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悪役令嬢ですけれど、絶対に悔い改めません!  作者: AICE
本編 ~悪役令嬢デスゲーム編~
6/21

Turn 05. 悪役令嬢フライハイ

 安全区域までは、他の令嬢とすれ違わなかった。

 これは、いいことだと思っておこう。なぜなら、たどり着いた時には制限時間一分を切っていた。

 

 「やっぱり、さっきの戦いは時間がかかりすぎましたわね」

 

 「勝てただけ良かったような気もするけどね」

 

 次はもう少しラクに勝ちたい。

 心底そう思うが、相変わらずスキルは頼りなかった。

 厳密には、《取り巻き召喚》のスキルは、強い。

 真正面からの戦いでは、使い物にならないだろう。しかし、初見殺しの性能がある。この戦いにはもってこいだ。

 

 《靴に画鋲を入れる》と《お金をバラまく》。この二つは、確かにスキルアップしている。しているが。

 

 「《お金をバラまく》の方は、出せる量が倍々に増えてるのかな」

 

 「こんな場所じゃなくて、元の世界で使いたいですわね。お買い物した後に、何度でも再召喚できますもの。値段の上限は限られますけれど」

 

 「それ、犯罪だからね。お店に払ったお金、再召喚した時に消えてるからね」

 

 ノワールの白い目にも慣れてきた。

 元の世界でも、いつも私がお話している時は、内心でこんな顔をしていたのかしら。そう考えると、おかしかった。

 

 「まあ、それは冗談として。倍々に増えるのであれば、もっとレベルが上がれば攻撃手段として使い物になるかもしれませんわ。とは言っても、レベルアップするために敵を倒さないといけないという問題があるのですけれど」

 

 「世知辛(せちがら)い」

 

 残りの令嬢は『29』。余り減っていない。

 スキルレベルも上がってきて、先を急いでいる相手も多いのだろう。先に潜んでおいて、地形の有利を取りたい気持ちは、それはそれでわかる。

 

 たどり着いた安全区域は、のどかな田園風景だった。

 潅木(かんぼく)には、果物がところどころに実っている。

 

 「美味しそうですわね」

 

 思わず言って、ふと気づいた。

 ここに来てから、二時間近く経過している。

 監獄塔にいた時は、最後の記憶では昼前だったはずだ。

 単純な時間経過を考えれば、朝食に簡素なパンとスープを食べてからは、ゆうに六時間は経過しているはずだ。

 しかし、不思議なことに、まったくお腹は減っていなかった。

 

 そういえば、かなり運動もしているはずだ。それでも、肉体に疲労が溜まっているようなこともない。

 いま感じている疲れは、あくまでも精神的な疲労だった。

 

 この空間について、あまり深く考えてこなかったが、肉体が損傷するようなダメージを受けた時に、表面上は怪我をしないのもどういう仕組なのかよくわからない。

 

 「ノワールは、この空間について、どういった場所なのか知っていますの?」

 

 「いいや、ボクにもよくわからないよ。ただ、どうも、今のボクたちは普通の肉体ではないのかもしれないね。すっごく今更だけどね」

 

 まあ、たしかに今更だ。

 それをいったら、ヘンテコなスキルや、言葉を喋るノワール、どうやって自分がここに来たのかも不明瞭だ。

 

 「夢オチではないのですわよね?」

 

 「それはないよ。だとしたら、ボクとキミが同じ夢を見てる事になる」

 

 ノワールのこのセリフすら、私が夢で作り出している可能性はなくはないけれど。

 とはいえ、あまりにも、私の知識にない概念が詳細に出てきている気がするし、夢だとすればもう少し想像通りに動いてほしい。

 取り敢えずは、現実と考えよう。夢だとして、なんらかの魔術で夢の中に閉じ込められているとしたら、それはもはや異世界に閉じ込められたのと変わりない。

 

 何者かが私に呼びかけて、私がそれに答えることで契約が成立したようだが、私をどうやってヒロインにするのか。そもそも、できるのか。それをする向こうのメリットは何なのか。一切わからない。

 一切わからないクセに、私は今まで疑問に思わなかった。

 いや、正確には、思う暇がなかったのだ。状況の把握に追われ、制限時間に追われ、他の令嬢との戦いに追われ。

 そういう意味でも、この箱庭はよく考えられている。

 

 私は、この場を設けた人物がいるとして、それは決して神ではなく、黒幕のような存在に思えていた。

 勝ち残り、最後の一人になったとして、仮にヒロインになりたいという願いが叶ったとして、その人物に感謝するかは怪しいところだ。

 そんなふうに思った。

 

 

 ◇

 

 

 わたし、アリシア=アクテサキ―は、優雅な空の散歩を楽しんでいた。

 高度にはフィールド制限のようなものがあったが、相手より高所を取れれば有利に働く。

 わたしはできるだけ高いところを浮遊しながら、地面にいる他の令嬢たちを一方的に攻撃して回っていた。

 

 「他にも空を飛べる子がいたら、空中戦を覚悟していたけど……今のところは出遭わないね」

 

 「はい、マスター」

 

 わたしが今乗っているホウキ、『ティンカーベル』が喋る。

 魔法武器技術の粋を集めて作られた、生まれたときからの私の相棒。今はわたしの使い魔であり、魔法を使うための武器(ステッキ)でもある。

 私のスキルは、《飛行》《魔力光線》《魔力耐性》。

 

 もともと空を飛ぶ魔法が苦手だったせいか、飛行スキルが上がってようやく上手く飛べるようになったくらいだ。空中戦はあまりしたくない。今のところは、他の子に空で遭っていないので、安心していた。

 《魔力光線》は得意魔法だったおかげで、かなり遠くの敵でも正確に貫けるようになったし、単純に攻撃射程も伸びた。

 《魔力耐性》に至っては、ほぼ相手の攻撃を無効化するようなスキルになっている。遠距離で相手が魔法を撃ってきても、今のわたしなら大して怖い相手じゃない。さっきも魔法使いの子がいて、強そうな氷の魔法を避け(そこな)ってしまったけど、わたしは凍りつくどころか、冷たさすら感じなかった。

 

 空中に気をつけながら、地面を見て、一方的に相手を倒す。

 戦うのは怖い。

 お母様の命令で、いっぱい戦ったことはあったけど、いつだって怖かった。

 だから、できるだけ安全に戦うのだ。

 

 ここに来る前に、ヒロインと戦ったときのことを思い出す。

 あの子はいつも、私に手を伸ばそうとしてくれていたけど、私はそれすらも怖かった。

 ヒロインになるってなんだろう。

 あの子みたいになれるということだろうか。

 あの子みたいになったわたしなら、お母様のことも怖がらずに、あの子と手を取って、お母様に手を伸ばすことができるだろうか。

 

 「マスター、敵です」

 

 「……わかったよ、ティンカーベル」

 

 潅木の隙間から、赤いドレスの女の子が見える。

 隠れてるつもりだろうけど、空からなら一目瞭然なんだから。

 一撃で終わりますように。そう祈りを込めて、魔力を解き放つ。

 

 「《星砕く神の雷メテオライト・ブレイカー》!」

 

 まばゆい光とともに、鋭い光線が彼女を貫く。彼女は貫く瞬間に光線に気付いて、こちらを見上げていた。その姿勢のまま、消失する。

 ふう、と一息ついた。

 これでスキルアップすれば、また一つ安全になる。

 

 そんな思いとともに、スキルを確認しようとして。

 

 「……え?」

 

 真上に物陰。

 認識して間もなく、頭にものすごい衝撃が走った。

 

 一体今なにが起こったのか。大きく姿勢を崩す。

 このままでは落ちてしまう!

 地面に追突すれば無事ではすまない。立て直そうとして、上を見た。

 

 そこには、ドレスの少女たちが八人、私をめがけて落下していた。

 

 「いやああああああああああああ!?」

 

 八人分の重みを一気に受けて、わたしは敢えなく地面へと落下していったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 「よかった。ちゃんと当たりましたわね」

 

 「……」

 

 「どうしましたの、ノワール」

 

 スキルを確認すると、ちゃんとレベルアップしていたが、ノワールが目を閉じて考え込んでいる。

 何か文句を言われそうなので、口を開くまで大人しく待ってみた。

 

 「……いや、なんていうか。前の女戦士と戦ってた時に、確かに取り巻きを結構自由な位置から出し入れしてたんだよね」

 

 「そうですわね。私も最初は、どこからともなく私の近くに現れるとしか思ってませんでしたけれど」

 

 厳密には、どこからともなく『イメージした位置に』出せる、のが正確な能力のようだった。

 炎の魔法を使う令嬢と戦った時に、何気(なにげ)なく令嬢を再出現させた時、消失した位置に再出現していたので、もしやとは思っていたのだ。

 だから女戦士の時は、相手の背後から襲いかかるように現れるように指示した。

 そして今回は、空を飛ぶ相手の頭上に現れて、ぶつかるように指示をした。

 

 「なんか……人間を飛び道具みたいに……ひどい……」

 

 「相手の飛び道具(スキル)のほうが酷いともいえませんかしら。当たらなかったら、当たるまで取り巻きを出し入れしなければいけないところでしたのよ。あんな遠くから一発で命中させるなんて」

 

 「いや、ローズはがんばってるよ。こうするのが一番良かったよ」

 

 そう言うとノワールは、私の足にゴツンと頭突きしてきた。

 かわいい。

 

 とはいえ、空を飛んでいる相手だから、近くに落とすだけで落下して脱落してくれたのだ。普通の相手であれば、八人乗っかっただけで取り押さえることは出来たとしても、そのまま殺されてはくれないだろう。

 高い位置から当てるのは、外す確率のほうが高そうだし、今回は相性が良かった。

 

 「まあでも、自爆攻撃という点では、前回もそう変わらないのですわ。どの辺が違うのかしら」

 

 「うっ。そう言われると、うーん……」

 

 悩むノワールをひょいと抱える。話をごまかしたようになってしまっただろうか。

 ノワールがまた文句を言ったら、たまには「ごめんなさい」と謝ってみようか。

 でも、そうしたらそうしたで、「そんなつもりじゃないんだ」って慌てふためいてしまうのかしら。

 想像しただけで、私の口元が自然と緩んでいくのだった。

 


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 ■ロザーリア=G=マルデアーク(17)

 ■職業:公爵令嬢

 ■技能Ⅰ 《取り巻き召喚》 レベル5

      効果:発声することで、取り巻きを十人召喚する

 ■技能Ⅱ 《靴に画鋲を入れる》 レベル5 

      効果:念じることで、相手の任意の場所に画鋲を入れる

 ■技能Ⅲ 《お金をバラまく》 レベル5

      効果:念じることで、見知った通貨を480枚出せる

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