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アドバイスを受けるにゃん

 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル レストラン


 夜、オレとリーリはアーヴィン様一行との最後の晩餐に参加している。参加者は、オレたちの他にデリックのおっちゃんことギルマス一家だ。

 本当は厨房側に回りたかったのだが、アーヴィン様の隣に座らされてしまった。その隣がデリックのおっちゃんだ。

「マコトの作った酒はどれを飲んでも旨いのである」

「親父殿の意見に同感だ」

 酒なら何でもいいんじゃね?と言う飲みっぷりを飲めないオレに見せびらかす。

「キンキンに冷えたブドウジュースも最高にゃん」

「そうだね」

「あい」

 ジュースを飲んでるのはオレとリーリとギルマスの倅のバートだけだ。

「しかしマコト、これだけの酒造りの腕を持ってるのに冒険者というのは実に惜しいのである。吾輩の領地でも酒を造って欲しいくらいである」

「にゃあ、アーヴィン様のニービス州にゃんね」

「マコトの馬ならここから北に一月と言ったところであろう」

 常識的な速度なら二ヶ月は掛かるはずだ。

「マコトの酒を定期的に送ってくれぬか?」

「親父殿、金は払えよ」

 デリックのおっちゃんが注文を付ける。

「にゃあ、お酒ならホテルから冒険者ギルドに依頼して毎月送るにゃん、宛先はニービス州のお城にゃん?」

「いや、吾輩の王都の屋敷に頼む」

「そうだな、親父殿は年の半分も領地にいないからな」

「了解にゃん」

「マコト、近いうちに王都に遊びに来てはどうであるか?」

「にゃあ、いいにゃんね」

 王都にはキャリーとベルがいる。

「王都に着いたら王国軍の司令部を尋ねると良い」

「にゃあ、王国軍にゃん?」

「親父殿、まさかマコトを王国軍に勧誘か?」

「にゃあ、軍隊は六歳では入れないにゃんよ」

「残念ながら、そのとおりである」

「士官学校も十二歳からだからしばらくは先ですね」

 キャサリンが情報を追加してくれる。

「にゃあ、オレは軍人になるつもりはないから関係ないにゃん」

「軍人は窮屈だからな、俺もそれが嫌で冒険者になった口だ」

 デリックのおっちゃんが頷く。

「にゃあ、デリックのおっちゃんは冒険者だったにゃんね」

「まあな、子供がいなかったらいまでも冒険者だったかもな」

「そうですね」

 奥さんのカトリーナも頷く。

「にゃあ、家族を守るのも立派な仕事にゃん」

 親を亡くした子供の悲惨な境遇を目の当たりにすると余計にそう思う。

「そうであるな」

 アーヴィン様も神妙な顔をする。

「でも、気楽がいちばんだけどね!」

 皿から顔を上げたリーリが付け加えた。

「確かにそれも言えるのである」

「まったくだ」

「「ガハハハ!」」

 筋肉親子が豪快に笑う。

「王国軍の司令部なら吾輩に連絡が付くのである」

「王都のアーヴィン様のお屋敷は上級貴族地区なので、簡単に出入りできません。その点、司令部なら問題ありません」

 エラが教えてくれた。身分制度うんぬんより警備上の問題っぽい。

「ネコちゃんが王都に来たら、私が案内するわね」

「私も案内します」

 キャサリンとエラが立候補してくれた。

「王都には友だちがいるからそのうち行くにゃん、その時はよろしく頼むにゃん」

 キャリーとベルのことを思い出したら会いたくなった。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ラウンジ


 夕食の後は、ラウンジに移動してアーヴィン様とキャサリンとエラにホテルの感想を聞く。

「ホテルであるか、実に素晴らしいの一言であった」

「アーヴィン様の仰ったとおり、ここまで豪華なホテルは初めてよ」

「魔導具も食事も申し分ありません。ゴーレムが多いですから従業員の数も気になりません。ただしこのままではトラブル必至です」

 エラに断言された。

「にゃあ、どんなトラブルにゃん?」

「王都のホテルは、それぞれ庶民用と富裕層用に完全に別れています」

「オレのホテルも分けた方がいいってことにゃん?」

「マコトさんのホテルは客層が絞りきれないと思いますので、トラブル防止のためにそれぞれの動線を分ける必要があるかと思います」

「そうにゃんね、庶民も近くに貴族がいると落ち着かないにゃん」

「吾輩は気にならぬが」

「アーヴィン様は隣に陛下がいても気になさらないではないですか? 見ている方が心臓に悪いです」

「肝が冷えます」

「にゃあ、わかったにゃん、アーヴィン様の後に貴族が来てくれるかどうかわからないけど対策するにゃん」

「貴族は間違いなく来るのである」

「にゃ?」

「私もアーヴィン様の意見に賛成です。ネコちゃんのホテルにはそれなりの数の貴族が来るんじゃないかしら」

「来ます。大商会も視察をかねて乗り込んで来るでしょうし、かなりの数が来るのではないでしょうか」

 アーヴィン様たちは三人そろって貴族が来る予想をした。ついでに大商会も。

「貴族が何をしにプリンキピウムに来るにゃん? アーヴィン様みたいに狩りをするとも思えないにゃん」

「マコトのホテルが目的である」

「ホテルにゃん?」

「辺境の高級ホテルなんて心惹かれるもの。旅を好む貴族の方も多いのよ」

「もちろん快適な旅ですけど」

「すぐではなかろうが、吾輩も宣伝しておくのである」

「にゃあ」

 他にも貴族視点のアドバイスをいくつかもらってメモした。

 貴族のサンプルとしてアーヴィン様はどうかとは思うが、キャサリンとエラが補ってくれたので問題ないと思う。

「マコトさん、王国には裕福な貴族より貧乏な貴族が圧倒的に多いですから気を付けて下さい」

 エラがアドバイスしてくれる。

「権力があるのに貧乏にゃん?」

「いくら身分が高くても領地の天候や獣をコントロールすることは出来ぬということである」

「ネコちゃんは出来そうね」

「にゃあ、オレも天候まではコントロールできないにゃんよ」

「天候をいじると環境に負荷がかかるから、マコトの場合は防御結界で守るんだよ。効率がいいからお勧めだよ」

 リーリがイチゴパフェから顔を上げた。

 大公国の小麦畑は魔法を使っての栽培だから結界で隔離するのが大前提だ。

 効率だけを求めるなら地下農場だけどな。

「何ともマコトの魔法はスケールが大きいのである」

「想像と理解が追いつかないわ」

「方法を教えて貰っても実践は無理ですね」



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ペントハウス


『にゃあ、オレにゃん』

 ペントハウスのジャグジーの前でビーチチェアに寝そべって念話を飛ばした。

『マコト?』

『マコトなのです』

 王都の国軍の駐屯地にいるキャリーとベルに繋がった。

『にゃあ、いま大丈夫にゃん?』

『大丈夫だよ』

『大丈夫なのです』

『用事があるわけじゃないにゃん、キャリーとベルの声が聞きたくなっただけにゃん』

『寂しくなっちゃった?』

『にゃあ、そういうわけじゃないにゃんよ』

『わかってるよ、私もマコトの声が聞きたいと思ってたところだよ』

『にゃあ』

『あたしもいるよ!』

 リーリが念話に乱入した。ソフトクリームを舐めながらとか高度な技を披露している。他人の念話に混ざること自体が超絶技巧なのだけど。

『妖精さん、こんばんはなのです』

『マコトはこの前も寂しくて泣いてたから仲良くしてあげてね』

『にゃ』

 惜しげもなくバラされた。

『もちろんだよ、マコトは私たちの大事な友だちだからね』

『そうなのです、大事な友だちなのです』

『にゃあ、オレもにゃん、キャリーとベルは大事な友だちにゃん!』

『仲がいいよね』

『にゃあ』

 いまのはちょっと恥ずかしかった。

『プリンキピウムに来たギルマスのお父さんは大丈夫だった?』

『アーヴィン様にゃんね。いい人にゃん』

『アーヴィン・オルホフ侯爵だね』

『そうにゃん、ニービス州の領主様にゃん』

『私たちもマコトのことが心配だったので調べたのです』

『王国軍に縁のある貴族で悪い評判のない人みたいだね』

『にゃあ』

 それで王国軍の司令部に行くと連絡が付くのだろうか。

『ただ国王派の有力貴族なので、その関係の争いごとに巻き込まれないように用心する必要があるのです』

『貴族に派閥があるにゃん?』

『あるよ、アーヴィン・オルホフ侯爵がいる国王派、王宮を牛耳ってる貴族派、そのどちらにも所属しない中立派の三つだね』

『国王派より貴族派の方が強いにゃん?』

『宰相が貴族派の盟主だからね』

『ただし貴族派の領地は貧乏なところが多くて治安も悪いのです。その点、国王派と中立派は豊かな領地ばかりなのです』

『国王がいないと困るのはむしろ貴族派だと言われてるよ』

『複雑にゃんね』

『そうなのです、複雑なのです』

『ここにマコトが入り込むとさらにややこしいことになるかもね』

『そうにゃん?』

『マコトの推定資産は多くの領主より上です。軍事力も大公国内に限定されてるとは言え、王国軍以上と評価されてるのです』

 エラの情報とも合致してるのですでに情報と評価は王都内で固まってるみたいだ。

『そのマコトが動けば身構える貴族もいるんじゃないかな?』

『マコトは有力貴族の傀儡と思われてるので、今後は裏に誰がいるのかの探り合いが激しくなると予想されるのです』

『にゃあ、オレの後ろには誰もいないし、王国内で何かするつもりもないにゃんよ』

『わかってるよ』

『わかってるのです』

『マコトは、困ってる人を見つけたら助けずにはいられないだけだよね』

『にゃあ、もしかしてそれって改めないとマズいにゃん?』

『いいえなのです。マコトは何も変わる必要はないのです』

『マコトは好きにやればいいよ。それができる実力があるんだから遠慮する必要もないんじゃないかな』

『それで困ったことになったら私たちに連絡してくれればいいのです』

『その前に冒険者ギルドが動いちゃうかな?』

『にゃあ、キャリーとベルが味方してくれるだけで心強いにゃん』

『あたしも味方だよ!』

 リーリの声が一段と大きく響いた。

『リーリもありがとうにゃん』

 もちろん何があろうとオレが巻き込まれたトラブルは自分の手で解決するつもりだ。



 ○帝国暦 二七三〇年〇七月十七日


 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 前


 翌朝、アーヴィン様一行の出発の時刻になった。オレとリーリそれにホテルの従業員一同でお見送りだ。

「マコト、この度はいろいろ世話になったのである」

「にゃあ、こちらこそアーヴィン様にはお世話になったにゃん」

 アーヴィン様一行はそれぞれオレの譲った魔法馬に跨った。一行がここまで乗って来た三頭の魔法馬はオレが譲り受けている。

 ホテルに名前をもらってオルホフ侯爵家が後ろ盾を担ってくれるのだから、実質オレの黒字なのだが、それではアーヴィン様の気が済まないそうなのでありがたく頂戴した。

「キャサリンとエラも気を付けて帰って欲しいにゃん、にゃ!?」

 挨拶してる途中でオレの身体がふわりと宙に浮いた。

「ネコちゃんも一緒に行きましょう」

「にゃお」

 キャサリンに抱きかかえられた。

「キャサリン、ダメです」

 エラが降ろしてくれた。

「にゃあ」

 危うくキャサリンに連れ去られそうになったがエラが助けてくれた。

「マコト、また会おうぞ! 妖精殿もな! それに皆の者、世話になった!」

「ネコちゃんも妖精さんもまたね!」

「また、近いうちに」

「にゃあ、お元気でにゃん!」

「バイバイ」

「「「お気をつけて!」」」

 オレたちは去り行く三人に手を振った。


「にゃあ、さっそく改築するにゃん」

 アーヴィン様一行を見送ったオレは従業員一同に振り返った。

「改築ですか?」

 ノーラさんが不思議そうに聞く。

「にゃあ、客室露天風呂のある四階と五階はプレミアムフロアーとして富裕層だけに限定した方がいいとアーヴィン様たちにアドバイスされたにゃん」

 主にエラだ。

「プレミアムですか?」

「そうにゃん、一般客室を二階分とプレミアムフロアー用のラウンジなどの施設を一階分増築するにゃん」

「するとしばらく休業するのですか?」

「にゃあ、いまやるにゃん」

「えっ、いまですか?」

「そうにゃん、やるにゃんよ、にゃあ!」


 オレは魔法を使って六階建てのホテルに三階分フロアーを増設する。


 ニョキニョキっと大きくなって九階建てに増築された。

 動線もラウンジも分けて、体良くトラブルになりそうな連中の隔離が最大の目的だ。

 数はそう来ないと思われるが、大切な従業員を守るためにもトラブルは最初からないに限る。

「にゃあ、こんな感じにゃんね」

「いい感じだね」

 リーリが褒めてくれた。

 背が高くなったが、むしろこのぐらいの方が収まりがいい。

 あわせてゴーレムも増やしておく。

「「「……」」」

 従業員たちがホテルを見上げてポカンとしていた。

「どうかしたにゃん?」

「「「な、なにいまの!?」」」

 アトリー三姉妹の声がそろう。

「だから増築したにゃん」

「ネコちゃんがホテルを造ったのって本当だったのね」

 コレットがいまさらなことを言ってる。

「あたしたち、とんでもない人に雇われていたんですね」

 フェイの言葉に従業員全員がうなずいた。

「マコトさん、ホテルの増築はこれで完了ですか?」

 ノーラさんは落ち着いていた。さすがだ。

「そうにゃん、後で調整はするけど、大体はいまのでできたにゃん」

「本当に一瞬なんですね」

「にゃあ、もう設計のできてるモノだったら簡単に造れるにゃん」

「失礼しました、まだマコトさんの力を見くびっていたみたいです」

「にゃあ、オレの魔法は他の人とちょっと違うだけにゃん」

「「「ちょっと?」」」

 従業員一同が声をそろえた。


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