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月光草にゃん

 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ラウンジ


 食事を終えたアーヴィン様たちとラウンジでお茶を飲む。リーリはオレの前でチョコパフェを食べている。

「マコト、吾輩は明後日にプリンキピウムを発つのである」

「にゃあ、アーヴィン様の領地に帰るにゃん?」

 アーヴィン様の領地ニービス州は王国の北に位置する。プリンキピウムからだと国土を縦断しなくてはならない。たぶんめちゃくちゃ遠い。

「いや、まずは王都に向かうのである」

「にゃあ、王都にゃんね」

「まっすぐは戻らないけどね」

 キャサリンが付け加える。

「いろいろヤボ用があるのである」

「そしてトラブルに巻き込まれるのがいつものコースです」

 エラも付け加えた。

「トラブルを解決するにゃんね」

 もしかして水戸黄門みたいに各地の悪い貴族を退治して回るのかも。アーヴィン様漫遊記にゃん。

「ネコちゃんも王都に遊びに行かない?」

「にゃあ、行きたいのはやまやまにゃん。でも、プリンキピウムでやらなきゃならないことがあるにゃん」

「六歳で知行地を経営とは大変であるな」

「にゃあ、ほとんど代官をやってくれてるデリックのおっちゃんに丸投げなので、オレは道路や門の修繕ぐらいしかやってないにゃん」

「それがよい、面倒ごとはデリックに任せると良いのである。それにしてもあのデリックが代官とは出世したものである」

 アーヴィン様は思い出し笑い。

「にゃあ、デリックのおっちゃんはギルマスだから十分に出世してるにゃんよ」

「マコトさん、冒険者ギルドでも辺境の街のギルマスですからそれほどではありません。これが代官となると権限は町長より上になります」

「にゃあ、そうにゃんね」

「ネコちゃんのおかげで、プリンキピウムの冒険者ギルドがスゴいことになってるみたいだし、ネコちゃんを発掘したお義兄様の株が上がってるみたいよ」

「発掘って埋まってたみたいにゃんね」

 冒険者になれたのはデリックのおっちゃんよりジャックの功績が大きいような気がするけどな。

「六歳の子供を冒険者にしたのだから思い切ったものである」

「にゃあ、オレは大いに助かったにゃん」

 冒険者になってからは何かとデリックのおっちゃんに助けて貰ったのは事実だ。そこは感謝だ。

「アーヴィン様は明日は近場で狩りにゃん?」

「おお、その手も……」

「いいえ、アーヴィン様は明日一日、長旅に備えてホテルで静養していただきます」

「奥様に厳しく言いつかっておりますから、アーヴィン様に拒否権はございません」

「おおおぅ」

 アーヴィン様は悲痛な表情を浮かべる。

「朝風呂、朝酒、最高にゃんよ」

「それは良さそうであるな」

 厳しい奥様がいるなら身上しんしょうを潰すことはあるまい。

「あたしは朝ケーキだけどね」

 リーリが顔を上げた。

「夜ケーキは食べるにゃん?」

「もちろん食べるよ!」

「皆さんもどうにゃん?」

「いただくのである」

 キャサリンとエラもうなずいた。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ペントハウス


 通信の魔導具を使ってフルゲオ大公国の領地で働いてもらってるクルスタロス州の代官ヤルマル・ベイアーとドクサの執政官のルチア・モーラにそれぞれ連絡を入れた。

 どちらも問題なく運営されてる。

 エラの情報にあったネコミミマコトの宅配便だが。実効支配地域は七つの領地であることが判明した。

 大公と敵対しているわけじゃないので良しとした。

 小麦を王国に輸出することも許可した。

 仕切りは冒険者ギルドに頼み、販売価格は安くし困窮している庶民に優先させることを条件に盛り込んだ。

 それでも十分に利益が確保できるので、庶民が使う簡単な魔導具の製造工場を各地に作る様に頼む。

 公共事業みたいなものだ。こちらの仕切りはネコミミマコトの宅配便に頼んだ。ちなみにこの名前はどうにもならないようだった。にゃお。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 制限エリア 地下施設


 真夜中、オレとリーリは自分のペントハウスからエレベーターで地下に降りた。


「にゃあ、魔獣の森の飛び地まで頼むにゃん」

「特急でお願いね」

 現在も工事中の地下施設で魔法蟻に声を掛けた。すでに飛び地までのトンネルは完成している。いまは本ちゃんの魔獣の森に向けて工事が進んでる。

『……』

 魔法蟻は右前脚を上げて口をカチカチさせると背中をオレに向けた。



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) 魔獣の森 飛び地前


 この前、確認したとおり魔獣の森の飛び地は半径二〇キロほどの円形だ。

 中心に行くほどマナの濃度が濃くなってる。

 飛び地の近隣は魔獣が頻繁に越境してるのだがもともと危険エリアを二~三日入り込んだ場所なので目撃例は皆無だ。

「にゃあ、どう考えても飛び地の中心に何かあるにゃん」

「自然のモノじゃ無さそうだね」

 それほど大きくはないが即死クラスのマナを噴き上げていた。

 飛び地とはいえ、魔獣の森が形成する時間が経ってるわけだから相当昔からあったのだろう。

「にゃ?」

 茂みの中から一ダースの光る目がオレを見ていた。

 早くも魔獣の登場だ。

 形がわからないのは認識阻害の結界をまとっているからか。

 目をピカピカさせて認識阻害も有ったものじゃないが。

 森の外側にいるオレを狙ってるのだから越境組の魔獣だろう。

 魔法を使ってる。

 種類は催眠系だ。

 眠らせておいしくいただこうというわけだ。

 オレは銃を出してピカピカ光ってる目に向けて一発発射した。

 ガサガサッ!と藪から転がり出たのは金魚だった。

「にゃあ、催眠はスゴいけど防御力はたいしたことなかったにゃん」

「防御の必要がなかったんじゃない」

 オルビスの明かりでもはっきりわかる真っ赤なボディにらんちゅうみたいな頭のボコボコに目が付いていた。

 本物とのいちばんの違いは軽ワゴンほどの大きさと陸にいるってことか。

 ひとまず回収する。

「マナを減らす必要ありにゃんね」

「飛び地とはいえ、魔獣の森だから簡単にはいかないよ」

「にゃあ、だからこれを使うにゃん」


 魔法で魔獣の飛び地全体の草を刈り取って回収し空いた地面にマナを吸う魔法植物「月光草」を一気に植えた。


 大木はそのままだがそれ以外はことごとく月光草に置換する。

 この月光草はカスタマイズしてあるのでノーマルよりもより多くのマナを消費する。

 ただでさえ魔獣の飛び地はマナの濃度が高いとあって月光草は強い光を発した。

 月のない世界に月光草とは不思議なネーミングだが、図書館情報体にはその名前で記述されているし、州都の図書館の記憶石板でも確認している。

 月のある世界から来た先人が作ったのだろうか?

「にゃあ、綺麗にゃんね」

 オレの知ってる月光はこれほど明るくないけどな。

「そうだね」

 皆んなにも見せてやりたいが、場所が場所だけに連れて来るわけにはいかない。魔獣もゴロゴロしてるし、特異種もいる。

 この光景はオレとリーリだけのものになりそうだ。

「にゃあ、オレが改造しただけあって月光草がいい感じにマナを消費してるにゃん」

「これなら魔獣の森を解放できそうだね」

 リーリも感心してくれる。

 飛び地とは言え魔獣の森の解放は、現文明ではほとんど実現されていない。

「魔獣の森の解放にゃんね」

「試すでしょう?」

「にゃあ、そのつもりにゃん。飛び地の解放はそのための実験にゃん」

「実験?」

「そうにゃん、オレは経験していないが魔獣を狩ると魔獣が増えるとされてるにゃん。その確認が第一にゃん」

「ふーん、そうなんだ」

「にゃあ、現文明の昔の人が魔獣の森を解放できなかった要因のひとつにゃん」

「他にも何かあるの?」

「にゃあ、マナの濃度を下げられなかったにゃん」

「マコトはできるでしょう?」

「月光草でマナの収支をマイナスにするにゃん、それで確実に濃度が低下するにゃん」

「昔の人は使わなかったの?」

「どうしてこんな便利な植物を植えないのかと言えば理由は簡単にゃん、簡単に増えないからにゃん」

「増えないの?」

「にゃあ、月光草は魔法馬や魔法蟻と同じくくりに入る人工物だからにゃん。魔法植物は自然には増えないにゃん」

「マコトは増やせるものね」

「にゃあ、オレは魔法で増やせるしカスタマイズもできるから普通の植物よりずっと扱いやすいにゃん」

「そっか、人が作ったものだから勝手に増えなかったんだ」

「月光草は孤児院にも植えたしホテルに植えても良さそうにゃんね、芝生代わりにちょうどいいにゃん」

 マナの処理能力から形や色まで簡単にカスタマイズができるので使い所は多そうだ。


 見通しが良くなった夜の飛び地をカンブリア期の動物みたいのが浮かんでいた。

「にゃ、魔獣にゃん?」

「違うよ」

「にゃあ、半エーテル体にゃん」

「正解」

 以前の恐竜と違って意思疎通は出来そうにない。夜の森を泳ぐそれは、防御結界で簡単に弾けそうなのでオレの脅威にはならない。

 マナが薄くなったら自壊してしまいそうだ。

「にゃお、魔獣がカンブリアモンスターを食べてるにゃん」

 カタツムリみたいな魔獣が身体を伸ばしてパクっと食べた。

「半エーテル体はマナの塊みたいなものだから効率的に取り込めるものね」

「なるほどにゃん」

 カタツムリは封印結界で囲って塩攻めにして倒した。食べられそうだった。


 オレとリーリは月光草に光る魔獣の森の飛び地を観察してから夜が開ける前にホテルに戻った。



 ○帝国暦 二七三〇年〇七月十六日


 ○プリンキピウム 孤児院


「おはようにゃん」

 オレは朝早く孤児院にやって来た。

「「「ネコちゃんだ!」」」

 扉を開けた途端、あっという間にメグを始めとするちっちゃい子たちに囲まれた。

「「マコト様!」」

 ビッキーとチャスもオレにくっついた。

「にゃあ、こっちにも慣れたみたいにゃんね」

「「はい」」

「それは何よりにゃん」

「マコト、今朝は随分と早いな」

 いつも行動が早いバーニーが出て来た。落ち着きがないともいう。

「にゃあ、朝ごはんと食料庫に入れる食料を持って来たにゃん」

「朝ごはん!」

 ブレアが飛び出して来た。

 のんびり屋だが実は食いしん坊キャラだった。

「にゃあ、朝ごはんはアトリー三姉妹が作ってくれたホットケーキにゃん」

「「「わあ~!」」」

 アトリー三姉妹の作るご飯は孤児院でも大好評だ。

「マコトさん、いつもすいません」

 院長代理をやってもらってるアシュレイが出て来た。

「にゃあ、オレこそアシュレイに仕事を押し付けてごめんにゃん」

「いいえ、こんなこと以前の生活に比べたら何でもないですから」

「そうにゃん?」

「変な大人が来るよりアシュレイ姉の方がずっと安心だよ」

「にゃあ、そう思うならカラムもアシュレイを手伝ってやって欲しいにゃん」

「うん、任せて!」

「俺だって手伝うぞ!」

 バーニーが手を挙げた。

「にゃあ、バーニーも頼むにゃんよ」

「マコト、ごはん~!」

 ブレアがせっつく。

 食いしん坊キャラはいいけど、成人病キャラにはなるなよ。

「あたしもごはん!」

 朝食はホテルを出発前に済ませたのにリーリはまた食べるらしい。


 孤児院で皆んなにアトリー三姉妹のパンケーキを食べさせ、地下の食料庫を増設して肉だの山菜だの小麦だのを押し込んだ。


「あの、マコトさん、お金のことなんですけど」

「にゃあ、足りなかったにゃん?」

「いえ、その逆です、使わないから貯まる一方なんです」

 必要なモノはモノで運び込んでいるから確かに使わないか。

「にゃあ、それも不用心にゃんね、だったらちゃんとした金庫を作るにゃん」

 オレはキョロキョロと周囲を見回してリビングの奥を仕切ってATMコーナーをこしらえた。

 液晶画面はないけど出土品チックなタブレットを取り付ける。

 操作はタッチパネルで、お金の出し入れができる。

 結界が張って有るのでアシュレイもしくはその関係者しか入れない。

「これでどうにゃん?」

「ありがとうございます、これなら安心です」

「貯まったお金は、独り立ちする時の支度金にすればいいにゃん」

「支度金ですか?」

「一人暮らしを始めるにはお金が掛かるにゃん」

「そうですね、私も来年は出ないといけませんよね」

 アシュレイは不安そうな顔をした。

「十二歳で孤児院を出るのはナシにゃん」

「えっ?」

「孤児院を出るのは、何かやりたいことが見付かったらでいいにゃん」

「本当にいいんですか?」

「にゃあ、当然にゃんいままでの十二歳で独り立ちが早すぎだったにゃん、どんなに早くても十四歳まではここにいて欲しいにゃん」

「私たちの場合、冒険者以外の仕事はないですから十四歳ならなんとかなりそうです」

「オレとしてはアシュレイには、冒険者よりもこのまま孤児院の院長になって欲しいにゃん」

「私が孤児院の院長ですか? そんなの絶対に無理です!」

「にゃあ、いまだってちゃんとやれてるから問題ないにゃんよ」

「違います、たぶんやれてるように見えただけだと思います」

「返事は直ぐじゃなくていいにゃん、いろいろな選択肢の一つとして考えて欲しいにゃん」

「いろいろな選択肢ですか?」

「そうにゃん、他にオレが紹介できるのは、大公国でいいなら騎士もあるにゃん」

「騎士ですか?」

「にゃあ、訓練は大変だけど、孤児院の院長と同じぐらい大事な仕事にゃん。他にもホテルの従業員や街の仕事もあるにゃん」

「本当にいろいろあるんですね」

「にゃあ、アシュレイならどれでも上手くやれると思うにゃん」

「どれもはないですよ」

「にゃあ、オレが付いてるから大丈夫にゃん」

「ありがとうございます」

 アシュレイはいい笑顔を浮かべた。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル ロビー


 孤児院でチーズを仕入れてホテルに戻るとちょうどアーヴィン様たちが朝食に降りて来たところだ。

「おはようにゃん」

「おお、マコト、今朝も快適であったぞ」

「にゃあ、それは何よりにゃん」

「ネコちゃん、おはよう!」

 キャサリンに抱き上げられた。

「おはようございます」

 エラに頭を撫でられる。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル レストラン


 アトリー三姉妹謹製の朝食はフワフワオムレツだ。

「マコトのホテルの料理は実に素晴らしいのである、卵料理はすでに王宮以上である」

「三人の卵料理はオレを越えてるから当然にゃん」

「うん、間違いないわ、これほどの卵料理は王宮の晩餐会でも食べたことないもの」

「卵料理にミルクも美味しいです」

 キャサリンとエラも褒めてくれた。

「にゃあ、魔法牛でマダラウシのミルクを再現した自慢の逸品にゃん」

「アーティファクト級です」

 そこまではいかないけどな。

「卵料理もミルクもチーズも絶品である」

「これだけでも商人が列をなしそうです」

「チーズは冒険者ギルドに卸してるからそのうちあちこちに出回るはずにゃん」

「私はこのフワフワのパンが何度食べても最高」

「ええ、最高だと思います、特にこのクリームを塗るともう止まらなくなります」

「いくら食べても腹にたまらないのが唯一の欠点であるな」

「にゃあ、後で重くなるから食べ過ぎ注意にゃん」

「心しよう」

 そういいつつオムレツとパンを次々平らげる。

「わかるよ、おかわりが止まらなくなるよね」

 リーリは本日三回目の朝食を食べていた。


 今日はまる一日、静養が義務付けられてるアーヴィン様をキャサリンとエラが部屋に連れて戻った。健康管理も守護騎士の役目らしい。



 ○プリンキピウム プリンキピウム・オルホフホテル 支配人室


 オレはノーラさんのいる支配人室を訪ねた。

「にゃあ、お疲れ様にゃん」

「マコトさんもお疲れ様です」

「にゃあ、ノーラさんに相談があるにゃん」

「何ですか?」

「プリンキピウムの冒険者の中で適性がいま一つの人たちをホテルの従業員に勧誘しようと思うにゃん」

「アトリー三姉妹みたいにですか?」

「そうにゃん、もちろん従業員の適性がない人は弾くにゃん」

「ええ、それは仕方ありません」

「ゴーレムでほとんど補えるにしても人間の従業員は必要にゃん」

「実は、私からもマコトさんにお願いしようと思っていたところです」

「にゃあ、ノーラさんが雇ってくれても良かったにゃんよ」

「そこはマコトさんにお願いします、私ですとどうしてもしがらみがあって思うようには出来ませんから」

「にゃあ、わかったにゃん」


 ホテルのあちこちに月光草を植えてから、オレはリーリを頭に乗せて冒険者ギルドに出向いた。


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