魔獣の森の飛び地解放計画にゃん
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 魔獣の森 飛び地
深夜、子供たちに偉そうに説教した舌の根も乾かない内にリーリと一緒に魔獣の森の飛び地にやって来た。
「今夜もいい感じに光ってるにゃん」
「そうだね、魔獣の領域も目に見えて小さくなってるよ」
オレが月光草を植える前の魔獣の飛び地は半径二〇キロほどの円形だったが、いまは半径一〇~十五キロ圏内が、魔獣の棲息可能な領域だろう。
「にゃあ、行くにゃん!」
「行け!」
魔法馬に乗って飛び地に突っ込んだ。慎重さのかけらもない姿は子どもたちには見せられない。
「来たにゃん」
オレのことを察知した魔獣が早くも動き始めた。
「マコト、先制攻撃だよ!」
「にゃあ、当然にゃん」
魔獣用に調整した半エーテル弾を撃って先制攻撃だ。
オレが誘導する銃弾が木々を避けて魔獣の反応に向かって森の中を飛ぶ。
銃弾はまだ肉眼で姿をとらえていない魔獣にすべて着弾した。
「にゃ?」
いまいち手応えがない上に距離を詰めてるのにいまだに形がわからない。
何でだ?
慎重さのないオレでも魔法馬の足を停めた。魔獣は動きを停めず近づいてくる。
「まだ形がわからないって、どういうことにゃん?」
「マコトもすぐにわかるよ」
リーリには魔獣の正体がわかったらしい。
「にゃお、来たにゃん」
半透明の緑がかったジェルが流れて来た。月光草の光でジェルの中がキラキラとラメを振りかけたみたいに光っている。
「アレが魔獣みたいにゃんね」
「そうだよ」
ジェルはこちらに向かって動いていた。明らかに意思の存在を感じさせる動きだ。
「スライムだね」
リーリが正解を教えてくれた。
「にゃあ、言われてみれば確かにスライムにゃん」
にゅるにゅると地面を這いずってオレの魔法馬の防御結界に取り付いた。
「獲物を取り込んで溶かすにゃんね」
「そうだよ、再生能力が高いから気をつけてね」
「にゃあ」
獲物を体全体で呑み込んで消化するオレの知ってるスライムそのものだ。防御結界の電撃を受けて接触面が焼けるがそれ以上の速度で再生する。
「これは呑み込まれたら最後、ただでは済まない感じにゃん」
大した攻撃力はないが包み込んで消化液を分泌されると抜け出せずに溶かされる。幸いオレの魔法馬の防御結界もスライムに負けず劣らずの再生能力を誇る。
「こいつの最大の弱点はエーテル機関が見えてることにゃんね」
銃を構えて引き金を引いた。
スライムはエーテル機関を撃ち抜かれて活動を停止した。ジェルがドロドロになる前に分解して格納する。
月光草だけが光る元の静かな森が戻った。
「にゃあ、次の獲物は何処にゃん?」
探査魔法を打って魔獣の反応を探す。
「いたにゃん」
次の魔獣のシルエットはサメだ。
ざっくりエーテル機関をチェックすると地中に潜るのではなく鎧蛇の様に地面から少し浮いて滑るように移動する。
銃を構えた瞬間、サメの方向から赤い閃光が来た。
「にゃ!?」
オレの防御結界が閃光を弾いた。
地上なのにレーザーだ!
「にゃお!」
サメからのぶっといレーザー照射が止まらない!
「地上でもレーザーを撃つヤツがいるんだね」
「にゃあ、魔獣の森はイベント満載で飽きないにゃん」
サメとオレたちの間にあった大木が次々と倒れる。
防御結界に弾かれたレーザーも大木を切断して森は大変なことになっていた。
「にゃあ、いつまで浴びせるつもりにゃん!」
銃を撃つが半エーテル弾はレーザーをさかのぼるなんて器用なことは出来ずに消えてしまう。
「にゃお、思っていた以上に厄介にゃんね」
レーザーは転移初日にぶっ放されてるので対策は十分だったが、反撃の準備が不十分だった。
「にゃお、これならどうにゃん!」
銃口を真上に向けて発射した。
誘導された弾丸はレーザーの軌道を避けて上から回り込んでサメの背中側からエーテル機関を撃ち抜いた。
レーザーが消える。
サメは機能を停止し月光草の上に落ちた。
格納したサメからレーザーの魔法式を手に入れた。
「これはなかなか良さそうにゃんね」
人間に使えない魔法もオレは専用の器官をエミュレーションすることで使える。
体内で魔法を生成する必要もないから魔力が尽きることはない。
ただメチャクチャ大きな演算を必要とする魔法は、オレのオツムが追いつかないから難しいけどな。
「にゃあ、試しにレーザーを撃ってみるにゃん」
「いいよ、撃ってみて」
「にゃあ!」
眼からビームで大木に穴を開けた。
サメから手に入れたのは、高度限界で飛んで来るレーザーと違って熱で焼き切るのではなく、対象を分解して穴を穿つ貫通系の魔法だった。
「昨日のうちに防御結界を改良できたのは幸いだったにゃん」
「危なかったね」
改良前の防御結界だったら抜かれて最悪、身体に穴が空いてた。
念のため防御結界を厚くして前に進む。
目からビームが面白くてあちこち撃ってしまった。
「にゃあ、傍から見たらオレの方が魔獣より危ない生き物にゃん」
「確かに」
慎重に馬を森の中心に向けて進ませる。多少の危険には目をつむってまずは冒険だ。
マナの濃度が急激に上がる。
空気がピリピリするほどの濃度だ。
「にゃ?」
前方に魔獣がいる。
探査魔法にシルエットは二つあるが何かダブってる。
「にゃあ、どっちも鎧蛇にゃんね」
オレは馬を走らせ二匹の鎧蛇に近付いた。
鎧蛇がもう一匹を食ってる。
蛇だけに丸呑みだ。
ほとんど自分と変わらない大きさの鎧蛇を呑み込んでいるわけだが、飲み込まれてる鎧蛇がまだ生きていた。その割におとなしいのは、毒か何かで動けないのか?
「にゃ?」
飲まれてる鎧蛇の身体が淡く光り透きとおりはじめた。
単に食べてるんじゃないのか?
喰われてる鎧蛇のエーテル機関が動く。喰ってる鎧蛇の体内に移動した。
二つのエーテル機関が重なり合った。
まさか融合するのか?
エーテル機関が一つになり、同時に飲み込まれていたヤツの肉体が分解されて消えた。
残された鎧蛇の魔力が増す。
「共食いで魔力が補充されたっぽいにゃん」
「へえ」
銃で鎧蛇のエーテル機関を撃ち抜いた。
「にゃあ、本ちゃんの実力を出される前で良かったにゃ、にゃにゃ!?」
撃ち抜いたはずのエーテル機関が復活し、鎧蛇がこっちに頭を向けた。
もしかして完全に融合する前だったか?
鎧蛇が大口を開き火炎を吹き出す。
炎はオレの予想を超えて伸びこちらの防御結界をかすめた。
「にゃお! おまえはどこで火を吐いてるにゃん! 森が火事になるにゃん!」
目からビームで鎧蛇の復活したエーテル機関を貫いた。
燃え上がった木々も風の魔法で消火する。
また復活されたら面倒なので鎧蛇の躯はさっさと分解して格納した。
「にゃあ、魔獣って魔力が弱まったら合体するにゃん?」
「う~ん、どうだろう、あたしも魔獣が合体するなんて初めて見たよ」
「にゃあ、合体とか手間の掛かることしないで、さっさと大きな魔獣の森に逃げ帰って欲しいにゃん」
「人間を困らせるのが魔獣の仕事だからそれはないんじゃないかな? 来るならプリンキピウムの街だと思うよ」
「殲滅以外に道はないってことにゃんね」
「それが安全だね」
オレは次の獲物を探して飛び地の中央に向けて魔法馬を進ませた。
「中心に近付くほど濃度が上がるのは予想どおりにゃん、でもこの濃度は予想以上にゃんね」
人間ならこの濃度はただでは済まないレベルだ。たぶん本当の魔獣の森の濃度を超えてると思う。
「飛び地の中心に何があるんだろうね?」
「高濃度のマナを発生させる何かなのは間違いないにゃん」
その何かを分解できれば魔獣の森の飛び地は一気にマナの濃度が下がる。
「にゃあ、今日はもっと奥に行ってみるにゃん」
「気を付けてね」
「もちろんにゃん」
当然、マナの濃い場所にはヤバい魔獣がいる。
慣れた鎧蛇でさえ、魔力満タンの状態で対峙したらどうなるかはわからないし、魔獣は個体差が激しいので同じ型でも次は何をするか予想もできない。
すべてが上手く行ったとしても魔獣の飛び地の中心を探検して夜明けまでにホテルに戻るのは無理か。
「にゃあ、明日から本格的に飛び地に潜るのもいいにゃんね」
「それは面白そうだね」
「飛び地の中心を攻略する前にある程度、魔獣を減らす必要もあるにゃん、そこも時間が掛かるにゃん」
「仕方ないね」
マナが失われた飛び地から魔獣がどう動くのかが問題だ。魔獣の森に戻るなら問題はないが、最悪プリンキピウムの街に向かっても対処できる数にしたい。
街の防御結界は機能してるが、襲い来る魔獣の数によっては対応できなくなって最悪抜かれる。
「面倒でも一匹ずつ狩るのが手堅いね」
「にゃあ」
夜明け前、ホテルに戻るまでに一〇匹ほど狩った。しかし道はまだ長い。
○帝国暦 二七三〇年〇七月二〇日
○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ロビー
「にゃあ、ノーラさんおはようにゃん」
「おはよう!」
仮眠&ウォッシュですっきりしたオレとリーリは朝一でノーラさんを捕まえた。
「おはようございます、マコトさん、リーリさん」
「にゃあ、ノーラさんにちょっとお願いがあるにゃん」
上目遣い&猫撫で声でお願いする。
「何でしょう?」
「今日から森に数日、潜りたいにゃん」
「また森に潜るのですか?」
「そうだよ、狩りをするんだよ」
「にゃあ、そうにゃん、狩りにゃん、いいにゃん?」
「ええ、いいですよ」
ノーラさんはすぐに許可してくれた。
「にゃあ、ありがとうにゃん」
「マコトさんとリーリさんだけで行くんですか?」
「にゃあ、そうにゃん、デカい魔法をぶっ放して危ない獣を退治するにゃん」
「くれぐれも油断しないで下さいね」
「にゃあ、抜かりはないにゃん」
「マコトだからね! 心配は要らないよ!」
オレは格納空間からスマホぐらいの板をノーラさんに差し出した。
「マコトさん、それは?」
「にゃあ、通信の魔導具にゃん」
「通信の魔導具ですか!?」
薄い五インチサイズの黒い金属板ぽいもの。見た目よりは軽い。こちらの感覚だと鬼のように高価なシロモノだ。
「これでオレに連絡が付くにゃん、何かあったら遠慮なく呼んで欲しいにゃん、魔導具の代わりに近くにいるゴーレムに伝言を頼んでもいいにゃんよ」
「ゴーレムに伝言ですか?」
「にゃあ、オレはゴーレムたち全員と繋がってるにゃん」
実際には魔法蟻を含めて一つのネットワークを形成している。
オレも横並びでその一つだ。
「わかりました、通信の魔導具はお預かりします」
「にゃあ、その通信の魔導具はノーラさんにしか使えないから保管に神経を使わなくていいにゃんよ、失くしてもすぐに見つけられるし作れるにゃん」
「マコトさんに掛かれば何でもありですね」
「マコトだからね!」
オレが謙遜する前にリーリはオレの頭の上で仁王立ち。
「にゃあ、高価でもなんでもないから気軽に使って大丈夫にゃんよ」
「わかりました、何かあったらマコトさんに連絡しますね」
「緊急事態にはすぐに戻って来るにゃん」
「頼りにしてますね」
「にゃあ」
○プリンキピウム プリンキピウム寄宿学校
ノーラさんにいい感じにあやされてからオレは昨日作ったばかりの学校の校舎を見に行く。
『コレカラ勉強ヲ始メマス』
ゴーレムが教壇に立って授業を始める。六歳以上は勉強が中心だ。
隣の教室は幼稚園になっている。
『オ歌ヲ歌イマショウ』
更に隣はちっちゃい子の保育園だ。
『昔々アルトコロニ、オ爺サントオ婆サンガイマシタ』
孤児院の子たちにシャンテルとベリルそれにホテルに滞在中のキルド職員の子供たちも混ざっていた。
昨夜の内に誘っておいたのだ。
気に入ったらこれから通って欲しいということで。
何人かに聞いたところ、やはり子供のための学校は領内にはないらしい。生活に余裕のある富裕層は家庭教師を雇い、次に王都に留学させる。
子供の教育は食うや食わずの庶民には無駄な道楽にしか映らないそうだ。
幸いギルドの職員は読み書き計算の恩恵を知ってる人たちなので子供たちを学校に通わせることには抵抗がなかった。
昨夜、学校に来れば給食とおやつが食べられると話したら親子ともどもやる気になっていたし。
学校では朝と昼の給食とおやつが出るので、親の負担が減るらしい。エンゲル係数が高いから仕方ない。
○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 魔獣の森 飛び地
学校も問題ないのを確認してオレとリーリは昼前に街を出て森に入った。
それからこっそりトンネルに入って魔獣の飛び地にGO!だ。
真っ昼間でも飛び地の一角は月光草が淡く光っていた。
「行くにゃん」
「行け!」
銃を担いで魔法馬に乗り魔獣の森の飛び地に入り込む。まずは外縁部から時計回りに移動しながら魔獣を狩り、少しずつ中央に近付く作戦だ。
飛び地に生息する魔獣の殲滅は、マナが薄くなってるいまが好機。
「一匹たりとも逃がさないにゃん!」
「全部やっちゃえ!」
これまでの探査の結果、飛び地にいる魔獣の八割が鎧蛇かその亜種だ。ヤツらは融合して魔力を維持してる可能性があるので少々厄介だ。
勝手に数を減らしてくれるのは大歓迎だが、変に合体して頭が二つとかになったら嫌すぎなのでさっさと始末するべきか。
馬を停めることなく銃を撃つ。
魔獣の反応が消える。
直ぐに分解して回収する。鎧蛇は離れた場所から撃つに限るぜ。
調子よく狩りまくっていたが突然、魔獣の反応に囲まれた。
「にゃ!?」
何処だ? 何処にいる?
探査魔法にはちゃんと引っ掛かってる。全部で五匹だ。
「にゃあ、肉眼で見える距離にいるはずなのに姿が全く見えないにゃん」
「地下ではないっぽいね」
「にゃお、見えなくても魔獣が近くにいることに変わりはないにゃん」
「そうだね」
幸いエーテル機関の場所はわかった。
「にゃあ!」
オレを囲む見えない魔獣のエーテル機関があると思われる場所を撃ち抜いた。
空間に五つの波紋が拡がり風景がずれた。
ドドン!っと重い音が連続する。
「これは何にゃん?」
半透明のミジンコを軽ワゴンぐらいに拡大した感じの魔獣だ。
それが地面に転がってる。
透明化の魔法で姿を隠し毒針を撃ち出して倒すのがこいつらのやり口らしい。
五匹の躯を分解して格納した。
「完全透明化の魔法も手に入れたにゃん」
「おお」
探知や探査魔法には全く効果がないので認識阻害の結界と組み合わせる必要がある。
どちらかと言うと対人向けの魔法だ。
巨大ミジンコを倒した後はまた馬を走らせる。
「にゃ、見付かったにゃん」
認識阻害の結界を展開していたのにあっさり見破られたらしく大きな反応がこっちに来る。
反応に向け銃を構え馬を走らせたまま連射した。
魔獣は弾幕を弾いてこっちに突っ込んで来る。
「にゃお、銃弾が効かないにゃん!」
青い装甲に身を包んだ鎧蛇が見えた。
相変わらず特急電車みたいな勢いで突っ込んで来る。
「にゃああ!」
ヤツは口から氷柱状の尖った氷を撃って来た。
それを銃弾で撃ち落としつつ魔獣本体には風の壁をぶつけた。
ドン!と衝突の衝撃波が森に広がる。
鎧蛇は頭部が跳ね上がって急角度でターンする。これは効いてる。
でも、倒すとなると風の魔法だけでは時間が掛かりそうだ。
エーテル機関を壊せればオレの勝ちなのだがこいつの防御結界と装甲は飛び抜けて強力だ。
「にゃお! もう力押しにゃん!」
銃弾にオレの魔力を上乗せして連射だ!
また氷柱を飛ばしながら突っ込んで来る青い鎧蛇に向かって一発一発が侵食系の結界で包まれた弾丸をお見舞する。
連射された弾丸が鎧蛇の防御結界を侵食し青い装甲に穴を穿つ。
ガガガガガガガガ!と弾丸が火花を上げる。
オレの横をかすめた青い鎧蛇を蜂の巣にしてエーテル機関も撃ち抜く。
「にゃあ、やっと始末出来たにゃん」
「硬かったね」
「まったくにゃん、さっと分解して先に進むにゃんよ」
いま手に入れた氷柱を飛ばす魔法はなかなか使い勝手が良さそうだ。
オレたちは次の獲物を求めて魔法馬を走らせる。オレたちが獲物にされないように十分に注意しながら。




