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悪役令嬢ですけれど、絶対に悔い改めません!  作者: AICE
本編 ~悪役令嬢デスゲーム編~
8/21

Turn 07. 間隙のスリーピース

 「ようやく、この陰気臭い沼地とおさらばできますわね」

 

 「ホントひどい目にあった」

 

 浅い沼地を歩いていたらまんまと罠に(はま)ったので、警戒して深い沼を通っていたが、安全区域にたどり着いた頃には私もノワールも全身泥まみれだった。

 取り巻きを先行させたお陰で、沼の中の急な深みは避けられたし、危険生物が潜んでいることはなかったものの、腰まで浸かった状態で足を滑らせた時は、泥で溺れて死ぬかと思った。

 果たしてここまでする必要があったのかどうかは、知る余地もないが。

 兎に角、結果的には、安全に切り抜けられたことは確かだ。

 制限時間は残り五分を切っている。先ほどは一五分の余裕があったことを考えると、かなりの時間を食ってしまった。

 

 安全区域に辿り着いて、残りの令嬢は『18』。先ほどのエリアからは三人しか減っていない。

 やっぱり、沼地で戦おうと考える令嬢は少なかったか……。

 あんな場所で、あんな毒の罠を張るような相手と巡り合ってしまうとは、私はかなり運が悪かったのかもしれない。

 

 沼地が途切れると、今度は密林が広がっていた。

 

 「なんというか、現れる風景に節操がないね」

 

 「折角なら、次は温泉でも出してほしいですわ」

 

 「入ってるヒマないと思うけどね」

 

 あの白い部屋で目覚めた時から、異世界にでもやってきたような気がしていたものの、こうも景色が頻繁に変化するとなると、異世界どころか異空間に閉じ込められた感じがしてくる。

 さまざまな世界を、乱雑にツギハギしたような印象だ。

 

 密林は、隠れる場所が多いのがありがたいものの、相手が潜んでいる危険も増している。

 取り巻きを全て先遣(せんけん)部隊として使い、安全を確保しながら進むことにした。

 新たに加わった取り巻きの、背中X字ワンピースの(クロス)少女と背中Y字ワンピースの(ユエ)少女も出すと、十二人の大所帯である。

 彼女たちとは高等学校の卒業式典で開かれるダンスパーティで知り合った、中流貴族の生徒である。

 ダンスパーティで出会った時そのままに、背中の空いたパーティドレスを着ている。他の令嬢と比べると、少し浮いていた。

 一回限りの(えん)だった彼女たちが出てくるとなると、取り巻きもそろそろ打ち止めになるかもしれない。

 

 「ここまで来るとほとんど軍隊ですわね。こんなことなら軍事教本でも(たしな)んでおくべきでしたわ。読書は好きだったので、ジャンルを選んでいたつもりはなかったのですけれど」

 

 「普通に暮らしてるぶんには絶対使わなかったからね、それ。親が将軍なら兎も角、公爵令嬢が(たしな)む本じゃないからね」

 

 普通に暮らしていてもこんなことに巻き込まれるのなら、どんな本でも読んで無駄にはならない。というのは、ここで得るべき教訓だろうか。

 多分、違う気がするが。

 

 「しかし、この、画鋲のスキルは本当に必要なんですかしらねえ」

 

 「ボクに言われても……ていうかボクは、取り巻きだってローズみたいな使い方できると思ってなかったからね?」

 

 好きなように出せるようになった画鋲を片手に愚痴(ぐち)る。

 レベルアップして確かに効果は変化している。たぶん、使い勝手が上がってはいるのだろう。しかし、どうも変化が微差すぎて、改良点を実感しずらい。

 ノワールに言っても仕方ないことだとは分かっているが、思わず愚痴らずにはいられない。

 

 「ようやく好きなように出せるようになった画鋲よりも、初めから好きなように出せる取り巻きの優位性が高すぎるのですけれど?」

 

 「ボクに言われても……」

 

 「好きな場所に出せるといっても、好きなように出した取り巻きの靴の中に画鋲を入れて、それを取り出して攻撃させれば十分なんですけれど? むしろ、レベルアップして一箇所にしか出せなくなったわけで、劣化じゃありませんの? 数も、どんなにたくさん出そうとしても、一つしか出せませんでしたし」

 

 「ぼ、ボクに言わないで」

 

 最初から本気で文句を言っているわけではないが、もはや、うろたえるノワールを見るのが楽しくなってきただけだった。

 

 

 ◇

 

 

 ウチの名前はライム=テキャーク。

 空の上に住み天候を司る、虹雲(こううん)族の長の一人娘。恋の三角関係に敗れて、こんなところに飛ばされてきた。

 虹雲(こううん)族は、頭の角を媒体にして天候を操ることができる。この不思議な空間でも、問題なく天候は操れるし、《雨招来》、《雷招来》、《風招来》もスキルとして貰えた。

 それでもこのエリアでは、全ての天候異常は密林に阻まれてしまって、ウチの力は半減したも同然だ。

 武器のブーメランも、こうも木が密集していると使えたものじゃなかった。

 

 早くこんな密林は抜けて、平原にでも入れれば……と思って、急ぎ足で進んでいたんだけど。

 

 目の前には、弓矢を構えて立ちふさがっている少女がいる。

 おそらく、待ち伏せしていたんだろう。

 そして、待ち伏せしていたということは、ここは彼女にとって有利なフィールドだということ。

 

 並の弓矢なら雷で弾き飛ばせるし、相手の身体にさえ触れられれば、直接雷を叩き込むことができる。

 しかし、相手の位置まで走っていく間に、至近距離で矢を放たれたら、(かわ)す自信はなかった。

 チャンスが出来た時、少しでもウチの雷が強力になるよう、静かに雲を呼び寄せ、雨を降らせていた。

 水に濡れて滑ることで、相手が少しでも弓矢の扱いをミスることも期待して。

 

 相手も、ずっとこちらに狙いをつけているが、その場から動かない。

 それが、矢を外したあとに隙ができるからなのか、時間の経過で何かを狙っているのかは分からない。

 

 とにかく、相手も私も、一歩も動かない硬直状態にあった。

 

 そしてその均衡は、脈絡もなく破られた。

 

 「いっ……!」

 

 相手の顔が急に歪み、弓矢を取り落としたのだ。

 

 チャンス!

 

 一気に近づき、相手の身体を掴む。

 

 「雷撃(サンダーボルト)!」

 

 ――バチイッ!

 

 相手の身体に百万ボルトの雷を叩き込む。

 そのままあっけなく崩れ落ち、消滅した。

 

 「今、なにが起こったの。ライム」

 

 「わかんない。雨で冷えて、指でも()ったとか?」

 

 使い魔となった弟に聞かれ、何気なく相手の消えた地面を見る。

 何かが、キラリと光った気がした。

 

 「なあにこれ。トゲ?」

 

 金色のトゲを拾うために屈みこむ。

 

 その時、頭部に強い衝撃を受けて、私は濡れた地面に倒れ込んだ。

 

 もしかして、このトゲは、この戦いを見ていた他の令嬢が、相手の弓に仕込んだ……?

 そうだ、彼女が顔を歪ませた時、まっさきに考えるべきだった。

 誰か第三者がこの戦闘に介入してきたのなら、次に狙われるのはウチじゃないか。

 

 そこまで考えたのが、私の限界だった。

 

 

 ◇

 

 

 「一気に二人とも倒せれば美味しいと思ったのですけれど、そう上手いことはいきませんわね」

 

 「えっ。二人とも倒せたでしょ?」

 

 「いえ、私が二人倒せれば、レベルが二つ上がったかなって」

 

 雷の令嬢の攻撃が、弓矢の令嬢を瀕死にするくらいの威力であってくれれば、一番良かったのだが。

 とはいえ、漁夫の利には違いない。

 

 「まあ、不意打ちで楽に倒せたし良かったんじゃないかな。あの弓矢の子も、雷の子も、正面からだと苦戦したかもよ」

 

 弓矢の令嬢はわからなかったが、雷の令嬢は、体に触れるだけで相手を消滅させるほどのスキルを持っていた。

 正面から取り巻きをけしかけても、すべて丸焼きにされるだけで終わってしまったかもしれない。

 相手が、勝ったと思って完全に油断したところだったから、隙を突けたようなものだ。

 

 「ところで」

 

 ノワールの嬉しそうな顔。

 言いたいことは分かっていた。

 

 「画鋲、使えたね?」

 

 そんなに使いたかったわけではないのだが。

 

 「画鋲なんか使わなくても、倒せましたわよ。ええ、倒せましたとも」

 

 「へーえ、そーお? ふふーん」

 

 ニヤニヤしている。猫だけに。ニャーニャーしている。

 かわいい。

 

 コホン、とごまかすように咳払いして、スキルを確認する。

 

 取り巻きはいい加減打ち止めかと思ったが、二人増えていた。

 太陽のドレスの少女(ソレイユ)月のドレスの少女(リュヌ)

 これは……。

 

 「こんな子たち、いたっけ?」

 

 ノワールは不思議そうな顔をしていたが、私には心当たりがあった。

 でもこれは……この二人は、取り巻きではない。

 

 太陽のドレスは、私の母が父との婚礼の日に身に付けていた、私が形見として頂いたもの。

 月のドレスは、父の(めかけ)があの子……ヒロインへと残した婚礼衣装。

 

 ヒロインと王子様の結婚式で、ヒロインが身に着けていた衣装だった。

 

 太陽のドレスが、私を守る象徴として現れたのは、理解はできる。

 では、この月のドレスは何故現れたというのだろうか。

 

 私とあの子、それぞれを象徴するかのような、太陽のドレスの少女(ソレイユ)月のドレスの少女(リュヌ)

 このスキルが、第三者から見た認識を元にして与えられたというのなら、私たちは一体、どんなふうに見えていたというのだろう。

 私はまだ、それを冷静に考えることはできなかった。

 

 「現実には、いなかった取り巻きですわね。第三者の認識が影響しているようですし、そういうこともあるのでしょう」

 

 それだけを、やっとのこと口にして、一先(ひとま)ずは考えることをやめた。

 深く考えると、それがそのまま戦いの隙になってしまいそうだった。

 

 「他のスキルも見てみましょうか。どれどれ」

 

 できるだけおどけたように、明るく口に出す。

 ノワールは、それ以上追求しなかった。

 

 いや。

 もしかすると追求しようとはしたのかもしれない。

 その前に、それ以上に気になることを見つけてしまっただけで。

 

 「……ローズ。この画鋲のスキル、どこが変わったの?」

 

 私は、一応、その誤差に気付いていた。

 

 「そうですわね、一見して分かりづらいとは思いますけれど」

 

 神妙な顔で、口にする。

 

 「出せる画鋲が、『丈夫な』画鋲になっていますわね」

 

 「………………………………」

 

 ノワールは珍妙な顔で、沈黙するのだった。



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 ■ロザーリア=G=マルデアーク(17)

 ■職業:公爵令嬢

 ■技能Ⅰ 《取り巻き召喚》 レベル7

      効果:発声することで、取り巻きを十四人召喚する

 ■技能Ⅱ 《靴に画鋲を入れる》 レベル7 

      効果:念じることで、任意の一箇所に丈夫な画鋲を出せる

 ■技能Ⅲ 《お金をバラまく》 レベル7

      効果:念じることで、見知った通貨を1920枚出せる

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