。

 ハリエットは改めて王都の王国軍総司令部と話をするのだろう。オレたちは国家の機密事項に関わることなんか聞きたくないので廊下で待つ。


「デリックのおっちゃんのお兄さんが王国軍の関係者だったにゃんね」

「ああ、王国軍で偉いんだか偉くないんだか良くわからないことをやってる」

「お兄さんがアーヴィン様のツテだったわけにゃんね」

「親父殿も王国軍には無関係ではないけどな」

「にゃあ、アーヴィン様はいろいろやってるにゃんね」

「あの歳で落ち着かないから困る」

 そう言いながらもアーヴィン様が領地に引きこもって隠居なんかしたら、寂しく思うんじゃないだろうか。

「王都から迎えが来るまで、ハリエット様はマコトのホテルに滞在して頂くことになるだろう」

 盗聴防止の結界を張って内緒話だ。

「にゃあ、ハリエット様はオレが王都に連れて行くにゃん」

「マコトが王都までか?」

「にゃあ、また狙われることを考えると移動してる方が安全にゃん」

「待ち伏せの可能性もあるぞ」

「にゃあ、外ならハリエット様だけを守ればいいからまだ簡単にゃん、それに王都から迎えが来ても移動中の襲撃の可能性が消えるわけじゃないにゃん」

「確かにそうだが、護衛がマコトだけというのはどうなんだ?」

「護衛を増やされても足手まといになるにゃん」

「Fランクのセリフじゃないな」

「ハリエット様の敵は、プリンキピウムの森を魔法馬で走れるレベルの人間を使い捨てにするにゃん、宮廷魔導師も絡んでるみたいだから高ランクの冒険者でも歯が立たないにゃん」

「ヤバい情報がポンポン飛び出して来るな」

「にゃあ、それにホテルの従業員や孤児院の子供たちに手を出されたら、オレはおとなしくしてる自信がないにゃん」

「何をするつもりだ?」

「にゃあ、王都に行って怪しそうな奴を片っ端から締め上げるにゃん」

「マコトなら本気でやりそうだな、確かに魔導師が絡んでると籠城するより少しでも早く王都に入った方が安全か」

「王都の警備はどうにゃん? そこが心配にゃん」

 いちど誘拐されてるわけだし、デカい穴が空いてるのは間違いない。

 今度は魔法馬の防御結界が効いてるから簡単にどうこうはできないけどな。

「王族は王都の絶対防御結界に守られているから簡単に殺すことはできない」

「図書館で読んだことがあるにゃん。王都タリスの絶対防御結界にゃんね、王族だけ別メニューで護られるにゃんね」

 王都を守護する絶対防御結界は現代魔法の最高傑作と評されている。

「にゃあ、それで毒薬を使った上に誘拐したにゃんね」

「毒薬だと?」

 デリックのおっちゃんが目を剥く。

「にゃあ、ハリエット様に彫像病を発症させ悪化させる毒薬が時限魔法付きで仕掛けられていたにゃん」

「その上でプリンキピウム郊外の魔獣の森の飛び地まで運んだのか。絶対防御結界に邪魔されないように」

「念が入ってるにゃん」

「そうまでしてハリエット様を排除する必要があるのか? こう言っちゃ何だが、王国軍にそこまで手間を掛ける価値はないと思うが」

 デリックのおっちゃんも六歳児にぶっちゃけすぎだが王国軍の評価はやはりいまいちらしい。

「にゃあ、ハリエット様は王族にゃんね」

「ああ、亡くなられた王弟殿下のご息女だ、王位継承権を持っていらっしゃる」

「そっちの芽を潰しに来た可能性もあるにゃんね」

「もし本当なら気の回しすぎだ」

「暗殺の親玉が正常な判断をしてる保証はないにゃんよ」

 州都の図書館で仕入れた現代史は王宮の血まみれエピソードのオンパレードだ。

 乱心した者が国を傾ける事件を起こしたのも一回や二回じゃない。

 大公国でもこの前あったばかりだし。

「護衛の件の判断は兄貴に任せるとしよう、俺に判断できる事案じゃない。すまないがマコトも協力を頼む」

「にゃあ、わかったにゃん」


 少ししてハリエットが通信を終えたらしくギルマスの執務室から出て来た。


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