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ヤバい拾いモノにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇七月二二日


 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 魔獣の森 飛び地前 地下ロッジ


 日付は変わったが夜明けにはまだ間がある時刻、魔獣の飛び地を抜けて地下壕型のロッジを展開する。

 ゴーレムに手伝わせて女の子をベッドに移した。応急処置が効いてるので容態は落ち着いている。

「かなり長い間、護送袋に入ってたみたいにゃんね。防御結界がなかったらかなり前の段階で死んでたと思うにゃん」

 防御結界の魔導具はこの子のピアスだ。これのおかげで殺すことが出来ず、ここまで運んできたのかも。

「この子は運がいいね」

「そうにゃん?」

 運がいいなら誘拐はされないと思うが。

「拾ったのがマコト以外だったら、袋から出されてすぐに死んじゃったんじゃない?」

「少なくとも治癒魔法は必要な状態だったにゃんね」

 改めて魔獣のおなかを割いて救出した子を見る。

 見た目は年の頃一〇歳ぐらいの女の子。強い魔力を持ってるから実年齢より幼く見えてる可能性もある。それでもオレよりずっと大きいけどな。

 魔力は内向きなので残念ながら魔法使いではない。

 やはり目につくのはこの豪奢な金色の髪、仕立てのいいシャツとズボンにブーツ。どれをとってもこっちの世界では初めて見る上質なモノだ。

 侯爵のアーヴィン様でさえもっと実用的な戦闘服だったし~って、何の参考にもならないか。

「見た感じは上位貴族にゃんね」

「どうして女の子なのに男の子みたいな服装なの?」

「にゃあ、そこはわからないにゃん、護送袋に入れるための服装にも思えないにゃん」

「この子って、盗賊なの?」

「違うと思うにゃん。護送袋に入れられる人間には見えないにゃんね」

 この子自身が犯罪者の線はないだろう。

「政変か何かで、連座の対象の子供を魔獣に食べさせて処刑する、なんてことがあったりするにゃん?」

「そんなややこしいのないんじゃない?」

「にゃあ、オレの集めた知識にもないにゃん」

「魔獣に人間を食べさせるなんて危ないよ」

「そうにゃんね、魔獣を街に呼び寄せる行為にゃん」

 それにプリンキピウムの森はオレの知行地だ。何の連絡もなく魔獣に人間を喰わせるなんて危ないことは許されない。

 黙ってやったのだから、宣戦布告をするのに十分な理由となる違法行為だ。

「にゃあ、近衛軍の騎士らしきふたり組がこの子をこっそり魔獣に食べさせるつもりだったのは間違いなさそうにゃん」

「計画は上手く行ったんじゃない? 自分たちまで食べられちゃったけど」

「飛び地とはいえ魔獣の森では当然にゃん」

 女の子は白い手袋をしてる。それをそっと外した。

「これは彫像病にゃんね」

「間違いないね」

 手袋を外すといずれの指も第二関節まで銀色の金属になっていた。紛れもなく彫像病の症状だ。

 彫像病はエーテル器官の異常が引き起こす病気で、身体が金属に置き換わりやがて死に至る。強い魔力を持つ人間に多い病気らしい。

 この子の彫像病はちょっと変だ。

「袋に入れた状態が長すぎたせいで身体のダメージが半端ないにゃん、起きたら治療するにゃん」

 いまはベッドの治癒機能を最大にして身体を休めるのがいいだろう。身体も心も落ち着くはずだ。


 オレは魔獣から回収したエーテル機関の解析を続け、リーリはゴーレムとソフトクリームの新フレーバーの開発に勤しむ。


 女の子が目を覚ましたのは昼過ぎになってからだ。

「んっ、ここは何処だ?」

「にゃあ、プリンキピウムの森にゃん」

「プリンキピウム? 済まない聞いたことはあるが場所がはっきりしない」

「にゃあ、アルボラ州の南の果て、プリンキピウムの街から更に南に入った地点にゃんね」

「アルボラ州!?」

「そうにゃん」

「それでキミは?」

「にゃあ、オレはマコト・アマノにゃん、冒険者にゃん」

「子供なのに冒険者なのか?」

「あたしはリーリだよ」

「妖精さんもいるのか」

「アルボラ州の南の果てとは、知らぬ間にずいぶんと遠いところまで来たものだ。プリンキピウムでは六歳になれば冒険者になれるのか?」

「にゃあ、オレは魔法が使えるから特別に許可してもらったにゃん」

「魔法か、それなら冒険者も有りか」

「にゃあ、有りにゃん」

「私はハリエット・ベッドフォードだ」

 ハリエットはそう名乗ると上半身をベッドから起こした。

「ハリエット様は貴族にゃん?」

「ああ、ベッドフォード公爵家の当主だ」

「公爵様とはスゴいにゃんね」

 王家の次じゃないのか? 大公国の厨二と同格だぞ。

「マコトよりずっと上だね」

「にゃあ、雲の上にゃん」

 公爵とは、今回の拾い物は想像以上にヤバかった。侯爵のアーヴィン様でも庶民からしたら雲の上の存在なのに、公爵となったら大気圏外の存在だ。

「マコトも貴族なのか?」

「にゃあ、一応騎士を拝命してるにゃん」

「騎士の令嬢が冒険者をしているのか?」

「違うにゃん、最初が冒険者で次に騎士になったにゃん」

「では、マコトが当主なのか?」

「にゃあ」

「それはスゴいな」

「ハリエット様は何で護送袋に入ってたにゃん?」

「護送袋? 私は護送袋に入っていたのか?」

「そうにゃん、これにゃん」

 さっきまでハリエットが入れられていた護送袋を見せた。丈夫な布地を筒状に縫って簡易魔法陣が刻印代わりに刺繍されている。大きさ以外はごく普通に見かける護送袋だ。

「残念ながら全く覚えていない、私はさっきまで王国軍司令部の執務室にいたはずなのだが、そこで意識を失った」

「にゃあ、王国軍の司令部って王都にゃん?」

 アーヴィン様に王都に行ったら訪ねろと言われた場所だ。

「ああ、王都だ、今日の日付はわかるか?」

「にゃあ、いまは七月二二日にゃん」

「七月二二日? 私の記憶では六月二〇日だったが」

「にゃあ、王都で袋に入れられてはるばるプリンキピウムの森まで運ばれたにゃんね、日付からするとぴったりにゃん」

 王都からプリンキピウムまでは乗り合い馬車で一ヶ月は掛かる。

「らしいな、誰が私をプリンキピウムの森に運んできたかわかるか?」

「にゃお、肉眼では見てないけど探査魔法で確認した限りでは、魔法馬に乗ったふたり組だったにゃん」

「魔法馬か」

「にゃあ、プリンキピウムの森を魔法馬で突っ走るイカれた奴は、オレの他は遺跡に陣取ってる近衛の騎士ぐらいにゃん」

「プリンキピウム遺跡の近衛の騎士か、なるほど」

「オレが駆け付けた時には、ふたりは魔獣に喰われた後だったので遺留品は袋に入ったハリエット様と壊れた魔法馬だけだったにゃん」

 金色の鎧は魔獣の腹を割いた話をしなくてはならなくなるので、ここでは情報は開示しない。

「魔獣だって!?」

「にゃあ、ふたり組は魔獣の森の飛び地に突っ込んで喰われたにゃん」

「魔獣の森の飛び地だって?」

「知ってるにゃん?」

「私は王国軍総司令官だ、その程度の知識はある、ふふ、考えたものだな、魔獣に食べさせれば私の消息は永遠に知れなかっただろう」

「ハリエット様は総司令官にゃん?」

 政府要人だ。

「ああ、お飾りの様なモノだがな、それですら誰かには邪魔な存在だったらしい、私の身体はそう長くないと言うのにご苦労なことだ」

「にゃあ、彫像病にゃんね」

「わかるのか?」

「にゃあ、ハリエット様のエーテル器官に影が出てるにゃん」

「影?」

「彫像病の原因にゃん」

「本当なのか?」

「にゃあ、それと毒を盛られてるにゃん」

「毒だって?」

「彫像病を悪化させる毒にゃん、魔法式とセットになって少しずつ身体に溶け出してるにゃん」

 ハリエットの彫像病が不自然な原因だ。

「毒か、時限式の魔法は宮廷魔導師が得意とする暗殺方法だ」

「宮廷魔導師も絡んでるにゃん?」

「ああ、容疑者が多すぎて絞り切れないがな」

 ハリエットは苦笑いを浮かべた。

「オレがハリエット様の毒を消してエーテル器官も修正するにゃん、ついでに毒の耐性を上げておくにゃん」

「随分と大盤振る舞いだが、マコトは本当にそんなことができるのか?」

「にゃあ、問題ないにゃん」

「マコトの治癒魔法は強力だから任せてくれていいよ」

「妖精さんも太鼓判を押してくれるなら頼む」

 本当に信用してくれてるかはわからないがハリエットはまたベッドに横になった。

「始めるにゃん」


 暗殺されそうになった公爵家の当主の少女の味方をするのは、かなりヤバいことに足を突っ込むことになる。

 だが、目の前のハリエットを見殺しにはできない。

 室内を治癒の光で満たしエーテル器官のエラーを修正し、金属化した部分を元に戻す。

 そして毒と魔法式を消し去り、毒の耐性を上げた。


「出来たにゃん」

 ハリエットは身体を起こすと金属から元に戻った指先を眺める。

「まさか本当に治るとは、宮廷の治癒師でさえ治せなかった病がいとも簡単に」

「エーテル器官のエラーを修正できないと治療は難しいにゃん」

「マコト、おまえはいったい何者なんだ?」

「にゃあ、治癒魔法も使えるただの冒険者にゃん」

「まあいい、そう言う事にしておこう」

「にゃあ、ハリエット様は、もうしばらく休んだ方がいいにゃんね、一ヶ月の仮死状態の影響は小さくないにゃん」

「そうなのか?」

「プリンキピウムに戻るのは明日にするにゃん」

「一晩寝るだけでいいのか?」

「にゃあ」

「それは普通、影響は小さいって言うんじゃないのか?」

「にゃあ、ベッドが治癒能力を持った魔導具にゃん、一晩寝れば死人だって歩き出すにゃん」

「マコトが普通じゃないことだけはわかった」



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 魔獣の森 飛び地


 夕方、ハリエットを寝かせてオレたちは外に出た。

 眼前の森に探査魔法を打つ。

「にゃあ、魔獣の残数は九〇ちょっといるにゃん」

「明日はプリンキピウムの街に帰るんだよね」

「そうにゃん、だから今日中に決めるにゃんよ!」

 甲虫を出して飛び乗った。

 エーテル器官を取り替えて羽音が静かになった甲虫が舞い上がる。

「にゃあ! 行くにゃん!」

「行け!」

 甲虫を飛ばし木々の間を抜ける。初めて乗ったときとは雲泥の差の滑らかさで森の中を飛ぶ。

 魔獣たちのエーテル機関をできるだけマーキングした。

 その数、七〇ちょっと。

 後の二〇ちょっとはエーテル機関が見えない。

「にゃあ!」

 強化した氷柱を一斉に撃ち込んだ。

 一匹に三本を飛ばした。

 片っ端からエーテル機関の反応が無くなった魔獣を回収する。

 そのまま飛び地の中央に向かった。

 エーテル機関が見えなかった魔獣がそこに集まっている。

 形は大きいのが一体。それを取り囲む小さな魔獣。

 小さいと言ってもアトリー三姉妹の後輩だったベッティたち三人が暮らしていた小屋よりは大きい。

 この二〇匹ちょっとの群れが最後だ。

 薄くなったとは言え中心部には濃厚なマナが健在だった。

 マナの供給源も一緒に攻略する必要ありだ。

「にゃあ、魔獣たちがこっちに気付いたみたいにゃんね」

「うん、見えてるみたい」

 認識阻害の結界も用をなさなかった。

 だったら先制攻撃だ。

 銃撃と氷柱を同時に撃ち出した。

 どちらも連射だ。

 木々の間を爆音が響き渡る。

「にゃ!?」

 赤い閃光が直ぐ近くの大木を貫いた。

「またレーザーにゃん!」

 甲虫を飛ばしたまま防御結界を厚くする。

 無数の赤い光が飛びまくる。

「にゃあ、レーザーで弾幕にゃん!」

 残ってる魔獣は全部ビーム持ちか!?

 オレも負けずに銃をぶっ放し氷柱を空から落としまくった。

 中心部が近づきマナが即死レベルの濃さになる。

 甲虫を仕舞って月光草の出力を上げた。

 森の地面がまばゆいばかりに光り輝く。

 マナの濃度が減少して目に見えてレーザーも弱くなった。

「にゃお、マナの供給源は何処にゃん?」

 魔法馬に乗り換えて進む。

 マナは飛び地の中心、その地中から吹き出していた。

 それほど深くなければ大きくもないし生物でもない。

 つまり格納が可能だった。

「にゃあ!」

 先にマナを出しまくってる何かを分解して格納した。

 マナは供給が止まって濃度が急激に下がった。

 レーザーも止まる。

 隠されていたエーテル機関が丸見えになった。

「残数二五匹にゃん!」

「それが最後みたいだね」

「にゃあ、やるにゃん!」

 オレはそれら全てに氷柱を撃ち込んだ。


 森に落雷のような音が響き渡りやがて静寂が戻った。


「終わったみたいだね」

「にゃあ」

 魔獣の森の飛び地にいた魔獣はすべて機能停止し、マナも通常レベルにまで下がった。

 月光草もいまは淡い光に戻っている。

「回収にゃん」

 魔獣たちの躯をすべて回収した。

 最後に残っていた魔獣たちは目玉のお化けみたいな形をしている。

 親玉らしき大きい魔獣は妖怪の目目連みたいだったし。

 近くでやり合わなかったのは正解だ。

 マナが落ち着き、獣たちが魔獣の森の飛び地だった場所に続々と入り込む。

 魔獣の気配が消えたのがわかったのだろう。



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 魔獣の森 飛び地前 地下ロッジ


 深夜になってオレは地下壕型ロッジに戻った。

 ハリエットはよく眠っている。明日になればほぼ回復してるだろう。

「いくら子供とはいえ、国軍の総司令が誘拐されるとか王都は治安が悪いにゃんね」

「人間のいるところなんてどこも同じだと思うよ」

「にゃあ、それはあるにゃんね」


 王国軍の総司令誘拐事件についてキャリーとベルに問い合わせたかったが、一般兵のふたりには重すぎる情報なので思いとどまった。

 国軍はともかくハリエットの敵に目を付けられると厄介なことになる。キャリーとベルを危険に晒すわけにはいかない。

 後は国軍にツテのあるアーヴィン様か。ただハリエットの味方かどうかはオレには判断出来ないから、その当たりはハリエット自身に判断して貰うか。

 毒を盛られて誘拐されるぐらいだから、総司令の役職も単なるお飾りではなさそうだから、敵味方の判別ぐらいは付くだろう。


 オレとリーリはジャグジーでブクブクする。身体はゆったりさせながら格納空間で飛び地の中心で手に入れた大量のマナを吹き出していた物体を確認した。

「にゃ、これってゴーレムにゃん?」

 大きさは身長一六〇センチ程度で女性型だった。

 そして猫耳と尻尾が付いていた。

 親近感が湧くにゃん。

 猫耳ゴーレムの壊れた刻印を復元して修正しエーテル機関を追加した。

 カリカリにチューンナップされてピーキーな刻印もこれでかなり安定するはずだ。マナが漏れ出すこともない。

 猫耳ゴーレムを目の前に再生する。

『ニャア』

 この桁違いの魔力は戦闘用ゴーレムか?

『ニャア♪』

 何故かオレを抱き上げてスリスリしてるけど。


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