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悪役令嬢ですけれど、絶対に悔い改めません!  作者: AICE
本編 ~悪役令嬢デスゲーム編~
5/21

Turn 04. 30秒のエクエアリティ

 「まだ居るんだろォが! 出てこいよ、お嬢ちゃん!」

 

 冷静に、あの女戦士(バケモノ)に勝つ方法を考える。

 なんらかの方法で、肉体が異常に強化されている。

 その前提でおそらく間違いない。ならば、どんな攻撃をしたところでほぼ通らない。

 

 しかし、どんなに強化されている肉体だとしても、この場所でなら、100%葬ることはできる。

 

 「危険区域に放り込むしかありませんわね」

 

 危険区域は、中にいる人間にダメージを与えるものではない。

 中にいる人間を三十秒きっかりで分解するものだ。

 

 ダメージを負わせた取り巻きを危険区域に入れるとどうなるか。

 草むらから飛び出す時、取り巻きの一人に腕を折られる程度のダメージを負わせて、草むらに置いてきた。

 取り巻きが消えたのは、三十秒後だった。

 

 どうしても攻撃が通らない場合に、危険区域に入れるのは有効かどうか、考えてはいたのだ。

 

 「危険区域に入った時に、ダメージを加算しつづけるのであれば、ダメージを負った取り巻きが消えるまでの時間は短くなるはず。でも、ダメージのない場合と、消滅するまでの時間は変わらなかった。ということは、肉体の頑丈さとは関係なく、中にいればなんでも分解されると見ていいでしょう」

 

 「すごいやローズ、そこまで考えて」

 

 「本当は、禁止区域に放り込んだあとに、集団リンチすれば三十秒間耐久しなくて済むから、それを確認したかったんですけれど。そう甘くはいきませんわね」

 

 「褒めてもいいんだけど、褒めづらい」

 

 しかめっ(つら)のノワール。

 かわいい。

 

 使える取り巻きは六人。私を入れれば七人だが、殴り殺されてはたまらない。

 

 あとは、さっき草むらから飛び出した人数を彼女が数えていたかどうか。

 服の色は把握しているかどうか。

 

 相手はどの程度考えているか。

 そこに賭けなければいけない。

 

 「ノワールは適当に隠れて、戦闘に巻き込まれないように気をつけるんですわよ」

 

 「わかったよ。……ローズ、ボクはキミの勝利を信じてる。でも、気をつけてね」

 

 「ありがとう、ノワール」

 

 ノワールの頭を一撫ですると、不思議と気分が落ち着いた。

 冷静に、そして大胆に、相手を崩す方法を考える。

 

 

 ◇

 

 

 一見して、動きはない。

 だが、殺気は感じる。

 先ほどは、何の気配もないところから、急に相手が出現してきた。

 冷静なアタマで考えてみれば、明らかにおかしい。

 いってみれば、オレのスキルだって明らかにおかしいし、相手も何かしらのスキルがあるのだろう。

 どんなに警戒したところで、オレの背後を簡単に取れるようなスキルだ。

 

 それであれば、このバズーカ砲は何の役にも立たない。

 殴り殺したほうが速い。

 砲身と弾を一旦捨てる。筋肉を柔らかく、弛緩させる。

 あらゆる動きに対応できるように、イメージする。

 

 それは、唐突に来た。

 

 背後から組み付かれる。

 今度は目は狙ってこない。締める気か、首に手が回される。

 

 「ハハッ、効くか!」

 

 《筋肉増強(ガード)》で鍛えられているのは、体表だけではない。元は筋肉を固くしてダメージを軽減するスキルだった。

 相手はどこか制限(リミッター)の外れたような動きと強さではあるが、所詮はお嬢様の細腕だ。

 力比べでは負けるべくもない。

 

 腕を取って、先ほどのように無理やりブン投げる。

 その隙を()うかのように、目の前にもう一人、急に現れたドレスの少女。

 

 チッ、ニンジャかよ!

 

 デカイ袋を振りかぶって、真っ直ぐオレの顎を狙って振りかぶる。

 避けられないタイミングだ。

 体表は無理と見て、脳震盪(のうしんとう)でも狙う気か。確かに、狙いはいい。

 

 ――《筋肉増大(クイック)》。

 

 避けられないタイミングでも、認識さえできればいい。

 オレが、普通の数倍のスピードで動けば、『それ』は避けられる。

 避けた勢いのままの速度で、相手の顔を掴む。

 

 そこでオレは、違和感に気づいた。

 

 コイツには、見覚えがある。そうだ、さっき倒したうちの……。

 

 掴んだ瞬間、相手の姿が消えた。

 オレは、勢いを殺せずに、大きく姿勢を崩した。

 

 後ろから衝撃。体当たり。

 足が浮き、踏ん張ることが出来ずに、倒れ込む。

 倒れ込んだ先は、地面ではなかった。

 

 ドレス姿の少女が六人、オレの身体を掴みに現れる。

 

 「なっ……一人も倒せていないだと!」

 

 マズい。

 本能が告げる。

 

 コイツらに、ロクな攻撃手段はない。トゲで目を狙ってきたのがいい証拠だ。

 しかし、身体の自由を奪われて、オレは今運ばれている。

 

 その方向は間違いなく、危険区域だ。

 

 いくら身体が頑丈になったといっても、危険区域の中で無事に済むとは思えない。

 

 「正気かよ!」

 

 夢中で身体を振り回すと、ドレスの少女たちを振りほどくのは難しくなかった。

 しかし、急に消えたり現れたりするせいで、バランスが取れない。

 

 オレを運んでいるドレスの少女は全部で六人。

 コイツらが、どういうインチキで何度も現れるのか、急に消えたり現れたりするのか分からない。

 何をすればこの戦いが終わるのか、見当がつかない。

 それでも、オレが消えるまでオレを押さえつけるしかないとしたら、コイツらも消えるんじゃないのか。

 

 危険区域に、入った。身体が分解されていく。痛みはない。重みもない。ただ、自分の身体が、頼りなくなっていく。

 オレの死で、終わるのか。

 

 いや、まだだ。まだ焦るな。

 身体を掴まれている場所に集中する。力を込める。

 

 掴まれたすべての手を、一気に振りほどいた。

 ドレスの少女たちが倒れ込む。

 

 地面に着地する。身体が完全に消え去る前に、何としても安全区域にたどり着く。

 《筋肉増大(クイック)》だ。足に力を込めて、スピードを最大に。

 これなら間に合う!

 

 正面に、見覚えのない、青いドレスの少女がいた。

 その目を見ればすぐにわかった。

 

 そうか、お前か。オレの敵だったのは。

 

 オレの捨てたバズーカ砲を構え、発射する。

 前進するために最大にした筋力を、無理やりに捻じ曲げる。(かわ)そうとする。

 しかし、元から、直撃は狙われていなかったのかもしれない。

 躱そうとした、その足元に着弾する。

 

 ――轟音。

 

 身体が吹き飛ぶ。

 あまりの衝撃に、意識が遠くなる。

 視界が、アタマが、音がぼやける。

 

 オレは今、地面に倒れ込んだのだろうか。

 

 戦いの終わりには、相手の戦士に敬意を持て。

 オヤジがそう言った意味が、今になって初めてわかった気がした。

 

 そうか。オレが後継者に選ばれなかったのは、女だからではなくて、未熟だったからか。

 

 身体が虚ろになっていくのを感じながら、胸は何故か満足感で満たされていた。

 

 

 ◇

 

 

 「お、終わった……」

 

 女戦士が消滅したのを確認して、私はその場に崩れるように座り込んだ。

 彼女の使い魔と、武器も消えていく。

 

 恐ろしい相手だった。

 決して最初から、大砲で攻撃するつもりではなかった。

 ただ、六人全員が振りほどかれた時、まるでそれを予め予期していたかのように、私の身体は既に動いて大砲を手にしていた。

 そこまでの警戒に足る相手だった。

 

 「ローズ! 大丈夫! 怪我は!」

 

 ノワールが走り寄ってくる。

 これが普通の戦いであれば、大砲を撃った反動で腕が壊れていただろう。

 痛みはあるが、動きはする。怪我をしていないとはいえないかもしれないが、表面上、異常はないようだ。

 

 「大丈夫ですわ。今回ばかりは肝を冷やしました」

 

 「ボクは毎回冷やしてるけどね」

 

 深い溜め息。

 流石に疲れた。肉体が疲れたというよりは、神経が疲れた。一休みしたいところだ。

 

 しかし、制限時間は無情にも、刻々と過ぎているのだった。

 残り時間は一五分を切っている。

 

 「時間を食いましたわね……先を急がないと、待ち伏せされていたら厄介ですわ」

 

 「次に行かないといけないからね……少しくらい休憩時間がほしいところだよ」

 

 「そうですわね。せめて紅茶とスコーンでも頂いてから出発したいですわ」

 

 「それはくつろぎすぎ」

 

 脱力したノワールを抱えて、柔らかい毛並みを撫でる。

 それだけで疲れが()えていく気がした。

 

 よし、と気合を入れて立ち上がる。休んでいる暇はない。

 新たに増えた、ダイヤのドレスの少女(ダイアナ)真珠のドレスの少女(パール)を合わせて八人。先の偵察用に出しておく。

 スキルのレベルアップは順調だ。

 

 「画鋲は、役に立つ日が来るのかな……」

 

 「まあ、今回みたいな異常な防御力の相手じゃなければ、もう少し使いようがあるのかも、とは思うのですけれどね……」

 

 そんな会話をしながら、次の安全区域へと足を進めるのだった。



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 ■ロザーリア=G=マルデアーク(17)

 ■職業:公爵令嬢

 ■技能Ⅰ 《取り巻き召喚》 レベル4

      効果:発声することで、取り巻きを八人召喚する

 ■技能Ⅱ 《靴に画鋲を入れる》 レベル4 

      効果:念じることで、『相手の体の下方』に画鋲を入れる

 ■技能Ⅲ 《お金をバラまく》 レベル4

      効果:念じることで、見知った通貨を240枚出せる

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